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審判番号(事件番号) データベース 権利
取消200030611 審決 商標
取消200431333 審決 商標
取消200431332 審決 商標
取消200431335 審決 商標
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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 117
管理番号 1155533 
審判番号 取消2004-31331 
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2004-10-08 
確定日 2006-02-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第1152746号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1152746号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1152746号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲Aに表示した構成よりなり、昭和47年4月11日に登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同50年9月11日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第48号証(枝番を含む。)及び検甲第1号証ないし検甲第8号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標に係る商標権者は、故意に指定商品についての登録商標に類似する商標の使用であって、他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたため、商標法第51条第1項の規定により、その登録を取り消すべきである。その具体的な理由は以下のとおりである。
(1)被請求人が指定商品に使用する使用商標
(ア)被請求人は、請求人との間で昭和51年(1976年)9月23日付の請求人の商品化事業に関連するライセンス契約、即ち、ベアトリックス・ポターが創作したピーターラビットという名のうさぎを主人公とする「ピーターラビットのおはなし」を始めとする一連の絵本に登場するキャラクター及びそのキャラクターの名称を用いた商品化事業に関するライセンス契約(以下「第1ライセンス契約」という。)を締結した。
この第1ライセンス契約は、昭和62年(1987年)9月30日付の新契約(以下「第2ライセンス契約」という。)に改訂され、第2ライセンス契約は、平成11年(1999年)10月19日に終了した(甲第14号証ほか)。
さらに、第2ライセンス契約に基づく在庫品売り切り期間も平成12年(2000年)1月19日に終了し、以後、被請求人と請求人との間にはライセンス契約は一切存在しない(甲第14号証21頁、甲第15号証32頁、甲第16号証18頁参照)。
それにもかかわらず、平成12年(2000年)1月20日以降、請求人が行なった調査により明らかになった限りでも、被請求人は請求人の許諾なく別掲Bに示す使用商標(1)及び(2)の2種類の商標を指定商品に付し、販売を行なっていた。
(イ)子供被服についての使用商標(1)
検甲第1号証ないし検甲第5号証の「子供用被服」は、2000年3月に被請求人が被請求人の店舗において販売していた商品を請求人が購入したものである(甲第2号証ないし甲第5号証)。これらの「子供用被服」には、織りネーム及び吊り札等に使用商標(1)が使用されている。
(ウ)使用商標(1)及び(2)に係る写真撮影
(a)平成12年(2000年)5月23日付の「写真撮影報告書」(甲第6号証)において写真撮影された「タオル」、「子供用被服」等についての被請求人による使用商標(1)及び(2)は、撮影当時、被請求人のライセンシーであるコピーライツ ジャパン株式会社のジェネラルセールスマネジャーであった松宮克昌氏が、平成12年5月12日及び同19日に被請求人の販売店である「横浜ファミリア」(横浜市中区本町2-89)、「港北東急ファミリア」(横浜市都筑区茅ヶ崎中央5-1)、「ファミリア銀座本店」(東京都中央区銀座5-7-10)及び「ファミリア日本橋高島屋店」(東京都中央区日本橋2-4-1)の店舗内で陳列されている商品の写真撮影(撮影者は別)を行なった結果を報告するものである。
(b)この報告書の写真(3)、(4)、(6)、(10)、(14)、(15)等のタオルのうち、3本の横線と4本の縦線により20に区分けされた四角形の中にそれぞれ「うさぎ」、「シュガーポット」等の図形と「E」と「A」の中棒線を波打たせる特徴的なデザインの「P」「E」「T」「E」「R」「R」「A」「B」「B」「I」「T」の文字を配置し、その外側を幅広線による四角形で囲ったデザインが付された「タオル」に使用商標(1)が被請求人によって使用されている。
これらの写真において、被請求人の商品と請求人の正規ライセンシーの商品が混在して商品展示されていることは明らかである。
(c)更に、報告書の写真(1)には、片仮名による表示部分がなく、かつ、「PETER」と「RABBIT」の間に1文字分のスペースがあり、「A」の文字が「E」の文字と同様に中棒線を波打たせ、「RABBIT」の「R」の右はらいが長い特徴的なデザインにより一段書きされた、使用商標(2)が付された木製の壁掛が店内の壁に掲げられている。この壁掛は、被請求人が以前、請求人の正規ライセンシーであったときに販促用に使用していたものである。
(d)また、同年5月18日付のビデオ撮影報告書(甲第9号証)において、撮影された被請求人の商品展示の状況と「子供用被服」、「タオル」等についての被請求人の使用商標(1)及び(2)の使用を示す。該ビデオ撮影報告書は、溝渕芳樹氏が平成12年5月16日及び同17日に、被請求人の販売店である「ファミリア銀座本店」ほかの店舗内で陳列されている商品のビデオ撮影を報告するものである。
(2)使用商標(1)及び(2)は本件商標と類似する
