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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない 018
管理番号 1080175 
審判番号 取消2001-30233 
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-08-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2001-02-23 
確定日 2003-06-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第3144740号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3144740号商標(以下「本件商標」という。)は、商標の構成を横書きした「セロトーレ」の片仮名文字とし、平成5年4月30日に登録出願、指定商品を第18類「かばん類,袋物,乗馬用具」として、平成8年4月30日に商標権の設定登録がされたものである。
なお、本取消審判請求の登録は、平成13年3月28日にされている。
第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁の理由を要旨次のとおり述べ、証拠方法として甲第1号証(本件商標の登録原簿)、乙第1号証ないし乙第10号証(枝番を含む。)を提出している。
1.請求の理由
本件商標は、その指定商品「かばん類,袋物,乗馬用具」について、継続して3年以上日本国内において商標権者等が使用した事実がないから商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
本件商標にかかる登録原簿に記載のとおり、当該商標権について専用使用権は設定されておらず、登録された通常使用権者も存在しない。
商標権者から通常使用権を許諾された者によって、本件商標がその指定商品のいずれかについて、日本国内で使用された事実もない。
2.弁駁の理由
被請求人が主張の根拠としている証拠(甲第2号証)は、商標権者(被請求人)が本件商標を指定商品について日本国内で使用した事実を立証していない。
(1)被請求人は、被請求人が発行した「THE EARTH」誌の表紙、第25頁、第26頁、奥付け及び裏表紙(甲第2号証)を本件商標の使用を立証するものとして提出し、その第25頁及び第26頁に「Cerro Torre」を含む商品表示を有するザックの写真が掲載され、その説明文中に「セロトーレ」なる文字が含まれている点を根拠として挙げている。
本件商標権が商品に関するものである以上、改正前の商標法第2条第3項第1号、同2号又は同7号(当該条項は、平成14年9月1日に施行の同14年法律第24号により一部改正されているが、それらは直接、本件審理に影響はないので、全てに「改正前」の文字を付して旧条項号のまま表示する。以下同じ。)のいずれかの使用に該当することを主張する趣旨かと思われるが、甲第2号証自体は本件商標権に係る指定商品ではない。すなわち、甲第2号証の「セロトーレ」の記載は改正前の商標法第2条第3項第1号にいう「商品又はその包装に標章を付する行為」には該当しない。また、甲第2号証のみからは、被請求人による商品の譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示または輸入行為があった事実が証明されないことも明らかである。
(2)甲第2号証の「THE EARTH」誌の第25頁及び第26頁に掲載されている写真の製品に「Cerro Torre」を含む商品表示を付したのは商標権者ではない。このことを立証するために、乙第1号証ないし乙第7号証を提出する。
(ア)乙第1号証ないし乙第3号証は、請求人が発行した製品カタログであり、乙第1号証は、請求人が1994年に大韓民国で発行した製品カタログ、乙第2号証ないし乙第3号証は1997年等に発行した英文製品カタログである。これらのカタログに掲載されているように、山を表わす三角形を稲妻型に屈曲した線で二分し一方を着色し他方を地の色として描いた図形の下に「CERRO TORRE」と書き表わした商標は、請求人が長らく使用している商標である。
乙第4号証は、当該商標に関する米国商標登録証であり、最初の使用は1989年であることが明記されている。さらに、乙第5号証は請求人の日本における輸入代理店(有限会社セロトーレジャパン)が作成したパンフレットであり、乙第6号証及び乙第7号証は、請求人から上記有限会社セロトーレジャパンへの輸出用書類(インボイス)である。
乙第6号証及び乙第7号証によれば、1998年1月10日及び1998年5月25日付で、商品名を「SPRINGER I」、「SPRINGER II」及び「IBEX」とするものが輸出されている。
