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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 016
管理番号 1104815 
審判番号 取消2002-30484 
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-11-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2002-05-02 
確定日 2004-10-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第3247286号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第3247286号商標の指定商品中「印刷物」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標登録の取消しの審判
1 本件商標
本件商標登録の取消しの審判に係る、登録第3247286号商標(以下「本件商標」という。)は、「VINTAGE」の欧文字と「ヴィンテージ」の片仮名文字とを二段に横書きしてなり、平成5年9月17日に登録出願され、第16類「印刷物,書画,写真,写真立て,事務用又は家庭用ののり及び接着剤」を指定商品として、平成9年1月31日に設定登録されたものである。
2 本件商標登録の取消しの審判
本件商標登録の取消しの審判は、商標法50条により、本件商標の指定商品中「印刷物」について、登録の取消しを請求するものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。
1 請求の理由
請求人の調査によれば、本件審判請求前3年以内に、本件商標が、商標権者である被請求人によって、日本国内において、その指定商品中「印刷物」について使用された事実は発見できなかった。
さらに、登録原簿を見るも、本件商標には専用使用権及び通常使用権のいずれも設定登録されておらず、専用使用権者及び通常使用権者が存在しないものと推定される(甲第2号証)。
したがって、本件商標は、その指定商品中「印刷物」について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれにも使用されていないものであるから、商標法第50条第1項の規定により、登録を取消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は平成14年7月9日付け答弁書において、本件商標が「印刷物」について通常使用権者たる株式会社祥伝社(以下、「祥伝社」という。)により使用されていると主張し、乙第2号証を提出している。しかしながら、乙第2号証に示された標章は、本件商標と社会通念上同一とは認められないものであるから、乙第2号証によっては本件商標の使用事実は何ら立証されていないというべきである。
(2)乙第2号証によれば、表紙上部には角を丸めた長方形によって囲まれた「BOON」の文字のすぐ右に、「VINTAGE」の文字が大きく表されており、この「BOON」の文字の下には「ブーン・ヴィンテージ」の文字が表示されている。また、一般に雑誌の題号が表示される裏表紙左上部にも「ブーン・ヴィンテージ」の文字が表されていることからみて、乙第2号証の雑誌の題号が「ブーン・ヴィンテージ」であることは明らかである。よって、前記「BOON」及び「VINTAGE」の文字は全体として、雑誌の題号「ブーン・ヴィンテージ」を欧文字表記したものにすぎないとみるのが妥当である。すなわち、乙第2号証に示されている標章は「ブーン・ヴィンテージ」及び「BOON VINTAGE」(以下、使用標章という)とみるのが妥当である。当該使用標章は、本件商標「VINTAGE/ヴィンテージ」と同一とは到底認められず、社会通念上も同一と認められないものである。してみれば、乙第2号証によっては本件商標の使用事実は何ら立証されていないことは明らかである。
(3)よって、本件商標は、その指定商品中「印刷物」について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれにも使用されていないものである。
(4)なお、仮に、祥伝社による使用標章の使用が本件商標の使用にあたるとしても、乙第2号証の雑誌は本件審判の請求の登録より5年も前の平成9年5月20日に発行されたものであり、本件審判の請求の登録前3年以内の使用事実は何ら立証されていないところである。因みに、平成14年7月31日現在、祥伝社が参画するオンライン書店において、乙第2号証の雑誌を検索すると「在庫なし」と表示され、購入することができない(甲第3号証)。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証を提出した。
(1)本件商標の通常使用権者による使用
被請求人は、東京都在の祥伝社に対して、1997年(平成9年)4月25日に本件商標を「印刷物」について使用する通常使用権を許諾した(乙第1号証)。祥伝社は、許諾された通常使用権に基づいて、本件商標を使用して印刷物ムックを平成9年5月20日に発行した(乙第2号証)。該ムックは、雑誌「BOON/ブーン」の特別版「祥伝社ムック:10」として発行され、「BOON VINTAGE VOL.1」及び「ブーン・ヴィンテージ VOLUME.1」の題号表示が付されている。
祥伝社ムック「BOON VINTAGE VOL.1」「ブーン・ヴインテージ VOLUME.1」は、88,000部印刷され初年度(’97年)〜平成12年末までの実販売部数は市中在庫を含めて62,033部であり、平成13年の1年間には418部が販売され、平成14年においても6月19日現在までに3部が販売されている。
