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審決分類 審判 全部無効  無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 027
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 027
管理番号 1083544 
審判番号 無効2002-35129 
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-04-08 
確定日 2003-08-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第4025881号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4025881号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4025881号商標(以下「本件商標」という。)は、平成7年6月15日に登録出願され、別掲のとおりの構成よりなり、第27類「洗い場用マット,壁紙」を指定商品として、同9年7月11日に設定登録されたものである。

2 請求人の引用する登録商標
請求人は、本件商標の登録無効の理由として下記の登録商標を引用しており、いずれも現に有効に存続している。
(ア)昭和49年8月20日に登録出願され、「VALENTINO」の文字と「ヴァレンティノ」の文字とを二段に横書きしてなり、第19類「台所用品(電気機械器具、手動利器及び手動工具に属するものを除く)日用品(他の類に属するものを除く)」を指定商品として、同52年10月12日に設定登録された登録第1304792号商標(以下「引用A商標」という。)
(イ)昭和49年10月1日に登録出願され、「VALENTINO GARAVANI」の文字を横書きしてなり、第19類「台所用品(電気機械器具、手動利器及び手動工具に属するものを除く)日用品(他の類に属するものを除く)」を指定商品として、同52年6月14日に設定登録された登録第1276291号商標(以下「引用B商標」という。)
(ウ)昭和49年8月20日に登録出願され、「VALENTINO」の文字と「ヴァレンティノ」の文字とを二段に横書きしてなり、第25類「紙類、文房具類」を指定商品として、同52年12月9日に設定登録された登録第1315877号商標(以下「引用C商標」という。)
(エ)昭和58年12月8日に登録出願され、「VALENTINO GARAVANI」の文字を横書きしてなり、第25類「紙類、文房具類」を指定商品として、平成1年4月28日に設定登録された登録第2128580号商標(以下「引用D商標」という。)
(オ)昭和43年6月5日に登録出願され、「VALENTINO」の文字を横書きしてなり、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同45年4月8日に設定登録された登録第852071号商標(以下「引用E商標」という。)
(カ)昭和49年10月1日に登録出願され、「VALENTINO GARAVANI」の文字を横書きしてなり、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同55年4月30日に設定登録された登録第1415314号商標(以下「引用F商標」という。)

3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を次のとおり述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第62号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第8号について
審判請求人は、イタリアの服飾デザイナー「VALENTINO GARAVANI」(ヴァレンティノ・ガラヴァー二)氏の同意を得て、同氏のデザインに係る各種の商品を製作、販売しており、「VALENTINO GARAVANI」あるいは「VALENTINO」の欧文字からなるそれぞれの商標を各種商品について使用している者であるところ、上記の「VALENTINO GARAYANI」(ヴァレンティノ・ガラヴァー二)氏の氏名は単に「VALENTINO」「ヴァレンティノ」と略称されており、この略称も本件商標の登録出願の日前より著名なものとなっているところである。
