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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200225215 審決 商標
不服200322975 審決 商標
不服20035262 審決 商標
不服2003853 審決 商標
不服200225216 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y30
管理番号 1160910 
審判番号 無効2006-89111 
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-10 
確定日 2007-07-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第4858751号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4858751号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4858751号商標(以下、「本件商標」という。)は、「三輪山本舗」の漢字を横書きしてなり、平成16年2月25日に登録出願、第30類「穀物の加工品」を指定商品として、同17年4月22日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第53号証(枝番を含む。)を提出している。
本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第11号に該当するから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)引用商標
請求人が引用する登録第1641949号商標(以下「引用商標」という。)は、「三輪山」及び「みわやま」の各文字を二行に縦書きしてなり、昭和54年8月24日に登録出願、第32類「加工穀物、その他本類に属する商品」を指定商品として、同58年12月26日に設定登録されたものである。その後、指定商品については、平成15年10月29日に、第29類「食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物」、第30類「穀物の加工品,コーヒー豆,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」、第31類「食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類,野菜,糖料作物,果実,コプラ,麦芽」及び第32類「飲料用野菜ジュース」に書換登録がなされたものである。
(2)本件商標と引用商標との類否
(ア)本件商標は、漢字5文字で「三輪山本舗」と横書されてなり、その指定商品は、商品区分第30類「穀物の加工品」について登録されたものである。
(イ)本件商標は、この構成から「ミワヤマホンポ」あるいは「ミワサンホンポ」、「ミワヤマ」、「ミワサン」等の自然的称呼が生じる(甲第1号証の(3))。また、本件商標は、全体として特定の観念を有しない造語商標と見られることもあろうが、本件商標を構成する「三輪山」の文字部分と「本舗」の文字部分とは各々単独の言葉としては、その意味・観念は広く人々に知られているものであり、中学生であっても知っている漢字である。
このことから、単に造語商標と言うことはできず、「三輪山」の文字部分に重点のある商標とみるのが妥当である。
すなわち、本件商標の識別力は、商標全体にあるのではなく、「三輪山」の文字部分にあるとするのが妥当であり、そこから本件商標の自然的称呼、意味・観念が生じるものである。それによって、他の商標と識別されることは経験則上からも明かである。
(ウ)引用商標は、漢字3文字「三輪山」を縦書きし、その右側に平仮名で「みわやま」と縦書きしてなるものであり、その指定商品中に第30類「穀物の加工品」全てを含んでいる。
(エ)引用商標は、その構成から「ミワヤマ」の自然的称呼が生じることは明らかであり(甲第2号証の(3))、また、引用商標からは「三輪山」という特定の意味・観念が生じる。
(オ)そこで、本件商標と引用商標との類否について検討する。
本件商標の構成は、「三輪山」という後述する特定の意味・観念を有する文字(語)と、「本舗」という特定の意味・観念を有する文字とが結合されているものである。
この二文字部分の結合から本件商標は、特定の意味・観念を有しない造語商標とみられやすいが、特定の意味・観念を有する2語以上の結合商標の場合、各々の文字の有する意味・観念、あるいは構成によってその結合の文字間に強弱を生じる場合があり、そのような場合は、その文字間の結合の強弱によって他の商標と類否判断されるとするのが商標の審査基準である。 そうであれば、本件商標の構成文字部分の結合に強弱の差があるか否かということになる。
