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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) Z09
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) Z09
管理番号 1133097 
異議申立番号 異議2003-90830 
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2006-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-22 
確定日 2006-02-15 
異議申立件数
事件の表示 登録第4710768号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第4710768号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第4710768号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲(1)のとおりの構成よりなり,第9類「耳栓,加工ガラス(建築用のものを除く。),アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置,オゾン発生器,電解槽,検卵器,金銭登録機,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,自動販売機,ガソリンステーション用装置,駐車場用硬貨作動式ゲート,救命用具,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置,火災報知機,ガス漏れ警報器,盗難警報器,保安用ヘルメット,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,潜水用機械器具,業務用テレビゲーム機,電動式扉自動開閉装置,乗物運転技能訓練用シミュレーター,運動技能訓練用シミュレーター,理化学機械器具,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,磁心,抵抗線,電極,消防艇,ロケット,消防車,自動車用シガーライター,事故防護用手袋,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,防火被服,眼鏡,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCDーROM,スロットマシン,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,運動用保護ヘルメット,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,レコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCDーROM,計算尺,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」を指定商品として,平成15年3月19日に登録出願,同年8月5日に登録査定,同年9月19日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人ら(以下「申立人ら」という。)は,本件商標の登録は取り消されるべきであるとして,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第303号証を提出している。
1 引用標章について
申立人らの中,社団法人電気通信事業者協会(以下,「電気通信事業者協会」という。)は,1987年に設立された民法第34条に基づく公益法人である(甲第2号証)。
電気通信事業者協会は,2004年1月5日現在,その会員数が104社にのぼっており,我が国の主要な電気通信事業者の大半が会員となっている。
そして,電気通信事業者協会は,1996年7月3日に移動電話利用マナー委員会を設置し,移動電話の利用マナーの周知啓発活動を表彰する「マナーマーク」と呼ばれている別掲(2)のとおりの構成よりなるロゴマーク(以下「引用標章」という。)を1996年8月30日に制定した(甲第3号証)。
引用標章は,移動電話の利用マナーに対する理解を我が国の取引者・需要者に喚起するという公益目的から,1996年の制定以来電気通信事業者協会や同協会会員のみならず移動電話製造業者及び移動電話事業者により移動電話の利用マナーに対する理解を呼び掛ける文章とともに一般需要者に向けて広く使用されているものである(甲各号証)。