乙第5号証の第2頁及び第3頁目のSPRINGER I(スプリンガーI CT9805 \13,800)及びSPRINGER II(スプリンガーII CT9806 \14,800)は、その形状や付記された商品名・記号・寸法・色その他の特徴から明らかなように、甲第2号証の第25頁記載のSPRINGER I(スプリンガーI CT9805 \13,800)及びSPRINGER II(スプリンガーII CT9806 \14,800)と同一である。また、乙第5号証の第1頁及び第2頁目のIBEX(アイベックス CT9807 \18,800)は、甲第2号証の第26頁記載のIBEX(アイベックス CT9807 \18,800)と同一である。
(イ)これらの証拠に示されているとおり、甲第2号証の第25頁及び第26頁の「Cerro Torre」を含む商品は請求人が製造し、「有限会社セロトーレジャパン」が輸入した商品である。実際、甲第2号証の奥付には「このカタログの制作にあたりましては、上記の問屋、メーカーのご協賛・ご協力をいただきました。」とあり、そのリスト中に「(有)セロトーレジャパン」が記載されている。すなわち、商標権者が自己の商標の使用を立証するために提出している甲第2号証は、請求人の製品の写真を掲載したに過ぎないものである。よって、甲第2号証は、商標権者による商品へ商標を付する行為(改正前の商標法第2条第3項第1号)を証明するものではない。
(3)被請求人が甲第2号証に「Cerro Torre」を含む商品表示を有するザックの写真を掲載し、その説明文中に「セロトーレ」なる文字を記載した行為は、改正前の商標法第2条第3項第7号に規定する商標の使用に当たらない。
(ア)第一に、甲第2号証に掲載された商標と本件商標とは異なっている。甲第2号証の写真から明らかなように、甲第2号証の各製品では「CERRO TORRE」の文字は山型の図形と一体になって商標を構成している。すなわち、山型の図形の底面に沿って当該図形と同程度の大きさで文字が書かれ、山型図形の分割位置(稜線を表わす二分線)とほぼ対応して「CERRO TORRE」と分かち書きされている。したがって、甲第2号証の写真中の製品に現れている商標(以下「CERRO TORRE」商標という。)は文字と図形とが一体となった商標であり、単なる「CERRO TORRE」の文字ではない。したがって、自他商品の識別標識として本件商標「セロトーレ」とは社会通念上同一の商標とはいえない。
また、写真に対応する説明中に「セロトーレスプリンガ一I・II」及び「セロトーレアイベックス」と記載されているが、これはそれぞれの商品自体に描かれた商標をそのまま音読して表わしたものである。例えば、「セロトーレアイベックス」は、ザックの上部に上記山型を伴う「CERRO TORRE」商標が描かれ、ザックの下部に「Ibex」と筆記体で描かれている製品の説明文の一部である。説明文中の「セロトーレアイベックス」なる文字列は、写真に写っているのは、上記の山型を伴う「CERRO TORRE」商標+「Ibex」であるという事実を述べているに過ぎず、当該文字列自体が自他商品識別標識として機能するものではない。
さらに、「セロトーレ(CERRO TORRE)」は請求人の商号である(乙第8号証の1、同の2)。したがって、仮に「セロトーレアイベックス」が「セロトーレ」「アイベックス」と分離して認識されたとしても、それはセロトーレ社の「アイベックス」と認識されるのであって、商標「セロトーレ」として機能するものではない。
(イ)第二に、仮に甲第2号証に本件商標が掲載されていたとしても、それは改正前の商標法第2条第3項第7号に定義される商標の使用に該当しない。
なぜならば、改正前の同第7号では「商品又は役務に関する広告、定価表又は取引書類に標章を付して展示し、又は頒布する行為」と規定しており、商標を付す主体と広告主体とは同一であることが前提となっているからである。しかし、甲第2号証の掲載写真のザックに商標を付したのは請求人であって被請求人(商標権者)ではない。したがって、甲第2号証は、商標権者が広告に商標を付して頒布した事実を示すものではない。
なお、甲第2号証の掲載写真に対応する説明文中には「セロトーレスプリンガ一I・II」及び「セロトーレアイベックス」と記載されている。しかし、第三者が製造した商品の写真をカタログに掲載する場合、当該商品に商標Aが付されており、Aの称呼が偶々カタログ掲載者の有する商標Bと同一の文字を含んでいたとしても、カタログにAの称呼を記載する行為は商標Bの使用には当たらないと解すべきである。なぜなら、「商標の使用」とは、本来、商標を使用することにより自他商品識別機能を発揮させ、また、使用を継続することにより当該商標に信用を化体させることにその意義がある。同号で「広告」等が商標使用の態様に挙げられているのは、「商標の広告的な使い方にも信用の蓄積作用があり、また、このような他人の使い方は商標の毀損を招く。」という理由による(特許庁編「工業所有権法逐条解説第14版」927頁左から2行目ないし最終行)。