しかるに、本件商標を構成する「本舗」の文字部分は、単に「本店、特定商品を製造販売する大元(広辞苑第5版:甲第3号証)」の意味・観念を有するのみであって、自他商品の識別力を有しない語である。
すなわち、商標法に言う「ありふれた名称(商標法第3条第1項第4号)」に該当するものである。商標審査基準によれば、「商店」、「商会」、「屋」、「家」、「社」、「堂」、「舎」、「洋行」、「協会」、「研究所」、「製作所」、「会」等々が商標法第3条第1項第4号の規定に該当するとされているから、単に「本店」とか「特定商品を製造販売する大元」等の意味しか有しない「本舗」の文字部分がこの規定に該当するのは理の当然と言わなければならない。
また、「本舗」の文字部分を含む商標が、現在、特許庁にどの程度登録されているかを調査したところ、優に700件程登録されている。このことは、特許庁においても「本舗」の文字部分は、前記の如き意味・観念を有するものであることを認めている顕著な事実である。
これらの「本舗」の文字部分を含む商標には、識別力を有する他の文字と結合しているものが沢山あり、たとえば、(a)それら識別力を有する文字が同一の商品区分内に登録されていない場合(甲第4号証ないし甲第13号証)や、(b)登録されていても「本舗」の文字部分を含む商標を有する商標権者と同一人である場合(甲第14号証の1ないし甲第21号証の2)、また、(c)商標権者が異なり指定商品も異なっている場合(甲第22号証の1ないし甲第23号証の2)など、決して「本舗」の文字部分を含む商標と権利抵触しない様に登録されているのである。
これらの例は、明らかに権利抵触しない範囲で登録されているものであり、妥当な範囲のものであって、たとえば、上記(b)の商標権者が同一人である場合の例として、以下が挙げられる。
(i)「釣鐘屋本舗」(登録第813700号商標:第30類)と「釣鐘屋」(登録第762459号商標:第30類)
(ii)「熊五郎本舗」(登録第1188571号商標:第32類)と「熊五郎」(登録第1433034号商標:第32類)
(iii)清月堂本舗(登録第1236468号商標:第30類)と「清月堂」(登録第419904号商標:第30類)
(iv)「一笑堂本舗」(登録第1508866号商標:第30類)と「一笑堂」(登録第2208312号商標:第30類)
(v)「福招き本舗」(登録第3171424号商標:第30類)と「福招き」(登録第4595849号商標:第30類)ほか。
これらの例からも、「本舗」 の文字部分は何ら識別力を有するものではなく、他の識別力を有する文字と結合していることから登録されているものであり、それ自体としては全く自他商品の識別力を有する文字ではないと明確に認識されているものである。
このことは、前記登録例及び商標審査基準からも明らかである。これらの事実から、本件商標の構成に強弱の差があることは、明白な事実であると認識されるものであり、本件商標を構成する「三輪山」と「本舗」の2つの文字部分中「本舗」の文字部分より「三輪山」の文字部分に重要性があること明白である。
したがって、本件商標は、「三輪山」の文字部分によって識別されるものである。
(カ)本件商標のもう一つの文字部分である「三輪山」は、古くから御神体として周知著名な山の名称である。この「三輪山」の名称は、請求人である大神神社の御神体として古くから近畿地方のみならず、中国、四国、東海地方においても広く知られた周知著名な山を指すものである。これらの地方にあっては、今でも「三輪山」に対する信仰は厚く、毎年多くの人々が大神神社へ参拝に来ており、御神体としての「三輪山」 を拝していくのである。
このように広く知れ渡っている「三輪山」 の名称と、単に「本店、あるいは特定の商品を製造販売している大元」の意味のみを有する「本舗」の文字部分とを結合させてなる本件商標は、いかに一体的に構成されているようにみえようとも、一般取引者・需要者は、広く知られた文字、即ち「三輪山」に注目して商品識別をするものであることは経験則上明らかである。
ましてや、本件商標が使用される商品は、明らかに「穀物の加工品」である「三輪そうめん」である。大神神社があり、その御神体としての「三輪山」のある「三輪地方」で製造販売される「三輪そうめん」 に本件商標を付して使用するならば、「三輪山」の文字部分のみが需要者に認識されることは経験則上明白なことである。
(キ)本件商標からは「ミワヤマ」、「ミワサン」 の自然的称呼が生じることは明らかである。これに対して、引用商標からは「ミワヤマ」の自然的称呼が生じる。よって、本件商標と引用商標とは、共に「ミワヤマ」の自然的称呼を生じるものであるから、明らかに称呼上類似する商標である。
また、本件商標の識別力を有する要部は「三輪山」であり、これに対して引用商標も「三輪山」である。よって、両商標は、共に「三輪山」の意味・観念を有するものであるから、その意味・観念においても類似するものであり、観念類似の商標であることも明らかである。
(2)商標法第4条第1項第7号について
