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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200235271 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 014
管理番号 1111556 
審判番号 無効2003-35435 
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-10-21 
確定日 2005-01-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第4214637号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4214637号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4214637号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成8年10月15日に登録出願、第14類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として平成10年11月27日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論掲記のとおりの審決を求めると申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第24号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求人が使用する「POLO(審決注:「Polo」の文字を含むものである。以下同じ。)」、「POLO by RALPH LAULEN」及び「馬に乗ったポロ競技者の図形(以下「ポロプレーヤーマーク」という。)」標章(以下、これらをまとめていうときは「引用商標」という。別掲(2)参照。)の著名性について
(1)請求人は、米国ニューヨーク州所在のリミテッド パートナーシップであり、被服や眼鏡、フレグランスその他のファッション関連商品の製造・販売及びファッション関連事業を関連会社やライセンシー及び販売店を通して世界的規模で展開しているものである。
請求人がライセンシーや販売店等を通じて製造・販売している商品は、請求人の主な構成員であり世界的に著名な服飾デザイナーであるラルフ・ローレンによってデザインされたものである。英国の伝統を基調としそれに機能性を加えたデザインと卓越した製造技術並びに一貫した品質管理による良質の製品は、本拠地である米国のみならず日本を含む数十カ国に及ぶ世界の国々において多くの消費者から高い評価を得ている。
(2)請求人商品のデザイナーであるラルフ・ローレンは、1939年米国ニューヨーク州ブロンクスで生まれ学業を終えたのち、1967年(昭和42)ネクタイ製造販売会社である「ボー・ブランメル」に入社した。そこで自らデザインしたネクタイを販売する新しい会社を任されるようになり、彼のデザインした幅広のネクタイに「POLO」のラベルを付すとともにその会社名を「ポロ・ファッションズ」とした。「POLO」のネーミングは、ポロ競技が当時の裕福な階級に限定された排他的なスポーツであり、そのスタイルにおいても高級・高雅性をイメージさせたからである。そして、彼のデザインした幅広のネクタイが評判となり、1968年(昭和43)「POLO」標章を付したラルフ・ローレンのネクタイが、ニューヨークの大手百貨店であるブルーミングデールで販売され、高価であったにもかかわらず大好評を博した。因みに、当時ブルーミングデールで商品にデザイナーブランドが付けられて販売されていたのはクリスチャン・ディオールのみであった。
ラルフ・ローレンは、1968年(昭和43)独立し「ポロ・ファッションズ社」を新たに設立し、その年自らデザインしたスーツを発表した。以後精力的にメンズウエアのデザインを発表し、1970年(昭和45)と1973年(昭和48)に米国ファッション界の最も権威があると称される「コティ・アメリカン・ファッション・クリティックス賞」のベスト・メンズウエア・デザイナー賞を受賞した。その後順調に業績を伸ばし、当時はデパートのメンズ部門がデザイナーに個人のブティックを与えることは前例にない時代にあったが、ブルーミングデールを初めとする全米の有名デパート等に「POLO」の標章を冠した自らのブティックを出店していった。また、婦人用商品は、1971年(昭和46)婦人用のシャツブラウスのデザインをかわきりに、1972年(昭和47)には婦人服のフル・コレクションを発表して、メンズウエアでの高い評価と並んで小売業者や顧客たちの間で爆発的な人気を呼ぶに至った。
