• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない 130
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 130
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 130
管理番号 1124546 
審判番号 無効2003-35103 
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-03-20 
確定日 2005-09-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第2724049号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2724049号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に表示したとおり、「VALENTINE MOROZOFF」の欧文字を横書きしてなり、平成4年2月28日登録出願、第30類「菓子、パン」を指定商品として、同10年3月27日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第15号証(枝番号を含む)を提出している。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第11号及び同第15号に該当するから、その登録は、同法第46条第1項第1号により無効とすべきものである。
(1)商標法第4条第1項第8号について
本件商標は、「VALENTINE」と「MOROZOFF」の二語を組み合わせて構成されているものであるが、これは常に一体不可分で認識されるものではなく、「VALENTINE」と「MOROZOFF」に分離されて考察されるものである。その理由は、以下のとおりである。
(ア)本件商標は、原商標権者(現在死亡している)の氏名をミドルネームを省略して表示したものとも認識できるが、人の名前を呼ぶ時にファーストネームを省略してラストネームつまり名字だけで略して呼ぶことが多いのと同様に、本件商標も簡易迅速を尊ぶ商取引においては、氏(ラストネーム)の「MOROZOFF」だけで略称して取引に用いられるものである。
しかも、「バレンタインモロゾフ」の全体称呼は比較的冗長であり、氏だけで略称され易く、常に一体不可分で取引に用いられるものではない。
(イ)後述するごとく、本件商標は、他人である請求人の著名な略称兼商標「MOROZOFF」を含んでいるので、「MOROZOFF」が要部として機能し分離される。
また、本件商標の構成中の「VALENTINE」の文字は、クリスマスと並ぶ国民的行事である毎年2月14日のバレンタイン・デーを指称する欧文字に相当し、またバレンタイン・デー用の贈り物商品であることを示す欧文字として本件商標の出願時に既に広く知れ渡っており、バレンタインデーの時などに本件商標に接した人たちは、この文字部分をバレンタインデー向けの商品にすぎないと理解してこの部分に識別力を認めず、「MOROZOFF」の部分だけに商品の出所機能(識別力)を認めて取引に当たる。
以上の理由から、本件商標は、「VALENTINE」と「MOROZOFF」に分離されて顕著な識別力を有する「MOROZOFF」部分で取引に用いられるものである。以下、詳述する。
(a)請求人は、高級菓子の製造・販売を目的として、昭和6年8月に神戸モロゾフ製菓株式会社の商号で発足し、昭和11年8月にモロゾフ製菓株式会社と商号変更し、昭和47年7月にモロゾフ株式会社と商号変更して現在に至っている。そして、その創立以来現在に至るまで継続して「モロゾフ」(欧文字:MOROZOFF)の商号の略称(商標でもある)で親しまれ呼称されているものであり、本件商標の出願時たる平成4年2月28日当時においては「モロゾフ」(MOROZOFF)といえば請求人の商号の略称兼商標として菓子業界はもとより一般消費者に至るまで広く知れ渡っており、現在も同様な著名状態は引き続いている。
この事実は、以下の証拠資料により明らかである。
甲第1号証の1ないし12は、神戸商工会議所、有名百貨店などの証明書であるが、「モロゾフ(MOROZOFF)」が本件商標の出願日前において請求人の商号の略称として広く知られ著名な状態となっていたことが証明されている。
甲第2号証の1ないし47は、本件商標の出頭日前に発行された新聞記事であるが、これら新聞記事中においても「モロゾフ」は請求人の商号の略称(兼商標)として用いられている。
甲第3号証の1ないし5は、「会社四季報(東洋経済)」等であるが、ここでも「モロゾフ」の文字が請求人の商号の略称として用いられている。
甲第4号証の1ないし15は、本件商標の出願前に発行された雑誌であるが、これら雑誌中で「モロゾフ」は請求人の商号の略称兼商標として用いられている。なお、請求人は多くの雑誌で「モロゾフ」の商号の略称兼商標を長年に渡って継続して宣伝広告しているが、これら資料をすべて提出するとなると膨大なものとなるので提出は省く。
(b)次に、「VALENTINE」が「バレンタインデー」を指称すること並びにバレンタインデーの贈り物を指称することを次の証拠で証明する。
甲第5号証は、ユニオン英和辞典(研究社)であるが、その第1495頁には「VALENTINE」が「ST.VALENTINE’S DAY」を指称すること、また「聖バレンタインの祝日に恋人に送る贈り物」の意味を有していることが明確に示されている。
甲第6号証は、サンライズ英和辞典(旺文社)であるが、その第1571頁には「VALENTINE 」が「バレンタインの贈り物」の意味を有することが明確に記載されている。
