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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200589009 審決 商標
無効200489092 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 030
審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 030
管理番号 1149979 
審判番号 無効2005-89010 
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-02-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-01-27 
確定日 2006-12-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第4357485号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4357485号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4357485号商標(以下「本件商標」という。)は、「クエン酸サイクル」の文字を横書きしてなり、平成8年7月26日に登録出願、第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ハンバーガー,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,酒かす」を指定商品として、同11年12月9日に登録をすべき旨の審決がなされ、同12年1月28日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第26号証(枝番を含む。)を提出した。
甲各号証の各種文献、新聞報道等を総合すれば、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号及び同第6号に違反してされたものといわざるを得ない。
(1)商標法第3条第1項第3号について
本件商標である「クエン酸サイクル」の語は、元々生化学分野の新発見に係る自然界の定理である「生物の細胞内物質代謝において最も普遍的な経路」(以下「本件代謝経路」という。)を意味し、生物、化学又は生化学分野においては、その呼称名として早くから知られる一般名であった。この一般化事情は、少なくとも本件商標の登録審決がされた平成11年12月9日前においてすでに顕著であった。
因みに、この「クエン酸サイクル(回路)」の働きを要約すれば、第一の役割は、脂肪、炭水化物及びタンパク質代謝物を代謝反応により酸化することでエネルギー生成に働くことであり、第二は、サイクル自体の代謝反応により糖新生・アミノ基転移・脱アミノ化や脂肪酸合成等の代謝過程に働くことにある。
また、本件代謝経路を指称する本件商標又は関連同義語(「クエン酸回路」、「トリカルボン酸サイクル(回路)」、「TCAサイクル(回路)」、又は「クレブスサイクル(回路)」等)は、本件商標の登録前、既に我が国社会一般において定着していたものであり、特に医療関連分野において、クエン酸の効果を利用するなどして早くからその仕組みを応用してきた状況があり、この点で、本件代謝経路と人の健康面との関係がすでに顕在化していた。
そして、本件代謝経路と本件指定商品との関係は、現今の健康志向社会と相俟って密接に関連する取引事情にあることから、本件商標に接する需要者は、その指定商品の効果・効用を端的に表すものとして容易に認識し理解し得るものであった。
したがって、本件商標は、その指定商品の品質・効能を表示するに止まり自他商品の識別標識とは認識し得ないものといわなければならない。
そして、本件商標がこのように捉えられるものであり、かつ本件代謝経路を取り巻く食品関連業界の取引事情よりすれば、本件商標は当業界における事業者の誰もがその商品を流通過程又は取引過程におく場合に必要な表示であって何人もその使用をする必要があり、また、すでに一般的に使用がされ或いは将来必ず一般的に使用がされるものであったといえるから、このようなものを一私人に対し独占使用を認めるのは公益上適当でない。
よって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものといわなければならない。
(2)商標法第3条第1項第6号について
また、本件商標が上記法条の規定に該当しないとした場合であっても、なお、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。