(3)そして、紳士用の商品には「POLO」又は「POLO by RALPH LAULEN」の標章を使用し、婦人用には「Ralph Lauren」と「ポロプレーヤーマーク」の標章を使用した。その後1972年(昭和47)頃からメンズウエアも含めラルフ・ローレンの全商品に「ポロプレーヤーマーク」を単独又は上記文字標章と組合せて使用することにした。
(4)ラルフ・ローレンは、1973年(昭和48)に映画「華麗なるギャツビー」の衣装を担当したことから広く世界の人々にその名を知られるようになり、デザイナーとしての名声が不動のものとなった。そして、ラルフ・ローレンのデザインに係る商品は、被服に続いて眼鏡、フレグランス、衣料小物などのファッション関連商品からホーム・ファニシング、レザーグッズ、ゴルフ用品などトータルに亘って展開してきており、勿論それらの商品には必ず「POLO」、「POLO by RALPH LAULEN」、「Ralph Lauren」の標章のいずれかと「ポロプレーヤーマーク」の標章が使用されている。その結果、それらラルフ・ローレンのデザインした商品を表示する標章は、遅くとも1970年代前半には米国はもとより全世界的に著名となっていた。また、ラルフ・ローレン並びにラルフ・ローレンのデザインに係る商品に使用される引用商標が著名になるにしたがって、引用商標は「POLO」ブランドと称されるようになり、その略称もまた著名となっていった。
2 引用商標を付した請求人商品の日本における著名性
米国における成功を受けて引用商標を付した請求人商品が、日本において展開されるようになった経緯は以下のとおりである。
(1)日本における引用商標の最初のライセンシーは、菱屋株式会社であり、1975年(昭和50)に「POLO」標章を付したネクタイの製造販売を開始した。ついで、1976年(昭和51)に株式会社西武百貨店がメンズウエアについてライセンス契約を結び、直ちに販売を開始し、以後1978年(昭和53)にレディースウエア、1980年(昭和55)にボーイズウエア、1982年(昭和57)にガールズウエア及びレザーグッズ、1985年(昭和60)に寝具等ホーム・ファニシング、1994年(平成6)にゴルフ用被服及び小物、1997年(平成9)に幼児服及びジーンズ製品の販売をそれぞれ開始し、精力的に請求人の商品を展開してきている。
(2)西武百貨店は、上記ライセンス商品の展開にあわせて新聞・雑誌等のメディアを通じて請求人商品の広告宣伝に力を注いだ。すなわち、1977年(昭和52)から1987年(昭和62)まで毎年4000万円〜1億1800万円の宣伝・販促費を投じており、1988年(昭和63)に西武百貨店の請求人商品を取り扱う部門が独立し株式会社ポロ・ラルフローレン・ジャパンが設立されてからは毎年4億1100万円〜13億7700万円の宣伝・販促費を費やして請求人商品の普及に努めている。なお、かかる宣伝活動の際も引用商標が使用されていることは勿論である。また、その過程において請求人商品は「POLO」、「ポロ」と総称又は略称されることが多くなった。かかる広告宣伝活動の結果、日本における請求人商品の売上げは、1977年(昭和52)の5億6000万円を皮切りに毎年前年度を大幅に上回る伸びを示し、現在では年間900億円近い売上げを誇る日本でも有数の人気の高いブランドの一つとなっている。因みに、引用商標が、請求人商品を示すものとして極めて短期間に日本における周知・著名性を獲得していることを示すものとして昭和63年から平成元年にかけて「POLO」又は「ポロプレーヤーマーク」を付した偽ブランド商品が第三者によって大量に販売され摘発されるという事件が発生したほどである。
(3)以上から明らかなように、本件商標の登録出願(1996年)以前から既にラルフ・ローレンがデザインし引用商標を付した商品が日本において盛んに販売されており、「POLO」ブランドと称される引用商標及びその略称「POLO」「ポロ」の著名性は日本においても確立していた。
3 本件商標が請求人の引用商標と混同を生ずる理由
(1)本件商標は、二騎のポロ競技者の図形を上部に「UNITED STATES」及び「POLO ASSOCIATION」の文字を二段に下部に表示してなるものである。
図形部分は、夫々馬に乗った二人のポロ競技者が、共に上体を屈め片やマレット(打球槌)を振り下ろそうとし、他方はマレットを掬い上げようとする姿態を動的なタッチで黒及び白色で半ば重複して表してなるものである。一方、請求人が使用する「ポロプレーヤーマーク」は、やはり馬に乗り上体をやや屈めてマレットを振り下ろそうとするポロ競技者を黒色を基調に全体として動的なタッチで表してなるものである。しかして、両図形は、子細に見れば差異を有するが、ともに走るが如き馬及び馬に乗ってマレットを操っているポロ競技者を全体として躍動的動きを看取させる図柄で黒色を基調に描いてなる点において構成の軌を一にするものである。
