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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
管理番号 1148421 
審判番号 無効2006-89021 
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-01-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-02-22 
確定日 2006-11-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第4867566号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4867566号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4867566号商標(以下「本件商標」という。)は、「バルコット」及び「Bulccot」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成16年12月20日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,ナイトキャップ,帽子,運動用特殊衣服」を指定商品として、平成17年5月27日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録第4574241号商標(以下「引用商標」という。)は、「バルコッティ」及び「BULCOTTY」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成13年7月2日に登録出願、第24類「織物(畳べり地を除く。),メリヤス生地,フェルト及び不織布,ゴム引防水布,ビニルクロス,レザークロス,ろ過布,布製身の回り品,ふきん,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,カーテン,テーブル掛け,シャワーカーテン,のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,靴下,スカーフ,手袋,ネクタイ,ずきん,帽子,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」を指定商品として、平成14年6月7日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第29号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求の理由
(1)本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
(ア)本件商標と引用商標との称呼類似
本件商標からは「バルコット」の称呼が生じ、一方、引用商標からは「バルコッティ」の称呼が生じることは明らかである。
よって比較するに、両称呼はともに5音からなり、5音のうち「バルコッ」の4音までを共通にし、わずかに語尾音において「ト」と「ティ」との1音の相違を有するのみである。
そして、両差異音を比較するに、「ト」は子音[t]と母音[o]との綴音であり、「ティ」は子音[t]と母音[i]との綴音であるから、両音は子音を共通にする響きの近似した音である。差異音が聴別上さほど重要ではなく聞き取りにくい語尾に位置しており、かつ促音「ッ」を伴って強く発音される有声破裂音「コ」の後に続くことをも勘案すると、「ト」と「ティ」との相違が両称呼全体に及ぼす影響はごく小さく、したがって、両称呼をそれぞれ一連に発音したときには、語調・語感が似通っているために彼此聞き誤るおそれが充分認められる。
よって、本件商標と引用商標とは、称呼上相紛らわしい相互に類似する関係にある。
(イ)過去の審決例
過去の審決例としては、昭和56年審判第5394号において、「バルコット」及び「BULLCOTT」の文字を二段併記してなり、第16類「織物」等を指定商品として商標登録出願された商標と、請求人の所有に係る登録第902093号商標との類否が争われた事件がある(甲第3号証の2)。登録第902093号商標は、「BULCOTTY」の欧文字と「バルコッティ」の片仮名文字を二段併記してなり、引用商標とは社会通念上同一の商標である。審決は、出願商標からは本件商標と同一の「バルコット」の称呼が生ずると認定した上で、登録第902093号商標より生ずる「バルコッティ」の称呼と語調語感が近似し、彼此相紛れるおそれがある称呼上類似の商標と判断するのが相当である、と認定した。
