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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない 111
管理番号 1078173 
審判番号 取消2001-30904 
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-07-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2001-08-17 
確定日 2003-05-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第1430894号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1430894号商標(以下「本件商標」という。)は、「ドルチェ」の片仮名文字を横書きしてなり、昭和52年6月25日登録出願、第11類「民生用電気機械器具、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和55年8月28日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の指定商品中『電気通信機械器具』について、その登録を取り消す。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
1 請求の理由
被請求人は、本件商標を継続して3年以上日本国内において、その指定商品中「電気通信機械器具」について使用していない。又本件商標には、商標登録原簿に示すとおり、専用使用権者は存在しない。更に、通常使用権者として本件商標を使用している者も存在しない。
よって、本件商標は、その指定商品中「電気通信機械器具」についての登録は、商標法第50条の規定により取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)本件商標の使用許諾契約について
被請求人は、被請求人と日本ビクター株式会社の間で1988年12月8日付で本件商標に関する使用許諾契約(以下「契約書」ともいう。乙第4号証1/3、2/3)を締結し、これを修正するための1998年11月30日付覚書(乙以下「覚書2」という。第4号証3/3)により、かかる契約は2003年12月8日まで延長し、有効としている。
しかしながら、請求人は、以下の理由によりこれを否認する。
(ア)その契約期間は「締結日から5年間」と定められているところ、契約書と覚書2との間には約5年という無関係の状況がある。
(イ)契約書の契約対象の商標は登録商標1920246号「DOLCHE」及び登録商標1430894号「ドルチェ」であるのに対し、覚書2の契約対象の商標は登録商標第1430894号「ドルチェ」と規定し、契約書と覚書2は、客体が異なっている。
また、契約書の使用対象はスピーカーで、欧米風のファッション性を重視する商品であるから、商標は英文字で表示されるのが常態であるところ、契約書と1993年12月2日付け覚書(乙以下「覚書1」という。乙第33号証)では、登録商標「DOLCHE」が登録商標「ドルチェ」より後の登録であるにも拘わらず先に表示されており、上記契約は、登録商標「DOLCHE」を主たる目的として締結されたものであって、登録商標「ドルチェ」は称呼が同一であるところから契約対象に加えたものにすぎないと推定され、契約書と覚書1とは同一性、連続性がない。
(エ)覚書2の日本ビクター株式会社の居所は、契約書と締結者の居所と異なっている。その上、覚書2の捺印者は理事にすぎず、日本ビクター株式会社の代表権がないこと明らかで、契約者は同一とは確認し難い。
(オ)覚書2の項目において金額が抹消されており、契約条件として、代償としての対価を定め、これを契約書に規定することは必須事項であるから、覚書2は、契約上極めて重要な要素が欠缺したものといえ、全体として不成立か或いは無効であるといわざるを得ない。
(2)「ドルチェ」の文字の使用について
