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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない Y24
審判 全部無効 観念類似 無効としない Y24
管理番号 1148457 
審判番号 無効2006-89007 
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-01-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-01-30 
確定日 2006-11-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第4867571号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4867571号商標(以下「本件商標」という。)は、「バルコット」の文字と「Bulccot」の文字とを二段に書してなり、平成16年12月20日に登録出願、第24類「織物,メリヤス生地,フェルト及び不織布,布製身の回り品,織物製テーブルナプキン,ふきん,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,織物製いすカバー,織物製壁掛け,カーテン,シャワーカーテン,テーブル掛け,どん帳,織物製トイレットシートカバー」を指定商品として、同17年5月27日に設定登録されたものである。

2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用した登録商標は、以下の(a)及び(b)に示した2件である。
(a)登録第902093号商標(以下「引用A商標」という。)は、「BULCOTTY」の文字と「バルコッティ」の文字とを二段に書してなり、昭和43年4月15日に登録出願、第16類「織物、編物、フエルト、その他の布地」を指定商品として、同46年6月15日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録が3回され、平成13年7月11日に指定商品を、第24類「織物(畳べり地を除く。),畳べり地,メリヤス生地,フェルト,不織布,オイルクロス,ゴム引き防水布,ビニルクロス,ラバークロス,レザークロス,ろ過布」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(b)登録第4574241号商標(以下「引用B商標」という。)は、「バルコッティ」の文字と「BULCOTTY」の文字とを二段に書してなり、平成13年7月2日に登録出願、第24類「織物(畳べり地を除く。),メリヤス生地,フェルト及び不織布,ゴム引防水布,ビニルクロス,レザークロス,ろ過布,布製身の回り品,ふきん,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,カーテン,テーブル掛け,シャワーカーテン,のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,靴下,スカーフ,手袋,ネクタイ,ずきん,帽子,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」を指定商品として、同14年6月7日に設定登録されたものである。
以下、一括していうときは「各引用商標」という。

3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録は、無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第29号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)請求の理由
(ア)本件商標と各引用商標との称呼類似
本件商標からは「バルコット」の称呼が生じることは明らかであり、一方各引用商標からは「バルコッティ」の称呼を生じることは明らかである。
よって比較するに、両称呼はともに5音からなり、5音のうち「バルコッ」の4音までを共通にし、わずかに語尾音において「ト」と「ティ」との1音の相違を有するのみである。
而して両差異音を比較するに、「ト」は子音[t]と母音[o]との綴音であり、「ティ」は子音[t]と母音[i]との綴音であるから、両音は子音を共通にする響きの近似した音である。
差異音が聴別上さほど重要ではなく聞き取りにくい語尾に位置しており、かつ促音「ッ」を伴って強く発音される有声破裂音「コ」の後に続くことをも勘案すると、「ト」と「ティ」との相違が両称呼全体に及ぼす影響はごく小さく、したがって両称呼をそれぞれ一連に発音したときには、語調・語感が似通っているために彼此聞き誤るおそれが充分認められる。
よって本件商標と各引用商標とは、称呼上相紛らわしい相互に類似する関係にある。
(イ)過去の審決例