本件商標の指定商品について、被請求人が使用する使用商標(1)及び(2)を構成する「PETER RABBIT」は、「PETER」と「RABBIT」の間に1文字分のスペースがあるが、本件商標を構成する「PETERRABBIT」の「PETER」と「RABBIT」の間に1文字分のスペースはなく、欧文字が略等間隔に配置され一段書きである。また、使用商標(1)及び(2)の「E」と「A」は、中棒線を波打たせた特徴的なデザインである点及び使用商標(1)及び(2)を構成する欧文字はレタリング手法により各欧文字のストロークの終焉には「ひげ」がある点において、本件商標と相違するため、使用商標(1)及び(2)と本件商標とは同一ではない。
さらに、使用商標(1)及び(2)は、欧文字のみの一段書き商標であるが、本件商標は、欧文字と「ピーターラビット」の片仮名文字の二段書きの商標である。なお、使用商標(2)は、「RABBIT」の「R」の右はらいが長い特徴的なデザインの有無において相違する。
したがって、使用商標(1)及び(2)と本件商標とは同一でないが、「ピーターラビット」の称呼は同一であるから、使用商標(1)及び(2)は本件商標と類似するものである。
(3)請求人等の業務に係る商品との混同
(ア)別掲Cに示した請求人標章(1)ないし(3)は、請求人及び請求人グループの周知著名な商標及び商品等表示である。
このことは、東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)平成12年(ヨ)第22063号不正競争仮処分申立事件の決定(甲第14号証、以下「仮処分決定」という。)、及び東京地裁平成12年(ワ)第14226号不正競争行為差止等請求事件、東京地裁平成14年(ワ)第4485号不正競争行為差止請求権不存在確認等請求事件(甲第15号証)、並びに東京高等裁判所(以下「東京高裁」という。」平成15年(ネ)第831号不正競争行為差止等、不正競争行為差止請求権不存在確認等請求控訴事件(甲第16号証)の判決(以下、両判決を併せて単に「判決」という。)において、「争いのない事実等」として以下のように記載されている。
すなわち、請求人は、ベアトリックス・ポターが創作したピーターラビットという名のうさぎを主人公とする「ピーターラビットのおはなし」を始め、一連の絵本の出版を1901年に開始し、1903年にはピーターラビット人形について英国特許を取得して、ピーターラビットの商品化事業を開始した。
その後、請求人は日本を含む全世界においてピーターラビットの商品化事業の拡大を図り、現在請求人の商品化事業のライセンシーは350社を数え、年間ロイヤリティは1400万ドル、日本におけるライセンシーの数は平成12年現在47社、平成10年度の年間ロイヤルティは約8億4000万円に上っている。なお、請求人の商品化事業の領域は、金融、アパレル、日用品等極めて広い業種にわたっており、かつ、地理的にも日本全国に及んでいる(甲第21号証参照)。
そして、第2ライセンス契約が締結された昭和62年ころには、請求人及び請求人の商品化事業に関してライセンス契約を締結しているライセンシーで構成されるグループ(以下「請求人グループ」という。)の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識された商品表示となっており、この点は現時点においても同様である(甲第14号証の仮処分決定11頁並びに甲第15号証19頁及び甲第16号証11頁の判決参照)。
また、甲第17号証のピーターラビットに関するマーケティングデータに記載されたキャラクター認知度調査においても、ピーターラビットは、ミッキーマウス、スヌーピー等世界的によく知られているキャラクターと同様に広く知られているとの結果が出ており、この点は上記仮処分決定及び判決においても認められている。このように、請求人標章(1)ないし(3)は、請求人及び請求人グループの周知著名商標及び商品等表示となっている。
加えて、前記の仮処分決定及び判決の内容は、最高裁判所の決定により確定したため、上記請求人標章(1)ないし(3)が請求人及び請求人グループの周知著名な商品等表示及び周知著名商標であることは確定した事実と考えるべきである。
(イ)上述の通り、被請求人は請求人とのライセンス契約が終了したにもかかわらず、引き続き、被請求人が正規ライセンシーであった時に使用していた請求人及び請求人グループの周知商品等表示である請求人標章(1)及び(2)と同一又は実質上同一である使用商標(1)及び(2)を、請求人及び請求人グループの商品化事業においてライセンス契約を締結している商品である「子供用被服」、「タオル」に付して販売していた。
加えて、被請求人は広告宣伝物として請求人の正規ライセンシーであった時に使用していた使用商標(2)が付された壁掛や看板をライセンス契約が終了した後もそのまま継続して使用していた。
このような行為は、誤認混同惹起行為として極めて悪質であり、需要者は、被請求人が未だ請求人及び請求人グループの一員であると誤認し、商品の出所について混同を生ずることは明白である。
(4)被請求人の故意について
(ア)被請求人と請求人との間で締結された第1ライセンス契約及び第2ライセンス契約が終了し、第2ライセンス契約に基づく在庫品の販売猶予期間も平成12年1月19日に終了し、以後、被請求人と請求人との間にはライセンス契約は一切存在しない。
このように、被請求人は過去において請求人グループの一員であったのであるから、請求人及び請求人グループの周知商品等表示である請求人標章とほぼ同一及び類似する使用商標(1)及び(2)を使用した場合には、請求人及び請求人グループの商品と混同を生ずることにつき十分に認識をしていたはずである。
(イ)また、請求人は、被請求人が使用商標(1)及び(2)を使用した商品を販売することは不正競争防止法違反である旨を指摘して、かかる商品の販売中止を要請する通知書を平成12年2月24日及び同年3月17日に送っている(甲第22号証及び甲第23号証)。
したがって、少なくともこの通知書の日付以降、被請求人が使用商標(1)及び(2)を使用して商品を販売した場合には、請求人及び請求人グループの商品と誤認混同されるおそれがあることを十分に認識していたといえる。
2 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)請求人が提出した写真・ビデオテープについて
(ア)被請求人は、請求人提出の写真・ビデオテープは(a)撮影時期が限定され、態様・内容が不明で一方的である、(b)違法収集証拠であるから証拠能力がない旨主張しているので、以下、反論する。
(a)について
写真・ビデオテープの撮影時期は妥当であり、撮影態様・内容にも客観性があるから証拠として全く問題がない。