乙第1号証のカタログ表紙にはスピーカーのパンチングメタルの大きな写真と、特殊書体で大きく書かれた別掲(1)のとおりの「DOLCE2」(構成中「2」の文字は実際はローマ数字であるが、以下「2」を表示する場合は、このように表記する。)の文字を表示し、かつ、その右下に、同じく別掲(1)のとおりの「DOLCE2」の文字が表示されている2つのスピーカーユニットの写真が表されているところ、「ドルチェ」の文字は、カタログ冊子の中の一つの頁の右上部分に書かれた文として「ニュアンスを聴く、新しいドルチェです。」という記述的な文中に表されているすぎず、商品取引の場において自他商品識別機能を発揮しているとはいえない。その上、音響電気機械であるオーディオのスピーカーについては、英語の商標が採用されているのが現状であるところから、「ドルチェ」と「DOLCE」とが、称呼及び観念上結びつけて認識されるものではない。
したがって、この「ドルチェ」の文字が、商標法上、商標としてスピーカーに使用されているものではない。
(3)「DOLCE」の文字の使用について
(ア)乙第1号証においてスピーカーに表示されている文字は、筆書き風パンク・スクリプト様でイタリック書体という特異な「DOLCE」の英文字からなり、かつ、「D」と「L」の文字が大きく表示されているのに対し、本件商標は、階書体で同大の「ドルチェ」の片仮名文字からなっており、両商標間には、英文字と片仮名文字という国語としての文字の点で異なり、かつ、書体も異なっているという極めて大きな差異が存在している。
まして、わが国のオーディオ機器の商標は生産地との関係上英語風に称呼されるのが常態であるところから、「DOLCE」の英文字は、わが国のオーディオ機器の取引者、需要者には、「ドルセ」と称呼されるというべきである。一方、「ドルチェ」の片仮名文字を英文字で表示するときはローマ字表示では「dorutye」又は「doruche」、英語風表示では「dolche」と表示される。このように「DOLCE」の文字は、多くの表示方法がある上、わが国で一般に行われていない「CE」を「チェ」と発音するものとして表記することはない英文字をもって書してなるものである。
また、「DOLCE」は、特に後半部については、語頭が英文字「D」であるところから、その後半部も英語であろうとの推察の上に立ってみた場合にはじめて「LCE」と認識できるという特異な表示態様である。
(イ)契約書の冒頭部において、英文字商標「DOLCHE」(登録第1920246号)が片仮名文字商標「ドルチェ」と共に記載され契約の対象とされている。この事実から、被請求人自身も日本ビクター株式会社も「ドルチェ」の英文字表記としては「DOLCHE」であると認識していることは明らかである。
(ウ)被請求人は、「日本では腕時計の分野においては、セイコー株式会社グループが販売するドルチェブランド時計が高級ブランド時計として有名であり、・・ドルチェはローマ字表記でDOLCEであり、DOLCEはドルチェと称呼されると認識されている」旨の主張しているが、仮に、「DOLCE」は「ドルチェ」と称呼するということが事実であったとしても、腕時計とスピーカーとでは、取引者、需要者が異なっているから、スピーカーの分野において同一の認識に立つものとはいえない。
(エ)被請求人は、請求人の商願2001-74871号に係る「ドルチェ/DOLCE」商標について言及しているが、これは、「ドルチェ」の英文字表記には多様な方法があり、その中でも「DOLCE」は特殊な表記であって、「ドルチェ」との間に同一性がないところから英文字を併記したもので、同一性があるとの認識に立っているものではない。
被請求人は、本件商標について商標権を保有しているにも拘わらず、商願2001-91634号(商願2001-74871は誤記)の「ドルチェ/DOLCE」を商標登録出願(甲第8号証)している。この事実は、被請求人自身が「ドルチェ」と「DOLCE」の間には同一性がないとの認識に立っていることの証左といえる。
したがって、スピーカーに表示されている「DOLCE」の文字のこのような表示が、本件商標と社会通念を考慮しても、同一性がないことは明らかで、製品本体上について本件商標を使用していることにはならない。
(4)「ドルチェ・エテルノ」の文字及び別掲(2)のとおりの文字の使用について
(ア)乙第3号証の「ドルチェ・エテルノ」の文字は、該表示が仮に商標であるとしても、これは「ドルチェ」とは同一でも類似でもない別異の商標であって、本件商標を使用するものではない。すなわち、「ドルチェ・エテルノ」の文字は、外観上まとまりよく一体的に表されており、又これより生ずる「ドルチェエテルノ」の称呼も冗長というべきものではなく、よどみなく一連に称呼し得るものであるから、この構成文字中の「ドルチェ」の文字部分のみが独立した標識部分として認識され得ることはない。したがって、「ドルチェ・エテルノ」の表示は、構成全体をもって一体不可分の造語よりなるものと認識し把握されるべきものである。