次に、図形の下部に「UNITED STATES」及び「POLO ASSOCIATION」の文字を二段に表しているが、27文字、「ユナイテッドステイツポロアソシエイション」の18音の称呼は、全体として一つの名称のものとしては外観称呼とも冗長というべきである。そして「UNITED STATES」は米国すなわち国名であって後に続く「POLO ASSOCIATION」を修飾する語句であり、「ASSOCIATION」は「協会」を意味する一般的な語であるから、「POLO」の文字は特に印象に残る重要な意味を持つ言葉と認識されるものである。また、「UNITED STATES」及び「POLO ASSOCIATION」の文字を全体として一連の語句として捉えたとしても、それが特定の熟語や団体名称を表すものとしてわが国の一般の需要者・取引者に知られているものではない。
(2)上述のとおり、引用商標は夫々単独で使用され著名性を有するが、「ポロプレーヤーマーク」と「POLO」又は「POLO by RALPH LAULEN」の文字を組合せても使用しており、その使用態様が更に強い自他商品識別力と顧客吸引力を発揮しているのである。そして、本件商標の指定商品中の貴金属製喫煙用具、身飾品、カフスボタン、宝玉及びその模造品等は、デザインが重要な要素とされるファッション商品であってラルフ・ローレンはもとより、ヴァレンティノ・ガラヴァーニやピエール・バルマン等のいわゆるデザイナーズブランドオーナーたちが通常取扱っている商品である。
したがって、本件商標がその指定商品に使用された場合には、それに接する取引者・需要者は、その図形や「POLO」の文字部分に着目して、ラルフローレンのデザインに係る商品を表すものとしてその周知・著名性の程度が非常に高い引用商標、いわゆる「POLO」ブランドを想起・連想し、ラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
(3)最高裁判所平成12年(行ヒ)第172号事件、東京高等裁判所平成11年(行ケ)第268号事件、同12年(行ケ)第140号事件、同12年(行ケ)第169号事件、同12年(行ケ)第279号事件、同11年(行ケ)第420号事件において、騎乗のポロ競技者と「POLO」の文字を有する商標及び「POLO ASSOCIATION」の文字を有する商標がいずれも引用商標と混同すると判断されており、上記の主張は、それらの判決に徴しても首肯できることである。
4 結語
以上述べたとおり、本件商標は、これをその指定商品に使用した場合は、取引者・需要者をして請求人又は請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、無効とすべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第14号証を提出している。
1 引用商標が著名であること、及び、本件商標の指定商品と引用商標が使用される商品とが「ファッション」において関連性を有することは被請求人においても認めるところである。
2 しかしながら、請求人が引用する「ポロプレーヤーマーク」の図形と本件商標の図形部分とは構成を一にするものではなく、まして、本件商標の文字部分から「POLO」の文字が注目されることもないと考えられるので、その理由を以下に述べる。
(1)図形の対比
(ア)両図形を対比すると、以下の点で相違する。
《ポロ競技者の数》
本件商標の図形部分は、二人のポロ競技者が重なるように描かれているのに対して、「ポロプレーヤーマーク」の図形は、単に一人のポロ競技者を描いているにすぎない。この点は、両方の図形の大きな差異であり、共通性は全く見出せない。あえて論じれば、ポロ競技中のプレーヤーの図形である点で共通するといえるが、一人か複数かという大きな差が存在している。これを以って類似とするならば、他に並存するポロプレーヤーの図形は全てが類似することになる。
《マレット(ポロスティック)の数と向き》
本件商標の図形部分は、二本のマレットが描かれており、そのうちの一本は上向きであり、他の一本は下向きで描かれている。これに対して、「ポロプレ一ヤーマーク」では、単に一本のマレットが上向きに描かれているにすぎない。
さらに、本件商標のマレットは、下を向いたプレーヤーが球を打つためにマレットを振り上げた際の格好になっているが、引用商標のマレットは天高くマレットを上に突き上げている格好であり、恰も凱旋戦士のような状態である。
《馬の数と向き》
本件商標の図形部分は、ほとんど正面を向いた馬と、その後方にマレットを振り上げたポロ競技者が重なるように存在することから、後方のポロ競技者がまたがるもう一頭の馬が存在するように描かれている。ポロ競技者が二人で、馬も2頭が混在して表れているが、後方の馬の首が下を向いて前の馬とダブって描かれている。これに対して、「ポロプレーヤーマーク」は、やや左向きの馬が一頭だけ描かれており、馬の首部分が左側に大きく明確に表れるように描かれている。