甲各号証によれば,引用標章は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国の電気通信事業者,移動電話製造業者,移動電話事業者,並びに,移動電話の需要者の間で,移動電話の利用マナー周知啓発活動という電気通信事業者協会の非営利公益事業を表示する標章として著名であったと考えるのが妥当である。
なお,引用標章は,団体商標に関する規定が我が国商標法に制定される以前の平成8年1月12日付で,電気通信事業者協会の会員を代表して申立人の一人である「株式会社エヌ・テイ・テイ・ドコモ」(以下「ドコモ社」という。)が第38類「移動体電話による通信,無線呼出し,電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」を指定役務として登録出願を行い,その後,商標登録第4059547号として,平成9年9月19日に設定登録されたものである(甲第302号証)。
2 商標法第4条第1項第6号について
本件商標と引用標章とは,共に,ハート型の図形の上に携帯電話を人の顔に擬して表した図形を重ねるという共通の構成からなるため,両者は極めて類似するものである。
したがって,本件商標は,公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章である著名な引用標章と類似の商標というべきである。
3 商標法第4条第1項7号について
公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章である著名な引用標章と極めて類似し,指定商品として,第9類の「電気通信機械器具」を包含する本件商標に登録を認め,かつ,当該登録に基づいて商標権の行使を認めることは,以下の理由により,社会公共の利益に反するとともに,社会の一般的道徳観念に反するものである。
先ず,電気通信事業者協会や移動電話製造業者自身による公益目的からの引用標章の使用が妨げられてしまうおそれがある。
次に,商標権者は,本件商標が登録査定を受けた直後に,申立人らの一人であるドコモ社に接触し,高額な対価の支払いと引換えによる本件商標の譲渡の申し入れを第三者から受けたことをドコモ社に伝えている(甲第303号証)。仮にその申し入れが事実であったとしても,商標権者によるこのような行動は,当該第三者からの申し入れを上回る高額な対価の支払いを暗に要求するものと受け止めるのが自然である。そうとすれば,商標権者は,引用標章の存在を登録出願前に十分認識した上で,本件商標が登録された後に譲渡又は使用権を設定することを意図する「不正の目的」に基づいて本件商標を登録出願したものと推論せざるを得ない。
したがって,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきである。
4 商標法第4条第1項第15号について
本件商標がその指定商品中「電気通信機械器具」等に使用された場合には,本件商標に接する取引者・需要者は,当該商品があたかも電気通信事業者協会または同協会の会員である電気通信事業者,あるいは,当該非営利公益事業に賛同する移動電話製造業者と経済的又は組織的に何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかのように誤認し,商品の出所について混同するおそれが極めて大きいといわざるをえない。
5 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第6号,第7号及び第15号に違反してされたものであるから,同法第43条の3第2項の規定により取り消されるべきものである。

第3 取消理由の通知
当審は,商標権者に対し,平成16年6月15日付けで本件商標の登録を取り消すべき旨の取消しの理由を通知した。
その要旨は次のとおりである。
1 本件商標を巡る事実関係について
甲第2号証ないし甲第88号証,甲第91号証ないし甲第110号証,甲第112号証ないし甲第237号証,甲第240号証ないし甲第295号証,甲第299号証,甲第300号証及び甲第303号証並びに申立ての理由によれば,以下の事実が認められる。
(1)申立人らのうち,電気通信事業者協会は,第一種電気通信事業に関する広報,調査研究及び事業者共通の問題処理等を通じて,情報通信産業の健全な発展による国民の利便の向上に資することを目的として,1987年に設立された民法第34条に基づく公益法人である。