すなわち、「VALENTINO GARAVANI」(ヴァレンティノ・ガラヴァー二)は、1932年イタリア国ボグヘラで誕生、17歳の時パリに行き「パリ洋裁学院」でデザインの勉強を開始し、その後フランスの有名なデザイナー「ジーン・デシス、ギ・ラ・ロシュ」の助手として働き、1959年ローマで自分のファッションハウスを開設した。1967年にはデザイナーとして最も栄誉ある賞といわれる「ファッションオスカー(Fashion Oscar)を受賞し、ライフ誌、ニューヨークタイムズ誌、ニューズウィーク誌など著名な新聞、雑誌に同氏の作品が掲載された。これ以来同氏は、イタリア・ファッションの第1人者としての地位を確立し、フランスのサンローランなどと並んで世界三大デザイナーとして知られている。この「ファッションオスカー」は無彩色である白を基調にまとめた「白のコレクション」に与えられたものである。その後も同氏の作品は無地の服を得意とし、大胆な「白」と「素材」を特徴とし、その服飾品は芸術に値すると賞賛されており、その顧客にはレオーネ・イタリア大統領夫人、グレース・モナコ王妃、エリザベス・テーラー、オードリー・ヘップバーンなどの著名人も多い。同氏のデザイン活動は婦人用、紳士用衣服を中心にネクタイ・シャツ・ハンカチ・マフラー・ショール・ブラウスなどの衣料用小物、バンド・ベルト・ネックレス・ペンダントなどの装身具、バッグ・さいふ・名刺入れその他のかばん類、その他サングラス、傘、スリッパなどの小物からインテリア装飾にも及んでいる。
我が国においても、ヴァレンティノ・ガラヴァー二の名前は、1967年(昭和42年)のファッションオスカー受賞以来知られるようになり、その作品はVogue(ヴォーグ)誌などにより継続的に日本国内にも紹介されている。昭和49年には三井物産株式会社(千代田区大手町1ー2ー1)の出資により同氏の日本及び極東地区総代理店として株式会社ヴァレンティノヴティックジャパンが設立され、ヴァレンティノ製品を輸入、販売するに至り、同氏の作品は我が国のファッション雑誌にも数多く掲載されるようになり、同氏は我が国においても著名なデザイナーとして一層注目されるに至っている。
以上のとおり、ヴァレンティノ・ガラヴァーニは世界のトップデザイナーとして本件商標が出願された当時には、既に我が国においても著名であった。同氏の名前は「VALENTINO GARAVANI」「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」とフルネームをもって紹介されることが多いが、同時に新聞、雑誌の記事や見出し中には、単に「VALENTINO」「ヴァレンティノ」と略称されてとりあげられたことの多いことは甲第7号証の1ないし同第7号証の32及び同第8号証、同第9号証及び同第10号証(審決謄本写し)をはじめとして、甲第13号証の2、同第15号証の2、同第15号証の3、同第16号証の2、同第22号証の2、同第25号証の3、同第30号証の2、同第30号証の3、同第30号証の5、同第48号証(報知新聞)によっても明らかである。
しかるところ、本件商標は、その構成が甲第1号証の1に示すとおりのものであって、大きく二段に横書きされた「Valentino」「Coupeau」の文字の上段部分である「Valentino」の文字が「ヴァレンティノ」と称呼されるものであることは明らかであるから、本件商標は、「VALENTINO GARAVANI」(ヴァレンティノ・ガラヴァー二)氏の氏名の著名な略称を含む商標であり、その者(他人)の承諾を得ずに登録出願されたことは明らかである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号の規定に違反してなされたものであるから無効とされるべきである。
(2)商標法第4条第1項11号について
本件商標と引用A、B、C、D商標とを比較検討するに、本件商標は、その構成が甲第1号証の1に示すとおりのものであって、「Valentino Coupeau」の欧文字は、全体が一つの語として知られているものではなく、その全体を称呼するときは「ヴァレンティノクーポー」の9音にも及ぶ冗長なものとなるばかりでなく「Valentino」の文字と「Coupeau」の文字とが上下二段に表示されていることもあって、「ヴァレンティノ」と「クーポー」とがそれぞれ段落をもって称呼されるものであり、しかも、上記のデザイナー「VALENTINO GARAVANI」(ヴァレンティノ・ガラヴァー二)氏の氏名が「VALENTINO」(ヴァレンティノ)と略称されて著名なものとなっていることとも相俟って、これに接する取引者、需要者に親しまれている「VALENTINO」の文字に相当する「ヴァレンティノ」の称呼をもって、取引に当たる場合が決して少なくないものとみるのが簡易迅速を尊ぶ取引の経験則に照らして極めて自然である。