このことは、審判・異議事件に徴し、首肯される審決又は異議決定がされている(甲第3号証ないし甲第6号証)。
したがって、「ドルチェ・エテルノ」の文字は、本件商標を使用するものではない。
(イ)同じく、別掲(2)のとおりの文字の使用については、「DOLCE」文字と本件商標の間に社会通念を考慮にいれても同一性はなく、「DOLCE」の文字を商標として使用していることにはならないことは上記(3)の項で記載したとおりである。
(5)「ドルチェ/DOLCE」が付されたSX-500シリーズのスピーカーの著名性について
該スピーカーが著名性があるとの事実については、請求人は不知である。
被請求人は、「該スピーカーは、14年間も連続して専門家による高評価を受けており、音響製品分野の需要者にとっては著名な商標となっている。」旨の主張をしているが、カタログ(乙第1号証)の第2頁では、その冒頭部に続いて「音楽再生に自然素材の豊かな表現力を取り戻し、ひとつの方向を作りあげてきたSX500シリーズ。その第5世代である、SX-500DOLCE2、誕生です。」(甲第9号証)と記載されている。この記載からみて、「DOLCE2」は、SX-500シリーズの中の一つのモデルにすぎず、SX-500が「DOLCE」を示すものではない。
したがって、仮にSX-500シリーズのスピーカーがロングセラーを続けたとしても、このことをもって、「DOLCE」が著名であるということはできない。
(6)カタログが頒布された事実について
(ア)乙第1号証のカタログが需要者に頒布された事実は明らかではないから、そのカタログへの記載をもって、本件商標をスピーカーについて使用したことにはならない。
また、その作成日が最終頁の右下に記載の1995年5月であり(甲第7号証)、商標法第50条第2項で規定する「審判の請求の登録前三年」より3年以上前に作成されたものであるから、本件審判における商標使用の証拠とすることはできない。
(イ)請求人は、「ロングセラー商品のカタログが3年以上にわたって市場で頒布されることは良くあることであり・・」と述べているが、本件カタログが3年以上にわたって頒布され続けたことを具体的に述べているものでなく、又その証拠も提示されていない。更に、乙第28号証ないし乙第31号証をもって、全てのSX500シリーズで「DOLCE」及び「ドルチェ」が使用されているとはにわかに信じ難い。
(7)請求明細書(控え)(乙第2号証)について
(ア)金銭の支払い請求は債務者である請求先の存在が大前提となるが、請求明細書(控え)は、「得意先名」の記載がないから、請求明細書として成立しない。
(イ)請求明細書(控え)に表示されている得意様コードによって請求先が特定されているか否かについては、請求人は不知であるが、仮に特定できるとしても、得意様の情報等を検索するために、それは自社内の事務担当者の処理上の便宜にすぎず対外的な取引者との書類として認定できない。
(ウ)請求明細書(控え)は、「(経理用)」の記載があるところからみて、経理以外の者が作成した社内文書であって、取引の相手方との間で交付された取引書類ではない。
(エ)請求明細書(控え)は、「SX-500D2」(「2」はローマ数字、以下同じ)と記載されているが、この表示がカタログ(乙第1号証)に表示されている特殊態様の「DOLCE2」を意味するものとは、認識できないから、該書類をもって本件商標の使用の事実を証するための取引書類とすることはできない。
(8)上記のごとく、被請求人の主張は、妥当でない根拠に基づいている。
よって、被請求人の主張には、理由がない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由及び弁駁に対する答弁を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第33号証(枝番号も含む。)を提出した。
1 本件商標の使用許諾契約について
(1)被請求人と日本ビクター株式会社との間には本件商標に関して1988年12月8日付で使用許諾契約が締結された。これを修正する覚書2が1998年11月30日で締結されており、かかる契約は2003年12月8日まで期間延長され有効に存在している。
(2)該契約書に関する請求人の主張について
請求人は、契約書について、(ア)契約書と覚書2との間には約5年空白期間がある(イ)契約書と覚書2の客体が異なる(ウ)契約書及び覚書2中の金額が抹消されているから、該覚書2は不成立又は無効である旨主張している。
