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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199830739 審決 商標
取消200530221 審決 商標
取消2008300287 審決 商標
無効200689085 審決 商標

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審決分類 審判 全部取消 商53条使用権者の不正使用による取消し 無効としない Z30
管理番号 1101359 
審判番号 取消2002-31449 
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-09-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2002-12-13 
確定日 2004-07-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第4588027号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人らの負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4588027号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成13年8月29日に登録出願、第30類「うどんのめん」を指定商品として、平成14年7月19日に設定登録されたものである。

2 請求人らの主張
請求人らは、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第43号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)請求の理由
本件商標は、商標法第53条第1項の規定によって、その登録は取り消されるべきである。
(2)本件商標に係る通常使用権について
被請求人(本件商標の商標権者)は、本件商標について、愛知県海部郡蟹江町大字西之森字柳原216番地の1所在の丸信製粉株式会社に通常使用権を許諾している(以下「通常使用権者」という。)(甲第5号証)。
(3)通常使用権者の使用商標について
(ア)通常使用権者は、別掲(2)に示すとおりの商標(以下「使用商標1」という。)を商品「うどんのめん」に使用していた(甲第6号証)。使用商標1は、本件商標の「もちもち」と「大竈うどん」とを分断するとともに、それぞれ印象の異なる書体、文字の太さの相違により、「もちもち」を目立つ構成にしたうえで、区別化を謀ったものといわざるを得ない。
(イ)使用商標1を使用した商品の販売について
通常使用権者は、名古屋市所在の百貨店(松坂屋本店、名古屋三越栄本店、名鉄百貨店)を中心に、使用商標1を使用して、商品「うどんのめん」を販売していた(甲第7号証ないし甲第12号証)。
また、同人は、使用商標1を商品「うどんのめん」に使用したカタログを配布していた(甲第13号証及び甲第14号証)。
(ウ)通常使用権者の商品と請求人エースコック株式会社(以下「エースコック」という。)の商品との出所の誤認混同について
エースコックは、昭和57年1月以来、商品「(もち入りの)即席中華そばのめん」に別掲(5)に示すとおりの商標(以下「引用商標1」という。)を使用してきた(甲第19号証ないし甲第28号証)。
しかして、エースコックは、引用商標1について発売当初から現在に至るまでテレビ広告等の宣伝、広告を数多く繰り返すとともに販売促進に尽力してきた。その結果、需要者の間に広く認識されていた(甲第19号証ないし甲第28号証)。
通常使用権者が使用する使用商標1とエースコックが使用する引用商標1とを比較するに、使用商標1は、右上段に「もちもち」の平仮名文字をポップ体の大字で書し、中央に「おおがま」のルビを付した「大竈うどん」の文字を行書体の細文字で書し、両書を頭揃えに二列縦書きに併記しているので、「もちもち」と「大竈うどん」とは、文字の大きさ、太さ及び書体に明確な差異が認められ、特に「うどん」部を除いた「もちもち」と「大竈」についてはその差異が顕著である。
これに対して、引用商標1は、「もち」、「もち」の平仮名文字を太い白文字で、二列縦書き(又は二段横書き)して、これに小さく表した「ラーメン」の片仮名文字を黄文字で併記していて、「もちもち」と「ラーメン」の間は分離感が著しいが、「もち」、「もち」については、文字の大きさに一応の差異が認められるとしても、重なるように配置した図案的なデザイン処理の特徴からは一体感が印象付けられる。
