• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200921772 審決 商標
審判19988449 審決 商標
不服200733142 審決 商標
不服20009086 審決 商標
不服201029099 審決 商標

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y05
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない Y05
管理番号 1155741 
審判番号 無効2005-89153 
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-12-02 
確定日 2007-04-02 
事件の表示 上記当事者間における登録第4664038号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4664038号商標(以下「本件商標」という。)は、「ハルタム」の片仮名文字と「HALTAM」の欧文字とを上下二段横書きしてなり、平成14年6月27日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同15年4月18日に商標権の設定登録がされたものである。

第2 引用登録商標及び使用標章
1 引用登録商標
引用登録第2195341号商標(以下「引用登録商標」という。)は、「ハルナール」の片仮名文字と「HARNAL」の欧文字とを上下二段横書きしてなり、昭和62年12月18日に登録出願、第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤、医療補助品」を指定商品として、平成1年12月25日に商標権の設定登録がされがされたものである(当該商標権は存続期間の更新登録が同11年8月24日にされている。)。
2 使用標章
「ハルナール」、「HARNAL」又は「Harnal」(以下「使用標章」という。)は、請求人の業務に係る商品「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」(α受容体遮断剤)(以下「前立腺疾患治療剤」という。)に付されて1993年新発売以来継続して使用されているものである。
(なお、引用登録商標と使用標章とをまとめていうときは「引用商標」という。)

第3 請求人の主張(要旨)
請求人は、「本件商標の登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第56号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、第一に、引用登録商標と外観及び称呼において、互いに相紛らわしいものであり、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。第二に、請求人の業務に係る商品「前立腺疾患治療剤」を表示するためのものとして、取引者・需要者の間において極めて広く認識されている周知・著名な使用標章と称呼及び外観において類似するものであり、また、本件商標の指定商品は「薬剤」であって、使用標章の当該商品と共通するものである。そして、本件商標を薬効成分・用量を共通にし、対象疾患も同じ前立腺疾患である薬剤に使用した場合には、これが請求人あるいは請求人と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同するおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
したがって、本件商標は、上記条項に違反して登録されたものであるから、商標法第46条第1項第1号に基づいて、その登録は無効とされるべきである。
(1)商標法第4条第1項第11号について
以下のとおり、本件商標と引用登録商標は、外観及び称呼において類似することは明らかである。そして、後述するように「ハルナール」が薬剤の分野において周知・著名性を獲得していることから、具体的な出所の混同を防止する観点、さらに、近年、類似医薬品名による医薬品の取り違えによる医療事故が社会問題化しており、それを防止する観点からも、一般の商標の類否判断に比して医薬品という商品分野においては、より類似の範囲を拡大して考えるべきである。
(ア)外観について
本件商標と引用登録商標は、上記第1及び2の構成のとおりであるところ、前者は片仮名文字4文字と欧文字6文字を、また、後者は片仮名文字の5文字と欧文字6文字を、それぞれ上下二段に横書きした点において構成が類似する。
そして、両商標は、その構成において、片仮名文字における第一番目の文字「ハ」と第二番目の文字「ル」を同じくするものであり、また、欧文字における第一番目の文字「H」、第二番目の文字「A」及び第五番目の文字「A」を同じくするものである。さらに、両者は、欧文字表記の前半部分「L」と「R」の相違を有するものの、一般的な日本人においては両欧文字の発音が明瞭に区別されないため、いわゆる離隔観察した場合には、その相違は需要者において殆ど認識されないものと解される。
したがって、両商標は、片仮名文字の構成においては、前半部分の「ハル」、また、欧文字の構成においては、6文字中4文字を共通にしていることから、構成上の共通性が認められる。
(イ)称呼について
本件商標と引用登録商標は、その構成文字に相応して、前者からは「ハルタム」の称呼を、後者からは「ハルナール」の称呼を生じるものである。
そして、両称呼における構成音数の差異は僅か1音であり、かつ、語頭からの「ハル」の2音を共通にするものである。
また、前者後半部の「タム」の「ム」は両唇音であり、一連で発音した場合には、アクセントが第3音の「タ」に置かれることから、その後に続く「ム」は語尾に位置することも相俟って比較的弱く発音される。翻って、後者後半部の「ナール」の「ル」は、一連で発音した場合にアクセントが第3音の「ナ」に置かれること、及びその後に続く長音に吸収されることから、語尾に位置する「ル」は比較的弱く発音される。さらに、両称呼は、後半部に長音の有無の差異を有するものの、前者の「タ」と「ム」、及び後者の「ナ」と「ル」の各母音が共に「a」、「u」であって、全体としての語調・語感は極めて近似したものといえるから、両商標は称呼上も近似するものである。