上記審決と同様に、「ト」と「ティ」との一音が相違する両称呼を相紛らわしいと判断した他の審決も複数存在する(甲第4及び第5号証、カッコ内は審決において認定された称呼)。
・TWEETY(ツイーティ)=TWEET(ツイート)
・トースト倶楽部(トーストクラブ)=TOASTY CLUB(トースティクラブ)
以上のような審決例よりするも、本件商標と引用商標とは、「ト」と「ティ」との一音が相違する相紛らわしい称呼をそれぞれ生ずる類似する商標である、と判断するのが相当である。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(ア)請求人による使用
引用商標と社会通念上同一の商標は、請求人(請求人設立の平成14年1月25日以前は請求人の関連会社である帝人株式会社)により、遅くとも1999年(平成11年)秋頃から、商品「織物」について使用開始され、現在に至るまで継続して使用された結果、遅くとも本件商標の出願日には、請求人の製造・販売に係る商品「織物」を表示するものとして取引者・需要者間で著名商標となるに至っているという事実がある(甲第6ないし第12号証)。
甲第6号証は、帝人株式会社のHP写であり、帝人株式会社が新開発の素材に引用商標と実質的に同一の商標「バルコッティ」「BULCOTTY」を付して1999年秋冬シーズン向けに発売する旨が発表されている。
甲第7号証は、請求人のHP写であり、「Bulcotty」「バルコッティ」の商標を付した商品が現在は請求人の製造・販売に係る旨が証されている。
甲第8号証は、「Bulcotty」「バルコッティ」についての新聞記事スクラップであり、甲第9ないし第11号証は、それぞれアパレルメーカーのHPであって、これらによると1999年以来「Bulcotty」「バルコッティ」がブラックフォーマル、婦人服、デニム、ジーンズ、事務服の素材として使用され続け、「2004年2月までの11ヶ月間で1万5000反販売した」、「デニム中心にヒット」しているヒット商品であることが証される(甲第8号証)。
甲第12号証は、素材ラベルであり、素材として「Bulcotty」「バルコッティ」を使用したブラックフォーマル、婦人服、デニム、ジーンズ、事務服等の二次加工品に付されて販売されるものである。
これらの各甲号証によると、引用商標と実質的に同一の商標は、遅くとも本件商標の出願日以前には、請求人の商品を表す表示として著名になっていたことが証される。
(イ)本件商標の指定商品と商品「織物」との関係
本件商標の各指定商品と、商標「Bulcotty」「バルコッティ」が使用された商品「織物」とは、関連性が非常に深いことは明らかである。すなわち、本件商標の指定商品である被服及び運動用特殊被服は、その原材料が「織物」である。
また、請求人のようないわゆるテキスタイルメーカーが自ら又は傘下のグループ企業によりアパレル事業を行っていることも多い。甲第13ないし第17号証はその一例である。
よって、「織物」について著名な商標と相紛らわしい商標を被服又は運動用被服に付して流通した場合には、取引者・需要者はその出所を混同し又は両者の出所に経済的若しくは組織的に何らかの関係があると誤認するおそれがある。
(ウ)称呼類似及び観念類似
本件商標と「Bulcotty」「バルコッティ」の文字からなる商標とが称呼上相紛らわしいことは上述したとおりである。
また、甲第6ないし第12号証より明らかなように、素材「Bulcotty」「バルコッティ」は軽量梳毛調ポリエステル製中空糸又はこの糸を使用した織物であって、バルキー性に富み、綿糸の代わりにデニムに使用できるほど肌触りがソフトであるという特徴を有する高機能素材である。長年に亘る使用の結果、「Bulcotty」「バルコッティ」は、上記のような「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」を表示するものとして、取引者・需要者間で認識されるに至っている。
よって、「Bulcotty」「バルコッティ」は、造語ではあるが、使用により商品の機能と強固に結び付いて「バルキー性に富んだ(bulky)、綿糸風(cotton)」を結合させた二次的意味を有する商標として取引者・需要者に認識・記憶されている、という取引の実情が生じている。
このような取引の実情の下、仮に「バルコット」「Bulccot」の文字よりなる本件商標を付した商品が市場に流通すると、取引者・需要者は「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」という「Bulcotty」「バルコッティ」と同一の観念を想起するおそれがある。