《馬の足の数とマレットの混在》
本件商標の図形部分は、二頭の馬の足八本と、先頭のポロ競技者が下に向けたマレットが混在するように描かれている。これに対して、引例の「ポロプレーヤーマーク」は、一頭の馬の足四本がマレットと混在することなく(中央が交差して3本のように)描かれている。
《基調となる色彩》
本件商標の図形部分は、黒で描かれている部分はあるものの、先頭に表されたポロ競技者の上半身、先頭に表された馬の頭部の一部とその足、後方に表されたポロ競技者の首の部分が白く描かれている。したがって、全体として白色の占める割合が比較的大きいのに対して、「ポロプレーヤーマーク」は、全体として黒が基調となっている。
上述した差異、特に、ポロ競技者と馬の数の差異から判断すれば、両図形が構成の軌を異にすることは明らかである。
(イ)同様の図形の類否判断
事件は異なるが、「ポロプレーヤーマーク」と同一の図形商標は第19類「ストロー(類似群コード19A05)」等を指定商品として登録されている(乙第1号証)。
この商標は、被請求人が現在出願している商願平7-78626号に係る図形商標(指定商品 第21類「アイスペール(類似群コード19A05)」等、乙第2号証)の後願であるにも拘らず先に登録されている。このことは、特許庁が両図形商標は構成の軌を異にすると判断したにほかならないものである。
請求人は、「仔細に見れば差異を有するが、ともに走るが如き馬及び馬に乗ってマレットを操っているポロ競技者を全体として躍動的動きを看取させる図柄で黒色を基調に描いてなる」と主張しているが、このような共通点を有する両図形商標も構成の軌は異なる非類似商標と判断されている。このことからすれば、上述の顕著な差異点を有する本件商標の図形部分と「ポロプレーヤーマーク」とは構成の軌を全く異にすることは明らかである。
仮に、請求人の主張を容認し、構成の軌を全く異にする本件商標の図形部分と「ポロプレーヤーマーク」とが構成の軌を一にすると認定・判断された場合は、前述の同様の図形の類否判断とは著しく異なる判断を下すことになる。本件商標の図形部分と「ポロプレーヤーマーク」とは構成の軌を異にすると考えられて然るべきである。
(2)ポロ競技と米国ポロ協会
(ア)米国ポロ協会(United States Polo Association)の歴史
商標権者は、米国ポロ協会の知的財産権の管理部門であり、長年に亘り同協会の商標を含む知的財産権の管理を行っているものである(乙第3号証)。
米国ポロ協会は、1890年に設立され、すでに100年を越える歴史がある(乙第4号証ないし乙第7号証)。同協会は、この100年を通じてアメリカにおける全てのポロ・クラブ及びポロの選手を統括しており、ポロ競技に関するあらゆる規則を決定・実行するアメリカのポロ競技において最も権威ある組織である(乙第4号証ないし乙第7号証)。このような活動のまとめとして、同協会は、1890年以来毎年イヤーブックを発行している(乙第号証6及び乙第7号証)。また、1972年に女性会員を受け入れて以来、女子ポロ競技の育成にも尽力し、1990年には初めての女子ポロオープンを主催するなど、ポロ競技の育成に大きく貢献している(乙第5号証、75頁参照)。また、ポロ競技のみならず、それを支える審判員についても、毎年アメリカの審判員の中から優秀な審判員を選出するなど、スポーツとしてのポロ全体の育成・発展に貢献している(乙第5号証80a頁参照)。同協会は、このように1890年の創立以来、ポロ競技の育成と発展に努めてきたアメリカの最も権威と歴史のあるポロ競技に関する組織である。
(イ)「POLO」の文字の分離可能性
本件商標中の「UNITED STATES /POLO ASSOCIATION」の文字部分は、上述した「米国ポロ協会」を指称する「ハウスマーク」である。したがって、本件商標中の「POLO」の文字が分離されるか否かを判断するに当たっては、この点が十分に考慮されるべきものと思料する。特に、「ハウスマーク」は、商品の種類毎に使用されるいわゆる「ペットマーク」とは異なり、「社標」として取引に使用されるため、全体として極めて強い出所表示力を発揮するものである。したがって、本件商標の文字部分から「POLO」の文字のみが何の脈絡もなく取り出されて注目されることはない。むしろ、「UNITED STATES /POLO ASSOCIATION」の全体を以って取引に使用されると考えられる。このように、本件商標は商品の出所が「米国ポロ協会」であることを明示しているため、「POLO」ブランドとの間で商品の出所の混同を生じるとは到底考えられない。
