• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商品(役務)の混同 無効としない 03536373942
審判 全部無効 標章の同一 無効としない 03536373942
管理番号 1096568 
審判番号 無効2003-35139 
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-04-14 
確定日 2004-04-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第175840号商標の登録第46号防護標章、登録第175840号商標の登録第40号防護標章、登録第175840号商標の登録第42号防護標章、登録第175840号商標の登録第44号防護標章及び登録第175840号商標の登録第45号防護標章の登録無効審判事件について、審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件併合事件と防護標章登録各号
(1)本件併合事件
本件併合に係る審判事件は、登録第175840号商標(以下「原商標」という。)に係る防護標章登録第40号の無効2003年第35139号、同第42号の無効2003年第35140号、同第44号の無効2003年第35141号、同第45号の無効2003年第35142号、同第46号の無効2003年第35143号の無効審判請求(以下「本件併合事件」という。)である。
(2)原商標及び防護標章登録各号
原商標及び防護標章登録各号(以下「本件防護標章」といい、その構成態様は別掲(G)のとおりである。)の出願日、設定登録日、指定区分及び指定商品・役務は、別掲(A)ないし(F)のとおりである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、本件防護標章の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第55号証(各甲号証は、本件併合事件に共通する証拠である。ただし、甲第3号証及び同第4号証は、この限りでない。)を提出している。
1 審判請求までの経緯と利害関係
(1)請求人は、商標登録第3370289号、同第3370290号、同第4209199号、同第4219662号及び同第4210154号の登録商標(甲第5号証ないし同第14号証)を有しているが、被請求人は、これらに対し無効審判(無効2002-35545,35546,35547,35549及び35550号)を請求し、その請求の理由において、本件防護標章の登録に基づき、請求人の上記登録商標が商標法第4条第1項第12号に違反して登録されたと主張したので、請求人は本件審判に利害関係を有する。
(2)本件審判までの過程の概略
請求人である星光ビル管理株式会社は、甲第15号証の経歴書や同第16号証の会社案内(SElKO GROUP 星光グループ業務案内)に示されるように、総合ビルメンテナンス会社であり、昭和25年にエビス土地建物株式会社として設立され、昭和28年に日本生命保険相互会社が経営参加し、昭和50年に現在の星光ビル管理株式会社となった。星光の星は日本生命の日生から採ったものである。その後、社業は順調に伸び、日本生命が所有するビル群のビルメンテナンスで培った技術・ノウハウを生かして多数の他社ビル・マンション・病院・工場・イベント施設等のビルメンテナンス(全国4000件以上)を行っている。また、星光ビルサービス株式会社他の子会社を含めたSEIKO(星光)グループ全体のパートを含めた従業員数も平成6年3月頃は、5,200名余りであったが、現在では6,000名を越えており、年商も平成6年頃は約300億円であったが現在は約387億と、バブル崩壊後の低成長下でも伸びている。なお、ビルメンテナンス会社は、サービス産業であるので、年商300億円は通常の企業の1,000億円を優に超える額に匹敵する。
甲第17号証及び同第18号証は、請求人の登録商標が出願された平成4年度のビルメンテナンス業界の所得(年商ではない。)番付であるが、請求人とその子会社の星光ビルサービス株式会社の合計は、業界3位の位置にあり、ビルメンテナンス業界の最大手の1社といえた。
この傾向は今も変わらず、甲第19号証及び同第20号証の平成12(2000)年の売上ランキングでは、請求人とその子会社の星光ビルサービス株式会社の合計が業界3位にある。なお、リスト中、日立ビルシステムは、エレベーターの製造・販売が主力で、その部分の売上が過大であるため、ダントツに大きいのである。
こうした請求人星光ビル管理株式会社の名称中、「星光」が識別力がある部分であるから、請求人は、「星光」とそのローマ字綴り「SEIKO」を、ごく自然に請求人の略称や請求人の役務の商標として使用している。「SEIKO」の使用例は、甲第16号証の会社案内「SEIKO GROUP」、従業員・得意先に定期的に配布する「SEIKO/PLANET」(甲第21号証)、制服(甲第22号証)などに使用されている。また、ビルメンテナンス業務の概略は甲第23号証のとおりである。
以上のように、請求人は、「星光」、「SEIKO」を請求人の業務に応じて使用していたところ、平成4年にサービスマークの登録制度が開始したので、自己のビルメンテナンス業務を精査した上で、第35類ないし第37類,第39類及び第42類に5件の出願をなした。
ところが、これら5件の出願は、審査中に被請求人のSEIKOと混同を招くおそれがあるとして拒絶査定を受けたが、審判でこの拒絶査定は破棄され、いずれも登録された。これら登録の内2件について被請求人より異議申立を受けたがいずれも理由がないとして退けられた。この異議決定は、被請求人のSElKOを著名と認めつつも、商標としての独創性の欠如や、時計とビルメンテナンス業務の業種としての乖離を重視して出された決定であり、平衡感覚に富んだ卓見で現在に通じ、素人にも十分説得力がある。2つの異議決定はほぼ同内容であるので、平成6年審判第15272号(商標登録第3370289号)の異議決定を甲第24号証として提出する。
その後、被請求人は、甲第25号証ないし同第30号証の往復書簡に示されるように、SEIKOは被請求人の世界に知られたブランドであるから、請求人の上記登録商標5件を被請求人に譲渡することを求め、その中で、全分類に防護標章を取得している、譲渡しないなら無効審判請求をする等が提示された。請求人は、数十年の使用実績から、ビル管理のSEIKO(星光)という評判も高く、被請求人自身も差止・損害賠償の源となる上記商標権の保持は必須のものであるので、被請求人の無理難題な要求を断ったところ、上記5件の無効審判請求を受けた次第である。
2 商標法第64条第1項違反
(1)防護標章と使用商標の不一致
上記5件の無効審判では、100件以上のSEIKOの使用証拠が被請求人により提出されたが、原商標とほぼ同一な使用例は、甲第31号証の会社案内の本文中にあるだけである。
すなわち、本件防護標章が別掲(G)のとおりゴシック字体であるのに対し、ほとんどの証拠の使用商標は、被請求人使用主要商標(以下「本件使用商標」といい、その構成態様は別掲(H)のとおりである。)のように明朝字体である。