(ウ)観念について
本件商標と引用登録商標は、その構成文字に照らし特定の観念を生ずることがないので、これを対比することはできない。
(2)商標法第4条第1項第15号について
以下のとおり、使用標章「ハルナール」は、請求人の業務に係る商品「前立腺疾患治療剤」を表示するためのものとして、取引者・需要者の間において、極めて広く認識された周知・著名な商標であることは明らかであり、したがって、使用標章と相紛らわしい本件商標を、その指定商品「薬剤」について使用するときには、これに接する取引者・需要者をして、その商品が、請求人の業務に係る商品であるかの如く誤認させ、その商品の出所につき混同を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。
(ア)本件商標と使用標章の混同について
使用標章は、請求人の業務に係る商品「前立腺疾患治療剤」に付されて1993年新発売以来継続して使用され、周知・著名な商標であり、「ハルナール」といえば、請求人の業務に係る商品との認識が広く定着している。
そして、本件商標からは、「ハルタム」の称呼を生ずるのに対して、使用標章からは、「ハルナール」の称呼を生ずるものであり、両称呼は、語頭からの「ハ」、「ル」の2音を同じくするものである。しかして、両商標が薬剤について使用される場合には、その構成中の語頭部分の「ハル」の文字部分は、後半部の「ナール」及び「タム」の文字部分に比して、自他商品の識別力を果す最も重要な部分、いわゆる、商標の要部若しくは商標の基幹部分というべきものである。さらに、薬剤等の商標として「ハル」の音で始まるものが前立腺疾患治療剤としては、使用標章のみである。
そうすると、本件商標をその指定商品である「薬剤」について使用するときは、観念的な連想を惹きおこし易い基幹部分「ハル」を共通にしている点から、請求人の製造・販売する商品「前立腺疾患治療剤」に使用する使用標章を連想させ、これに接する取引者・需要者は、請求人のシリーズ商標若しくは姉妹商品として、請求人の製造・販売に係るものと誤認し、その商品の出所につき混同を生じさせるおそれのある、彼此相紛らわしい商標であるといわなければならない。
(イ)「ハルナール」商標の周知・著名性について
使用標章は、請求人の業務に係る商品「前立腺疾患治療剤」に付して使用され、年間平均約470億円近くを売り上げており、例えば、2003年度(2003年4月?2004年3月)についていえば、合計して約521億円(前立腺治療剤市場における市場占有率66%)を売り上げている(甲第5号証)。
また、上記商品の広告宣伝活動は、専門誌、業界誌への広告掲載あるいは病院等の医療機関へのパンフレットの提供等によって全国的に広く行われ(甲第7号証ないし甲第39号証)、その結果として、商標「ハルナール」は、請求人の業務に係る前立腺疾患治療剤を表示するものとして広く認識されるようになったものである。
これら広告宣伝活動のうち、広告掲載に要した費用は、例えば、2001年が約3,330万円、2002年が約3,121万円、2003年が約2,102万円、2004年が約1,259万円となっている(甲第6号証)。
このような取引の実情から、使用標章は、前立腺疾患治療剤を表示するものとして、この種商品を取り扱う業界における取引者・需要者の間において、周知・著名な商標であるというべきである。
(ウ)証拠方法について
以下の証拠(甲第7号証ないし甲第39号証)よりすれば、使用標章は、医薬品を取り扱う業界における雑誌等を用いて、継続的、定期的に反復した宣伝広告に努めた結果、請求人の業務に係る商品「前立腺疾患治療剤」を表示するためのものとして、取引者・需要者の間において、広く認識された周知・著名な商標であるといわなければならない(なお、甲号証に「山之内製薬株式会社」の表示がされているが、請求人は、平成17年4月1日に藤沢薬品工業株式会社と合併し、「アステラス製薬株式会社」となった。)。
1994(平成6)年から2005(平成15)年の間に南江堂発行「今日の治療薬」への12回の紹介(甲第7号証)、「ハルナール」が平成5年7月2日に製造許可され、同年8月30日に発売されたことについての薬事日報社発行「最近の新薬94/45集」への掲載(甲第8号証)、1994年から2005年の間に「ハルナール」の規格単位・薬価・効能等を解説した新日本法規出版株式会社発行「薬価基準」への12回の掲載(甲第9号証)、1994年7月1日に診断と治療社発行「産科と婦人科」への広告(甲第10号証)、1994年から2003年の間に毎日新聞社発行「JAMA」への23回の広告(甲第11号証)、2002年6月1日、2002年7月1日及び2002年8月1日に株式会社ライフ・サイエンス発行「Geriatric Medicine」への3回の広告(甲第12号証)、1994年から1997年の間に東京医学社発行「腎と透析」への46回の広告(甲第13号証)、2004年10月15日に日本医師会発行「心臓病の外来診療」への広告(甲第14号証)、1998年2月1日及び2002年7月1日に診断と治療社発行「診断と治療」への2回の広告(甲第15号証)、1998年2月21日及び1999年6月5日に医歯薬出版株式会社発行「週刊医学のあゆみ」への2回の広告(甲第16号証)、1993年11月1日に永井書店発行「総合臨床」への広告(甲第17号証)、2000年から2001年の間にじほう社発行「調剤と情報」への6回の広告(甲第18号証)、1993年から1995年の間に南江堂発行「内科」への20回の広告(甲第19号証)、1994年から1997年の間に日経BP社発行「日経メディカル」への17回の広告(甲第20号証)、1997年から2002年の間に日経BP社発行「NikkeiMedical」への16回の広告(甲第21号証)、2003年から2005年の間に日本臨床社発行「日本臨床」への20回の広告(甲第22号証)、1993年から2005年の間に日本医師会発行「日本医師会雑誌」への66回の広告(甲第23号証)、1993年から2005年の間に日本泌尿器科学会発行「日本泌尿器科学会雑誌」への98回の広告(甲第24号証)、1994年から2005年の間に日本医事新報社発行「日本医事新報」への40回の広告(甲第25号証)、1995年から2005年の間に社団法人日本内科学会発行「日本内科学会雑誌」への26回の広告(甲第26号証)、2001年から2005年の間にメディカルレビュー社発行「排尿障害プラクティス」への15回の広告(甲第27号証)、2001年から2005年の間に泌尿器科紀要刊行会発行「泌尿器科紀要」への42回の広告(甲第28号証)、1998年から2005年の間に医学図書出版株式会社発行「泌尿器外科」への52回の広告(甲第29号証)、1998年8月1日及び1999年2月1日に社団法人日本薬学会発行「ファルマシア」への2回の広告(甲第30号証)、1996年から1997年の間に朝日新聞社発行「メディカル朝日」への6回の広告(甲第31号証)、1998年から2002年の間に朝日新聞社発行「medical