過去の審決例としては、昭和56年審判第5394号において、「バルコット」及び「BULLCOTT」の文字を二段併記してなり、第16類「織物」等を指定商品として商標登録出願された商標と、本件の引用A商標との類否が争われた件がある(甲第3号証)。審決は、出願商標からは本件商標と同一の「バルコット」の称呼が生ずると認定した上で、引用A商標より生ずる「バルコッティ」の称呼と語調語感が近似し、彼此相紛れるおそれがある称呼上類似の商標と判断するのが相当である、と認定した。
上記審決と同様に、「ト」と「ティ」との一音が相違する両称呼を相紛らわしいと判断した他の審決も複数存在する(甲第4号証及び甲第5号証)。
以上のような審決例よりするも、本件商標と各引用商標とは「ト」と「ティ」との一音が相違する相紛らわしい称呼をそれぞれ生ずる相類似する商標である、と判断するのが相当である。
(ウ)請求人による使用
なお、昭和56年審判第5394号の審決(甲第3号証)は、各引用商標の権利範囲を画定する対世効を実質的に生じさせた。すなわち該審決は、「バルコット」の称呼を生ずる商標を各引用商標の指定商品について使用する行為は、各引用商標の商標権の侵害に該当する蓋然性が高い、という特許庁の専門的判断を世間に知らしめた、という意義を有していた。
而して、該審決に係る商標と同一の称呼を生ずる本件商標と各引用商標とが相互に非類似であると判断することは、該審決時(平成2年3月30日)に明確化され、以来長年に亘って安定して維持されてきた各引用商標の商標権の範囲を事実上狭める結果を招来する。もちろん、各事件が独立して判断すべきであることは請求人も知悉しているが、既定の権利範囲を合理的な理由なく変動させるような審査には請求人は到底納得できず、本件審判請求に及んだ次第である。
各引用商標は、請求人(請求人設立の平成14年1月25日以前は請求人の関連会社である帝人株式会社)により、遅くとも1999年(平成11年)秋頃から、商品「織物」について使用開始され、現在に至るまで継続して使用されているという事実がある(甲第6号証?甲第12号証)。
甲第6号証は帝人株式会社のHP写であり、帝人株式会社が新開発の素材に各引用商標と実質的に同一の商標「バルコッティ」「BULCOTTY」を付して1999年秋冬シーズン向けに発売する旨が発表されている。
甲第7号証は請求人HP写であり、「Bulcotty」「バルコッティ」が現在は請求人の製造・販売に係る旨が証されている。
甲第8号証は、「Bulcotty」「バルコッティ」についての新聞記事スクラップ、甲第9号証?甲第11号証はそれぞれアパレルメーカーのHPであって、これらによると1999年以来「Bulcotty」「バルコッティ」がブラックフォーマル、婦人服、デニム、ジーンズ、事務服の素材として使用され続けていることが証される。
甲第12号証は素材ラベルであり、素材として「Bulcotty」「バルコッティ」を使用した被服等の二次加工品に付されるものである。
このように長年に亘って使用された結果、信用が蓄積され、市場における健全な競業秩序を現に構成している各引用商標の商標権の範囲は、保護価値の増大に呼応してむしろ拡大されて然るべきであり、本件商標の登録により実質的に狭められることは到底許されることではない。
(エ)取引の実情に基づく観念類似
甲第6号証?甲第12号証より明らかなように、「Bulcotty」「バルコッティ」は軽量梳毛調ポリエステル製中空糸又はこの糸を使用した織物であって、バルキー性に富み、綿糸の代わりにデニムに使用できるほど肌触りがソフトであるという特徴を有する高機能素材について使用されてきた。長年に亘る使用の結果、「Bulcotty」「バルコッティ」は上記のような「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」を表示する商標として、取引者・需要者間で認識されるに至っている。
よって、「Bulcotty」「バルコッティ」の商標は造語ではあるが、高機能素材について使用され続けた結果、商品の最大の特徴である素材の「機能」と強固に結び付いて「バルキー性に富んだ(bulky)、綿糸風(cotton)」の二次的意味を表示するものとして取引者・需要者に認識・記憶されている、という取引の実情が生じている。
このような取引の実情の下、仮に「バルコツト」「Bulccot」の文字よりなる本件商標を付した織物等の商品が市場に流通したとすると、取引者・需要者は「バルキー性に富んだ(Bulc)綿糸風の(cot)素材」という「Bulcotty」「バルコッティ」と同一の観念を想起するおそれがある。
よって取引の実情をも勘案すれば、本件商標と各引用商標とは観念においても相紛らわしい関係にあるので商標法第4条第1項第11号に該当する。
(オ)結論
以上のように本件商標と各引用商標とは、称呼及び観念において相紛らわしく、したがって商標が相類似しており、また本件商標と各引用商標の指定商品は相抵触しているから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するにも拘わらずこれが看過されて登録されたものである。