(2)電気通信事業者協会は,携帯電話,PHS等の移動電話の急速的な普及に伴い,移動電話の利用上生ずる問題を対処するため,平成8年8月30日に,自動車運転中の移動電話使用による交通事故防止キャンペーンを中心に,移動電話の利用マナー周知啓発活動の一環として,別掲(2)のとおりの構成よりなる引用標章を制定した。
その後,電気通信事業者協会及びその会員等は,上記交通事故防止キャンペーンをはじめ,移動電話を利用する際のマナーなどを普及するため,引用標章を使用して,全国紙,雑誌,コンサートプログラム,会員の取扱商品のカタログ等に盛大に宣伝活動を行ってきた。
(3)平成15年9月10日に,商標権者は,電気通信事業者協会の会員であるドコモ社に対し,本件商標を含めた登録商標の売渡しを示唆する申し入れをした。
2 引用標章の著名性について
前記1で認定した事実を総合すると,引用標章は,電気通信事業者協会及びその会員等が移動電話の利用マナー周知啓発活動といった公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章として使用しているものであって,電気通信事業者協会及びその会員等の宣伝活動及び移動電話の普及の程度を併せ考慮すると,遅くとも本件商標の登録出願時には一般に広く認識されていたものということができ,その後においても著名性は継続していたものと認められる。
3 本件商標と引用標章との類否について
本件商標と引用標章とは,別掲(1)及び(2)のとおり,いずれも擬人化した移動電話とハート型輪郭を組み合わせた構成を基本としてなるものであって,アンテナ部分,目と思しき部分の太さ等において若干の相違を有するものの,上記のとおり擬人化した移動電話とハート型輪郭との組み合わせといった特異な構成よりなる点において共通し,外観上酷似したものというべきである。
4 まとめ
(1)前記2及び3によれば,本件商標は,少なくとも公益に関する事業を行っている電気通信事業者協会等が,公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章として使用し,本件商標の登録査定(平成15年8月5日)前より著名となっていた引用標章と酷似する商標というべきものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第6号に違反して登録されたものである。
(2)また,引用標章は,本件商標の登録出願日(平成15年3月19日)前より移動電話の利用マナー周知啓発活動を表示する標章として著名になっていたものである。引用標章の著名性よりすれば,商標権者は,他人の引用標章の使用を本件商標の登録出願日前に知っており,その上で,商品及び役務の区分第9類に引用標章が商標登録されていないことを奇貨として,引用標章と酷似した本件商標を採択し,同第9類に属する移動電話等を含む商品を指定商品とする登録出願をしたものと推認される。
以上によれば,商標権者は,著名な引用標章と酷似する商標を,不正の目的をもって使用するために,移動電話の利用マナー周知啓発活動と密接に関連する商品等を指定商品として登録出願したものと解される。このことは,前記1(3)で認定したとおり,ドコモ社に対し,本件商標を含めた登録商標の売渡しを示唆する申し入れをした事実からも窺うことができる。
このような商標権者の行為に基づいて登録された本件商標は,公正な取引秩序を乱すものであり,社会公共の利益を害するものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。

第4 商標権者の意見
平成16年6月15日付けをもって通知した前記取消理由に対し,商標権者は,同年9月29日付け意見書及び同年11月2日付け意見書において,意見要旨を次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第9号証を提出している。
1 商標法第4条第1項第6号の該当性について
(1)引用標章の著名性について
取消理由通知において,引用標章は著名である旨認定しているが,著名となっているとはいえないものである。
特定の標章が著名性を獲得するためには,その前提として,自己の事業と他人の事業とを識別し得る態様,すなわち,いわゆる自他商品・役務識別機能を発揮し得る態様で自己の業務について使用することが必要となるものである。
しかしながら,甲各号証によると,単に,新聞広告やテレビCMにおける単なる付記や,携帯電話のカタログや説明書における電話機の機能説明など,識別機能を発揮し得ない態様で表示されているにすぎないものであるから,需要者・取引者が電気通信事業者協会及びその会員等による公益事業を表示する標章と認識し得ないものであって,電気通信事業者協会等の公益事業を表示し得ない以上,引用標章が電気通信事業者協会及びその会員等の何らかの公益事業を表示するものとして,著名性を獲得することは決してあり得ないものである。