ASAHI」への19回の広告(甲第32号証)、1994年5月10日、1995年7月10日及び1998年7月10日に医学書院発行「medicina」への3回の広告(甲第33号証)、1994年から1998年の間に南山堂発行「薬局」への10回の広告(甲第34号証)、1993年から2005年の間に医学書院発行「臨床泌尿器科」への93回の広告(甲第35号証)、1993年8月10日、1993年10月10日及び1993年12月10日に中外医学社発行「臨床医」への3回の広告(甲第36号証)、2004年6月15日に日本医師会発行「精神障害の臨床(日本医師会雑誌特別号)」への広告(甲第37号証)、1999年9月1日及び2002年11月1日に南山堂発行「治療」への2回の広告(甲第38号証)、2004年にAIPPI・JAPAN発行「日本有名商標集」への掲載(甲第39号証)
(3)医薬品の取り違えについて
商標が類似するか否かあるいは商品の出所の混同が生じるか否かの判断に際しては、それを使用する医療現場の実情を考慮して判断する必要がある。何故ならば、本件商標や引用登録商標の指定商品である「薬剤」の場合、薬品名を間違って処方すれば人命に影響するおそれが生じるからである。
(ア)医療現場の実情について
以下の新聞記事にもみられるように、よく似た名称の薬の取り違えによる投薬ミスの医療事故が後を絶たないような実情に鑑みても、医薬品を指定商品とする商標の類否の判断に際しては、外観、称呼、観念等の形式的な点についての判断に終始することなく、それを使用する医療現場の実情を考慮して判断する必要性があると思料する。その必要性を説明するために、医薬品の取り違えによる投薬ミスの事故を取り上げた新聞記事を提出する(甲第40号証ないし甲第45号証)。
i)「似た名前の薬 チェックに効く?/ミス防止へ検索システム」(2002.11.20東京夕刊朝日新聞)の見出の下、「血圧を下げる薬「アルマール」と血糖値を下げる薬「アマリール」、筋弛緩剤「サクシン」と副腎皮質ホルモン剤「サクシゾン」…。似た名前の薬を間違える医療ミスが相次ぎ、死亡事故も起きていることから、厚生労働省の研究班は、医薬品の名称や外形を検索できるシステムを開発した。20日午後の同省医療安全対策検討会議の部会で発表する。…」との報道記事(甲第45号証)
ii)「名前の似た薬品 患者に投薬ミス/愛知・半田病院/慰謝料23万円」(2003.08.21中部夕刊社会毎日新聞)の見出の下、「愛知県半田市立半田病院で02年3月、同県南知多町の男性患者(65)に、名前の似た別の薬を処方、飲んだ男性が一時こん睡状態に陥る事故が発生していたことがわかった。病院側は過失を認め、今年6月に男性に対して慰謝料など約23万円を支払った。病院によると、男性患者は慢性腎不全で通院中の昨年3月28日に内科で受診した。その際、血圧降下剤「アルマール」の投与を受けるはずだったが、間違えて血糖降下剤「アマリール」を処方された。…」との報道記事(甲第43号証)
iii)「鹿児島大病院/1字違いの抗がん剤投与/タキソールにタキソテール/64歳男性死亡」(2003.10.22東京朝刊朝日新聞)の見出の下、「鹿児島市の鹿児島大学医学部・歯学部付属病院に肺がんで入院していた鹿児島県内の男性(64)が、治療計画と違う種類の抗がん剤を誤って投与され、約1カ月後に死亡していたことがわかった。使われた抗がん剤は正しい薬とは商品名が一文字違いで、投薬の指示書を作った研修医がパソコンに誤入力した。病院は投薬ミスと死亡との因果関係をはっきりとは認めていないが、県警は業務上過失致死の疑いもあるとみて関係者から事情を聴いている。…」との報道記事(甲第42号証)
iv)「類似名薬 替える動き/県内病院 種類減も課題/「アルマール」「アマリール」…/県立河北病院投薬ミスで波紋」(2004.01.10東京地方版/山形版朝日新聞)の見出の下、「県立河北病院で昨年11月、血圧降下剤「アルマール」と似た名前の血糖降下剤「アマリール」を誤って処方し、患者が意識不明に陥った事故を受けて、県立病院や山形大付属病院などは間違えやすい名前の薬の取り扱いをやめるなどの再発防止策に乗り出した。…」との報道記事(甲第41号証)
v)「投薬ミス防止にIT活用/バーコード付けチェック/似た名称をデータベース化」(2004.01.25東京朝刊読売新聞)の見出の下、「よく似た名称の薬を取り違えたり、同じ薬でも濃度の違う製品を誤って投与したり…。全国の病院で、投薬ミスによる医療事故が後を絶たない。厚生労働省はIT(情報技術)を活用したミス防止策に乗り出す方針だが、それでも、最後は<人間の力>がカギとなる。…」との報告記事(甲第44号証)
vi)「「タキソール」のはずが「タキソテール」/抗がん剤 誤投与/泉佐野の病院 ミス公表せず」(2004.02.12大阪朝刊社会毎日新聞)の見出の下、「大阪府泉佐野市の市立泉佐野病院で02年4月、60代の女性患者に「タキソール」という抗がん剤を投与するはずが、誤って、名前が酷似した別の抗がん剤を投与するミスがあったことがわかった。患者はその後、死亡したが、病院は「死亡との因果関係はない」と話している。同じ誤投与は昨年、鹿児島大病院(鹿児島市)で起きており、厚生労働省は昨年11月、名前が似ている医薬品を例示、事故防止の対策強化を都道府県などに求めている。…」との報道記事(甲第40号証)
(イ)医薬品の取り違えについて
実際の医薬品の処方の現場において、具体的にどのようなケースで医薬品の取り違えに遭遇するのかを説明するために、新聞記事及びこれに掲載された日本薬剤師会常務理事による調剤事故防止対策の報告書を提出する(甲第46号証及び甲第47号証)。これらにも見られるように、薬の取り違えによる投薬ミスの事故には至らないものの、医薬品名を間違って危うく違う薬を処方しようとした、いわゆる、「ヒヤリ・ハット」事例が多発しているのが現状である。これらは、称呼の類似以外にも、語調や語感など、さらには文字の配置など外観においても勘違いが生じるような例を挙げているものであり、本件商標と引用登録商標は、この記事以上に類似しているといわざるを得ない。