甲第7号証の1ないし5も本件商標の出願前の雑誌であるが、これら雑誌中でも「VALENTINE」、「バレンタイン」はバレンタインデー、バレンタインデーの贈り物の意味で用いられている。
甲第8号証の1ないし15は本件商標の出願前の新聞記事であるが、これら新聞記事中でも「VALENTINE」、「バレンタイン」はバレンタインデー、バレンタインデーの贈り物の意味で用いられている。
(ウ)以上のとおり、本件商標は、請求人の著名な商号の略称である「MOROZOFF」を含んでいるものであるから、商標法第4条第1項第8号に規定の「他人の…著名な略称を含む商標(他人の承諾を得ているものを除く)」に該当する。
(2)商標法第4条第1項第11号について
(ア)引用商標
請求人は、以下の(a)ないし(e)の登録商標を引用する。
(a)引用登録第230467号商標は、「MOROZOFF」及び「モロゾフ」の文字を上下二段に横書きしてなり、昭和6年5月21日に登録出願、第43類「菓子及麺ぽうノ類」を指定商品として同年12月4日に設定登録されているものである。
(b)同じく引用登録第414060号商標は、黒塗り四角形内にやや図案化した「Morozoff’s」の文字と「モロゾフ」の文字を上下二段に白抜きで表してなり、昭和24年9月24日に登録出願、第43類「菓子及び麺ぽうの類」を指定商品として同27年7月29日に設定登録されているものである。
(c)同じく引用登録第1273707号商標は、やや図案化した「Morozoff」の文字を横書きしてなり、昭和47年7月6日に登録出願、第30類「菓子、パン」を指定商品として同52年6月6日に設定登録されているものである。
(d)同じく引用登録第1392663号商標は、別掲のとおりの構成からなり、昭和50年8月7日に登録出願、第30類「菓子、パン」を指定商品として同54年9月28日に設定登録されているものである。
(e)同じく引用登録第1781016号商標は、「モロゾフ」の文字を横書きしてなり、昭和56年4月28日に登録出願、第30類「菓子、パン」を指定商品として同60年6月25日に設定登録されているものである(以下、これらを総称して「引用商標」という。)。
(イ)本件商標と引用商標との類否
本件商標は、上述した理由により、「モロゾフ」だけの簡略化された称呼が生ずるものであり、一方、引用商標も「モロゾフ」の称呼を生ずるものであるから、本件商標と引用商標とは、「モロゾフ」の称呼を共通にする類似商標である。また、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは同一又は類似の関係にある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号について
本件商標がその指定商品(例えばチョコレートなどの菓子)に使用された場合には、請求人あるいはこれと何等かの関係を有する者の取り扱いに係る商品であるかのように商品の出所について混同を生じさせるおそれが多分に存する。因に、昭和58年6月号の雑誌「新潮」の第173頁(甲第15号証)で、被請求人は次のように語っている。
「現在、神戸にはモロゾフ製菓(請求人の旧商号)という製菓会社が実在する。ワレンタイン・モロゾフの方はコスモポリタン製菓で、ともにチョコレートをつくってるから非常に紛らわしい。」「そう、タイヘンですね。わたし名前モロゾフ。雑誌にモロゾフと書かれるとみんな向こうの宣伝になってしまう。だから、わたしの名前書かなくていい、マスコミのひとにそう言います。」このことは、被請求人の名前が請求人の名称と非常に紛らわしいことを告白しているもので、なによりも被請求人の名前が請求人の名称「MOROZOFF」と紛らわしいことを証明している。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号にも該当する。
2 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第8号について
(ア)本件商標が亡きバレンタイン エフ モロゾフ氏の著名な略称として認識し把握されていることは認めない。ましてや、本件商標がその事業を引き継いだバレンタイン ブイ モロゾフ氏の略称として取引者、需要者間で広く認識され把握されていることも認めない。本件商標が両人の著名な略称になるということ自体があり得ないことであり、被請求人の主張には独断がある。被請求人が提出した神戸商工会議所の証明である乙第4号証は、被請求人が作成した文章内容を神戸商工会議所が十分内容を理解・精査しないで認めたとしか思えず、証拠力としては極めて弱いものである。 また、乙第5号証ないし乙第23号証及び乙第74号証でバレンタイン エフ モロゾフ氏が掲載されてはいるが、この程度では同氏の略称が著名になっているとは到底思えない。
(イ)「MOROZOFF」、「モロゾフ」が請求人の商号の略称として著名であることは甲第1号証ないし甲第4号証、甲第8号証及び甲第15号証から十分に立証できている。請求人会社は東証第1部、大証第1部の上場企業であり、菓子の製造・販売を全国的に行い、単に神戸などの一地方だけにとどまっているわけではなく、全国的な著名性は十分にあるはずである。
(ウ)先に述べたように、「VALENTINE」、「バレンタイン」の文字は、バレンタインデー又はバレンタインの贈り物の略として世間一般で普通に使われており常識のごとくなっている。
このような状況下では、本件商標の「VALENTINE」部分はバレンタインデーの時期においては人名の一部というよりはむしろ商品の用途又は販売時期の表示として世間一般の人に理解されるものである。
このことは、甲第5号証及び甲第6号証の英和辞典において「VALENTINE」は「バレンタインの贈り物」や「バレンタインデー」の意味を有するものと記載されており、これらの辞典だけでも請求人の主張は正当化される。
また、甲第2号証ないし甲第4号証及び第8号証で「バレンタイン」、「VALENTINE」が実際にバレンタインデーあるいはバレンタインの贈り物の意味として使用されている実例を示している。