提出した写真及びビデオテープの撮影時期(平成12年3月9日から同年7月18日及び平成13年1月26日から同年2月7日)は、いずれも請求人と被請求人との間の第2ライセンス契約が終了した平成11年10月19日からは約5ヶ月ないし約1年4ヶ月も経過した時期である。
また、契約の終了に伴い定められた在庫品の売り切り期間の満了日である平成12年1月19日からも約2ヶ月ないし約1年1ヶ月経過している。
この時点において、被請求人が請求人のライセンス商品の販売等をする法的根拠は全くない。
したがって、写真・ビデオテープの撮影時期には全く問題はない。
なお、被請求人は、被請求人の指示が末端まで確実に周知・徹底されていなかったこと、請求人との間の第1ライセンス契約及び第2ライセンス契約の締結により20数年の間請求人の商品を販売していたこと、これまでの取扱商品品目が多数であったこと等を理由に、写真・ビデオの撮影時期について不服を述べるが、極めて不合理で、説得力のない反論である。
また、請求人は、前述のとおり、被請求人に対して平成12年2月24日付け及び同年3月17日付けで2度に渡り内容証明郵便により通告書を送り、商品の販売を中止すること等を強く求めたことを考慮すれば、売り切り期間の満了日から既に2ヶ月近く経過した後である撮影時期に問題がないことは明白である。「指示が末端まで確実に周知・徹底されていなかったことなどもあり…なにげなく残っていた並行輸入品と同じ場所で被請求人の商品をディスプレイしたに過ぎない。」とする被請求人の弁明は空虚という他ない。
さらに、被請求人は限られた店舗の限られた状況の、しかも極く一部の限られた商品についてだけ請求人が撮影した、と主張するが、仮にそれが限られた店舗で限られた状況において、限られた商品においてであっても、「故意に指定商品についての登録商標の使用であって、他人の業務に係る商品と混同を生ずるものとしたとき」には商標法第51条第1項の要件を充たすのであるから、被請求人の主張は意味がない主張である。
また、被請求人の約200店舗全てにおいて撮影することは必要がないだけでなく、現実的にも事実上不可能である。主要な店舗を9店舗も調査すれば調査対象数としては十二分であろう。
なお、請求人が証拠として提出した写真は、いずれも仮処分決定及び判決において証拠として採用されており、その結果、被請求人による不正競争行為が認定されている(甲第14号証の仮処分決定、甲第15号証の判決16頁、21頁、甲第16号証の判決11頁)。
以上から、請求人の提出する写真・ビデオテープの撮影態様、撮影内容は客観的、かつ明確であり、これら証拠の証拠能力及び証明力に全く問題のないことは明らかである。
(b)について
被請求人は、違法に収集された証拠には証拠能力がなく、請求人提出の写真及びビデオテープは違法収集証拠であると強弁する。
しかし、請求人が提出する写真・ビデオテープは、違法収集証拠として排除されるべきではなく、証拠能力が認められる。
証拠能力が争われた多くの判例は、原則的にその証拠能力を肯定し、例外的に当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的、肉体的自由を拘束するなどの人格権侵害を伴なう方法によって採集されたものであるとき等に限り、その証拠能力を否定している(名古屋地判平成15年2月7日ほか 甲第24号証ないし甲第27号証)。
なお、写真及びビデオテープの「証明力」が低いと主張するが、写真等については撮影者名、撮影日時、撮影場所が明示されており、対象物も明確に撮影されている。
(イ)別件の不使用取消審判において被請求人が提出した証拠
今回、別の6件の不使用取消審判(取消2004-31593ないし取消2004-31598。以下「別件不使用取消審判」という)において被請求人が提出した証拠(甲第47号証)から、被請求人による本件登録商標の新たな不正使用の事実が判明したので、これらを証拠として追加する。
該証拠は、まさしく被請求人による不正使用の事実を立証するものであるが、被請求人は、吊り札等において「この商品は(株)ファミリアのオリジナル商品です。ウォーン社とは一切関係ありません」等と記載していることから、誤認混同及び故意を否認して争うことが予想される。
しかしながら、確定した前記の東京高裁判決(不正競争行為差止等、不正競争行為差止請求権不存在確認等請求控訴事件 東京高裁平成16年3月15日判決、甲第16号証25頁)で述べているように、誤認混同及び故意はかかる記載があっても十分に認められる。
(2)出所の混同・誤認はない、との主張
被請求人は、使用商標(1)及び(2)の指定商品への使用は「広義の混同」はともかく、「狭義の混同」は生じないから出所混同・誤認はない、と主張し、また、「具体的混同の事実」が立証されていないため、出所混同・誤認はない、とも主張する。
しかしながら、判例によれば、出所混同には「狭義の混同」(商品等の出所について請求人に係るものであるかのように誤認混同を生じさせる場合)のみならず、「広義の混同」、即ち、請求人と経済的若しくは組織的に何等かの関係がある者の商品等であるかのように出所について需要者及び取引者に誤認混同を生じさせる場合も含まれるとされている。
また、出所の混同は、商標法の需要者利益の保護の目的に鑑み「具体的混同の事実」を示すことは要件ではなく、「具体的混同が生ずるおそれ」があれば該当するとされている(東京高裁判決平成10年6月30日及び東京高裁判決平成10年7月21日(甲第20号証))。
なお、出所混同について「広義の混同」が含まれること、及び「具体的混同の事実」は要件ではないこと、については上記判例のみならず、被請求人代理人である小野昌延弁護士が執筆された論文や書籍を含む諸学説においても一致した見解である(甲第29号証ないし甲第31号証参照)。
さらに、被請求人は20年という被請求人の登録商標の登録年月の長さを理由に、被請求人が保有してきた商標登録を取り消すことは許されない旨述べるが、保有年月の長さにかかわらず、商標法第51条第1項に該当する商標の使用をした場合には、商標法の需要者の利益保護の目的に照らし、かかる商標登録は取り消されて然るべきである。したがって、このような被請求人の主張も失当である。
(3)求釈明事項について
被請求人は、以下の事項について釈明を求めているので回答する。
(ア)求釈明事項1 「請求人グループ」について
「請求人グループ」とは、仮処分決定及び判決で認定されているように、
請求人及び請求人の商品化事業に関してライセンス契約を締結しているライセンシ-等で構成されるグループをいう(甲第14号証の11頁ほか)。
(イ)求釈明事項2 「周知著名の対象」