しかして、使用商標1及び引用商標1の構成は、ともに商標の主要部は「もちもち」を強調した文字配列にあるため、この部分は看者の視覚に訴え注意をひき易い部分であることが明らかである。
したがって、これらの事情を勘案すれば、両商標の使用の実際にあっては、たとえ、種々の分離的要素あるいは付記的要素が付加されているにしても、それぞれの商標全体より「モチモチ」の称呼及び「もちもち」の観念を生ずる類似する商標であり、両商標は、ともに類似する商品「うどんのめん」と「即席中華そばのめん」に使用されているものである。
してみれば、使用商標1の使用と引用商標1の使用とは、出所の誤認混同を来すものである。
(エ)通常使用権者の商品と請求人シマダヤ株式会社(以下「シマダヤ」という。)の商品との出所の誤認混同について
シマダヤは、昭和47年2月以来商品「うどんのめん(ゆでめん)」に、別掲(6)に示すとおりの商標(以下「引用商標2」という。)を使用してきた(甲第29号証ないし甲第33号証)。
そして、引用商標2は、テレビ、ラジオ、新聞及び雑誌等広告媒体を多用する一般的な商品広告手段を原則的には採用していないが、ひたすら、日々、高品質の維持及び提供に努めてきた結果、販売実績だけを見ても、需要者間に広く認識されていた(甲第29号証ないし甲第33号証)。
通常使用権者が使用する使用商標1と、シマダヤが使用する引用商標2とを比較するに、引用商標2は、縦書き二列の左下がりの段落ちに「もち」、「もち」の平仮名文字をポップ体の太字で大きく、続いてその左側に「うどん」の平仮名文字を同書体で小さく表している。
しかして、使用商標1及び引用商標2の構成は、ともに商標の主要部「もちもち」を強調した文字配列にあるため、この部分は看者の視覚に訴え注意を惹き易い部分であることが明らかである。
したがって、これらの事情を勘案すれば、両商標の使用の実際にあっては、たとえ、種々の分離的要素あるいは付記的要素が付加されているにしても、それぞれの商標全体より「モチモチ」の称呼及び「もちもち」の観念を生ずる類似の商標である。そして、両商標は、同じ商品「うどんのめん」に使用されているものである。
してみれば、使用商標1の使用と引用商標2の使用とは、出所の誤認混同を来すものである。
(オ)通常使用権者は、別掲(3)に示すとおりの商標(以下「使用商標2」という。)を使用して、名古屋市所在の百貨店(名鉄百貨店)を中心に商品「きしめんのめん」を販売していた(甲第16号証及び甲第17号証)。
また、通常使用権者は、使用商標2を商品「きしめんのめん」に使用したカタログを配布していた(甲第18号証)。
しかして、使用商標2は、本件商標の商品の普通名称である「うどん」を、平うどんの普通名称「きしめん」に置き換えるとともに、「もちもち」の表示部を二列段落ちに表したものであるから、本件商標に変更を加えたものと認められる。そして、使用商標2からは、「モチモチ」の称呼及び「もちもち」の観念が生ずる。
引用商標2の「もち」、「もち」部は、ポップ体の太字で左下がりの段落ちに配置した構成であり、一貫して左下がりの段落ちで「もち」、「もち」を表示していた。
しかして、使用商標2は、需要者間に周知されているシマダヤの「もち」、「もち」のデザインパターンをそのまま模して表示し、しかも、使用する商品は同じ「うどん類」の「きしめん」であるから、「大竈」の有無に一応の差異が認められても、恰もシマダヤと関連する商品であるかの如く、出所の誤認混同を来すものである。
(カ)引用商標について
請求人らは、別掲(4)に表示したとおり「もちもち」の平仮名文字を縦書きしてなり、平成7年8月4日に登録出願、第30類「うどんのめん、即席中華そばのめん」を指定商品として、平成14年8月9に設定登録された登録第4593953号商標(以下「引用商標」という。)を所有している。
しかして、引用商標は、その構成上「モチモチ」の称呼及び「もちもち」の観念を生ずることが明白であり、使用商標1及び使用商標2から「モチモチ」の称呼及び「もちもち」の観念を生ずるものである。そして、引用商標の指定商品には「うどんのめん(きしめん)」を包含しているものであるから、使用商標1及び使用商標2を「うどんのめん」又は「きしめんのめん」に使用することは、引用商標との間において、商品の誤認混同を生ぜしめるおそれがあるものである。
(キ)商標権者の認識について
被請求人会社と通常使用権者会社の本店所在地及び両者の代表者は同一である(甲第5号証)。