(ア)本件商標を構成し、かつ要部とされる文字部分「三輪山」は、請求人である宗教法人大神神社の御神体としての山の名称である。即ち、「神体山」の名称として「三輪山」は、古くから呼称されてきたものである。
(イ)このような宗教上の信仰の対象とされる山の名称を、第三者が商標登録をし、特定の商品に付して使用することは、「三輪山」を信仰の対象としている人々のみならず、「神体山」を有する神社・仏閣を通して、それらの山を信仰の対象としている人々にとっても宗教的不快感を生じさせることは当然であり、宗教道徳を害するものである。
(ウ)したがって、「三輪山」の文字を含むような本件商標の如き、また、「三輪山」の如き商標は、公序良俗に反するものとされ、その商標登録は認められるべきものではない。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号について
(ア)本件商標を構成する「三輪山」 は、請求人所有の山であって、それに付された固有名称である。このことは、古くから多くの人々が認識していることであり、今日まで連綿として続いているものである。
このような、特異で周知・著名な固有名称である「三輪山」の名称に、単に「本店、特定商品を製造販売する大元」の意を有するにすぎない「本舗」の文字を付した本件商標は、たとえ、それが一連不可分に構成されていると主張しても、一般取引者・需要者に認識されるのは「三輪山」 の固有名称であって、それによって「ミワヤマ」、「ミヤサン」と呼称されることは明らかである。
本件商標の場合、「三輪山」 の固有名称に重点のあることは、「三輪山」 の周知・著名性及び特異性からして明白なことである。さらに、審査基準においても、結合商標の場合、結合された文字に軽重ある場合、あるいはいずれかの文字が、特異あるいは特別の重味を有するような場合は、たとえ、その構成が一連不可分であっても、重い方、あるいは特異な方の文字に重点がある場合があるとしている。
この基準にてらせば、本件商標は、「三輪山」という固有名詞によって認識され、それによって取引者・需要者に知覚されることは明らかである。
(イ)被請求人は、本件商標は、同書同大に構成され、「三輪山」と「本舗」 に分離すべき理由がないと主張している。
しかし、前述のごとく、「三輪山」 は、大神神社の御神体の山の固有名称として、広く知れ渡っている名称である。このような固有名称に、識別力のない他の文字を付して、同書同大に構成しても、一般取引者、需要者は、広く知られている固有名称「三輪山」 に重点を置いて認識し、理解することは、経験則上明らかであり、このことは、審査基準においても認めているところである。
(ウ)被請求人は、「本舗」 の文字を「店舗の屋号を表すもの」と主張しているが、「本舗」とは、「本店の店・建物、あるいは元の店・建物」 等を表示する文字であって、屋号を表示するものではない。屋号とは、例えば、「三河屋」、「越後屋」 等を言うのであって、これら屋号にも「本舗」 の文字を付することができるのである。
また、「竹人漬本舗」と「竹人」との関係を挙げているが、これは、本件の場合の例とはならない。すなわち、最初から非類似の関係にあるものであって、何ら本件商標と引用商標との関係にあるものを表示しているものではないからである
(2)商標法第4条第1項第7号について
(ア)被請求人は、本件商標は、審査基準に基づいても、また審決例に照らしても、何ら公序良俗に反するものではないと主張している。そして、その理由とするところは、本件商標は、「山の名称である『三輪山』の文字」 と、「店舗の屋号を表す『本舗』 の文字から成るものである」 とともに、「神社神道は、国内において多種多様に存する宗教の一部にすぎないため、神社神道を信仰していない国民には『三輪山を敬う宗教道徳』といった概念は観念することができない。」 とするところにあるものである。
(イ)しかし、「三輪山」の名称は、単なる「山」 の名称ではなく、大神神社の「神」そのものとして、昔から、信仰礼拝の対象とされ、「御神体」として崇め奉られてきた「山」の固有名称である。
したがって、「御神体」 として礼拝の対象物である「三輪山」 の固有名称を含む本件商標は、多くの人々に不快感を与えるものであることは明白である。
(ウ)また、「三輪山を敬う宗教道徳」 とは、神道を信仰する全国の多数の人々のみならず、「祖霊信仰」 を行う人々によって形成され、信仰の冒とくをなすものに対しては、不快とする一般的道徳観念を形成するものである。
よって、被請求人の主張は、この点においても認められず、本件商標は、明らかに公序良俗に反するものであるといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由及び弁駁に対する答弁において、要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証(枝番を含む。)を提出している。