すなわち、ムックは雑誌の特別版として発行される性質の印刷物であるが、初版発行後市中の書店及び発行所に未販売のものが在庫として存在しており、在庫がなくなるまで販売が継続される雑誌である。そして、本件にあっては、祥伝社が発行している雑誌「BOON/ブーン」のムックとして「BOON VINTAGE VOL.1」「ブーン・ヴインテージ VOLUME.1」の題号表示で発行されたものであり、過去3年間においても継続して販売されているのである。
(2)乙第2号証の題号について
請求人は乙第2号証について、雑誌の題号は「ブーン・ヴィンテージ」であり、「VINTAGE/ヴィンテージ」ではない旨主張する。しかしながら、かかる主張は誤りであり、到底受け入れることの出来ないものである。
乙第2号証の雑誌は、著名な雑誌である「BOON」の特別版、いわゆるムックであり、その表紙には「VINTAGE」の文字が大きく記載されており、一見して当該ムックの題号が「VINTAGE」であることを明確に表している。
「BOON」の文字は「VINTAGE」よりもはるかに小さなサイズで、しかも赤字の文字で表され、更に長方形の枠に入れられており、一見して「VINTAGE」とは一連でない態様で使用されているものである。したがって、これを請求人が主張するように「BOON VINTAGE」と一連の商標とは到底見ることが出来ない。
かかる商標の表示態様は、乙第2号証の雑誌が、雑誌「BOON」の特別版である、いわゆるムックと称される雑誌であることを示すものであり、その題号が「VINTAGE」であることは明らかである。
本件雑誌「BOON」のムック「VINTAGE」は、その発刊当時、雑誌「BOON」において宣伝、広告されている(乙第7号証及び同第8号証参照)。この広告からも、「VINTAGE」が雑誌「BOON」の特別版ムックの題号であることが理解できる。
(3)本件商標が本件取消審判の請求前3年以内の使用について
本件商標は、乙第3号証ないし同第5号証並びに乙第10号証から明らかなように、その発行以降現在まで継続して販売されているものであり、本件審判請求前3年以内に使用されていたことは立証されている。
(4)以上の通り、本件商標は、本件審判請求前3年以内に指定商品「印刷物」について通常使用権者により使用されているので、本件審判請求は成り立たない。

第4 当審による職権証拠調べ
当審は、被請求人の答弁書(その2)における「乙第2号証の雑誌は、著名な雑誌である『BOON』の特別版、いわゆるムックであり、その表紙には『VINTAGE』の文字が大きく記載されており、一見して当該ムックの題号が『VINTAGE』であることを明確に表している。」との主張、に関して、当審は、被請求人に対して、下記内容の職権による証拠調べの結果を通知し意見を求めた。

1 請求人が提出した乙第2号証は、乙第1号証における契約者乙である祥伝社が発行した書籍「ムック」と認められるところ、ムックについて以下のことが認められる。
(1)広辞苑第5版によれば、「(magazine(雑誌)とbook(書籍)との合成語)編集の仕方や体裁が雑誌と書籍との中間であるような出版物のこと」との記載がある。
(2)自由国民社発行「現代用語の基礎知識2003年版」によれば、「雑誌(magazine)と 書籍(book)の合成語で、雑誌とも、書籍ともつかないあいまいな存在。」との記載が認められる。
(3)「ヒントブックス」のインターネットホームページ(http://homepage1.nifty.com/hint-yf/Sea_mcode.htm)には、「雑誌コード」として、「『6』から始まる『雑誌コード』」、「平凡社の月刊誌『太陽』は05901ですが、『別冊太陽』は65941。このように『6』から始まる雑誌を『ムック』といいます。MagazineとBookの合成語、Mook。雑誌と書籍の合成語ですが、出版流通としては『雑誌扱い』です。」との表示が認められる。
(4)以上の、(1)ないし(3)を総合すれば、ムックは、雑誌と書籍の両面の性質を有する印刷物であり、これを雑誌として取り引きされている実情も一部認められるが、そのうち、ある特定の題号を使用して、単発ではなく、内容を違えて継続的に発行されるものについては、発行間隔が不定期であるものも含めて、雑誌に準ずるものとして、商標法上の商品としての雑誌の範疇に含まれると解することができ、そうでないものは、書籍として認識されるとみるのが相当である。
2 インターネットホームページ(http://www.shodensha.co.jp/top_n/s_and_g.html)によれば、乙第1号証における契約者乙である祥伝社は、「祥伝社ムック『ブーン』」と称するムックを発刊していることが認められ、また、インターネットホームページ(http://www.s-book.com/plsql/sbc_bookSE6?cd=60130&lpc=1)をも合わせて検討すれば、乙第2号証の出版物は、この祥伝社ムックシリーズのうちのひとつということができるものである。
そして、インターネットホームページ(http://www.s-book.com/plsql/sbc_bookSE6?cd=60130&lpc=1)によれば、本件乙第2号証のムックは、同じ題号で、内容を違えて、継続して発刊されている事実は認められず、かえって、「在庫なし」とされていることから、乙第2号証の出版物は、版が改められる可能性はあるものの、内容を違えて定期的に刊行される雑誌の類とみることはできず、書籍の類とみるべきであると判断される。
3 乙第2号証における「VINTAGE」の表示(題号)について
(1)「VINTAGE」(ビンテージ/ヴィンテージ)の語について
(ア)集英社発行「イミダス」2003年版によれば「ビンテージ(vintage)」の語について、「『年代物』の意味。………ファッションではジーンズや、スニーカー、高級ブランドのバッグやユーズド(使用したもの)やデッドストックが人気となっている。」と記載が認められる。