そして、引用商標1は、エースコックの業務に係る商品「即席中華そばのめん」を表示するものとして、引用商標2は、シマダヤの業務に係る商品「うどんのめん」を表示するものとして、それぞれ需要者の間に広く認識されていたので、麺類の市場動向に敏感な同業者(製麺業)の代表者を兼ねる被請求人代表者が、これらの事実を知らなかったとはいえない。被請求人は、このことを周知していた筈である。また、被請求人代表者は、通常使用権者の会社の代表者として引用商標等に基づく通知書(甲第3号証)の配達を平成14年8月31日に受けていた(甲第4号証)。被請求人は、遅くとも同日に、請求人らの引用商標の存在を知ったのである。
被請求人は、これらの事実を充分知っていながら、通常使用権者の使用商標1及び使用商標2の使用という違法行為を黙視していた。ここでは、誤認混同行為を防ぐために商標権者として監督義務を果たした形跡は何ら見つからない。
(4)被請求人の答弁に対する弁駁
(ア)通常使用権者の使用商標1及び使用商標2の称呼について
被請求人は、使用商標1からは「もちもち大竈(おおがま)うどん」の称呼が生ずる旨主張している。
しかし、[大竈」の部分は、直ちに親しめる「もちもち」や「うどん」に比べれば親しみにくい。現在の家庭生活では縁が無い「竈(かまど)」をモチーフにしているし、「竈」には「囲炉裏」のような風情が備わっているわけではない。そのうえ、「大竈」からは「オオカマド」の自然称呼が先に出るややこしさがある。
「大竈」は、釜揚げうどんの印象に通じるので、ラベルにおいて、「大竈」は需要者に訴えるところがある。しかし、使用商標1を認識する段になると、需要者は、「大竈」部分を敬遠しがちになって、馴染みやすい「もちもち」を主にして、これに商品名を組み合わせ、簡略に「もちもちうどん」として称呼し、観念することもある。
しかして、需要者が商標を認識する場合は、商標の構成態様を一字一句正確に脳裏に収めることはしない。冗長な文字構成の商標にあっては、認識しやすい識別標識を適宜抽出整理して、本来の商標の観念と置換えることは、迅速簡明を尊ぶ取引界においては、常套的な認識方法として普通に行われていることである。この場合は、取引の当事者間で意思疎通がなされればよいのである。被請求人の販売員は、店頭で「もちもちきしめん」と指定する注文を受ければ、躊躇せずに陳列ケースから、「もちもち大竈きしめん」を取り出す構えを見せる筈である(甲第40号証及び甲第41号証)。
請求人らは、ここで、被請求人の使用商標1の称呼「モチモチオオガマウドン」と使用商標2の称呼「モチモチオオガマキシメン」が冗長であるが故に、単に「モチモチウドン」又は「モチモチキシメン」 の略称も生ずるとする主張を付け加える。
(イ)商品相違の主張について
被請求人は、商品に関して、(1)販売場所(2)贈答品と自宅品(日常品)及び(3)販売価格の相違を主張する。
請求人らは、大筋において、その(1)ないし(3)の相違を認めるが、購買者すなわち需要者が相違するが如き主張については反論する。
仮に、被請求人の商品と請求人らの商品のそれぞれが、自宅品(又は贈答品)として販売されているのであれば、価格帯の違いから、需要者層が相違するといえるのかもしれない。
しかし、被請求人の商品を購入する者は、日常的には、請求人らの商品を食している需要者にほかならない。日頃は、スーパーマーケットで、「もちもちラーメン」や「もちもちうどん」を購入しているごく普通の需要者が、主に、中元や歳暮の時期にはデパートに出かけ、被請求人の商品をこれまたごく普通に買い求めるのである。
このように、請求人らの商品と被請求人の商品の需要者は、商品(贈答品と自宅品)によって購入先を選択しているにすぎないのである。
そうすると、同一の需要者が、場合によっては、請求人らの「もちもちラーメン(うどん)」の記憶を懐きながら、時と場所を異にして、被請求人の「もちもちうどん(きしめん)」に出会う結果、両商品に関連があるものと誤認して、被請求人の商品の信頼性を請求人らに託することになる。
しかして、被請求人は、被請求人の商品が高級品であると述べるが、贈答品ということを勘案すれば、請求人らの商品の需要者が気軽に購入できる価格帯であるにすぎない。
被請求人の弁論は、スーパーマーケットで自宅用食品を購入する者は、デパートで贈答用食品を購入しないと断ずるものでなければ意味がない。
経済競争激化の昨今においては、多くの企業がビジネスチャンスさえあれば、そして、採算性が見合えば、他部門に積極的に進出することを望んでいる。請求人らもその一企業といえる。ごく身近な分野である贈答用うどんの販売事業展開は、充分考えられるものであるし、仮に、展開することになっても、需要者の目に奇異に映ることはないのである。加えて、請求人らの商品が高い評価を得ていることは、販売実績から明白であり、その優秀性によって得た信用は、別の企画商品(例えば、贈答用うどん)を展開したときにも維持されるのである。
(ウ)使用商標2の使用の正当性の主張について