本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第11号のいずれにも該当するものではなく、その登録は、同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきでない。以下、その理由について詳述する。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)請求人は、「本件商標の識別力は、商標全体にあるのではなく、『三輪山』の文字部分にあるとするのが妥当であり、そこから本件商標の自然的称呼、意味・観念が生じるものである。それによって、他の商標と識別されることは経験則上からも明らかである。」と述べており、「三輪山」の部分が共通していることをもって、本件商標が引用商標に類似すると主張している。
しかし、全体として一体的な本件商標の文字構成に照らせば、あえて「本舗」の部分を除外して「三輪山」の部分のみを分離抽出すべきではなく、本件商標全体として引用商標との類否判断を行い、相互に非類似の商標と判断されるべきである。すなわち、
(ア)同書同大に「三輪山本舗」と一連に横書きされた本件商標の文字構成は、まとまりよく、軽重の差もないものであって、殊更に「三輪山」と「本舗」に分離すべき理由は見出せないこと、
(イ)本件商標の構成文字に相応して自然に生じる称呼「ミワヤマホンポ」も決して冗長でなく、略称せずとも一気一連に淀みなく発音できる範囲内にあること、
(ウ)そして、旧来「〇〇本舗」といった商標の文字構成は、「屋」「家」「亭」「庵」「鵜」「軒」「園」等と同じく店舗の屋号を表すものとして使用され親しまれているのであるから、本件商標についても、やはり「三輪山」と「本舗」の各文字部分を分離することなく、全体として商号に由来する商標と理解し認識されるのが自然であること、
以上からすれば、本件商標全体として一体的にのみ把握され、「ミワヤマホンポ」と称呼され、特定の商店名としての観念が生じる本件商標は、その構成から単に「ミワヤマ」と称呼され、山の名称をあらわしたものと観念される引用商標とは明らかに相違しており、仮に同一又は類似の商品に使用した場合においても、彼此混同するおそれもないものである。
(2)この点について、本件商標のように「〇〇本舗」の文字構成からなる商標においては、「本舗」の文字部分を分離することなく、当該商標全体として把握したうえで他の商標との類否判断が行われるべきことの妥当性は、過去の審査事例からも首肯される。
すなわち、本件商標と引用商標の関係と同じく、商標の文字構成上末尾における「本舗」の語の有無にしか相違点のない二つの商標が、それらの指定商品が抵触しているにもかかわらず、相互に非類似と判断され、他人に対して登録が認められている事例が、以下のごとく多数見られるのは、まさに「本舗」の文字部分を分離省略することなく商標全体として各々対比判断がなされたことの証左と考えられる(乙第1号証の1ないし同43)。
(ア)「江戸一本舗」(登録第1514632号商標)と「江戸一」(登録第414743号商標)
(イ)「あしたば本舗」(登録第3135401号商標)と「あしたば」(登録第1133007号商標)
(ウ)「元気堂本舗」(登録第4009878号商標)と「元気堂」(登録第4378464号商標)
(エ)「長寿源本舗」(登録第4298036号商標)と「長寿源」(登録第4204820号商標)ほか。
ところで、請求人は、「本舗」の文字部分を含む商標について、「本舗」には自他商品の識別力がなく「本舗」以外の文字部分のみに識別力があり、その文字部分から生じる称呼、意味・観念を用いて、他の商標との類否判断が行われている旨主張している。
請求人は、そのことを立証せんとしてか過去の審査例を多数挙げながら、「『本舗』の文字部分を含む商標には、識別力を有する他の文字と結合しているものが沢山ある。そして、それら識別力を有する文字が同一の商品区分内に登録されていない場合や、登録されていても『本舗』の文字部分を含む商標を有する商標権者と同一人であったり、また商標権者が異なっていても、指定商品が異なっていたり、商標構成が明らかに異なっていたりで、決して『本舗』の文字部分を含む商標と権利抵触しない様に登録されているのである。」と述べている。
しかし、先に列挙した審査事例に見られるように、構成上末尾における「本舗」の語の有無にしか相違点のない商標につき、指定商品が相互に抵触しているにもかかわらず、相互に非類似と判断され、他人に対して登録が認められている例が多数見られることからすれば、請求人の前記主張は事実と全く異なるものである。
むしろ「本舗」の文字と結合された商標は、一種の屋号として一体的に把握され、当該商標全体として自他商品の識別力を発揮しうるため、商標全体として他の商標との類否判断が行われていると考えるのが妥当である。
(3)以上のように、本件商標と引用商標の関係と同じく、構成上末尾における「本舗」の語の有無による相違点が類否判断に大きく影響することについては、審決事例に照らしても首肯されるのである。