(イ)読売新聞(1997.6.23付 大阪版夕刊)18頁によれば、「[?????]ぼくも悲しい ジーンズで」との見出しのもと、「大阪・ミナミの古着専門店へ先日、ジーンズを買いに行って驚いた。欲しいタイプを説明すると、『ピッタリのがあります』と店員さんが棚から下ろしてくれたのは、『ヴィンテージ・ジーンズ』と呼ばれる十数年前のもの。それが、なんと十六万円というのだ。」との記事が認められる。
(ウ)繊研新聞(1997.12.19付)9面によれば、「【ジーンズ】 97年の業界10代ニュース ビンテージ好調」との見出しのもと、「有名な芸能人が着用したのをきっかけに、耳付きのデニムを使ったビンテージジーンズが昨年秋からブームになった。人気はこの春夏でピークを迎え、秋以降は徐々に落ち着きをみせている。ブームをきっかけに、さまざまなアパレルメーカーがビンテージジーンズを手掛けはじめ、ジーンズショップもショップオリジナルで次々に参入した。ピークが過ぎたことから、今後はブランドの整理も進み、売れる商品と売れないものがはっきりしていくとみられる。」との記事が認められる。
(エ)読売新聞(2001.10.15付 東京版夕刊)13頁によれば、「[Catch―Up21]量り売り古着店 重さで決まる、服の値段=北海道」との見出しのもと、「古着と言えば、前の持ち主も分からず、穴があいていたり、色あせていたり。古着好きの人じゃなければ、『ただのお古じゃないか』と思う人も多いだろう。しかし、世の中には『ヴィンテージ』『レアもの』などと呼ばれ、一着何十万円もする古着も存在するのだ。」との記事が認められる。
(オ)毎日新聞(2001.11.10付 東京版朝刊)14頁によれば、「[流行のへそ]人気続く古びたデニム」との見出しのもと、「このところ息の長い流行といえば、デニム。ジーパンやジージャン、ジーンズのスカートを街でみかけない日はない。年代物のヴィンテージジーンズの人気は一段落したものの、相変わらず永くはき込んだ風合いやわざと古ぼけた加工をしたデニムが人気だ。」との記事が認められる。
(カ)インターネットホームページ(http://www.duff.to)には、「Vintage Pants」との表記のもと、古着のジーンズパンツが販売されていることが認められる。
(キ)以上によれば、「VINTAGE」(ビンテージ/ヴィンテージ)の語は、ファッション用語であり、ジーンズパンツについては、年代物の古着を意味するものとして使用されているといえるものである。
(2)乙第2号証の内容について
(ア)同号証の目次中の「97 66モデル登場、そして赤耳廃止と現在のヴィンテージ」との記載が認められる。
(イ)102頁の「そしてヴィンテージという新しい価値観の誕生」との見出しによる記事中に「ヴィンテージという新しい価値観の誕生。それは奇しくも日本の市場が掘り当てた宝だったといえる」との記載があること。
(ウ)104頁の「世界へ」との見出しによる記事中に、「偽物と思われるものを”ヴィンテージ”として扱っていたりする……。日本の場合、古着をはじめヴィンテージと呼ばれる服に、一般の人が興味を抱くようになったのは………」等の記載があること。
(エ)インターネットホームページ(http://www21.ocn.ne.jp/~jeans-pa/mybible.htm)によれば、ジーンズパンツに関する書籍の紹介がされているところ、「ヴィンテージジーンズ真の価値 平成10年1月15日発行 山海堂 リーバイスオンリーの内容で、文章中心だが各年代の501について結構詳しくかかれていて、ヴィンテージジーンズの勉強になる。505や517についても書かれている。」、「ザ・ジーンズバイブル リーバイス501 平成11年9月20日発売 学習研究社 ヴィンテージジーンズの各年代のディテール等の勉強になる。失敗しないヴィンテージジーンズの選び方など色落ちの参考写真も豊富。レプリカの色落ちチェックもある。」との紹介があり、同時に祥伝社の書籍についても紹介されており、「BOON ジーンズ バイブル 平成9年10月30日発行 祥伝社 ポケットサイズながらもヴィンテージジーンズのディテールや歴史の参考になるし復刻系メーカーにもちょこっと触れているし、読み応えはかなりのものだと思う。」、「BOON EXTRA vol1 『プロトタイプなジーンズ200』 平成7年5月20日発行 祥伝社 歴史考証に間違いがあるものの、ヴィンテージジーンズの(特にリーバイス501の)ディテールの参考書として最適な1本である。」、「BOON EXTRA vol4 『DENIMディテールの書』 平成8年4月20日発行 祥伝社 ジージャンとジップフライのヴィンテージ物のディテールがわかる1冊。ジップフライのヴィンテージの特集が組まれている数少ない本である。」との紹介がされており、乙第2号証のムックについても、「BOON VINTAGE vol1 平成9年5月20発行 祥伝社 ヴィンテージジーンズの勉強に最適。いまだに読みふけってしまう1冊。」と紹介されているところである。
(オ)以上の(ア)ないし(エ)及び乙第2号証全体をみれば、乙第2号証は、「リーバイス社」のジーンズパンツに関する開発と販売の歴史及び同社のヴィンテージもののジーンズパンツを特集して紹介したものであるということができるものである。
4 上記「1」で認定したように、乙第2号証の出版物であるムックは、内容を違えて継続して刊行される雑誌の類とはいえず、書籍の類とみるべきであり、当該書籍は、上記「2」でみたように、ビンテージもののジーンズパンツを紹介したものであるといえることから、乙第2号証に表示されている「VINTAGE」の語は、当該書籍の内容を表示したものであって、自他商品を識別するための標識としては認識されないというべきものである。
したがって、乙第2号証によっては、本件商標が、本件審判請求に係る指定商品「印刷物」について、本件審判請求前三年以内に使用されていたと認めることができないと判断される。

第5 前記、第4の職権証拠調べ通知に対する被請求人の意見及びこれに対する当合議体の見解
1 被請求人は、前記「第4」の職権証拠調べ通知に対して、要旨以下の意見書を提出した。