(エ)日本国中の人達がバレンタイン エフ モロゾフ氏やブイ モロゾフ氏を知っているわけではないが、バレンタインデーやバレンタインの贈り物の習慣は日本国中の人達が知っている行事である。したがって、本件商標を見た場合、両人の氏名の略称として理解せずに、「VALENTINE」と「MOROZOFF」を分離観察して、「VALENTINE」の部分はバレンタイン用の商品表示であり、「MOROZOFF」の部分は著名な請求人の出所表示部分であると理解するのは間違いない。
(オ)以上のとおり、本件商標は「VALENTINE MOROZOFF」からなる商標ではあるが、「VALENTINE」の部分に請求人主張のような意味があり、かつ、識別力がないため「VALENTINE」と「MOROZOFF」は分離観察可能であり、「MOROZOFF」の部分が請求人の著名な商号の略称であることから、商標法第4条第1項第8号に該当するものである。
(カ)なお、被請求人の提出した乙第24号証ないし乙第30号証及び乙第75号証ないし乙第79号証は本案と事案を異にするので参考にならない。 乙第29号証は昭和37年当時のものであり、本件商標の出願時においては「MOROZOFF」は請求人の著名な略称として知られていた。
乙第31号証ないし乙第43号証は被請求人の所有する登録商標であるが、本件商標とは構成を異にするので、これらがあっても請求人の主張の正当性に影響を及ぼすものではない。乙第44号証ないし乙第48号証の成立は認めるが、これを以て甲第5号証及び甲第6号証の事実を否定できるものではない。乙第49号証の1ないし25及び乙第63号証ないし乙第70号証の成立は認めるが、これを以て「バレンタイン」がバレンタインデーあるいはバレンタインの贈り物の意味で使用され知られている事実を否定できるものではない。乙第50号証ないし乙第61号証も同様であり、しかもこれらは本件商標の出願時よりはるかに以前のものであるので、何ら本案の参考にはならない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
上述したのと同じ理由で、本件商標は、「VALENTINE」と「MOROZOFF」に分離できるので、引用商標と類似する。本件商標は「バレンタインモロゾフ」の10音の称呼を持つものであり、10音というのは一般的に言えば冗長であり、前半の「バレンタイン」の部分を省略して単に「モロゾフ」の称呼で取引に資される可能性は極めて高い。とりわけ、バンレンタインデーの時などは、「バレンタイン」の部分は省略される。
(3)商標法第4条第1項第15号について
甲第15号証でバレンタイン エフ モロゾフ氏が「雑誌にモロゾフと書かれるとみんな向こうの宣伝になってしまう」と述べているのは事実であり、ここで「向こう」とあるのは請求人を指しているのは明白である。
被請求人は、この点に関して答弁書でバレンタイン エフ モロゾフ氏が発言した言葉の意味を推測で補っているが、この言葉から理解できる内容は、モロゾフといえばモロゾフ製菓(請求人の旧商号)の宣伝になってしまう、と発言したとしか理解しようがない。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第11号及び同第15号に該当するから、同法第46条第1項第1号の規定に基づいて無効にされるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論掲記のとおりの審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第79号証(枝番号を含む。)を提出している。
1 商標法第4条第1項第8号について
(1)本件商標の一体不可分性
請求人は、簡易迅速を尊ぶ商取引においては氏(ラストネーム)だけで略称して取引に用いられるものであり、しかも「バレンタインモロゾフ」の全体称呼は比較的冗長で氏だけで略称され易く、したがって常に一体不可分で取引に用いられるものではない旨主張している。
しかしながら、「VALENTINE F.MOROZOFF」、「バレンタイン エフ モロゾフ」の文字が、原商標権者である菓子職人の著名な氏名と認識されているばかりでなく、本件商標「VALENTINE MOROZOFF」の文字も、同菓子職人の著名な略称として広く認識し把握されている。
また、同人の亡き後、その事業を引き継いだ「VALENTINE V.MOROZOFF」(日本名モロゾフ バレンタイン ブイ)が、「VALENTINE MOROZOFF」の文字を使用した結果、当該人の略称としても取引者、需要者間に広く認識される至っているものである(乙第4号証ないし乙第23号証及び乙第74号証)。
このことは、乙第4号証(神戸商工会議所の証明)のとおりであり、また、各乙号証の各種雑誌にも著名人として談話等が掲載され、一般世人は直ちに「VALENTINE F.MOROZOFF」、「バレンタイン エフ モロゾフ」また、「VALENTINE V.MOROZOFF」、「バレンタイン ブイ モロゾフ」を指称するものとして広く認識し把握されるに至ったものであること明らかである。
また、本件商標の前半の「VALENTINE」と後半の「MOROZOFF」の文字とは、外観上まとまりよく一体的に構成され、その間に特に軽重の差を見出すことはできないものである。
さらに、これより生ずると認められる「バレンタインモロゾフ」の称呼もやや冗長であるとしてもよどみなく一連に称呼し得るものであるから、本件商標中の「MOROZOFF」の文字部分のみを殊更に分離して観察しなければならない特段の事情はないものといわなければならず、したがって、本件商標は一体不可分のものと認められる。
これに関し、氏名及び名称・商号の略称と認められる場合の審決例を乙第24号証ないし乙第28号証及び乙第75号証ないし乙第79号証に示す。
