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審決分類 審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z30
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z30
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z30
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z30
管理番号 1088378 
審判番号 無効2001-35359 
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-01-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-08-15 
確定日 2003-11-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第4409662号商標の商標登録無効審判事件について平成14年6月27日にした審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決[平成14年(行ケ)第377号平成15年7月3日判決言渡]があったので、更に審理の上、次のとおり審決する。 
結論 登録第4409662号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4409662号商標(以下、「本件商標」という。)は、平成11年5月14日に登録出願、「ふぐの子」の文字を標準文字で横書きしてなり、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、同12年8月18日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
請求人引用に係る登録第4381017号商標(以下、「引用A商標」という。)は、「子ふぐ」の文字を横書きしてなり、平成11年4月21日に登録出願、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、同12年5月12日に設定登録されたものである。同じく、登録第3063820号商標(以下、「引用B商標」という。)は、後掲に示すとおりの構成よりなり、平成4年8月26日に登録出願、第30類「茶,みそ,穀物の加工品,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと」を指定商品として、同7年7月31日に設定登録されたものである。
また、商品「最中」について、請求人が長年使用してきた結果、需要者に広く知られるに至ったとする商標(以下、「使用商標」という。)は、「河豚最中」の文字よりなるものである。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証(枝番号を含む。)を提出した。
本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。以下にその理由を述べる。
1 本件商標と引用A及びB商標との類否について
(1)称呼について
本件商標から生じる「フグ」の称呼と、引用A及びB商標から生じる「フグ」の称呼とは、相互に同一称呼であり、本件商標と引用A及びB商標とは、称呼上類似する。
本件商標及び引用A商標から「フグ」のみの称呼を抽出する点については、本件商標及び引用A商標が平仮名文字と漢字を横書きした態様からなるため、その態様から一連の称呼「フグノコ」又は「コフグ」のみならず、平仮名部分から「フグ」の称呼をも生じることがあるからである。
特に、「〜の子」又は「子〜」の態様で「〜の子供」以外の特定の観念を生じない場合には、上位概念として「〜」のみの称呼を用いて取り引きする場合も少なくない。
さらに、本件商標及び引用A商標の指定商品である商品「菓子・パン」を取り扱う業界において、「子」の文字は一般に、「小さい」「可愛い」程度の意味で使用される場合が多く、当該指定商品との関係で自他商品の識別力が比較的弱い語と考えられるから、「子」の部分以外の部分を主要部として「ふぐ」の部分から称呼を生じると考えることが取引事情を考慮した妥当な判断と言える。
また、引用B商標は、河豚を図案化してなる図形商標であり、「フグ」の称呼を生じ、「河豚」程度の観念を想起させる語と認められる。
以上より、本件商標と引用A及びB商標とは称呼上類似する商標である。
(2)観念について
本件商標から生じる「河豚の子供」の観念と、引用A商標から生じる「河豚の子供」の観念とは同一であり、両者は観念上類似する。
