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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z42
管理番号 1100068 
審判番号 無効2003-35166 
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-04-23 
確定日 2004-07-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第4597440号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4597440号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4597440号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成12年12月22日に登録出願、第42類「葬儀・法要の執行,葬儀・法要のための施設の提供,葬儀・法要に関する情報の提供,葬祭用花輪の貸与,仕出し料理の提供の取次ぎ,衣服の貸与の取次ぎ,写真の撮影」を指定商品として、同14年8月23日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論掲記のとおりの審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第23号証を提出した。
1 本件商標は、審判請求人(以下「請求人」という。)が所有し、本件商標が出願された平成12年(2000年)12月22日以前にすでに周知商標となっていた別掲(2)に示すとおりの構成よりなる登録第3081086号商標(以下「引用商標」という。)に類似し、指定役務おいても同一又は類似するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第4条第1項第11号、同第4条第1項第15号に該当するものであり、同第46条第1項の規定によりその登録は無効とされるべきものである。
2 本件商標は、商標法第4笑第1項第7号に該当する。
本件商標は、下記「3」において詳述するように請求人所有の引用商標に類似するものである。
そして、引用商標は、請求人が本件商標の指定役務と同一又は類似する引用商標の指定役務に永年使用した結果、本件商標が登録出願される以前にすでに周知となっていたものであるから、その周知されていた商標に類似する本件商標を他人が登録することは、その役務について出所の混同を生じさせ、その結果取引社会の秩序を混乱させる原因となるものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に該当するから、その登録を無効とすべきである。
本件商標が商標法の上記条項に該当するとの主張の前提となる引用商標の周知性については、本件商標が商標法第4条第1項第15号の規定に該当するとの主張の際に詳述する。
3 本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
本件商標は、称呼において引用商標に類似するものである。
引用商標は、「株式会社」の文字をゴシック体をもって小さく横書きし、これに続けて図案化したカタカナの「セレモア」の文字と、ひらがなの「つくば」の文字を一連に「株式会社セレモアつくば」と横書きしてなり、第42類「葬儀の執行,葬儀のための施設の提供,葬儀に関する情報の提供,生花・花輪の貸与の取次ぎ,仕出し料理の取次ぎ,衣服の貸与の取次ぎ」を指定役務として、平成4年(1992)9月16日に「使用による特例の適用」を主張して登録出願、平成7年(1995)10月31日に登録されたものである。
本件商標は、別掲(1)に示したとおりの構成よりなるものであるが、構成中の「豊栄」の文字は、請求人が役務を提供する場所である行政区画名、新潟県豊栄市を、「株式会社」の文字は、被請求人の法人格をそれぞれ表示するものであるから、自他役務の識別標識としての機能を果たさない部分である。したがって、本件商標の自他役務の識別標識としての機能を果たす部分は、「16弁の菊花紋章と覚しきの背景図と、白抜きした鳩の上半身の一体の図」、「セレモア」の文字にあるから、本件商標は、「セレモア」の文字より「セレモア」の称呼を生じるのである。
他方、引用商標は、別掲(2)に示したとおりの構成なるものであるところ、構成中の「株式会社」の文字は請求人の法人格を表示し、「つくば」の文字は「茨城県筑波郡の旧地名、茨城県西南部、筑波山の南の市」をそれぞれ表示し、指定役務との関係では役務の提供場所と認識されるものであるから、これらは自他役務の識別標識としての機能を有しないものである。したがって、引用商標は、格別の意味合いを有しない請求人の創作した造語「セレモア」の文字より「セレモア」の称呼を生じるのである。
