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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y16
管理番号 1155437 
審判番号 無効2006-89077 
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-06-01 
確定日 2007-03-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第4868761号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4868761号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4868761号商標(以下「本件商標」という。)は、「Capless」の欧文字を別掲のとおりの構成態様で表してなり、平成16年9月22日に登録出願、第16類「キャップのない万年筆,その他のキャップのない筆記用具」を指定商品として、同17年5月16日に登録査定がなされ、同年6月3日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要旨
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1ないし第20号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
2 理由の詳細
(1)甲第4号証「商品大辞典」(東洋経済新報社 昭和51年6月15日発行)には、「軸しり部のノックボタンを押しペン先を軸内より出すノック式(キャップレス式)などがある。」との記載があり、キャップレス式の語がノック式と同義語として使用されている。
甲第5号証「大きな活字のコンサイス外来語辞典第4版」(株式会社三省堂 1992年1月20日第7刷発行)には、「キャップレス〔capless(キャップのない)〕」の項があり、「キャップなしの万年筆・ボールペン、末端を押すと先端部が出てくる仕組み。<現>昭和35年(1960)ごろ市場に現れた。」との記載がある。
甲第6号証「大きな活字のコンサイスカタカナ語辞典」(株式会社三省堂 2000年2月10日第10刷発行)には、「キャップレス〔capless(キャップのない)〕」の項があり、「キャップなしの万年筆・ボールペン、末端を押すと先端部が出てくる仕組み。<現>昭和35年(1960)ごろ市場に現れた。」との記載がある。
そうすると、「キャップレス」、「capless」の語は、「キャップのない」という意味合いを有するのみでなく、商品の品質、機能等を表すものとして、万年筆を扱う業界はもとより需要者においても認識されているものとみるべきである。
(2)甲第7号証は、商願昭50-150273号の出願書類の写しである。請求人の代表取締役舟橋高次の名義により、指定商品を第25類「紙類,文房具類」として「キャップレス」の文字からなる商標を登録出願したところ、「この商標登録出願に係る商標は、キャップなしの押し出し式万年筆、ボールペン等を表示するものとして普通に使用されている『キャップレス』の文字を普通の方法で表してなるものであるから、上記商品について使用するときは単に商品の品質を表示するにすぎないものと認める。したがって、商標法第3条第1項第3号の規定に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号の規定に該当する。」との理由で拒絶されたことを示すものである。
(3)甲第8号証は、特許電子図書館において、検索キーワードを発明の名称「キャップレス(IPC<B43K?>筆記具または製図用の器具)」により検索した検索結果の一覧表であり、平成2年12月1日以降の電子出願にして、発明の名称に「キャップレス」の語を使用した出願であって特許公開されたものが43件ある。このことは、前記した甲第5及び第6号証の記載のとおり、昭和35年(1960)ごろ市場に表れた「キャップなしの万年筆・ボールペン、末端を押すと先端部が出てくる仕組み」のものを「キャップレス」と表示するものとしていることなどから、「キャップレス」の語がキャップなしの万年筆・ボールペン等を表すものとして、発明の名称として多用されている事実を示している。