通常使用権者は、甲第42号証の1及び2に示すように、平成15年5月から、「もちもち」の文字を「大竈」と同じ大きさにまで拡大し、「もちもち大竈」と一直線に表示した新しい包材を採用している。
通常使用権者は、従前には甲第43号証の写真1の商標の使用をしていた。
請求人らから警告を受けて、平成14年11月頃、甲第43号証の写真2の商標に変更した(甲第5号証)。
そして、使用商標2を半年程度しか使用していないにもかかわらず、甲第43号証の写真3の商標に再度変更した。
このことは、少なくとも通常使用権者が使用商標2の商標の使用によって、不正競争防止法の周知表示混同惹起行為に該当すること並びに引用商標の商標権侵害になることを自認したことにほかならないと思われる。
そして、通常使用権者の代表者は、被請求人会社の代表者でもある(甲第5号証)。しかして、被請求人側が使用商標2の包材の廃棄、新包材の印刷、そして、カタログの改訂等の多大なるコストまで投入して、また、大手百貨店に対して、短期間の間に取扱商品の顔ともいえる商標(ロゴ)を度々変更する不手際まで露呈させて、使用商標2を変更しなければならない理由はどこにもない。正にそれは、使用商標2の不正使用による侵害行為拡大に一応の歯止めをかけたつもりの処置に相違ない。

3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。
(1)丸信製粉株式会社は、本件商標の商標権に係る通常使用権者であって、「もちもち大竈うどん」及び「もちもち大竈きしめん」を「うどんの麺」及び「きしめんの麺」に使用しているが、この使用は、商標法第53条第1項にいう「他人の業務に係る商品と混同を生じるものをしたとき」に当たらず、本件商標の登録が取り消される理由は何ら存在しない。
(2)通常使用権者について
通常使用権者は、90年を越す歴史を有し、長年に亘り製粉業を営み、小麦粉を幹として麺や菓子、パンといった分野で成長を続け、特に、ギフト商品として「芝安(しばやす)」の麺を全国的に展開している。また、本件の商標権者である株式会社プレジィールは、主に洋菓子の製造販売に関わる系列会社となっている(乙第1号証)。
また、麺の販売については、相当数の百貨店の贈答品(ギフト)売場に進出している。
乙第1号証には、百貨店の各店舗の売場写真が示され、そこには丸信製粉株式会社の麺ブランド「芝安」の暖簾商標が示され、「本場の麺を芝安から」として、麺の銘店として「芝安」が広く知られていることを示している。 また、「芝安」は、贈答用高級麺として好評を博している。
そして、かかる贈答品たる高級麺のサブブランドとして、「もちもち大竈うどん」、「もちもち大竈きしめん」を使用しており、このような贈答用に特化した高級麺が百貨店の贈答品売場やギフトカタログで販売されているのである。
(3)通常使用権者の使用する商標が請求人らの業務に係る商品と混同を生じない理由について
甲第6号証ないし甲第14号証に示される使用商標1は、通常使用権者により一時使用されたものであるが、この「もちもち大竈うどん」の由来は、大きな竈(かま)で茹でることにより美味しく、かつ、もっちりした食感のイメージを表したもので、その「大竈(おおがま)」がこの商標の大きな要部である。「もちもち大竈うどん」の「大竈(おおがま)」は、それ自体識別力を有し、また、全体としても「もちもち」と「大竈(おおがま)」が並んでいるところから、「もちもち大竈(おおがま)うどん」として称呼され、自他商品識別力を有するものである。
商標法第53条第1項における「他人の業務に係る商品と混同を生じるものをしたとき」とは、具体的な人の業務による具体的な商品と混同を生じるもの(使用)をしたときをいうものであることは、その文言自体から明らかである(東高民六判・昭和52年(行ケ)第158号)。他人の使用する商標と本件使用に係る商標との単なる類否、あるいは他人の使用する商標の周知性と本件使用に係る商標との抽象的・観念的な混同の有無を判断基準とすべきでないことは明らかである。つまり、商標法第53条第1項の取消審判の趣旨は、使用権者が他人の業務と出所の混同を生じるような使用をした場合に制裁として、その商標権の商標登録自体を取り消すものと考えられる。このように、使用許諾に係る商標権を剥奪するほどの制裁を正当化することができるためには、具体的かつ現実的な出所の混同ないしは具体的な危険性がなければならない。
そして、具体的な出所の混同を判断するには、他人の業務に係る商品に使用されている商標と使用権者の使用に係る商標との類似性の程度及び各々の商標(表示)の周知性、独創性の程度、さらに、他人の業務に係る商品と使用権者の商品との間の関連性・商品の位置付け、さらには、それら商品の販売形態、販売場所等の販売ルートの相違並びにそれら商品の需要者等の相違を考慮し、総合的に具体的かつ現実の混同の事実や危険性が判断されなければならない。