例えば、「竹八漬本舗」(乙第2号証の1)と「竹八」(乙第2号証の2)の類否が問題となった審判事件においては、「竹八漬本舗」の各文字が、同一書体、同一の大きさをもって一連に表されてるばかりでなく、これより生ずる「タケハチズケホンポ」の称呼もさほど冗長なものとはいえず、さらに、該文字は、漬物の製造販売を主な業務とする者の屋号と理解認識されるものであるから、本件商標からは「タケハチズケホンポ」の称呼のみを生ずるというの相当であると判断され、両商標の類似性が否定されている(乙第2号証の3)。
そして、審決確定後には、前記無効審判における引用商標「竹八」の商標権者に対して「竹八漬」の文字からなる商標が登録されていることからも(乙第2号証の4)、屋号の「竹八漬本舗」が一体的に把握され、商品名としての「竹八漬」とは、それらの称呼、観念が異なるものと判断されたことが明らかである。
(4)以上、例示した審査事例及び審決事例に照らしても、屋号を想起させる一体的な構成からなる本件商標は、需要者・取引者においても引用商標とは明瞭に識別可能であって、商標が相互に非類似であることから、本件商標は、引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号に該当するとした請求人の主張は失当である。
なお、被請求人は、本件商標を、そうめん・うどん等めん類の商標として積極的に使用しており、百貨店・カタログ販売等でも好評を博しているが(乙第3号証の1ないし5)、現在に至るまで、請求人の商品であるかのような誤認混同を生じた事実は一切ない。
(5)本件商標の構成中「本舗」の語からは、「ある商品を作って売り出しているおおもとの店。製造元」(広辞苑参照)の意味を生じるが、そうだからといって、本件商標全体として格別な観念が生じないとする請求人の主張は失当である。
すなわち、「屋号」とは、「商店の称号。店の呼び名」を意味するところ(広辞苑参照)請求人が例示する「三河屋」「成田屋」のように、必ずしも「屋」と結合されたもののみに限定されるわけでなく、「本舗」と結合された屋号も現代社会には多数存在しているのである。
そして、本件商標「三輪山本舗」もまた、商標全体として一つの屋号、商人名称としての観念を生ずるものであって、同書同大に一連に書されたその構成はまとまりよく、本件商標が生ずる自然称呼「ミワヤマホンポ」もテンポよく一気に称呼でき、指定商品との関係において「三輪山」の部分が特に周知という事情もない以上、これを敢えて「三輪山」と「本舗」に分離するのは極めて不自然である。
したがって、両商標は相互に類似するものではない。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項第7号の審査基準においては、「1.『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』には、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくても、指定商品又指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものとする」と説明されている。
さらに、「2.他の法律によって、その使用等が禁止されている商標、特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標は、本号の規定に該当するものとする。」と説明されている。
(2)本件商標は、山の名称である「三輪山」の文字と店舗の屋号を表す「本舗」の文字からなるものであり、その構成からして「きょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形」に当たらないことは明らかである。また、本件商標は、他の法律によって使用が禁止されている商標等でもない。
したがって、本件商標が本号に該当するか否かは、「指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する」かどうかのみを基準にして判断されるべきである。
ところで、請求人は、本件商標は「神社神道を信仰する人々の信仰心を害し、宗教上の不快感を与えることは明かであり、経験則上も明白である。」と述べているが、たとえそのような事態が生じたとしても、これをもって本件商標が本号に該当するとの判断は妥当性を欠く。なぜならば 本号に規定する「公の秩序、善良の風俗」とは国家社会の一般的利益や道徳観念の維持を指称しており、社会的妥当性を示すといわれるところ、わが国では無宗教の人が多く(乙第4号証)、そのうえ神社神道は国内において多種多様に存する宗教の一部にすぎないため、神社神道を信仰していない国民には「三輪山を敬う宗教道徳」といった概念は観念することができず、したがって、このような観念がわが国において社会の一般的な道徳観念を形成しているとはいい難いからである。
したがって、三輪山を御神体として敬う神道教徒の宗教感情等を害することを理由に本件商標が本号に該当するとした請求人の主張は失当である。
(3)ところで、本件商標のように「三輪山」を商標の文字構成の一部に含み、あるいは「三輪山」を連想させる商標については、多数の登録例が見られる(乙第6号証の1ないし6)。