甲第9ないし第11号証は、その具体的使用例を挙げたものであり、甲第9号証は、本件商標の商標権者の出願に係る特開平06-328891号公報であり、発明の名称を「キャップレスボールペン」として、産業上の利用分野の項に「本発明は、筆記体出没機構によって、インキカートリッジの筆端部を軸筒前端開口部から出没させる水性インキを使用したいわゆる、キャップレスボールペンの改良に関する。」と記載されており、「キャップレス」の語が品質・機能を表すものとして使用されている。
甲第10号証は、本件商標の商標権者の関連会社であるパイロットインキ株式会社の出願に係る特開2006-111861号公報であり、発明の名称を「キャップレスボールペン用水性インキ組成物及びそれを収納したキャップレスボールペン」として、背景技術の項に「 ・・・特に、非筆記時に筆記先端部(ボールペンチップ)が常に大気中に開放された状態のキャップを要しない構成のボールペン(キャップレスボールペン)に使用する場合、・・・」と記載されており、「キャップレス」の語が品質・機能を表すものとして使用されている。
甲第11号証は、イタリア国の出願人に係る特開2006-103333号公報であり、発明の名称を「キャップレス万年筆」として、技術分野の項に「本発明は、格納式ペン先の通路を閉鎖するための装置を備えるキャップレス型の万年筆に関する。」と記載されており、「キャップレス」の語が品質・機能を表すものとして使用されている。
(4)甲第12ないし第19号証は、1977年から2006年にかけての請求人の商品カタログであり、本件商標登録の指定商品「キャップのない万年筆,その他のキャップのない筆記具」と類似する商品「印章」においても、「キャップレス」の語が「キャップの取外し不要な印鑑及びキャップの取外し不要な印鑑とボールペンを一体とした商品」を表すものとして、30年以上にわたり継続して使用されている。
(5)甲第20号証は、意匠登録第1090042号公報であり、「意匠に係る物品」が「キャップレス浸透印」として登録されている事例であって、意匠の審査においても、「キャップレス」の語が「キャップのない」の意味合いを表す普通名称と認識されている。
(6)以上のように、本件商標「Capless」及びこれより自然に生じる称呼「キャップレス」は、甲第4ないし第6号証及び第8ないし第11号証で明らかなように、万年筆、ボールペンにおいて、「キャップなしの万年筆・ボールペン(末端を押すと先端部が出てくる仕組み)」を表すものとして普通に使用されているものである。
そうすると、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものといわなければならない。

第3 被請求人の答弁の要旨
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1ないし第61号証を提出した。
1 請求人の甲各号証に基づく主張は以下のとおり理由がない。
(1)甲第4号証は、請求人主張のとおり、「万年筆」の詳細な説明において「軸しり部のノックボタンを押し出すノック式(キャップレス式)などがある」と記載されている。
しかしながら、当該記載は、本件商標を構成する欧文字「Capless」が記載されているものではないことは明らかである。
また、当該記載は、「万年筆」の「種類」についての記載であるが、同号証第2頁目の第2ないし第14行目に記載されているとおり、万年筆の種類について述べる場合には、自動吸入式やカートリッジ式、コンバーチブル式等のように、インキの吸入方式による分類が一般的である(乙第1ないし第3号証)。
通常の万年筆は、インキの乾燥防止やペン先部保護等の理由からキャップを有しているため、「キャップ式」、「ノック式」といった分類をされることはない。かかる分類がされる万年筆は、被請求人の商品に限ったものである(乙第4及び第5号証)。
甲第4号証における上述の記載は、一般的な万年筆を分類した記載ではなく、後述するように、既存の万年筆とは全く異なる機構を有する被請求人のノック式の万年筆(商品名「キャップレス」)を特筆すべき商品として記載したものと解される。
(2)甲第5及び第6号証には、「キャップレス」について、「キャップなしの万年筆・ボールペン。末端を押すと先端が出てくる仕組み。」との記載があることは認めるが、本件商標を構成する英文字「capless」については、[capless(キャップのない)]と括弧書きして記載されているにすぎない。
また,甲第5及び第6号証には、「<現>昭和35年(1960)ごろ市場に現れた」と記載されているが、被請求人は、後述するように、世界で初めていわゆるノック式の万年筆を開発し、「キャップレス」の商品名にて、昭和30年代中頃以降継続して製造・販売しているものであり、本件商標は、被請求人の商品であるノック式万年筆として広く認知されているものである。