そうであれば、本件商標は、引用商標と「セレモア」の称呼を共通とする類似商標と言わなければならないものである。
また、両商標の役務は、「葬儀の執行,葬儀のための施設の提供,葬儀に関する情報の提供,花輪の貸与,仕出し料理の取次ぎ,衣服の貸与の取次ぎ」を共通とするものであるから、同一又は類似するものである。
引用商標よりは「セレモア」の称呼を生じるとの請求人の主張は、特許庁のなした審決、甲第3号証、無効2000-35242、「2、引用商標について(1)構成態様」において「引用商標は…『株式会社セレモアつくば』の文字を書してなるものであるところ、その構成中『株式会社』は、法人の組織の種類を表示するものであるから、自他役務の識別標識としての機能を有しない部分である。…『セレモアつくば』の文字部分は…片仮名文字の『セレモア』と平仮名文字の『つくば』とで構成されているばかりでなく、『つくば』の文字部分は『茨城県筑波郡の旧地名…』を意味する語として知られ、指定役務との関係からすると役務の提供場所と理解される場合も少なくないものである。…してみる…『セレモア』の文字部分に印象づけられると見るのが相当である。」と認定されているところであり、また、甲第4号証、平成14年(行ケ)第152号審決取消請求事件判決(以下「審決取消請求事件」という。)、6頁の「(1)本件商標及び引用商標の構成態様について」においても「…構成中の『株式会社』の文字部分は、『セレモアつくば』の文字部分に比較して小振りに表示され、法人組織の種類を表すものにすぎないから、…『セレモアつくば』の文字部分は、『セレモア』及び『つくば』の文字部分が…前者が片仮名であるのに、後者が平仮名で構成されている上、両者が一体不可分に結合しているものとは認められないから、
『セレモア』と『つくば』の2語を結合してなるもの理解されるというべきである。」と認定されているところである。
したがって、本件商標は、「セレモア」の称呼を共通とする引用商標に類似するものであり、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、その登録を無効とすべきである。
4 本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
引用商標は、請求人がその指定役務の属する業界において永年にわたって使用した結果、本件商標の出願日の平成12年(2000)12月22日以前に周知となり、他人が引用商標と同一又は類似の本件商標をその指定役務に使用するときは、取引者、需要者は、それが引用商標権者又は引用商標権者と何らかの関係を有する者の業務にかかる役務であると誤認し、その結果その役務の出所について混同を生じさせるおそれのあるものである。
引用商標は、請求人が永年使用した結果本件商標が登録される前に周知となっていたものである。
その事実を立証するために甲第5号証ないし同第23号証を提出する。
報道された新聞、雑誌等に見られるように取材された請求人の宮業活動は請求人の「株式会社セレモアつくば」の名称をもってなされたものであり、これが全国に度々報道されたのである。その結果、引用商標は、本件商標の登録出願日以前から既に周知になっていたことは明らかである。
引用商標の周知性について東京高裁審決取消事件判決は、ここにあげた上記の証拠(甲第5号証ないし同第23号証)をあげ、「ウ 以上の事実によれば本件商標の登録査定時(登録日である平成9年8月29日少し前の時点)において、『セレモアつくば』は、被告の名称の略称として、葬祭業界およびこれに関連する業界において、取引関係者はもとより一般需要者の間においても、よく知られており『セレモア』の表示も同様であることが認められる。」と述べているのである。
引用商標が、本件商標の登録出願日2000年(平成12年)8月23日以前より周知になっていたことは明らかである。
本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、その登録は無効とされるべきである。
5 本件商標は、本件商標の出願日以前から周知されていた引用商標に類似するものであり、指定役務においても同一又は類似のものであるから、商標法第4条第1項第7号、同第4条第1項第11号、同第4条第1項第15号に該当し、その登録は無効とされるべきものである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第26号証を提出している。
1 請求人適格について