なお、このような問題に対し、医薬品業界では、薬の取り違えによる投薬ミスを起こさないよう警鐘を鳴らすと共に、その原因を追究し対策を講じ始めている。このことを説明するために、業界誌において掲載された薬剤事故防止策に関する業界への提言(甲第48号証)及び医療事故の防止をテーマに行われたシンポジュウムの内容を報告したニュース(甲第49号証)を提出する。
そして、本件商標と引用登録商標については、語頭の「ハル」が共通しており、オーダリングシステムにおいても先頭2文字の入力で複数表示される医薬品の中から選択されることから、それを使用する医療の現場において、本件商標の「ハルタム」と引用登録商標の「ハルナール」が誤認されるおそれが非常に高いといわざるを得ない。
なお、昨今の医薬行政においても、この医薬品の取り違えの問題は議論の的になっており、その対策に力を注いでいるのが現状である。この医薬行政の現状を説明するために、「新規承認医薬品名称類似回避フローチャート」(甲第51号証の1)及び「医療用後発医薬品の承認申請にあたっての販売名の命名に関する留意事項について」(甲第51号証の2)を提出する。
i)「ヒューマンエラー/似ている薬品名ミス誘う」(2004.03.08東京夕刊朝日新聞)の見出の下に、処方する際に間違えて事故を招くケースが相次いでいること、旧厚生省研究班が1999年に218病院から看護師が「ヒヤリ」とした事例約1万1千件を集めて分析、その結果、「注射・点滴・中心静脈栄養など」が1%、「経口薬の投与」が1%など、名前が似た薬での「体験」がかなりあったこと、が報告されている(甲第46号証)。
ii)平成14年度厚生労働科学研究「病院等における薬剤師業務の質の向上に関する研究」の分担研究「保険薬局における調剤事故防止対策に関する研究」報告書(甲第47号証)に示されるように、1994(平成6年)年度から2001(平成1)年度の間で150件(年度平均18.5件)もの調剤事故が発生しており、また、いわゆる「ヒヤリ・ハット」事例として、平成1年度の1年度だけで4,044例あり、その事例の中で、「他剤の調剤」が75例(上記ヒヤリ・ハット事例4,044例の約19%)報告されているという事実がある。
iii)2004年3月8日に国際商業出版株式会社発行の国際医薬品情報通巻765号第3頁ないし第6頁の中で(甲第48号証)、医薬品のヒヤリ・ハット事例の要因の中のトップは「医薬品名が似ている」ことがあげられており、販売名の類似していることが誤処方や誤調剤などの誤投薬につながる可能性がもっとも高い要因である、としている。
iv)平成1年9月17日に株式会社法研発行の週刊社会保障第55巻第2152号第14頁及び第15頁の中(甲第49号証)で、医療事故の防止をテーマに行われたシンポジュウムにおいて、日本製薬団体連合会安全性委員会委員長の発言として、「医薬品の名称を誤認することによって事故に繋がる危険があることから、名称の類似性を客観的に判定する手法が開発されるべきであり、なおかつ医薬品の承認の早い段階で販売名について判断するシステムを導入すべきである」との発言が紹介されている。
v)2002年6月1日に日本人間工学会発行の会誌第38巻特別号「2A7 医薬品名称の類似性と混同に関する実験的研究」(第424頁及び第425頁)の中(甲第50号証)で、…医薬品名を誤認する原因として、語頭文字の共通性の高さ、瞬間視による判読では先頭部分の1?3文字による弁別、オーダリングシステムでは先頭2文字の入力で類似した医薬品名が複数表示される中で特定の薬品を選択しなければならないこと、があげられている。
vi)平成17年10月17日付けで日本製薬団体連合会等に宛てた厚生労働省医薬食品局安全対策課の事務連絡の中(甲第51号証の1)で、「新規承認医薬品名称類似回避フローチャート」を判断指標とするよう周知徹底を図っていることがわかる。また、改定された「新規承認医薬品名称類似回避フローチャート」では、置換・挿入・削除により一致するものや、先頭文字が一致するものについては「要変更」とし、置換・挿入・削除による一致や先頭文字の一致でなくても、先頭からの文字の一致度によっては「要検討」としていることがわかる。
vii)平成17年9月22日付けで各都道府県衛生主管部(局)長に宛てた厚生労働省医薬食品局審査管理課長の「医療用後発医薬品の承認申請にあたっての販売名の命名に関する留意事項について」(薬食審査発第0922001号)において(甲第51号証の2)、医療用後発医薬品の販売名に関して、既存のものと類似性が低い販売名をつけるのが困難な状況にあることから、成分が同一である、医療用後発医薬品の販売名には、今後、一般的名称(成分名)を用いることとなったことがわかる。
(ウ)判例の援用
判例において、薬剤の商標としては、「メバ」の音で始まるものは、「メバロチン」以外には、存在していなかったことから、請求に係る商標「メバロチン」の語頭「メバ」を要部であると認定し、引用標章とは、「メバ」の音部分を共通にする外観上及び称呼上近似したものであり、これを「薬剤」に使用するときは、商品の出所につき混同を生じさせるおそれがあると認定されている(H17.10.26知財高裁 平成17(行ケ)10418:甲第52号証、H17.02.24東京高裁 平成16(行ケ)256:甲第53号証、同日東京高裁 平成16(行ケ)341:甲第54号証、H16.11.25東京高裁 平成16(行ケ)129:甲第55号証)
(エ)他の事件における拒絶査定の援用
更に、上記主張理由の正当性を立証すべく、本件事案と判断の軌を一にする、他の事件における拒絶査定を挙げて、これを自己の主張理由に有利に援用することとする。
指定商品を「薬剤」とする商標の類否が争われた事件における拒絶査定のの中で、審査官は、「薬剤を取り扱う業界では、検索に際し、薬剤名の頭三文字以上を入力するよう推奨していることから、取引業界においては、称呼において語頭文字が特に重要視されている」とし、対比する商標に語頭文字以外の差異音があったとしても、その差異音が称呼全体に与える影響は決して大きいものとはいえない、と認定している(甲第56号証)。