すなわち、本件代謝経路を取り巻く飲食品分野の取引情勢よりして、本件商標「クエン酸サイクル」をその指定商品について使用した場合、需要者は人の食餌と代謝機能・作用との関係を象徴的(シンボリック)に表したもの或いはクエン酸による代謝作用への効果・効用を殊更強調するもの、すなわち一種喧伝語句(キャッチフレーズ)の類と理解するに止まり、それをもって、何人かの業務に係る商品であるのかを認識することができないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に違反して登録されたものといわざるを得ない。
よって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項により無効とされるべきである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証を提出した。
(1)請求人は、本件商標「クエン酸サイクル」は登録審決前において、「本件代謝経路」を意味する定着した生化学用語であり、かつ社会一般においても不特定多数者間において広く知られていた一般用語といえると主張し、甲第2号証ないし甲第17号証を提出している。
被請求人は、「クエン酸サイクル」がH.A.Krebs博士が完成した理論(請求人がいう「本件代謝経路」)を意味する多様な用語の一つとして一部の書籍にこの語が記載されていた事実は否定しない。
このことは、本件商標の審査・拒絶査定不服審判においてもすでに肯定している(乙第1号証、乙第3号証)。
しかしながら、上記の事実をもってしても、「クエン酸サイクル」の語が本件商標の登録審決時において「本件代謝経路」を意味する定着した生化学用語とはいえないし、まして一般用語ともいえない。
甲第2号証ないし甲第17号証の該当箇所をみれば、「本件代謝経路」を意味する多様な用語として、クレブスのサイクル、クレブスサイクル、クレブス回路、クレーブス回路、クレブス回路、TCAサイクル、ティー・シー・エーサイクル、トリカルボン酸回路、三カルボン酸回路、クエン酸回路等々の如く多数といってよい程の訳語がある。
そして、「クエン酸サイクル」の語が「本件代謝経路」を意味する見出語としてはっきり記されているのは、甲第2号証として提出された化学大辞典と甲第17号証の4(甲第7号証の4は甲第17号証の4の誤記と思われる。)として提出された日本食糧新聞社の記事のみである。
これらをもってしても、「クエン酸サイクル」が「本件代謝経路」を意味する生化学用語であると判断する能力、及び、これらの用語が請求人のいう「関連同義語」と認識する知識は「本件代謝経路」の研究に関わる者でもなければ持ち合わせないと判断するのが自然であり、まして、本件商標が指定する第30類の商品の平均的需要者にはあり得ないと判断するのが極めて妥当である。
この事実は、請求人が甲第11号証として提出した「日本語になった外国語辞典」に「クエン酸サイクル」の語がないことからも明白である 加えて、前記主張の妥当性は、下記の事実によっても明白である。
被請求人は、商標「クエン酸サイクル」を食品に関連する5分類全て(第29類、第30類、第31類、第32類、第33類)に商標登録をし、現在その所有権者である(被請求人への移転登録完了:平成16年12月1日)。
これらの商標は、いずれも本件商標と同時に出願し、登録を得たものである。
食品関連分野の総てにおいて、「クエン酸サイクル」が登録されているという事実は、審査の専門官庁である審査・審判官が商標「クエン酸サイクル」は、食品類については「本件代謝経路」を意味する定着した生化学用語ではなく、かつ、社会一般においても不特定多数者間において広く知られていた一般用語とはいえない、また、一般用語化する蓋然性もないと判断した証左であり、請求人の本件商標に対する無効理由を否定する根拠となり得るものといえる(乙第1号証ないし乙第5号証)。
(2)請求人は、「本件代謝経路」とクエン酸との関係に言及し、各種食材・飲料との関係において本件商標の無効理由を導き出している。
しかし、そもそも、「クエン酸サイクル」は、わが国では「本件代謝経路」を意味する定着した生化学用語ではなく、一般用語でもないから、「本件代謝経路」とクエン酸とがいかに不可分の関係にあるにせよ、各種食材・飲料と「クエン酸」とが密接に関連しているにせよ、需要者等は、本件商標に係る指定商品の効能・効果等を容易に認識するとはいえず、いわんやその商品の喧伝語句の類と理解するに止まるものでもない。
また、請求人は、食品関連業界の取引きの事情からすれば、何人にも本件商標「クエン酸サイクル」の語の使用は解放されるべきであるとし、独占適応性を欠く商標であると主張している。
しかしながら、本件商標は、H.A.Krebs博士が完成した理論を意味する多様な用語の単に一つにすぎず、定着した生化学用語でも一般用語でもないから、本件商標に独占権を付与しても何人も不利益を受けるものではない。
甲第11号証「日本語になった外国語辞典」に記載の生化学用語「トリカルボン酸回路」、「TCA回路」、「クレブス回路」のいずれかを使用すれば足りるものである。
言い換えれば、本件商標が、請求人が主張する「一私人に対して独占使用を認めるのは公益上適当でない」というためには、本件商標が「本件代謝経路」を意味する語として、この語を除いては「本件代謝経路」を意味し得ない、という場合に限定されるべきである。
本件商標には代替語が多数あるから、これには該当しない。