この点につき、請求人は、「『UNITED STATES』及び『POLO ASSOCIATION』の文字を全体として一連の語句と捉えられたとしても、それが特定の熟語や団体名称を表すものとして我が国の一般需要者・取引者に知られているものではない」と主張している。しかし、たとえ、特定の団体名が我が国で一般的に認識されていないとしても、我が国の英語教育の普及度に照らせば、「アメリカのポロ協会」「アメリカのポロ連盟」といった程度の意味合いは容易に理解できると考えられる。
競技としての「POLO」は、その詳細は別にして、一般に広く認識されており(後述判決、乙第9号証)、本件商標がそれに関するアメリカの統括団体の名称であることは容易に理解されると考えられる。ラルフ・ローレン社の「POLO」ブランドの存在を知っている程度の知識を有する者にとっては、POLO競技の団体名であることを理解することは極めて容易なことで常識的なことと考えられる。また、直訳的な意味合いを通じて、ファッション関連のラルフ・口一レン社とは別異の団体であることが極めて容易に認識される。一方、本件商標は、競技としてのPOLOとは無関係のラルフ・ローレン社とは、関連性を全く感じさせないところから、「POLO」ブランドと混同を生じないことは明らかである。
なお、このことは、最高裁平成12(行ヒ)172判決の福田裁判官の補足意見で、「『ポロ』は語源的には普通名称なので、商標の出所表示機能がある程度減殺されている。『ポロ』の語を含んでいるときでもラルフ・ローレンとの関連性を打ち消す表示が含まれているときは商標法第4条第1項第15号該当性が否定され、登録を受ける余地があるというべき」と判示されていることからしても窺える(乙第8号証)。
特に、その後になされた「CAMBRIDGE UNIVERSITY/POLO CLUB」判決(東京高判平成12(行ケ)430号)では、「POLO」がスポーツ競技の一種であることが広く認められていること、スポーツ競技の名称であることから、ラルフ・ローレンの「POLO」商標は商品の出所表示機能がある程度減殺されていること、上記商標中「POLO」は、商標全体の中に溶け込み「POLO」だけが看者の注意をひいて「ポロ」と略称されることがないこと、「ケンブリッジ大学」の名称との関係で、ラルフ・ローレンと営業上の関係があることを想起し難いことが判示されている(乙第9号証)。
米国ポロ協会は、我が国においてそれほど認識されていない可能性があるとしても、この判決は、100年を超える歴史を誇り、全米のポロ競技を統括する同協会の名称「UNITED STATES POLO ASSOCIATION」についても適用されるべきであり、十分に尊重されるべき判断である。
(ウ)各国の登録例
米国では、第14類「宝石(jewelry)」を指定商品とする「UNITED STATES POLO ASSOCIATION」の商標と「RALPH LAUREN」の「POLO」商標とが並存して登録されている(乙第10号証及び乙第11号証)。このことは、米国において、これらの商標に係る商品の関連性を考慮した上で、「UNITED STATES POLO ASSOCIATION」の「POLO」の文字から引用商標が想起・観念されることはなく、その結果、これらの商標が混同を生じさせることはないと判断されている証左である。両商標が請求人と被請求人の本国である米国において並存している事実は、我が国において本件商標と引用商標との間で、商品の出所の混同を生ずるおそれがある否かの判断に際して充分に尊重されなければならない事実である。本国において争いのない並存関係を極東の日本で単に競技としてのポロが盛んでないことを理由に特異な判断をすることに合理的な理由はないと考えられる。まして、世界の貿易が自由になり、他国における著名商標までも保護しようとする現在の審査体制にあって、一人日本だけが特異な判断に固執する理由は全くない。
米国以外の国々でも、米国ポロ協会の商標は登録されているが(乙第12号証)、世界一市場化した今日においては、ある権利者のハウスマークは全世界において登録され、使用されて初めて商標としての機能を果たし、それにより世界的な流通秩序の維持が図られることを考え併せると、米国ポロ協会の「ハウスマーク」を請求人の業務に係る商品と混同を生じるとして、我が国においてのみ、その登録を無効とすることは理解に苦しむ。請求人でさえ、両商標の並存について地域的に合意しているので、その点は充分に認識していると考えられる。
(エ)著名商標の保護と世界の流通秩序維持
商標権者の上部団体である「米国ポロ協会」は、そのハウスマーク「UNITED STATES POLO ASSOCIATION」を、請求人が引用商標の使用を開始する遥か以前から使用していた。これは、引用商標の著名性にフリーライドする意思が全くない証拠である。
