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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z09373842
管理番号 1076684 
審判番号 無効2001-35329 
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-07-26 
確定日 2003-04-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4458166号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4458166号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4458166号商標(以下「本件商標」という。)は、平成11年6月23日に登録出願され、商標の構成を標準文字により「日本電通株式会社」とし、第9類「測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電線及びケーブル,ファクシミリ,電話機,電気通信機械器具,電子応用機械器具,電気材料,電話機械器具」、第37類「電気通信工事及びその監理,電気工事,土木・建築工事及びその監理,内装仕上工事・管工事及びその監理,電気通信機械器具の修理又は保守,民生用電気機械器具の修理又は保守,電話機・ファクシミリその他の通信機器の修理又は保守,土木機械器具・建築機械器具の修理又は保守,土木機械器具・建築機械器具の貸与,土地・建築物の測量用機械器具の修理又は保守,配電用又は制御用の機械器具の修理又は保守,事務用機械器具の修理又は保守」、第38類「電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」及び第42類「電気通信工事の設計,電気工事の設計,土木・建築工事の設計,内装仕上工事・管工事の設計,土地・建築物の測量,電子計算機の貸与,電子計算機を使用することにより機能するシステムの設計若しくは保守,電子計算機・汎用アプリケーション・インターネットの使用及び操作方法に関する質問に対する助言,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電気に関する試験・研究,土木に関する試験・研究,建築に関する試験・研究,電気通信機械器具・電話機・電気機械器具・電子応用機械器具又はその他機械器具に関する試験・研究」を指定商品・指定役務として、同13年3月9日に設定登録されたものである。

2 請求人の引用する登録商標
請求人は、本件商標の登録無効の理由として下記の登録商標を引用している。
(a)平成4年9月25日に登録出願され、「株式会社電通」(電通の文字は株式会社の文字に比べて大きく書されている)の文字を横書きしてなり、第37類「建築一式工事,しゅんせつ工事,土木一式工事,舗装工事,石工事,ガラス工事,鋼構造物工事,左官工事,大工工事,タイル・れんが又はブロックの工事,建具工事,鉄筋工事,塗装工事,とび・土工又はコンクリートの工事,内装仕上工事,板金工事,防水工事,屋根工事,管工事,機械器具設置工事,さく井工事,電気工事,電気通信工事,熱絶縁工事,船舶の修理又は整備,船舶の建造,航空機の修理又は整備,自転車の修理,自動車の修理又は整備,鉄道車両の修理又は整備,二輪自動車の修理又は整備,映写機の修理又は保守,写真機械器具の修理又は保守,エレベーターの修理又は保守,火災報知機の修理又は保守,事務用機械器具の修理又は保守,暖冷房装置の修理又は保守,バーナーの修理又は保守,ボイラーの修理又は保守,ポンプの修理又は保守,冷凍機械器具の修理又は保守,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスクその他の周辺機器を含む。)の修理又は保守,電話機の修理,土木機械器具の修理又は保守,ラジオ受信機又はテレビジョン受信機の修理,家具の修理,傘の修理,楽器の修理又は保守,金庫の修理又は保守,靴の修理,時計の修理又は保守,はさみ研ぎ及びほうちょう研ぎ,毛皮製品の手入れ又は修理,洗濯,被服のプレス,被服の修理,煙突の清掃,建築物の外壁の清掃,窓の清掃,床敷物の清掃,床磨き,し尿理槽の清掃,浴槽又は浴槽がまの清掃,電話機の消毒,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものを除く。),土木機械器具の貸与,床洗浄機の貸与,モップの貸与」を指定役務として、同9年3月10日に設定登録された登録第3043883号商標の防護標章登録第3号(以下「引用商標1」という。)。