このことは,現実に電気通信事業者協会の会員であるドコモ社からの2003年11月7日付け回答書において,「・・・依頼会社の『マナーマーク』及び『リサイクルマーク』の使用は,客観的にみても自他商品の識別機能を果たしておらず,また,主観的意図からもしても商品の出所を表示する目的をもって表示されたものではないと考えますので,そもそも商標の使用とはいえず」(乙第1号証)と主張していることからも明らかである。
さらには,仮に,引用標章に著名性の獲得が認められるとするならば,公益事業の事業主である電気通信事業者協会のみが,引用標章について商標登録を受け得る者であって,たとえ電気通信事業者協会から承諾を受けた者であっても,商標登録を受けることはできないことは,商標法第4条第2項の規定からも明らかである。しかしながら,後述の如く,引用標章と同一の標章につき,現にドコモ社が商標登録を受けていることは,引用標章が著名性を欠くことの証左に他ならないものである。
(2)以上のごとく,引用標章が著名性を獲得することは皆無である以上,本件商標の登録出願時はもとより登録査定時においても決して著名となっているものとはいえないものであるから,本件商標が,商標法第4条第1項第6号に違反して登録された事実は皆無というべきである。
2 商標法第4条第1項第7号の該当性について
(1)本件商標の登録出願の経緯について
(ア)本件商標の採択の所以は,デザイナー徳田吉泰(以下「徳田」という。)が平成7年1月15日までに描き溜めた携帯電話機関連の各種デザインを基に同人指導の下で商標権者所属のデザイナーが描いた3デザイン案の中から採択し登録出願したものである(乙第3号証ないし乙第5号証)。
(イ)徳田は,平成7年1月10日頃から同月15日までに描き溜めた携帯電話機関連の各種デザインを基に,費用面を考慮してその象徴するものとして描いたデザインの1について,第9類「電話機」を指定商品として,同年2月17日に商標登録出願(商願平7-14001)したところ,同9年6月13日に登録第3321420号として設定登録された(乙第6号証)。
(ウ)徳田は,前記登録出願をした後直ちに前記各種デザインを添付した企画書(乙第4号証)をドコモ社,株式会社ツーカーセルラー東京,日本移動通信株式会社等に送付し,携帯電話のオリジナルマークの提案を図った(乙第4号証,乙第5号証及び乙第7号証)。
(エ)しかしながら,ドコモ社からは企画書を受け取ったことを認めるものの誠意ある対応を受けることができず,また日本移動通信株式会社からは平成7年7月吉日付けの礼状を受領するのみであった(乙第5号証,乙第7号証及び乙第8号証)。
それに止まらず,その後においては,あたかも徳田による各種デザインに類似したものと目される引用標章等が散見されるに至ったことから,これに困窮した徳田は,友人である田中良二(以下「田中」という。)から商標権者の紹介を受け,本件商標の登録出願をするに至ったものである(乙第3号証,乙第5号証及び乙第7号証)。
(オ)このような,経緯を参酌すれば,むしろ,電気通信事業者協会が平成8年8月30日に採択した引用標章と同一の標章について,ドコモ社が同年1月12日に第38類に属する役務を指定役務として登録出願し,同9年9月19日に設定登録(登録第4059547号)を受けている(乙第9号証)ことに対して,同社が企画書を受け取ったにもかかわらずこれを無視し,その提示された各種デザインに依拠して引用標章と同一の標章をデザインをし,その設定登録を受けたものではないのかと推測し得るものである。
(2)商標権者とドコモ社との協議について
平成15年9月10日における商標権者とドコモ社との協議内容については甲第303号証として提出されているものであるが,現実の全協議内容においては,乙第2号証に示す如く,商標権者がドコモ社に対して,積極的に本件商標を含めた登録商標の売渡しを申し入れているということはできないばかりか,これを示唆するものとも決して認識し得ないものである。商標権者が本件商標について第9類において商標権を取得している旨を伝え,単にドコモ社の意見を伺うために訪れたにすぎないものである(乙第2号証及び乙第3号証)。
(3)小括
以上の経緯を斟酌すれば,商標権者の本件商標の採択には何らの不正の目的をもって使用する意図があったとはいうことができないものであるから,本件商標の登録には公正な取引秩序を乱すことはなく,また,社会公共の利益を害することはあり得ないものである。