甲第31号証の会社案内の表紙も、この明朝字体の本件使用商標を影を付けて図案化したものである。
この明朝字体の本件使用商標は、本件防護標章の出願前より現在まで使用されている被請求人の社章であると思われ、その使用例の幾つかを甲第32号証ないし同第39号証として示す。
いずれにせよ原商標は、指定商品である「時計並各部品及附属品」に事実上使用されていないのであり、自己の業務に係る指定商品を表示する商標として需要者の間に広く認識されているとはいえないのであるから、本件防護標章は、商標法第64条第1項前段の規定に反して登録されたものである。
(2)本件使用商標の時計における使用と役務との混同について
本件使用商標が時計における使用により著名になったとしても、他人が本件防護標章の指定役務に商標SElKOを使用しても混同のおそれは生じない。少なくとも請求人の上記登録商標の指定役務のような総合ビルメンテナンス業の役務に商標SEIKOを使用しても混同のおそれは生じなく、仮に、本件防護標章が商標法第64条第1項前段の規定に反していなくても、同項中段の規定に反しているのである。
同法第64条の防護標章の混同の基準は、同法第4条第1項第15号の混同の基準と同視するべきであり、甲第24号証の異議決定理由は、本件防護標章無効審判にも当てはまるものである。
上記異議決定後に判決された、平成10年(行ヒ)第85号(甲第40号証)や平成12年(行ヒ)第172号(甲第41号証)の最高裁判例で示された第4条第1項第15号の「混同のおそれ」の基準、すなわち、「表示の類似性の程度、周知著名性及び独創性の程度、そのブランドの使用される商品・役務と対象となる他人の商標の商品・役務との関連性、取引者・需要者の関連性等を、商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断する。」という基準も、防護標章の混同のおそれにも類推適用できるので、以下にその適用の結果を主張する。
(ア)表示の類似性の程度
防護標章の場合、対象の他人の商標が特定できないが、原商標は普通のゴシック体であり、それが使用される時計と、防護標章の指定役務の間の混同のおそれの度合いは小さくなる。
(イ)周知著名性の程度
本件使用商標の時計における周知著名性は、請求人も否定しない。しかし、被請求人の関連会社の業務の裾野は狭く、時計以外の商品・役務の売上は僅少と推測される。また、有力関連会社であるセイコーエプソン株式会社が、SEIKOブランドではなく、EPSONブランドを使用していること(甲第42号証)からも解るように、被請求人には、財閥・電気メーカーのように、ブランド統制をしているように思えない。
したがって、本件使用商標の著名性が普通に及ぶ範囲は、時計を中心にして、宝飾品、精密機械、時間測定機器程度と考えるのが妥当と考える。
(ウ)独創性の程度
甲第24号証の異議決定でも、SElKOの独創性には、大きな疑問が示されている。
すなわち、甲第43号証の広辞苑でも、セイコウの読みの出る熟語は、30以上あり、中でも「精巧、精工、正孔、精鉱、製鋼、精好」などは、品質表示などの記述的語句であり、SEIKOは、いわゆる「弱い商標」といってよい。
女性の名前にも、「聖子、征子、成子、誠子、盛子、斉子」など、SEIKOと呼ばれる名前がある。
法人名称に至っては甲第44号証の大阪市内の電話帳(十数年前から、大阪市内の電話帳は、地域分割されているので、昭和58年発行と非常に古いが、傾向は現在と同様とすることができる。)で、セイコー、セイコウ、又はこれらの読みを有する法人名を数えると数百社ある。甲第24号証の異議決定では、東京都の電話帳では、セイコー、セイコウを語頭に有する法人数は、100以上あると認定しているが、セイコー、セイコウの読みを有する法人名迄数えると1,000社以上になると想像できる。
このように、セイコー、セイコウ(SEIKO)の称呼を法人名称の一部に有する法人は、日本全国に無数にあり、これらは、被請求人のセイコー株式会社と混同することなく、商取引を行っていると解するのが自然である。
セイコー、セイコウ(SEIKO)の称呼を法人名称の一部に有する法人が、自社の略称のローマ字名称として、SElKOを使っている例はかなり多いと思料する。
以下は、請求人が、インターネット等で集めた一例で、全国の中の氷山の一角にすぎない。
・請求人の星光ビル管理株式会社が、SEIKOを使用していることは、甲第16号証、同第21号証及び同第22号証より明らかである。
・請求人の代理人である今村元は、大阪星光学院高等学校を卒業している(甲第45号証)が、昭和41年発行の卒業アルバム(甲第46号証)には、バレーボール部、野球部のユニフォームに大きくSEIKOの文字が表示されている。
・横浜の聖光学院もSeikoを少なくとも使用している(甲第47号証)。
・セイコー不動産グループがSElKOを使用している(甲第48号証)。
・ゴルフ会員券売買の株式会社星光がSEIKOを使用している(甲第49号証)。
・静光産業株式会社がSEIKOを使用している(甲第50号証)。
・電気工事などを行う株式会社正興電機製作所がSEIKOを使用している(甲第51号証)。
・セイコー印刷株式会社がSEIKOを使用している(甲第52号証)。
・地図を販売している株式会社セイコー社がSeikoを使用している(甲第53号証)。
・不動産業者の株式会社セイコーハウジングがSEIKOを使用している(甲第54号証)。
・歌手の松田聖子がSeikoを使用している(甲第55号証)。
上述のことから、被請求人のSElKOが独創性の非常に乏しい、いわゆる「弱い商標」であることが明らかである。
(エ)そのブランドの使用される商品・役務と対象となる他人の商標の商品・役務との関連性
本件使用商標が広く使用されている商品は、「時計」であるのに対し、本件防護標章は役務を対象にし、業種・業態を著しく異にする。特に、請求人の登録商標の指定役務は、総合ビルメンテナンス業の業務範囲であり、業務・業態が全く異なり、本件防護標章はそういった役務を指定役務に含んでいる。
(オ)商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力
以上(ア)ないし(エ)を総合的に勘案し、商品・役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力をもってすれば、取引者及び需要者が、本件防護標章は、時計に関して著名であっても、他人がSEIKOをその指定役務に使用しても出所の混同を生ずるおそれがあるとは考えられず、また、使用主体が関係会社・グループ会社と混同するおそれも考えられない。
特に、本件防護標章は、本件使用商標の時計における使用により著名になったとしても、商標「SEIKO」を請求人の上記登録商標の指定役務のような総合ビルメンテナンス業の役務に使用することにより混同のおそれは生じなく、仮に、本件防護標章が商標法第64条第1項前段の規定に反していなくても、本件防護標章の指定役務に総合ビルメンテナンス業の役務が含まれるので、同項中段の規定に反している。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件防護標章の登録は無効とされるべきである。