(b)平成4年9月25日に登録出願され、商標の構成を(a)と同じくし、第38類「移動体電話による通信,テレックスによる通信,電子計算機端末による通信,電報による通信,電話による通信,ファクシミリによる通信,無線呼出し,テレビジョン放送,ラジオ放送,報道をする者に対するニュースの供給,電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」を指定役務として、同9年1月29日に設定登録された登録第3043883号商標の防護標章登録第2号(以下「引用商標2」という。)。
(c)平成4年9月25日に登録出願され、商標の構成を(a)と同じくし、第42類 「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,美容,理容,入浴施設の提供,写真の撮影,オフセット印刷,グラビア印刷,スクリーン印刷,石版印刷,凸版印刷,気象情報の提供,求人情報の提供,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,一般廃棄物の収集及び処分,産業廃棄物の収集及び処分,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),建築物の設計,測量,地質の調査,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,登記又は供託に関する手続の代理,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,通訳,翻訳,施設の警備,身辺の警備,個人の身元又は行動に関する調査,あん摩・マッサージ及び指圧,きゅう,柔道整復,はり,医業,健康診断,歯科医業,調剤,栄養の指導,家畜の診療,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,編機の貸与,ミシンの貸与,衣服の貸与,植木の貸与,計測器の貸与,コンバインの貸与,祭壇の貸与,自動販売機の貸与,消火器の貸与,超音波診断装置の貸与,展示施設の貸与,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与,布団の貸与,ルームクーラーの貸与」を指定役務として、同10年3月27日に設定登録された登録第3043883号商標の防護標章登録第8号(以下「引用商標3」という。)。
(d)平成4年9月30日に登録出願され、商標の構成を(a)と同じくし、第37類「建築一式工事」を指定役務として、同7年11月30日に設定登録された登録第3101341号商標(以下「引用商標4」という。)。
(e)平成7年3月15日に登録出願され、商標の構成を(a)と同じくし、第38類「有線テレビジョン放送」を指定役務として、同8年12月25日に設定登録された登録第3240695号商標(以下「引用商標5」という。)。
(f)平成4年9月30日に登録出願され、商標の構成を(a)と同じくし、第42類「デザインの考案,建築物の設計・測量,写真の撮影,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,オフセット印刷・グラビア印刷・スクリーン印刷・石版印刷・凸版印刷」を指定役務として、同9年12月19日に設定登録された登録第4094346号商標(以下「引用商標6」という。)。

3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証の1ないし同第23号証(枝番号を含む)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第15号について
(イ)請求人の周知・著名性について
請求人は、明治34年に、その前身である日本広告株式会社及び電報通信社の創立に始まり、明治40年に電報通信社を改組した株式会社電報通信社が日本広告株式会社を合併し、通信と広告を併営、昭和11年に通信部門を同盟通信社に移譲し広告専業となる。昭和30年に株式会社電通と改称して現在に至っている(甲第8号証)。
そして、請求人は、戦前の通信業と広告業を兼務していた時代から、「電通」と略称され、売上高日本第一位を達成し、昭和48年には売上高で世界第一位となり、現在でも世界第一位の座を維持している(甲第14号証及び甲第15号証)。
また、請求人は、大正6年頃には請求人の略称として「電通」の名称を使用し(甲第13号証)、昭和25年頃には本社ビル、自社の出版物、広告懸賞論文等の募集等に自社を表わすものとして「電通」の名称を使用している(甲第8号証ないし甲第20号証)。
請求人は、日本国内に多数の関連会社を擁しており、その関連会社のうち、株式会社電通東日本、株式会社電通西日本、株式会社電通九州、株式会社電通北海道、株式会社電通東北の5社は、それぞれ主要都市(32都市)に本社及び支社あるいは営業所を有しており、支社によっては営業所のほか分室を設置して、それぞれが独自の広告業務を行っている(甲第8号証及び甲第9号証)。