よって、取引の実情をも勘案すれば、本件商標と「Bulcotty」「バルコッティ」の文字よりなる著名商標とは観念においても相紛らわしい。
以上のように、本件商標は、著名商標「Bulcotty」「バルコッティ」との間で出所の混同を生ずるおそれがあるので、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)まとめ
以上のように、本件商標と引用商標とは、称呼及び観念において相紛らわしく、類似しており、また、本件商標と引用商標の指定商品は相抵触しているから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するにも拘わらずこれが看過されて登録されたものである。かつ、本件商標は、請求人の所有に係る著名商標「Bulcotty」「バルコッティ」との間で出所の混同を生ずるおそれがあるので、同項第15号に該当する。
よって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定によりその登録を無効にすべきものである。
2 弁駁の理由
(1)称呼について
(ア)被請求人は、「『ト』と『ティ』の音は母音が『オ』と『イ』のように相違することに加え、ともに破裂音であることから、強く発音され、明瞭に聴取されるものである」と主張する。
しかしながら、両称呼に共通する各音「バ」は両唇破裂音[b]と母音[a]との綴音、「ル」は歯茎弾音[r]と母音[u]との綴音、「コッ」は促音を伴う軟口蓋破裂音[k]と母音[o]との綴音であって、何れも強く明瞭に発音される音であり、「ト」及び「ティ」の音のみが称呼中において際だって強く発音される音とはいえない。
よって、被請求人によるこの主張は、本件商標と引用商標との両称呼に含まれる相違音同士の比較という観点に照らせば無意味であり、相違音が語尾に位置することよりすれば、全体の称呼に及ぼす影響は大きいものとは認められない。
なお、被請求人は「しかも、引用商標の第5音『テ』は『イ』の音を伴うことから…」と述べているが、『ティ』の誤りと思料する。
(イ)被請求人は続いて、「引用商標の第5音『ティ』は『イ』の音を伴うことから、調音方法、音質において本件商標の第5音『ト』と大きく相違するものである」と主張するが、何故に両音の調音方法及び音質が相違しており、しかも「大きく」相違するのか、その理由は何も述べられていない。
請求人が考えるに、「ティ」と「ト」とは共通する歯茎破裂音[t]を子音としており、調音方法及び音質はかなり共通している。
(ウ)被請求人は、さらに「当該語尾音『ト』と『ティ』との差異は、…その位置においても、弱く発音される促音『ッ』の後に位置するため、他の音の影響を受けずに明瞭に強音として発音され、聴取されるものといえる」と主張するが、失当である。
「促音に続く音」が明瞭に発音され、聴取されるとの所論は、請求人代理人らの20年以上に及ぶ商標を専門としてきた弁理士としてのキャリアにおいても、ついぞ聞いたことがない。通常、強く明瞭に発音され、かつ聴取されるのは「促音を伴う音」の方とされており(本件においては「コ」の音)、実際に両称呼を発音しても「コ」の音がとりわけ明確に発音され聴取される。「促音を伴う音」が明瞭に発音・聴取されると判じた審決・判決例は、ここに挙げるまでもなく多数見受けられる。むしろ「促音に続く音」は、一般的には促音に吸収されて弱く発音され聴き取りにくい音とされている。
被請求人のこの主張は、何か勘違いをしたのではないかと推測する。
(エ)被請求人は、請求人が過去の審決を挙げたことに対し、情報媒体の多様化・情報量の増大により需要者は多量の情報を識別することに慣れ、個々の情報間の差異に敏感に反応するので、本件商標と引用商標とは明確に区別できる、との趣旨の主張を行っている。
確かに25年前に比較して「情報媒体の多様化・情報量の増大」の生じたことは認めるが、これにより需要者が情報間の差異に敏感になった、という事実まで存在するとは到底認められない。また、そのような事実を裏付ける証拠も提出されていない。
そもそも、「情報媒体の多様化・情報量の増大」により、「需要者は処理能力を超えて押し寄せる多様かつ大量の情報の波に溺れ、個々の情報間の差異を識別しきれなくなっている」というように、被請求人とは逆の「いかにもそれらしい」結論を導き出すことも極めて容易である。
結局、被請求人は、独善的な所論を述べていると断ずるほかない。
(2)観念について
(ア)被請求人は、本件商標と引用商標とが観念上類似していない旨を述べているが、誤りである。