請求人が甲第23号証として提出した事案(判例)の登録商標「梅・うめ」の語こそ、代替語がなく、まさに「一私人に対して独占使用を認めるのは公益上適当でない」に該当するものであるといい得る。
被請求人は、クエン酸の効用等が見向きもされなかった頃に研究会を作って製品開発にあたり、平成8年に製品化し、その製品に商標として「クエン酸サイクル」を採択した。
請求人は、甲第18号証ないし甲第22号証をもって「クエン酸サイクル」の語が不特定多数者間において広く知られている一般用語であることを立証資料としているが、これらは、いずれも2004年度におけるインターネット情報でしかなく、本件商標の無効を決定する根拠とはなり得ない。 「クエン酸」の効能が脚光を浴びたのはこの数年である。その頃から、「クエン酸サイクル」があちこちで多用されるようになり、被請求人も登録商標の無断使用対策に苦慮してきた。
インターネットを介してのあふれるような情報の氾濫は、一商標権者のしかも大資本を有しない企業の努力ではもはや止めることが不可能である。
このような状況の中で、請求人が2004年度にける「クエン酸サイクル」のインターネット情報をもって、本件商標「クエン酸サイクル」が独占適応性を欠く商標であると主張するのは、商標法第3条第1項第3号を定めた法の精神に反すると考える。
よって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号にも同第6号にも該当するものではない。
(3)被請求人の本件商標の使用と企業努力について
被請求人は、本件商標の登録出願年である平成8年から現在に至るまで、「クエン酸」を主原料とする加工食品に本件商標を使用している。その企業努力を証する資料を乙第6号証ないし乙第12号証として提出する。
現在は、本件商標の使用権者であるクイックジャパン株式会社等を介して販売しているが、販売当初は、スパを持つ地域の健康センター、個別の通信販売、居酒屋チェーンへの納入、有名運動選手(スキー、野球)への商品提供、海上自衛隊内での販売等、地道な販売活動において販路を拡大してきた。 その中でも、平成9年9月3日からスタートした文化人、運動選手、芸能人を招いての健康フォーラム「元気になろう全国大会」は、9月3日の「クエン酸の日」、「903」として8年続いており、この活動の中から平成14年2月7日フジテレビ系の放送番組「発掘あるある大辞典」が「クエン酸」の効用を大々的に取り上げることになり協力を求められ、「クエン酸」の効用アップに貢献した事実もある。
インターネット情報として「クエン酸サイクル」の語が頻繁に出るようになったのは、その平成14年2月7日フジテレビ系の放送番組「発掘あるある大辞典」放送後である。
(4)以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同第6号のいずれにも違反して登録されたものではないので、商標法第46条第1項により無効にされる理由はない。

4 当審の判断
本件商標は、前記したとおり、「クエン酸サイクル」の文字を書してなるところ、請求人は、本件商標は商標法第3条第1項第6号にも該当する旨主張しているので、この点について判断する。
(1)「クエン酸サイクル」等の語について
請求人の提出に係る甲各号証によれば、「クエン酸サイクル」及びこれに関連する用語について、以下のように記載・解説されていることを認めることができる。
(ア)専門書的な文献に関して
(a)共立出版株式会社昭和44年発行「化学大辞典3」の「くえんさんサイクル」の項(甲第2号証)によれば、「枸櫞酸サイクル,クレブスのサイクル,トリカルボン酸サイクル,TCAサイクル(citric acid cycle,Krebs cycle,tricarboxylic acid cycle,TCA cycle),生物の細胞内物質代謝において最も普遍的な経路。・・・1937年H.A.Krebsにより完成され・・・。すなわち,脂肪,炭水化物およびタンパク質の代謝生産物は最後にはピルビン酸となってこのサイクルにはいり,燃焼して二酸化炭素と水とになる。このサイクルが1回転するごとに1モルのピルビン酸は3モルの二酸化炭素を放出し,10原子の水素がTPNまたはDPNに移行する。そして、これらの物質が酸化されて,その際遊離する化学エネルギーの一部はいわゆる高エネルギーの化学結合物となってたくわえられる。このサイクルに関与する酵素は・・・細胞質中に溶存していると考えられる。しかし他の大部分の酵素はミトコンドリア中に存在すると考えられる。このサイクルは生体の末端呼吸機構として,また中間に生成する2-ケトグルタル酸,フマル酸,オキサル酢酸などを通じてアミノ酸の生合成の出発点としてきわめて重要である。」旨解説されている。