さらにいえば、山を崇拝の対象とする神社として、「富士山」を御神体として祭る富士山本宮浅間大社が有名であるが、「富士山」の文字のみからなる商標は、第9類、第24類、第26類、第29類、第30類、第31類の多種多様な指定商品について登録されている(乙第7号証の1ないし4)。
商標審査基準及び審査登録事例に照らしても、山の名称でもある「三輪山」と、屋号を意味する「本舗」の組み合わせからなる本件商標は、「その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形」でないことはもちろんのこと、「他の法律によって、その使用が禁止されている商標等」に該当せず、しかも、「指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する」おそれもないことから、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
3 むすび
以上述べたように、屋号を想起させる一体的な構成からなる本件商標は、山の名称を想起させる引用商標とは相互に非類似であることから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。また、本件商標は、公序良俗に反する商標、即ち、同法第4条第1項第7号に該当するものでもない。

第4 当審の判断
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号及び同第11号に該当する旨主張しているので、まず、同第法第4条第1項第11号に該当するか否かについて判断する。
1 本件商標
本件商標は、前記第1に示したとおり、「三輪山本舗」の漢字を横書きしてなるところ、その構成中、「三輪山」の文字は、「奈良県桜井市にある山。古事記崇神天皇の条に、活玉依姫と蛇神美和の神とによる地名説明伝説が見える。」(広辞苑第五版)、また、「桜井市三輪。大和高原南西部、大神神社の神体となっている山」(コンサイス日本地名事典 第3版 株式会社三省堂 1989年12月15日発行)等のように、奈良県桜井市にある山の名称を表すものとして、特に近畿地方においては、よく知られ、親しまれているものとみるのが相当である。
また、後半部の「本舗」の文字は、「本店。特定商品を製造販売する大元の店」の意を有する語として広く知られ、親しまれた語ということができ、たとえば、特定の語に付して、○○本舗、△△本舗のごとく使用され、それが商店の名称や屋号を表すものとして一般に使用され、認識されていることの多い語というべきである。
そうとすれば、本件商標に接する取引者、需要者は、本件商標が、前記のとおり、いずれもよく知られ親しまれた「三輪山」と「本舗」の各文字(語)の結合よりなるものと理解、認識するものといわなければならない。
2 「本舗」の語及び両商標の類否について
本件商標の後半部の「本舗」の文字は、前述のとおり、「本店。特定商品を製造販売する大元の店」の意を有する語であり、他の語に付して商店の名称や屋号を表すことの多い語と認められるところから、該文字(語)自体は、自他商品の識別標識としての機能を有しないか、または極めて弱い語というべきである。
そうすると、かかる構成態様からなる本件商標に接する取引者、需要者は、たとえ、構成各文字が同じ書体、同じ大きさで、等間隔に表されたものであっても、本件商標中、前半部の「三輪山」の文字部分を主として、また、後半部の「本舗」の文字部分を従として捉え、前者が特に印象の強い文字部分と認識するものと判断するのが相当である。
してみれば、本件商標中、自他商品の識別標識として強く印象に残る文字部分は、前半部の「三輪山」にあるということができるから、かかる場合、該文字部分より生ずる称呼、観念をもって取引に当たることも決して少なくないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、自他商品の識別標識としての機能の強い「三輪山」の文字部分から「ミワヤマ」の称呼をも生ずるものであり、かつ、「三輪山(みわやま)」の観念を生ずるものとみるのが相当である。
他方、引用商標は、前記第2に示したとおり、「三輪山」及び「みわやま」の各構成文字に相応して、「ミワヤマ」の称呼及び「三輪山(みわやま)」の観念を生ずること明らかである。
してみると、本件商標と引用商標とは、「ミワヤマ」の称呼及び「三輪山(みわやま)」の観念を共通にする類似の商標といわなければならない。
そして、本件商標中の自他商品識別標識としての機能を果たす「三輪山」文字部分と引用商標の「三輪山」の文字部分は、横書きと縦書きの差異を有するものの、共に同じ綴り字の漢字からなるものであり、また、引用商標には「みわやま」の平仮名文字が付加されている点を考慮しても、これらの外観上の差異が、両商標の称呼及び観念における類似性を凌駕するとまではいえないから、結局、本件商標は、その称呼及び観念において、引用商標に類似するものといわざるを得ない。