2 弁駁の理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
(ア)外観について
医薬品という商品分野においては、上述のとおり、通常の観察で外観を比較してはならないというところ、本件商標と引用登録商標は片仮名文字の構成においては前半部分の「ハル」、欧文字の構成においては6文字中4文字を共通にしていることから、構成上の共通性が認められ、かつ、具体的な出所の混同を防止する観点、更に、医薬品の取り違えによる医療事故を防止しようとする観点から、両者は外観上近似する商標であると思料され、被請求人の観念に関する主張は失当であるといわざるを得ない。
(イ)称呼について
使用標章の周知・著名性、及び医薬品の取り違えによる医療事故等の観点からすると、本件商標と引用登録商標の構成文字の後半部「タム」と「ナール」は、これに接する者への印象は極めて薄く、看過省略されがちな語である。そして、両商標が薬剤について使用される場合には、その構成中の「ハル」の文字部分が自他商品の識別力を果たす最も重要な部分というべきものであって、この観念的な連想を引き起こし易い語頭部分を共通にするから、使用標章を連想させ、請求人のシリーズ商標若しくは姉妹品として誤認し、その商品の出所につき、混同を生じさせるおそれのある称呼において彼我相紛らわしい商標である。したがって、被請求人の称呼の類否を判断する際には、該商標から生ずる観念を考慮することは不当であるとする批評を加えながら、一般的な類否判断基準に基づいて両者が称呼において類似しない旨の主張もまた失当であるといわざるを得ない。
(ウ)観念について
観念については、争いがないので詳細な反論は省略する。しかし、被請求人は、引用登録商標から「仮に観念があるとしても」として「ハルなーる」を観念し「春になる」を直観し得るとしているが、これは商標の類否判断において、一見して直ちに一定の意義を需要者・取引者に理解させるものでなければならないとする概念とは明確に異なることを指摘しておく。
(2)商標法第4条第1項第15号について
(ア)両商標の出所の混同について
被請求人は、使用標章が前立腺疾患治療剤に使用され、周知・著名であることは認めているにもかかわらず、本件商標と使用標章は商品の出所につき混同を生じている事実はないと主張し、乙第5号証ないし乙第9号証、乙第12号証ないし乙第19号証を提出しているが、いずれの乙各号証も語頭部分に「はる」「ハル」の文字を含む医薬品名又は登録商標が存在していることを示すにすぎない。「ハルンケア」「ハルシオン」及び「ハルトマン」が周知・著名であることを述べているが、仮に、これらが周知・著名であるとしても、これらと使用標章とは需要者・取引者層が異なったり、あるいは治療領域が相違したりしていることから、出所の混同のおそれは低いと考えられる。
そもそも、出所の混同のおそれは、その商標の使用期間、使用規模、広告宣伝等の周知・著名性を形成する要件に加え、商品が競合関係にあるか否か(具体的混同のおそれ)や、競合関係にない場合には、一般的混同のおそれの有無(協業関係・資本関係等の一定関係の存在を類推せしめる事情)等の諸事情を総合して判断すべきである。
薬剤は、一般的に、有効成分が異なると作用機序、効能効果、用法用量、副作用等に違いを生じ、適応症が同一であっても、有効成分が異なると、多くの場合代替不能である。
してみると、「ハルシオン」については「睡眠導入剤」であり、「ハルトマン」については「乳酸リンゲル剤」であることから、使用標章が使用される商品「前立腺疾患治療剤」とは、需要者・取引者層が異なり、また、治療領域も相違することから、出所の混同のおそれはないというべきである。
一方、「ハルンケア」については、これは「ハルナール」のように医師の処方箋により、保険薬局、又は、病院で購入する医療用医薬品とは異なり、誰もが一般の薬局・薬店で購入できる一般用医薬品である。医療用医薬品については、薬事法、薬事法施行令により、一般消費者(患者)に対する広告は、禁止されており、一般消費者においては、実際に「ハルナール」を処方されない限り、その販売名を認識していないのが実状であり、両者が同じ販売ルートで需要者を共にすることはなく、その関係を論じることはできないから、出所の混同のおそれはないというべきである。
これに対して、使用標章が使用される商品「前立腺疾患治療剤」と本件商標が使用される商品とは、乙第8号証に示されるように、その需要者・取引者層並びに治療領域を共通にするものであり、本件商標を請求人の製造・販売に係る商品と同じ商品に使用した場合には、使用標章とシリーズの商標又は姉妹品であるかの如く認識され、その出所につき具体的な出所の混同のおそれが生じるものである。
したがって、被請求人の出所の混同の可能性についての主張は失当であるといわざるを得ない。
(イ)判例の援用等について
被請求人は、判例の援用(甲第52号証ないし甲第55号証)について、本件商標と使用標章とは係争事案を異にする旨主張しているが、両商標の関係と何ら異なるところはない。また、他の事件における拒絶査定の援用について、その適否につき縷々述べているが、2文字であれ3文字であれ語頭部分の重要性が増してきていることを請求人が自己に有利に援用することに何ら問題はないものと思料する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のとおりに述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第19号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
本件商標と引用登録商標とは、外観、称呼及び観念において、非類似の商標である。
(1)外観について
(ア)本件商標と引用登録商標は、構成文字を異にし、文字の形態が細ゴジック体か大ゴジック体か、行間隔が空いているか空いていないか等が悉く相違しており、一見して顕著に相違し、外観上非類似である。
(イ)この点、請求人の主張は、僅かに、2段に左横書きした部分において類似していることを説明したにすぎない。また、続いて「…「L」と「R」の相違を有するものの、一般的な日本人においては「L」と「R」の発音が明瞭に区別できないため、いわゆる離隔観察した場合、欧文字表記における前半部分の文字構成のうち、当該文字部分の相違は需要者において殆んど認識されないものと解される。」と説明しているが、これには、外観類似の説明と称呼類似の説明とが入り交じり、請求人独自の見解を主張したにすぎない。