しかしながら、(a)使用許諾契約は、乙第33号証として提出する1993年12月2日付覚書1によって期間延長され、更に、前記覚書2で2003年12月8日まで期間延長されたものである。したがって、日本ビクター株式会社は、上記の有効な契約に基づく、被請求人が保有する本件商標の通常使用権者である。
(b)また、契約書と覚書2、いづれも商標登録第1430894号が客体となっており同一性、連続性がある。
(c)更に、契約書及び覚書2原本には当然のことながら対価の金額は記載されている。上記契約及び覚書2が有効に成立していることは、両社が捺印していることで十分担保されており、金額は本不使用取消請求審判事件とは無関係で、契約対価は企業秘密に属するものであり、審判請求事件関係の書類を第3者も閲覧等できることから、金額部分を伏せたものを証拠として提出したものである。
2 本件商標の使用事実について
本件商標の通常使用権者である日本ビクター株式会社(以下「日本ビクター株式会社」という。)は、1995年5月作成のスピーカーシステムに関するカタログ内(乙第1号証)及び2001年3月作成の同カタログ内(乙第3号証)において審判請求の対象となった「電気通信機械器具」に属するスピーカーについて本件商標の「ドルチェ」を使用すると共に、当該カタログの表紙、及びカタログ内のスピーカー写真から分かるように、製品本体上に本件商標と社会通念上同一と認められる「DOLCE」商標を使用している。
また、乙第1号証で紹介されているスピーカーのモデル番号SXー500D2は、乙第2号証の請求明細書(控え)により、又乙第3号証のカタログで紹介されているスピーカーのモデル番号SXー500DEは、乙第11号証ないし乙第13号証の請求明細書(控え)により本審判請求前3年以内に市場で取引されている。
(1)「ドルチェ」の文字の使用
(ア)商標というものは通常、各社の広告物のキャッチコピーの文中でも使用されており、自他識別標識としての商標の役割を果たしている(乙第5号証及び乙第6号証)。
乙第1号証においても、本件商標である「ドルチェ」は、「ニュアンスを聴く、新しいドルチェです。」という広告物の文中で使用されているところ、ドルチェという言葉は本来「甘美な、柔らかな」というイタリア語の形容語であるが、これが形容詞的な意味合いで使用されていないことは上記文中の文書構造から明確であり、「ドルチェ」は本来の意味から離れている。また、「ドルチェ」は他の説明語句と比較して数倍の大きさで記載され、近傍には他の説明語句はなく、背景には「DOLCE」と刻印されたスピーカーの写真が大きく掲載されている。
これらを考慮すれば、通常一般人は、「ドルチェ」がスピーカーの商標であり、「ドルチェ」と「DOLCE」が同一性をもって使用されていることを容易に認識し得るものである。
(イ)日本ビクター株式会社のスピーカーSX-500シリーズは、下記「(3)(イ)」で詳細するように、1988年の販売開始より今日に至るまで商標「ドルチェ」及び「DOLCE」が使用されており、毎年のように音響機器の専門雑誌からベストバイの上位商品に選定されている。
したがって、「ニュアンスを聴く、新しいドルチェです」という表現も、「ドルチェ/DOLCE」で知られているスピーカーシリーズの「新しいドルチェ(モデル又はシリーズ)です」という表現であることは、音響製品の需要者には明らかであり、「ドルチェ」は商標として使用されている。
(2)「DOLCE」の文字の使用
(ア)乙第1号証が示すように「ドルチェ」のローマ字表記である「DOLCE」は、カタログ内及び製品本体に大きく商標として表記されている。
そして、以下(イ)に述べるように、日本において「ドルチェ」のローマ字表記は「DOLCE」であると一般に認識されており、又音響製品分野においても、日本ビクター株式会社が販売する「ドルチェ/DOLCE」を用いたスピーカーが有名な商標であるので、「ドルチェ」のローマ字表記は「DOLCE」であり、逆に「DOLCE」はドルチェと呼称、認識されており、本件商標と商標「DOLCE」は社会通念上同一性がある。
(イ)日本では腕時計の分野において、セイコー株式会社グループが販売するドルチェブランドの時計が高級ブランド時計として有名であり、「ドルチェ」は、時計本体に「DOLCE」と表記されて大々的に広告・宣伝されることにより(乙第7号証)、「ドルチェ」のローマ字表記は「DOLCE」であり、「DOLCE」は「ドルチェ」と呼称することがよく知られ、又腕時計とスピーカーの需要者は、共に売り場を共通にすることも多い一般消費者であって、「DOLCE」イコール「ドルチェ」と認識されている。