さらにまた、原商標権者は「VALENTINE MOROZOFF」の商標を指定商品「菓子及び麺麹の類」(チョコレートを含む)について商標登録第410803号として昭和27年4月18日登録を受け、平成4年4月17日まで商標権を所有していた事実がある。
したがって、請求人の主張は取引の経験則を逸脱し、独自の見解を述べるにすぎず、これを認めることはできない。
(2)請求人の商号略称「モロゾフ」の著名性について
請求人は、本件商標は、他人である請求人の著名な略称兼商標「MOROZOFF」を含み、「MOROZOFF」が要部として機能し分離される旨主張し、証拠を提出している。
そこで、請求人の提出した証拠書類についてみるに、甲第1号証の証明願は、請求人が証明内容を同文で作成し、証明者が請求人の依頼に応じて、単に記名捺印したにすぎないものと解されるので、これらの証明願は信憑性が極めて薄いものと認められる。
甲第2号証の1ないし15は、バレンタインデーにおけるチョコレートのプレゼントに関する新聞記事であるが、各新聞の発行日は大多数の各新聞とも共通して2月14日(バレンタインデー)の前後に集中し、しかも、各新聞とも年に1回しか記事を掲載していないこと、提出に係る新聞は地方紙がほとんどであること、また、見出し、記事中の「モロゾフ」の文字が商品「チョコレート」に使用する商標として記載しているのか、商号の略称として記載しているのか直ちに判断し難いものもあることを考え合せると、上記の新聞記事をもって「モロゾフ」の文字が商号の略称として取引者、需要者に広く認識されていると認めることはできない。
また、甲第2号証の16ないし47は、各新聞社発行の「モロゾフ」の記事であるが、昭和54年から平成8年までの18年間に日経産業新聞が20回、日本経済新聞5回など回数が極めて少なく、これをもって「モロゾフ」の文字が商号の略称として取引者、需要者間に広く認識されていると認めることはできない。
甲第4号証の1ないし15は、雑誌「ミセス」、「家庭画報」、「ノンノ」、「モア」等に掲載された宣伝広告であるが、その内容は、商品「チョコレート」に使用する商標の宣伝広告と直ちに理解し認識され、請求人商号の略称とは認識し得ないものである。
以上、本件商標の登録出願時において、本件商標を排除し得る程全国的に、取引者、需要者間に「モロゾフ」の文字が請求人会社を直ちに想起せしめる程著名な商号の略称と認識されているとは到底認めることはできない。
むしろ、原商標権者の「バレンタイン エフ モロゾフ」が「MOROZOFF」(モロゾフ)と略称されて周知著名である事実は、昭和37年(行ナ)第43号の判決例(乙第29号証)によって明らかである。
ところで、商標法第4条第1項第8号の規定において、他人の商標登録を阻止すべき略称の著名性は一地方のものでは足らず、全国的なものでなければならないと解せられることは、昭和53年(行ケ)第216号(昭和56年11月5日言渡)の判決例(乙第30号証)によって明らかである。
してみると、請求人の商号略称「モロゾフ」が、商標法により他人の商標登録を阻止し得る程全国的に著名な略称と認めることはできない。
(3)「VALENTINE」の文字の識別性
請求人は、本件商標中の「VALENTINE」の文字部分をバレンタインデー向けの商品にすぎないと理解してこの部分に識別力を認めず、顕著な識別力を有する「MOROZOFF」部分で商取引に用いられる旨主張し、証拠を提出している。
(ア)しかしながら、被請求人は、登録第500506号商標「Valentine/ヴァレンタイン」をはじめ、「VALENTINE」等の文字を含む登録商標を所有している(乙第31号証ないし乙第43号証)。
(イ)また、「VALENTINE CHOCOLATE/バレンタインチョコレート」及び「ヴァレンタイン/VALENTINE」の商標に関する2件の登録異議の決定が存在し、何れも、以下のように、上記商標は識別性を有するものとされている(乙第3号証及び乙第39号証)。
すなわち、平成2年審判第5159号に係る登録異議決定は、「『VALENTINE』及び『バレンタイン』の文字部分は、一般に人名を表したものと把握され、『セント・バレンタイン・デー』と同義語として使用されているとは認められない。また、この種業界の取引において、請求人が『菓子及び麺ぽうの類』に所有する登録第500506号商標『Valentine/ヴァレンタイン』の商標権が存在し、現に使用され、有効に存続しているものであることは知悉されているところであり、さらに、請求人は、上記商標権を侵害していると思われる者に対しては、警告書を送付し、そのような商標の使用を中止するよう要請している事実があるから、『チョコレート』を取り扱うこの種業界において、当該商標権を尊重し『VALENTINE』、『バレンタイン』の文字は、商品の品質、用途を表示するものとして使用されているものとは認められないというべきである。してみれば、本願商標は、自他商品の識別標識としての機能を果たすものといわざるを得ない。」とし、また、商願平4-20365号に係る登録異議の決定も同様としている。
(ウ)さらに、「日本語になった外国語辞典」(集英社 1988年4月10日発行 乙第44号証)には、バレンタイン(VALENTINE)の記載はなく、「バレンタインデー(VALENTINE DAY)」欄に、「2月14日の聖バレンタインの記念日。女性が男性に愛を告白できる1年に1の日」とされているほか、「外来語辞典」(角川書店 1977年 1月30日発行)、「大辞林」(三省堂 1989年3月28日発行)、「広辞苑」(岩波書店 昭和60年11月5日発行)及び「学研国語大辞典」(学習研究社 昭和56年2月1日発行)にもバレンタイン(VALENTINE)の記載はない(乙第45号証ないし乙第48号証)。