(b)株式会社岩波書店1992年発行「理化学辞典(第4版)」の「トリカルボン酸サイクル」の項(甲第3号証の1)によれば、「(英 tricarboxylic acid cycle),略して、TCAサイクル,またクエン酸サイクル,クレブスのサイクルともいう。呼吸すなわち生体における有機物の完全酸化に大きな役割をもつ代謝回路。クレブスが提案した(1937)。この回路は糖あるいは脂肪酸の分解により生成したアセチルコエンザイムAがオキサロ酢酸と作用してクエン酸を生ずることに始まり,諸種のトリカルボン酸とジカルボン酸を含む,脱水素,脱炭酸などの諸反応からなる環状の過程であって,これが一巡するとアセチル基が完全酸化されて水と炭酸になり,再びオキサロ酢酸を生ずる。この系は動物,植物,微生物に広く存在するが,高等動植物,コウボなどではもっぱらミトコンドリアで行われる。脱水素された水素は電子伝達系によって酸素に与えられて水となり,そのとき酸化的リン酸化が行われて酸化のエネルギーはリン酸結合のエネルギーに変えられる。このように生体エネルギー供給の意味をもっているが,このサイクルに含まれるカルボン酸は生体物質の合成の出発物質として重要なものが多く,物質変化にも大きな意義をもつと考えられる。」旨解説されている。
また、同文献中「クレブス」の項(甲第3号証の2)によれば、「[Krebs,Hans Adolf]1900.8.25-1981.11.22。ドイツ生まれのイギリスの生化学者。・・・トリカルボン酸サイクル説を提唱した。1953年生体内酸化機構の研究によって・・・ノーベル生理学医学賞を受けた。」旨解説されている。
(c)株式会社東京化学同人1990年発行「生化学辞典(第二版)」の「クエン酸回路」の項(甲第4号証)によれば、「トリカルボン酸回路,TCA回路とも呼ばれる。糖・脂肪酸・多くのアミノ酸などの炭素骨格を最終的に完全酸化するための代謝回路。H.A.Krebs(1937)により提唱されたので、クレブス回路ともいわれる。上記生体物質から生じたアセチルCoAはオキサロ酢酸と縮合してクエン酸を生じ,順次,・・・リンゴ酸を経てオキサロ酢酸に至る。回路の1回転によりアセチルCoAのアセチル基は完全酸化される。これらの反応のうち,脱水素反応により生じた還元型補酵素は電子伝達系を通じて酸素により酸化されて元の酸化型に戻り,その時得られる化学エネルギーは酸化的リン酸化の系によりATP生成に用いられる。・・・本回路は単なる分解過程ではなく同化代謝における重要な出発点になる。」旨解説されている。
(d)株式会社岩波書店1985年発行「(岩波)生物学辞典(第三版)」の「クエン酸回路」の項(甲第5号証)によれば、「[英 citric acid cycle] トリカルボン酸回路(略してTCA回路)または発見者にちなんでクレブス回路ともいう。解糖およびその他の異化作用によって生じたアセチルCoAを完全に水と二酸化炭素に分解する酸化的過程である。この回路で生じる・・・呼吸鎖によって分子状酸素で酸化され,糖・アミノ酸・脂肪酸の完全な分解と最大のエネルギーの引き出しが可能となる。呼吸鎖と共役してアセチルCoAがこの回路で完全酸化を受けると12分子のATPが生じる。・・・クエン酸回路はミトコンドリア内の溶性部分に局在する・・・。」旨解説されている。
(e)株式会社南山堂1979年発行「医学大辞典(第16版4刷)」の「クレーブス回路」の項(甲第12号証の1)によれば、「『英 Krebs cycle』→『トリカルボン酸回路』」とあり、同じく「トリカルボン酸回路」の項(甲第12号証の2)によれば、「(クレーブス回路,クエン酸回路)糖質、脂質、アミノ酸の代謝に由来する活性酢酸(アセチル-CoA)が酸化的に代謝される回路で、すべての好気的細胞にみられる。・・・回路の回転に必要な酵素のすべてはミトコンドリアにある。これは動物、植物、微生物に共通である。・・・」旨解説されている。
(f)医歯薬出版株式会社1996年発行「最新医学大辞典」の「クエン酸回路」又は「クレブス回路」の項(甲第13号証の1及び同2)によれば、「citric acid cycle(トリカルボン酸回路,クレブス回路,TCA回路)糖,脂肪,蛋白質の分解により生じたアセチル基を完全酸化して放出されるエネルギーを末端電子伝達系,酸化的リン酸化系と共役することにより,能率よく補捉するための一連の化学反応であって,それが回路をなすことによって触媒的に働く。同時に・・・オキサロ酢酸を介する物質交流の場でもある。酵素系はミトコンドリアに局在。」旨解説されている。
(イ)一般的な辞書類に関して
(a)株式会社研究社2000年発行「リーダーズ英和中辞典」の「citric acid cycle」の項(甲第6号証の1ないし同3)によれば、該語は「[生化]くえん酸サイクル(回路)(=KREBS CYCLE)」とあり、また、「Krebs cycle」をみると、「[生化]クレブス回路(ドイツ生まれの英国の生化学者 Hans A.Krebsが発見した生物の細胞内物質代謝において最も普通のトリカルボン酸回路)」とあり、さらに「tricarboxylic acid cycle」をみると、「[生化]三カルボン(トリカルボン)酸回路,TCA回路(=KREBS CYCLE)」旨それぞれ解説されている。