請求人は、請求人標章が請求人の商品化事業にかかる商品について周知著名であると主張しているのであり、請求人標章の周知著名性は前述の仮処分決定並びに判決によって認められている。
世人の認識は、その周知著名な標章を使用する正当な権利を持つ者が存在するという点があればよく、「請求人」又は「請求人のライセンシーグループ」の名称を具体的に認識する必要はない。
(4)不正使用の「故意」がないとの主張
被請求人は、商標法第51条第1項の要件である「故意」について、被請求人に「不正競争目的」のないことや「主観的意図」のないことを理由に、「故意」の成立を否定する。
しかしながら、判例によれば、商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を指定商品等に使用し、その使用の結果、商品等の品質誤認や他人の業務にかかる商品等と混同を生じさせることを認識していれば、商標法
第51条第1項の「故意」の要件を満たすとされている(最判昭和56年2月24日(甲第37号証)、東京高判平成10年6月30日(甲第20号証))。また、この「故意」の要件としては、「不正競争の目的」や他人の登録商標に近似させたいとの「主観的意図」は必要とされない。
なお、「故意」の要件に「不正競争の目的」や「主観的意図」が必要のないことについては判例のみならず、被請求人代理人である小野昌延弁護士が執筆された論文あるいは著作を含む諸学説においても一致した見解である(甲第29号証ないし甲第34号証参照)。
また、判例の中には、商標が周知である事実を総合して故意と推認している事案が多数存在する。本件においても請求人標章は、既に周知商品等表示となっており、直前まで請求人のライセンシーであった被請求人は当然にそのような事実について知悉していた。
したがって、被請求人が使用商標(1)及び(2)を指定商品に使用し、その使用の結果、請求人及び請求人のライセンシーグループの商品との間に出所の混同が生ずることを当然に認識していたと推認される。
なお、「混同危険商標の使用廃止を要求したのに、そのままの使用継続をした場合などは、故意の典型である。」とされている(小野昌延 商標法概説第2版441頁(甲第29号証))。
本件においては、前述のとおり、請求人が使用の中止を求める通告書を内容証明郵便にて、二度も送ったにも関わらず、被請求人は使用を継続したものである。被請求人は「何げなく」使用を継続したものではなく、本件はまさに「故意」のある典型と評価すべきであろう。
(5)請求人の使用する標章は不統一である、との主張
本件審判は、仮処分決定や確定した判決で認定された周知著名な請求人標章(1)ないし(3)を明確に特定しており、別途請求人に例外的な使用態様の標章があっても、本件審判の対象とは関連がない。
(6)結語
以上のとおり、本件商標登録にかかる商標権者は、故意に指定商品についての登録商標に類似する商標の使用であって他人の業務にかかる商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたため、商標法第51条第1項の規定により、その登録を取り消すべきである。
よって、請求の趣旨の通りの審決を求める。

第3 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その答弁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第27号証(枝番を含む。)を提出した。
1 はじめに
本件は、ベアトリクス・ポターの絵柄の著作権が本年(平成16年)5月22日に満了し公有財産になるので、請求人は、これを商標権で事実上延長しようとして、契約更新にあたり被請求人に不当な商標権譲渡をせまり、これが拒絶されるや契約を継続することが不可能な契約対象製品の制限をしたことが遠因となって起こった事件である。
請求人は、被請求人が適法に取得保有する本件各商標を何とか無に帰せしめて、商品化事業に名を借りた公共財の事実上の不当な商標の独占を得ようとするものである。
しかしながら、被請求人には本件商標の不正の使用もなければ、何よりも商標法第51条第1項の要件である「故意」もない。
請求人は、不正競争防止法の判決を引用している。しかし、罰則に「故意」は必要であるが、同法第1条第2項第1号には「故意」は勿論、それ以下の「不正競争の目的」という主観的要素もまったく要求されていない。
被請求人は、後述のように本条の要件である混同を生じさせようとする「故意」を強く争うものである。
2 前提事実に関する主張(反論)
(1)請求人と被請求人間の契約内容及び契約名称について
被請求人は、ベアトリクス・ポターの絵柄を用いることを考えて、昭和51年(1976年)9月23日にウォーンと「著作権契約」を結んだ。
この著作権契約は、別件訴訟の判決などにおいて「第1次ライセンス契約」と表記されているが、「著作権契約」とする方がこの契約の名称として正確である。「第1次ライセンス契約」とすると、ときに錯覚を生ずるため、以下、「著作権契約」という。
この著作権契約の内容は、ベアトリクス・ポターの多くの絵本の著作物についての複製、使用を許諾するものである。
その後、この著作権契約は、昭和62年9月30日に「プロパティ契約」に改定された。同契約は、本案訴訟判決などにおいて「第2次ライセンス契約」と表記されているが、「プロパティ契約」とする方が同契約の内容に合致し適切であり、以下、これを「プロパティ契約」という。
なお、本件各商標権については、2つの使用許諾契約の対象からは除かれており、被請求人が商標権者であることは請求人も承知していた。
(2)仮処分取消決定について
請求人は、被請求人の本件各商標権について、東京地裁に処分禁止仮処分の申立を行い、平成12年5月11日に、無審尋で(被請求人に通知されず反論の機会を全く与えること無しに)、その旨の仮処分決定を得た(東京地裁平成12年(ヨ)第22064号)。
その後、請求人は被請求人に対し、不正競争防止法第2条第1項第1号等に基づいて、上記仮処分の本案である本件各商標権の移転登録手続請求などを求める訴えを同裁判所へ提起した(東京地裁平成12年(ワ)第14226号不正競争行為差止等請求事件)。
しかし、同裁判所は、平成14年12月27日に本件各商標権の移転登録手続請求を棄却する判決をした。その後、請求人は、控訴、上告・上告受理申立てを行ったものの、いずれも棄却あるいは不受理とされ、上記東京地裁の判決が確定した。
そして、被請求人のなした「仮処分決定に対する取消の申立」に応じ、同決定は平成16年11月4日に取り消されている(乙第1号証)。