このことからすれば、甲第5及び第6号証における上述の記載は、被請求人が世界で初めて製造販売し、現在も被請求人のみが製造販売するノック式の万年筆(商品名「キャップレス」)を誤って一般的な機構略称であるかのように記載されたものであると解される。
(3)甲第7号証(請求人の代表取締役の出願に係る出願書類)について、当該商標は「キャップレス」をありふれた書体であるゴシック体で表わしたものであり、「Capless」に一定のデザインを付した本件商標とは事案を異にするものであって、本件商標の識別力の判断には何等の影響を与えるものではない。
(4)甲第8ないし第11号証(公開特許公報)及び第20号証(意匠公報)については、商標法第3条第1項第3号の判断とは何らの関係もないものである。
商標法第3条第1項第3号は、当該指定商品の属する分野における取引者又は需要者を判断主体として、当該商品との関係において自他商品識別力を発揮する素地があるか否かをその判断の基準とするものである。他方、「発明の名称」は、特許出願において出願人又は発明者が当該発明の内容を表わすのにふさわしい名称を付したものであり、明細書は特許を受けるべき発明を説明し、開示するための書類である。また、「意匠に係る物品」は、意匠が物品と不可分であるため、意匠法第7条の経済産業省令で定める物品の区分(意匠法施行規則別表第1)に基づき記載するものである。
してみれば、「発明の名称」の多少や明細書の記載並びに「意匠に係る物品」の多少は、商標法第3条第1項第3号の判断には何等の関連もなく、請求人の主張は失当であるといわざるを得ない。
この点については、請求人提出の甲第3号証「異議の決定」においても認定されている旨を付言する。
なお、軸しり部のノックボタンを押し出す機構を有する万年筆や筆記具を表わす語「ノック式」について、筆記具又は製図用の器具について特許電子図書館における公報テキスト検索を行ったところ、258件が該当した旨を付言する(乙第9号証)。
また、意匠分類記号F2-11400EにDタームとして「ノック式」が定義され、被請求人のノック式の万年筆(商品名「キャップレス」)に関わる意匠登録が図例されている旨も付言する(乙第10号証)。
(5)甲第12ないし第19号証(請求人の印章についてのカタログ)は、請求人1社の使用実績を示すものにほかならず、これをもって、本件商標が品質等を表わす語として広く一般に用いられているとは到底判断できず、流通過程や取引過程に置く場合に必要なものとは認められない。しかも、いずれのカタログにおける表示も、最も目立つ位置に太字で「キャップレス」と記載され、当該商品名称が「キャップレス」であることを明記しているものであるから、請求人の使用は、何れも単なる品質表示としてではなく、自他商品を識別するための標識、すなわち商標として使用しているものといえる。
また、請求人の2004年度から2006年度の総合カタログにおいても、「キャップレス」が使用されているが、何れもその使用態様からして商標として使用しているものと認識される(乙第11ないし第13号証)。
なお、請求人は、「キャップレス」に矢印のような図形を付加した出願を行ない、登録第1452031号として商標登録を受けており(乙第14号証)、同登録は、存続期間満了により2001年1月30日に抹消登録されているが、当該商標出願の経緯からも、請求人は、「キャップレス」の語が識別標識として機能し得ることを認識し、識別標識として使用せんとした意図が窺える。このような点からすれば、自らの権利消滅後において、本件商標を単なる品質表示とする請求人の主張は説得力を欠くものといわざるを得ない。
2 本件商標が自他商品識別力を有している点について詳述する。
(1)商標法第3条第1項第3号は、その商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標を不登録事由としている。これは当該商標が品質等を表わす言語として広く一般に用いられている場合には、当該商品を流通過程や取引過程に置く場合に必要であることに鑑み、規定されたものである。
したがって、商品の品質等を直感させるものではなく、商品の特性を暗示させるに止まるもの、更に当該商品を流通過程や取引過程におく場合に現実に用いられておらず、当該品質を表わすのに際して他の語が一般的に用いられているものについては、同号の規定に該当しないというべきである。