したがって、本件商標は、「ヴァレンティノ」の称呼をも生ずるものといわざるを得ない。
一方、引用商標は、引用A商標ないし引用D商標が何れもその指定商品に使用された結果、全世界に著名なものとなっていることは甲第9号証及び甲第10号証(審決謄本写し)をはじめとして、同第62号証までの書証によっても明らかなところであって、引用A商標及び引用C商標は、「VALENTINO」「ヴァレンティノ」の文字よりなるものであり、その構成上「ヴァレンティノ」の称呼を生ずるものであることは明らかである。
また、引用B商標及び引用D商標は「VALENTINO GARAVANI」の文字を書してなるものであるところ、その全体を称呼するときは「ヴァレンティノガラヴァ一二」の称呼を生ずるが、この称呼は冗長なものであるので、上記デザイナー「VALENTINO GARAVANI」(ヴァレンティノ・ガラヴァー二)氏の氏名が「VALENTINO」(ヴァレンティノ)と略称されて著名なものとなっていることとも相挨って、引用B商標及び引用D商標は、その構成文字中、前半の「VALENTINO」の文字に相応する「ヴァレンティノ」の称呼をもって取引に資されている場合も決して少なくないのが実情である。すなわち、引用B商標及び引用D商標は、何れも「ヴァレンティノ」の称呼をも生ずるものであるといわざるを得ない。
してみると、本件商標は、引用A商標ないし引用D商標と「ヴァレンティノ」の称呼を共通にする類似の商標であり、また、本件商標の指定商品は各引用商標のそれと抵触するものであることは明らかである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
審判請求人は、上記の引用A商標ないし引用D商標の指定商品以外の商品についても、引用E商標及び引用F商標をはじめ多数の登録商標を使用している。
しかして、審判請求人提出の甲第9号証及び同第10号証(審決謄本写し)ないし同第62号証によって、引用E商標は、婦人服、紳士服、ネクタイ等の被服について使用されていること、各引用商標も本件商標の登録出願の日前より全世界に著名なものとなっていることは、明らかである。
そして、本件商標と引用A商標ないし引用D商標がその称呼を共通にする類似する商標であることは上述のとおりであるから、同様の理由により、本件商標と引用E商標及び引用F商標とは、類似する商標である。また、本件商標の指定商品と各引用商標が使用されている上記の商品は、何れも日用品や服飾品の範疇に属する密接な関係にある商品である。
したがって、本件商標は、これを商標権者がその指定商品に使用した場合、その商品があたかも審判請求人の製造、販売等の業務に係る商品であるか又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係にある者、すなわち姉妹会社等の関係にある者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ぜしめるおそれがあるものである。

4 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は審判請求人の負担とする。との審決を求める。」と答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第20号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)著名性に対する反論
(ア)まず、甲第2号証の1、2ないし甲第6号証は、引用A商標ないし引用F商標を掲載した商標公報であって、これを以てしては商標公報に掲載された引用商標であるVALENTINO GARAVANI並びにVALENTINOの商標が著名であるとすることはできない。
(イ)審判請求人は、甲第8号証の1、2ないし甲第12号証の1〜4を以て、引用商標であるVALENTINO GARAVANIの著名性、並びに、VALENTINOの文字が著名であると言うVALENTINO GARAVANIの著名な略称でもあることを立証しようとしているが、前記書証を以て、前記事項を立証することはできない。
なぜなら、(a)Valentinoの名称はイタリアでは男子の名を表す名称としてよく使われている名称である。これを明らかにするため乙第1号証に示す辞典を提出する。また、(b)VALENTINO GARAVANIの表示中のVALENTINOの表示は著名な略称であるとする前記甲第8号証の1、2ないし甲第12号証の1〜4に示す書証に示された判断に反し、VALENTINOの綴りが前記乙第1号証に示す辞典に記載された通り男子の氏名としてよく使われる名称であるとの判断を示した決定、審決がある。これを乙第2号証、同第3号証、同第4号証として提出する。