そのため、請求人の略称の「電通」は、請求人の業務を表示するものとして、本件商標の登録出願前に、取引者・需要者間に広く認識され、全国的に著名となっているものである。
さらに、登録第3043883号商標には、第37類、第38類、第42類において第3043883号防護第3号、同防護第2号、同防護第8号の防護標章がその著名性を認められて登録されている(甲第2号証の1ないし甲第4号証の2)。
(ロ)請求人の商品及び役務と混同を生ずるおそれについて
本件商標は、「日本電通」と法人格を表わす「株式会社」の文字を結合した商号商標であるとしても、「日本電通」の文字のうち、「日本」は国名を表わし、これを除いた「電通」の文字が主要部を形成し、これをもって前記のとおり我が国の著名な広告会社として知られている請求人の略称と同一の「電通」を表わしたものと容易に理解されるのである。
このように、本件商標には、周知・著名な請求人の商号の商標をその一部に含むことは明らかであり、しかも請求人の関連会社の多くは、周知・著名な商号「電通」に地区名、地域名を付加した商号を使用しているところから、本件商標をその指定商品及び指定役務に使用するときは、請求人又は請求人の支社或いは関連会社の商品又は役務であるかのように出所について誤認・混同を生じさせるおそれが大きいのである。
このことは、平成13年2月22日付け東京高裁の平成12年(行ケ)第458号の判決に徴しても明らかなところである(甲第16号証)。
したがって、本件商標は、他人の著名な商標の文字部分を結合した商標に該当し、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるので、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものである。

(2)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、前記のとおり、主要部が「電通」の文字部分に有ると容易に認識し、理解されるものであるから、「デンツウ」の称呼を生じ、「電通」の観念を有するものである。
これに対し、引用商標(4ないし6)は、「株式会社電通」の文字を書してなるところ、「株式会社」の文字が法人格を表わし、自他役務を識別する標識としての機能を果たさないとされる部分のため、主要部が「電通」の文字部分に有ると容易に認識し、かつ、請求人の著名な略称として理解されているものであるから、引用商標(4ないし6)からは、「デンツウ」の称呼を生じ、「電通」の観念を有するものである。
したがって、本件商標と引用商標(4ないし6)とは、「デンツウ」の称呼を共通にし、「電通」の観念を共通にするものである。
その上、本件商標と引用商標(4ないし6)とは、指定役務について同一又は類似するので、役務について抵触するものであることも明らかである。
したがって、本件商標は、引用商標(4ないし6)と称呼及び観念において相紛らわしい類似の商標であり、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。

(3)答弁に対する弁駁
(イ)「日本」の文字を前部分に含む商号商標の略称部分は不可分一体ものとして認識・把握されるのが通例であるとして、被請求人が挙げている審決例は、「日本」の語と企業の内容(質・内容・効能等)を表わす品質表示語との結合、あるいは、他人の著名な商標を含まない語との結合によるものであって、本件とは事例を異にする不適当なものである。
(ロ)被請求人は、「電通」の語が「電気通信」或いは「電子通信」の省略として取引者・需要者に定着している旨主張しているが、そのような事実はない。
請求人は、昭和24年発足した電気通信省(日本電信電話公社の前身)に、その略称として「電通」の名称を使用されたため、昭和24年から26年にかけて、複数回にわたり、電気通信大臣に対し、「電通」の名称を使用しないようにとの要望書を提出するなどして、同省から善処する旨の解答を得る等(甲第22号証)、「電通」の名称を守るためにあらゆる努力をしてきた。
さらに、請求人は、商取引の国際化に伴い、同じ漢字国圏内の中国、台湾、韓国等に商取引の規模を拡大しており、これらの国においても「電通」の略称が周知・著名となっている。そのため、本件商標は、「電通」の文字を有することにより、請求人の略称「電通」が希釈化されるのみならず、これらの国においては、「日本の電通」と誤認・混同するおそれも有るものである。