かかる点から、本件商標をみるに、本件商標を構成する英文字「Capless」は、「縁なしの帽子、ふた、キャップ」等を意味する英語である「Cap」と形容詞としての「より少ない」あるいは接尾語としての「?のない」を意味する英語である「less」を結合させた語である。
しかしながら、英語の一般的な辞書である小学館ランダムハウス英和辞典(乙第15号証)、ジーニアス英和辞典(乙第16号証)、英辞郎(乙第17証)には、「Capless」の語は掲載されておらず、当該欧文字が商品の品質を直接表わす外国語ではないことは明らかである。
また、最も一般的な国語辞典である岩波書店発行「広辞苑」においても「キャップレス」は掲載されていない(乙第18号証)。
他方、万年筆や他の筆記用具における品質とは、キャップの有無ではなく、書き味や持ち易さ、インキの定着度等と捕らえるのが一般的である。
この点からすれば、本件商標「Capless(ロゴ)」を指定商品「キャップのない万年筆、その他のキャップのない筆記用具」について使用する場合、「ふたが無い、キャップが無い」といった観念を暗示的に示すものにすぎないといえる。
万年筆の流通過程や取引過程における使用例についてみても、上述のとおり、インキの乾燥防止やペン先保護等のため、被請求人の商品を除いては、キャップを有するのが通常である。このため万年筆の取引界においては、「ふたが無い、キャップが無い」といった分類による商品説明や「Capless」又は「キャップレス」がこのような万年筆の品質等を表わすものとして使用されている例はない。また、万年筆以外のボールペンやシャープペンシルといったその他の筆記用具についても同様である。
すなわち、「ふたが無い、キャップがない」ボールペンやシャープペンシル等の万年筆以外の筆記用具においては、そのペン先の格納方法や送り出し方法といったペン先部の機構が当該商品の使いやすさ等に影響を与えるものである。このため、かかるペン先部の機構による分類がされ、これが商品説明において用いられているものである。具体的には、軸しり部のノックボタンを押し、ペン先を押し出す「ノック式」、軸を回転させペン先を繰り出す「回転繰り出し式(又は回転式)」などの分類がされ、商品の説明に用いられている。
わが国における代表的な筆記具メーカー等の総合カタログ(乙第19ないし第29号証)を見ても「ふたが無い、キャップが無い」といった分類による商品説明や「Capless」又は「キャップレス」が、このような筆記具類の品質等を表わすものとして使用されている例はない。JIS規格における分類をみてもシャープペンシルについて「ノック式」と「回転式」といった分類がなされており(乙第3号証)、JIS規格「ゲルインクボールペン及びレフィル」においても「キャップ式」、「ノック式」といった分類がされている(乙第30号証)。
また、日本筆記具工業会ホームページにおいても「ノック式」、「キャップ式」といった記載がされており(乙第31号証)、文房具・事務機業界の業界紙である「月刊文具と事務機」においても「Capless」又は「キャップレス」といった記載はなく、「ノック式」との記載がされている(乙第32ないし第37号証)。
(2)商標法第3条第1項第3号は、「普通に用いられる方法で表示する標章のみ」であることが要件とされているところ、本件商標の外観を見るに、欧文字「Capless」は、単なるゴシック体や明朝体といった普通に用いられる態様で表されているものではない。「C」や「p」の曲線部分を可能な限り排除しつつも英文字と認識できる態様となっており、これらの文字全てに一定の傾斜をつけることにより、シンプルでありながら知性を感じさせる態様となっている。かかる態様は「普通に用いられる方法」で表示する域を脱しているものといえる。
(3)被請求人は、世界で初めて、いわゆる「ノック式」の万年筆を開発し、「キャップレス」の名称にて昭和30年代中頃以降、現在に至るまで継続的に同商標を付した商品を製造販売している。本商品の登場は、筆記具業界においては画期的な出来事であり、「世界のアンティーク万年筆(株式会社講談社 昭和60年第1刷発行)」(乙第4号証)には、「つづいて昭和38年(1963)、《パイロット・キャップレス》(回転式)を、翌39年(1964)、回転式をさらに改良して、ノックするだけでペン先の出し入れができるノック式や、軸を逆さにしてクリップの所を押すだけでペン先を出し入れするスライド式を開発した。これらはわが国の万年筆史上、画期的な製品といえるであろう。