この事件は、不正競争行為禁止という事件の半面のみ一般に知られているが、請求人が本件商標権の実質的所有者であるとか、その譲渡を求める請求は、棄却され確定している事件としては余り知られていない。
以上のように、請求人の本件各商標権の移転請求が認められないことは、判決により確定し、被請求人が本件商標の所有者であることが認容されているのである。
なお、請求人と被請求人が、本件各商標権について交渉を行い、その結果、被請求人が本件各商標権を取得した経緯は、本書末尾添付の「整理表」等のとおりであり、上記判決においても、被請求人の登録出願は冒認でも不当なものでもなく、適法に保有されているとの認定がなされている。
(3)隠し撮りの写真・ビデオについて
請求人は、探偵社や従業員に隠し撮りをさせた写真・ビデオを証拠として提出しているが、これらは手続法上も実体法上も不正使用あるいは混同を生じさせる「故意」の証拠として、安易に採用されるべきではない。
これらの写真等が撮影された時期は、プロパティ契約終了の直後に限られており、さらに撮影内容も限られた態様で被請求人の限られた店舗について一方的に行われただけである。
このような限られた期間、場所だけの一方的な写真等を混在させて主張し、被請求人が広く不正使用している証拠とすることは判断を誤導せしめるものである。以下、撮影時期、撮影態様・内容等について述べる。
(ア)撮影時期
甲第6号証ないし甲第8号証の写真撮影報告書は、その日付を信用したとしても、平成12年5月12日から同年7月18日までに、甲第11号証は、平成13年1月26日から同年2月7日までの別件訴訟の提起時のごく一時期のみに撮影されたものである。
それ以前には、請求人と被請求人の間には、昭和51年に著作権契約、同契約の改定として、昭和62年にプロパティ契約が締結され、20数年の長期にわたり商品が販売されていた。
なお、上記プロパティ契約は、平成11年10月19日に終了し、同契約の在庫品売り切り期間は、平成12年1月19日までであった。
そして、上記写真等は、在庫品売り切り期間が経過した直後のわずか約1年ほどの間のみに撮影されたものである。この時期においては、被請求人の指示が末端まで確実に周知、徹底されていなかったことなどもあり、一部の店舗の限られたスペースでなにげなく残っていた並行輸入品と同じ場所で被請求人の商品をディスプレイしたに過ぎないものである。
過失とか広義の混同はともかく、これを超える出所の混同を生じさせる「故意」などないこと勿論である。ましてや出所の混同を生じさせるための主観的な不正競争目的とか、意図とかは全くない。
そして、それは、被請求人が「故意」に行ったことではなく、強いて言えば過失があっただけにすぎないことも明らかである。なお、「故意」の点については、後に改めて詳述する。
(イ)撮影態様・内容
請求人が撮影を行った店舗は、横浜市内2店舗、東京都内3店舗、さいたま市内1店舗、神戸市内1店舗の合計7店舗だけで、被請求人のオリジナル商品を販売していた直営店、取引先店舗は200店舗あったから請求人の撮影は自己に都合のよい陳列をしていた極く一部の店舗にすぎない。
また、請求人は、被請求人店舗で被請求人商品と請求人商品の並行輸入品が混在して商品展示されていると主張している。
請求人は、被請求人が出所を混同させ、フリーライドしていると言いたい
のであろうが、被請求人にはそのような必要性も意図もなく、並行輸入品をどのように陳列するかについて、陳列すること自体には何ら問題ない。
(ウ)写真、ビデオは違法に撮影された証拠である。
請求人の写真、ビデオは、探偵社や従業員を使用し、被請求人の同意なく都合よく隠し撮りされたものであり、違法収集証拠である。違法に収集された証拠には証拠能力がないこと、少なくとも、証拠能力は限定的で採証するには疑問のある場合のあることは通説である。
また、本案事件の地裁、高裁ではビデオは証拠採用されていない。
3 請求人の申立の理由に対する反論
本件は、商標権者である被請求人が「故意」に自己の登録商標に適宜付記、変更を加えて、他人の商標に出所の混同を生ずるような態様で使用することにより、他人の信用に只乗りしようとするような事案では断じてない。
すなわち、混同を生じさせる「故意」のある悪質な不正使用取消の審判という不正手段に対する制裁規定が課されるような事案ではない。
以下、請求人の申立の理由に即して述べる。
(1)使用について
(ア)使用の事実
前述したように、被請求人は、商標権処分禁止仮処分の決定日の直後、不正競争行為禁止仮処分の決定直前に、被請求人の出店している百貨店を含む直営店のファミリア・ショップからも、オリジナル商品の引き上げを完了し、請求人主張のような本件各商標権の使用を一時的に中止していた。
なお、上記仮処分決定による現実の執行に至った事例は一件もない。現在は被請求人のオリジナル商品の商標のみを、全く広義の混同などと誤解されないような方法で使用しているのである。
請求人は被請求人や売り先の従業員が、なにげなく在庫品売り切り期間終了直後の一時期の陳列の場面をとらえて、出所の混同を意図した「故意」の不正使用であると強弁するものである。
(2)混同について
(ア)請求人又は請求人グループ
請求人は、被請求人の使用標章の指定商品への使用は、請求人等の業務に係る商品と混同を生ずると主張している。
しかしながら、混同の前提となる商品主体である「請求人または請求人グループ」とは、そもそも何人を指称しているのか明らかでなく、その点にっいては、請求人に対し、以下の釈明を求める。
(a)「請求人グループ」とは「コピーライツグルーブ」をいうのか。
(b)請求人は「PETER RABBIT」が有名であると主張しているが、それは公衆の認識する出所である「請求人」または「請求人グループ」も有名であると主張する趣旨か。
なお、請求人のライセンス商品のライセンサー表示から(乙第17号証ないし乙第20号証)、ライセンス商品の出所は、「コピーライツ」または「コピーライツ・グループ」と表示されてきた。
しかし、上記表示により、一般消費者がライセンス商品の出所を「コピーライツ・グループ」と認識し得るとしても、需要者等が実際にライセンサーである「コピーライツ」をどの程度、認知しているかは甚だ疑問である。 むしろ、需要者等は、「コピーライツ」のことをほとんど認知していないのが現実であろう。「コピーライツ・グループ」は、一般消費者には周知でも著名でもなく、出所源として、一般消費者に十分浸透していないのであるから、被請求人の商品と混同することはあり得ない。
(イ)不正使用取消請求における「混同」の意図