(b)株式会社岩波書店1998年発行「広辞苑(第五版)」の「くえんさんかいろ」の項(甲第7号証の1)によれば、「『枸櫞酸回路』トリカルボン酸回路に同じ。」とあり、同じく「トリカルボンさんかいろ」の項(甲第7号証の2)によれば、「『トリカルボン酸回路』(tricarboxylic acid cycle)生物の呼吸において最も主要と考えられる代謝経路。糖質・脂質・アミノ酸などの炭素骨格は、最終的にはこの経路を経て完全に酸化・分解され、生体のエネルギー源となる。クレブス回路。クエン酸回路。TCA回路。」とあり、また「クレブスかいろ」の項(甲第7号証の3)によれば、「[クレブス回路]→トリカルボン酸回路の別称」とあり、さらに「ティーシーエー回路」の項(甲第7号証の4)によれば、「[TCA回路]トリカルボン酸回路」旨解説されている。
(c)平凡社1981年発行「世界大百科事典」の「クレブスのサイクル」の項(甲第8号証)によれば、「[クレブスのクエン酸サイクル]イギリスの生化学者H.A.クレブスが1937年に発見した。炭水化物が呼吸の基質として用いられるときに通る回路。その後、脂肪酸やアミノ酸もこの回路を通ることがわかった。本回路は原生動物から人間まで、卵から成体まで存在し、細胞呼吸にとって最も重要な反応の一つである。グリコーゲンやブドウ糖は解糖作用によってピルビン酸となり本回路に入る。・・・その際にクエン酸を生ずるのでこの名がある。また、この過程中に3個の三カルボン酸が生ずるので『三カルボン酸回路(TCAサイクル)』ともいわれる。・・・」旨解説されている。
(d)株式会社三省堂1995年発行「大辞林(第二版)」の「くえんさんかいろ」の項(甲第9号証の1)によれば、「[枸櫞酸回路]→ティーシーエー回路」とあり、同じく「ティーシーエーかいろ」の項(甲第9号証の2)によれば、「『TCA回路(tricarboxylic acid cycle)』酸素呼吸の反応過程の一部。解糖系によって生じた活性状態の酢酸がオキサロ酢酸と結合してクエン酸となり、・・・二酸化炭素と水とに分解される。その際、生活活動に必要なエネルギーを発生したりしながら再びオキサロ酢酸に戻る回路。クレブス回路。クエン酸回路。トリカルボン酸回路。」とあり、また「トリカルボンさんかいろ」の項(甲第9号証の3)によれば、「[トリカルボン酸回路]→ティーシーエー回路(TCA回路)」とあり、さらに「クレブスかいろ」の項(甲第9号証の4)によれば、「[クレブス回路]→ティーシーエー回路(TCA回路)」旨解説されている。
(e)株式会社小学館1995年発行「大辞泉」の「くえんさんかいろ」の項(甲第10号証の1)によれば、「『枸櫞酸回路』→トリカルボン酸回路」とあり、同じく「トリカルボンさんかいろ」の項(甲第10号証の2)によれば、「『トリカルボン酸回路』(tricarboxylic acid cycle)生物体中で有機物が燃焼して二酸化炭素と水になる代謝経路。糖や脂肪酸などの分解によってできた活性状態の酢酸がオキサロ酢酸と結合し、三つのカルボキシル基を持つ化合物の枸櫞酸となることから始まり、さまざまな有機酸に転変しながら炭酸ガスと水、エネルギーを生じ、再びオキサロ酢酸に戻り、同様の反応を繰り返す。枸櫞酸回路。クレブス回路。TCA回路。」旨解説されている。
(f)株式会社集英社1996年発行「日本語になった外国語辞典 第3版」の「クレブス回路」の項(甲第11号証の1)によれば、「[Krebs cycle]呼吸すなわち有機物の完全酸化の代謝経路。ドイツ生まれの英国の生化学者クレブス・・・が解明した。トリカルボン酸回路。TCA回路ともいう。」とあり、また「TCA回路」の項(甲第11号証の2)によれば、「[tricarboxylic acid cycle]トリカルボン酸回路。クレブス回路。呼吸すなわち有機酸の完全酸化の代謝経路」とあり、さらに「トリカルボン酸回路」の項(甲第11号証の3)によれば、「→クレブス回路」旨解説されている。
(ウ)新聞、テレビ放送に関して
(a)1996年7月17日付朝日新聞大阪夕刊によれば、「日本はフルーツ王国です。・・・果物はビタミン、ミネラルと繊維質が多く、健康を保つ薬膳(やくぜん)。食事をエネルギーに変えるクエン酸が『クレブス回路』で効果を高めて夏バテ、疲労回復、風邪、便秘、美肌に役立ちます。・・・」旨報道されている(甲第17号証の1)。
(b)1997年7月28日付毎日新聞大阪夕刊によれば、「梅干しが健康食として有用なのは、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸を含んでいることにある。・・・クエン酸には疲労回復力がある。体内で糖質など栄養素からエネルギー物質が生成される過程の一つに、クエン酸回路(TCA回路ともいう)がある。栄養素がこの回路を順調に進むと、疲労物質はたまらない。この順調な進行に、クエン酸が重要な働きをする。・・・」旨報道されている(甲第17号証の2)。
(c)1997年8月4日付毎日新聞大阪夕刊によれば、「ビタミンB1がエネルギー生成に深く関係している・・・糖質をエネルギーに換えるには、酵素を必要とする・・・。この解糖過程がクエン酸回路と呼ばれ、それが順調に進行するには、酸素とともにB1が欠かせない。・・・コメの胚芽にはB1がたっぷり含まれているが・・・。B1に富む食材には、ニンニク、タマネギ、ネギ類がある。・・・B1はブタ肉、(牛、ブタ、鳥の)レバーにも多い。・・・」旨報道されている(甲第17号証の3)。