これを本件について検討すると、例えば、甲第7号証の1及び2に示すように、通常使用権者の使用に係る使用商標1「もちもち大竈うどん」においては、「もちもち」が食感を表す一種の品質表示的な側面がある一方、「大竈(おおがま)」は、正にこの商標の大きな要部であって、大きな窯で茹でる美味しいうどんのイメージを持つ独創的な名称であり、これらの要素が組み合わさった「もちもち大竈うどん」により、当該使用権者の出所表示機能を果たしている。
しかも、通常使用権者は、長年「芝安」の暖簾商標を贈答用の高級麺に使用してきており、「尾張・芝安」あるいは「尾張・麺・芝安」の組合せを含め、このような「芝安」「もちもち大竈うどん」は、ワンセットで同時に使用され、これにより先程の「大竈(おおがま)」の命名の独創性や「芝安」の周知表記により、需要者は、このうどん麺が「芝安」で製造されたものであることを十二分に把握でき、通常使用権者の強い出所表示機能を生じさせている。さらに、通常使用権者の商品は、贈答用の高級麺である。
なお、甲第7号証等の使用商標1の使用開始後、請求人らから通常使用権者に対し、その使用を止めるよう警告があり、それは不当なものと解さざるを得ないが、通常使用権者として、使用商標1等の使用形態について、特に、こだわりは有していなかったこと並びに請求人らからの個々の主張に対応するために、いたずらに時間を浪費することは、お互いの主張・反論を繰り返しても何の利益ももたらさないことを考慮し、使用商標1は、通常使用権者の出所表示機能を十二分に果たしていたが、無用の係争を避けるため、例えば、甲第15号証に示すように「もちもち大竈/きしめん」として、「もちもち大竈」と一続きのものとした。
つまり、使用商標1の「もちもち大竈うどん」あるいは使用商標2の「もちもち大竈きしめん」は、比較的長いため、パッケージ等に表示するスペースの都合上、改行することが多いが、その改行箇所を変えたものである。この甲第15号証でも、「大竈(おおがま)」は、本件商標の大きな要部となり、「もちもち大竈きしめん」として「芝安」とともに強い出所表示機能を有している。
そして、通常使用権者の商品は、「芝安」の高級麺の贈答品として需要者の間に広く認識されている(乙第1号証ないし乙第6号証)。なお、乙第4号証の「もちもち大竈(おおがま)うどん」は、現在の主な使用パターンを示している。
(4)エースコックの使用する引用商標1について
エースコックの使用する引用商標1は、需要者の間に広く認識されていたとしている。しかしながら、その商品は、「即席中華そばの麺」、具体的には、お湯を注ぐだけで食することができる即席カップ麺であって、切り餅を入れたものに使用されているにすぎない。
また、エースコックは、引用商標1には周知性があるとして甲第19号証から甲第28号証を提出しているが、それらの甲各号証によれば、エースコックが販売している即席カップラーメンは、食料品店、スーパーマーケット、あるいはコンビニエンスストア等の即席カップ麺の陳列場所に陳列され、販売されているものであり、贈答品とは余程遠いものである。
なお、エースコックは、甲第23号証の1ないし甲第24号証の27に至るインターネットのウェブページを出力したものを大量に提出しているが、これらは、「もちもちラーメン」の似たような記載の繰り返しが示されているにすぎないものといえる。
以上のとおり、エースコックが示す引用商標1は、餅入りの即席カップラーメンに特化して使用され、その餅入りカップ麺において、「もちもちラーメン」が需要者の間に知られているにすぎない。
(5)シマダヤの使用する引用商標2について
請求人らは、シマダヤが「うどんの麺(ゆで麺)」に引用商標2を使用してきたとし、甲第29号証ないし甲第36号証を示しているが、それらの甲各号証によれば、シマダヤが販売している「ゆで麺(ゆでうどん)」は、一般家庭あるいは業務用等で消費する廉価なものであって、食料品店やスーパーマーケットのゆで麺売り場に陳列され、販売されているものである。
したがって、贈答品とはおおよそ縁のない日常消費向けの商品である。
(6)混同に関する具体的理由(対比及び分析)について
エースコックの商品は、餅入りの即席カップラーメン(175円等)で引用商標1が付されており、シマダヤの商品は、引用商標2が付された「うどんのめん」(単価80円、90円)といった一般家庭用又は業務用の商品であるのに対し、通常使用権者は、使用商標1及び使用商標2を百貨店向けの贈答用商品に特化して、3千円又は5千円で販売しているものであって、さらに、高級麺としての「芝安」は、需要者の間に広く知られている。