著名商標は、その所有者の努力により形成された多大なる業務上の信用が化体しているので、十分に保護されなければならないが、それはひとえに世界の流通秩序維持の観点からであり、商品流通秩序を阻害することのない商標についてまでその登録を無効にできるとするのは、著名商標に対する過度な保護といわざるを得ない。したがって、引用商標に対するフリーライド的な要素が全くなく、かつ、商品流通秩序を阻害することのない本件商標について、引用商標と混同を生ずるおそれがあることを理由に、その登録を無効にするのは妥当ではなく、むしろ、世界的な商品流通秩序の維持の観点からは、上記諸外国と同様に我が国における本件商標の登録は維持されるべきである。
(3)審査基準
特許庁が平成11年6月14日に公表した「周知・著名商標の保護等に関する審査基準の改正」において、商標法第4条第1項第15号については、「他人の著名な商標と結合した商標は原則として出所混同を生ずるおそれがあるものと推認して取扱うものとする」と記載されている(乙第13号証)。ただし、これを適用するには、出所の混同のおそれがあることが要件とされている。
請求人は、世界各国では混同の可能性がないとして登録された商標が、我が国においてのみ、請求人の業務と混同を生ずると主張をしている。このような世界の登録例や審査基準の動向を無視した主張は到底許容できない。
米国ポロ協会が世界で主催する著名な競技会の名称が、その一部に「POLO」の文字を含むことを理由にその名称の登録を無効にされるのは、出所の混同の本質を無視したあまりにも拡張した解釈と考えられる。
世界の審査の統一的な審査の基準とされるWIPOによる「PROTECTION OF WELL-KNOWN MARKS(周知商標の保護規則に関する協同勧告)」(乙第14号証)では、日本の商標法第4条第1項第15号のような基準を作成して勝手に「混同を生ずるおそれがあるものと推認する」ところまで保護を拡大することを要請してはいない。我が国の基準は「ただし、その他人の登録商標の部分が既成の語の一部となっているもの、又は、指定商品若しくは指定役務との関係において出所の混同のおそれのないことが明白なものを除く」と制限を付加してWIPOの要請する保護の基準と整合させようとしているが、文言上は、明確な齟齬がある。また、出所混同のおそれがないものについても間違って適用されている。本件の場合、既に長年にわたるラルフ・ローレン社との紛争の実績があるので、現実に出所混同を生じているという証明をさせる必要がある。混同を生じないという事実を優先的に評価しない限りWIPOの要請からは著しく外れる結果となることは明白である。出所混同が生じていないことは再三主張しているが、反論の証拠は今までのところないのが実情である。
3 まとめ
以上詳述したとおり、たとえ引用商標が著名であり、かつ、引用商標が使用される商品と本件商標の指定商品とが「ファッション」において関連性を有するとしても、本件商標の図形部分は、「ポロプレーヤーマーク」の構成とは軌を全く異にするものである。また、本件商標中の文字部分は「米国ポロ協会」の「ハウスマーク」として機能するので、その文字部分から「POLO」の文字のみが何の関連もなく抽出されることはなく、故に、請求人の引用商標を想起・観念させるものではない。
したがって、本件商標は、ラルフ・ローレン又は同人と経済的・組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないと考えざるを得ず、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。

第4 当審の判断
1 引用商標の著名性について
各甲号証によれば、引用商標である「POLO」又は「Polo」の文字、「by RALPH LAUREN」の文字及び「ポロプレーヤーマーク」の各商標が単独で又は結合して、米国の服飾デザイナーであるラルフ・ローレンのデザインに係る被服、眼鏡等に使用する商標として、本件商標の登録出願時及び登録査定時において我が国の取引者・需要者間に広く認識されていたこと、そして、これらは「ポロ」、「POLO」又は「Polo」の略称でも広く知られていたことが認められる。この点については、当事者間に争いがない。
2 商品の出所の混同のおそれについて
(1)本件商標は、別掲(1)のとおりの構成からなるところ、その図形部分は、馬に乗った二人のポロ競技者を黒色を基調に描いたものと理解されるものである。これをもう少し詳しくみると、二人が騎乗している馬は重なるように描かれ、脚が4本以上見えるものの胴体部分は塗りつぶされて二頭が明らかでない。帽子を被った二人の競技者も重なるように描かれ、そのマレットは一方は上方に他方は下方に配されており、全体として看者に躍動的印象を与えるものである。
他方、「ポロプレーヤーマーク」は、別掲(2)のとおり、馬に乗った一人のポロ競技者を黒色を基調に描いたものであって、上記のとおり、ラルフ・ローレンに係る商標として取引者・需要者間に広く認識され、「ポロ」とも略称されているものであるから、「ポロ」の称呼及び観念を生ずるものといえる。そして、マレットを振り上げた競技者と駆けるような馬とで全体として看者に躍動的印象を与えるものである。