このため,本件商標が,商標法第4条第1項第7号に違反して登録された事実は皆無というべきである。
3 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第6号及び同第7号に該当しないものである。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第6号の該当性について
商標権者は,本件商標の登録は引用標章が著名性を獲得していないから商標法第4条第1項第6号に違反してされたものではない旨主張し,引用標章が著名性を獲得していない理由として,特定の標章が著名性を獲得するためには,その前提として,いわゆる自他商品・役務識別機能を発揮し得る態様で自己の業務について使用することが必要となるが,引用標章は識別機能を発揮し得ない態様で使用されているにすぎないことを挙げている。
商標法第4条第1項第6号に掲げる標章については,文理上,「商標」の語ではなく「標章」の語をもって規定していること及び商品又は役務に使用されていることを必要とする旨の明文の規定が存在しないことからすれば,常にいわゆる商標法上の商品又は役務に使用している標章でなければならないものではない。本号に掲げる標章であって著名なものと同一又は類似の商標が,登録要件を欠くとされているのは,本号に掲げる標章の権威を尊重することや国際信義の上から,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないことによるものと解される。そうすると,商品又は役務に使用されている標章に限定して本号を適用しなければならないとする理由はなく,いわゆる商標法上の商品又は役務に使用されていない標章であっても,その著名なものと同一又は類似の商標については,その標章を引用して当該商標の登録を拒絶できるというべきである。
したがって,この点に関する商標権者の主張は,その前提を欠き,採用することができない。
また,商標権者は,引用標章が著名性を獲得していないことは,ドコモ社のマナーマークの使用が商標の使用とはいえない旨主張している(乙第1号証)ことから明らかである旨主張しているが,上述した理由により,採用することができない。
さらに,商標権者は,引用標章が著名性を獲得していないことは,ドコモ社が引用標章と同一の標章につき商標登録(第4059547号)を受けていること(乙第9号証)からも明らかである旨主張しているが,登録第4059547号商標の審査において,その登録出願ないし登録査定当時,引用標章は使用開始からあまり時間が経過しておらず著名性を認定するに足りる証拠がなかった等の理由により著名性が認められなかったとしても,取消理由通知においては,甲各号証に基づき,引用標章は,電気通信事業者協会及びその会員等が移動電話の利用マナー周知啓発活動といった公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章として使用しているものであって,電気通信事業者協会及びその会員等の宣伝活動及び移動電話の普及の程度を併せ考慮すると,遅くとも本件商標の登録出願時には一般に広く認識されていたものということができ,その後においても著名性は継続していた旨認定したものであって,両者の判断時期及び証拠資料が異なるため,本件商標の異議申立の審理において引用標章について著名性を有する旨認定しても不合理とすべきものではないから,先の取消理由通知における認定を覆すに足りない。
したがって,本件商標の登録は引用標章が著名性を獲得していないから,商標法第4条第1項第6号に違反してされたものではない旨の商標権者の主張は,採用することができない。

2 商標法第4条第1項第7号の該当性について
商標権者は,本件商標の採択経緯からすれば,不正の目的をもって使用するために本件商標の登録出願をしたものではないなどと主張しているので,以下この点について検討する。
(1)徳田の考案した携帯電話に関するデザインの保護を理由とする点について
そもそも,商標登録制度は,商標の出所識別機能を通じて獲得された商標権者の業務上の信用を保護するとともに,商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることを目的としたものであり,文字や図形などからなる商標の創作・考案を保護することを目的とするものではない。したがって,図形からなるデザインを考案し,そのデザインを商標として登録出願したとしても,その商標の登録出願行為が社会公共の利益に反すると認められる理由が存在する場合には,出願人は,商標のデザインを考案したことを理由に出願行為の反社会性を正当化することはできないというべきである。