そのうえ、これらキャップレス万年筆は、昭和39年(1964)4月、パリで開催された国際フェアで最優秀賞を獲得したことでも、そのアイデアのすばらしさがわかろうというものである。」旨の記載がある。同様の記載は、「世界の萬年筆(株式会社里文出版 平成13年2月発行)」(乙第5号証)にも記載されており、「万年筆スタイル2(株式会社ワールドフォトプレス 平成17年11月発行)」(乙第6号証)には、「1963年に登場以来、世界的に例を見ない独創的なアイデアとユニークな機構、そしてなにより使いやすさでロングセラーとなっている」旨記載されている。更に、「サイゾー(株式会社インフォバーン 2000年5月発行)」(乙第7号証)には、「一方の端を押すと反対側にペンが出てくるノック式。世界中でもパイロットしか製造していない珍しい品」とあり、「ステーショナリーマガジン(株式会社えい出版社(表示できない文字を「えい」と置き換えて表した) 2005年7月発行)」(乙第8号証)には、「世界で唯一のノック式万年筆『キャップレス』シリーズ」と紹介されている。
また、被請求人は、本商品の販売以来、継続的にテレビCMや雑誌の広告により広告宣伝を行なっており(乙第42ないし第51号証)、当該商品は、好評を得て、各種雑誌及び書籍にも取り上げられ紹介記事が掲載されており(乙第1ないし第8号証、第52ないし第59号証)、更に、キャップレス万年筆は、パリで開催された国際ギフトフェアで最優秀賞を獲得する等各種の賞も受賞している(乙第4、第5号証及び第60号証)。
本商品は、その独創的なアイデアと当該アイデアを具現化したネーミングから、万年筆という年々需要者が減少している商品において(万年筆業界においては年間一万本の販売でヒット商品といわれる)、乙第7号証にて紹介されているように、「そんななか、『キャップレス』は国内で2万本を超え、海外も含めると10万本に達する勢いでヒットを飛ばしている。」ものである。
なお、インターネット検索サイトにより「Capless」を検索したところ、被請求人の商品が検索結果として多数表示される事実がある(乙第61号証)。
3 以上述べたことから、本件商標は、被請求人の商品であるノック式万年筆として広く認知され、商品の出所を識別する標識として現に機能しているものであり、商標法第3条第1項第3号には該当しないものである。

第4 当審の判断
請求人は、本件商標をその指定商品である「キャップのない万年筆,その他のキャップのない筆記用具」に使用しても、単に商品の品質を表示するにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないから、本件商標の登録は商標法第3条第1項第3号に違反してされたものである旨主張しているので、この点について検討する。
1 本件商標は、別掲に示したとおりの構成からなるところ、これを構成する「Capless」の欧文字は、ややデザイン化された文字で書されてはいるが、数多くあるアルファベットの書体と比較してみても、格別顕著な特徴があるともいえない態様をもって一連に書されているものであって、容易に「Capless」の欧文字を表したものと理解・認識し得るものであるから、「普通に用いられる方法で表示する標章」の範囲内のものというべきである。
そして、「Capless」の語は、英和辞典によるも、一連の成語あるいは熟語として記載されてはいないが、これを構成する「Cap」の語は、「(ふちなし)帽子、ふた、キャップ」等を意味する英単語として我が国においても日常一般に広く親しまれている語であり、また、「less」の文字部分は、「?のない、?を欠く」の意味を表す接尾語であって、例えば、株式会社研究社発行の現代英和辞典によれば、「名詞に自由に付けて形容詞を作る」と説明されており、英和辞典においても、「endless(エンドレス)、homeless(ホームレス)、seamless(シームレス)、wireless(ワイヤレス)」等々のように、「?less」の語は、数多く掲載されており、日常一般においても、しばしば見聞きするところである。
そうとすれば、日常一般にも広く知られている「Cap」の語と「less」の語とを結合させた「Capless」の語からは、容易に「キャップのない」という意味合いを把握し得るものということができる。
2 そこで次に、請求人の提出に係る証拠をみるに、以下の事実が認められる。
甲第4号証「商品大辞典(東洋経済新報社 昭和51年6月15日発行)」には、「軸しり部のノックボタンを押しペン先を軸内より出すノック式(キャップレス式)などがある。」との記載がある。