本件商標及び引用A商標からそれぞれ「河豚の子供」程度の観念を生じる点は争いがないと考えられる。これは、「ふぐの子」であれ「子ふぐ」であれ「ふぐの子供」を表現していることにはかわりはない。
また、本件商標及び引用A商標はともに「河豚の子供」程度の観念を生じるが、同時に河豚の子供の上位概念として単に「河豚」のみの観念をも生じるものと考えられる。即ち、本件商標及び引用A商標の各指定商品である商品「菓子・パン」を取り扱う業界において、「子」の文字は「小さい、かわいい」程度の意味を生じる語として普通に使用される場合が多く、当該指定商品との関係で自他商品の識別力が弱い部分であるから、「子」の文字以外の主要部分である「ふぐ」の部分からも観念を生じるものである。
よって、本件商標と引用A及びB商標とは、観念上類似する商標である。
以上述べたように、本件商標と引用A及びB商標とは、その称呼・観念において相互に類似し、その指定商品も互いに共通するため、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
2 本件商標と使用商標との類否について
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
本件商標と請求人の使用商標「河豚最中」とは、同一の称呼・観念を生じる。本件商標と使用商標とは「フグ」の称呼を同じくする称呼上類似する商標であり、また、本件商標から生じる「河豚」の観念と使用商標から生じる「河豚」の観念とは観念上同一であり、両者は観念上類似する商標である。
即ち、本件商標は「河豚の子供」程度の観念を生じるが同時に「河豚の子供」の上位概念として単に「河豚」のみの観念をも生じるものである。
そして、本件商標及び使用商標の指定商品である商品「菓子・パン」を取り扱う業界において、「子」の文字は前述のとおり、当該指定商品との関係で自他商品の識別力が弱い語といえるから、本件商標は「子」の文字以外の主要部分である「ふぐ」の部分からも観念を生じるものである。
一方、使用商標から「河豚」の観念を生じる点については争いはないと考えられる。
したがって、本件商標と使用商標とは、観念上類似する商標である。
以上のとおり、本件商標と使用商標とは、その称呼・観念において相互に類似し、その指定商品も共通するため、本件商標は、商標法第4条第1項第10号にいう類似の要件を具備しているものである。
(2)請求人の使用商標の周知性について
請求人である有限会社梅園は、昭和29年頃から商品「最中」について商標「河豚最中」の使用を開始し、現在まで継続して使用している(甲第7号証及び甲第8号証)。昭和42年以降は製品のカタログが保管されているので証拠として提出する(甲第9号証?1ないし甲第9号証-33)。
また、商標「河豚最中」を使用した商品「最中」は、昭和31年の第1回和菓子工芸展において農林大臣賞を授賞している(甲第4号証-1ないし甲第4号証-3)。更に、地元の百貨店(井筒屋)の1999年お中元のカタログ(甲第6号証-2)にも掲載されており、1997年には、全国版の雑誌(キッチン)に、おいしい和菓子取り寄せ便の商品の一つとして、北九州地方で1件のみ紹介されている(甲第5号証-2、同号証-3)。
よって、かかる事情から、少なくとも北九州地方で「河豚最中」と言えば、請求人の業務に係る商品「最中」を意味する事は容易に推認される。
この点については、先の異議申立の決定中においても、請求人の使用商標の周知性が認められている(甲第10号証)。
したがって、使用商標「河豚最中」は、請求人の商品「最中」を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標、即ち、周知商標である。
以上述べたように、本件商標は、請求人が長年商品「最中」について使用するいわゆる周知商標と類似しており、その指定商品も使用に係る商品と同一又は類似と認められるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
3 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当について
前述したとおり、使用商標「河豚最中」は、請求人の商品「最中」を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標、即ち、周知・著名商標であると認められる。
更に、商標法第4条第1項第15号にいういわゆる周知・著名性は、一般に、全国的であることを要せず、一地方であってもよいと考えられている。
特に、「菓子」のように地方の名物となる商品についてその傾向はより顕著であると言えるため、請求人の使用商標は、商標法第4条第1項第15号で要求されている周知・著名性を有していると言える。