しかるに、カタログに商標Aが付された商品が掲載されており、その説明文中にAの称呼が記載されている場合、需要者が関連付けて認識するのは、当該商品と商標Aの結び付きであり、当該商品と商標Bの結び付きではない。したがって、カタログへの掲載により信用が蓄積されるのは商標Aについてである。
そして、甲第2号証の掲載商品は被請求人(商標権者)の製品ではなく請求人の製品である。しかも、本件商標は、請求人の商号と同一である(乙第8号証)。さらに、乙第1号証ないし乙第3号証及び乙第5号証に示すように、請求人は種々の製品に「CERRO TORRE」を付した商品を展開しており、「CERRO TORRE」は登山愛好者には馴染み深い商標であり、当該商標は製造業者(請求人)自体の製品の出所を表示すると認識される状況にある。また、甲第2号証に記載のSPRINGER I及びSPRINGER II並びにIBEXの価格が輸入代理店カタログ(乙第5号証)掲載の価格と全く同一であることは、商標権者が本件商品について価格を決定を主導する立場にはなく、商標権者のカタログ掲載行為は、「CERRO TORRE」商標が付された商品が市場を介して消費者に伝播する契機の一つとなっているにすぎないことを示している。したがって、甲第2号証が、商標権者によるカタログ掲載の事実を示すものだとしても、当該カタログ掲載行為はそもそも本件商標の使用には該当しない。
(ウ)また、甲第2号証はその発行日も明確でなく、改正前の商標法第2条第3項第7号にいう「広告、定価表又は取引書類」であることの立証もなされていない。甲第2号証の表紙右上には「ICI OUTDOOR GEAR MOOK」と記載され、その下には「¥200」なる価格表示がなされ、さらに、その下に「THE EARTH 世界紀行タスマニアでエコ・トレッキング」と、また、右下には「選ぶ前にこれだけは知っておきたい山の道具の基礎知識」と記載されている。「ICI OUTDOOR GEAR MOOK」における「mook」とはmagazineとbookの複合語である。また、「THE EARTH 世界紀行タスマニアでエコ・トレッキング」は紀行文を意味する。「選ぶ前にこれだけは知っておきたい・・・基礎知識」は雑誌等で典型的に見られる表題である。また、カタログは、有償で販売されているケースも皆無ではないが一般には無償で配布されるものである。つまり、これらの点は、甲第2号証が雑誌あるいは書籍としての性格を有することを示している。しかるに、雑誌や書籍に紹介記事として商品が掲載されることは通常行われていることである。甲第2号証の表紙には、「石井スポーツアウトドア・ギア総合カタログ'98〜'99」なる文言も認められるが、甲第2号証が雑誌・書籍としての性格を有することからすれば、そのような表記のみからは、甲第2号証が改正前の商標法第2条第3項第7号にいう「広告、定価表又は取引書類」に該当するか否か判断はできない。また、雑誌等の発行日は、裏表紙等に記載された「発行日」より前であることが多い。よって、被請求人が指摘している甲第2号証の「発行日」欄のみから、甲第2号証が本件審判請求の登録(平成13年3月28日)前3年以内に日本国内において頒布されたか否か判断はできない。
(4)以上のとおり、商標権者が本件商標の使用と主張の根拠としている甲第2号証は、改正前の商標法第2条第3項第1号、同2号又は同7号に規定する商標の使用を立証していない。すなわち、甲第2号証は、商標権者による商品へ商標を付する行為(改正前の商標法第2条第3項第1号)を証明するものではない。販売行為等(改正前の同第2号)を証明するものでもない。さらに、甲第2号証に掲載された商標と本件商標とは異なり、信用蓄積作用を有する商標の使用に該当せず、さらに甲第2号証が改正前の商標法第2条第3項第7号にいう「広告、定価表又は取引書類」であるとの立証もなされておらず、その発行日も不明確であり、改正前の同第7号の使用も立証されていない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証の1(本件商標の詳細データ)、甲第1号証の2(本件商標の登録原簿)及び甲第2号証を提出している。
1.答弁の理由
本件商標は、商標権者(被請求人)によって、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、その請求に係る指定商品について使用されているものであるから、その登録は取り消されるべきものでない。以下甲第2号証によって立証する。