甲第5号証「大きな活字のコンサイス外来語辞典第4版(株式会社三省堂 1992年1月20日第7刷発行)」には、「キャップレス〔capless(キャップのない)〕」の項があり、「キャップなしの万年筆・ボールペン、末端を押すと先端部が出てくる仕組み。<現>昭和35年(1960)ごろ市場に現れた。」との記載がある。
甲第6号証「大きな活字のコンサイスカタカナ語辞典(株式会社三省堂 2000年2月10日第10刷発行)」には、「キャップレス〔capless(キャップのない)〕」の項があり、「キャップなしの万年筆・ボールペン、末端を押すと先端部が出てくる仕組み。<現>昭和35年(1960)ごろ市場に現れた。」との記載がある。
甲第8号証は、特許電子図書館において、検索キーワードを発明の名称「キャップレス(IPC<B43K?>筆記具または製図用の器具)」により検索した検索結果の一覧表であり、例えば、「キャップレスボールペン用水性インキ組成物及びそれを収容したキャップレスボールペン」(特開2006-111861)、「キャップレス万年筆」(特開2006-103333)、「キャップレス筆記具」(特開平08-258480外)、「キャップレス筆記ペン」(特開2005-67177)、「キャップレス保持具」(特開2004-358747)、「キャップレスマーカ」(特開2002-187395)、「キャップレスマーカの気密部開閉装置」(特開2002-178681)、「キャップレス式筆記具」(特開平10-114188外)、「ノック式キャップレス水性ボールペン」(特開平09-39482外)、「キャップレス式の液体筆記具」(特開平08-108677外)、「キャップレスボールペン」(特開平06-328891)等々、43件の公開特許公報(平成2年12月1日以降の電子出願で特許公開されたもの)の存在が認められる[なお、職権により、上記43件の公開特許公報を調査したところによれば、これら特許出願の出願人は、順不同で、株式会社パイロット(現、株式会社パイロットコーポレーション)、パイロットインキ株式会社、三菱鉛筆株式会社、株式会社トンボ鉛筆、セーラー万年筆株式会社、アンコス株式会社、株式会社東海、株式会社デイリィケア、株式会社壽、そのほか、イタリア国の出願人、個人名による出願である。]。
甲第9号証は、上記公開特許公報のうち、本件商標の商標権者の出願に係る特開平06-328891号公報であり、発明の名称を「キャップレスボールペン」として、〔産業上の利用分野〕に「本発明は、筆記体出没機構によって、インキカートリッジの筆端部を軸筒前端開口部から出没させる水性インキを使用したいわゆる、キャップレスボールペンの改良に関する。」と記載されている。
甲第10号証は、同じく、上記公開特許公報のうち、本件商標の商標権者の関連会社と認められるパイロットインキ株式会社の出願に係る特開2006-111861号公報であり、発明の名称を「キャップレスボールペン用水性インキ組成物およびそれを収納したキャップレスボールペン」として、〔背景技術〕に「・・・特に、非筆記時に筆記先端部(ボールペンチップ)が常に大気中に開放された状態のキャップを要しない構成のボールペン(キャップレスボールペン)に使用する場合、・・・」と記載されている。
甲第11号証は、同じく、上記公開特許公報のうち、イタリア国の出願人に係る特開2006-103333号公報であり、発明の名称を「キャップレス万年筆」として、〔技術分野〕に「本発明は、格納式ペン先の通路を閉鎖するための装置を備えるキャップレス型の万年筆に関する。」と記載されている。
甲第12ないし第19号証は、請求人の商品カタログであって、甲第12号証は1977年、甲第13号証は1980年、甲第14号証は1985年、甲第15号証は1990年、甲第16号証は1995年、甲第17号証は1996年、甲第18号証は2000年、そして、甲第19号証は2006年の各商品カタログであり、「キャップの取外し不要な印鑑」や「キャップの取外し不要な印鑑とボールペンを一体とした商品」について、「キャップレス」の語が使用されている。
甲第20号証は、意匠登録第1090042号公報であり、意匠に係る物品を「キャップレス浸透印」として登録されている。
3 上記において認定した事実によれば、「キャップレス/Capless」の語は、「万年筆やボールペン等の筆記用具」との関係においては、「商品大辞典」、「コンサイス外来語辞典」や「コンサイスカタカナ語辞典」において、キャップなしの万年筆やボールペンであって、末端を押すと先端部が出てくる仕組みのものであることが説明されており、また、公開特許公報においても、筆記具業界におけるいわゆる大手メーカーとして知られている企業ばかりでなく、それ以外の企業や個人、更には、外国企業も「キャップレス/Capless」の語を上記意味合いの語として使用している事実を認めることができる。