(1)「ムツク」について
先ず、本件商品「ムック」について、証拠調べ通知書1の第1〜2行目に「・・・祥伝社が発行した書籍『ムック』と認められるところ、・・・」と述べて、証拠調べする前から乙第2号証の「ムック」を書籍と認めるとしている。このことは、本件証拠調べは「ムック」が書籍であるとの予断の下になされたと言わざるを得ず、本件証拠調べは公平に行われたとは言い得ないと思料する。
次に、証拠調べ通知書の「1(4)」では、ムックは継続的に発行されれば雑誌であり、そうでなければ書籍であると認定している。しかしながら、「(1)ないし(3)」の証拠には、かかる認定の根拠になる記述は全く存在してはおらない。この認定は事実に基づかない認定である。
そもそも「ムック」とは、雑誌と書籍の中間であるような出版物であり、通常雑誌の別冊として発行され、出版業界での取扱いは雑誌であり、雑誌として販売され、雑誌として値段が付けられ、返本等の扱いも雑誌に準じて扱われているものであり、書籍としての扱いはなされていない。従って、「ムック」は基本的に雑誌と見るべきものであることは明らかと思料する。又、発行が継続的か、単発であるかは、「ムック」を雑誌とするか書籍とするかの根拠にはなり得ないものである。何となれば、過去において発行が一回限りとしても、今後改めて発行される可能性が零とすることにはならないからである。この点に関して、証拠調べ通知書2で祥伝社のインターネットホームページによれば、乙第2号証は「在庫なし」されていることから、雑誌とは言えないとするが、これは誤りである。「在庫なし」とは、単に乙第2号証の在庫がないことを言うに過ぎず、内容を違えて定期的(不定期であることを含む)に発行されないことを意味するものではない。
乙第11号証は、祥伝社が発行している「ムック」の一部をリストした表であるが、この乙第11号証の表から明らかなように、祥伝社ムック(Boon)は、一回限りではなく少なくとも過去30回に亘って発行されている。又、このムックは「正味」が「685」と記述されているが、正味とは出版物取扱業者への販売の掛け率を示し、「685」は掛け率68.5%であることを意味するものである。そして、この掛け率は雑誌と同じである(乙第12号証)。
(2)「VINTAGE」の表示について
証拠調べ通知書の「3」において、(ア)〜(力)の証拠を示して、これらの証拠から、「『VINTAGE』(ビンテージ/ヴインテージ)は、ファッション用語であり、ジーンズパンツについては、年代物の古着を意味するものとして使用されているといえる。」と認定している。
しかしながら、「VINTAGE(ビンテージ/ヴインテージ)」の語は、広辞苑第5版第2293頁(乙第13号証)の「ワインの醸造年、特定の地域・年に醸造した高級ワイン」との記述から明らかなように、本来ワインの醸造年、或いは特定の地域・年に醸造した高級ワインを意味する言葉である。同様の説明は「大辞林」第2081頁(乙第14号証)、「研究社 新英和大辞典 第5版」第2360頁(乙第15号証)にも記述されている。本件証拠調べで指摘されている「年代物」との意味合いは、我が国の代表的な国語辞典である「広辞苑」「大辞林」には全く掲載されておらず、乙第15号証の「新英和大辞典」の項4.において示されている「ある年(時期)の製品、(特に、古い)製作、型」との意味に相応する用例である。
すなわち、「VINTAGE」とは、そもそもは「ワインの醸造年若しくは特定の地域・年に醸造した高級ワイン」を意味する語であったが、英語の「古い製作、型」との意味でも使用されるようになった語と理解されるものである。そして、「VINTAGE CAR(ヴインテージカー)」「VINTAGE WINE(ヴィンテージワイン)」「VINTAGE YEAR(ヴインテージイヤー)」のように使用されている(乙第15号証参照)。してみれば、VINTAGE/ヴィンテージの語は、何もジーンズに限って使用される言葉ではなく、古い製作、型、若しくは年代物の自動車、ワイン、時計、家具、装飾品等種々の製品について使用される言葉であり、到底ファッション用語になっているとは言い得ないものである。証拠調べで示された(イ)読売新聞、(ウ)織研新聞、,(エ)読売新聞、(オ)毎日新聞(尚、この毎日新聞は東京版朝刊と表記されているが、北海道版の誤記であったことが判明している。)に記載された僅かな例をもってファッション用語とするのは即断にすぎると思料する。
又、これらの証拠中には「ヴィンテージ・ジーンズ」との記述も見られ、この用語はリーバイス社が、1992年に「501XX」を復刻した時に使用された用語であり(乙第2号証102頁参照)、これから転じて年代もののジーンズにも使用されるようになったものと理解される。
以上の通り、「VINTAGE/ヴィンテージ」の語は、古い製作、型の各種製品に使用される言葉であり、ジーンズに限って使用される言葉でなく、ファッション用語でもない。従って、「VINTAGE」の題号の下に、これら種々の製品を内容とする雑誌「ムック」が発行されるであろうことは容易に理解されるところと思料する。
(3)乙第2号証の内容について
乙第2号証は、「THE TRUTH OF LEVI’S HISTORY」「リーバイスの歴史が変わる」の題目から明らかなように、ジーンズパンツのメーカーとして著名なリーバイス社の歴史を特集するものであり、何も古い型のジーンズのみを特集するものではない。このことは、乙第2号証の目次の記載からも明らかである。
すなわち、乙第2号証において、「ヴィンテージ」についての記述は、97〜106頁の僅か10頁にも満たないものであり、雑誌全体の10%以下のページが割かれているに過ぎない。内容の大部分は「ヴィンテージ」とは関係のないリーバイス社の歴史を内容とするものであり、ショップのリストさえも記載されている。してみれば、「ヴィンテージ」の表示は、乙第2号証の内容を表示したものとは到底言い得ないものである。乙第2号証の前記内容は、まさに「THE TRUTH OF LEVI’SHISTORY」「リーバイスの歴史が変わる」の題目の通りであり、この題目が内容を示す部分である。