一方、この地方で「河豚」又は「ふぐ」の名を冠して販売される「最中」は、請求人の販売に係るもの以外では、本件商標権者の販売に係る小量の「最中」の他には存在していない。即ち、下関・門司は、ふぐの名産品が多く、特にお菓子で「ふぐ」の文字の入った最中は請求人の業務に係る商品として広く知られるに至っている。この状況下、本件商標権者が本件商標をその指定商品中の商品「最中」に使用したため、これが請求人の業務に係る「最中」であるかの如く、その「最中」について個別具体的に出所の混同を生じている。実際、請求人と本件商標権利者とは、極めて限られた地区でお菓子を製造販売している同業者であることから、門司の菓子組合の組合長を通じて、被請求人に対し「河豚の最中」の使用をやめるよう申し入れてきたが未だ誠意ある回答は得られていない。
かかる事情から、本件商標を付した商品「最中」が使用される場合には、具体的な出所の混同の生じるおそれがあると言わざるをえない。
以上、本件商標は、請求人が長年商品「最中」について使用するいわゆる周知・著名商標と類似するものであるから、商標権者が本件商標を商品「最中」に使用した場合には具体的に出所の混同を生じるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
4 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号の該当性について
a 観念について
被請求人がいう、「子供の河豚」と「河豚の子供」とに観念上の差異があるとする主張は採用されるべきでない。いずれも、「親河豚から生まれた河豚の幼魚」を示す言葉である点で同様の観念を有していると考えられる。
被請求人はその答弁書において、引用A商標からは「河豚」のみの観念を生じることは認めているものの、「本件商標からは、その態様上『の』を有することから、『河豚』のみの観念は生じない。」と反論している。
しかし、前述の如く商標の類否判断は、直接的に対比して判断するのではなく、時と所を異にして両者が生じる観念を対比するため、対比する観念の些細な相違は類否の対象とならず、両者から抽出される「より中心的・印象的な観念」において対比するのが自然である。してみると、本件商標については、「河豚の子供」も「河豚」には変わりないこと、及び商品「菓子」について、「〜の子供」の態様からは、しはしば「〜」のみの観念を想起すること等の事情を考慮すると、「河豚の子供」の上位概念として「河豚」のみの観念をも生じるとすることが一般的であると考えられる。よって、両商標は「河豚」の観念を共通にする観念上、類似の商標である。
b 称呼について
被請求人は、本件商標から「フグ」のみの称呼を抽出することは妥当でないと主張している。しかしながら、請求人は、「ふぐ」の文字を含んでいれば「フグ」の称呼を抽出すべきであると主張しているわけではない。請求人は、商標の構成から特別な場合には、商標「ふぐ(河豚)〜」、商標「〜ふぐ(河豚)」等の態様を有する商標から「フグ」のみの称呼を生じて取り引きされる場合もあると主張しているにすぎない。
被請求人の述べたような取引の実状、例えば、商品「最中」について本件商標「ふぐの子」が使用されていた場合、これに接した需要者が時と所を異にして「フグノコ」なる称呼のみを想起するとは考え難い。
もちろん、「フグノコ」と言う一連の称呼を記憶している場合があることを否定するものではないが、実際には、「フグ」の最中として記憶している方が一般的であるといえので、本件商標から「フグ」のみの称呼をも生じると考えられることから、本件商標と引用A及びB商標とは称呼上類似する商標である。
(2)商標法第4条第1項第10号の該当性について
a 請求書で述べたように、本件商標と使用商標とは、「河豚」の観念を共通にしているので、両者は観念上、類似する商標であり、また、本件商標から「フグ」のみの称呼をも生じるものであるから、本件商標と使用商標とは称呼上類似する商標である。
b 周知性について
まず、請求人の提出したカタログにつき、被請求人からカタログの発行部数が明示されていない旨の指摘があったので、門司地区の大手新聞の折り込みチラシとして配布した枚数が確認できたから、これを証拠として提出する(甲第11号証?1ないし3)。これにより、提出したカタログが4万枚前後の量で長年にわたって定期的に配布されていることがわかる。この事実のみを持ってしても、使用商標が北九州門司地区での周知性を獲得している蓋然性が高いことが推定される。
c 混同の可能性
この項で、被請求人は、「商標が称呼・観念上類似しないこと、及び、仮に『河豚』の部分のみで称呼すると取り引きできなくなってしまう。等…」と主張して、本件商標と使用商標とは混同を生じないと結論付けている。
しかし、請求人は、本件商標を例えば「最中」に使用した場合、「河豚の最中」として取り引きされる虞があり、又、実際に混同を生じていることから、被請求人にその「河豚の最中」の使用の中止を訴えていたものである。