(ウ)被請求人は、「ドルチェ」を含む商標登録出願(乙第8号証)をしたもので、ローマ字表記も併記したものはすべてローマ字表記として「DOLCE」と表記している。請求人も、商願2001-74871号で「ドルチェ/DOLCE」を商標登録出願しており(乙第9号証)、これは請求人自身もドルチェはローマ字表記では「DOLCE」であり、「DOLCE」は「ドルチェ」と呼称されると認識されている証左である。
(エ)請求人は、「DOLCE2」(乙第1号証)のロゴが特異な表示態様であるから「ドルチェ」と社会通念上同一性がない、としているが、該「DOLCE」の文字は、判読出来ないような口ゴ化はされておらず、通常一般人であれば「DOLCE」と認識できるものである。
(3)「ドルチェ・エテルノ」の文字の使用
(ア)請求人は、乙第3号証において「ドルチェ・エテルノ」と「ドルチェ」は同一でも類似でもない別異の商標であって、本件商標を使用するものではない」と主張するが、請求人が示す審決又は異議決定(甲第3号証ないし甲第6号証)は、以下のような特別な事情、背景を持たない商標の類似判断であり、本件不使用取消審判請求事件において考慮すべきでない。
(イ)日本ビクター株式会社が販売する「ドルチェ/DOLCE」商標が付されたSX-500シリーズのスピーカーは、音響製品の専門雑誌「Stereo」(乙第14号証ない乙第27号証)が主催する音響製品評論家による「スピーカーシステム」(価格帯別)のベストバイ商品に、1988年から2001年の14年間連続して選定され、特に、1989年から1993年、1998年から2000年まで第1位に選定され、音響製品分野の需要者にとっては著名な商標となっている。
該SX-500シリーズのスピーカーは、1988年の販売以来、改良を加え、SX-500、SX-500 2(「2」はローマ数字、以下同じ)、SX-500SPirt、SX-500DOLCE、SX-500DOLCE2、SX-500DEとモデルが変更されているが、常に「ドルチェ/DLOCE」を用いて広告・宣伝及び販売をしている。当初は「DOLCE/ドルチェ」を使用していた(乙第28号証ないし乙第30号証)が、その間にモデルが変わると共に、「ドルチェ/DOLCE」という上位又は主たる商標の下で「DOLCE2」、「エテルノ」という下位又は副次的商標を用いている。
また、スピーカー本体に表示されている「エテルノ」のローマ字表記の「ETERNO」(乙第3号証、乙第24号証及び乙第31号証)は、ドルチェのローマ字表記「DOLCE」に比較して非常に小さく表示されていると共に、そのタイプフェースも全く異なっている。
したがって、「ドルチェ/DOLCE」が、日本ビクター株式会社のスピーカーの商標として音響機器の需要者及び一般需要者の間で有名であること及び製品本体に使用されている 「ETERNO Dolce」という使用態様にもかんがみるなら、「ドルチェ・エテルノ」(乙第3号証、乙第24号証及び乙第31号証)の表示についても、「ドルチェ」シリーズのエテルノ版という意味合いで使用されていることは明確であり、「ドルチェ」は商標として使用されている。なお、著名となった商標と共に、下位又は副次的な商標を用いてシリーズ化することは一般的な商標の使用・活用例である(乙第32号証)。
(4)以上、要するに、本件商標は、乙第1号証、乙第3号証、乙第24号証及び第31号証に示すように、又本件商標と社会通念上同一の範囲内にある「DOLCE商標」も乙第1号証、乙第3号証、乙第24号証及び第31号証が示すように実際に使用されている。
(5)「ドルチェ/DOLCE」商標が著名でない旨の請求人の主張について
モデル番号SX-500シリーズのスピーカーは、「DOLCE」及び「ドルチェ」が使用されていることは、乙第28号証ないし乙第31号証から明白である。前記「Stereo」誌では、SX-500シリーズとして言及されているが、すべてのSX-500シリーズで「DOLCE」及び「ドルチェ」が使用されており、スピーカー分野において「DOLCE」及び「ドルチェ」は、日本ビクター株式会社の商標として著名となっている。
(6)カタログが需要者に頒布された事実はない旨の請求人の主張について
(ア)乙第1号証のカタログは、標準価格等を表示した一般需要者向けであり、この種のカタログが広告として電気販売店等で製品の卑近に展示され、当該製品に興味を持たれた顧客、需要者に配布されるものであることは、立証の必要のない自明のことである。
(イ)請求人は、該カタログの印刷日が1995年5月であり、審判請求の登録前3年以上前に作成されたものであるから、本件審判における商標使用の証拠とすることはできない、とするが、ロングセラー商品のカタログが3年以上にわたって市場で頒布されることはよくあることであり、モデル番号SXー500D2というスピーカーは、審判請求の登録前3年内の1998年9月19日に得意先に販売されている(乙第2号証)。