本件商標は引用商標と非類似の商標でり、商標法第4条第1項第7号、同第4条第1項第11号、同第4条第1項第15号に違背して登録されたものではなく、同第46条第1項の規定に該当するものではない為、請求人は本件商標権の無効審判を請求する利益を有せず、「利権なければ訴権なし」という民事訴訟上の原則により、本件請求人による無効審判の請求は不適法であるので、本件審判請求は却下されるべきである(乙第1号証:東京高裁平成11年(行ケ)第105号)。
2 商標法第4条第1項第7号に基づく無効理由について
請求人は、「本件商標は、(中略)請求人所有の引用商標に類似するもので(中略)、引用商標は、請求人が本件商標の指定役務と同一又は類似する引用商標の指定役務に永年使用した結果、本件商標が登録出願される以前にすでに周知となっていたものであるから、その周知されていた商標に類似する本件商標を他人が登録することは、その役務について出所の混同を生じさせ、その結果取引社会の秩序を混乱させる原因となるものである。」と主張する。
審査基準によると、商標法第4条第1項第7号は「『公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある商標』には、その構成自体がきょう激、卑わいな文字、図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、または社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものとする。」と定められている。本件商標は「構成自体がきょう激、卑わいな文字、図形」ではなく、本件商標は後述する理由により、引用商標に類似するものではなく、更に、引用商標は周知商標とは認められない為、出所の混同を生じる恐れはなく、使用することが「社会公共の利益に反し」たり、「社会一般的道徳観念に反する」ことはない為、本件商標の商標法第4条第1項第7号の適用自体が見当違いである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に該当するという請求人の主張は誤りである。
3 商標法第4条第1項第11号に基づく無効理由について
請求人は、本件商標は、引用商標に類似し、本件商標の指定役務と引用商標の指定役務は同一又は類似である為、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違背して登録されたものであり、無効とされるべきである、と主張する。
(イ)その根拠として、請求人は「本件商標の自他役務の識別標識としての機能を果たす部分は、『16弁の菊花紋章と覚しきの背景図と、白抜きした鳩の上半身の一体の図』、『セレモア』の文字にあるから、本件商標は、『セレモア』の称呼を生じる」とし、「引用商標は、格別の意味合いを有しない請求人の創作した造語『セレモア』の文字より『セレモア』の称呼を生じる」ため「本件商標は、引用商標と『セレモア』の称呼を共通とする類似商標と言わなければならないものである」ことを挙げている。
請求人は、「引用商標中、『セレモア』の部分は自らが創作した造語である」と述べている。しかしながら、本件商標及び引用商標の役務と類似の役務を業務とするものにおいて、「セレモア」の文字を有する社名又は店名は以下のとおりである。
・十方舎セレモア城北(乙第2号証)
・セレモアハナヨシ(乙第3号証)
・セレモア堀坂曾館(乙第4号証)
・株式会社セレモアガーデニア(乙第5号証)
・株式会社セレモアさいたま(乙第6号証)
・セレモアさくら(乙第6号証)
・セレモア中村屋(乙第6号証)
・セレモア市川センター(乙第7号証)
・有限会社セレモアむつみ(乙第7号証)
・セレモア花調苑株式会社(乙第8号証)
・アビコセレモアホール(乙第9号証)
・セレモアとみなが(乙第10号証)
・セレモア24(乙第10号証)
・セレモアホールやすらぎ(乙第11号証)
・八王子そごうセレモア葬(乙第11号証)
これらは全て葬祭業に携わるものであり、本件商標、引用商標と同一又は類似の役務をその業務としているものである。これらから、「セレモア」は、葬祭業、あるいはその関連業を営む多くの業者によって使用された結果、「セレモア」の語がその役務を表示する名称として一般名称となっている為、その語は自他識別機能を有しないものである(乙第12号証:東京高裁平成4年(行ケ)第106号)。
したがって、「セレモア」が葬祭関連業を表す一般名称である以上、「本件商標は、引用商標と『セレモア』の称呼を共通とする類似商標と言わなければならないものである」との請求人の主張は誤りである。
また、本件商標及び引用商標と類似の役務を指定役務とするものの内、
・登録第3079830号「東日本セレモ」(乙第13号証)
・登録第3325926号「セレモすずか」(乙第14号証)
・登録第3154991号「セレモアライブ」(乙第15号証)
・登録第3303878号「セレモネット」(乙第16号証)
・登録第3342175号「ライフ・セレモニアン」(乙第17号証)