(ウ)また、甲第7号証、並びに甲第13号証の1、2以下甲第62号証に示す書証を以て前記引用商標、並びに、前記引用商標の略称、及びVALENTINO GARAVANIの名称、並びに、その略称であるとするVALENTINOの名称の著名性を立証しようとしているが、前記書証の大半は、発行所が明らかでなく前記書証が刊行物として真正に成立した文書であるかどうかわからない。それだけでなく、前記書証が頒布されたものであるかどうか明らかでない。また、仮に前記書証が刊行物として頒布されたとしても、それは、VALENTINO GARAVANIの表示、並びにその略称であるとするVALENTINOの表示が多くの刊行物に掲載して頒布されたと言うだけのことである。その頒布を以てそれが直ちに前記表示が著名性獲得に結びつくとは限らない。これが著名になったと言うためには、多くの刊行物に掲載して頒布されたと言う事実だけでなく、これとは別な立証手段が必要である。
(エ)本件では、引用商標がどのような手段を講じて著名商標としたとの主張、立証もない。従って、引用商標、並びに引用商標の略称であるVALENTINOの文字が著名であるとの審判請求人の主張は成り立たない。
(2)VALENTINO GARAVANI或は、その略称であるとするVALENTINOの表示の著名性について
(ア)本件商標は、商標審査の専門家である権威のある審査官が、本件商標の登録の可否を判断するに当って、職務上当然(a)イタリアの服飾デザイナーである著名なヴァレンティノ・ガラバー二氏の存在を知った上で、且つ、同人の氏名の綴りから成っているVALENTINO GARAVANI、並びに、その略称であると審判請求人の主張するVALENTINOの登録商標があることを知った上で、また、これまで同人の氏名の綴りから成る登録商標の著名性を主張、立証して審判申立をし、或は、異議申立がなされた件について、その審判申立、或は、異議申立を排斥した乙第2、3、4号証に示す審決、決定があったことを知った上で、並びに、前記ヴァレンティノ・ガラバー二氏以外の者から、前記商標の存在を前提として出願されたVALENTINOを配した商標が登録されていることなどを知った上で、これらの事情を勘案して慎重な審査を行い、(b)本件商標を登録しても、本件商標が先登録の登録商標とは外観、称呼、観念の同一性、類似性がなく、また、本件商標を指定商品に使用してもこれらの既存の登録商標の指定商品と同一、或は類似することがないとして、誤認、混同の虞れなしと判断して登録された権利である。
(イ)本件商標の登録を無効にしようとする審判請求人の本件申立は、権威のある審査官が行った本件商標の権利設定の処分を覆すものである。即ち、審判請求人の本件申立は、一度有効に成立した本件商標の権利設定処分に反して、本件商標の法的安定性を覆そうとしている行為である。そうすると、そのため提出する証拠は、いわゆる真正に成立した証拠であって、且つ、いわゆる厳格な証拠でなければならない。(a)審判請求人が、前記審判官の判断を誤りとして本件商標の登録を無効にするため、VALENTINO GARAVANIの標章が著名の標章であること、並びに、その商標を構成するVALENTINOの標章がVALENTINO GARAVANIの著名な略称の標章であることを証明するためであろうが、甲第7号証〜甲第62号証にわたる多数の書証を提出している。(b)しかし、これらの書証の中の甲第8号証〜甲第12号証を除き、甲第7号証、並に甲第13号証〜甲第62号証の中の二、三を除いては発行所は明記されていない。即ち、これらの書証の多くは成立の真正を立証する証拠はない。(c)そうすると、これらの多くの書証は、ただ単にVALENTINO GARAVANI並びにVALENTINOの表示のある印刷物を書証として沢山提出したと言うだけである。従って、これらの多くの書証を以てしては、VALENTINO GARAVANI或はVALENTINOの標章が著名であることを立証することはできない。
(3)本件審判請求を提起するに当って、審判請求人に審判請求の利益があることを明確にした主張立証がない。
本件審判請求は、前記したとおり、権威のある審査官によって適法に権利として設定されて安定した本件商標を無効とする請求である。そうすると、本件審判請求は本件商標の法的安定性を覆す行為である。その請求をするには、それ相当な理由がなければならないはずである。これを明らかにするため、本件請求を行う正当な理由を明らかにされなければならない。
本件審判請求書には、これが明らかにされていない。これが明らかにされない以上は本件審判請求をする利益がない。
(4)商標法第4条第1項第8号違反についての反論