以上述べたように、本件商標は、請求人が長年商品「最中」について使用するいわゆる周知商標と類似しており、その指定商品も使用に係る商品と同一又は類似と認められるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号の該当性について
上記(2)の周知性で述べた通り、請求人の使用商標は、少なくとも平成11年以降現在に至るまで、九州地区では商品「最中」については、周知・著名と考えられるため、本件商標を商品「最中」に使用した場合、出所の混同を生じる虞がある。
5 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に該当することは明らかであるから、商標法第46条第1項第1号によりその登録は無効とされるべきものである。
よって、請求の趣旨の通りの審決を求めるものである。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第37号証(枝番号を含む。)を提出した。
本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に該当するものではないから、請求人の主張事実を認めることはできない。
1 商標法第4条第1項第11号について
請求人は、本件商標及び先願に係る引用A商標「子ふぐ」、引用B商標「抽象的図形」について、『「〜の子」又は「子〜」の態様で「〜の子供」以外の特定の観念を生じない場合には、上位概念として「〜」のみの称呼を用いて取引する場合も少なくないと考えられる。更に、「子」の文字は一般に「小さい」「可愛い」程度の意味で使用される場合が多く、「子」の部分以外の部分を主要部として「ふぐ」の部分から称呼を生じると考えることが取引事情を考慮した妥当な判断と言える。』と主張している。
しかしながら、請求人の主張のように「子」の文字が、下位概念として認識され、省略され、「フグ」のみの称呼が生じ、取引に資されることは、以下の理由によりないものと考えられる。
まず、被請求人及び請求人の店舗の所在地である北九州市門司区は、関門海峡を挟んで対岸に位置する山口県下関市と共に、古くから「関門地区」とよばれ、河豚の水揚げが多い地域である。土産物にも「河豚」にちなんだ商品が数多く店頭に並び、本件商標及び引用A及びB商標の指定商品である菓子類でも、商品名に「ふぐ」の文字を含むものが様々に存在する(乙第1号証ないし同第21号証)。
また、町おこしの一つとして、「門司港レトロ」と題し、門司区の歴史や名産物や伝統行事を紹介するなど地域活性化に努めているが(乙第22号証)、その土産物売り場の随所で「ふぐ」の文字を商標として使用している菓子類が数多く売られており、「最中」についても随分以前から公然と種々使用されている。請求人も昭和62年より使用をしている(乙第36号証)。
以上の事実から鑑みれば、各々の商標中「ふぐ」部分のみを抽出し称呼して取引することは、あえて需要者、取引者の混同を招く原因となるものといえ、ひいては菓子業界の流通秩序をも混乱させるものである。しかし、「ふぐ」の文字を含む商品が多数あるという理由で取引市場が混乱し、需要者や取引者から苦情があったなどということは現在のところ聞き及んでおらず、このことは、市場において商標中「フグ」部分のみが抽出され称呼されているのではなく商標全体をもって判断され流通しているためであるとするのが相当である。
また、特に本件指定商品「菓子」の性質からすれば、一般に取引者や需要者はその味や品質や外観(形、色合い等)を吟味して商品購入の判断材料としているのが常であり、その際、それらと商品名(商標)とを併せて商品を識別し、購入しているとみる方が自然である。
したがって、このような取引の実情からすると、本件商標は「ふぐの子」と認識され、引用A及びB商標又は使用商標とは類似しない別異の商品として取引されていることは明らかである。
2 商標法第4条第1項第10号について
請求人は使用商標「河豚最中」について『北九州地方で請求人の商品「最中」を表示するものとして需要者に広く知られるに至っている』と周知性を主張している。周知性の判断は、取引の実情と、需要者・取引者がその商品の出所を混同するか否かについて慎重になされるべきであり、その点を充分に考慮した上で、本件商標と使用商標の「類否性」及び「周知性」について判断されるべきである。
(1)類否性について
a 称呼について
本件商標は、平仮名「ふぐ」の文字と漢字「子」の文字を、所属・所有を表す連体助詞「の」でまとまりよく連結させ、4音と短い音数で語呂もよく「フグノコ」の称呼を生じるものである。一方、使用商標は漢字で「河豚最中」と同書・同大・同間隔で書され、「フグ」若しくは「フグモナカ」の称呼を生じるものである。よって、請求人が述べるように、「フグ」のみの称呼をも生じることはないものである。