請求人は、被請求人がその商標を不正使用したことにより、被請求人が請求人または請求人グループと関係があるとの広義の「混同」を生じるとし、これを生じさせる意図があったとする。
しかしながら、商標法第51条第1項の「混同」は、「狭義の混同」のみをいい「広義の混同」を含まず、請求人の主張する「広義の混同」は、本条項でいう「混同」には該当しないとする有力な考え方がある
すなわち、同法第51条第1項の「混同」は、商品または役務の出所が同一であるとの誤信のことをいい、出所と経済的または組織的に何らかの関係があるとの客観的な誤信(広義の混同)をいうのではないとする考え方である(乙第21号証)。
同条項の「混同」が、狭義の混同をいうとする理由は、同法第51条第1項は、商標権者が誤認混同を生ずる使用を行った場合に、単なる無効を超えて、悪意に対する制裁として、登録商標の取消を規定しているからとするものである。
(3)「ファミリア」の有名性・企業としての性格
被請求人は、1950年(昭和25年)に創業し、創業者一族は銀行の頭取経験者や保険会社の創業者などを輩出し、度々、優良・有名企業として数々の書籍や新聞記事に引用される程の会社であリ、堅実に社業を発展させ日本の超優良会社にリストアップされるなど、極めて我が国でも信用の高い会社である。また、被請求人は、前述したように皇室へも商品を納めている。 被請求人は、商標が登録されている事実だけを奇貨として、本件各商標の表示を変更し、故意に混同をさせるような行為をするような会社では決してない。
(4)まとめ(「故意」について)
前述したように、被請求人に「故意」がないのは明らかである。
すなわち、(ア)被請求人には出所混同や品質誤認を認識して、請求人商品に便乗する必要など全くない。(イ)また、被請求人が出所混同を高める方向に従前の表示を変更したということもない。(ウ)さらに、被請求人商品の品質を従前と変更したということもない。(エ)また、不正使用と請求人が主張している事実が継続しているわけでもない。(オ)請求人提出の写真・ビデオは、一時期の限られた場面のもので、被請求人の従前の取扱品目・取引量と比して、却って、便乗行為などないことを示すものである。(カ)加えて、被請求人の如き規模の組織体にあって、末端の従業員が行っていた通常の何げない販売態様をとらえて、被請求人ぐるみで不正使用を行っていたとすることはむしろ牽強付会である。
これらの諸事情は、いずれも、被請求人に「故意」のないことを推認させるものであり、また、本件が、制裁として登録を取消すに値するような事情にないことも合わせて明らかである。
4 請求人の弁駁に対する答弁
請求人の弁駁に対し、以下のとおり、答弁する。
(1)請求人が提出する証拠の写真・ビデオテープ
請求人は、写真・ビデオテープは証拠として全く問題はなく、違法収集証拠として排除されるべきでなく、証拠能力が認められると主張する。
しかし、この写真・ビデオテープについては、別件訴訟の裁判所においては、事実認定における証拠としては一切採用されていない。
すなわち、混認誤同のおそれを含む事実認定の証拠としては採用されていないことを再度喚起しておきたい。
(2)被請求人の使用商標について
これまで、被請求人は、使用商標が本件商標と類似商標であることを認めているのではなく、同一商標であることを前提に主張している。請求人は、登録商標と各使用商標の些細な違いを指摘しているだけである。
これまでの裁判例において、請求人が指摘するような字体のみの些細な変更を理由に不正使用が認められたことはない。
(3)別件不使用取消審判事件における証拠
請求人は、被請求人が別件の不使用取消審判事件で提出した証拠の一部を提出している。しかし、これらは、最高裁判所判決(甲第18号証、甲第19号証)によって所有を認められた登録商標と同一商標の指定商品についての使用であり、不正使用とはならない。
この点、請求人は、打ち消し表示の有無にかかわらず、被請求人による指定商品への使用商標の使用は、「請求人及び請求人グループの商品であるとの需要者が混同誤認を生じさせるものである」と主張する。
しかし、請求人のこのような主張は、請求人自身が前提としている不正競争行為差止等請求控訴事件(東京高裁平成16年3月15日判決)における判旨とは異なる。
このように、上記判決も、打ち消し表示の具体的態様によっては、混同のおそれを否定する可能性があることも前提として判断し、仮執行の宣言をつけずに判決している。
したがって、請求人の主張のように、打ち消し表示の有無にかかわらず、混同のおそれがあるということはできないはずであり、ましてや害意など全くない。そうすると、打ち消し表示の具体的態様が重要となるのであり、別件不使用取消審判事件における打ち消し表示の具体的態様及び使用状況からすると混同のおそれはない。
(4)請求人に対する求釈明
請求人は、求釈明に対する回答において、「請求人グループ」とは請求人及び商品化事業に関してライセンス契約を締結しているライセンシーで構成されるグループをいい、また、請求人標章が、請求人の商品化事業にかかる商品について周知著名であると述べている。
いずれにしても、請求人標章が請求人の商品化事業の商品について周知であるとはいえない。
(5)「故意」について
請求人は、「過去においてライセンシーであった被請求人が『ピーターラビット』 を指定商品に使用した場合に、請求人及び請求人グループの商品と出所混同が生じることを当然に認識していた」等の主張をしている。
しかし、請求人が挙げる商標法第51条第1項の「故意」の意義についての判例(最判昭56.2.24甲第37号証)では、「商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を使用し、又は類似する商品に使用するにあたり、右使用の結果、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足り、所論のように必ずしも他人の登録商標又は周知商標に近似させたいとの意図をもってこれを使用していたことまでを必要としないと解するのが相当である 。」とする。
被請求人としては、混同を生じさせないことを意図していたのであるから、仮に使用商標が本件商標と類似するとしても、その使用にあたり、請求人等の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたとはいえない。
(6)結語
以上のとおり、被請求人には、請求人が「使用の同一性」として論じる前提となる商標法第51条第1項の不正使用取消の制裁を受けるような不正使用の事実自体も、同条同項の要件である「故意」もなく、本件申立は成り立たない。

第4 当審の判断
1 当事者間の事実関係について