乙第2号証は、雑誌「Boon」の別冊として発行され、一般的に出版業界においては雑誌として取り扱われている「ムック」であり、他のBoonムックと識別するために「VINTAGE」「ヴィンテージ」の表示が使用されているのであり、他の「Boonムック」と識別するために付された標識であって、まさに商標である。このことは、使用の実態からも明らかである。すなわち、乙第2号証にはその表紙の上部に「VINTAGE」の文字をほぼ雑誌の幅いっぱいに大きく表記し、該「VINTAGE」の文字の左肩に「Boon」の文字を横長方形の枠囲いで併記して、乙第2号証が雑誌「Boon」の「VINTAGE」と表示されたムックであることを示している。そして、表紙の右下には「VOL.1」の文字を丸囲いで明確に表示し、「VOL.2」以降が発行される予定であることを需要者に示している。又、雑誌「ムック」の内容を表示する「THE TRUTH OF LEVI’S HISTORY」「リーバイスの歴史が変わる」の題目は、表紙の中央部に大きく目立つように表記されている。
前記したように、「ヴインテージ」の語は、ジーンズに限って使用される語ではなく、自動車、時計、ワイン、家具等の各種製品について使用される語であり、これらの製品はその製作年代、型によって骨董的価値を有し、しばしば種々の出版物によって特集されているところであって見れば、必然的に「VINTAGE」の題号の下に継続的な発行が予想されるところであり、たまたま現在まで発行されなかっただけのことに過ぎない。
前記のような使用の態様は、「VINTAGE」の表示のみを需要者に印象づけ認識させるものであり、本件商標は乙第2号証において雑誌の題号として使用され、商標として他の雑誌と識別する標識の機能を果たしているものである。
2 被請求人の意見及びこれに対する当合議体の見解
前記「1」の被請求人の意見に関し、本件の職権証拠調べ通知書には、以下の不正確な点ないし誤記等があったので、これらの点及び被請求人の意見に対する当合議体の見解を述べる。
(1)「1」で「書籍『ムック』と認められるところ」とした点について
本件の職権証拠調べ通知書の「1」において、「書籍『ムック』と認められるところ」と記載した部分は、正しくは「『ムック』と認められるところ」とすべきであった。
しかるところ、これ以降の記載に照らせば、本件の通知書の「1(4)」の判断は、(1)ないし(3)に記載の事実に基づいてなしたものであり、「書籍『ムック』と認められるところ」としたことを理由にしたのではないことは、(4)における「以上の、(1)ないし(3)を総合すれば」との文脈から明らかであるから、ここにおける「書籍『ムック』と認められる」との記載部分については、「『ムック』と認められるところ」として職権証拠調べ通知をしたものとする。このように扱っても、本件通知の「1」の趣旨が変わるとはいえない。
(2)「2」で「かえって、『在庫なし』とされていることから、」と記載した点について
次に、職権証拠調べ通知書の「2」で「かえって、『在庫なし』とされていることから、」と記載した点については、被請求人の意見書における「乙第2号証は『在庫なし』されていることから、雑誌とは言えないとするが、これは誤りである。『在庫なし』とは、単に乙第2号証の在庫がないことを言うに過ぎず、内容を違えて定期的(不定期であることを含む)に発行されないことを意味するものではない。」との主張のとおりである。
したがって、本件の職権証拠調べ通知の「2」における、「かえって、『在庫なし』とされていることから、」との記載部分は、この記載がなかったものとして本件の職権証拠調べ通知をしたものとする。すなわち、「在庫がない」ことをもって本件「ムック」を雑誌ではないとの理由とはしない。
(3)「3(1)(エ)」において、「読売新聞(2001.10.15付 東京版夕刊)」とした点について
職権証拠調べ通知書の「3(1)(エ)」において、「読売新聞(2001.10.15付 東京版夕刊)」と示した点は、正しくは、同紙、同日付の「北海道版夕刊」であり、この(エ)の新聞記事部分は、本件の職権証拠調べ通知書には記載されていなかったものとする。なお、被請求人は、現時点ではこの新聞記事は「北海道版の誤記」であることを承知している。
(4)「3(1)(キ)」において、「以上によれば、『VINTAGE』(ビンテージ/ヴィンテージ)の語は、ファッション用語であり、」とした点について
職権証拠調べ通知書の「3(1)(キ)」において、「以上によれば、『VINTAGE』(ビンテージ/ヴィンテージ)の語は、ファッション用語であり、」とした点は、正しくは「ファッション用語でもあり、」とすべきであった。
それゆえ、「『VINTAGE』とは、そもそもは『ワインの醸造年若しくは特定の地域・年に醸造した高級ワイン』を意味する語であったが、英語の『古い製作、型』との意味でも使用されるようになった語と理解されるものである。・・・VINTAGE/ヴィンテージの語は、何もジーンズに限って使用される言葉ではなく、古い製作、型、若しくは年代物の自動車、ワイン、時計、家具、装飾品等種々の製品について使用される言葉であり、」との被請求人の意見は妥当なものである。
しかしながら、この意見に続く、「到底ファッション用語になっているとは言い得ない」との主張は、妥当なものとはいえないと判断される。すなわち、「3(1)(ア)」の集英社発行「イミダス」2003年版における「ビンテージ(vintage)」の語は、分野別索引の「文化・芸術」中の「ファッション」の項目に掲載されていることから、ファッション用語としても使用されているといえるからである。
そして、ここにおける争点は、「VINTAGE」(ビンテージ/ヴィンテージ)の語の語源を明らかにすることではなく、この語が、ファッション用語として使用されているか否かであって、また、取引者、需要者によりファッション用語であると認識されるか否かという点にある。