この点について、被請求人は、本件商標の図形部分と「ポロプレーヤーマーク」を対比し、両者は、ポロ競技者の数、馬の数と向き、馬の足の数とマレットの混在、基調となる色彩において差異があることから、構成の軌を異にすることは明らかであると主張している。
確かに、両者は、子細にみれば相違する点があるものの、少なくとも、いずれも、馬に乗ったポロ競技者を黒色を基調に描いてなり、全体として看者に躍動的印象を与えるという点では共通しているといえる。これら共通点からすれば、後述のように、本件商標中の図形部分から、看者をして周知著名となっている「ポロプレーヤーマーク」を想起・連想せしめる場合が少なからずあるものというべきである。
(2)次に、本件商標の文字部分は、全体としては比較的長い構成であって、二段に書されていることもあり、その外観上、「UNITED STATES」、「POLO」、「ASSOCIATION」の英単語を組み合わせたものと認められる。そして、我が国の一般国民の通常の英語読解力を前提にすれば、「UNITED STATES」の文字が「アメリカ合衆国」を意味し、「ASSOCIATION」の文字が「団体、協会、組織」等を意味するものと容易に理解されるというべきである。また、「POLO」の文字については、スポーツとしての「ポロ競技」が理解されると共に、上記のとおり、ラルフ・ローレンに係る商標として取引者・需要者間に広く認識されている引用商標である「POLO」又は「Polo」と同一の綴り字であることから、「ラルフ・ローレンのデザインに係る商品」の観念も生ずるものといえる。
この点について、被請求人は、本件商標の文字部分は米国ポロ協会を指称するハウスマークであり、「POLO」の文字のみが抽出・注目されることはなく、全体をもって取引に使用されると主張している。
しかしながら、被請求人の提出に係る証拠によれば、米国ポロ協会が米国に存在していることは認められるとしても、我が国の一般の取引者・需要者間において、「UNITED STATES POLO ASSOCIATION」の文字が「米国ポロ協会」という特定の団体名称を表すものとして広く認識されているものということはできないし、全体として親しまれた熟語的意味合いを有する語を表したものともいえない。
そうすると、上記文字部分は一体不可分の一個の既成の観念を示すものとして認識されるものではなく、本件商標の指定商品の取引者・需要者が常にこれを米国ポロ協会のハウスマークとしてのみ認識するものとはいえないから、上記文字部分から「POLO」の文字のみが抽出・注目されることはないという被請求人の主張は前提を欠き、採用することができない。
(3)さらに、本件商標の指定商品には、貴金属製喫煙用具、身飾品、カフスボタン、宝玉及びその模造品、時計等が含まれており、これらの商品は引用商標が使用されている被服、眼鏡等とは、いずれもファッション関連商品という意味で密接な関係を有するものといえる。この点については、当事者間に争いがない。
また、これらファッション関連商品の需要者は、通常、特別の専門知識を有するものでない一般消費者である。
(4)以上を総合勘案すると、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者・需要者はその構成中のポロ競技者の図形及び文字部分の「POLO」の文字に注目して、上記周知著名となっている引用商標を想起・連想し、該商品が上記ラルフ・ローレンのデザインに係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
3 被請求人のその余の主張について
(1)同様の図形の類否判断、判決例
被請求人は、商願平7-78626号に係る図形商標の審査例や東京高裁平成12(行ケ)430号判決を引用して、本件商標についても同様に判断されるべき旨主張している。
しかしながら、上記審査例は、図形のみからなる商標についての商標法第4条第1項第11号における類否判断であり、しかも、その図形が本件商標の構成とは大きく異なるものであるから、本件商標とは事案を異にし、同列に論ずることはできない。また、上記判決例も、「CAMBRIDGE UNIVERSITY/POLO CLUB」の商標に関するものであり、当該商標中の「CAMBRIDGE UNIVERSITY」の文字部分が著名な「ケンブリッジ大学」の名称を容易に想起させる点が考慮されたものであって、やはり本件商標とは事案を異にするものである。
(2)各国の登録例