3 つぎに、両商標の指定商品の類否について判断するに、本件商標の指定商品は「穀物の加工品」であり、同商品及びこれに類似する商品が、引用商標の指定商品中に包含されていることは、前記した第2の1(1)に照らして明らかである。
したがって、本件商標は、引用商標と称呼及び観念において類似する商標であって、その指定商品も同一又は類似の商品に使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当するものといわなければならない。
4 被請求人の主張
被請求人は、本件商標は、(ア)同書同大に「三輪山本舗」と一連に横書きされ、まとまりよく、軽重の差もないから殊更に「三輪山」と「本舗」に
分離すべき理由は見出せない。(イ)本件商標の構成文字に相応して自然に生じる称呼「ミワヤマホンポ」も決して冗長でなく、略称せずとも一気一連によどみなく発音できる範囲内にある。(ウ)旧来「〇〇本舗」といった商標の文字構成は、「屋」「家」「亭」等と同じく店舗の屋号を表すものとして使用され親しまれているのであるから、「三輪山」と「本舗」の各文字部分を分離することなく、全体として商号に由来する商標と理解し認識されるのが自然である。(エ)以上のことから、本件商標全体として一体的にのみ把握され、「ミワヤマホンポ」と称呼され、特定の商店名としての観念が生じる本件商標は、その構成から単に「ミワヤマ」と称呼され、山の名称を表したものと観念される引用商標とは明らかに相違している旨述べている。
たしかに、本件商標は、同書同大に横書きされてはいるが、かかる構成態様であっても、本件商標の如く、「三輪山」と「本舗」との各文字の結合からなるものと容易に理解、認識され、かつ、いずれか一方が自他商品の識別力を欠く文字(語)である場合には、前述のとおり、識別力を有する文字から生ずる称呼をもって取引に資せられる場合も少なくないものというべきである。
また、被請求人は、本件商標から生ずる「ミワヤマホンポ」の称呼も一気一連によどみなく称呼されると主張するが、前述のとおり、自他商品の識別力を欠く文字を省略して称呼される場合も決して少なくないから、被請求人の上記の主張はいずれも採用できない。
さらに、被請求人は、「○○本舗」のような商標の文字構成は、「屋」「家」等と同じく全体として商号に由来する商標と理解、認識されるのが自然である旨述べている。
たしかに、被請求人の主張するように、「○○屋」「○○家」等のように、全体として「○○ヤ」のごとく称呼され、簡潔でよどみなく発音される場合や一体として緊密に構成されているような場合は、一連一体の屋号として把握、理解されることは否定し得ないところであり、このことは、たとえば「『千両』と『千両屋』とは、後者が商標として簡潔な部類に属し、かつ口調によどみなく、一体として緊密に構成されているから、外観、称呼、観念上互いに区別することができる。」と判示した判決(昭和37年(行ナ)第28号 昭和38年1月29日判決)からも是認し得るものである。
しかしながら、本件商標は、「屋」「家」等を付加した商標とは異なるものであり、「三輪山」の文字と「本舗」の文字とを結合した商標全体の構成、一連に称呼した場合の称呼の長さ、商標の要部としての「三輪山」の文字から生ずる印象等を総合的に判断すれば、「屋」「家」を付加した場合と同一に論ずることはできないものというべきである。
したがって、本件については、前記のとおりに判断するのが相当であるから、結局、この点についての被請求人の主張も採用できない。
また、被請求人は登録例を挙げ、本件商標と引用商標とは類似しない旨主張しているが、商標の類否については、商標の構成、指定商品等、個別具体的に判断すべきであって、本件商標については前記のとおりに判断するのが相当であるから、被請求人の掲げる前記の登録例によって、上記判断は左右され得ないというべきである。
5 以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものといわざるを得ないから、請求人が主張するその余の無効事由について判断することなく、同法第46条第1項に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-05-07 
結審通知日 2007-05-10 
審決日 2007-05-25 
出願番号 商願2004-16839(T2004-16839) 
審決分類 T 1 11・ 26- Z (Y30)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤平 良二 
特許庁審判長 山田 清治
特許庁審判官 鈴木 新五
久我 敬史
登録日 2005-04-22 
登録番号 商標登録第4858751号(T4858751) 
商標の称呼 ミワサンホンポ、サンリンサンホンポ、ミワサン、サンリンサン、ミワヤマ 
代理人 森 廣三郎 
代理人 齊宮 瑞枝 
代理人 丸山 幸雄 
代理人 森 寿夫 
代理人 中務 茂樹 

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