(ア)審判請求人はVALENTINO GARAVANI(ヴァレンティノ・ガラバーニ)氏は著名なデザイナーであって同氏の顧客の中には、レオーネ・イタリア大統領夫人、グレース・モナコ王妃、エリザベス・テーラー、オードリー・ヘップバーンなどの著名人も多いとしている。(a)しかし、これら著名人を指すにしても、レオーネ・イタリア大統領夫人、グレース・モナコ王妃、エリザベス・テーラー、オードリー・ヘップバーンと表示し、或は指称するから、これら著名人を指すことがわかるが、これらの著名人を指すとき、これを単にレオーネ、グレース、エリザベス、オードリーと表示し、或は指称したときは、レオーネ、グレース、エリザベスと言う人は沢山いるので、前記著名人を単にレオーネ、グレース、エリザベスと言ったときは直ちにこれらの著名人を指したことにはならない。即ち、前記著名人のレオーネ、グレース、エリザベス、オードリーの表示、名称がレオーネ・イタリア大統領夫人、グレース・モナコ王妃、エリザベス・テーラー、オードリー・ヘップバーンの著名人の著名な略称と言うことはできない。
(イ)それと同じように、VALENTINOの表示を以て直ちに著名人のVALENTINO GARAVANIの著名な略称と言うことはできない。
(ウ)このVALENTINOの名称がイタリアの男子の名称としてよく使われる名称であることは乙第1号証に示す辞典に記載されている。また、VALENTINOの表示が直ちにヴァレンティノ・ガラバー二氏の著名な略称とは言えないとの判断を示した甲第2、3、4号証に示す審決、異議決定がある。従って、ヴァレンティノの称呼、並びに表示を含む商標は、直ちに、イタリアの著名なデザイナーであるヴァレンティノ・ガラバー二氏を指すとは言えない。更に、VALENTINOの綴りが直ちにVALENTINO GARAVANIの略称と言えないことは後述する。
よって、本件商標の登録には、ヴァレンティノ・ガラバー二氏の承諾が必要であり、この承諾を得ないで登録された本件商標は無効であるとの主張は失当である。
(5)商標法第4条第1項第11号についての反論
(ア)本件商標のValentino Coupeauと引用商標のVALENTINO GARAVANIの称呼は冗長なものではない。
(イ)因に、審判請求人がVALENTINO GARAVANIの表示が世界の一流品のブランドであることを明らかにしようとするために提出したと思われる甲第14、15、16、17の各号証に示す「世界の一流品大図鑑」と称する文書には、VALENTINO GARAVANI以外の一流品と称するブランド名が掲載されている。
上記文書は、いずれも発行所を明らかにした文書ではなくVALENTINO GARAVANIの著名性を立証できる文書ではないが、上記文書に一流品として掲載されたブランド名として甲第13号証の2〜甲第17号証の5には「VALENTINO GARAVANI」以外に「アンドレ・コラン」(フランス)、「ミラー・グローブ」(イギリス)等が掲載されている。
上記証拠に掲載されたVALENTINO GARAVANI以外の一流品のブランド名の使用者は、自己のブランド名は、取引者、需要者に冗長なブランド名であると言う感じを与えることがないと判断したことにより、これを無理に略称を以て表示したり、称呼する必要がないとして、その表示に当っては取引者、需要者に馴染まれている正規の表示、名称をそのまま使用しているのである。
(ウ)本件商標も、後記する商標の例に倣って、ヴァレンティノと略称されることなくヴァレンティノクーポと呼び、これが冗長であると言う感じを持ったり、或は持たれたりせず使われている。
(6)本件商標の構成について
本件商標の構成は、ValentinoとCoupeauを単純に二段に配した構成ではない。ValentinoとCoupeauの綴りは、まず、同じような書体で綴られている。また、その綴りの大きさも同じような字配りで表示されている。さらに、そのValentinoとCoupeauの配列は、ValentinoとCoupeauの綴りを単純に上下二段に配列した構成としたものではなく、Valentinoの綴りの下に、Coupeauの綴りの書き出しがやや右寄りからずれて始まって、その書き終わりがやや右寄りにずれて終わるように配列されてデザイン化されている。即ち、本件商標は、ValentinoとCoupeauとは、ValentinoCoupeauと一連に表示する構成ではないが、ValentinoとCoupeauが各別の綴りとして二段に配列された構成でなく、Coupeauの文字もValentinoの文字とが一体となって目立つように連続して一連化されて認識されるような工夫を凝らした字配りで構成されており、ValentinoとCoupeauのいずれか、どちらかが目立つような配列の仕方には構成されていない。従って、本件商標に取引者、需要者が接したときは、極く自然にヴァレンテイノクーポと称呼するよう読み取り、本件商標のValentinoの文字(綴り)をCoupeauの文字(綴り)と切り離してValentinoの文字(綴り)に注目するような構成とはなっていない。換言すれば、本件商標は、前記した構成そのものが一体として取引者、需要者に認識されるよう工夫を凝らした構成となっているもので、本件商標を構成するValentinoの綴りが本件商標の要部をなすものとしてこれがCoupeauと離して目立つようには構成されているものではない。