請求人、被請求人の主張及び請求人の提出した甲第14号証ないし甲第18号証、被請求人の提出した乙第1号証並びに乙第7号証ほかによれば、当事者間に以下の事実関係が認められる。
(1)請求人と被請求人とは、昭和51年9月23日にベアトリックス・ポターが創作したピーターラビットという名のうさぎを主人公とする絵本に登場するキャラクター及びキャラクターの名称を用いた商品化事業に関するライセンス契約(この契約を請求人は「第1ライセンス契約」と称し、被請求人は「著作権契約」と称している。)を締結した。その後、この契約は、昭和62年9月30日に新契約(この契約を請求人は「第2ライセンス契約」と称し、被請求人は「プロパティ契約」と称している。)に改訂され、上記新契約は平成11年10月19日に終了していること。
そして、上記新契約に基づく在庫品売り切り期間は平成12年1月19日に終了し、以後、請求人と被請求人の間にはライセンス契約は存在しないこと。
また、請求人が商品化に使用してきた絵柄の著作権は、平成16年5月22日に満了していること。
(2)請求人は、東京地裁に対し被請求人の商品の製造・販売を禁止する不正競争仮処分の申立を行い(東京地裁平成12年(ヨ)第22063号)、申立のとおりの仮処分の決定を得たこと(甲第14号証)。そして、上記仮処分の決定は、その後、被請求人の申立(東京地裁平成16年(モ)第5300号保全取消申立事件)により、取り消されたこと。
また、請求人は、東京地裁に対し、不正競争防止法第2条第1項第1号、同第2号及び同法第3条第1項に基づき、被請求人の商品の製造、譲渡、展示等行為の差し止め及び本件商標権の移転譲渡等を求め(東京地裁平成12年(ワ)第14226号)、他方、被請求人は、反訴として「不正競争行為不存在確認の訴え」(東京地裁平成14年(ワ)第4485号)を起こしたこと。 そして、東京地裁において、請求人の上記差し止め請求については認容、商標権譲渡については棄却され、この敗訴部分について、これを不服とする両当事者の控訴審(東京高裁平成15年(ネ)第831号)では、何れも控訴棄却、さらに、上告審(最高裁平成16年(オ)第976号及び平成16年(受)第1028号)において上告棄却され、確定したこと。
以上の事実関係については、当事者間に争いが認められないので、これらの事実関係を踏まえ、以下、商標権者が故意に指定商品について登録商標と類似する商標を使用して、他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるものをしたか否か等について、判断する。
2 被請求人の使用商標(1)及び(2)について
(1)本件商標と被請求人の使用商標(1)及び(2)との類否
本件商標は、別掲Aに表示したとおり、「ピーターラビット」の片仮名文字と「PETERRABBIT」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり、他方、被請求人の使用商標(1)及び(2)は、別掲Bに表示したとおりの構成からなるものである。
しかして、本件商標は、「PETERRABBIT」の欧文字部分を一連に横書きして成るのに対し、使用商標(1)は、「PETER」と「RABBIT」の各文字の間に略1文字分のスペースを有すること、また、本件商標は「RABBIT」の「R」の右はらいは長くないのに対し、使用商標(2)は、「RABBIT」の「R」の右はらいが長い特徴的なデザインである、等の点において、本件商標と使用商標(1)及び(2)とは、その構成を異にするものであるから、外観上同一とはいえないものである。
そうすると、本件商標と使用商標(1)及び(2)とは、外観上同一の商標とはいえないが、共に「ピーターラビット」の称呼を生ずるものであるから、両者は、上記称呼を共通にする類似の商標ということができる。
(2)使用商品
請求人の提出した甲第6号証ないし甲第9号証及び検甲第1号証ないし検甲第5号証によれば、被請求人は、使用商標(1)を商品「子供用被服」、「タオル」等に使用していることが認められ、さらに、使用商標(2)は、被請求人の商品を販売する店内の壁掛に「看板」として使用されていることが認められる(なお、写真、ビデオテープの証拠能力等については後述する。)。
そして、上記「子供用被服」、「タオル」は、本件商標の指定商品中「被服」、「布製身回品」の範疇に包含される商品と認め得るものである。
(3)上記のことから、被請求人は、本件商標と類似の商標をその指定商品について使用しているものというべきである。
3 請求人等の業務に係る商品又は役務と誤認混同を生ずるか否か
次に、前記2の被請求人による使用商標(1)及び(2)の使用が請求人の業務に係る商品又は役務と誤認混同を生ずるか否かについて判断する。
(1)請求人の使用標章の周知著名性
請求人の主張及び提出した甲第21号証によれば、請求人は、ベアトリックス・ポターが創作したピーターラビットという名のうさぎを主人公とする絵本の出版を1901年に開始し、1903年にはピーターラビット人形について英国特許を取得して、ピーターラビットの商品化事業を開始した。
その後、請求人は日本を含む全世界においてピーターラビットの商品化事業の拡大を図り、現在請求人の商品化事業のライセンシーは350社を数え、年間ロイヤリティは1400万ドル、日本におけるライセンシーの数は平成12年現在47社、平成10年度の年間ロイヤルティは約8億4000万円に上っている。なお、請求人の商品化事業の領域は、金融、アパレル、日用品等極めて広い業種にわたっており、かつ、地理的にも日本全国に及んでいる。
我が国においては、いわゆるライセンシーとして、被請求人のみならず、「キューピー株式会社」、「三菱信託銀行株式会社」、「積水化学工業株式会社」、「日本図書普及協会」、「株式会社日食」、「福音館」等をはじめ、多数の企業が請求人標章を使用していたことを窺い知ることができる。
してみると、我が国有数の企業ともいえる上記企業が、ライセンシーとして(すなわち「請求人グループ」として)、多分野にわたって請求人標章を使用していた事実を考慮すれば、その結果、該請求人標章は、請求人又は請求人グループを表す標章として、広く取引者、需要者に認識されていたものと判断するのが相当である。
また、このことは、前述した東京地裁判決ほかによっても、商標法と不正競争防止法という違いはあるものの、同旨の認定判断がなされていることからも首肯し得るものである。
(2)被請求人の使用商標(1)及び(2)と請求人標章との類否
被請求人の使用商標(1)及び(2)は別掲Bに表示したとおりであり、他方、請求人標章中の(1)及び(2)については別掲Cに表示したとおりである。