(ハ)被請求人は、本件商標が請求人の広告業と無関係の商品、役務を指定商品及び指定役務としている旨主張しているが、請求人は、甲第23号証のとおり、広範な業務を目的としており、広告、広報に関する業務を主体としながら、それに関連する「イベントのパビリオンの建築工事、内装工事、ディスプレイの展示及び装飾、電飾看板等の各種電子装置の企画・制作・施行、映像ソフト・音声ソフトの企画・制作・施行」、「電子技術、インターネット、移動体通信等の通信を利用した各種通信システム等の設計・開発・運用」及び「コンピュータによる情報処理システム、データーシステム、ネットワークシステム等の情報技術の調査・研究・開発」等の業務を取扱っているので(甲第8号証)、本件商標の指定商品及び指定役務とも密接な関連性を有するものである。

4 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同第25号証(枝番号を含む)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第15号及び同第11号について
商号商標は、法人格を示す「株式会社」の部分が省略されることがあるとしても、「株式会社」を除く略称部分全体をもって自他商品識別標識と捉えるのが通例であり、略称部分自体は常に不可分一体のものとして認識・把握されるものである。また、このことは、国名「日本」を前部分に含む商号商標の場合でも同様であり、国名「日本」を含む略称部分全体として常に不可分一体のものとして認識・把握されている(乙第1号証ないし同第9号証)。
また、国名「日本」を前部の文字において含む商号商標も例えば、「日本アルミ」、「日本板硝子」、「日本管財」、「日本銀行」、「日本軽金属」、「日本鋼管」、「日本信販」、「日本製紙」、「日本生命保険」、「日本たばこ産業」、「日本通運」、「日本電気」、「日本電信電話」など数多くあり、取引場裏においては、当該「日本」は単なる国名表示にとどまらず、これに続く後部の文字と結合して、不可分一体の商号商標の略称として「日本〜」と称呼・観念されるのが取引の実情である(乙第10号証)。これらの商号において、「日本」を省略して当該法人を特定することは通例困難である。過去の登録例をみても併存して登録されている(乙第11号証の1ないし10)。
よって、本件商標について「日本」を単に国名表示とみて、「電通」を分離抽出し、「デンツウ」の略称をも容易に称呼されると主張する請求人の主張は、取引の実情及び需要者の認識を看過しており失当である。
また、「電通」という用語は、乙第12号証の1ないし5のように、本件商標の指定商品又は指定役務との関係からすれば、「電気通信」或いは「電子通信」の略称として需要者・取引者において定着している用語であるから、これらの指定商品・指定役務については、「電通」を含む本件の商号商標を使用したとしても、それが直ちに、広告業で周知著名な「株式会社電通」又はこれに関連する会社と出所の混同をするおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、請求人又は請求人の支社或いは関連会社の商品又は役務であるかのように出所について誤認・混同を生じさせるおそれはなく、本件商標と引用商標(4ないし6)の「株式会社電通」とは非類似の商標である。

(2)請求人又は関連会社の商標の使用態様について
請求人又は請求人の支社あるいは関連会社は、そのほとんど全てが「電通」の文字を、株式会社を除く商号中の構成文字の前部分に配置することで、2文字4音の極めてシンプルかつ短音構成の「電通」(デンツウ)自体において当該法人組織を観念し認識し得るものであって、「電通」の東日本、「電通」の九州等の観念において関連会社の商号商標を認識するのである。
よって、国名「日本」を前部分に付ける本件商号商標とは同一に論じられるものではなく、商号としての略称「日本電通」を観念し認識し得ることはない。このことは、例えば、「日本生命保険」や「日本鋼管」などの如く商号の前部分に付けられる国名「日本」を含む商号の場合、「日本・・・」で不可分一体の商号として観念され認識されるのであるから、請求人の関連会社の商号名称との関連において、「日本電通」(ニホンデンツウ)を認識し得る事実は見出し得ない。
甲第16号証の判決は、第35類の「看板による広告」を指定役務とする登録商標「株式会社群馬電通」と、請求人の商号「株式会社電通」との比較であり、請求人が引用している防護標章は、いずれも「広告」を指定役務とする登録商標についての防護標章である。そして、請求人の提出している証拠は、いずれも「広告」についてのものである。
したがって、第35類の「看板による広告」を指定役務としていない本件商標とは一律に論じられるべきものではなく、広告業とは無縁の本件指定商品又は指定役務に関する取引の実情に照らして、「日本電通株式会社」と「株式会社電通」の各商標構成上の相違が与える影響について、個別的に判断されるべきである。