よって、職権証拠調べ通知書の「3(1)(キ)」における「以上によれば、『VINTAGE』(ビンテージ/ヴィンテージ)の語は、ファッション用語であり、」とした点は、「以上によれば、『VINTAGE』(ビンテージ/ヴィンテージ)の語は、ファッション用語でもあり、」として、通知されたものとして扱うこととする。
そして、上記のように扱っても、この点に関する被請求人の意見は、前記「1の(2)及び(3)」において述べられていると判断される。
(5)「4」において「当該書籍は、上記『2』でみたように、」とした点について
職権証拠調べ通知書の「4」において「当該書籍は、上記『2』でみたように、」とした点は、正しくは「当該書籍は、上記『3(2)』でみたように、」である。そして、本件の職権証拠調べ通知書記載の趣旨からすれば、この点は、上記の誤記としても被請求人に不当に不利益な扱いになるとはいえないと判断される。現に被請求人は、職権証拠調べ通知書に対する意見書でこの点について意見を述べており、本件の職権証拠調べ通知書のこの記載部分の誤記を「当該書籍は、上記『3(2)』でみたように、」として通知されたものとして審理を進めることとする。
(6)その他
被請求人は、当審が職権証拠調べで、「VINTAGE」(ビンテージ/ヴィンテージ)の語に関して使用した「年代物」との語に関して、意見書で「本件証拠調べで指摘されている『年代物』との意味合いは、我が国の代表的な国語辞典である『広辞苑』『大辞林』には全く掲載されておらず」と述べているが、広辞苑第5版、大辞林のそれぞれの「年代」の説明の中に「年代物」として意味が解説されているところである。
(7)審理の進行
以上の(1)、(4)、(5)の当審の見解については、提出された答弁書及び意見書でこれに対する主張と意見が事実上述べられていると判断されるから、あらためて被請求人に意見を求めずに審理を進行した。

第6 当審の判断
1 本件取消審判の争点
(1)本件取消審判の争点は、乙第2号証の出版物(以下「本件ムック」という。)の表紙上部に表示されている「VINTAGE」の文字が、本件商標の使用にあたるか否かにある(乙第2号証の表紙及びその左上部分を拡大したものを別掲に、それぞれ(1)、(2)として表示した。)。
そして、本件商標「VINTAGE」は、別掲(1)に示したように、出版物の題号が通常表示される位置に大きくあらわされているところである。
(2)しかして、商標法50条1項の審判が請求された場合に、当該の登録商標が同条2項所定の要件を備えた使用をしていることが証明されれば、該登録商標は取消を免れるものである。そして、商標法は、同法2条3項において標章(同法2条1項でいうもの)の「使用」を定義しているところ、同項では、それが商品の出所表示機能を果たすようなかたちで使用されているか否かを要件としてはおらず、また、使用が繰り返されているか否かについても要件とはしていない。
すると、これらによれば、50条2項における「登録商標の使用」については、同項所定の要件を満たしたうえで、登録商標が指定商品「印刷物」に付され(表示され)ていることが示されさえすれば、それで登録商標の使用と解されなくもない。
他方、商標法2条2項は、「『登録商標』とは、商標登録を受けている商標をいう。」と規定しており、さらに、同法3条は、登録出願された商標が商標登録を受けることができるものであるか否かを峻別する規定であるから、登録商標は、同法3条所定の「商標登録の要件」、すなわち、商品の出所を表示し自他商品を識別するという、商標の本質的機能としての要件を具備しているものとして登録された商標というべきである。
そうであれば、商標法50条における「登録商標の使用」とは、登録商標が商品の出所を表示し自他商品を識別するものとして使用されていなければならないと解するのが相当である(平成2年3月27日 東京高等裁判所 平成1年(行ケ)178号事件判決(当庁発行「審決取消訴訟判決集」(15)平成3年1月18日発行 337頁)、平成13年10月23日 東京高等裁判所 平成13年(行ケ)190号事件判決(最高裁HP)参照)。
(3)加えて、本件ムックである出版物に使用される商標が商品の出所表示機能を果たしているか否かをみるに際して、それが、書籍の題号に使用されている場合、その題号が特定の内容を表示するものと認められるときには、当該題号は、商品の出所表示の機能を果たしていないと解すのが相当であり、他方これが、新聞・雑誌等の定期刊行物の題号として使用されている場合については、原則として、出所表示機能を果たし得るものと解すべきとされているところである。
(4)そうであれば、本件取消審判の争点は、第一に、本件ムックに表示されている「VINTAGE」の文字が、その出版物の出所表示機能を果たすものとして使用されているか否かである。
そして、「VINTAGE」の文字が、その内容等を表示するものとみられる場合、本件ムックを雑誌の類とみることができるか否かが第二の争点となる。
その場合さらに、第三の争点として、本件ムックに表示された「VINTAGE」の文字が、これを題号とする雑誌に使用する商標とみることができるか否かの検討が求められる。
そこで以下、上記各争点について順次、審理を進める。
2 「VINTAGE」の文字について
(1)本件の職権証拠調べ通知書の「3」((1)の(エ)を除く。)で示した「VINTAGE」(ビンテージ/ヴィンテージ)の語がジーンズパンツについて年代物の古着を意味するものとして使用されている事実、及び、ヴィンテージジーンズと称されるジーンズパンツのことを特集した出版物が存在し、乙第2号証の本件ムックもそのような出版物として紹介されていることからすれば、本件ムックに表示された「VINTAGE」の文字は、その内容を表示したものというべきである。
(2)被請求人は、職権証拠調べ通知に対する意見書において、「『VINTAGE/ヴィンテージ』の語は、古い製作、型の各種製品に使用される言葉であり、ジーンズに限って使用される言葉でなく、ファッション用語でもない。」、「乙第2号証において、『ヴィンテージ』についての記述は、97〜106頁の僅か10頁にも満たないものであり、雑誌全体の10%以下のページが割かれているに過ぎない。内容の大部分は『ヴィンテージ』とは関係のないリーバイス社の歴史を内容とするもの」と主張している。