4 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)本件使用商標は、ほとんど時計に使用されている。即ち、多量の乙号証は、時計の広告等であり、答弁書に示される被請求人の売上高のほぼ2/3は、ウオッチ(腕時計)である。なお、グループ売上高には、EPSONを使用しているセイコーエプソン株式会社の売上高が含まれているので、かなりの上げ底である。
(2)被請求人の使用商標(ロゴ体)のほとんどは、本件使用商標であり、本件防護標章「SEIKO」ではない。
(3)広告以外にブランドイメージ調査に関する資料が証拠として提出されているが、こうしたブランドイメージも結局、時計に関する著名性から派生しているにすぎない。
(4)請求人は、「SEIKO」(甲第9号証)、「星光」を遅くとも平成4年から、使い続けていることは、甲第9号証が使用特例商標であることから明らかで、「S」の商標はその後使用され始めた。
請求人にとり、「SEIKO」が付随的商標でないことは、甲号証から明らかである。
(5)東京高裁平成7年(行ケ)第88号「SCOTCH」事件と、本件とは事案を異にする。
先ず、「SCOTCH」事件において、使用商標が小文字「Scotch」だけだったのか、大文字「SCOTCH」(原登録商標)も含まれていたかが不明である。
次に、「SEIKO」は、すでに言及したように、多数の対応漢字を有し、多くの会社名称の要部であり、かつ女性の名前に多くある(男性にもしばしばある。)、いわゆるweak trademarkであり、原商標と使用商標との差異は厳密に判断しなければならない。
(6)防護商標の混同の判断基準として、商標法第4条第1項第15号の混同の判断基準を参考にすることは、決しておかしくはない。
表示の類似性については、「SEIKO」は、いわゆるweak trademarkであり、特異な商標と区別すべきことを述べたのである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第83号証(枝番を含む。)(各乙号証は、本件併合事件に共通する証拠である。)を提出している。
1 被請求人が使用する「SEIKO」の著名性について
請求人は、被請求人が時計について使用する本件使用商標が著名であることを認めたうえで、それにもかかわらず、本件使用商標の著名性が及ぶ範囲は、時計を中心にして、宝飾品、精密機械、時間測定機器程度の範囲内であると主張している。
しかし、被請求人が使用する本件使用商標の著名性の範囲が、上記商品の範囲内であるとの上記主張は、明らかに失当である。
(1)すなわち、本件防護標章は、第35類、第36類、第37類、第39類及び同42類(ただし、第42類は省令改正前のもの)の役務を指定役務とするものであるが、原商標は、本件防護標章が出願された平成4(1992)年9月30日までに、昭和34年法の区分による第1類から第34類について、いずれも防護標章登録第1号から第39号として防護標章登録済である。
また、これに加えて原商標は、現行法の区分による第38類、第40類及び第41類についても、防護標章登録第43号、同第47号及び同第41号として登録済である。
なお、原商標は、防護標章登録第1号から第39号において登録を受けていなかった商品「カフスボタン、宝玉及びその模造品」及び「ボタン類」について防護第48号及び同第49号の登録を受けたので、これによって、時計を除く全ての商品及び役務について防護標章を登録済である。
原商標は、上記のとおり、時計を除く全ての商品及び役務について防護標章を登録済であり、最初の防護標章登録を受けたときから4半世紀以上の長きにわたって、著名性を一貫して保持しているものである。
すなわち、防護標章登録の更新登録手続きにおいては、出願ごとに原商標が著名性を保持しているか否かについての審査を受けることが義務付けられているが、原商標は、更新登録出願時に、いずれの区分においても、商標法第64条に規定された登録要件を備えていることが認められて、更新登録がなされているものである。
したがって、原商標は、全ての商品及び役務について防護標章登録を受けてきている実績から判断しても、日本を代表する著名商標の一つであることが明らかである。
(2)「SEIKO」の標章は、被請求人が、時計について大正13(1924)年から使用を始めたものであって、その後、今日まで80年近くの長きにわたって継続して使用されてきた。
乙第11号証ないし同第42号証は、「SEIKO」を被請求人が時計について使用した例であり、この実績だけでも、「SEIKO」は、被請求人が時計について使用する著名商標であるといえる。
(3)被請求人が「SEIKO」を時計について使用してきた間に、「SEIKO」時計は、オリンピック大会をはじめ各種の国際競技大会において公式時計として採用されたこと(乙第1号証及び同2号証)、オリンピック大会が全世界にテレビ放送された中で、各種計測機器上に表示された「SEIKO」が世界各国に向かって放送されたこと、被請求人が宣伝広告費用として毎年巨額を投じてきたこと(乙第7号証ないし同第10号証)、「SEIKO」がAIPPI日本部会発行の「有名商標集」に掲載されていること(乙第65号証及び同第67号証)、「SEIKO」が特許庁のホームページ「日本国周知・著名商標」に著名商標として掲載されていること(乙第68号証)などからすれば、「SEIKO」標章は、本件防護標章の登録査定時において、被請求人が時計について使用する著名商標であることが明らかである。
これに加えて、「SEIKO」ブランドが、リサーチ会社及び新聞社が行った有名企業のブランドイメージ調査において常にトップクラスの評価を得ていたこと(乙第69号証ないし同第76号証)、さらには有名ブランドのランキング調査が、商品ブランドの評価に止まらず、ブランドに含まれる企業イメージも評価しており、この中で、被請求人の「SEIKO」は常にトップクラスの評価を得ていたものである。
したがって、上記の事実を総合すれば、「SEIKO」は、本件防護標章の登録査定時において、被請求人が時計について使用する著名商標であっただけでなく、被請求人の著名なハウスマークとなっていたことが明らかである。
(4)さらにまた、被請求人は、時計以外の商品及び役務についても「SEIKO」を使用しているだけでなく(乙第43号証ないし同第62号証)、多くの関係会社を有しており(乙第1号証及び同第2号証)、これら関係会社と共に企業グループを形成して、時計以外にも多くの商品及び役務について「SEIKO」を使用して企業活動を行ってきていた。換言すれば、被請求人及び関係会社は、「SEIKO」を共通して使用する企業連合体として多角経営を行っていたのであり、その結果、「SEIKO」の標章は、本件防護標章の登録査定時において、被請求人の著名なハウスマークとしてだけでなく、被請求人の企業グループを表わす著名なハウスマークとなっていたといえるものである。