(ア)甲第2号証は、「THE EARTH」と題する被請求人の業務に係るアウトドア用品の総合カタログの1998年ないし1999年版であるところ(甲第2号証の表紙)、その発行日は、本件審判請求の登録日である平成13年3月28日前3年以内である平成10年4月30日である(甲第2号証の裏表紙)。しかして、甲第2号証の第25頁の「黒丸に3」の項には「CERRO TORRE」の文字をその上部に、「Springer I」の文字をその下部に付した「ザック」の写真と、これに対応する形で当該ザックの仕様の詳細を記述した項目が設けられ、そこには「セロトーレ スプリンガーI・II」及び「CERRO TORRE SPRINGER」の文字が表示されている。
(イ)甲第2号証の第26頁には、前出の第25頁と同様の体裁で、「CERRO TORRE」及び「Ibex」の文字をその上部と下部に付したザックの写真と、これに対応する形で当該ザックの仕様の詳細を記述した項目が設けられ、そこには「セロトーレアイベックス」及び「CERRO TORRE IBEX」の文字が表示されている。しかるところ、甲第2号証の第25頁及び第26頁に掲載されている「ザック」は、本件審判請求に係る指定商品中の「かばん類」に含まれている商品である。
(ウ)甲第2号証の第25頁及び第26頁それぞれにおける「セロトーレスプリンガーI・II」「セロトーレ アイベツクス」の表記における「セロトーレ」の文字は、いずれも全体から分離独立して看る者の注意をひき、かつ、これ自体で自他商品識別標識たり得るものであるところ、この「セロトーレ」は、本件商標と同一の文字よりなるものである。そうすると、第2号証の第25頁及び第26頁それぞれにおける「セロトーレ」の文字は、本件商標「セロトーレ」と実質的に同一の機能を果たすものというべきである。
(エ)甲第2号証の第25頁及び第26頁に掲載されているザックの上部に付されている「CERRO TORRE」の文字は、いずれも「セロトーレ」と称呼されるものとみるのが自然であるところ、この称呼は本件商標より生ずる「セロトーレ」に符合するから、この「CERRO TORRE」の文字も、自他商品の識別標識として本件商標「セロトーレ」と実質的に同一の機能を発揮するものというべきである。してみれば、当該「CERRO TORRE」の文字は、本件商標と社会通念上同一の商標というのが相当である。
2.以上によると、「セロトーレ スプリンガーI・II」」「セロトーレ アイベックス」の表記それぞれにおける「セロトーレ」の文字及び「CERRO TORRE」の文字は、本件商標の使用に該たるというべきである。したがって、本件商標は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者によって、その請求に係る指定商品に使用されていたものである。

第4 当審の判断
1.本件商標は、上記のとおりその構成を「セロトーレ」の片仮名文字とし、指定商品を「かばん類,袋物,乗馬用具」とするものである。そして、本件審判請求は、商標法50条第1項の規定によりその登録の取り消を求めるものであって、その請求の登録は平成13年3月28日にされているものである。
2.そこで、被請求人(商標権者)が、本件商標を本件審判の請求に係る指定商品について所定の時期に使用していた事実を証明するものとして提出した甲第2号証を検討する(なお、答弁書において被請求人は、その提出に係る証拠の符号を「甲」とし、請求人は、これに添って弁駁書において提出に係る証拠については「乙」の符号を付しているが、特に審理に問題はないのでこれを整理し訂正しない。)。
(1)甲第2号証は、題号を「THE EARTH」とする冊子の表紙、第25頁、第26頁、奥付け及び裏表紙である。
(ア)甲第2号証の表紙には、題号「THE EARTH」の直ぐ下に「ICI OUTDOOR GEAR MOOK '98-'99 Vol.21 \200」、その下に「THE EARTH 世界紀行タスマニアでエコ・トレッキング Eco Trekking in Tasmania」、さらに、右下には「選ぶ前にこれだけは知っておきたい 山の道具の基礎知識」及び「ICI石井スポーツ アウトドア・ギア 総合カタログ'98〜'99」と記載されていることが認められ、これら副題から該冊子は、請求人が述べるように、単なる「アウトドア用品の総合カタログ」というよりは、雑誌あるいは書籍としての性格をも有するといえる。
しかしながら、該冊子は、被請求人(商標権者)が発刊(Vol.21)する雑誌類といえど、その主たる発行の目的は、「ICI OUTDOOR GEAR MOOK '98-'99 Vol.21」及び「石井スポーツアウトドア・ギア総合カタログ'98〜'99」の表示及び次の(イ)で後述する第25頁及び第26頁の掲載からみて、被請求人の取り扱いに係るアウトドア用品の販売目的のための広告宣伝手段の一としての総合カタログの体裁をも整えた取引書類(カタログ類)というべきである。そして、該冊子にあっては、1998年(平成10年)から1999年(平成11年)に亙る販売時期を対象に頒布したものとみて差し支えないものといえる。