徳田の平成16年9月17日付け陳述書(乙第5号証),企画書(乙第4号証),田中の平成16年9月17日付け陳述書(乙第7号証)及び商標権者株式会社ガブリエル(以下「ガブリエル社」ともいう。)の高塚社長の平成16年9月17日付け陳述書(乙第3号証)によれば,徳田は,平成7年1月ころ,特許庁における商標登録の調査の結果,携帯電話に関するマークを誰も登録していないことを知ったので,携帯電話のデザインビジネスをしようとして,約70件以上の携帯電話に関するデザインを考案し,企画書を携帯電話関連会社に送付したが,企画書を送付した企業からは満足の行く返事が得られないばかりか,その後自己の考案したデザインと類似するマークを携帯電話に関連して他人に使用されたとして対策を考えていたところ,友人の田中を介して高塚社長を紹介されたこと,徳田のこの経緯を聞いた高塚社長は,徳田の指導の下にガブリエル社のデザイナーに3件のデザインを制作させ,平成15年3月19日にその中の2件をガブリエル社名義で商標登録出願したこと,その中の1件が本件商標であることの各事実が認められる。そして,高塚社長らが本件商標の登録出願をした意図は,徳田の考案した携帯電話に関するデザインについて商標登録による保護を受け,携帯電話のデザインビジネスをすることにあったものと認められる。
なお,商標権者は,徳田が平成7年1月ころ考案したとする携帯電話に関するデザイン及び徳田の指導の下にガブリエル社のデザイナーがデザインしたとする本件商標のデザインについて,いずれも著作権法に基づき保護を受けられる著作物等であるとの主張,立証はなく,また,高塚社長らが本件商標の指定商品について登録出願前より生産,販売する計画があり,そのために本件商標の商標登録出願をした旨の主張,立証もしていない。
本件取消理由通知は,商標権者が,移動電話の利用マナー周知啓発活動を表示する標章として著名な引用標章と酷似する本件商標を,不正の目的をもって使用するために,移動電話の利用マナー周知啓発活動と密接に関連する商品等を指定商品として登録出願したものであるから,本件商標は,公正な取引秩序を乱し,社会公共の利益を害するものというべきであり,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである旨認定,判断したものであり,商標権者の主張する本件商標の採択経緯が徳田の指導の下にガブリエル社のデザイナーにそのデザインを制作させたものであること,その他前記認定のとおりの事情であったとしても,本件商標の採択経緯に反社会性があるとした先の認定,判断を覆すに足りず,この点に関する商標権者の主張は採用することができない。
(2)ドコモ社が徳田の考案したデザインに依拠して商標登録を得たとする点について
商標権者は,ドコモ社が平成9年9月19日に引用標章と同一の標章について第38類に属する役務を指定役務として商標登録(登録第4059547号)を受けているが,同社が徳田からの企画書を受け取ったにもかかわらずこれを無視し,その提示された各種デザインに依拠して引用標章と同一の標章をデザインをし,その登録を受けたものではないのかと推測し得る旨主張しているところ,その主張の趣旨は必ずしも明確ではない。仮に,ドコモ社の登録第4059547号商標は,徳田のデザインに依拠したものであるから,違法に登録されたものである旨の主張であるとすれば,この主張は,商標法上,商標登録出願の審査において,登録出願された商標が他人の著作権等と抵触するか否かを判断すべきこととはされていない(15条,29条参照)点において採用できないばかりか,本件取消理由通知とは全く別の問題であるという点においても採用できない。また仮に,引用標章は,徳田のデザインに依拠したものであるから,本件商標の登録が違法にされたものではない旨の主張であるとしても,この主張は,商標権者の提出した証拠を含む本件全証拠によっても徳田の考案したデザインを電気通信事業者協会が引用標章として違法に模倣,盗用したと認めるに足りず,採用することができない。
(3)本件商標の採択に不正の目的をもって使用する意図はなかったとする点について
ア ガブリエル社高塚社長らとドコモ社知的財産部長らとの協議について
商標権者は,平成15年9月10日にガブリエル社の高塚社長がドコモ社を訪れたのは,商標権者が本件商標について第9類において商標権を取得している旨を伝え,単にドコモ社の意見を伺うためのものにすぎない旨主張しているので,この点について検討する。
甲第303号証及び乙第2号証によれば,ガブリエル社の高塚社長らは,本件商標の設定登録がなされる前の平成15年9月10日に,ある政治家事務所を介して,面会の予約及び本件商標(マナーマーク)やリサイクルマーク等の資料を送付した上,ドコモ社に出向き,同社知的財産部長らと要旨次のような協議をしている。