被請求人は、米国では第14類「宝石」を指定商品として「UNITED STATES POLO ASSOCIATION」の商標と「RALPH LAUREN」の「POLO」商標とが併存して登録されており、米国以外の国々でも米国ポロ協会の商標は登録されているから、これらの事実は、我が国において本件商標と引用商標との間で商品の出所の混同を生ずるか否かの判断に際して尊重されなければならない旨主張している。
しかしながら、商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」があるか否かは、当該商標と他人の商標との類似性の程度、他人の商標の周知性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者・需要者の共通性その他取引の実情等に照らして客観的に判断されなければならない。そして、本件商標と他人の商標である引用商標との類似性の程度は、我が国における当該商品の取引者・需要者の一般的認識及び理解の程度を前提として判断すべきものであり、本件の場合も、上記のとおり、その前提に立って、本件商標の全体的構成及びその構成中の図形部分及び「POLO」の語と引用商標の「ポロプレーヤーマーク」及び「POLO」の語について検討したものである。また、引用商標の周知著名性の程度も、我が国における当該商品の取引者・需要者の一般的認識を前提に判断すべきものであり、このような認識が各国において差異があることは当然のことといわなければならないし、その他当該商品の取引が我が国の実情に即して具体的に認定判断されなければならないことも当然である。
したがって、同号にいう混同のおそれについての判断に当たっては、我が国における当該商品の取引者・需要者の一般的認識等や当該商品取引の実情を重視すべきであり、米国を始めとする各国に登録状況が全く無関係ではないとしても、これを尊重すべき筋合いのものではないから、被請求人の上記主張は採用することができない。
(3)著名商標の保護と世界の流通秩序維持
被請求人は、米国ポロ協会がそのハウスマーク「UNITED STATES POLO ASSOCIATION」を引用商標の使用開始の遙か以前から使用しており、引用商標に対するフリーライド的な要素が全くなく、かつ、商品流通秩序を阻害することのない本件商標については、世界的な商品流通秩序の維持の観点から、上記諸外国と同様に、我が国における登録が維持されるべきである旨主張している。
しかしながら、商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」があるか否かは、上記のように、当該商品の取引者・需要者を主体として客観的に判断されるべきであるから、被請求人に引用商標にフリーライドするような主観的意思がないとしても、そのことに基づいて本件商標の登録を維持することが肯定されるべきものではないし、諸外国における登録例によって我が国における商標登録の可否が左右されるものでもないから、被請求人の上記主張は採用することができない。
(4)審査基準
被請求人は、「他人の著名な商標と結合した商標は原則として出所混同を生ずるおそれがあるものと推認して取扱うものとする」とした改正審査基準(乙第13号証)がWIPO勧告(乙第14号証)と明確に齟齬しており、出所混同のおそれがないものについても間違って適用されている旨主張している。
しかしながら、上記改正審査基準がWIPO勧告と齟齬するとの主張は合理的根拠のない被請求人の独自の見解であり、しかも、上記改正審査基準の規定の内容に拘わらす、本件商標が引用商標との関係で商品の出所の混同を生ずるおそれがあることは前示のとおりであるから、被請求人の上記主張は採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標は、その指定商品に使用された場合、これに接する取引者・需要者がその構成中のポロ競技者の図形及び文字部分の「POLO」の文字に注目して、周知著名となっている引用商標を想起・連想し、該商品がラルフ・ローレンのデザインに係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲(1)




別掲(2)


審理終結日 2004-08-26 
結審通知日 2004-08-27 
審決日 2004-09-14 
出願番号 商願平8-115697 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (014)
最終処分 成立  
前審関与審査官 寺光 幸子 
特許庁審判長 野本 登美男
特許庁審判官 茂木 静代
三澤 惠美子
登録日 1998-11-27 
登録番号 商標登録第4214637号(T4214637) 
商標の称呼 ユナイテッドステーツポロアソシエーション、ユナイテッドステーツポロ 
代理人 岡田 稔 
代理人 曾我 道照 
代理人 広瀬 文彦 

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