これに対し、使用商標は商標中「最中」部分が商品の普通名称であるため「河豚」部分が商標の要部となり、「フグ」若しくは「フグモナカ」の称呼を生じるものである。
してみれば、本件商標と使用商標とはその音構成及び構成音数において、明確な差異を有し、充分に聴別できるものである。
b 観念について
本件商標の態様から、「親河豚から生まれた子供の河豚、河豚の子」という観念を生じ、使用商標からは単に「河豚」という観念を生じる。
本件商標中「の」の語は、前半が後半の物事の限定であることを表わす連体助詞であり、前半の語「ふぐ」が後半の語「子」について、どういう「子」なのかを示している。従って、「ふぐ」と「子」を各々個別に判断したり、「ふぐ」部分のみをもって称呼・観念することはなく、本件商標の全体の構成をもって観念するのが自然である。
よって、両者は観念において明確な差異を有し、観念上非類似の商標である。このことは、乙第29号証で示す異議申立に対する審理においても認定されているところである。
c 外観について
本件商標と使用商標の外観については、その態様より非類似であること明らかであり、両商標は外観上明確に識別できるものである。
(2)周知性について
請求人が業務に係る商品「最中」を製造・販売する店舗は現在4店舗あり、内3店舗は北九州市門司区に所在する。平成11年に北九州市小倉北区に1店舗を出店したが、それまでは略門司区内を中心に取引が行なわれていたものと考えられ、使用商標が本件商標の出願時までに北九州市全体で周知となったとは認め難いものである。また、請求人は、周知性の立証の証拠方法として、昭和42年以降の広告を提出しているが、商品カタログの印刷部数が明記されていない。加えて、北九州市は7区からなる市であるが、各区によって需要者層が異なる為、仮に限定された区内で一部の需要者層に知られているとしても、それだけで広く一般に知られていると主張しても周知とは言い難い。そして、請求人は、商品カタログの配布された区域については言及しておらず、提出書類のみをもって周知性を証明するものではない。
してみれば、北九州市において使用商標が周知であるとする請求人の主張は認められない。
(3)混同の可能性について
本件商標と使用商標の混同の可能性を見るにあたり、北九州市門司区で「河豚」がどのような存在であるのかを検討する。被請求人及び請求人の店舗の所在地である北九州市門司区は、前記したとおり、関門海峡を挟んで対岸に位置する山口県下関市と併せて、古くより「関門地区」と呼ばれ、河豚の水揚げが盛んな地域である。
被請求人及び請求人の業務に係る商品「菓子」においても、商品名中に「ふぐ」の文字を有するものが数多く存在し、それらは場所を同一にして販売されている。中には「河豚の菓子」としてまとめて陳列されているものもある。何処の観光地においてもそうであるように、需要者は下関・門司区の名物である「河豚」の商品であることを前提に、その中から嗜好に合った商品を購入するものであるから、当然に「河豚」又は「ふぐ」以外の部分にも注意を払うといえ、単に「ふぐ」部分のみを抽出して認識されることはない。
加えて、菓子という商品の性質上、商標のみならず、その外観も吟味され取引されるものである。本件商標と使用商標の商品の外観を比較するに、本件商標は「河豚」を立体的にかたどった皮で餡などを包んだ最中(乙第32号証)、饅頭(乙第33号証)、汁粉及びグリーンティー(乙第34号証)であり、商品にかけたセロファンの上から、河豚の左右目の部分に目型のシールを付している(尚、乙第32号証-3に示されている「柳月堂」とは、被請求人の屋号である)。これに対し、使用商標は、引用B商標をかたどった最中の皮で餡を挟んだものである(乙第35号証)。菓子を購入に来た需要者は、これら商品の外観と商品名である商標とを併せて吟味して取引に及ぶと考えられ、尚更、両者は混同を生じるものではないと思われる。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号には該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号について
請求人は『本件商標は、請求人の周知・著名な商標「河豚最中」中の「ふぐ」の文字を含んでいるため、本件商標を「最中」に使用すると請求人の業務に係る商品と出所の混同を生じる虞がある』と著名性を主張している。
しかしながら、前述した理由により、本件商標と使用商標は非類似の商標である上に、使用商標の周知性は認められないものであるから、需要者・取引者がその商品の出所について混同することはない。
請求人が挙げる甲第9号証は、「河豚最中」の表示を使用している事実が認められるとしても、両商標の書体の差異、及び本件商標中「の」の語が、前後の語を関連付ける連体助詞であるという文法上の特質から、取引の実情等から明らかなように、本件商標中「ふぐ」部分のみの抽出して、その称呼・観念をもって取引され、混同を生じさせることを立証するものではない。