ガブリエル社側「特にこの件に関してですね,何かしら話があると言うことで参った訳ではないんですよ。事実として商標を登録しましたということに対してNTTさんでどういう風にお考えになっているかということを,まずお聞きしようという部分で来たわけですよ。我々としてはね。・・・」
ドコモ社側「私どもだけで判断できず,事業者協会さんとも相談しながら決めなければならないので,お時間をいただきたい。」
ガブリエル社側「大体お時間というとどれくらい。大きい会社だから,時間はかかるでしょうけれど。」
ドコモ社側「たぶん一ヶ月くらいだと思うんですが。」
ガブリエル社側「わかりました。」
ドコモ社側「繰り返しになりますが,〇〇先生の事務所から御社の話を聞いてやって欲しいと,それでしたら結構ですよと,まずはご要望の中身をお伺いしましょうということで。その件について私どもとか事業者協会に対して何か,そのご希望というのは。」
ガブリエル社側「ないです。ただあっちこっちからこれに関していろんなオファーがありまして,そのアメリカのあのそういった商標ホルダーの会社みたいなところからオファーあったりして来るわけなんですよね。であっこれは商売になるのかなと逆にいうと,ただお金のそれに関して言えば出てきたものですから,じゃあとにかく取りあえずNTTさんに相談しようかと,訳のわからないやつもいっぱいいますから,何でそういうことになるのかなと,NTTさんとお話しようと,うちのほうはですからどうやって解釈されても構わないですよ。だからもうどうでもいい話ですからはっきり言えば。ただ取ってそのことを特許庁に払っているお金もあるわけですから,まあただってわけにはいかないみたいな,当事者としてはどういう風に考えるか,もともとその先ほども話したようにうちの会社に(相談が)あったその彼も経営をしているものですから,それで彼が困っているということで,だからこちらはまあ小学生みたいなところから始めている部分があるんで,この件について半端な対応だけはできないかなと。」
ドコモ社側「相手側の身にもなって」
ガブリエル社側「・・・まあアメリカからのオファーというのは仰天するような数字でしたので。」
ドコモ社側「いくら位でした。」
ガブリエル社側「いや。」
ドコモ社側「だいたい,だいたいで。」
ガブリエル社側「まあそこからですよね。そんなになるかみたいな話が来るわけですよ。ちょっとそこは有名な会社のようですけど。」
ドコモ社側「そこが,商標と商標登録を買い取りたいと。」
ガブリエル社側「かって日本のメーカーなんかを訴えて,勝っている会社なんですね。それで二番目の会社のようですけどねライツホルダーの会社としては。」「それこそ阪神優勝じゃないですけれどね。あのマスコミに騒がれるのもいやですしね。それでまあ〇〇先生に相談しまして,言っておくからと言ってご連絡を戴いて。」
以上のような協議経緯及び協議内容によれば,ガブリエル社の高塚社長らは,ドコモ社側に対して,政治家事務所を介して面会の予約及び本件商標(マナーマーク)やリサイクルマーク等の資料を送付した上,ドコモ社の知的財産部長らと協議していること,面会の予約に際しては,政治家からガブリエル社の話を聞いてやって欲しい旨連絡されていたこと,ドコモ社の知的財産部長らに,本件商標(マナーマーク)やリサイクルマーク等を商標登録したことに対してNTTさんでどういう風にお考えになっているかをまずお聞きしようということで来た旨伝えていること,一方ではドコモ社に対してどうして欲しいのかの要望はない旨伝えているものの,他方では,アメリカの商標ホルダー会社から前記の登録商標を仰天するような高額で買い取りたい旨のオファーがあった旨伝えていること,かって日本のメーカーを訴えて,勝訴している会社である旨伝えていること及び平成15年当時「阪神優勝」の文字と図形からなる商標を登録した商標権者が,プロ野球球団「阪神タイガース」の著名性や信用に依拠して不正な利益を得ようとしたことについてマスコミに報道されたように,マスコミに騒がれるのはいやである旨伝えていること等が認められる。これらの認定事実からすれば,商標権者ガブリエル社のドコモ社に対する行為は,ドコモ社としては商標権の買い取りの要求等をされたと認識するであろう行為であり,また,商標権者の主張はさておき,客観的には,本件商標を含めた登録商標の売渡しを示唆する申し入れをしたと評価されてもやむを得ないものというべきである。
イ ドコモ社に対する権利侵害を理由とする使用料請求について
職権により採用した「商標権者ガブリエル社がドコモ社に対して,平成15年10月22日に,四谷郵便局第21563号書留内容郵便として差し出した郵便物」によれば,同郵便物は,