よって本件商標は、商標法第46条第1項の規定によりその登録を無効とされるべきものである。
(2)答弁に対する弁駁
(ア)称呼について
(a)被請求人は、「『ト』と『ティ』の音は母音が『オ』と『イ』のように相違することに加え、ともに破裂音であることから、強く発音され、明瞭に聴取されるものである」と主張する。
しかしながら両称呼に共通する各音「バ」は両唇破裂音[b]と母音[a]との綴り音、「ル」は歯茎弾音[r]と母音[u]との綴り音、「コッ」は促音を伴う軟口蓋破裂音[k]と母音[o]との綴り音であって、何れも強く明瞭に発音される音であり、「ト」及び「ティ」の音のみが称呼中において際だって強く発音される音とは言えない。
よって被請求人によるこの主張は、本件商標と各引用商標との両称呼に含まれる相違音同士の比較という観点に照らせば無意味であり、相違音が語尾に位置することよりすれば、全体の称呼に及ぼす影響は大きいものとは認められない。
(b)被請求人は続いて、「しかも、各引用商標の第5音『テ』は『イ』の音を伴うことから…」と述べているが、『ティ』の誤りと思料する。
(c)被請求人は続いて、「各引用商標の第5音『ティ』は『イ』の音を伴うことから、調音方法、音質において本件商標の第5音『ト』と大きく相違するものである」と主張するが、何故に両音の調音方法及び音質が相違しており、しかも「大きく」相違するのか、その理由は何も述べていない。
請求人が考えるに、「ティ」と「ト」とは共通する歯茎破裂音[t]を子音としており、調音方法及び音質はかなり共通している。
(d)被請求人はさらに「当該語尾音『ト』と『ティ』との差異は、…その位置においても、弱く発音される促音『ッ』の後に位置するため、他の音の影響を受けずに明瞭に強音として発音され、聴取されるものといえる」と主張するが、失当である。
「促音に続く音」が明瞭に発音され、聴取されるとの所論は、請求人代理人らの20年以上に及ぶ商標を専門としてきた弁理士としてのキャリアにおいても、ついぞ聞いたことがない。通常、強く明瞭に発音され、且つ聴取されるのは「促音を伴う音」の方とされており(本件においては「コ」の音)、実際に両称呼を発音しても「コ」の音がとりわけ明確に発音され聴取される。「促音を伴う音」が明瞭に発音・聴取されると判じた審決・判決例は、ここに挙げるまでもなく多数見受けられる。むしろ「促音に続く音」は、一般的には促音に吸収されて弱く発音され聴き取りにくい音とされている。被請求人のこの主張は、何か勘違いをしたのではないかと推測する。
(e)被請求人は、請求人が過去の審決を挙げたことに対し、情報媒体の多様化・情報量の増大により需要者は多量の情報を識別することに慣れ、個々の情報間の差異に敏感に反応するので、本件商標と各引用商標とは明確に区別できる、との趣旨の主張を行っている。
確かに25年前に比較して「情報媒体の多様化・情報量の増大」の生じたことは認めるが、これにより需要者が情報間の差異に敏感になった、という事実まで存在するとは到底認められない。またそのような事実を裏付ける証拠も提出されていない。そもそも「情報媒体の多様化・情報量の増大」により、「需要者は処理能力を超えて押し寄せる多様かつ大量の情報の波に溺れ、個々の情報間の差異を識別しきれなくなっている」というように、被請求人とは逆の「いかにもそれらしい」結論を導き出すことも極めて容易である。結局被請求人は、独善的な所論を述べていると断ずるほかない。
(イ)観念について
(a)被請求人は、本件商標と各引用商標とが観念上類似していない旨を述べているが、誤りである。
(b)まず被請求人は、請求人の永年に亘る使用により生じた「取引の実情」を前提にした類否判断という観点を全く無視している。すなわち請求人は、各引用商標を永年に亘って「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」及びその二次製品に使用してきた結果、各引用商標には二次的意味が生じており、既にかなりの周知性を獲得している各引用商標の附された商品の流通している市場に、新たに本件商標の附された商品が流通した場合には、観念の上で相紛らわしいために出所の混同を生じる虜がある、と主張しているのである。
したがって、被請求人の主張には何の意味も見いだせない。
(c)また被請求人は、乙第10号証を挙げているが、これは20年近く前の登録例であり、その当時、「バルキー性」なる表示が繊維製品の品質を表示するものとして使用されていた事実は未だ生じていなかったものと推測される。
現在においては、「バルキー性」の語は繊維、糸、織物及びこれらの二次製品の品質、すなわち「高い嵩高性」「ふわふわ感」「軽くふっくらしていること」のような共通する特定の品質を表示するために、多数の業者により使用されているという事実がある(甲第13号証?甲第27号証)。