してみると、我が国においては「バレンタイン」、「VALENTINE」の文字は、一般に人名を表したものとして把握されており、「St.Valentine(’s)Day(セント・バレンタイン(ズ)・デー)」、「Valentine(’s)Day(バレンタイン(ズ)・デー)」と同義語として知られ、使用されているものとは認められず、またこの種業界の取引において同様に認識され、使用されているとは認められない。
(4)被請求人の業務設立の経緯と商取引の実情
(ア)業務設立の経緯
被請求人の父バレンタイン エフ モロゾフは、大正14年14才にして両親及び娘と共に来日し、昭和の初め頃から祖父フエドル(被請求人は、「フエルド」と記載しているが、乙各号証から「フエドル」の誤記と認められるので、以下「フエドル」とする。)が洋菓子製造販売業を営むようになった。昭和6年、祖父フエドルと父バレンタイン エフ モロゾフは、訴外葛野友槌らと神戸モロゾフ製菓株式会社を組織し、同会社の業務として製菓に従事したが、昭和11年上記会社から手を引き、再び個人営業として洋菓子の製造販売に従事した。終戦後、父が上記営業の主宰者となり、神戸市に本店の他支店2箇所、大阪市に支店、東京銀座に支店1箇所を有し、その後支店や販売所を順次増やした。
「バレンタイン」「VALENTINE」の名称の由来は、祖父フエドルと父バレンタイン エフ モロゾフが前記神戸モロゾフ製菓株式会社から手を引いた昭和11年頃、店の名前として父の名前を採って祖父フエドルが「バレンタイン」の名称を付して営業を行ない、店名に関してはその後「コスモポリタン」(Cosmopolitan)と改めた。
その後、父が亡くなり、被請求人が父の後をついで製菓業を継続し、コスモポリタン社の代表取締役に就任し、従来の営業活動を継続している。
祖父フエドルと父バレンタイン エフ モロゾフの製造販売する洋菓子、特にチョコレートは独自の風味をもつものとして終戦前より阪神地方その他の地方に多くの顧客を有しており、父亡き後現在においてもその名声に関しては変わらないものである。
以上のように、上記各文字は、遅くとも昭和62年12月頃にはコスモポリタン社の製造販売するチョコレートを表示するものとして、また、著名な菓子職人であるバレンタイン エフ モロゾフの名称又はその略称として、さらには、同人の後継者が引き続き「VALENTINE F.MOROZOFF」「VALENTINE MOROZOFF」の文字を使用しており、バレンタイン ブイ モロゾフの略称としても取引者・需要者間に広く知られ著名な状態となっている(乙第4、第29及び第10号証)。
(イ)商取引の実情
当業界においては、「Valentine」等が被請求人の登録商標であることを知悉しており、実際の使用において、「VALENTINE’S DAY CHOCOLATE」又は「バレンタインデーチョコレート」と正確に記載しているのが実情であり、被請求人以外に「バレンタイン」、「VALENTINE」のように記載して販売している事実はない。
このことは、「VALENTINE」、「バレンタイン」の商標を商品「チョコレート」に使用し、また、広告をした者に対して、被請求人がこれを発見次第、商標権に基づき、これを侵害するものとして警告を発し、その使用を中止させている事実からも裏付けられるところである(乙第50号証ないし第61号証)。
してみれば、「バレンタイン」、「VALENTINE」の文字は、チョコレート業界において現実に使用されていないことから、商品「チョコレート」の用途、品質等を表示するものとして普通に使用されているということはできない。
(5)請求人提出の甲各号証について
(ア)「辞書」における「Valentine」の記載
我が国におけるバレンタイン(VALENTINE)の観念は、前記のとおり認識し理解されているものであり、甲第5号証及び甲第6号証の両辞典に記載されている一事をもってバレンタイン(VALENTINE)が聖バレンタインの祝日に恋人に送る贈り物、バレンタインの贈り物の意味に認識されているということはできない。
(イ)「商工会議所」等の証明書
甲第1号証の1(神戸商工会議所の証明書)は、請求人が証明内容を同文で作成し、これに証明者が記名捺印したにすぎないものであり、どのような根拠、事実に基づいて証明したのか不明であるから、信憑性がないといわなければならない。
(ウ)「新聞、雑誌」の記事掲載について
甲第7号証及び第8号証についてみるに、雑誌、新聞は、紙面のスペースに制約があるため、標題、見出し等を簡略化し、これに続く本文中に正確に記載されるのが通例で慣習化されているのが実情である。
このことは、平成6年(行ケ)第213号判決(平成8年2月7日言渡)の判示事項(乙第62号証)により首肯し得るところである。
しかして、「VALENTINE」の文字についてみると、各新聞、雑誌は必ずしも統一された語句として使用されているものではなく、該文字が登録商標であること、業界における取引の実情を確認することなく、単に使用され、しかも、ばらばらの表現が用いられており、また、正しく使用されているものもある。
さらに、この種の新聞、雑誌の記事は年に1回程度掲載されるものであることを考え併せれば、これらをもって、商品の品質、用途等を表示するものとして認識し理解されていると即断することはできない。
以上のとおり、本件商標中の「VALENTINE」の文字が「バレンタインデー」あるいは「バレンタインデー用の贈り物」を指称するもの即ち商品の販売時期、内容又は用途を普通に用いられる方法で表示するものとは到底認めることはできない。
(エ)したがって、本件商標の主要部は後半の「MOROZOFF」の部分に存するということはできない。
(6)結語
(ア)以上詳述したとおり、本件商標は、原商標権者である菓子職人「VALENTINE F.MOROZOFF」(バレンタイン エフ モロゾフ)の著名な略称として、また、同人の亡き後、事業を引き継いだ「VALENTINE V.MOROZOFF」(バレンタイン ブイ モロゾフ)の略称として、取引者、需要者間に広く認識し把握されているものである。