・登録第4364519号「セレモール柳屋」(乙第18号証)
・登録第4411135号「セレモニアル 調布」(乙第19号証)
・登録第4588193号「セレモニア富士」(乙第20号証)
・登録第4665377号「セレモプロデュース」(乙第21号証)
等の登録例がみられることから、葬祭業を営む会社においては、「儀式」の意を有する「セレモニー」から連想して、標章として「セレモ」の文字部分を含む語がよく使用されており、このような事情にかんがみれば、取引者、需要者が「セレモ」が含まれる語により役務提供者を識別するということはない。
更に、上記登録例のうち、乙第13号証は図形及び「日本列島の東半分で地質学的には糸魚川静岡構造線より東の地域」を表示する「東日本」と「セレモ」を横一連に書して構成されるものであり、乙第14号証は「セレモ」と「役務を提供する場所である三重県鈴鹿市」を表す「すずか」を横一連に書して構成されるものである。
これらは全て、商標構成中に「『儀式』の意味を表す『セレモニー』を想起させる文字」に「役務を提供する場所を想起させる文字」を組み合わせてなる商標である。これら登録例から、「セレモニー」の意を想起させる造語がそれ自体で自他識別機能を持った商標として認められることはなく、「東日本」と「セレモ」、「セレモ」と「スズカ」は一体不可分に結合していると認められる。
また、本件商標及び引用商標と類似の役務を指定役務とするものの内、
・登録第4629755号「C&CEREMONY∞セレモニー」(乙第22号証)
.登録第4328324号「東京セレモニー\TOKYO CEREMONY」(乙第23号証)
・登録第3137718号「NIIGATA CEREMONY∞の新潟セレモニー」(乙第24号証)
の並存登録例が認められる。これらは全て、商標構成中に「儀式」の意味を有する欧文表記「CEREMONY」が存在する。これらはそれぞ「図形+役務を表す一般名称」、「行政区画名+役務を表す一般名称」、「図形+行政区画名十役務を表す一般名称」の構成をなしており、全体が一体体不可分に結合しているため、自他識別機能を有していると認めらる。
葬儀のような業種については、その注文主はいきおい当該業者の営業所近辺の地域住民に限られていることが多い地域密着型であると考えらる点からすると、図形はもとより、「地名+提供する役務を想起させる文字」、「地名+役務を表す一般名称」の文字部分が一体不可分となって自他識別機能を有すると考えられ、この点で甲第4号証の認定は誤りである。
したがって、本件商標の自他役務の識別機能を果たす部分は「16弁の菊花紋章と覚しきの背景図と、白抜きした鳩の上半身の一体の図」及び「豊栄セレモア」であり「トヨサカセレモア」又は「ホウエイセレモア」の称呼を生じる。他方、引用商標の自他識別機能を果たす部分は「セレモアつくば」の部分であり、「セレモア」の部分のみで自他識別機能があるとした甲第3号証の認定は誤りである。従って、引用商標は「セレモアツクバ」の称呼のみが生じるため、本件商標の称呼と引用商標の称呼は、明らかに非類似のものであるといえる。
(ロ)また、本件商標は図形及び漢字2文字で「豊栄」、片仮名4文字で「セレモア」、漢字4文字で「株式会社」で「豊栄セレモア株式会社」とゴシック斜体で横一連に書して構成され、引用商標は漢字4文字で小さく「株式会社」、片仮名4文字平仮名3文字で「セレモアつくば」で「株式会社セレモアつくば」と丸ゴシック体で横一連に書して構成されている。本件商標と引用商標とは図形の有無という差異があるので、本件商標と引用商標とはその外観が非類似であることは明らかである。
また、本件商標と引用商標の文字部分のみを比較しても、書体及び「豊栄」と「つくば」という文字の差異を有している。先に挙げた乙第22号証ないし乙第24号証の登録例は文字部分の書体や構成、図形の有無の差異により、外観上においても明確な差異が生じることを示すものであるから、本件商標と引用商標は外観上も非類似である。
(ハ)更に、本件商標が「新潟県豊栄市に拠点を置く葬祭業を営む会社」という観念を生じるのに対し、引用商標は「茨城県つくば市に拠点を置く葬祭業を営む会社」という観念を生じる。本件商標及び引用商標は全体で一体的な観念が生じているため、本件商標と引用商標は称呼だけでなく、観念的にも一体不可分の商標であるといえる(乙第25号証:東京高裁昭和55年(行ケ)第366号)。
需要者が近辺にある業者を選ぶという地域密着型の業務にあって、その標章に地域名を付すということは役務の提供場所と理解されるなどの宣伝効果を生むものであり、先に挙げた乙第23号証及び乙第24号証登録例からも、商標構成中に地名を付すことで観念上、明らかな差異が生じていることを示すものである。したがって、本件商標から生じる観念と引用商標から生じる観念とは非類似のものである。