(3)しかしながら、「VINTAGE/ヴィンテージ」の語が、ジーンズパンツについて年代物の古着を意味するものとして使用されており、また、本件ムックが、ジーンズパンツのことを特集した出版物として紹介されていることは前記(1)で述べたとおりである。
そして、本件ムックの事実上の本文に入った10頁には、「今から100年以上前にリーバイ・ストラウス社によって作られた労働者のためのパンツ、それが501XXだ。写真の現物はその原型というべきもの。」との記述があり、これは、リーバイス社のヴィンテージのジーンズパンツ「501XX」についての紹介そのものであり、本件ムックのこれ以降の掲載内容を見れば、本件ムックは、リーバイス社の歴史の記載とともに、主として、同社のヴィンテージのジーンズパンツについての紹介をした出版物というべきである。
(4)そうすると、本件ムックにおける「VINTAGE」の文字は、当該ムックの内容を端的にあらわすものとして表示されているというべきであり、これが、商品の出所を表示し自他商品を識別するものとして使用されているとすることはできず、前記(2)の被請求人の主張は採用することができない。
3 本件ムックを雑誌とみることができるか
(1)被請求人は、乙第2号証の出版物はムックであり、雑誌「BOON/ブーン」の特別版「祥伝社ムック:10」として発行された旨述べ、前記「第4」の、当審による職権証拠調べ通知に対して、「そもそも『ムック』とは、雑誌と書籍の中間であるような出版物であり、通常雑誌の別冊として発行され、出版業界での取扱いは雑誌であり、雑誌として販売され、雑誌として値段が付けられ、返本等の扱いも雑誌に準じて扱われているものであり、書籍としての扱いはなされていない。従って、『ムック』は基本的に雑誌と見るべきものである。」と主張している。
(2)そこで、この被請求人の主張について、さらに検討するに、甲第3号証は、祥伝社ほか5社の発行する本の検索及び注文ができる、インターネットのウェブサイト(2002年7月31日時点のもの)をプリントアウトしたものと認められるところ、この号証における検索順序は、「http://www.s-book.com/」のウェブサイトにおいて「祥伝社」の部分をクリックし、次及びその次のサイトでも「祥伝社」の部分をクリックし、「ムック検索」の「ブーン」部分をクリックしたものと推認され、その結果、表示された同号証5葉目(当審による職権証拠調べ通知書の「2」で示しているインターネットホームページ情報と同じアドレスのもの)には、「ブーン」とのムックが24件検索されたことが確認でき、ここにおけるシリーズ名欄に「祥伝社ムック」との表示のあるものが17件あることが認められる。
しかるところ、このウェブサイトの上部には、「書籍>>ジャンル別>>祥伝社>>ブーン」との表示が認められることから、このサイトに至る検索は「書籍」のルートをたどってきたものといえ、このことは、同号証3葉目の「3.ジャンル別検索」における「祥伝社」の欄の上段に「書籍を出版社別のジャンルで検索できます。」との表示があり、かつ、当該サイトの上部には「お知らせ」「書籍」「文庫・新書」「コミックス」「雑誌」「予約」「くわしく検索」の各見出しが表示されているところ、このページは「書籍」の見出しにより開かれていることが確認できることからも明らかである。
そうとすれば、少なくともこのインターネットウェブサイトにおいては、本件ムックは、雑誌ではなく書籍として取り扱われているといい得るものである。
(3)また、「本件印刷物は、ムック、すなわち、発行形態が雑誌に準じながら、編集の仕方や体裁は書籍として内容をもつ刊行物であって、『雑誌』に当たるということはできない」とした東京高等裁判所の判決例も存在するところである(東京高等裁判所、平成15年10月29日言渡、平成15年(行ケ)第207号判決(最高裁HP)参照)。
(4)他方、被請求人が提出した乙第11号証によれば、1996年9月5日から本件審判の予告登録日前である2002年1月24日の間、「祥伝社ムック(Boon)」とのシリーズ名の出版物が18回、これを含めた「祥伝社ムック」とのシリーズ名の出版物が24回発行されていることが確認でき、また、甲第3号証の5葉目及び6葉目によれば、1996年11月29日から2000年4月25日の間、「祥伝社ムック」とのシリーズ名の出版物が17回継続的に発行されていることが確認できるものである。
そうであれば、このようなシリーズ形式で発行されるムックについては、発行間隔が不定期であるとしても、これを雑誌とみることもできるものである。
(5)ムックに関する当審の職権証拠調べで通知した「1の(1)ないし(3)」の事実及び、上記(2)ないし(4)の認定判断に照らせば、本件ムックは、ここにみる限りにおいては、雑誌と書籍の両方の性格を有する出版物というべきである。
してみれば、当審の職権証拠調べで通知した「4」の「乙第2号証の出版物であるムックは、内容を違えて継続して刊行される雑誌の類とはいえず、書籍の類とみるべきであり、」との判断は、一面的な見方であり妥当とはいえないものであった。
よって、本件ムックは、雑誌とみることができるものであって、本件ムックは、そのうちのひとつとして発行されているものである。
4 「VINTAGE」の文字は本件商標の使用といえるか
そこで、進んで、本件ムックが、定期刊行物としての雑誌と扱われる場合、別掲(1)に示した表紙上部に表示されている「VINTAGE」の文字は本件商標の使用といえるかについて検討する。
(1)前記「3の(4)」によれば、本件ムックは、「祥伝社ムック(Boon)」あるいは「祥伝社ムック」とのシリーズ名の出版物の一として発行されているものである。