(5)「SEIKO」に化体された信用は、被請求人及び被請求人の関係会社が長年にわたる企業努力によって培ってきたものであって、この信用は、第三者によって侵されてはならないものであり、第三者は、如何なる商品及び如何なる役務についても「SEIKO」を使用する権利を有しないのである。第三者による「SEIKO」の使用は、被請求人及び被請求人の企業グループとの間で商品及び役務について出所の混同を招くものであり、これは、著名商標の只乗り行為であって到底認められるものではない。
「SEIKO」標章は、本件防護標章の登録査定時において、被請求人が時計について使用する著名商標であることが世界中で広く知られていただけでなく、被請求人ないしは被請求人の企業グループの著名なハウスマークとして広く知られていたものであり、このことは、平成14(2002)年開催のソルトレイク冬期オリンピック大会において、被請求人及び関係会社が企業グループとして公式時計を担当したこと(乙第3号証ないし同第5号証)を挙げるまでもなく、今日においても全く揺るぎがないものである。
2 請求人使用の商標について
(1)請求人は、「星光」と「SEIKO」を、ごく自然に請求人の略称や請求人の役務の商標として使用していると述べると共に、甲第16号証、同第21号証及び同第22号証を使用実績として提出している。
しかし、上記各書証は、そもそも請求人の主張を裏付けるための証拠としての適格性を有しているものではない。
すなわち、上記書証のうちで、甲第16号証は平成14年8月(同号証裏表紙「02.8.2,000」の表示)、甲第21号証は平成14年中(同号証表紙上の「2002」の表示)、また、甲第22号証は時期不明というものであり、これらは、いずれも本件防護標章の登録査定時(平成7年2月)よりもはるかに後の時期の作成にかかるものであるか、あるいは作成時期不明のものばかりである。
したがって、請求人が提出したこれらの書証は、証拠としての適格性を欠いているものである。
すなわち、上記各書証中において、請求人が使用している商標は「星光」と「S字マーク(2つの四角図形を45°ずらした輪郭の中にS字を表記したもの)」であり、「SEIKO」は、単に社名「星光」を補助的にローマ字表示しているにすぎない。
これを具体的に述べれば、甲第16号証及び同第21号証のそれぞれの裏表紙には、請求人たる星光ビル管理株式会社と共に星光ビルサービス株式会社、星光綸環測エンジニアリング株式会社の3社の社名が併記された部分に「S字マーク」が表記されているが、同部分には「SEIKO」は表示されておらず、請求人は、専ら「星光」と「S字マーク」を主として使用しているものである。
会社案内として提出された甲第16号証は、表紙に「SEIKO GROUP」の表記があるものの、表紙全面にわたって上記「S字マーク」が大きく表記されており、また、同号証8頁に「SEIKO PATROL」を表記した自動車が掲載されてはいるが、ここでは該記載とともに「S字マーク」が併記されているので、たとえ「SEIKO GROUP」「SEIKO PATROL」の表記がなされていたとしても、これらは「星光」の社名を、単にローマ字表示している程度のものにすぎない。
また、甲第21号証は、従業員・得意先向け刊行物であるとして提出されているが、ここでも表紙上に「SEIKO PLANET」と共に「星光プラネット」が表記されており、また、第20回全国ビルクリーニング技能コンクール大会を紹介した記事中に表示された写真中では、主催者表示として「星光ビルサービス株式会社」の社名とともに「S字マーク」が表記されているが、「SEIKO」は表記されていない。「星光」ないし「S字マーク」については上述のとおりの使用がなされているものの、「SEIKO PLANET」は、「星光プラネット」を、単にローマ字で記述的に表示したものに止まっている。
さらに、甲第22号証は、従業員のユニフォームとして提出されており、「SElKO」が表示されてはいるが、他方で肩部分に「S字マーク」が表記されている。したがって、従業員ユニフォーム上に表記された「SEIKO」も、「星光」をローマ字表示した程度のものにすぎない。
これに加えて、甲第15号証(同号証は平成14年4月以後の作成であり、他の書証と同様に、本事件においての証拠としての適格性を有しているとはいえない)は、会社経歴書であるが、会社経歴書といえば、会社案内と共に自己PRには欠かせない重要なパンフレットであると考えられるところ、同書証中には「SEIKO」が使用されていない。前述したように、請求人は、「SEIKO」をごく自然に請求人の略称や役務の商標として使用していると述べているが、会社のPR用パンフレットとなる経歴書に「SEIKO」が使用されていないものである。
その他、甲第23号証(同号証も、裏表紙上に見られる「環境マネジメントシステム登録証」中の記載から判断すると、作成時期は平成13年以後であり、本事件においての証拠としての適格性を有しているとはいえない)も、請求人及び関係会社の業務案内として提出されているが、該パンフレットも会社のPR用パンフレットであるにもかかわらず「SEIKO」は使用されていない。
以上のとおり、請求人及び請求人グループが使用する商標は、「星光」及び「S字マーク」が主たるものであって、「SEIKO」はごく一部で使用されているだけであり、たまたま使用されている場合であっても、せいぜい社名のローマ字表示として付随的に使用されているという程度にすぎないものである。
以上のとおりであるから、請求人が提出した甲第15号証、同第16号証及び同第21号証ないし同第23号証を、参考資料として検討した場合にも、「SEIKO」は、請求人の社名の一部のローマ字表示として、せいぜい付随的に使用されているというにすぎないことが明らかである。
(2)請求人の「SEIKO」の使用が、社名のローマ字表示として付随的なものであるとしても、請求人が、自らの役務の提供にあたって「SEIKO」を使用することは、被請求人の著名な商標である「SEIKO」に化体されている信用を損ない、かつ、その出所について混同を生じせしめるものである。
すなわち、請求人による「SEIKO」の使用は、役務の出所について被請求人との間で出所の混同を生じせしめるだけでなく、被請求人の著名商標に化体された業務上の信用を損ない、さらには、被請求人及び被請求人の企業グループの著名なハウスマークに化体された業務上の信用をも損なうものであり、到底許されるものではない。
3 本件防護標章は商標法64条所定の登録要件を充足している
(1)請求人は、まず、原商標が指定商品「時計並各部品及附属品」において事実上使用されておらず、原商標は、自己の業務に係る指定商品を表示する商標として需要者の間に広く認識されているとはいえないから、本件防護標章は商標法第64条第1項の規定に反しており、登録は無効であると主張しているが、およそ失当である。