よって、商標的に見ても引用商標1及び引用商標2に対して、使用商標1は、その要部として重要な「大竈(大きなかまで茹でる美味しいうどんといったイメージ、ただし、餅が入っているとか、餅米を混入してあるとかいった点はなく、いわゆる餅入りのものを意味しない。)」を有している点で、充分な自他識別性と、独自の出所表示機能を持ち、しかも、使用権者の商標の使用形態では、長年使用されて周知性のある「芝安」ないし「尾張・芝安」等の暖簾商標がセットで使用されていることから、たとえ、使用商標1が途中で二段に表示されていようとも、双方の商標・商品を混同することはない。
そのうえ、請求人らの扱う商品は、カップ麺やゆで麺といった極めて廉価な大衆消費のもので、一般の食料品店やスーパーマーケット等の食品売場で販売されるものであって、およそ百貨店の贈答品売場で売られるようなものでは全くない。
このように商標形態の要部を基本的に異にし、かつ、商品として、その位置付け、販売ルート及び購買者をことごとく異にするものである
したがって、需要者が百貨店の贈答品売場で、「芝安」及び使用商標1あるいは使用商標2の付された贈答品に接し、これを請求人らのカップ麺やゆで麺等の、およそ贈答品とはかけ離れた商品の提供者と出所を混同することはあり得ないといえる。
逆に言えば、贈答品市場で、請求人らは、ギフト用麺商品の提供者として知られておらず、他方、通常使用権者は、ギフト用麺商品の提供者として知名度が高い。しかも、仮に、ギフト用高級麺が極めて安価なカップ麺やゆで麺の販売者と出所の混同が生じるとすれば、ギフト商品としての価値が著しく減じてしまうところ、それを防がなければならない贈答品商品の提供者が自らカップ麺やゆで麺との混同を生じさせようとするわけがないのである。そして、事実、混同は生じておらず、不測の不利益を被ってはいない。
言い換えれば、商標法第53条第1項に求められる具体的な人の業務による、具体的な商品の混同を生ずるものをしたとは到底いえないのであって、需要者が普通に払われる注意力を持って通常使用権者の商品に接すれば、取引者(業界)はもちろんのこと、一般需要者間においても当該通常使用権者の商品が請求人らの商品とは出所を異にすると認識され、両者間に出所の混同を生じる余地はないといわなければならない。
(7)以上のとおり、通常使用権者による本件商標の使用は、請求人らの業務に係る商品と混同を生じたものとはいえない。

4 当審の判断
(1)本件商標の使用者について
本件商標を商品「うどんのめん、きしめん(平打ちうどんのめん)」に使用している「丸信株式会社」は、被請求人(商標権者)が使用許諾をした通常使用権者であり、その上記商品への商標の使用は、通常使用権者による商標の使用と認め得るものである(甲第5号証)。
この点において、当事者間には争いがない。
(2)本件商標と通常使用権者の使用に係る使用商標1及び使用商標2について
(ア)本件商標は、「もちもちおおがまうどん」、「もちもち大竈うどん」の文字を二段に横書きしてなるところ、構成各文字は、同書、同大、等間隔に外観上まとまりよく一体的に表されており、これより生ずると認められる「モチモチオオガマウドン」の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
しかして、その構成中の「うどん」の文字から指定商品「うどんのめん」が想起されることよりして、「もちもちおおがま」及び「もちもち大竈」の文字部分が分離して認識されるといい得ても、「もちもち」の文字部分までもが視覚上分離して認識されるものということはできないばかりでなく、「もちもち」の文字は、本件指定商品の分野においては、食感を表す語として認識される場合も多いことを考慮すると、これが他の文字と結合した場合、それのみでは自他商品識別力を有しないか又は極めて乏しいものと解さざるを得ない。
したがって、かかる構成においては、殊更、その構成中の「おおがまうどん」、「大竈うどん」の文字部分を省略して、「もちもち」の文字部分のみが独立して認識され、該文字に相応して「モチモチ」の称呼が生ずるとみるべき特段の事情は見出せない。
してみれば、本件商標は、その構成全体をもって一体不可分のものとして認識し把握されるというのが自然であり、全体の文字に相応し「モチモチオオガマウドン」の称呼を生ずるというのが相当である。また、仮に、他に称呼を生ずるとしても、該文字中、商品の普通名称に通じる「うどん」の文字を除く残余の文字「もちもちおおがま」及び「もちもち大竈」の部分に相応して「モチモチオオガマ」の称呼を生ずるに止まるものというべきである。
(イ)請求人らの提出した甲第7号証の1及び2、甲第9号証の1及び2、甲第11号証の1及び2によれば、通常使用権者は、使用商標1を「うどんのめん」の包装箱に使用していることが認められる。