そうとすれば、「キャップレス」及びその英語表記である「Capless」の語は、本件商標の登録査定時(平成17年5月16日)には既に、本件商標の指定商品である「万年筆やボールペン等の筆記用具」との関係においては、この種商品の技術者をはじめ、一般の取引者・需要者の間においても、「キャップのない万年筆、キャップのないボールペン等の筆記用具」を表すものとして理解・認識されていたものとみるのが相当である。
4 しかして、例えば、平成12年(行ケ)第76号審決取消請求事件の判決においては、「・・・商標法第3条第1項第3号は、取引者、需要者に指定商品の品質等を示すものとして認識され得る表示態様の商標につき、それ故に登録を受けることができないとしたものであって、該表示態様が、商品の品質を表すものとして必ず使用されるものであるとか、現実に使用されている等の事実は、同号の適用において必ずしも要求されないものと解すべきである・・・」と判示されている。
上記判決を踏まえて、本件商標をみれば、本件商標の態様は、前記1において認定したとおり、「普通に用いられる方法で表示する標章」の範囲内のものであり、これに前記2において認定した「商品大辞典」、「コンサイス外来語辞典」や「コンサイスカタカナ語辞典」の記載、公開特許公報における数多くの採択例にその他の甲号証をも併せみれば、ノック式(キャップレス式)の万年筆を販売しているのが被請求人のみであったとしても、本件商標は、これをその指定商品である「キャップのない万年筆,その他のキャップのない筆記用具」について使用した場合は、単に商品の形状、機能、品質を表したと認識されるにとどまるものというべきである。
5 被請求人の主な反論について
(1)被請求人は、甲第4号証の「軸しり部のノックボタンを押しペン先を軸内より出すノック式(キャップレス式)などがある。」との記載は万年筆の一般的な分類ではない旨、また、甲第4号証は、被請求人のノック式の万年筆(商品名「キャップレス」)を特筆すべき商品として記載したものと解される旨主張している。
しかしながら、「ノック式(キャップレス式)」が万年筆の一般的な分類であるか否かはさて措くとしても、「商品大辞典」においては、「軸しり部のノックボタンを押しペン先を軸内より出す万年筆をノック式(キャップレス式)」として、万年筆の種類の一つとして記載しているのであり、各種商品を体系的に分類し、解説している「商品大辞典」の記載を軽視することはできない。
また、被請求人が昭和30年代中頃に、ノック式(キャップレス)万年筆を製造・販売し始めた当時には、被請求人が主張しているような事情にあったとしても、上記した商品大辞典が発行された昭和51年当時には既に、「軸しり部のノックボタンを押しペン先を軸内より出す万年筆」を一般的に「ノック式(キャップレス式)」として認識し得る状況になっていたものとみるのが相当である。
被請求人は、甲第5及び第6号証(コンサイス外来語辞典、コンサイスカタカナ語辞典)の記載についても同趣旨の主張をしているが、上記したところと同様に解すべきである。
(2)被請求人は、甲第8ないし第11号証及び第20号証の特許公報における「発明の名称」や「明細書の記載」等は商標法第3条第1項第3号の判断には何等の関連もない旨主張している。
確かに、「発明の名称」は、特許出願において当該発明の内容を表わすのにふさわしい名称を付したものであり、明細書は、特許を受けるべき発明を説明し、開示するための書類であって、ある用語がこれらに用いられているからといって、直ちに、その用語が商品の普通名称であるとか、商品の品質を表しているものというのは適切ではない。
しかしながら、特許公報類に記載の発明の名称や明細書等には、技術用語を普通に用いられる意味で使用することが要請されているものであるから、発明の名称や明細書等に使用されている用語は、その技術分野における技術者はもとより、特に日用品的な商品の場合にあっては、その製品の取引者や需要者においても、その用語の意味合いを理解・認識し得るものということができる。
そして、「キャップレス」の語については、前記したとおり、43件もの公開特許公報の存在が認められ、現に、被請求人及び被請求人の関連会社も、特開平06-328891号公報(甲第9号証)、特開2006-111861号公報(甲第10号証)において、「キャップレス」の語を商品の具体的な形状、機能等を表現するために使用している。