(ウ)更に、「…欧文字の構成部分においては6文字中4文字を共通にしていることから、構成上の共通性が認められる。そして後述するように「ハルナール」が薬剤の分野において周知・著名性を獲得していることから、具体的な出所の混同を防止する観点、さらに、近年、類似医薬品名による医薬品の取り違えによる医療事故が社会問題化しており、それを防止する観点からも、一般の商標の類否判断に比して医薬品という商品分野においては、より類似の範囲を拡大して考えるべきである。」と説明しているが、「ハルナール」が薬剤の分野において周知・著名性を獲得しているのであれば、一般の取引者、需要者は、二段横書きされた「ハルナール」と「HARNAL」(以下「ハルナール/HARNAL」と略記することがある。)とを一連一体に認識しているものであり、外観の説明において、この商標を見るとき、前半部分の「ハル」と「ナール」とに分けて観察したり、欧文字の「R」と「L」の発音を主張したりすることには理論の一貫性がなく、請求人独自の見解を主張しているにすぎない。
(2)称呼について
(ア)本件商標は、その構成文字から「ハルタム」の4音構成からなる自然な称呼を生ずるものであって、これが比較的短い構成にあり、淀みなく一気に称呼されるものであるのに対し、引用登録商標は、その構成文字から「ハルナール」の長音を含め5音構成からなる自然な称呼を生ずるものであって、淀みなく一気に称呼されるものである。
そこで、両商標の称呼について比較すると、両者の差異音である、前者の「タ(ta)」、「ム(mu)」は短音に聴取され、後者の「ナ(na)」、「ー(a)」、「ル(ru)」は平坦音に聴取される等、顕著な発音上の相違は、それぞれを一連に称呼した場合には、語韻、語調を異にし、聴者は明瞭に聴取できるものであるから、本件商標の「ハルタム」と引用登録商標の「ハルナール」とは称呼上非類似の商標である。
(イ)請求人は、本件商標「ハルタム」と引用登録商標「ハルナール」について、それぞれを前半部分「ハル」と後半部分「タム」と「ナール」とに分けているが、その分けている理由の説明がなく、その理由として、前半部分の「ハル」又は「タム」と「ナール」にまつわる語が、化学名又はその接頭語である等の特殊な事情がある場合は分断するとしても、両者には、前記のような特殊な事情もない。さらに、「ハルナール」の周知・著名性をして、また、具体的な出所の混同を防止する観点及び近年の類似医薬品名による医薬品の取り違えによる医療事故を防止する観点からも、一般の商標の類否判断に比して医薬品という商品分野においては、より類似の範囲を拡大して考えるべきである旨主張しているが、商標「ハルナール」が薬剤の分野において周知・著名性を獲得しているのであれば、取引者・需要者がこの商標に接するときは、「ハルナール/HARNAL」と一連一体に認識するのが通常であるから、「ハルナール」と称呼されると考えるのが自然である。また、「…薬剤等の商標として、「ハル」の音で始まるものは少数であり、…請求人の製造・販売する商品「前立腺疾患治療剤」に使用する使用標章を連想させ、…彼此相紛らわしい商標である」旨の主張は、重要な部分ではあるが、商標法第4条第1項第11号の問題ではないから、同第15号の項で反論する。
(3)観念について
本件商標は、特定の意味を有しない創造語であり、これに対する引用登録商標も創造語であると思われるが、仮に観念があるとしても、「ハルナール/HARNAL」から「春なーる」を観念し「春になる」を直観し得るものであり、この点を勘案しても、観念上区別できる非類似の商標である。
2 商標法第4条第1項第15号について
本件商標「ハルタム/HALTAM」を「薬剤」に使用しても、請求人の製造・販売に係る商品「前立腺疾患治療剤」に付される使用標章「ハルナール」とシリーズ商標若しくは姉妹品であるかの如く出所につき誤認混同を生じないから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に該当しないものである。
(1)使用標章は、甲各号証から請求人の業務に係る商品「前立腺疾患治療剤」に付され周知・著名であることは認められるとしても、本件商標と引用登録商標とは、外観、称呼については、前記説明のとおり相違し、観念においても非類似の商標である。
たとい、前半の「ハル」の2音を共通にしても、その2音が指定商品「薬剤」との関係において特殊な事情(化学名若しくはその接頭語である等)になく、それぞれの商標を分断する特殊な事情もない。
(2)「薬剤」等の商標として、語頭に「ハル」を有する商品名が医薬品集に収載されている商品を次に示すと、「一般薬 日本医薬品集/2004-05」(乙第5号証)には、「ハルンケア」、「はるかぜ」、「ハルトかぜハップ」の3件が掲載され、「日本医薬品集 医療薬 2006年版」(乙第6号証)には「ハルシオン」、「ハルシノニド」、「ハルスロー」、「ハルタム」、「ハルトマン」、「ハルナール」、「ハルニンコーワ」、「ハルバーン」、「ハルラック」、「ハルーリン」、「ハルンナート」の11件が掲載されており、これらは医薬品として販売されている(医薬品要覧 第5版(平成4年4月30日発行:乙第7号証)、語頭「ハル」の2文字を有する薬剤の一覧表(乙第8号証)、「ハルンケア」内服液のパンフレット(インターネット情報:乙第9号証)、最近の新薬/薬事日報版 '84/35集(乙第10号証)、南山堂 医学辞典(1986年2月25日10刷発行:乙第11号証)、特許庁情報「IPDL」で調査した商標「ハルンケア」登録第4503826号、「ハルシオン」登録第1386068号、商標「ハルタム」登録第4664038号、商標「ハルナール」登録第2195341号、商標「ハルバーン」登録第1947711号、商標「ハルラック」登録第2323965号、商標「ハルーリン」登録第3371183号及び商標「ハルンナート」登録第4791617号(乙第12号証ないし乙第19号証)を参照。)。
(3)そうすると、請求人の「ハルナール」より先に市販されており、周知著名となっている「ハルシオン」とは、そのシリーズ商標若しくは姉妹品として、また、乳酸リンゲル液「ハルトマン」が、一般名で周知著名であり、後に発売された「ハルナール」とは、それぞれ請求人の主張を借りると、その商品の出所につき、混同を生じさせるおそれのある彼此相紛らわしい商標であるということになる。