まず、被請求人は、請求人の永年に亘る使用により生じた「取引の実情」を前提にした類否判断という観点を全く無視している。すなわち、請求人は、引用商標を永年に亘って「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」及びその二次製品に使用してきた結果、引用商標には二次的意味が生じており、既にかなりの周知性を獲得している引用商標の付された商品の流通している市場に、新たに本件商標の付された商品が流通した場合には、観念の上で相紛らわしいために出所の混同を生じるおそれがある、と主張しているのである。したがって、被請求人の主張には何の意味も見いだせない。
(イ)また、被請求人は乙第10号証を挙げているが、これは20年近く前の登録例であり、その当時、「バルキー性」なる表示が繊維製品の品質を表示するものとして使用されていた事実は未だ生じていなかったものと推測される。
現在においては、「バルキー性」の語は繊維、糸、織物及びこれらの二次製品の品質、すなわち「高い嵩高性」「ふわふわ感」「軽くふっくらしていること」のような共通する特定の品質を表示するために、多数の業者により使用されているという事実がある(甲第13ないし第27号証)。
甲第13号証は、インターネット検索エンジン(google)による検索結果である。「バルキー性」を検索子としたヒット件数は約523件であった。1-20件目の各頁においては、「バルキー性」の語は全て繊維及び繊維製品について使用されている。
甲第14号証以下は、甲第13号証にヒットした各ページである。甲第14号証は、東洋紡ホームページの検索ページであり、複数の合成繊維素材や糸について「バルキー性」の語がそれらの品質を表示する語として使用されている事実が証される。
その他、ウール(甲第15号証)、ウールとPVAの混紡繊維(甲第16号証)、ナイロン(甲第17号証)、羊毛(甲第18号証)、ポリエステル繊維(甲第19号証)、ウールとコットンの二層構造糸(甲第20号証)、合繊長繊維不織布(甲第21号証)、精紡3子交撚綿糸(甲第22号証)、ポリ乳酸繊維(甲第23号証)、財団法人日本化学繊維検査協会によるニット製品(甲第24号証)、毛糸(甲第25号証)、英国羊毛(甲第26号証)及びレーヨン・ポリエステル合繊素材(甲第27号証)等について、「バルキー性」の語が品質表示として使用されている。
このような現状にあって、引用商標が「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」について永年使用されてきた結果、引用商標を付した商品と「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」という特徴とが強固に結び付き、取引者・需要者に一定の観念を生じさせるに至っているのである。
以上のような状態にある市場に、本件商標を付した商品が流通した場合には、取引者、需要者は、本件商標から「バルキー性に富んだ綿糸風の素材」の意味を想起し、その結果、引用商標を付した商品との間で出所の混同を生じるであろうことは疑うべくもない。
(ウ)事実、本件商標は被請求人により「繊維長が短くバルキー性のあるアスペロ綿を使った、かさ高性や染色によるビンテージ調の風合いが特徴の」商品について使用されており(甲第28及び第29号証)、被請求人が「バルキー性のある綿」を暗示させるために本件商標を採択したことは明らかである。のみならず、被請求人は請求人が引用商標を付した商品を製造・販売していることは当然知悉していたはずであるから、被請求人には請求人の商品との間で故意に出所の混同を生じせしめ、不当に利益を得ようとする意思が存するのではないか、との疑念さえ抱かせる。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第10号証を提出している。
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当する旨主張するが、被請求人は請求人の主張に承服できない。本件商標と引用商標とは、その称呼、外観及び観念において相違し、取引の場において混同を生ずるおそれのない非類似の商標である。また、本件商標は、請求人の使用に係る商標「Bulcotty」「バルコッティ」との間で出所の混同を生ずるおそれはない。以下にその理由を詳述する。
1 商標法第4条第1項第11号に該当しない理由
(1)称呼について
(ア)本件商標と引用商標は、称呼において取引の場において明確に区別することができる。本件商標は、片仮名文字「バルコット」と欧文字「Bulccot」を二段書きにしてなる。かかる構成から、本件商標からは「バルコット」との自然的称呼が生じる。一方、引用商標は、片仮名文字「バルコッティ」と欧文字「BULCOTTY」とを二段書きにしてなる。その構成から、英語風の読み仮名にあたる片仮名文字より「バルコッティ」との自然的称呼が生じる。