(イ)甲第2号証の第25頁には、各ザックの写真とその仕様を記述した項目が設けられているところ、「黒丸に3」の項に山を表わす三角形を稲妻型に屈曲した線で二分して描いた図形と「CERRO TORRE」の文字をその上部に、及び筆記体風の「Springer I」の文字をその下部に付した「ザック」の写真と、これに対応する当該ザックの仕様を記述した項目が設けられ、そこには「セロトーレ スプリンガーI・II」及び「CERRO TORRE SPRINGER」の表示が認められる。また、甲第2号証の第26頁には、上記同様に「黒丸に5」の項に山を表わす三角形を稲妻型に屈曲した線で二分して描いた図形と「CERRO TORRE」の文字をその上部に、及び筆記体風の「Ibex」の文字をその下部に付した「ザック」の写真と、これに対応する当該ザックの仕様を記述した項目が設けられ、そこには「セロトーレ アイベックス」及び「CERRO TORRE IBEX CT9807」の表示が認められる。
この点を請求人は、大旨、甲第2号証の各製品では「CERRO TORRE」の文字は山型の図形と一体になって商標を構成していて、単なる「CERRO TORRE」の文字ではなく、本件商標とは社会通念上同一の商標とはいえない。また、写真に対応する説明中に「セロトーレスプリンガーI・II」及び「セロトーレアイベックス」と記載されているが、これはそれぞれの商品自体に描かれた商標をそのまま音読して表わしたものであって、当該文字列自体が自他商品識別標識として機能するものではなく、さらに、「セロトーレ(CERRO TORRE)」は請求人の商号であり、仮に「セロトーレアイベックス」が「セロトーレ」「アイベックス」と分離して認識されたとしても、それはセロトーレ社の「アイベックス」と認識されるのであって、商標「セロトーレ」として機能するものではないと主張する。
しかしながら、ザックに付された山形図形と「CERRO TORRE」の文字が全体として特定の意味合いを有するなど一体不可分のものと認識され、これを分離・抽出して取引指標とすることが商取引上不自然である程一体不可分に結合されている等の特段の事情は見出し得ないから、「CERRO TORRE」の文字自体が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たしているというべきであって、商標法第50条第1項におけるカッコ書きにいうところの片仮名をローマ字への文字の変更使用とみるべきである。また、当該ザックの仕様を記述した項目に表示されている「セロトーレ スプリンガーI・II」ないし「セロトーレ アイベックス」の構成前半の「セロトーレ」の文字部分が2種類のザックの統括的商標といえるものであるのに対し、後半の「スプリンガーI・II」ないし「アイベックス」文字部分は、2種類の個別商標と看取させるものであるから、「セロトーレ」の文字自体で自他商品の識別標識としての機能を果たしているというべきであって、これは、本件商標と同一の文字よりなるものであり、この程度の使用態様も本件商標と社会通念上同一の商標の使用と認め得るものである。さらに、「セロトーレ(CERRO TORRE)」が請求人の商号(略称)であることをもって、商標としての機能を損なうものではない。
(ウ)甲第2号証の奥付けには、最下段に「※このカタログの制作にあたりましては、上記の問屋、メーカーのご協賛・ご協力をいただきました。」とあり、そのリスト中に「(有)セロトーレジャパン」が記載されていることが認められる(なお、請求人の提出に係る乙第1号証ないし乙第7号証よりすれば、甲第2号証の第25頁及び第26頁の「黒丸に3」の項及び「黒丸に5」の項にかかる当該ザックは、請求人が製造し、「有限会社セロトーレジャパン」が輸入した商品であることが認められる。)。
この点に関し請求人は、商標権者が自己の商標の使用を立証するために提出している甲第2号証は、請求人の製品の写真を掲載したに過ぎないものであって、商標権者による商品へ商標を付する行為(改正前の商標法第2条第3項第1号)を証明するものではなく、仮に本件商標が掲載されていたとしても、それは改正前の商標法第2条第3項第7号に定義される商標の使用に該当せず、甲第2号証の掲載写真のザックに商標を付したのは請求人であって被請求人(商標権者)ではない。したがって、甲第2号証は、商標権者が広告に商標を付して頒布した事実を示すものではないから、当該カタログ掲載行為はそもそも本件商標の使用には該当しない旨主張する。