3 判例の援用等について
(1)請求人の援用する判例(甲第52号証ないし甲第55号証)について検討すると、平成16年(行ケ)第341号(甲第52号証)判決では、「本件商標と引用商標の類似性の程度、引用商標の著名性の程度や、さらには「メバラチオン」と「メバロチン」は識別コードの数字部分が同一であること(乙17)などに照らすと」等と条件が付されているのに対し、本件の場合は、その条件のうち、使用標章の著名性については認められるとしても、他の条件である本件商標と引用登録商標とが、上述のとおり、外観、称呼及び観念の何れにおいても非類似の商標であり、識別コードも同一でなく、事案を異にし、その判示事項を援用するに値しない。また、これら判決の要旨は、それぞれの判決の対象となる商標が異なると同様にその要旨も異なるが、「メバロチン」が、平成元年に市販される以前に医薬品としては「メバポン」の1件しかなく、「メバロチン」の市販の翌年には市場から消えており、判決の対象となった後発品が市場に参入する平成15年までは「メバ」の付く医薬品は存在していないのに対し、「ハルナール」が市販された前年には、「ハルシオン」と「ハルシノニド(一般名)」、「ハルトマン液」、「ハルニンコーワ」、「ハルバーン」、「ハルミゲン」といった多数の「ハル」の付く医薬品が市販されており、明らかに事案の異なるものである(乙第7号証)。
そして、上記4件の事案は、「メバロチン」に対して「メバスタン」、「メバスロリン」、「メバラチオン」及び「メバロカット」と何れも少なくとも3音を共通にするところ、本件は「ハルナール」と「ハルタム」の語頭2音を共通にするとしても、両者の外観、称呼及び観念においては非類似であり、商標も異なることから事案を異にするものである。
しかして、援用の判決4件の何れにおいても、語頭「メバ」を要部であると認定しているものはなく、この点を述べる請求人の主張は妥当でない。
(2)他の事件における拒絶査定(甲第56号証)の援用についても、請求人は、「新規承認医薬品名称類似回避フローチャート」に関する厚生労働省医薬食品局安全対策課の事務連絡(甲第51号証の1)及び厚生労働省医薬食品局審査管理課長の「医療用後発医薬品の承認申請にあたっての販売名の命名に関する留意事項について」(薬食審査発第0922001号:甲第51号証の2)を援用している。しかし、審査官も語頭3文字を対象とし、厚生労働省医薬食品局安全対策課からの販売名の承認審査においての基準は、先頭3文字であり、本件場合とは、事案を異にし、援用し得ないものである。

第5 当審の判断
請求人が商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反して登録されたものであるとして、商標法第46条第1項第1号により、無効とすべきであると求めている本件商標は、上記第1のとおり、「ハルタム」と「HALTAM」の文字を二段横書きし、平成14年6月27日に登録出願され、第5類「薬剤」を指定商品として、同15年4月18日に商標権の設定登録がされたものである。
他方、請求人が引用する引用登録商標及び使用標章は、上記第2のとおり、前者が「ハルナール」と「HARNAL」の文字を二段横書きし、昭和62年12月18日に登録出願され、第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤、医療補助品」を指定商品とするものであり、同じく、後者が請求人の業務に係る商品「前立腺疾患治療剤」に付されて1993年に発売されて以来、継続して使用されている「ハルナール」及び「HARNAL」又は「Harnal」である。
ところで、最高裁判所の昭和39年(行ツ)第110号判決(昭和43年2月27日)によれば、「商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。」と判示されている。また、同じく、平成10年(行ヒ)第85号判決(平成12年7月11日)によれば、商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る…商品と混同を生ずるおそれがある商標」には、「当該商標をその指定商品に使用したときに、当該商品が他人の商品に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして、上記「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品と他人の業務に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。」と判示されている。
1 本件商標と引用商標との類否について
(1)本件商標について
本件商標の構成は、片仮名文字「ハルタム」及び欧文字「HALTAM」からなり、それぞれ同じ書体、同じ大きさで、等間隔に上下二段に表されており、構成各文字は外観上、一体に看取し得るものであって、これより生じる称呼は「ハルタム」であり、医薬品名というほかは特定の意味合いを生ずることのない造語といえる。
(2)引用商標(引用登録商標及び使用標章)について
他方、引用登録商標の構成は、片仮名文字「ハルナール」及び欧文字「HARNAL」からなり、それぞれ同じ書体、同じ大きさで、等間隔に上下二段に表されており、構成各文字は外観上、一体に看取し得るものであって、これより生じる称呼は片仮名文字に照応して「ハルナール」というのが自然であり、請求人の業務に係るメジャーな薬剤「前立腺疾患治療剤」の医薬品名というほかは特定の意味合いを生ずることのない造語といえる。また、該医薬品に係る使用標章は、これらに加え「Harnal」の使用が認められ、引用登録商標と同様の称呼及び観念が生じるということができる。
(3)両商標の類似性について
(ア)外観について
本件商標と引用登録商標(使用標章)の構成文字、すなわち外観についてみるに、いずれも構成文字数が多分になるものでなく、視覚上、両者の片仮名文字部分における後半の「タム」と「ナール」との差異は容易に識別でき、また、欧文字部分における後半の「LTAM」と「RNAL(rnal)」は、ともに4字中の3字の綴り字を異にし、その識別は容易であるということができる。
してみれば、本件商標と引用商標は、語頭からの「ハル」と「HA(Ha)」及び後半の「A(a)」とを同じくするとしても、構成後半の綴り字の差異から全体の視覚印象を異にし、両者を見誤るおそれはなく、本件商標と引用登録商標及び使用標章とは外観上、類似しないものである。