(ウ)被請求人は、乙第3号証の日本ビクター株式会社のカタログにおいても、「ドルチェ」及びこれと同一性を有する「DOLCE」を使用しており、かかるカタログは、2001年3月に作成、頒布されているものである。該カタログに記載のスピーカーのモデル番号「SX-500DE」は、1999年から2001年にかけても得意先に販売されており(乙第11号証ないし乙第13号証)、かかる使用は審判請求の登録前3年内のものである。
(7)請求明細書(控え)(乙第2号証)について
請求人は、(ア)請求明細書(控え)の得意先が伏せてあることから、請求明細書(控え)は証拠として有効性がない(イ)請求明細書(控え)は、「(経理用)」と記載されていることから、経理以外のものが作成した社内文書であり、相手方との間で交付された取引書類でない(ウ)請求明細書(控え)には、「SX-500D2」と記載されているが、この表示がカタログ(乙第1号証)に表示されている特殊態様の「DOLCE2」を意味するものとは認識できない旨主張している。
しかし、(a)請求明細書(控え)中の「得意様」欄には債務者である請求先の記載はあるが、請求明細書(控え)を提出するにあたり、具体的得意先は審判事件において無関係で、通常使用権者の営業秘密に属する事項であることから名前を伏せ、本審判請求事件においてこれを実線で消して判読しづらくしているだけあるから、元になる請求書明細は有効に成立し、また、その一部である請求明細書(控え)も債務者である得意先は得意先コードによって特定されており、証拠としての有効性は損なわれない。
(b)請求明細書(控え)は、日本ビクター株式会社が得意先コード0420にて特定される得意先に向けて発行した請求明細書の控えを経理部門で会計帳簿類の一つとして保管しているものの写しで、請求明細書は、得意先への代金請求の際に発行される取引書類であるから、その控えも取引書類の一つである。
(c)被請求人は、該カタログ中のモデル番号「SX-500D2」のスピーカーについて「ドルチェ」及び「DOLCE」を使用しており、そのモデル番号SXーD5002が、請求明細書(控え)が示すように、審判請求の登録前3年内の1998年9月19日に販売されていると主張するものである。
(8)以上のとおり、被請求人の通常使用権者が、本件商標及び本件商標と社会通念上同一と認められる「DOLCE」商標を、審判請求に係る指定商品である「電気通信機械器具」に属するスピーカーついて、審判請求登録日の過去3年間継続して使用していることは明白である。

第4 当審の判断
1 本件商標の使用許諾契約
(1)被請求人と日本ビクター株式会社との間に締結された本件商標に関する使用許諾契約書(乙第4号証1/3、2/3)証、覚書1(乙第33号証)、覚書2(乙第4号証3/3)によれば、日本ビクター株式会社は、2003年12月8日まで本件商標の通常使用権者と認められる。
(2)使用許諾契約書に関する請求人の主張について
請求人は、使用許諾契約について(ア)契約書と覚書2との間には約5年という無関係の状況がある(イ)契約書は、覚書2とはその客体が異なり、又契約書と覚書1は、登録商標「DOLCHE」を主たる目的として締結されたものであるから、これら契約と登録商標「DOLCHE」を対象とされていない覚書2とは同一性、連続性がない(ウ)覚書2の日本ビクター株式会社の居所は、契約書と覚書2の締結者の住所と異なっており、又覚書2の捺印者は理事にすぎず、日本ビクター株式会社の代表権がなく、契約者は同一とは確認し難い(エ)覚書2中の契約金額が抹消されていることから、覚書2は、不成立又は無効である旨述べている。
しかしながら、(a)使用許諾契約は、覚書1により、本件商標の通常使用権は1998年12月8日まで延長され、更に覚書2により、2003年12月8日まで延長されたもので、有効に存続しているものと認められる。
(b)契約書、覚書1、覚書2は、本件商標の登録第1430894号及び「ドルチェ」の文字が一貫して記載されており、その契約は客体が異ならず、同一性、連続性があるものである。
(c)覚書2の日本ビクター株式会社の居所は変更されているが、企業のある部署が本社の移転とともに、又は本社と別の支社、又は工場等に移転することは普通に行われていることである。また、覚書2における記名、捺印した者の「野原時雄」は、日本ビクター株式会社において、その肩書きが「理事」と表示され、商標等の知的財産部部長の地位にあるものであって、法人の担当者と認められるものであるから、捺印者が会社の代表権のないことのみをもって、該覚書2が否定されるものではない。したがって、契約書、覚書1及び覚書2について、契約者の同一性がないとはいえない。