使用商標1の使用態様は、「もちもち」の文字と「大竈うどん」の文字(「大竈」の文字部分には「おおがま」のルビを付してなる。)とを二列縦書きした構成よりなるものである。
しかして、使用商標1は、その全体が同じ毛筆書体をもって、一体的に表されており、これより生ずると認められる「モチモチオオガマウドン」の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
しかるところ、使用商標1の前記構成よりして、「もちもち」の文字部分が視覚上分離して認識されるとしても、「もちもち」の文字は、本件指定商品の分野においては、食感を表す語として認識される場合も多いことを考慮すると、該文字が他の文字と結合した場合、それのみでは自他商品識別力を有しないか又は極めて乏しいものと解さざるを得ず、該「もちもち」の文字が特に看者の注意を惹き独立して認識されるとみることはできない。
そうとすると、使用商標1は、その構成全体をもって一体のものとして認識され、取引に資されているものというべきであるから、該文字に相応し「モチモチオオガマウドン」の称呼を生じ、また、仮に、他に称呼を生ずるとしても、該文字中、商品の普通名称に通じる「うどん」の文字を除く残余の文字「もちもち大竈」の部分に相応して「モチモチオオガマ」の称呼を生ずるに止まるものというべきである。
してみれば、使用商標1は、本件商標を構成する「もちもち」の文字と「大竈うどん」の文字とを分離使用しているといえるとしても、全体の文字に相応し「モチモチオオガマウドン」又は普通名称部分を除いた「モチモチオオガマ」の称呼のみを生ずるものというべきである。
そうしてみると、使用商標1は、本件商標と外観において相違するとしても、「モチモチオオガマウドン」、「モチモチオオガマ」の称呼を共通にする類似の商標の使用と認められるものである。
また、使用商標1は、商品「うどんのめん」に使用されているものであり、本件商標の指定商品に使用されていることは明らかである。
(ウ)請求人らの提出した甲第16号証の1及び2によれば、通常使用権者は、使用商標2を「きしめん(平打ちうどんのめん)」の包装紙に使用していることが認められる。
使用商標2の使用態様は、「もちもち大竈」の文字(「大竈」の文字部分には「おおがま」のルビを付してなる。)と「きしめん」の文字とを二列縦書きした構成よりなるものである。
しかして、使用商標2は、その全体が同じ毛筆書体をもって、一体的に表されており、これより生ずると認められる「モチモチオオガマキシメン」の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
しかるところ、使用商標2の構成中の「きしめん」の文字より指定商品「きしめんのめん(平打ちうどんのめん)」が想起されることよりして、当該構成中の「もちもち大竈」の文字部分が分離して認識されるといい得ても、「もちもち」の文字部分までもが視覚上分離して認識されるものということはできないばかりでなく、「もちもち」の文字は、本件指定商品の分野においては、食感を表す語として認識される場合も多いことを考慮すると、これが他の文字と結合した場合、それのみでは自他商品識別力を有しないか又は極めて乏しいものと解さざるを得ず、該「もちもち」の文字が特に看者の注意を惹き独立して認識されるものとみることはできない。
そうすると、使用商標2は、その構成全体をもって一体のものとして認識し取引に資されるというのが相当であるから、該文字に相応し「モチモチオオガマキシメン」の称呼を生じ、また、仮に、他に称呼を生ずるとしても、該文字中、商品の普通名称に通じる「きしめん」の文字を除く残余の文字「もちもち大竈」の部分に相応して「モチモチオオガマ」の称呼を生ずるに止まるものというべきである。
してみれば、使用商標2は、本件商標と外観においては相違するとしても「モチモチオオガマ」の称呼を共通にする類似の商標の使用と認められるものである。
また、使用商標2は、商品「きしめん(平打ちうどんのめん)」に使用されているものであり、本件商標の指定商品に使用されていることは明らかである。
(3)請求人、エースコックの使用する引用商標1及びシマダヤが使用する引用商標2ないし引用商標3について
(ア)請求人らの提出した甲第19号証ないし甲第24号証及び甲第28号証によれば、エースコックは、別掲(5)に表示した引用商標1を「即席中華そばのめん」について、本件審判請求の予告登録時(平成15年1月22日)においても使用している事実が認められる。
(イ)請求人らの提出した甲第29号証ないし甲第33号証によれば、シマダヤは、さらに、別掲(6)に表示した引用商標2又は別掲(7)に表示した引用商標3をいずれも「うどんのめん」に、本件審判請求の予告登録時においても使用している事実が認められる。