本件商標から生じる「バルコット」の称呼と引用商標から生じる「バルコッティ」の称呼とを比較すると、両者はともに促音を含めた構成音数が5音と比較的短い構成音数からなる。両者は、第5音において差異音を有しており、前者は第5音が「ト」の音であるのに対し、後者は「ティ」の音からなる。「ト」と「ティ」の音は母音が「オ」と「イ」のように相違することに加え、ともに破裂音であることから、強く発音され、明瞭に聴取されるものである。しかも、引用商標の第5音「テ」は「イ」の音を伴うことから、調音方法、音質においても本件商標の第5音「ト」と大きく相違するものである。
(イ)請求人は、本件商標と引用商標の称呼がわずかに語尾音において「ト」と「ティ」の1音の相違を有するのみであるから、両商標が称呼において類似する旨主張する。
しかしながら、当該語尾音「ト」と「ティ」の差異は、上記のように調音方法、音質において大きく相違するうえに、その位置においても、弱く発音される促音「ッ」の後に位置するため、他の音の影響を受けずに明瞭に強音として発音され、聴取されるものといえる。よって、本件商標と引用商標は、その称呼において類似しないものである。
(ウ)なお、請求人は昭和56年審判第5394号において出願商標「バルコット/BULCOTT」が、請求人の所有に係る登録第902093号と類似すると判断されたことを理由に、本件商標と引用商標についても相類似する商標であると判断されるべきである旨主張する。
しかしながら、当該審判は現在から25年も前のものであり、過去にそのような判断がなされたとしても、かかる判断が本件商標の指定商品の今日における取引の実情に直ちにあてはまるとはいえない。今日のように情報媒体が多様化し、情報量が飛躍的に増大した社会においては、需要者は多量の情報を識別することに慣れ、個々の情報間の差異に敏感に反応するといえる。そのため、上記のように発音において明瞭な差異を有する本件商標と引用商標は、その指定商品の取引者、需要者をして取引の場において明確に区別されるものといえる。
ちなみに、過去の審決で、例えば以下のように、「ティ」と「ト」の音のみに差異を有する商標が非類似の商標と判断されている例が多数存在する(乙第1ないし第8号証)。
・「シャレッティ」×「シャレット/SHALLET」
・「MIGHTY/マイティ」×「MIGHT」
・「POCKETY」×「POCKET/ポケット」
・「トラスティ」×「TRUST/トラスト」
・「ムスティ/MUSTI」×「MUST」
・「SILHOUETTY/シルエッティ」
・「SHILHOUETTE/シルエット」
・「smarty/スマーティ」×「smart」
・「TOASTY CLUB」×「トースト倶楽部」
(2)外観について
外観において、本件商標と引用商標は、片仮名文字の部分について「ト」と「ティ」の差異、欧文字部分について「cot」の文字と「OTTY」の文字の差異を有し、取引者、需要者をして彼此見誤らせるおそれはないといえる。よって、外観において本件商標と引用商標は類似しない。
(3)観念について
本件商標と引用商標は、ともに造語商標であり、意味合いにおいてこれらの商標を比較することはできない。本件商標と引用商標が造語商標であることは、乙第9号証の英和辞典において、「Bulccot」及び「BULCOTTY」の語が掲載されていないことからも知られる。よって、本件商標と引用商標は、観念において非類似の商標といえる。
(4)以上詳述したように、本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれも類似しない非類似の商標である。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
2 商標法第4条第1項第15号に該当しない理由
(1)請求人は、引用商標と社会通念上同一の商標が請求人により商品「織物」に使用された結果、遅くとも本件商標の出願日には、請求人の製造・販売にかかる商品「織物」を表示するものとして取引者、需要者をして著名商標となるに至っている旨、主張する。
しかしながら、請求人提出の甲第6ないし第12号証からは、請求人が商標「Bulcotty」又は「バルコッティ」を請求人の製造、販売に係る「織物」に使用していることは窺えるが、その売上高、市場占有率、宣伝広告の程度等が明らかにされておらず、本件商標の出願日である2004年12月20日より前から当該商標が著名であったとはいえない。