(ア)本件商標及び登録第4710769号商標に関するドコモ社の平成15年10月10日付け回答について,次の点について同年11月7日までに書面の回答を求める。
(イ)(a)ドコモ社が平成15年8月15日以降から現在まで店頭等で陳列販売している又は同日以降に販売した携帯電話機の表示画面に内蔵し表示している本件商標並びに(b)ドコモ社の名称で同日以降に配布している携帯電話機の販売促進用パンフレットに印刷している本件商標及び登録第4710769号商標について,どのような理由で第9類に属する商品について使用をしていないと回答したのか。
(ウ)前記(イ)(a)(b)に記載した登録商標の使用は,当該商標権を侵害しているので,本件商標の商標権使用料として,同日以降,店頭等で陳列販売している携帯電話機及び同日以降既に販売した携帯電話機1台につき販売価格の1パーセントを請求する。
旨を主な内容とするものであることが認められる。
そうすると,ガブリエル社は,ドコモ社に対して,本件全証拠によっても日付を特定し得ないが平成15年10月10日以前に,前記(イ)(a)(b)に記載した登録商標の使用について権利侵害である旨の照会をしていたものと推認され,さらに同月22日には本件商標の商標権使用料として,商標権の設定登録前であって登録査定の謄本が送達された日にすぎない同年8月15日以降に店頭等で陳列販売している携帯電話機及び同日以降既に販売した携帯電話機1台につき販売価格の1パーセントを請求していることが認められる。ガブリエル社は,ドコモ社の引用標章の使用について,一方では意見書において述べているように商標の使用ではないとしながら,他方では前記認定のとおり商標の使用として捉えドコモ社に対して本件商標の権利侵害を理由とする使用料請求をしているものである。
(4)まとめ
以上によれば,商標権者は,本件商標の登録出願について高塚社長らの動機が徳田の携帯電話に関するデザインの考案の保護を求めること及び携帯電話に関するデザインビジネスをしようとする点にあったとしていること,著名な引用標章に酷似している本件商標の登録出願をしたこと,本件商標の指定商品は申立人ら又はドコモ社の事業と密接な関連を有する携帯電話等を含む商品であること,本件商標の登録出願は引用標章が著名性を獲得した後になされたものであること,申立人らが公益に関する事業であって営利を目的としない著名なものを表示する複数の標章について同時に登録出願をしていること,本件商標を含めた複数の登録商標の売り渡しを示唆する申し入れをしていること,ドコモ社に対する権利侵害を理由とする使用料請求をしていることなどの事実が認められ,これらの事実を総合勘案すると,不正の利益を得る目的をもって使用するために本件商標の登録出願をしたというのが相当である。
したがって,本件商標の登録は不正の目的をもって使用するためにしたものではないから,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものではない旨の商標権者の主張も,採用の限りでない。
3 結論
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第6号及び第7号に違反してされたものであるから,同法第43条の3第2項の規定により,取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
別掲

















(1)本件商標(登録第4710768号商標)




(2)引用標章


異議決定日 2005-12-26 
出願番号 商願2003-21915(T2003-21915) 
審決分類 T 1 651・ 21- Z (Z09)
T 1 651・ 22- Z (Z09)
最終処分 取消  
前審関与審査官 大島 護 
特許庁審判長 田辺 秀三
特許庁審判官 野本 登美男
中村 謙三
登録日 2003-09-19 
登録番号 商標登録第4710768号(T4710768) 
権利者 株式会社ガブリエル
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 小椋 崇吉 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 飯島 紳行 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 中村 仁 
代理人 大橋 啓輔 
代理人 大橋 啓輔 

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