このように一見して氏名の略称と認められる文字は、全体として一連に観察して称呼、観念されるのが通例であるから、本件商標中の「MOROZOFF」の文字部分のみを殊更に分離して観察しなければならない特段の事情はなく、したがって、本件商標は一体不可分の語と認められる。
(イ)「モロゾフ」(MOROZOFF)の文字が、請求人会社の商号の略称を表わすものであることは認められるとしても、本件商標の登録出願時において全国的に取引者、需要者間に著名な商号の略称として認識されているとは認められない。
(ウ)本件商標中の「VALENTINE」の文字部分は、一般に人名を表わしたものとして把握されているものであり、また、被請求人が登録第500506号商標「Valentine/ヴァレンタイン」、登録第2723783号商標「VALENTINE CHOCOLATE/バレンタインチョコレート」等の商標権を所有し、当該商標権が現に使用され有効に存続していることは、チョコレートを取り扱うこの種業界において知悉されており、自他商品の識別標識としての機能を有しているものである。
以上のことから、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第11号について
本件商標と引用商標との類否について検討するに、それぞれの構成上記のとおりであるから、外観については互いに区別し得るものである。
次に、称呼及び観念についてみるに、本件商標は「VALENTINE MOROZOFF」の文字を同一の書体でまとまりよく一連に表してなり、これより生ずる「バレンタインモロゾフ」の称呼はさほど冗長ではなく、原商標権者である菓子職人「VALENTINE F.MOROZOFF」及び被請求人の略称として取引者、需要者間に広く認識し把握されている。
してみれば、これを「MOROZOFF」の文字部分のみを殊更に分離して考察しなければならない特段の理由は存しないから、「モロゾフ」の称呼を生じる引用商標とは、その音構成において、顕著な差異を有し称呼上明らかに相違し、観念上も別異のものである。
したがって、本件商標と引用商標とは外観、称呼、観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当しないものである。
3 商標法第4条第1項第15号について
本件商標と引用商標とは前項において述べたとおり、外観、称呼及び観念において別異の商標であるから、これをその指定商品について使用しても請求人の業務に係る商品とその出所について混同を生ずるおそれはない。
なお、請求人は、昭和58年6月号の雑誌「新潮」(甲第15号証)における原商標権者の言葉を捉えて、なによりも原商標権者の名前が請求人の名称「MOROZOFF」と紛らわしいことを証明していると述べている。
しかし、上記雑誌中の文章は、「日本一チョコレートはロシアの香り」を標題として、作家「川又一英」が書いたノンフイクション物語であって、その中の「商標を奪っていった日本人」の文章の一部である。
要約すると、モロゾフ親子が「モロゾフ製菓」から追い出され、モロゾフの看板が使えなくなったこと等であるが、このような実情を知っている作家が、「バレンタイン エフ モロゾフ」が「モロゾフ製菓」でチョコレートを造らないで「コスモポリタン製菓」で造っているから、よく事情を知らない一般世人は非常に紛らわしく混乱するでしようという意味合いで最初に会話を始めたものと思料する。
この話に対し、バレンタイン エフ モロゾフが返事をしたものであり、その胸中は、上記に書されたように商標が奪われてしまったことの口惜しさ無念さの気持が残っており、「モロゾフ」の文字に接する一般世人はモロゾフ製菓でチョコレートを造っている人と誤解し、その結果としてモロゾフ製菓の宣伝広告になってしまうから「雑誌にモロゾフと書かれるとみんな向こうの宣伝になってしまう。だから、わたしの名前書かなくていい、マスコミのひとにそう言います」という気持ちの表現の文章になったと思料する。
したがって、請求人は「商標を奪っていった日本人」中の一部分の文章を引用して、バレンタイン エフ モロゾフの名前がモロゾフ株式会社の名称と非常に紛らわしいと主張しているが、独自の見解を述べるにすぎず全く見当違いといわざるを得ない。なお、乙第7号証の全文を参照されたい。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 むすび
以上述べたとおり、本件商標は商標法第4条第1項第8号、同第11号及び同第15号の何れにも該当しないものであるから、同法第46条第1項第1号の規定によりその登録は無効とすべきでない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第8号について
(1)被請求人の業務設立
被請求人の提出に係る乙第4号証ないし乙第10号証、乙第13号証、乙第16号証ないし乙第22号証及び乙第49号証の1ないし25並びに被請求人の答弁書中の陳述を総合すると以下の事実が認められる。
(ア)被請求人の父であるバレンタイン エフ モロゾフ(Valentine F.Morozoff)は、大正14年、14才にして両親及び妹と共に来日し、爾来神戸市に居住していた。昭和の初め頃から被請求人の祖父フエドルが洋菓子製造販売業を営むようになったが、被請求人の父も長ずるに従い祖父フエドルを補助して上記業務に従事することになった。
昭和6年に祖父フエドルと父バレンタイン エフ モロゾフは、件外葛野友槌らと神戸モロゾフ製菓株式会社を組織し、同社の業務として製菓に従事したが、昭和11年に上記会社から手を引き、再び個人営業として洋菓子の製造販売に従事した。個人営業になっても祖父フエドルと父バレンタイン エフ モロゾフは、本来ロシアケーキの優秀な技術を持っており、上記個人営業は繁栄していた。被請求人も、長ずるに従って父バレンタイン エフ モロゾフと共に個人営業としての洋菓子の製造販売に従事した。