(d)1999年3月8日付日本食糧新聞によれば、「・・・から作られた“天然発酵クエン酸飲料”で、体をアルカリ性にするといわれている。梅干し・レモン・夏ミカンのような柑橘類に含まれる酸と同じクエン酸を多く含んでおり、クエン酸サイクルという代謝経路に直接取り込まれ、効率よく疲れの原因である乳酸を分解する。・・・」旨報道されている(甲第17号証の4)。
(e)1997年7月10日付産経新聞東京夕刊によれば、「梅は健康食品であり医薬品」とするタイトルで「・・・梅干しが効果がある・・・梅に含まれている有機酸による代謝の促進、言い換えるとクエン酸などによるTCAサイクルの活性化が・・・。」とし、梅干しの代謝効果への働きが報道されている(甲第17号証の5)。
(f)1999年8月12日付毎日新聞大阪夕刊によれば、「リンゴ酸」の効用に関し「・・・人体には“TCAサイクル”という、炭水化物を燃焼させる一連の化学反応があり、ここでリンゴ酸やクエン酸が重要な働きをします。・・・」とし、リンゴ酸やクエン酸等の物質のTCAサイクルへの働きを解説する報道がされている(甲第17号証の6)。
(g)平成16年10月13日放映のNHKのテレビジョン放送番組「ためしてガッテン,常識が覆る!クエン酸ホントの健康パワー」によれば、「クエン酸サイクル」をテロップで流して、その仕組みやクエン酸又はクエン酸を主とし又は仲立ちとする人の食餌生活への効果・効用について解説されている。その内容をみると、「『アセチルCoA』がエネルギーを生み出す仕組み」として、「『アセチルCoA』はある物質と結合して、なんと『クエン酸』になるのです。クエン酸はさらに変化していきながらエネルギーを出します。・・・これを『クエン酸サイクル』(TCA回路、とも言います)と呼びます。」、「・・・クエン酸を摂るとクエン酸サイクルがより活性化することにより、よりすばやく、乳酸をエネルギーのもとに戻してくれる、と考えられます。・・・」等の内容が放送され、上記のような効果を期待し得るものとして、各種食材、各種調理法等が紹介・解説されている(甲第18号証)。
(エ)教科書や学習課程に関して
株式会社新興出版社啓林館発行「高等学校/生物1B(平成5年2月28日文部省検定済)」(甲第14号証の1)、実教出版株式会社発行「昭和54年度用図説生物I(昭和53年5月25日改訂版発行)」(甲第14号証の2)、同「昭和55年度用図説生物II(昭和54年5月25日改訂版発行)」(甲第14号証の3)、同「昭和58年度用 生物(昭和57年5月25日第一版発行)」(甲第14号証の4)、株式会社第一学習社発行「生物II(昭和52年5月15日発行)」(甲第14号証の5)、株式会社清水書院発行「昭和54年度用 生物I(昭和51年2月15日新訂初版発行)」(甲第14号証の6)、株式会社浜島書店発行「ニュービジュアル版/新詳生物図表(1995年12月1日発行)」(甲第14号証の7)、数研出版株式会社発行「高等学校生物(昭和57年3月31日文部省検定済)」(甲第14号証の8)、株式会社講談社発行「標準高等生物II(昭和54年文部省検定済)」(甲第14号証の9)、開隆堂出版株式会社発行「新編生物II(昭和51年4月10日文部省検定済)」(甲第14号証の10)、同「生物(昭和57年3月31日文部省検定済)」(甲第14号証の11)、同「新訂生物II(昭和48年4月10日文部省検定済)」(甲第14号証の12)、教育出版株式会社発行「改訂 生物I 生命の探求1(昭和47年4月10日文部省検定済)」(甲第14号証の13)、同「生物 生命の探求(昭和57年3月31日文部省検定済)」(甲第14号証の14)、東京書籍株式会社発行「改訂生物II(昭和48年4月10日文部省検定済)」(甲第14号証の15)、株式会社新興出版社啓林館発行「新編生物1(昭和53年文部省検定済)」(甲第14号証の16)、同「高等学校/生物(昭和57年3月31日文部省検定済)」(甲第14号証の17)、株式会社講談社発行「標準高等 生物I(昭和53年3月31日文部省検定済)」(甲第14号証の18)、学校図書株式会社発行「高等学校 生物(昭和57年3月31日文部省検定済)」(甲第14号証の19)、数研出版株式会社発行「高等学校生物II 昭和55年度用」(甲第14号証の20)によれば、そのいずれにおいても、「クエン酸回路」あるいは「クレブス回路」の意義・内容について記述・説明されている。
また、筑波大学、中央大学、八代工業高等専門学校等の授業や講義において、「クエン酸サイクル」に関する講義がテーマの一つとして取り上げられていることが認められる(甲第22号証の1ないし同7)。
(オ)関連ウエブページに関して
ケンコーコム、株式会社アイディーエム、ハピマコム、伝統食研究会、日本クエン酸普及会等のホームページにおいて、「クエン酸サイクル」に関する説明記事が掲載されており、効果を期待し得る食材、飲料、サプリメント等の紹介がなされていることを認めることができる(甲第19号証の1ないし同9及び甲第20号証)。