しかしながら、商標法上の商品は、商品そのものが商取引の目的物として一般市場を製造元ないしは販売元(相手先メーカーの商標を付けて行う下請け生産(OEM)を含む。)から、中間流通業者を経由して末端の一般消費者に転々流通するところのものであり、かつ、登録商標が付された商品を正規なルートによって流通過程におく場合には、最終的な中間流通業者(小売業者)が一般消費者への商品の移転(販売)をするところまでが登録商標の使用というべきである。そして、商標法第50条の規定に基づく審判については、必ずしも登録商標の使用に係る当該商品の製造者が商標権者である必要はなく、販売元又は小売業者を含めた中間流通業者が商標権者又は使用権者であって、そのいずれかの者によって登録商標が取消請求に係る指定商品について使用されていれば、その指定商品に係る商標登録の取り消しを免れるというべきである。
そうすると、本件商標が付された「黒丸に3」の項及び「黒丸に5」の項に係る当該ザックは、請求人が製造し、これを輸入した「有限会社セロトーレジャパン」が中間流通業者として、被請求人(商標権者)に納入した正常の商取引になるものであって、被請求人は、請求人が本件商標を付し・製造した当該ザックを継続して自己の取り扱う商品として販売するものであり、その販売促進のための広告宣伝手段の一である商品総合カタログの体裁をも整えた冊子を編集発行することは、その流通に関して商標権者が自己の業務に係る商品であること(小売業者としての個別商品毎の出所表示)を表すものであって、その商品に対する消費者との間に責任を負うことを約した商品の取引に付随するものである。
(エ)甲第2号証の裏表紙には、「平成10年4月30日発行」、「ICI石井スポーツ」の各記載が認められる。
この点に関し請求人は、甲第2号証はその発行日も明確でなく、また、雑誌等の発行日は、裏表紙等に記載された「発行日」より前であることが多いから、甲第2号証が本件審判請求の登録日前3年以内に日本国内において頒布されたか否か判断はできない旨主張する。
しかしながら、裏表紙の該記載からして、該冊子(甲第2号証)は、被請求人(商標権者)により、本件審判請求の登録日である平成13年3月28日前3年以内に発行され頒布されたものというべきであって、たとい、該冊子がこれ以前に発行されたものであるとしても、一般の週刊誌ないし月刊誌等の発刊事情とは異なり、該冊子にあっては、1998年(平成10年)から1999年(平成11年)に亙る販売時期を対象に発行されるものである点をも考慮すれば、本件審判請求の登録日前3年以内に日本国内において頒布されたものとみるのが自然である。
(2)以上の(ア)ないし(エ)に認定のとおり、商標権者は、その取り扱いに係るアウトドア用品の一として、本件審判請求に係る指定商品中の「かばん類」に属する「ザック」について、その販売目的のための広告宣伝手段の一としての取引書類(カタログ類)を作成し、これを本件審判請求の登録日前3年以内に日本国内において頒布し、これの第25頁及び第26頁には、当該ザック(写真)に本件商標と社会通念上同一といえる「CERRO TORRE」の文字を付し、その仕様を記述した項目欄にも本件商標と同じくする「セロトーレ」の文字を使用していることが認められるものである。
そうすると、本件商標は、本件審判の請求に係る指定商品中の「ザック」に付して、譲渡し、引き渡し、ないしは輸入され、あるいはこれに関する広告に付して使用されていたものというべきであって、かかる使用は改正前の商標法第2条第3項第1号、同第2号又は同第7号でいう商標の使用に該当するものというのが相当である。
したがって、被請求人は、審判請求の登録前3年以内に日本国内において、その請求に係る指定商品中の「かばん類」に属する「ザック」について、本件商標の使用を証明し得たものといわなければならないから、商標法第50条の規定により、本件商標の登録を取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-12-16 
結審通知日 2002-12-19 
審決日 2003-02-17 
出願番号 商願平5-43419 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (018)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 実芦葉 松美 
特許庁審判長 宮下 正之
特許庁審判官 高野 義三
高橋 厚子
登録日 1996-04-30 
登録番号 商標登録第3144740号(T3144740) 
商標の称呼 セロトーレ 
代理人 大家 邦久 
代理人 千葉 博史 
代理人 成合 清 
代理人 瀬戸 昭夫 

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