(イ)終戦後は、被請求人の父バレンタイン エフ モロゾフが上記営業の主宰者となり、逐次店舗も増し、昭和28年には既に神戸市に本店の他支店2箇所、大阪市に支店・販売所3箇所・東京銀座に支店1箇所を有し、また百貨店にも売場を持つようになり、その後支店や販売所を順次増やした。
(ウ)「バレンタイン」「VALENTINE」の名称の由来は、被請求人の祖父フエドルと父バレンタイン エフ モロゾフが上記神戸モロゾフ製菓株式会社から手を引いた昭和11年頃、店の名前として父バレンタイン エフ モロゾフの名前を採って祖父フエドルが「バレンタイン」の名称を付して営業を行ない、店名に関してはその後「コスモポリタン」(Cosmopolitan)と改めた。
(エ)その後、被請求人の父バレンタイン エフ モロゾフを代表者としてコスモポリタン社を設立し、バレンタイン エフ モロゾフ所有の各商標権の内当時成立していた商標権について通常実施権を許諾し、同社が商標「チョコレート」に「バレンタイン」、「VALENTINE」、「VALENTINE F.MOROZOFF」、「VALENTINE MOROZOFF」の商標を付して製造販売してきた。更にその後に取得した商標権に関しても逐次コスモポリタン社に通常使用権を許諾して、各商標を付して製造販売してきた。
コスモポリタン社は、通常使用権の許諾を受けて同社創立後昭和30年頃よりチョコレートについて「VALENTINE F.MOROZOFF」、「VALENTINE MOROZOFF」、「VALENTINE」、「バレンタイン」の各商標の使用を開始し、該商標を付したチョコレートの製造販売を現在も行っており、該チョコレートの製造販売については聖バレンタインズデーの当日のみならず、一年中行っている。
(オ)バレンタイン エフ モロゾフが亡くなった後、被請求人がその後をついで製菓業を継続し、コスモポリタン社の代表取締役に就任し、従来の営業活動を継続している。
特に父バレンタイン エフ モロゾフ健在中において、看板・広告等には「VALENTINE F.MOROZOFF」と父の氏名をも表記し、また「VALENTINE MOROZOFF」、「VALENTINE」「バレンタイン」の表記を行い、更には商品ラベルにも「VALENTINE F.MOROZOFF」の表記又は「VALENTINE MOROZOFF」、「VALENTINE」、「バレンタイン」の表記を行っていた。
現在においても「VALENTINE F.MOROZOFF」、「VALENTINE MOROZOFF」、「VALENTINE」、「バレンタイン」の表記の継続を行い、商品の出所を明確にすると共に商品の品質保証をその名称により明確にして現在も使用している。
(カ)被請求人の祖父フエドルと父バレンタイン エフ モロゾフの製造販売する洋菓子特にチョコレートは、終戦前より阪神地方その他の地方に多くの顧客を有していたが、祖父フエドルの亡き後においても父バレンタイン エフ モロゾフと被請求人の製造する洋菓子特にチョコレートは、同様に阪神地方その他の地方に多く顧客を有している。
(キ)被請求人の父バレンタイン エフ モロゾフ及びモロゾフ家については、各種雑誌にしばしば取り上げられ、単行本も発行されている。
(2)以上の認定事実によれば、「VALENTINE F.MOROZOFF」、「VALENTINE MOROZOFF」、「VALENTINE」、「バレンタイン」の文字は、遅くとも平成元年頃までには被請求人及びその父バレンタイン エフ モロゾフないしはコスモポリタン社の製造販売するチョコレートを表示するものとして、また、菓子職人としてのバレンタイン エフ モロゾフ(VALENTINE F.MOROZOFF)の氏名又はその略称として、更には同人の後継者である被請求人バレンタイン ブイ モロゾフ(VALENTINE V.MOROZOFF)の氏名の略称として取引者・需要者間に広く認識された状態となっており、その状態は現在も継続しているものと認められる。
(3)請求人の商号略称「モロゾフ」について
請求人の提出に係る甲第2号証ないし甲第4号証(枝番を含む。)によれば、請求人は洋菓子メーカーの「モロゾフ」として東証、大証にも一部上場され、また、各種新聞、雑誌等において頻繁に報道され紹介されていることが窺われる。
さらに、請求人の商品広告においても引用商標の表示と共に「モロゾフはあなたの心を伝えます」、「モロゾフのバレンタイン」、「モロゾフはこの日のチョコレートに...」といった記述がされていることが認められる。
そうすると、「モロゾフ」の文字は、少なくとも洋菓子の分野においては請求人の商号の略称として、本件商標の出願時には既に需要者間に広く認識されていたものというべきである。
(4)「VALENTINE」、「バレンタイン」の語について
請求人の提出に係る甲第5号証ないし甲第8号証(枝番をふくむ。)、被請求人の提出に係る乙第44号証ないし乙第61号証及び乙第63号証ないし乙第70号証(枝番を含む。)によれば、以下の事実が認められる。
(ア)英和辞典では、「valentine」の語が「バレンタインカード、聖バレンタインの祝日に恋人に送る贈り物」を意味し、「Valentine」の語が「聖バレンタイン」を意味する英語とされている。
(イ)他方、我が国の主要な国語辞典や外来語辞典では、「バレンタインデー(Valentine Day、St.Valentine’s Day)」の語が「聖バレンタインの殉教の日で祭日.2月14日」等として記述されているものの、「バレンタイン(valentine)」の語についての記述はない。
(ウ)各種新聞、雑誌の記事には、2月14日の聖バレンタインの祭日を指称する語として「バレンタイン」のみで用いられているものと「バレンタインデー」又は「セントバレンタインズデー」が用いられているものとがあり、必ずしも統一されていない。