(2)上記において認定した各種文献によれば、「クエン酸サイクル」の語は、「生物の細胞内物質代謝において最も普遍的な経路」(請求人の定義に従い「本件代謝経路」という。)を意味する語であって、1937年に生化学者クレブスによって発見・命名・提唱された理論であり、ノーベル賞を受賞した(1953年)という話題性とも相俟って、生物、化学又は生化学分野における代謝原理を表す語として世界的に広く知られており、人を含む生体一般の機能を維持するための最も基本的かつ普遍的な働きを解明した理論でもあるということができる。この「クエン酸サイクル」の働きを要約すれば、第一の役割は、脂肪、炭水化物及びタンパク質代謝物を代謝反応により酸化することでエネルギー生成に働くことであり、第二の役割は、サイクル自体の代謝反応により糖新生・アミノ基転移・脱アミノ化や脂肪酸合成等の代謝過程に働くことにある。
しかして、同理論は、英語では「citric acid cycle」、「Krebs cycle」又は「tricarboxylic acid cycle」と表現されており、本件商標「クエン酸サイクル」は、この英文名(「citric acid cycle」)の邦訳であって、「クエン酸回路」も邦訳上の違いでしかなく、「トリカルボン酸サイクル(回路)」、「TCAサイクル(回路)」又は「クレブスサイクル(回路)」等の邦語も上記英文名に基づく別称若しくは略称であって、「クエン酸サイクル」と意味的に全く同一の語(同義語)として取り扱われているものであることを認めることができる。
そして、このクエン酸サイクル及びその同義語であるクエン酸回路、トリカルボン酸サイクル(回路)等の各語は、前記したとおり、専門書ばかりでなく、広辞苑等の一般的な辞書類や高等学校の生物の教科書等においても記述・説明されており、各種新聞やテレビ放送番組においては、「クエン酸サイクル(回路)」と食材・飲料又は各種調理法等との関係について頻繁に取り上げており、インターネットホームページにおいても数多くの記事が掲載されている事実を認めることができる。
そうとすれば、本件商標である「クエン酸サイクル」の語は、元々、生化学分野の新発見に係る自然界の定理(生物の細胞内物質代謝において最も普遍的な経路/本件代謝経路)を意味し、生物、化学又は生化学分野においては、その関連同義語とともに、早くから知られていたものであり、また、人を含む生体一般の機能を維持するための最も基本的かつ普遍的な働きをなすものとして、クエン酸又はクエン酸を仲立ちとする人の食餌生活全般に関わる事柄として、本件商標の登録審決時(平成11年12月21日)においては既に、我が国における生化学の分野の専門家ばかりでなく、食品関連分野、医療関連分野、更には社会一般の間においても、広く認識されていたものであり、このような知識は、健康志向の高まりとともに、当該審決後もより一層浸透していったものということができる。そして、指定商品との関係をみても、本件代謝経路と本件商標の指定商品を含む人の摂取する各種食品とは、特に「クエン酸」をキーワードとして密接に関係しているということができる。
してみれば、本件商標「クエン酸サイクル」をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者・需要者は、上記事情よりして、生物の細胞内物質代謝において最も普遍的な経路(本件代謝経路)、クエン酸による代謝作用への効用を表したもの、あるいは、食餌と代謝機能との関係を表したもの、すなわち、食に関する基礎的な用語の一つを表したものと理解するに止まり、何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものといわなければならない。
(3)被請求人の主な反論について
(ア)「クエン酸サイクル」の語は、本件商標の登録審決時において本件代謝経路を意味する定着した生化学用語ではなく一般用語でもない旨の反論に対して
甲第2号証ないし甲第13号証のうち、「クエン酸サイクル」に関し、直接・間接に言及している文献は4文献(甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第8号証)あり、訳の差異ともいえる「クエン酸回路」の用例まで入れると10文献を数えることができる。更に、「クエン酸回路」の語は、高等学校教科書(甲第14号証)や各種新聞にも掲載されていることからみて、被請求人の主張は、採用できない。
(イ)本件代謝経路について多数の邦訳が存在する故に、本件商標から本件代謝経路を意味する生化学用語と判断する能力は、専門的な研究者でもなければ持ち合わせていないこと、したがって、本件商標の指定商品の需要者には、本件商標が本件代謝経路を意味する生化学用語とは理解されない旨の反論に対して
我が国において、如何に数種の訳語があったにしても、それらはみな、H.A.Krebs博士に係る本件代謝経路を表す原文・原義に拠ったものであることは、前記した専門書的な文献ばかりでなく、一般的な辞書類にも掲載されていることから、専門家のみが知り得る用語ということはできない。また、昨今における健康情報に対する異常なまでの関心の高まりのなかで、前記した数多くの新聞やテレビ放送番組、インターネット情報等において、「クエン酸サイクル(回路)」と食材・飲料又は各種調理法等との関係が紹介されている事実からみれば、本件商標の指定商品の需要者を含めた一般的な取引者・需要者の間においても、本件商標より容易に(正確にではないとしても)、本件代謝経路あるいはクエン酸による代謝作用への効用、又は、食餌と代謝機能との関係等を理解し得る状況にあったものというべきである。