以上、観察したところから明らかなように、本件商標と引用商標とはまず、外観を異にするだけでなく、称呼を異にし、更に、同一人物を指すものでないところから観念を異にするものであることは明らかである。
(7)適法に登録処分を受けた本件商標について
本件商標が登録された後、審判被請求人は本件商標の普及に積極的な営業活動の開始に着手している。そうすると、本件商標が取引者、需要者に知られることによって取引者、需要者に馴染まれ、本件商標の表示が冗長であるとか、称呼が冗長であるとかと言う感じはなくなるのは当然である。
(8)審判請求人は、本件商標のValentino Coupeauを構成する文字の中、本件商標のValentinoの文字の称呼が引用商標のVALENTINO GARAVANIの表示中のVALENTINOの文字の称呼と共通にすることを以て、両商標は同一性があるとしているが、これは誤りである。
(ア)イタリアではVALENTINOの綴りは男子の氏名によく使われていることは乙第1〜4号証に示すとおりである。また、VALENTINOの綴りを用いた氏名を名乗る著名なイタリアのデザイナーに(a)VINCENZO・VALENTINO/ビンチェンツォ・ヴァレンティノ、(b)MARIO・VALENTINO/マリオ・ヴァレンティノ、(c)GIOVANNI・VALENTINO/ジョバンニ・ヴァレンティノ、(d)GIANNI・VALENTINO/ジャンニ・ヴァレンティノ等がいる。上記した人々は親族である。
上記したデザイナーの氏名がそれぞれ商標として登録されている。これらの登録商標の1例を乙第5号証の1〜4、乙第6号証の1〜4、乙第7号証の1〜4、乙第8号証の1〜4として提出する。
上記商標なり、ブランド名を指称するとき、それぞれが冗長であるからと言って、ビンチェンツォと言ったり、マリオ、或は、ジョバンニ、ジャンニと略称したりはしない。また、上記商標をヴァレンティノとも略称しない。また、単にヴァレンティノと言ったときは取引上、上記商標を指さない。
これらのデザイナーの氏名を表すVALENTINOの表示を用いた(a)〜(d)に示す商標なりブランドが取引者、需要者によって引用商標なりヴァレンティノ・ガラバー二氏のブランドと取り違えられることはない。現に、前記した(a)〜(d)の商標なりブランドはVALENTINO GARAVANIの引用商標なりブランドと区別されて通用している。
(イ)それだけでなく、審判請求人が著名商標と言われているVALENTINO GARAVANIの著名な略称であるとするVALENTINOの文字を用いた引用商標の他に著名として取り扱われている商標、ブランドはいくらでも使用されている。即ち、VALENTINO GARAVANIの略称であるとするVALENTINOの綴りを使用した著名商標は乙第9号証の1〜3、乙第10号証の1〜3、乙第11号証の1〜3、乙第12号証の1〜3に示す商標がある。これらの商標はいずれも使用されている。その使用の態様としては自ら使用をしないで使用権を設定して使用されているものがある。その1例を乙第13号証に示す。これらは、取引上、ヴァレンティノとは略称しない。また、単にヴァレンティノと言ったときは、取引上これらを指さない。
(ウ)審判請求人の理屈から言えば、これら乙第5〜12号証に示す著名として扱われている商標も無効となると言うことになる。また、著名商標としてChristian Dior/クリスチャン ディオールの氏名からなる乙第14号証の1〜6に示す商標がある。その商標の中の略称であるChristian/クリスチャンの綴りを使用した前記著名商標以外の著名商標に乙第15号証の1〜7、乙第16号証の1〜6、乙第17号証の1〜3、並に、乙第18号証の1〜6に示す商標がある。乙第18号証の1〜6に示す商標は、乙第15号証の1〜7に示す商標権者であるエス・アー・クリスチャン・オジャールから権利移転を受けた株式会社イトキン総本社が出願して登録になった商標である。これらの商標は前記商標と区別されて認識され使用されている。審判請求人の理屈から言えば、乙第15、16、17号証に示す著名商標は勿論、乙第18号証に示す著名商標も無効となる。