(ニ)更に、追加するに、請求人は「本件商標の自他役務の識別標識としての機能を果たす部分は、『16弁の菊花紋章と覚しきの背景図と、白抜きした鳩の上半身の一体の図』、『セレモア』の文字にある」としている。しかし、先に提出した答弁書にて詳述したように、「セレモア」の語は一般名称となっている。したがって、本件商標の構成のうち、自他識別機能を有する部分は、16弁の菊花紋章と覚しきの背景図と、白抜きした鳩の上半身の一体の図であり、本件商標と引用商標は明らかに非類似である。
また、乙第27号証〜乙第29号証に示すように、「初雪」、「越の初雪」、「京初雪」のような、『「地名」+「A」』と「A」の並存登録例が存在している。なお、この登録例は一例であり、他にもこのような例は多数存在する。これは、自他識別機能を有する「初雪」の部分に地名を一連に結合させることによって非類似となることを示すものである。
したがって、仮に百歩譲って「セレモア」の語に自他識別機能を有するとしても、本件商標中の「豊栄セレモア」の構成と引用商標中の「セアつくば」の構成も『「地名」+「A」』(又は『「A」+「地名」』)でから、上記の登録例からしても本件商標と引用商標とは非類似であると判断されるべきである。
(ホ)以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼上、外観上、観念上ともに非類似の商標であるため、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
4 商標法第4条第1項第15号に基づく無効理由について
請求人は「引用商標は請求人がその指定役務の属する業界において永年にわたって使用してきた結果、本件商標の出願日の平成12年(2000)12月22日以前に周知となり、他人が引用商標と同一又は類似の本件商標をその指定役務に使用するときは、取引者、需要者は、それが引用商標権者又は引用商標権者と何らかの関係を有する者の業務にかかる役務であると誤認し、その結果その役務の出所について混同を生じさせるおそれのあるものである。」として甲第5証ないし同第23号証を挙げている。しかしながら、これらの資料を通じて具体的に商標それ自体が取引者、需要者の間に「どの程度知られるに至ったか」が証拠によって明確にされない限り、周知性を獲得したとの事実について証明があったとはいえない(乙第26号証:東京高裁昭和27年(行ナ)第20号)。
更に、請求人は甲第5号証ないし同第23号証から「『セレモアつくば』は被告名称の略称として、葬祭業界及びこれに関連する業界において、取引者はもとより一般需要者の間においても、よく知られており、『セレモア』の表示も同様であることが認められる。」とした判決(甲第4号証)を挙げているが、これら資料はすべて「株式会社セレモアつくば」ないしは「セレモアつくば」の文字で表記されているため、請求人の略称が「セレモア」のみで認められるという証明にはならず、また、上記「3の(イ)」で詳述したように、取引者、需要者は「セレモア」の文字からは「儀式」の意を表す「セレモニー」に関連した造語という認識のみが想起されるため、「セレモア」の前後に文字又は図形が付かない場合、その標章は自他識別機能を有しない。
したがって、本件商標は、取引者又は需要者がそれが引用商標権者又は引用商標権者と何らかの関係を有する者の業務にかかる役務であると誤認し、その結果その役務の出所について混同を生じさせる恐れはなく、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
更に、追加するに、本号は商品または役務の具体的出所混同を防止すべく設けられた規定であって、第4条第1項第10号〜14号に該当する場合には、これらの規定が優先適用され、本号が適用されることはない(第4条第1項第15号かっこ書き)。そして、第4条第1項第15号は一般的出所混同を生じないような場合においても、例えば商標が実際に使用され非類似の商品等についてもその商標を使用すると具体的出所混同を生じるおそれがある場合に適用されるものである。したがって、第4条第1項第11号を無効理由として主張する場合には、第4条第1項第15号違反は予備的主張としてしか意味をなさないものである。
然るに、請求人が主張するように、仮に、請求人の登録商標「株式会社セレモアつくば」が東京地方においてある程度の使用実績を有しているとしても、非類似の商品や役務について当該商標を使用した場合にまでも商品や役務の出所混同を生じるほど著名であることが示されない限り、商標使用の具体的事情を考慮したとしても請求人の登録商標の存在を理由に被請求人の商標が商標法第4条第1項第15号に該当するということはない。
5 結論
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であるため、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同第4条第1項第11号、同第4条第1項第15号に該当するものではない。