(3)被請求人(商標権者)の事業内容及び本件商号の使用について
被請求人は、昭和22年10月22日に設立され、建設業法などに基づき、特定建設業者として所轄大臣の許可を受け官公庁や民間企業の電気通信設備等に関する総合請負業を主たる事業としている大阪証券取引所第2部上場の会社である。営業ネットワークは、大阪を本社として、東京、京都、名古屋、奈良、神戸など全国の主要な都市圏にまたがっており、主要取引先も西日本電信電話株式会社のほか、日本アイ・ビー・エム株式会社、日本電気株式会社、日本道路公団、大阪市交通局、大阪芸術大学など、電気通信・設備工事、土木・建築工事等の工事・設計などの分野にて主要な取引がなされており、売上高は2001年3月現在で233億円である。また、乙第10号証(東洋経済 会社四季報)には、特色として「電話工事で近畿地区第3位、OA機器・ソフト事業育成で非NTT分野拡大に注力」とあり、単独事業として「情報通信事業52、電気通信事業30、情報システム事業18」と記載されており、「6月にIBMから人材受け入れ、資本・人的関係強化」として、IBMとの資本・人的関係が強い企業体であることが記載されている。そして、工事等の事業は、かかる許認可に基づいてなされるという事業分野の特殊性があり、本件商標の指定役務も、上記の事業内容及びこれに関連する分野に基づいて使用されるものを主体に指定されている(乙第10号証、同第14号証ないし同第22号証)。
したがって、この取引界は、電気通信、工事、土木、建設関係及びこれに関連する事業が主たる事業内容であり、被請求人は、少なくとも、官公庁、NTT及びその関連会社、日本アイ・ビー・エム株式会社などとの実際の取引の事実に基づき、前述した本件商標の指定役務について「日本電通株式会社」を使用しても、引用商標「株式会社電通」と出所の混乱を来すという事実は全くなかった。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び第11号に該当することはあり得ず、無効理由を具有するものではない。

5 当審の判断
(1)請求人の提出に係る甲号各証によれば、次の事実を認めることができる。
(イ)甲第8号証(2000年9月発行の会社案内)、甲第13号証(昭和43年12月株式会社電通発行「電通66周年年表」)、甲第14号証(2000年11月株式会社実務教育出版発行「2002年度版 比較日本の会社/広告会社」)及び甲第15号証(2000年9月東洋経済新聞社発行「会社四季報末上場会社版」)によれば、請求人は、明治34年に、その前身である日本広告株式会社及び電報通信社の創立に始まり、明治40年に電報通信社を改組した株式会社電報通信社が日本広告株式会社を合併し、通信と広告を併営、昭和11年に通信部門を同盟通信社に移譲し広告専業となる。昭和30年に社名を「株式会社電通」と改称して現在に至っている。請求人の平成3年における資本金は46億800万円、平成9年におけるそれは549億2960万円である。
(ロ)甲第13号証ないし甲第15号証によれば、請求人は、戦前に、通信業と広告業を兼務していた時代、積極的な営業活動を展開して、売上高日本第一位を達成した。業務内容が広告業のみとなってからも売上高日本第一位の座を維持しており、戦後の業績をみると、常に日本の広告費の5分の1強から4分の1を下らなかった。昭和48年には、その売上高で世界第一位となり、現在でも世界第一位の座を維持している。原告の売上高は、平成元年には1兆円を超えている。
(ハ)甲第8号証、甲第10号証(昭和13年10月株式会社日本電報通信社発行「電通社史」)、甲第11号証(昭和26年3月株式会社日本電報通信社発行「電通創立五十周年記念誌」)、甲第12号証(昭和25年7月株式会社日本電報通信社発行「創立五十周年記念写真帖」)及び甲第13号証によれば、請求人は、社内において、遅くとも大正6年ころには、自社の略称として「電通」の名称を使用するようになり、昭和25年ころには、本社及び支社の看板に「電通」、「DENTSU」の文字を使用し、本社ビル、自社の出版物、広告懸賞論文の募集等に自社を表すものとして「電通」の名称を使用し、昭和30年には、前記のとおり、商号を「株式会社電通」に改称するに至った。
(ニ)甲第8号証、甲第9号証(甲第8号証の会社案内の付録「DENTSU INFORMATION」)、甲第14号証及び請求人の主張によれば、請求人は、本件商標の登録出願がなされた平成11年6月当時、組織、事業活動ともに大規模なものとなっており、この状態は現在に至るまで続いている。