更に、著名商標としてPIERRE CARDIN/ピエール・力ルダンの氏名から成る乙第19号証に示す商標がある。その商標の中の略称であるPIERRE/ピエールの綴りを使用した前記著名商標以外の著名商標に乙第20号証の1〜3に示す著名商標がある。これらの商標は前記商標と区別されて認識され使用されている。審判請求人の理屈から言えば、乙第20号証の1〜3に列記する商標も無効となる。
しかし、これらの登録商標に対して審判請求人が主張する前記理屈が通らないことは明らかである。そうすると、本件商標も審判請求人の主張する理由によっては無効となることはない。
これらの商標は取引者、需要者に外観、称呼、観念はそれぞれ異なると認識され、その認識の下にそれぞれが親しまれており、冗長な商標として取り扱われてはいない。また、略称を以てしては取り扱われていない。
本件商標も略称を以て取り扱われていない。よって審判請求人の主張は失当である。
(9)商標法第4条第1項第15号についての反論
本件商標と引用各商標とは外観、称呼、観念のいずれも相違することは既に説明したとおりである。
また、VALENTINOの文字を商標中の構成に取り入れている多数の商標が引用商標とは類似しないとして有効に登録されている点からしても本件商標を以て引用商標に類似すると言うのは誤りである。
そうすると、本件商標を以て、直ちに商標法第4条第1項第15号に該当すると言うことはできない。

5 当審の判断
(1)請求の利益の有無について
請求人が本件審判請求をする利益の有無について当事者間に争いがあるので、先ずこの点について判断する。
本件商標は、後に詳述するとおり、その構成中に請求人の使用に係る著名商標等を表す「VALENTINO」と綴り字を同じくする「Valentino」の文字を有するから、これを商標権者がその指定商品に使用した場合、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものである。
したがって、請求人は、本件商標の登録を無効とする審判請求をすることについて、法律上の利害関係を有するというべきである。
(2)VALENTINO標章の著名性について
本件審判請求の理由及び甲第7号証及び同第13号証ないし同第56号証(枝番号を含む。)を総合すると、以下の事実が認められる。
(ア)ヴァレンティノ ガラヴァーニ(Valentino Garavani)は、1932年イタリア国ボグヘラで誕生、17才の時パリに行き、パリ洋裁学院でデザインの勉強を開始し、その後フランスの有名なデザイナー「ジーン・デシス、ギ・ラ・ロシュ」の助手として働き、1959年ローマで自分のファッションハウスを開設した。1967年にはデザイナーとして最も栄誉ある賞といわれる「ファッションオスカー(Fashion Oscar)」を受賞し、ライフ誌、ニューヨークタイムズ誌、ニューズウィーク誌などの新聞、雑誌に同氏の作品が掲載された。これ以来、同氏は、イタリア・ファッション界の第1人者となり、サンローランなどと並んで世界三大デザイナーとも呼ばれるようになった。そして、請求人は、ヴァレンティノ ガラヴァーニのデザインに係る紳士服、婦人服等の商品を製造・販売していて、その商品に「VALENTINO GARAVANI」「VALENTINO」の文字よりなる標章(以下、これらを「VALENTINO標章」という。)を使用している。
(イ)我が国においては、昭和49年に「株式会社ヴァレンティノヴティックジャパン」が設立され、以来、ヴァレンティノ ガラヴァーニのデザインに係る紳士服、婦人服等の商品が同社により輸入、販売されている。
(ウ)例えば、甲第7号証の4ないし32は、主に昭和51年9月〜同11月にかけて発行された新聞等におけるヴァレンティノ ガラヴァーニのデザインに係る紳士服、婦人服の紹介記事を抜粋したと認められるものであるが、その紹介記事の見出しに、「鮮やか黒いファッション ヴァレンティノ秋冬ショー」(繊研新聞、昭和51年9月28日版)、「世界のVIP女性愛用のヴァレンティノ・コレクション発表」(日刊ゲンダイ、昭和51年10月2日版)、「伊の鬼才ヴァレンティノ これが76年秋冬の新作」(日経産業新聞、昭和51年10月6日版)との記載があり、また、「世界の一流品大図鑑’85年版」(甲第15号証)中の「VALENTINO GARAVANI(ヴァレンティノ ガラヴァーニ)」の標章が記載された項における紹介記事においては、「・・・魅惑的で優美な衣裳作りを心がけているというヴァレンティノ。(婦人服)」、「シーズン毎にカジュアルシューズも発表しているヴァレンティノですが、・・・(紳士靴)」との記載、同じく「男の一流品大図鑑’85年版」(甲第16号証)においては、「・・・オフタイムこそ、ヴァレンティノで洒落てみたい。(紳士用ベルト)」との記載、さらに、「25ans 1987年10月号」(甲第22号証)においても、「・・・ヴァレンティノの服は、このスカート丈とニット素材というカジュアル要素を持ちながらも、・・・」等の記載があるように、VALENTINO標章が「VALENTINO(ヴァレンティノ)」の商標と呼ばれ、そのデザイナーである「Valentino Garavani」も「VALENTINO(ヴァレンティノ)」と呼ばれ、その名で知られていることを前提とした記事が多数掲載されている。