よって答弁の趣旨のとおりの審決を求める。 -
第4 当審における無効理由通知及びこれに対する被請求人の意見
1 無効理由通知の要旨
当合議体は、被請求人に対し、平成16年2月24日付けで要旨次のような無効理由通知を発した(なお、請求人に対しては、「職権審理結果通知」として無効理由通知と同じ内容を通知した。)。
「本件商標は、図形と『豊栄セレモア株式会社』の文字とを組み合わせてなるところ、図形部分と文字部分とを常に一体不可分のものとしてのみ把握、理解しなければならない特段の事情も見出すことができないから、文字部分は、独立して自他役務識別機能を有するものと言わなければならない。そして、文字部分である『豊栄セレモア株式会社』の『豊栄』の文字部分は、被請求人の住所地でもある『新潟県豊栄市』を意味する語として知られ、その指定役務との関係において、役務の提供場所を表したものとみるのが自然である。また、その構成中の『株式会社』の文字部分は、法人の組織の種類を表す語ものであるから、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ない部分である。
そうとすれば、本件商標は、その構成中の『セレモア』の文字部分が自他役務識別機能を果たす部分であるから、これより単に『セレモア』の称呼をも生ずるとみるのが相当である。
他方、登録第4277513号商標(以下『職権引用商標』といい、その構成は別掲(3)のとおりである。)は、『セレモア』の片仮名文字を書してなることから、その構成文字に相応して『セレモア』の称呼を生ずること明らかである。
してみれば、本件商標と職権引用商標とは、共に『セレモア』の称呼において類似する商標と認められる。
さらに、本件商標の指定役務は、職権引用商標の指定役務と同一又は類似するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。」
2 被請求人の意見の要旨
先ず、職権による審理の結果、別掲(3)に示すとおりの構成よりなる職権引用商標を対比判断の対象とされたことには疑問を抱かざるを得ない。職権引用商標は、葬儀の執行等を指定役務とする商標「セレモア」であり、平成9年9月11日に商標登録出願されている。一方、職権引用商標に類似する他人の商標である「セレモアみずき」が、同一の役務を指定役務として平成6年5月19日に商標登録出願され、平成9年8月29日に登録第4049312号として商標登録されている。したがって、職権引用商標こそ商標法第4条第1項第11号により拒絶されるべきものであった商標登録出願である。過誤登録の経緯はともかく、職権引用商標「セレモア」が、登録第4049312号の商標「セレモアみずき」に類似する商標である事情については、甲第3号証(無効2000ー35424審決公報)および甲第4号証(平成14年(行ケ)第152号審決取消請求事件判決)に詳述されているとおりである。
職権引用商標のような本来拒絶されるべきであった過誤登録による商標を無効理由の引例とされることは、余りにも形式的判断であり、商標に化体した業務上の信用の保護を図るという商標法の目的に照らすと、具体的妥当性に欠ける判断と言わざるを得ない。
次に、本件商標について、「文字部分である『豊栄セレモア株式会社』の『豊栄』の文字部分は、被請求人の住所地でもある「新潟県豊栄市」を意味する語として知られ、その指定役務との関係において、役務の提供場所を表したものとみるのが自然である。また、その構成中の「株式会社」の文字部分は、法人の組織の種類を表す語であるから、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ない部分である。」と指摘されている。
しかし、「豊栄セレモア」の文字部分について、「豊栄」の文字部分と、「セレモア」の文字部分とを分離観察して、「豊栄」の文字部分について役務の提供場と判断されることには疑問がある。確かに平成16年4月現在、新潟県豊栄市は存在している。しかしながら、豊栄市は来年3月21日をもって新潟市に吸収合併されることが決定しており、まもなく豊栄市は消滅する。「豊栄」の文字部分を分離観察し、1年以内に確実に消滅する著名とも言えない地名の存在を理由として、当該文字部分が自他役務の識別力を有さないとの判断は余りに形式的であり、具体的妥当性に欠ける判断と言わざるを得ない。登録要件についての判断基準時は、原則として査定審決時であるとはいうものの、実体審査を経て商標登録され、しかも実際に使用されて業務上の信用が化体している商標についての権利を消滅させることは、権利の法的安定性を著しく損なうものである。