そうとすれば、本件ムックは、上記のシリーズ名をもって、商品の出所を示す標識とされていたというべきであり、この「祥伝社ムック(Boon)」あるいは「祥伝社ムック」の文字が、雑誌とみられる場合における本件ムックに、使用されている商標というべきである。
そして、別掲の(2)に示すように、本件ムックの表紙左上部には、「SHODENSHA MOOK:10」の文字が、裏表紙左側には、「リーバイスの歴史が変わる」の文字の下部に横書きで「祥伝社ムック10」(「10」の文字は○で囲まれている。)の文字が表示されているところである。
(2)被請求人は、「乙第2号証の表紙上部には『VINTAGE』の文字が大きく記載されており、一見して当該ムックの題号が『VINTAGE』であることを明確に表している。」(答弁書その2)、「乙第2号証は、他のBoonムックと識別するために『VINTAGE』『ヴィンテージ』の表示が使用されているのであり、他の『Boonムック』と識別するために付された標識であって、まさに商標である。」「乙第2号証にはその表紙の上部に『VINTAGE』の文字をほぼ雑誌の幅いっぱいに大きく表記し、」「表紙の右下には『VOL.1』の文字を丸囲いで明確に表示し、『VOL.2』以降が発行される予定であることを需要者に示している。」(職権証拠調べ通知書に対する意見書)と述べている。
(3)確かに、本件ムックにおける「VINTAGE」は、別掲(1)に示したように、雑誌の題号が表示されることの多い位置に大きく表示され、表紙の右下にある「VOL.1」の文字は、これが「第一巻」であることを認識させる表示といえるものである。
しかしながら、「VINTAGE」の題号を有する祥伝社のムックは、この号だけであり、「VINTAGE」の題号により次の号(VOL.2)が発行されたことを示す証拠はない。
しかも、本件ムックが発行されたのは、平成9年5月20日であり(乙第2号証裏表紙の記載。甲第3号証、乙第11号証によれば同年4月15日となっている。)、この日以降、本件審判の予告登録日である平成14年5月29日までの間は、5年の期間が経過している。
しかして、商品「雑誌」は、号を追って定期的に刊行される出版物(発行間隔が不定期であっても継続して発行されているものも含むとみることもできる。)をいうところ、5年もの間、題号を「VINTAGE」とする次の号(VOL.2)が発行されていない本件ムックを、「VINTAGE」の題号をもって定期的に刊行される出版物とみることはできないといわなければならない。
したがって、本件ムックを雑誌とみる場合、その商標には「SHODENSHA MOOK」、「祥伝社ムック」あるいは「祥伝社ムック(Boon)」が使用されているというべきであり、これを「『VINTAGE』の題号が使用されている雑誌」と認定することはできない。
(4)当審は、被請求人対して、平成15年6月6日付で「『VITAGE』『ヴィンテージ』の文字が商標として使用されていた事実を裏付ける取引書類(たとえば、当該雑誌の納品伝票、売上伝票、請求書等)があればそれらを提示されたい。」との審尋を発したが、これに対しては、取引書類等の証左は提出されていない。
また、乙各号証、その他の証拠を検討しても、本件ムックが、専ら「VINTEGE」の題号により取引に資され、これが取引者・需要者により、当該ムックの出所を表示する標識との認識がされていたことを示す証拠はない。
なお、乙第3号証によれば、「3.」において「商標『VINTAGE』『ヴィンテージ』を使用して・・・雑誌『BOON/ブーン』のムックとして平成9年5月20日に発行した」ことが証明されているが、この証明は、通常使用権者である祥伝社によるものであって客観性に欠けるものである。
(5)してみれば、本件ムックを雑誌とみる場合、本件商標「VINTAGE」が商品の出所表示機能を果たすものとして使用されているとすることはできず、前記(2)における、本件商標が雑誌である本件ムックに使用されている旨の被請求人の主張は採用することができない。
5 本件ムックが書籍とみられる場合、表紙上部に表示されている「VINTAGE」の文字は本件商標の使用といえるか
前記、「2(4)」で認定、判断したように、本件ムックにおける「VINTAGE」の文字は、当該ムックの内容を表示したものというべきであるから、本件ムックが書籍とみられる場合においては、これが商品の出所を表示する標識として使用されていたとすることはできないものである。
6 結論
してみれば、乙各号証を総合すれば、本件ムックが、通常使用権者により本件審判の請求前3年以内に取り扱われていたことが確認できるとしても、本件商標「VINTAGE」は、乙第2号証である本件ムックにおいて商品の出所を表示するものとして使用されていたとはいえないから、本件商標が、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件取消対象に係る指定商品「印刷物」に使用されていたと認めることはできず、本件商標の登録は、その指定商品中「印刷物」について、商標法50条の規定により取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 【別掲】
(1)乙第2号証の表紙



(2)乙第2号証表紙の左上部の拡大(部分)

審理終結日 2004-08-05 
結審通知日 2004-08-09 
審決日 2004-08-24 
出願番号 商願平5-94196 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (016)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡田 美加青木 博文 
特許庁審判長 宮下 正之
特許庁審判官 宮川 久成
山本 良廣
登録日 1997-01-31 
登録番号 商標登録第3247286号(T3247286) 
商標の称呼 ビンテージ 
代理人 竹内 裕 

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