(e)覚書2における契約金額については、書かれたものである(覚書2正本を裏から透かしてみると表示されている)が審判請求事件関係の書類を第3者も閲覧できることから、判読しづらくし、伏せたものを証拠として提出したものと認められる。
以上のとおりであり、請求人の前記主張は採用できない。
2 本件商標の使用事実
(1)記述的文中に表示された「ドルチェ」の文字が自他商品の識別標識として、使用されているか否かについて
乙第1号証のカタログに表示されている「ドルチェ」の文字は、「熟成はふくよかさをもたらす。・・新しいドルチェです。」の文中にあるが、「ドルチェ」の文字は、文脈上、印象あるものとして特定されているものと理解される。
また、背後のスピーカー写真が表示されており、更に、商標は文中にあっても使用されることは普通に行われることであるから、これらの事情を考慮すれば、「ドルチェ」の文字は、文脈に即してみて、「被請求人の扱いに係る新しいドルチェシリーズのスピーカー」を容易に特定でき、スピーカーに化体した「ドルチェ」の商標として優に認識し得るものといえ、かつ、本件商標と同一のものと認められる。
請求人は、「ドルチェ」の文字は、記述的な文中に表され、商品取引の場において自他商品識別機能を発揮しているとはいえない、旨主張するが、前記のとおりであり、その主張は採用できない。
(2)欧文字「DOLCE2」の使用が本件商標と社会通念上同一の使用であるかについて
同じく、乙第1号証のカタログの広告に中にあって、「DOLCE2」の文字は、SX-500シリーズのスピーカーを表彰していると認められる。
しかして、「DOLCE2」において、その構成中「2」はローマ数字であって、該数字は商品の型式のために使用される記号、符号と理解、認識される部分であるから、識別力を有する部分は「DOLCE」の文字にある。
ところで、「dolce」の文字は、音楽の演奏指示用語である「甘美の意味」を有し、その発音記号からすると「ドルシェイ」又は「ドルチ」と発音される(乙第10号証)が、一方で、セイコー株式会社グループは同じ綴りの「DOLCE」の文字からなる標章を高級時計本体に付して販売し、又広告、宣伝をしており(乙第7号証)、該文字は、「ドルチェ」と称呼される、著名な標章として知られているところである。
してみると、「DOLCE」の文字は、一般的にも「ドルチェ」と呼称することとしてある程度は認識されているものとみて差し支えない。
したがって、「DOLCE」の文字は、本件商標の「ドルチェ」と称呼、観念を同一にし、社会通念上同一のものと認められる。
請求人は、「DOLCE」と「ドルチェ」は、国語としての文字及び書体も異なっているから、社会通念上同一の商標として使用されているものではない、旨主張しているが、前記のとおりであり、その主張は採用できない。
(3)「ドルチェ・エテルノ」及び別掲(2)のとおりの文字の使用が本件商標と社会通念上同一性があるかについて
乙第3号証、乙第24号証及び乙第31号証に表示されている「ドルチェ・エテルノ」の文字は、「ドルチェ」と「エテルノ」の間に中黒を介在してなる構成であり、又別掲(2)のとおりの文字は、「DOLCE」の文字を筆記体で大きく表示し、その上段右端に活字体の「ETERNO」の文字を小さく表示した構成であって、「ドルチェ」と「エテルノ」及び「DOLCE」と「ETERNO」との文字が常に視覚的に分離された状態で表してなるものである。
そして、「DOLCE」及び「ドルチェ」よりなる標章がステレオ専門雑誌にスピーカーの標章として紹介、掲載され、及び商品カタログで広告(乙第18号証ないし乙第31号証)したきたことからすれば、その全体が「ドルチェ」シリーズの「エテルノ版」及び「DOLCE」シリーズの「ETERNO版」のように認識されていたものと推認されるものであって、構成中「ドルチェ」及び「DLOCE」の部分は、独立しても識別機能を果たしていたものとみるのが相当である。
したがって、「ドルチェ・エテルノ」及び別掲(2)のとおりの文字は、その構成中の「ドルチェ」及び「DLOCE」において、本件商標と社会通念上、同一の商標として使用されていたというべきである。