また、豊栄市は人口5万人程度の小さな地方自治体にすぎず、県庁所在地でもあり政令指定都市を目指す新潟市に隣接していることから、豊栄市の多くの住民の意識は、すでに新潟市民というのが実情である。そもそも日本国民の平均的知識レベルからすると、「豊栄」という文字に接して「新潟県豊栄市」を認識できる人は、けっして多くはいない。「札幌」や「横浜」等であれば、日本人の誰もが地名であると認識できるものの、「豊栄」という文字に接しても新潟県人でさえ、豊栄市を思い浮かべる人は多くないのが実情である。「豊栄」の文字から頭に思い浮かぶのは、企業人であれば、今や世界屈指の自動車メーカとなったトヨタ自動車の関連組織の方である。また、商人であれば「豊栄会」という地域商店会の名称等を思い浮かべる人が多い。「豊栄」という文字は、日本人一般にとって豊かに栄えるというイメージを想起させ、多くの日本人に好まれる文字である。「豊栄」の文字に接した人々のうち、「豊栄」を地理的名称として認識する人は少なく、豊かに栄えるというイメージを思い浮かべる。したがって、本件商標「豊栄セレモア株式会社」に接する多くの人々は、豊かに栄えるセレモアという法人組織を想起することになる。「株式会社」はともかく、「豊栄セレモア」の文字部分は、強いて「豊栄」の文字部分と、「セレモア」の文字部分に分離して観察するよりも、「豊栄セレモア」を一連一体として把握する方が自然というものである。「豊栄セレモア」の文字が、漢字とカタカナから構成されていることを理由として、「豊栄」と「セレモア」に分離観察しなければならないというのは、余りにも形式的判断であり、「豊栄」の文字が有する日本語としての意味内容を軽視したものと言わざるを得ない。
また、答弁書に添付した乙第2号証〜乙第11号証から明らかなように、商標や商号の一部として「セレモア」という文字を包含するものは数多く使用されている。
そして、乙第2号証〜乙第11号証に示す商標は、いずれも葬祭業にかかわるものであり、職権引用商標と同一または類似の役務を業務としているものである。「セレモア」が登録商標であるとしても、「セレモア」単独で使用される同一商標の場合は別として、商標や商号の一部として「セレモア」の文字を含むものが数多く使用されている事実が存在することを考慮すれば、商標「セレモア」の類似範囲を広く解釈することは妥当でない。
また、「セレモア」が造語であるとしても、商標の一部に「セレモア」を含む商標は、「セレモア」の前部若しくは後部又は前部と後部に自他役務の識別力を有する文字を付加したとしても登録され得ないとすると、第三者の商標選択の余地を著しく狭めてしまうことになる。したがって、商標の一部に「セレモア」を含むことを理由にして、日本語として識別力に富んだ「豊栄」の文字部分を含む商標「豊栄セレモア」を、「豊栄」と「セレモア」の部分に分離することは、その必要性に乏しいと言わざるを得ない。
以上述べたように、本件商標の文字部分について、「豊栄」の文字部分と「セレモア」の文字部分とを分離観察して役務の提供の場所と認定されることには疑問がある。本件商標の文字部分については、「豊栄セレモア」を一連一体として把握し、商標「セレモア」とは非類似の商標と判断すべきものと思料する。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではなく、同法第46条第1項の規定により無効にすべきものではないと考える。ご再考いただき、商標登録無効審判の請求を棄却すべき旨の審決を求める。

第5 当審の判断
1 利害関係について
被請求人は、「請求人は本件商標の無効審判を請求する利益を有せず、本件審判請求は却下されるべきである。」旨主張するので、先に、この点について検討する。
請求人は、本件商標の登録を無効とする理由として、同人が所有する別掲(2)に示す引用商標(甲第2号証)を引用しており、本件商標の商標権の存否によって、請求人がその権利に対する法律的地位に直接的な影響を受けるか、又は受ける可能性が十分あるものと容易に推認できるものである。
してみれば、請求人は、本件審判を請求する法律上の利益を有するものといわなければならないから、被請求人の主張は採用できない。
2 無効理由通知について
当合議体は、商標法第56条第1項で準用する特許法第150条第1項及び同第153条第1項の規定により職権で証拠調べを行い、審理をした。
そして、職権による証拠調べ及び審理の結果は、前記「第4.1」のとおり、当事者に通知した。
この通知に対し、被請求人は、前記「第4.2」のとおり、意見があったのでこの点について検討する。
(1)「職権引用商標のような本来拒絶されるべきであった過誤登録による商標を無効理由の引例とされることは、具体的妥当性に欠ける判断である。」旨の主張につて