そうとすれば、商標法第3条第1項第3号は、当該指定商品の属する分野における取引者又は需要者を判断主体として、当該商品との関係において自他商品識別力を発揮するか否かを判断の基準とするのを原則とすることは被請求人の主張するとおりであるが、特許公報類の記載から当該技術分野における商品についての実情を窺うことができる場合もあり得るものというべきであって、上記のとおり、特に日用品的な商品であって、多くの公開特許公報において使用されている用語については、特許公報類の存在も商標法第3条第1項第3号の判断にあたって、その判断資料の一つになり得るものとみるのが相当である。
(3)被請求人は、「Capless」の語は小学館ランダムハウス英和辞典等の英和辞典や広辞苑においても掲載されておらず、筆記具メーカー各社のカタログ等をみても、「ふたが無い、キャップが無い」といった分類による商品説明や「Capless」又は「キャップレス」の語が筆記具類の品質等を表わすものとして使用されている例はなく、該語は、商品の品質を直接表わす外国語ではないことは明らかであり、「ふたが無い、キャップが無い」といった観念を暗示的に示すにすぎないものである旨主張している。
しかしながら、「Capless/キャップレス」の語が英和辞典や国語辞典に採録されていないとしても、前記したとおり、「Capless」の語からは、「キャップのない」という意味合いを容易に把握し得るものであり、また、万年筆等の筆記用具において、キャップの有無が筆記用具の分類体系として一般的でないとしても、そうであるからといって、「Capless」の語が「キャップのない万年筆」の形状、機能、品質を表していることを否定することには繋がらない。
(4)被請求人は、本件商標の態様は「普通に用いられる方法」で表示する域を脱しているものである旨主張している。
確かに、本件商標は、普通に用いられるゴシック体や明朝体といった態様で表されているものではない。しかしながら、近年、商標を構成する文字をデザイン化して表すことは極めて一般的に行われているところであり、前記したとおり、本件商標のデザイン化の程度は、むしろ軽微なものというべきであって、格別顕著な特徴があるともいえない態様をもって一連に書されているものであるから、「普通に用いられる方法で表示する標章」の範囲内のものといわなければならない。
(5)被請求人は、いわゆる「ノック式」の万年筆は被請求人が世界で初めて開発したものであり、「キャップレス」の名称にて、昭和30年代中頃以降継続して製造・販売しているものであり、本件商標は、被請求人の商品であるノック式万年筆として広く認知されているものである旨主張している。
被請求人の提出に係る乙号証に照らしてみれば、「パイロット(PILOT)のキャップレス」万年筆が独創的な技術とアイデアに基づいた万年筆であることを否定するものではないが、そのことと、「Capless」の語が「キャップのない万年筆,その他のキャップのない筆記用具」について、自他商品の識別標識としての機能を果たし得る語であるか否かということとは別異のことというべきである。
(6)その他、被請求人は、請求人が「印章」について使用している「キャップレス」の語の使用状態(甲第12ないし第19号証)や請求人の「キャップレス」の語を含む商標登録(乙第14号証)についても言及しているが、本件商標についての上記判断に影響を与えるものではない。
6 以上のとおり、本件商標は、これをその指定商品である「キャップのない万年筆,その他のキャップのない筆記用具」について使用しても、単に商品の形状、機能、品質を表したにすぎないものであるから、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲 本件商標


審理終結日 2007-01-18 
結審通知日 2007-01-22 
審決日 2007-02-02 
出願番号 商願2004-87034(T2004-87034) 
審決分類 T 1 11・ 13- Z (Y16)
最終処分 成立  
前審関与審査官 八木橋 正雄 
特許庁審判長 高野 義三
特許庁審判官 久我 敬史
鈴木 新五
登録日 2005-06-03 
登録番号 商標登録第4868761号(T4868761) 
商標の称呼 キャップレス、カプレス 
代理人 綿貫 達雄 
代理人 朴 暎哲 
代理人 遠藤 祐吾 
代理人 早津 貴久 
代理人 山本 文夫 
代理人 村橋 史雄 

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