すなわち、防護標章登録制度は、商標権の効力を禁止権の範囲にまで拡張させるものであって、商標法第64条にその登録要件を規定しているものであるところ、同法は、防護標章登録を受ける条件として「標章が登録商標と同一であること」を要求しており、防護標章登録を原登録商標と同一の標章であることと規定しているが、現実に使用されている著名商標と原登録商標とは、形式的ないし機械的に同一でないとしても、相互に同一性を有するものであればよいとした判断がなされている(東京高裁平成7年(行ケ)第88号、審決取消請求事件、平成8年1月30日判決:乙第77号証)。
上記判決は、防護標章の登録を否定した特許庁の審決を取り消したものであって、防護標章となる原登録商標と使用されている商標が、形式的に同一でなくても同一性を有していればよいとしたものである。判決は、使用商標と原登録商標が、一方がローマ字の小文字(Scotch)、他方がローマ字の大文字(SCOTCH)であったとしても、使用商標が周知・著名になれば、そのことに伴い原登録商標も著名性を有するに至ったものと認めるのが相当であるとして、使用商標と原登録商標が、文字として同一でなくてもよいとの判断を示している。
本件使用商標が著名商標であることは、特許庁において顕著な事実であり、また請求人自身も認めていることであるから、被請求人の原商標が著名性を有していることは当然のことであり、したがって、被請求人の登録防護標章が登録要件を備えていることも、また当然のことであるといえる。
上記判決は、ローマ字の小文字と大文字の違いがあっても、両者に同一性が認められると共に、使用商標が著名性を有していれば、原登録商標を防護標章として登録してよいとするものであるところ、本件使用商標と本件防護標章の場合には、書体に極めてわずかな違いは認められるものの、両者が同一性ある商標であることは疑う余地がないほど相互に酷似しているものであるから、本件防護標章が、商標法第64条第1項の要件を備えていることはいうまでもないところである。
(2)請求人は、本件防護標章と本件使用商標が異なるので、本件防護標章の指定役務について他人が「SEIKO」を使用しても、被請求人との間で出所の混同は生じないと主張しているが、以下のとおり失当である。
(ア)表示の類似性
請求人は、原商標は普通のゴシック体であり、被請求人が使用する時計と本件防護標章の指定役務との間の出所の混同のおそれの度合いは小さいかの如く述べているが、失当である。すなわち、商標法第64条所定の防護標章においては、請求人も認めているとおり、「混同を生ずるおそれ」の有無を判断するに当たって、対象の他人の商標を特定することができない。
したがって、このことを前提とした場合には、同法第64条所定の登録要件たる「混同を生ずるおそれ」の有無を判断するにあたって、表示の類似性の程度を検討することは、基本的には必要のないことである。
また、この点とは別に、請求人は、原商標は普通のゴシック体であるから、混同のおそれの度合いは少なくなると述べているが、原商標がゴシック体で表示されていたとしても、これが著名商標である限りは、混同のおそれの度合いが少なくなることなど事実として存在していない。
(イ)周知著名性
請求人は、本件使用商標が時計について著名であることは認め、その著名性が普通に及ぶ範囲は、宝飾品、精密機械、時間測定機器程度であると主張しているが、商標が著名になるためには、多数の商品・役務について使用されることが条件というものではなく、使用された商品・役務の数に係わりなく著名になるものが数多く存在しており、しかも、著名性の程度が圧倒的に高いものが存在している。本件使用商標は、著名性の程度が格段に高いものであって、このことは被請求人が提出した数多くの証拠により明らかに裏付けられている。本件使用商標は、時計について使用する商標として、日本国内のみならず世界各国において著名であるとともに、被請求人及び被請求人の企業グループを表わす著名なハウスマークともなっている。
被請求人の時計は多種類であるから、一般世人ないしは需要者は、腕時計、置時計、柱時計、目覚まし時計などにより日常的に被請求人の「SEIKO」時計と接している。また、学校、職場、公共施設、公園、ゴルフ場などには大型時計が設置されることが少なくないので、ここでも被請求人の「SEIKO」時計と接する機会があり、一般世人ないしは需要者は、日夜、被請求人の「SEIKO」時計と接しているのである。
そうであれば、請求人が管理する建物・施設にも、あるいは請求人の管理外の建物・施設にも、被請求人の「SEIKO」時計が設置されていることが少なくないであろうことを勘案すると、このような建物・施設で、請求人の従業員が「SEIKO」を表示したユニフォームを着用して「建築物における来訪者の受付及び案内」、「家賃の集金」、「駐車場の管理」、「冷暖房装置の運転・監視・修理又は保守点検、建築物の外壁の清掃、窓の清掃、エレベイター・エスカレーター・ゴンドラ等昇降設備の運転・監視・修理又は保守点検、カーリフト・立体駐車場等駐車場設備の運転・監視・修理又は保守点検」、「建築設備の検査、建築物における空気環境の測定、建築物飲料水水質検査、廃水の水質検査、煤煙濃度測定及びそれらの適正基準に合致させるための管理、施設の警備」(以下これらの役務を「本件各役務」という。)などの業務を行えば、あるいは被請求人の「SElKO」時計が設置されていない建物・施設において、請求人の従業員が「SEIKO」を表示したユニフォームを着用して上記業務を行った場合においても、取引者はもとより一般需要者は、被請求人の「SEIKO」と請求人の「SEIKO」を明確に区別することは到底できず、その従業員を、被請求人の子会社又は被請求人と何らかの関連ある企業の従業員であると誤認することは当然のことである。
被請求人の商品も請求人の役務も、いずれも一般世人にとって身近なものであり、被請求人及び請求人は、決して特殊な商品・役務を取り扱う企業ではないものであるから、請求人が、その登録商標の役務の提供に際して「SEIKO」を使用すれば、役務の出所について被請求人との間で混同を生ずるおそれがあることは明白である。
(ウ)独創性
被請求人の「SEIKO」は、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、その他の媒体を通じて日本国内だけでなく世界各国において広く知られたものとなっており、その著名性は圧倒的に高いものとなっている。
しかも、一般世人は、日常的に「SEIKO」と接する機会があるのであるから、仮に請求人の上記主張を議論のために前提としたとしても、「出所の混同を生ずるおそれ」の有無を判断する時に、本件使用商標が著名性を欠き、「出所の混同を生ずる」おそれもないと結論するのは失当である。
また、請求人は、名称の一部にセイコー又はセイコウの称呼が生ずる語を有する法人が存在することを主張し、甲第45号証ないし同第55号証を提出しているが、これらは、本件使用商標の著名性を否定するものではない。
仮に、請求人指摘の事実が存在していることを前提とした場合にも、前述したとおりの具体的な事実を前提にする限りは、被請求人の「SEIKO」の著名性が否定されることはあり得ないものである。
これに加えて、被請求人は、これまでにおいても、第三者による「SEIKO」の無断使用例を発見した場合には、その都度、その使用の中止を申し入れてきている。そこで、その一例を示せば、以下のとおりである。