このような現状にあって、各引用商標が「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」について永年使用されてきた結果、各引用商標を附した商品と「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」という特徴とが強固に結び付き、取引者・需要者に一定の観念を生じさせるに至っているのである。
以上のような状態にある市場に、本件商標を附した商品が流通した場合には、取引者・需要者は本件商標から「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」の意味を想起し、その結果各引用商標を附した商品との間で出所の混同を生じるであろうことは疑うべくもない。
(d)事実、本件商標は被請求人により「繊維長が短くバルキー性のあるアスペロ綿を使った、かさ高性や染色によるビンテージ調の風合いが特徴の」商品について使用されており(甲第28号証、甲第29号証)、被請求人が「バルキー性のある綿」を暗示させるために本件商標を採択したことは明らかである。のみならず、被請求人は請求人が各引用商標を附した商品を製造・販売していることは当然知悉していたはずであるから、被請求人には請求人の商品との間で故意に出所の混同を生じせしめ、不当に利益を得ようとする意思が存するのではないか、との疑念さえ抱かせる。
(ウ)まとめ
以上のように、本件商標は、各引用商標との関係で商標法第4条第1項第11号に該当することは明らかである。

4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求める。と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第10号証を提出した。
(1)称呼について
本件商標と各引用商標は、称呼において取引の場において明確に区別することができる。
本件商標は片仮名文字「バルコット」と欧文字「Bulccot」を二段書きにしてなる。かかる構成から、本件商標からは「バルコット」との自然的称呼が生じる。
一方、各引用商標は、それぞれ欧文字「BULCOTTY」と片仮名文字「バルコッティ」を二段書きにしてなる。その構成から、英語風の読み仮名にあたる片仮名文字より「バルコッティ」との自然的称呼が生じる。
本件商標から生じる自然的称呼「バルコット」と各引用商標から生じる自然的称呼「バルコッティ」を比較すると、両者はともに促音を含めた構成音数が5音と比較的短い構成音数からなる。両者は、第5音において差異音を有しており、前者は第5音が「ト」の音であるのに対し、後者は「ティ」の音からなる。「ト」と「ティ」の音は母音が「オ」と「イ」のように相違することに加え、ともに破裂音であることから、強く発音され、明瞭に聴取されるものである。しかも、各引用商標の第5音「テ」は「イ」の音を伴うことから、調音方法、音質において本件商標の第5音「ト」と大きく相違するものである。
請求人は、本件商標と各引用商標の称呼がわずかに語尾音において「ト」と「ティ」の1音の相違を有するのみであるから、これらの商標が称呼において類似する旨主張する。しかしながら、当該語尾音「ト」と「ティ」の差異は、上記のように調音方法、音質において大きく相違するうえに、その位置においても、弱く発音される促音「ッ」の後に位置するため、他の音の影響を受けずに明瞭に強音として発音され、聴取されるものといえる。
よって、本件商標と各引用商標は、その称呼において類似しないものである。
なお、請求人は昭和56年審判第5394号において出願商標「バルコット/BULLCOTT」が本件引用A商標と類似すると判断されたことを理由に、本件商標と各引用商標についても相類似する商標であると判断されるべきである旨主張する。しかしながら、当該審判は現在から25年も前のものであり、過去にそのような判断がなされたとしても、かかる判断が本件商標の指定商品の今日における取引の実情に直ちにあてはまるとはいえない。今日のように情報媒体が多様化し、情報量が飛躍的に増大した社会においては、需要者は多量の情報を識別することに慣れ、個々の情報間の差異に敏感に反応するといえる。そのため、上記のように発音において明瞭な差異を有する本件商標と各引用商標は、その指定商品の取引者、需要者をして取引の場において明確に区別されるものといえる。
ちなみに過去の審決で、「ティ」と「ト」の音のみに差異を有する商標が非類似の商標と判断されている例も多数存在する(乙第1号証ないし乙第8号証)。
(2)外観について
外観において、本件商標と各引用商標は、片仮名文字の部分について「ト」と「ティ」の差異、欧文字部分について「cot」の文字と「OTTY」の文字の差異を有し、取引者、需要者をして彼此見誤らせるおそれはないといえる。
よって、外観において本件商標と各引用商標は類似しない。
(3)観念について
本件商標と各引用商標はともに造語商標であり、意味合いにおいてこれらの商標を比較することはできない。本件商標と各引用商標が造語商標であることは、乙第9号証の英和辞典において、「Bulccot」および「BULCOTTY」の語が掲載されていないことからも知られる。