(ウ)本件商標に独占権を付与しても、「トリカルボン酸回路」、「TCA回路」あるいは「クレブス回路」の語を使用すればよいのであるから、何人も不利益を受けるものでない旨の反論に対して
本件商標がその登録審決前、既に、本件代謝経路を表す生化学用語であったことは、前記したところから明らかであり、他に同義語があるからといって、「クエン酸サイクル」の語の登録が可能になるものでもない。
(エ)被請求人は、平成8年に「クエン酸を主原料とする加工食品」を独自に製品化し、これに本件商標を採択したものであって、乙第6号証ないし乙第12号証に掲げるとおりの企業努力をしてきたものである旨の反論に対して
被請求人が独自に製品化した商品に対して払ってきた企業努力を否定するものではないが、本件で問題となっているのは、「クエン酸サイクル」という語の登録の可否であり、本件商標の登録審決時においては既に、「クエン酸サイクル」の語は、食に関する基礎的な用語の一つを表すものとして、社会一般において広く知られていたものであることは、前記した甲各号証からみれば明らかであるといわざるを得ない。
そして、被請求人の関連会社であるクイックジャパンの販売に係る商品の商品説明には、「『クエン酸サイクル飲料』は・・・クエン酸と総合ビタミンが配合されたドリンクタイプの保健機能食品です。クエン酸と総合ビタミンをバランス良く摂取することで、体内のクエン酸サイクル活動が活発になります。・・・」の如く記載されており(甲第19号証の2ほか)、また、乙第6号証ないし乙第9号証には、「クエン酸サイクル活動の集い」、「クエン酸サイクル体験談」、「クエン酸サイクル勉強会」、「クエン酸サイクル研究会」等の表示がある。これらの記載からみれば、被請求人自身、「クエン酸サイクル」の語の持つ意味合いを十分に認識したうえ、上記のような記述的な使用をしていたものと推認することができる。
(オ)甲第18号証ないし甲第22号証は、本件商標の登録審決後の2004年のインターネット情報である旨の反論に対して
本件商標についての登録審決がなされた当時は、既に、健康志向がますます高まっていた状況にあることから、「クエン酸サイクル」の語は、当該審決がなされた時点ばかりでなく将来にわたっても、食に関する基礎的な用語の一つを表すものと認識される可能性があったものと容易に推認されるところであり、甲第18号証ないし甲第22号証をはじめとして、当該審決後の日付の証拠も、「クエン酸サイクル」の語についての当該審決後における取引者・需要者の認識の状況を把握する資料として、十分意味のあるものといわなければならない。
(カ)被請求人は、本件商標以外にも、「クエン酸サイクル」の商標を食品に関連する分類(第29類、第30類、第31類、第32類、第33類)に登録し所有しており、このことは、「クエン酸サイクル」の語が食品類について「本件代謝経路」を意味する定着した生化学用語ではなく、かつ、社会一般においても不特定多数者間において広く知られていた一般用語とはいえないことを示す証左である旨の反論に対して
確かに、被請求人は、本件商標以外にも「クエン酸サイクル」の文字からなる登録商標を食品に関する分野に複数所有していることを認めることができる。しかしながら、それらいずれの商標についても、法的な最終判断がなされている訳ではなく、登録商標の中には、本件と同様の理由による無効審判が請求されているものもあることから、被請求人が主張するような登録例があるからといって、本件商標についての上記判断が左右されることにはならない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、食に関する基礎的な用語の一つを表したものと理解されるに止まり、何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものというべきであるから、商標法第3条第1項第6号に違反して登録されたものといわざるを得ない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2006-10-10 
結審通知日 2006-10-16 
審決日 2006-10-30 
出願番号 商願平8-84012 
審決分類 T 1 11・ 13- Z (030)
T 1 11・ 16- Z (030)
最終処分 成立  
前審関与審査官 旦 桂子 
特許庁審判長 中村 謙三
特許庁審判官 久我 敬史
井岡 賢一
登録日 2000-01-28 
登録番号 商標登録第4357485号(T4357485) 
商標の称呼 クエンサンサイクル、サイクル 
代理人 川浪 順子 
代理人 田島 壽 
代理人 勝部 哲雄 
代理人 青木 篤 

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