職権引用商標は、平成9年9月11日に登録出願、第42類「宿泊施設の提供,法要のための施設の提供,葬儀のための施設の提供,飲食物の提供,医療情報の提供,葬儀に関する情報の提供,墓地又は納骨堂の提供,入浴施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,植木・花輪の貸与の取次ぎ,衣服の貸与又は貸与の取次ぎ,仕出し料理の提供の取次ぎ,祭壇の貸与,タオルの貸与,布団の貸与,美容,理容,写真の撮影,葬儀の執行,老人の養護,葬儀に関する相談,霊柩車による遺体の移送」を指定役務として、同11年5月23日に設定登録され、現に有効に存続しているものであるところ、職権引用商標の商標権は、仮に、被請求人主張のように、職権引用商標に無効原因が内在していたとしても、法的手続により無効とされない限り、依然として有効に商標権が存在しているものとみるのが相当である。
そうとすれば、無効理由通知で、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するものとして職権引用商標を引用することは、何ら法的に問題を生ずることにはならないものといわなければならない。
してみれば、被請求人の主張は、採用の限りではない。
(2)次に、「本件商標の文字部分について、『豊栄』の文字部分と『セレモア』の文字部分とを分離観察して役務の提供の場所と認定されることには疑問がある。本件商標の文字部分については、『豊栄セレモア』を一連一体として把握し、商標『セレモア』とは非類似の商標と判断すべきものである。」旨の主張について
本件商標を構成する文字部分のうち「豊栄セレモア」の文字部分をみるに、「豊栄セレモア」の文字は、「豊栄」の文字を漢字で、「セレモア」の文字を平仮名文字で結合してなる構成であることから、視覚上分離して看取し得る上、両文字が不可分一体となって広く一般に親しまれた熟語的意味合いを有するものでもなく、両文字の観念的な結び付きも強固とはいえない。
加えて、「豊栄」は、例えば「広辞苑(第5版)」(岩波書店発行)によれば、「新潟県中部、阿賀野川下流の市。越後平野の農業地帯で、新潟市の衛星都市。人口4万9千」と記載されており、少なくとも新潟県及びその周辺の県では、地名として知られているものと推認し得るものである。
そうとすれば、「豊栄」の文字部分は、本件商標の指定役務との関係において、役務の提供場所等の地名として認識するものとみるのが自然である。 してみれば、「豊栄セレモア」の文字部分は、特定の観念を有しない一種の造語と認められる「セレモア」の文字部分が自他役務識別機能を果たす部分であるから、該文字全体として「トヨサカセレモア」の称呼の他、「セレモア」の文字に相応して単に「セレモア」の称呼をも生ずるものといわなければならない。
したがって、本件商標と職権引用商標とは、「セレモア」の称呼を共通にする類似の商標といわざるを得ない。
なお、被請求人は、「セレモア」の文字からは「儀式」の意を表す「セレモニー」に関連した造語という認識のみが想起されるため、「セレモア」の前後に文字又は図形が付かない場合、その標章は自他識別機能を有しない旨主張し、その証拠として乙第2号証ないし同第24号証(ただし、乙第12号証は除く。)を提出しているが、これらの書証をもって「セレモア」の文字が、指定役務との関係において、自他役務識別機能を有しないものと断ずることはできないばかりか、これらの書証をもって本件審判の判断を拘束されるものではなく、前示のとおり判断するのが相当とするから、同人のこの主張も採用の限りではない。
3 まとめ
以上のとおり、前記「第4.1」の無効理由通知は妥当なものと認められ、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違反されて登録されたものであるから、同第4条第1項第7号及び同第4条第1項第15号について検討するまでもなく、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 【別掲】
(1)本件商標(登録第4597440号商標)


(2)引用商標(登録第3081086号商標)


(3)職権引用商標(4277513号商標)

審理終結日 2004-05-11 
結審通知日 2004-05-13 
審決日 2004-05-25 
出願番号 商願2000-138396(T2000-138396) 
審決分類 T 1 11・ 262- Z (Z42)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 松江 
特許庁審判長 佐藤 正雄
特許庁審判官 山本 良廣
宮川 久成
登録日 2002-08-23 
登録番号 商標登録第4597440号(T4597440) 
商標の称呼 ホーエーセレモア、ホーエー、セレモア 
代理人 牛木 護 
代理人 舩坂 俊昭 

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