よって、本件商標と各引用商標は、観念において非類似の商標といえる。
請求人は、本件商標および各引用商標から、取引者、需要者が「バルキー性に富んだ綿糸風素材」との同一の観念を想起するおそれがある旨主張する。
しかしながら、本件商標および各引用商標は、外観、称呼において一体不可分に認識される商標であることから、これらの商標に接する取引者、需要者が本件商標においては「Bulc」「cot」、各引用商標においては「BUL」「COTTY」の部分に分離し、その各々の意味を認識したうえで、再びこれらの意味同士を結びつけ、本件商標または各引用商標の意味合いを把握することは取引の場においては極めて不自然といえる。
したがって、本件商標および各引用商標は、その構成全体をもって取引者、需要者に理解、認識され、請求人が主張するような同一の意味合いを理解させるものではないといえる。
本件商標および各引用商標に接する取引者、需要者が、これらの商標をその構成全体をもって認識するという取引の実情は、登録商標「バルキーコット/BULKY COT」(登録第1981570号)が本件商標および各引用商標と併存して登録されていることからも窺い知ることができる(乙第10号証)。当該登録商標についても、請求人の主張のように解した場合、「バルキー性に富んだ綿糸風素材」の意味合いを理解させることとなる。
したがって、本件商標と各引用商標は、観念において非類似の商標といえる。
(4)以上、要述したように、本件商標と各引用商標とは、称呼、外観および観念のいずれも類似しない非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に該当せず、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効にされるべきものではない。

5 当審の判断
本件商標と各引用商標は、上記1及び2のとおりの構成よりなるものであって、それぞれの構成文字に相応して、本件商標からは「バルコット」、各引用商標からは「バルコッティ」の各称呼を生ずるものと認められる。
そこで、本件商標より生ずる「バルコット」の称呼と各引用商標より生ずる「バルコッティ」の称呼とを比較するに、両称呼は、語尾音において、音質、明瞭に異にする「ト」と「ティ」の差異を有しており、しかも、前者の語尾音「ト」は稍、力の入る音であるから、その発音において、つまった感のする強音で終わるのに対し、後者の語尾音「ティ」は促音を伴う前音に続く関係上、これを発音するときは音素としての子音「t」が弱音化し滑らかな流れるような音感を生じさせるものである。
そうとすれば、語尾音における差異が短い音構成よりなる両称呼の全体に与える影響は大きいといわざるを得ないから、それぞれを全体として一連に称呼した場合、その語調、語感が異なり彼此聞き誤るおそれはないというべきである。
また、本件商標と各引用商標は、それぞれの構成文字より直ちに特定の観念を生ずるものとは認められないから、本件商標と各引用商標とは、その観念において比較すべくもない。さらに、外観上も判然と区別し得るものである。
してみれば、本件商標と各引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれよりみて、十分に区別し得る非類似の商標である。
なお、請求人は、観念について、甲第13号証ないし甲第27号証を提出し、市場において本件商標を附した商品が流通した場合には、取引者・需要者は本件商標から「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」の意味を想起し、その結果、各引用商標を附した商品との間で出所の混同を生じるであろうことは疑うべくもない旨主張しているが、本件については、それらの証拠を考慮しても、上記認定のとおりであるから、この点に関する請求人の主張は採用の限りでない。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2006-10-02 
結審通知日 2006-10-06 
審決日 2006-10-18 
出願番号 商願2004-115854(T2004-115854) 
審決分類 T 1 11・ 263- Y (Y24)
T 1 11・ 262- Y (Y24)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 山口 烈
特許庁審判官 小林 由美子
山本 良廣
登録日 2005-05-27 
登録番号 商標登録第4867571号(T4867571) 
商標の称呼 バルコット、ブルコット 
代理人 岩井 智子 
代理人 中川 博司 
代理人 山田 威一郎 
代理人 松本 尚子 
代理人 網野 友康 
代理人 松本 康伸 
代理人 初瀬 俊哉 

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