・平成2年4月に申し入れた「SEIKOネズミ撃退器」における「SEIKO」の使用中止及び商号変更の例(乙第78号証)
・平成4年5月に申し入れた「SEIKO、セイコーハミガキ、SUN&SEIKO」における「SEIKO、セイコー、SUN&SEIKO」の使用中止例(乙第79号証)
・平成10年5月に申し入れた「SEIKO、セイコー(オフィス用品)」における「SEIKO、セイコー」の使用中止及び商号変更の例(乙第80号証)
・平成10年9月に申し入れた「SEIKO、セイコーハウジング」における「SElKO、セイコーハウジング」」の使用中止及び商号変更の例(乙第81号証)
・平成12年10月に申し入れた「SEIKO自動車教習所及びSEIKO賃貸建物」における「SEIKO」の使用中止例(乙第82号証)
上記の各事例は、被請求人の「SEIKO」の著名性が、あらゆる商品や役務に及んでいることを具体的に示しており、このため被請求人から申し入れを受けた各相手方も、全て被請求人からの申し入れに応じて、自らが使用してきた表示である「SEIKO」の使用の中止に応じているものである。
被請求人は、上記のとおり、これまで「SEIKO」の無断使用者に対して使用中止又は変更を請求して、これを実現してきているが、「SEIKO」のブランド管理は、必要により今後も的確に行っていく予定である。
上記のとおりであるから、仮に請求人指摘の「SEIKO」表示の使用例が現存しているとしても、これらは、被請求人からの申し入れに応じて使用を中止すべき事例であるこというまでもない。
(エ)ブランドが使用される商品・役務と対象となる他人の商品・役務との関連
請求人は、本件使用商標が広く使用されている商品は、「時計」であるのに対し、本件防護標章は役務を対象にし、業種・業態を著しく異にする。特に、請求人の登録商標の指定役務は、総合ビルメンテナンス業の業務範囲であり、業務・業態が全く異なり、本件防護標章はそういった役務を指定役務に含んでいると主張しているが、失当である。
請求人が行う本件各役務の業務は、街中にある建物又は施設が対象となっており、その業務は、特別な時間帯ではない、ごく通常の時間に行われるものである。
一方、被請求人の「SEIKO」時計は、個人的に使用される場合はもとより、公共的な場所で使用される場合においても、世間一般の人々が普通に使用しまた接することができるものであって、決して、特殊な職業人や特定の年齢層の者のみが使用対象者となるものではない。
被請求人は、請求人が管理する建物・施設に被請求人の「SEIKO」時計が設置されていることも少なくないであろうと述べたが、このような建物・施設において、あるいは、被請求人の「SEIKO」時計が設置されていない建物・施設においても、請求人の従業員が「SEIKO」を表示したユニフォームを着用して本件各役務の業務を行えば、これらの役務の提供が、被請求人の子会社又は被請求人と何らかの関連を有する企業により行なわれていると誤認することは、疑う余地がないほど明白なことである。
請求人が登録を受けた役務商標の審判事件における異議決定の中で、審判合議体は、請求人が登録を受けた役務と被請求人の商品である時計との間には「およそ共通する要素を見出しえない」と結論しているが、請求人が管理する建物・施設に被請求人の「SEIKO」時計が設置されていることも少なくないし、また、このような設置の有無にかかわらず、このような場所で、請求人が「SEIKO」を表示したうえで役務を提供した場合には、被請求人の著名な商標「SEIKO」と請求人の「SEIKO」表示との間には、「SEIKO」を共通とする要素が存在するのであって、この点を看過した異議決定は、審理が十分に尽くされたとはいえないものであった。
(オ)商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力
被請求人の商品「時計」及び請求人の本件各役務の業務は、いずれも特別な知識又は能力を備えた者が取り扱うものではなく、ごく一般的な世人が使用する商品であり、また、ごく一般の世人が提供を受ける役務である。
そうであれば、請求人が管理する建物・施設においても、被請求人の「SEIKO」時計が設置されていることは少なくないし、また、このような設置の有無にかかわらず、一般世人の普通の注意力を持ってすれば、請求人による「SEIKO」を表示したうえでの役務の提供が、被請求人又は被請求人の関係会社によって提供されていると誤認されることは明らかであり、結局のところ、本件防護標章と、被請求人の「SEIKO」との間で、役務の出所につき混同を生じさせるおそれが高いものといわざるを得ないものである。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、「SEIKO」標章は、被請求人が時計について使用する著名商標であるのと同時に、被請求人及び被請求人の企業グルーを表わす著名なハウスマークであったものである。この事実は、2003(平15)年4月22日付けの「日経MJ」誌上に掲載されいる日経BPコンサルティングが実施した「ブランド・ジャパン2003」の調結果によっても裏付けられている(乙第83号証)。すなわち、同調査は、本件防護標章登録当時ではなく現時点でのものではあるが、これによれば、被請求人のブランド「SEIKO」は、総合ランキングが41位であり、さらに、イメージ別ランキングの「品質が優れている」部門で2位にランクされているのであり、「SEIKO」が、今日においても、被請求人の著名商標であると同時に、被請求人及び被請求人の企業グループを表わす著名なハウスマークであることを裏付けているものである。
したがって、本件防護標章は、請求人がその指定役務について使用した場合、需要者が、被請求人又は被請求人と組織的あるいは経済的に何らかの関係を有する者の業務であるかのように誤認し、その役務の需要者が役務の出所について混同を生ずるおそれがあることが明らかであるから、商標法第64条第1項の要件を備えているものである。また、本件防護標章は、本件使用商標と極めて酷似しているものであって、社会通念上において両者は同一性がある商標と認められるから、この点においても同法第64条第1項の要件を備えているものである。

第4 当審の判断
本件併合事件に関し、当事者間に利害関係について争いがないので本案に入って判断する。
1 原商標の周知著名性及び原商標が請求人の業務に係る役務と出所混同の生ずるおそれがあるかについて検討するに、被請求人の提出に係る各乙号証及び答弁の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア)被請求人は、時計について「SEIKO」の文字からなる標章を大正13年に使用開始して以来、今日まで「SEIKO」標章を継続使用していること(乙第1号証ないし同第5号証、同第11号証ないし同第42号証及び同66号証)。