(エ)被請求人は、「バレンタイン」又は「VALENTINE」の文字を商標としてチョコレートについて使用しており、他人が「バレンタイン」又は「VALENTINE」の商標をチョコレートについて使用した場合には、被請求人は、自己の所有に係る「Valentine」及び「ヴァレンタイン」の文字からなる登録商標(登録第500506号商標ほか)の商標権に基づき警告を発し、その使用を中止させている。
(5)以上の認定事実によれば、我が国においては、「バレンタイン」の語と「バレンタインデー」又は「セントバレンタインズデー」の語とが混同して用いられている場合もあるが、一般的には、「バレンタイン」の語は人名を表すのに対し、「バレンタインデー」の語はキリスト教における祝日を意味するものと理解され、両者は別の概念として認識されているというべきである。
そして、「バレンタイン(valentine)」の語自体が、直ちに聖バレンタインの祝日に送る贈り物を意味するものとして理解され、一般に使用されているとまではいえない。
また、チョコレート業界においては、「Valentine」及び「ヴァレンタイン」の文字からなる商標は被請求人の登録商標であること及び被請求人が該商標をチョコレートに実際に使用していることが認識されているというべきであり、このことから、「バレンタイン」又は「Valentine」の文字がチョコレートの品質、用途等を具体的に表示するための語として普通に使用されているとまではいい難いものである。
(6)以上を総合すると、本件商標「VALENTINE MOROZOFF」は、被請求人及びその父の氏名の略称を表したものであって、全体として一連一体の不可分のものとして認識し把握されるものというべきである。
そして、「モロゾフ」が請求人の商号の略称として、洋菓子等の業界において広く認識されていたとしても、これが本件商標の一体性を凌駕するものではなく、また、「VALENTINE」の文字部分がチョコレートの品質、用途等を具体的に表示するものとして認識し理解されるともいい難い。
してみれば、本件商標は、構成中の「MOROZOFF」の文字部分のみを分離抽出して観察すべき格別の理由は見出し得ず、「MOROZOFF」の文字部分をもって直ちに他人の名称の略称を含むものであるというべきではないと判断するのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するものではない。
2 商標法第4条第1項第11号について
本件商標と引用商標の商標の類否について判断するに、各構成に照らし、両商標は、外観上判然と区別し得る差異を有するものである。
次に、称呼及び観念についてみると、本件商標は、同一書体の「VALENTINE MOROZOFF」の文字をまとまりよく一体に表してなり、これより生ずる「バレンタインモロゾフ」の称呼もよどみなく一連に称呼し得るものであるばかりでなく、上記1で述べたとおり、被請求人及びその父の氏名の略称を表したものであるから、全体として一体不可分のものとして認識し把握され、「バレンタインモロゾフ」の一連の称呼のみを生じ、被請求人及びその父の氏名の略称を観念せしめるものというべきである。
これに対し、引用商標は、その構成文字に相応して、いずれも「モロゾフ」の称呼を生じ、請求人の商号の略称を観念せしめるものである。
しかして、この「バレンタインモロゾフ」の称呼と「モロゾフ」の称呼とは、構成音数の差、「バレンタイン」の音の有無という差異により明瞭に区別できるものであり、また、両商標は観念においても紛れるおそれはないものである。
してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
3 商標法第4条第1項第15号について
上記1及び2で述べたとおり、本件商標は、被請求人及びその父の氏名の略称を表したものとして認識され、一体不可分のものとして認識し把握されるものであり、引用商標とは類似しない別異の商標である。
そうすると、たとえ引用商標が請求人の使用する商標として周知著名であるとしても、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、構成中の「MOROZOFF」の文字のみに注目して引用商標ないしは請求人を連想、想起するようなことはないというべきであって、該商品が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれはないと判断するのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第11号及び同第15号のいずれにも違反して登録されたものではないから、その登録を無効にすべきものではない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1)本件商標


別掲(2)引用登録第1392663号商標


審理終結日 2005-08-01 
結審通知日 2005-08-04 
審決日 2005-08-16 
出願番号 商願平4-20362 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (130)
T 1 11・ 23- Y (130)
T 1 11・ 26- Y (130)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 茂木 静代宮下 行雄 
特許庁審判長 山田 清治
特許庁審判官 小林 薫
岩崎 良子
登録日 1998-03-27 
登録番号 商標登録第2724049号(T2724049) 
商標の称呼 バレンタインモロゾフ、モロゾフ 
代理人 鈴江 正二 
代理人 旦 武尚 
代理人 鈴江 孝一 
代理人 高橋 功一 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