また、本件商標と引用商標とは、上記1のとおり、称呼、外観及び観念において商標自体非類似のものであるから、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、請求人の商標「Bulcotty」及び「バルコッティ」 を連想、想起することはないといえる。
(2)請求人は、本件商標及び商標「Bulcotty」「バルコッテイ」から、取引者、需要者が「バルキー性に富んだ綿糸風素材」との同一の観念を想起するおそれがある旨主張する。
しかしながら、本件商標及び商標「Bulcotty」「バルコッティ」は、その構成全体をもって取引者、需要者に理解、認識され、請求人が主張するような同一の意味合いを理解させるものではないといえる。取引者、需要者がこれらの商標をその構成全体をもって認識するという取引の実情は、登録商標「バルキーコット/BULKY COT」(登録第1981570号)が本件商標及び引用商標と特許庁において併存して登録されていることからも窺い知ることができる(乙第10号証)。当該登録商標についても、請求人の主張のように解した場合、「バルキー性に富んだ綿糸風素材」の意味合いを理解させることとなる。
(3)したがって、本件商標と商標「Bulcotty」「バルコッティ」とは異なる商標と認識されるものであり、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、取引者、需要者をして請求人の商標「Bulcotty」又は「バルコッティ」を連想、想起させることはないといえる。また、請求人と経済的、組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるとの混同を生じるおそれもない。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
3 まとめ
以上詳述したように、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当せず、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効にされるべきものではない。
よって、本件審判の請求は成り立たない。

第5 当審の判断
本件商標と引用商標との類否について検討するに、それぞれの構成文字に相応して、本件商標は「バルコット」の称呼を生じ、引用商標は「バルコッティ」の称呼を生ずること明らかである。
しかして、本件商標から生ずる「バルコット」の称呼と引用商標から生ずる「バルコッティ」の称呼とを対比すると、両者は、同音数からなり、称呼の識別上重要な要素を占める語頭音の「バ」をはじめ、これに続く「ル」及び「コッ」の音を共通にし、語尾音が「ト」と「ティ」と相違するのみである。しかも、相違する「ト」と「ティ」の音は、舌尖を上前歯のもとに密着して破裂させて発する無声子音(t)を共通にする近似音であるばかりでなく、比較的聴取し難い語尾に位置し、かつ、前音の「コッ」が促音を伴って強く発音され、これに吸収されるように響くことから、両音の差異が全体に及ぼす影響はわずかなものというべきである。そうすると、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、全体の語調語感が近似し、彼此相紛らわしいものといわなければならない。
してみれば、本件商標と引用商標とは、称呼上相紛らわしい類似の商標と判断するのが相当である。
また、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは、同一又は類似のものといえる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであるから、請求人のその余の主張について検討するまでもなく、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2006-09-25 
結審通知日 2006-09-29 
審決日 2006-10-13 
出願番号 商願2004-115847(T2004-115847) 
審決分類 T 1 11・ 262- Z (Y25)
最終処分 成立  
特許庁審判長 高野 義三
特許庁審判官 中村 謙三
井岡 賢一
登録日 2005-05-27 
登録番号 商標登録第4867566号(T4867566) 
商標の称呼 バルコット、ブルコット 
代理人 初瀬 俊哉 
代理人 松本 康伸 
代理人 山田 威一郎 
代理人 網野 友康 
代理人 松本 尚子 
代理人 岩井 智子 
代理人 中川 博司 

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