(イ)「SEIKO」の標章を付した時計は、1964年第18回及び1992年第25回の夏季オリンピック大会(東京、スペイン)に、1972年第11回、1994年第17回及び1998年第18回の冬季オリンピック大会(札幌、ノルウェー、長野)に、1965年のレスリング世界選手権大会を初めとする各種国際競技大会に、それぞれ公式時計として採用されたこと(乙第1号証、同第2号証、同第63号証及び同第64号証)。
(ウ)被請求人は、平成元年4月1日〜同2年3月31日(第129期)に14,398百万円、平成2年4月1日〜同3年3月31日(第130期)に14,405百万円、平成3年4月1日〜同4年3月31日(第131期)に14,167百万円、平成8年4月1日〜同9年3月31日(第136期)に8,191百万円の宣伝広告販促費を投じてきており(乙第7号証ないし同第10号証)、現に、時計について「SEIKO」の標章を「日本経済新聞」(日本経済新聞社発行)、「朝日新聞」(朝日新聞社発行)、「讀賣新聞」(讀賣新聞社発行)の新聞に、「日経ビジネス」(日経BP社発行)、「AERA」(朝日新聞社発行)、「週刊文春」(文芸春秋発行)、「プレジデント」(プレジデント社発行)、「an・an」(マガジンハウス発行)等の雑誌等に宣伝広告を行っていること(乙第11号証ないし同第42号証)。
(エ)「SEIKO」標章は、AIPPI日本部会発行の「有名商標集」及び特許庁のホームページ「日本国周知・著名商標」に掲載されていること(乙第65号証、同第67号証及び同第68号証)。
(オ)被請求人の使用する標章(「SEIKO」又は「セイコー」と思われるが)は、リサーチ会社及び新聞社による有名企業のブランドイメージ調査において常に上位の評価を得ており、乙第75号証によれば、コーポレートブランドとしての「SEIKO」は、企業ブランドスコア・ランキングによると第10位にランキングされている(乙第69号証ないし同第76号証)。
(カ)被請求人は、時計以外の眼鏡、シェーバー、歯ブラシ、ミュージカルアクセサリー、コンピュータ、産業用ロボット等の商品及び建物の貸与等の役務についても「SEIKO」を商標として使用している。また、同人は、セイコーインスツルメンツ株式会社、セイコーエプソン株式会社、セイコーウオッチ販売株式会社、株式会社和光、セイコージュリー株式会社、株式会社セイコーオプティカルプロダクツ等の多くの関係会社を有していること(乙第1号証、同第2号証、同第6号証、同第43号証ないし同第62号証)。
以上の事実からすれば、「SEIKO」の文字からなる原商標は、新聞・雑誌等のマスメディアを通じて全国的に幅広い需要者層を対象として積極的に宣伝広告活動を今日まで継続的に行っていることが推認できる。加えて、所謂、東京オリンピック大会を初めとした国際的な競技大会の公式時計として採用され、競技内容が我が国はもとより各国にテレビ放送されるに伴い、「SEIKO」の標章を付した時計も視聴者の耳目に触れることは容易に推認できること等を総合勘案すれば、本件防護標章の登録出願時及び登録審決時には既に、時計に使用する商標として取引者、需要者間に広く認識されたものというべきである。
さらに、被請求人は、我が国における代表的な企業の一つであり、関係会社により企業グループを形成し、時計のみならず、眼鏡、シェーバー、歯ブラシ、産業用ロボット等の商品の製造・販売を初め、建物の貸与等の役務の提供も行うなど多角経営を行っていること、これら商品及び役務については、いずれも本件使用商標が使用されており、本件使用商標は被請求人及びその関係会社のいわゆるハウスマークとして認識されているといい得ること、商品「時計」は老若男女を問わず一般世人にとって身近なありふれた商品であり、本件防護標章の指定役務の提供を行う場面にも置かれる場合が決して少なくないものであって、該役務と全く関係がないとまでは断定できないことからすれば、本件防護標章の指定役務について他人である請求人が「SEIKO」の商標を使用する場合には、これに接する取引者、需要者は該役務が被請求人又は同人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかの如くその出所について混同を生ずるおそれがあるというのが相当である。
そして、このことは、本件使用商標を構成する「SEIKO」の文字が種々の語に通じ、独創性が乏しく、いわゆる造語によるものではないということによって、特に左右されるものではないというべきであるし、また、請求人が「SEIKO」の商標を総合ビルメンテナンス業の役務について使用する場合にも、同様にいえることである。
なお、請求人は、商品「時計」について本件使用商標の著名性を認めた上で、被請求人が使用の立証として提出した証拠における本件使用商標は本件防護標章と態様を異にするものであるから、原商標は、事実上使用されていないものであり、自己の業務に係る商品を表示する商標として需要者間に広く認識されているとはいえず、本件防護標章は商標法第64条の要件を充足していない旨主張している。
確かに、本件防護標章と本件使用商標とを子細に見比べれば、前者は、別掲(G)のとおり、肉太のゴシック体で表されているのに対し、後者は、別掲(H)のとおり、比較的細い明朝体で表されているという差異を有するものではある。
しかしながら、両者は、共にローマ字の大文字による同一の綴りからなり、「セイコー」の称呼を生ずるものであり、その差異は僅かなものであって、両者に接する取引者、需要者において必ずしも容易に区別し得るものではないというべきである。そして、本件使用商標が時計について使用されて広く需要者間に認識されていることは請求人も否定しないところであり、本件使用商標を含む「SEIKO」の標章が時計に使用する商標として広く需要者間に認識されていることは、前述のとおりである。
そうすると、商標法第64条に規定する防護標章の登録要件としての「登録商標が自己の業務に係る指定商品として需要者の間に広く認識されている」こと、すなわち登録商標の周知著名性を検討する場合、本件防護標章と本件使用商標の上記差異をもって両者を別異の標章とみるべきではないから、本件における登録商標の周知著名性の面からみるならば、本件防護標章と本件使用商標とは同一性を有するものとして取り扱うべきであって、原商標の指定商品「時計」に本件使用商標が使用され、それが周知著名になることにより、併せて原商標も著名性を有するに至ったものというべきである(東京高裁平成7年(行ケ)第88号、平成8年1月30日判決参照)。
2 以上のとおり、本件併合事件に係る本件防護標章は、商標法第64条第1項に規定する登録要件を具備しているものというべきであるから、同法第68条第4項において準用する同法第46第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 【別 掲】
(A)原商標(登録第175840号商標)
出願日:大正14年1月19日
設定登録日:大正14年12月2日
指定区分:第21類
指定商品:時計並其各部及附属品
(B)防護標章登録40号
出願日:平成4年9月30日
設定登録日:平成7年1月26日
指定区分:第35類