請求人は、「ドルチェ・エテルノ」の文字は、審決及び異議決定(甲第3号証ないし甲第6号証)における登録商標と片仮名文字とその中間の中点にからなる点において軌を一にするから、一体不可分の造語商標として認識、把握すべきとしているが、該「ドルチェ・エテルノ」文字は前記審決及び異議決定における登録商標とは前記のとおり事案を異にしていると認められる。また、請求人は、別掲(2)のとおりの文字は、「DLOCE」が「ドルチェ」と同一性がないことから、本件商標とは同一性はない、とするが、いずれも前記判断のとおりであり、その主張は採用できない。
以上によれば、「DOLCE2」、「ドルチェ」、「ドルチェ・エテルノ」及び別掲(2)のとおりの文字からなる使用商標は、本件商標と同一、又は社会通念上同一の商標というのが相当である。
(4)使用商標の審判請求3年以内の使用
(ア)乙第1号証のカタログに表示されているスピーカーSX-500D2の記号は乙第2号証の請求明細書(控え)に表示されている型式番号のSX-500D2(「2」は算用数字の2であるが、実際はローマ数字の2であるものを、迅速な実際の取引では書き慣れた算用数字で表示されることも経験則上あり得る)と符合することから、日本ビクター株式会社は、審判請求3年以内の1998年9月19日に本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標が付されたスピーカーを販売し、かつ、その際に該商標が表示されているカタログの頒布がなされたことも推認される。
また、乙第3号証のカタログに表示されているスピーカーSX-500DE記号は乙第11号証ないし乙第13号証の請求明細書(控え)に表示されている型式番号と符合するところ、日本ビクター株式会社は、審判請求3年以内の1999年4月24日、2000年6月13日及び2001年8月23日に本件商標と社会通念上同一の商標が付されたスピーカーを販売し、かつ、その際に該商標が表示されているカタログの頒布がなされたことも推認される。
(イ)請求人は、(a)乙第1号証のカタログは、その作成日は1995年5月であって、審判請求の登録前3年以上前のものであるから、本件審判における商標使用の証拠とすることはできない(b)乙第2号証の請求明細書(控え)は、「得意先名」の記載がない、又「(経理用)」の記載があるところからみて、経理以外の者が作成した社内文書であって、取引の相手方との間で交付された取引書類ではなく、請求明細書として成立しない旨主張する。
しかしながら、この種カタログは大量に印刷され、一般需要者に頒布されるものであり、又商品の売れ筋の商品であれば長期に使用されることがあり得るもので、該カタログは、前記認定したとおり審判請求の登録前3年以内に頒布されたものと推認されるものである。
また、請求明細書(控)は、その「得意先名」について一旦記載されたが、本件審判の証拠書類として提出するために株式会社の以外の名称部分を実線で消したものと認められ、又これは1998年9月分の請求を「SX-500D2」の機種のスピーカーと、他の商品とをまとめて得意先に発行した請求書の控えとなっているところであって、該請求書に表示された商品取引が行われたと推認でき、経理用の控えの文書と認められる。外に不自然なところはない。よって、請求人のこの主張も採用できない。
(5)以上のとおり、本件商標の通常使用権者と認められる日本ビクター株式会社は、取り消し請求にかかる指定商品の「電気通信機械器具」に属するスピーカーについて審判請求前3年以内に、日本国内において本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたものである。
3 まとめ
したがって、本件商標は、商標法第50条の規定により、取り消し請求にかかる指定商品である「電気通信機械器具」についての登録を取り消すことはできない。
別掲 (別掲)
(1)

(2)

審理終結日 2003-03-03 
結審通知日 2003-03-06 
審決日 2003-03-25 
出願番号 商願昭52-42182 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (111)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 舩坂 俊昭 
特許庁審判長 野本 登美男
特許庁審判官 山下 孝子
中嶋 容伸
登録日 1980-08-28 
登録番号 商標登録第1430894号(T1430894) 
商標の称呼 ドルチエ 
代理人 佐々木 晴康 
代理人 木下 雅晴 
代理人 小池 隆彌 

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