また、請求人は本来「梅園河豚」なる商標を有しており、指定商品中、最中について使用する際、その普通名称である「最中」の文字を「梅園河豚」に続けて表記し広告・看板に使用している。これは、請求人の証拠(甲第9号証?1ないし4、同第9号証-12ないし32)を見ても明らかである。
したがって、需要者、取引者は『請求人の店名「梅園」の販売する「梅園河豚」の「最中」』を認識していたものとするのが相当である。現在配布されている広告にも「梅園河豚最中」と表記され、百貨店や土産物売場に他の商品と陳列されているものは全て「梅園河豚最中」と明記されている。
かくの如く店名「梅園」を冠することで、商品の最中の出所を明確に識別する効果があるといえるから、例え同一の商品「最中」に「ふぐ」を冠してなる商標を使用していたとしても、「梅園河豚」と他の商標とを識別し得ることから、出所混同を生じず、また生じさせることはない。
次に、被請求人は、昭和39年8月18日に本件商標と同一の商標「ふぐの子」(乙第36号証)を出願し、商標登録第748368号として登録を受け、不正競争の目的なく製造・販売してきたものである。その後、昭和62年にその権利の更新を失念し、該登録商標は一度は失効したが、平成11年5月14日に再び本件商標を出願して、登録となったものである。
してみれば、使用商標が、商品「最中」について需要者に広く認識されているとしても、本件商標は使用商標と非類似の別異の商標である以上、これをその指定商品に使用しても、使用商標を想起ないし連想させるものとは認め難く、商品の出所について混同を生ずるおそれはないものといえる。
よって、請求人の使用商標は、著名な商標とはいえないものである以上、商標法第4条第1項第15号には該当しないものであり、かつ、本件商標とは非類似の上に取引の実情から混同を生じる虞もないものである。
4 以上述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号には該当せず、従って商標法第46条第1項には該当しないものであるから、本件無効審判には理由がないとの審決を求めるものである。

第5 当審の判断
本件商標は、その構成文字に相応して「河豚(ふぐ)の子」の観念を生じ、引用A商標は、その構成文字に相応して「こどもの河豚(ふぐ)、小さい河豚」の観念を生じることは、明らかである。両商標は、その観念において、ほぼ同一であるといい得る程度によく似ているというべきである。
本件商標は、その構成文字に相応して「フグノコ」の称呼を生じ、引用A商標は、その構成文字に相応して「コフグ」の称呼を生じることは、明らかである。
両商標の上記各称呼は、「フ」、「グ」、「コ」の3音において共通しており、「ノ」の音の有無と「コ」の音の位置(語尾か語頭か)において異なるにすぎない。「フグ」は「河豚」を、「コ」は「子」を意味する語であり、「ノ」は「河豚」と「子」との関係を示す助詞であることから、実質的には上記各称呼は、「河豚」を意味する語と「子」を意味する語の語順を入れ替えたにすぎないものであるということができる。
上記対比の結果によれば、本件商標と引用A商標とは、その称呼において相当によく似ているというべきである。
称呼について述べた上記のことは、外観についてもほぼ同様に当てはまるということができる。
以上のとおり、本件商標と引用A商標とは、観念においてほぼ同一であるといい得る程度によく似ており、称呼・外観においても相当によく似ているということができる。
両商標は、全体として、商標法第4条第1項第11号にいう意味で類似するというべきである。
そして、本件商標の指定商品は、引用A商標の指定商品に包含されているものである。
したがって、本件商標は、請求人が主張するその余の理由について論及するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 引用B商標


審理終結日 2002-06-07 
結審通知日 2002-06-12 
審決日 2002-06-27 
出願番号 商願平11-42504 
審決分類 T 1 11・ 25- Z (Z30)
T 1 11・ 271- Z (Z30)
T 1 11・ 26- Z (Z30)
T 1 11・ 26- Z (Z30)
最終処分 成立  
特許庁審判長 田辺 秀三
特許庁審判官 井岡 賢一
柳原 雪身
登録日 2000-08-18 
登録番号 商標登録第4409662号(T4409662) 
商標の称呼 フグノコ 
代理人 榎本 一郎 
代理人 鈴木 正次 
代理人 涌井 謙一 

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