そこで、両者を比較するに、前述のとおり、使用商標(1)及び(2)は、「PETER」と「RABBIT」の各文字の間に略1文字分のスペースを有してなるものである。
これに対して請求人標章(1)及び(2)も「PETER」と「RABBIT」の各文字の間に略1文字分のスペースを有してなるものである。
しかして、使用商標(1)及び(2)と、請求人標章(1)及び(2)は、共に「E」の文字の中棒線を波打たせてなるほか、その書体は極めて酷似するということができ、また、使用商標(2)と請求人各標章とは、上記「E」の文字のほか、「RABBIT」の「R」の文字の右はらいを長くした点において共通し、全体として、ほぼ同一に近いほど酷似するものである。
さらに、両者は、「ピーターラビット」の称呼を共通にすること明らかである。
(3)上記のとおり、被請求人の使用商標(1)及び(2)と請求人標章(1)及び(2)とは、「ピーターラビット」の称呼を共通にし、しかも、外観上その書体が酷似し、特に使用商標(2)と、上記請求人標章とはほぼ同一であること、さらに、請求人標章は、我が国において、取引者、需要者に広く認識されていること前記のとおりである。
加えて、被請求人の使用商標(1)及び(2)は、被請求人が請求人のライセンシーであったときに請求人グループが統一して使用していたロゴと実質上同一と認定し得るものである。
してみれば、被請求人の使用商標(1)及び(2)の使用は、請求人又は請求人グループの業務に係る商品又は役務と出所の誤認混同を生ずるものと言わざるを得ない。
なお、被請求人は、(ア)商品主体が不明である、(イ)出所の混同の要件については「狭義の混同」が必要とされる、(ウ)打ち消し表示の存在により、出所の誤認混同は生じない旨主張している。
「商品主体」については、前述のとおり、請求人又は請求人グループと解することができ、かつ、それが具体的に特定名の企業を指すことまでは必要ないものとみるのが相当である。
また、出所の混同については、被請求人の主張するように、「狭義の混同」に限定すべきとする学説があることは否定し得ないが、その一方で、いわゆる「広義の混同」で足りるとした判例(東京高裁平成9年(行ケ)第153号 平成10年6月30日判決)等も存するところであり、「狭義の混同」のみに限定すべき合理的な根拠も乏しいといえるから、この点に関する被請求人の主張は採用できない。
さらに、「打ち消し表示(「ファミリア」の表示)」の存在についても、該表示の有無が前記認定を左右するとも言えないものであり、このことは、前述の東京地裁判決ほかでも同旨の認定判断がなされているところである。
したがって、被請求人の主張は、何れも採用できない。
4 被請求人の故意について
(1)前述のとおり、請求人と被請求人とは、「ピーターラビット」のキャラクター及びそのキャラクターの名称を用いた商品化事業に関する、いわゆるライセンス契約を締結し、該ライセンス契約は平成11年10月19日に終了、在庫品売り切れ期間も平成12年1月19日に終了して、以後、一切
のライセンス契約は存在しないものである。
そして、請求人は、上記ライセンス契約に基づく使用と推認される被請求人の使用商標(1)及び(2)の使用について、上記契約の終了後及び在庫品売り切れ期間終了後の平成12年2月24日、及び同年3月17日の2回にわたり、該使用が不正競争防止法違反である旨指摘して、使用の中止を求める通知を行っている(甲第22号証及び甲第23号証)。
それにもかかわらず、請求人の提出した「写真撮影報告書」(甲第6号証ないし甲第9号証)等によれば、被請求人は、平成12年5月12日及び同19日に東京、横浜ほか7カ所の被請求人販売店において、使用商標(1)及び(2)を「子供用被服」、「タオル」等に使用していた事実が認められるものである。
してみれば、被請求人は、上記事実を認識しながら、使用商標(1)及び(2)を使用していたものとみるほかなく、被請求人は「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあることを認識していた」ということができ、よって、「故意」を有していたものと推認せざるを得ないものである。
なお、被請求人は、(ア)「写真・ビデオテープ」は隠し撮りであって証拠能力がない、(イ)撮影時期が在庫品売り切り期間終了後の直後であり、指示が末端まで周知していなかった、(ウ)撮影場所も被請求人の販売店200箇所のうち7箇所にすぎない、等々主張している。
しかしながら、写真、ビデオテープはその撮影者、撮影場所、撮影年月日等が明示されており、これらをもって、証拠能力がないとは断言できない。
また、写真・ビデオテープの撮影時期については、上記売り切り期間経過後、2ヶ月ないし1年1ヶ月経過しているのであるから、被請求人が商品引き上げ指示の周知を図るには決して短期間とはいえないし、そうとすれば、末端まで周知していなかったとの被請求人の主張も採用し得ない。
さらに、撮影場所については、被請求人の販売店200店の全ての撮影を要しないことは当然であるから、この点についての被請求人の主張も採用することはできない。
5 むすび
以上のことから、被請求人は、故意に本件商標と類似する商標をその指定商品に使用して、他人(請求人又は請求人グループ)の業務に係る商品とその出所について誤認混同を生じさせるものをしたというべきであるから、商標法第51条第1項の規定より、本件商標の登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
別掲 別掲A
本件商標


別掲B
使用商標(1)


使用商標(2)


別掲C
請求人標章(1)


請求人標章(2)


請求人標章(3)


審理終結日 2005-11-18 
結審通知日 2005-11-25 
審決日 2005-12-16 
出願番号 商願昭47-50025 
審決分類 T 1 31・ 3- Z (117)
最終処分 成立  
前審関与審査官 土屋 治 
特許庁審判長 山田 清治
特許庁審判官 寺光 幸子
小林 薫
登録日 1975-09-11 
登録番号 商標登録第1152746号(T1152746) 
商標の称呼 ピーターラビット 
復代理人 太田 雅苗子 
代理人 小泉 淑子 
復代理人 廣中 健 
代理人 菅 尋史 
代理人 井上 祐子 
代理人 三山 峻司 
代理人 小野 昌延 
代理人 井上 周一 
代理人 鳥海 哲郎 

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