指定役務:広告,経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,財務書類の作成又は監査若しくは証明,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,書類の複製,速記,筆耕,文書又は磁気テ―プのファイリング,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライタ―・複写機及びワ―ドプロセッサの貸与
(C)防護標章登録42号
出願日:平成4年9月30日
設定登録日:平成7年7月27日
指定区分:第36類
指定役務:預金の受け入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引,有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引の媒介・取次ぎ又は代理,有価証券市場における有価証券の売買取引・有価証券指数等先物取引及び有価証券オプション取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理,外国有価証券市場における有価証券の売買取引及び外国市場証券先物取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理,有価証券の引受け,有価証券の売出し,有価証券の募集又は売出しの取扱い,株式市況に関する情報の提供,生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受け,損害保険契約の締結の代理,損害保険に係る損害の査定,損害保険の引受け,保険料率の算出,建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供,骨董品の評価,美術品の評価,宝玉の評価,当せん金付証票の発売,企業の信用に関する調査,税務相談,税務代理,慈善のための募金
(D)防護標章登録44号
出願日:平成4年9月30日
設定登録日:平成8年5月29日
指定区分:第39類
指定役務:鉄道による輸送,車両による輸送,船舶による輸送,航空機による輸送,貨物のこん包,貨物の輸送の媒介,船舶の貸与・売買又は運航の委託の媒介,船舶の引揚げ,水先案内,主催旅行の実施,旅行者の案内,旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く。)の代理・媒介又は取次ぎ,寄託を受けた物品の倉庫における保管,他人の携帯品の一時預かり,ガスの供給,電気の供給,水の供給,倉庫の提供,駐車場の提供,コンテナの貸与,パレットの貸与,自動車の貸与,船舶の貸与
(E)防護標章登録45号
出願日:平成4年9月30日
設定登録日:平成8年7月29日
指定区分:第37類
指定役務:建築一式工事,しゅんせつ工事,土木一式工事,舗装工事,石工事,ガラス工事,鋼構造物工事,左官工事,大工工事,タイル・れんが又はブロックの工事,建具工事,鉄筋工事,塗装工事,とび・土工又はコンクリ―トの工事,内装仕上工事,板金工事,防水工事,屋根工事,管工事,機械器具設置工事,さく井工事,電気工事,電気通信工事,熱絶縁工事,船舶の修理又は整備,船舶の建造,航空機の修理又は整備,自転車の修理,自動車の修理又は整備,鉄道車両の修理又は整備,二輪自動車の修理又は整備,映写機の修理又は保守,写真機械器具の修理又は保守,エレベ―タ―の修理又は保守,火災報知機の修理又は保守,事務用機械器具の修理又は保守,暖冷房装置の修理又は保守,バ―ナ―の修理又は保守,ボイラ―の修理又は保守,ポンプの修理又は保守,冷凍機械器具の修理又は保守,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスクその他の周辺機器を含む。)の修理又は保守,電話機の修理,土木機械器具の修理又は保守,ラジオ受信機又はテレビジョン受信機の修理,家具の修理,傘の修理,楽器の修理又は保守,金庫の修理又は保守,靴の修理,時計の修理又は保守,はさみ研ぎ及びほうちょう研ぎ,毛皮製品の手入れ又は修理,洗濯,被服のプレス,被服の修理,煙突の清掃,建築物の外壁の清掃,窓の清掃,床敷物の清掃,床磨き,し尿処理槽の清掃,浴槽又は浴槽がまの清掃,電話機の消毒,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものを除く。),土木機械器具の貸与,床洗浄機の貸与,モップの貸与
(F)防護標章登録46号
出願日:平成4年9月30日
設定登録日:平成8年7月29日
指定区分:第42類
指定役務:宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,美容,理容,入浴施設の提供,写真の撮影,オフセット印刷,グラビア印刷,スクリ―ン印刷,石版印刷,凸版印刷,気象情報の提供,求人情報の提供,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,一般廃棄物の収集及び処分,産業廃棄物の収集及び処分,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),建築物の設計,測量,地質の調査,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,登記又は供託に関する手続の代理,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,通訳,翻訳,施設の警備,身辺の警備,個人の身元又は行動に関する調査,あん摩・マッサ―ジ及び指圧,きゅう,柔道整復,はり,医業,健康診断,歯科医業,調剤,栄養の指導,家畜の診療,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,編機の貸与,ミシンの貸与,衣服の貸与,植木の貸与,計測器の貸与,コンバインの貸与,祭壇の貸与,自動販売機の貸与,消火器の貸与,超音波診断装置の貸与,展示施設の貸与,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テ―プその他の周辺機器を含む。)の貸与,布団の貸与,ル―ムク―ラ―の貸与
(G)本件防護標章


(H)本件使用商標

審理終結日 2004-02-16 
結審通知日 2004-02-19 
審決日 2004-03-02 
出願番号 商願平4-265269 
審決分類 T 1 11・ 82- Y (03536373942)
T 1 11・ 81- Y (03536373942)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須藤 昌彦佐藤 敏樹 
特許庁審判長 佐藤 正雄
特許庁審判官 宮川 久成
山本 良廣
登録日 1995-01-26 
登録番号 商標登録第175840号(T175840) 
商標の称呼 セイコー 
代理人 水谷 直樹 
代理人 中山 清 
代理人 辻本 希世士 
代理人 辻本 一義 
代理人 神吉 出 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