(イ)称呼について
本件商標より生ずる「ハルタム」の称呼と引用商標より生ずる「ハルナール」の称呼とを比較するに、両称呼は、前者が4音構成、後者が5音構成からなり、第3音以下の「タム」と「ナール」の差異を有するものであり、比較的短い音構成にあるその差異が両者の全体の称呼に及ぼす影響は大きいものであって、かつ、造語よりなる両称呼の発音において、そのアクセントの位置が固定されるものでもない。してみると、両称呼は、語頭からの2音「ハル」の音を同じくするとしても、両者の「タム」と「ナール」の音は明瞭に聴取され、両者をそれぞれ一連に称呼するも、全体の語調、語感が相違し、互いに聴き誤るおそれはないものと判断し得るものである。そうすると、本件商標と引用登録商標及び使用標章とは称呼上、類似しないものである。
(ウ)観念について
本件商標と引用商標とは、医薬品名というほかは特定の意味合いを生ずることのない造語であるといえるから、観念において比較することができず、相紛れるところはなく、本件商標と引用登録商標及び使用標章とは観念上、類似しないものである。
(エ)その他の類似性について
請求人は、医薬品における使用標章「ハルナール」の具体的な取引状況や類似医薬品名による医薬品の取り違えによる医療事故の事象等をもって、一般の商標の類否判断に比して医薬品の分野においては、より類似の範囲を拡大して考えるべきであるとし、また、本件商標と引用登録商標が薬剤について使用される場合には、その構成中の「ハル」の文字部分が自他商品の識別力を果たす最も重要な部分というべきものである旨述べている。
しかし、本件商標と引用登録商標及び使用標章の各構成中、片仮名文字と欧文字とが別個に把握され、取引に資される場合があるとしても、それぞれの構成各文字は一体に看取し得るというのが自然であり、殊更、両商標構成文字中から「ハル」文字のみを分離・抽出して観察しなければならない格別の理由は、たとい前記の点や後述のような具体的な取引状況を考慮しても存しないというべきである。そして、もとより商標の類否判断は、両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって判断すべきものであり、医薬品の商取引分野においてのみ、これを特化すべき事由があるということはできない。
(4)まとめ
そうすると、本件商標と引用登録商標及び使用標章とは、その称呼、外観及び観念のいずれの点においても、非類似の商標というべきものであり、その他、両商標が相紛れるおそれがあるものとする理由は見当たらない。
2 出所混同のおそれについて
甲第5号証ないし甲第39号証によれば、請求人(合併前「山之内製薬株式会社」)は、使用標章を本件商標の登録出願前から、商品「前立腺疾患治療剤」に使用していること、また、これを医薬品を取り扱う業界関連の雑誌等に宣伝広告をしていることが認められる。そして、当該商品の売上高、市場占有率、広告宣伝費等よりすれば、請求人の使用標章は、本件商標の登録出願時には医薬品に係る取引者及び需要者(主に医療従事者や当該疾病患者)間において広く認識され、周知・著名な商標に至っていたものであり、その周知・著名性は本件商標の登録査定時においても継続していたと認め得るものである。しかしながら、使用標章を構成する「ハルナール」、「HARNAL」又は「Harnal」の各構成文字は、その綴り字の全体をもって、当該取引者及び需要者間に広く知られるに至っていると認められるものであり、使用標章が語頭の「ハル」、「HAR」又は「Har」のみをもって、略記あるいは略称されている事実は認められず、当該語頭部分によって広く認識されるに至っていると認めるに足りる証拠はない。
また、請求人が述べるように、医療用医薬品である当該商品「前立腺疾患治療剤」の流通経路は、医師により処方され、薬剤師等が需要者(当該疾病患者)に供するものであって、近時では薬剤師により「商品名」「効能・効果」「用法・用量」及び注意事項等が説明され、その説明書とともに手渡されれるものであって、一般の薬局・薬店で販売される薬剤とは、自ずとその流通経路を異にするといえる。
そうすると、当該医療用医薬品に使用する使用標章の著名性、当該医療用医薬品の売上高やその医薬品取引の実情等を考慮するとしても、本件商標は、前記2のとおり、使用標章とは非類似の商標であり、また、その構成文字の一部にすぎない「ハル」の文字部分が共通することをもって、使用標章と関連付けるのは困難というほかなく、結局、本件商標と使用標章とは、別異の商標と看取、認識されるから、被請求人が、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者及び需要者をして、請求人の使用標章を連想又は想起させるものとはいい難く、また、当該商品が請求人又は請求人と経済的、組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について誤認、混同を生ずるおそれはないというのが相当である。
3 結語
以上のとおり、本件商標は、引用登録商標及び使用標章と類似するものでなく、かつ、その出所について誤認し混同を生ずるおそれはないから、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反して登録されたものとすることはできない。したがって、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-02-05 
結審通知日 2007-02-08 
審決日 2007-02-20 
出願番号 商願2002-53575(T2002-53575) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (Y05)
T 1 11・ 26- Y (Y05)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 高野 義三
特許庁審判官 鈴木 新五
山口 烈
登録日 2003-04-18 
登録番号 商標登録第4664038号(T4664038) 
商標の称呼 ハルタム 
代理人 橘 哲男 
代理人 大岡 啓造 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