(4)通常使用権者が使用する使用商標1及び使用商標2とエースコックが使用する引用商標1及びシマダヤが使用する引用商標2ないし引用商標3の商品の出所の混同について
(ア)引用商標は、別掲(4)に表示したとおり、「もちもち」の文字を縦書きしてなるものであるから、これより「モチモチ」の称呼をもって商取引に資されることは明らかである。
(イ)使用商標1は、前記4(2)(イ)で述べたとおりであり、これに接する取引者、需要者がその構成中の「もちもち」の文字のみをもって商取引に資するものとは認められないから、全体の「もちもち大竈うどん」の文字より生ずる「モチモチオオガマウドン」の称呼又は「モチモチオオガマ」の称呼のみをもって商取引に資するというのが相当である。
(ウ)使用商標2は、前記4(2)(ウ)で述べたとおりであり、これに接する取引者、需要者がその構成中の「もちもち」の文字のみをもって商取引に資するものとは認められないから、全体の「もちもち大竈きしめん」の文字より生ずる「モチモチオオガマキシメン」の称呼又は「モチモチオオガマ」の称呼のみをもって商取引に資するというのが相当である。
(エ)エースコックが使用する引用商標1は、「もち」、「もち」、「ラーメン」の文字を三列縦書きした使用態様であるとしても、これに接する取引者、需要者が「もち」、「もち」、「ラーメン」の各文字を分離して商取引に資するものとは認め難く、全体の「もちもちラーメン」の文字より生ずる「モチモチラーメン」の称呼のみをもって商取引に資するというのが相当である。
(オ)シマダヤが使用する引用商標2及び引用商標3は、いずれも「もちもち」、「うどん」の文字を二列縦書きした使用態様であるとしても、これらに接する取引者、需要者が「もちもち」、「うどん」の各文字を分離して商取引に資するものとは認め難く、全体の「もちもちうどん」の文字より生ずる「モチモチウドン」の称呼のみをもって商取引に資するというのが相当である。
(カ)以上を勘案すれば、本件商標のみならず、使用商標1及び使用商標2は、それらの構成各文字中、「もちもち」の文字部分のみをもって取引に資されるものとは認められないから、請求人らの引用商標及びエースコックの使用する引用商標1、シマダヤの使用する引用商標2ないし引用商標3とは、称呼のみならず、外観、観念上も相紛れるおそれはないものというべきである。
そうとすれば、通常使用権者の使用する使用商標1及び使用商標2と、請求人らの引用商標及びエースコックの使用する引用商標1、シマダヤの使用する引用商標2ないし引用商標3とは、充分に区別し得る別異の商標であり、したがって、前記使用商標1及び使用商標2は、請求人らの業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものとは認められない。
(5)そして、本件審判は、商標法第53条第1項の使用権者の不正使用による取消審判であって、取消要件として、本件商標又は引用商標の周知・著名性は必要としないが、他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたときの判断において、引用商標及び引用商標1、引用商標2及び引用商標3の使用の事実、また、引用商標1、引用商標2及び引用商標3が著名であるとする請求人らの主張等を考慮するとしても、前記のとおり判断するのが相当である。
(6)結び
したがって、本件商標は、商標法第53条第1項の規定により、その登録を取り消すべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標

(2)使用商標1


(3)使用商標2


(4)引用商標

(5)引用商標1

(6)引用商標2

(7)引用商標3

審理終結日 2004-05-07 
結審通知日 2004-05-11 
審決日 2004-06-01 
出願番号 商願2001-78201(T2001-78201) 
審決分類 T 1 31・ 5- Y (Z30)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 小池 隆
特許庁審判官 柴田 昭夫
鈴木 新五
登録日 2002-07-19 
登録番号 商標登録第4588027号(T4588027) 
商標の称呼 モチモチオオガマウドン、モチモチオーガマウドン、モチモチオオガマ、モチモチオーガマ 
代理人 菅原 正倫 
代理人 三宅 始 
代理人 三宅 始 
代理人 三宅 始 

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