以上の事実によれば、本件商標の登録出願時の平成7年6月頃には、VALENTINO標章は、「VALENTINO(ヴァレンティノ)」の商標として、また、デザイナーのヴァレンティノ ガラヴァーニ(Valentino Garavani)も「VALENTINO(ヴァレンティノ)」と呼ばれて、紳士服、婦人服、ベルト、靴等のファッション関連商品について、同人のデザインに係る商品に付される商標ないしは同人の略称として、取引者、需要者の間に広く認識されていたものということができる。そして、該「VALENTINO(ヴァレンティノ)」の著名性は、現在も継続していると認められるものである。
(2)出所の混同について
本件商標は、別掲のとおり、「Valentino」の欧文字を横書し、前記「e」の文字の下部を綴りの頭として「Coupeau」の欧文字を横書した構成よりなるところ、全体として特定の熟語や氏名を表すものとして一般の取引者、需要者によく知られているというような事情はないこと、全体の構成文字数が16文字であり、これより生ずる「バレンティノクーポ」の称呼も8音であって、その構成文字又は称呼のいずれよりみても、一つの名称としては比較的冗長であること及び「Coupeau」の文字部分に比較して、上段に配され、しかも語頭の位置が三文字相当分左側に表されていることからすれば、VALENTINO(ヴァレンティノ)」の著名性と相俟って、「Valentino」の文字部分が取引者、需要者に強い印象を与えるものである。
そして、前記(1)のとおり、本件商標の登録出願時には、既に、VALENTINO標章が「VALENTINO(ヴァレンティノ)」の商標と、また、ヴァレンティノ ガラヴァーニ(Valentino Garavani)が「VALENTINO(ヴァレンティノ)」とも呼ばれて、紳士服、婦人服、ベルト、靴等のファッション関連商品について、同人のデザインに係る商品に付される商標ないしは同人の略称として著名であったこと及びVALENTINO標章が付される商品「紳士服、婦人服、ベルト、靴」等と本件商標の指定商品とは、いずれも、素材や色柄、デザインが重視される商品であるから、一人のデザイナーがいずれの商品のデザインにも関与することが十分予想され、この意味において高い関連性を有する商品であること等を併せ考慮すれば、本件商標は、その指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者が、その構成中の上段に表された「Valentino」の文字部分を捕らえて、著名なVALENTINO商標等を連想、想起し、それがヴァレンティノ ガラヴァーニ又は同人と何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるというのが相当である。
また、この混同を生ずるおそれは、本件商標の登録出願時から現在においても継続しているものと解される。
(3)結論
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたというべきであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 本件商標


審理終結日 2003-06-27 
結審通知日 2003-07-02 
審決日 2003-07-15 
出願番号 商願平7-59989 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (027)
T 1 11・ 02- Z (027)
最終処分 成立  
特許庁審判長 田辺 秀三
特許庁審判官 小林 薫
岩崎 良子
登録日 1997-07-11 
登録番号 商標登録第4025881号(T4025881) 
商標の称呼 バレンティノクーポー、バレンティノ、クーポー 
代理人 末野 徳郎 
代理人 志村 正和 
代理人 杉村 興作 
代理人 廣田 米男 

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