即ち、請求人は、平成7年には、全国の支社を分離して、五つの地域法人(株式会社電通東日本、株式会社電通西日本、株式会社電通九州、株式会社電通北海道、株式会社電通東北)を設立し、地域に密着した営業体制とし、新聞、雑誌、テレビ、ラジオをはじめとする多様な広告媒体によって広告業務を営んでいる。また、請求人の平成12年11月現在における国内の関連会社は、株式会社電通東日本、株式会社電通西日本、株式会社電通九州、株式会社電通北海道、株式会社電通東北、株式会社電通沖縄、株式会社アド電通東京、株式会社アド電通大阪、株式会社アド電通(名古屋)、株式会社アド電通(北海道)、株式会社電通EYE、電通ヤング・アンド・ルビカム株式会社、電通サドラー・アンド・ヘネシー株式会社、株式会社インピリック電通、株式会社電通パブリックリレーションズ、株式会社電通リサーチ、株式会社電通テック、株式会社電通音楽出版、株式会社電通国際情報サービス、株式会社サイバー・コミュニケーションズ、株式会社シー・エー・エル、株式会社電通ドットコム、株式会社ミュージック・ガリ、株式会社ビーツーアイ、株式会社電通キャスティング アンド エンタテインメント、株式会社電通恒産サービス、株式会社電通マネジメント・サービス等である。その他、上記主要な関連会社である株式会社電通東日本、株式会社電通西日本、株式会社電通九州、株式会社電通北海道、株式会社電通東北は、その傘下に支社あるいは営業所を有している。
そして、それぞれが独自の広告業務を行っているばかりでなく、請求人の関連会社のなかには、それに関連する「イベントのパビリオンの建築工事、内装工事、ディスプレイの展示及び装飾、電飾看板等の各種電子装置の企画・制作・施行、映像ソフト・音声ソフトの企画・制作・施行」、「電子技術、インターネット、移動体通信等の通信を利用した各種通信システム等の設計・開発・運用」及び「コンピュータによる情報処理システム、データーシステム、ネットワークシステム等の情報技術の調査・研究・開発」等の業務をも取扱っている。
(2)上記認定の事実によれば、請求人は、本件商標の登録出願がなされた平成11年6月当時、世界第一位の売上高を有する広告会社で、その事業の範囲は広く日本全国に及び、また、遅くとも昭和25年ころから平成11年まで、約50年間にわたり「電通」及び「DENTSU」の文字を使用して営業活動を営んでいたことが認められ、同事実によれば、「電通」の略称は、請求人の業務を表示するものとして、本件商標の登録出願前に、取引者・需要者間に広く認識され、全国的に著名となっていたことが認められる。そして、このような取引の実情の下においては、「電通」の略称は、請求人及び請求人の業務を想起させる機能を持つに至り、現在に至っているということができる。
(3)しかして、本件商標は、前記のとおり、「日本電通株式会社」の文字を横書きにしてなるものであるところ、その構成中の「株式会社」が法人の種類を表し、「日本」の文字が我が国の国名を表すことはいうまでもないところであり、「電通」の文字は、請求人の著名な略称である「電通」と外観、称呼において同一のものであることが認められる。
そして、請求人は、極めて多岐にわたる商品、役務を事業目的に掲げており(甲第23号証 登記簿の現在事項全部証明書)、現に、数多くの関連会社を有し、関連会社の事業の中には、本件の指定商品・指定役務と密接な関連を有する商品・役務も存在しているばかりでなく、近時における企業経営の多角化の傾向にあることをも併せ勘案すれば、被請求人が本件商標をその指定商品・指定役務について使用するときは、取引者・需要者をして、当該商品・役務が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品・役務であるかの如く、その商品・役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
(4)この点について、被請求人は、「日本」を含む商号は株式会社を除く略称部分全体を常に不可分一体のものとして認識・把握されるものであること、「電通」という用語は本件の指定商品・指定役務との関係においては、「電気通信」或いは「電子通信」の略称として需要者・取引者において定着している用語であること、被請求人は建設業法などに基づき、所轄大臣の許可を受け官公庁や民間企業の電気通信設備等に関する総合請負業を主たる事業とするものであり、少なくとも、官公庁、NTT及びその関連会社、日本アイ・ビー・エム株式会社等との実際の取引において、本件商標の指定役務に「日本電通株式会社」を使用しても、「株式会社電通」と出所の混乱を来したという事実は全くなかった旨主張している。
しかしながら、被請求人が「日本」の文字を含む商号が一体のものとして認識されているとして挙げている例は、「日本銀行」「日本鋼管」「日本たばこ産業」等、いずれも、その構成中に他人の商号の著名な略称を含むものではなく、又、審決例、登録例にしても、それらの商標は、いずれも、本件商標とは商標の構成を全く異にするものであり、商標の類否、出所の混同の判断は、各商標につき、それぞれの取引の実情をも勘案して個別具体的に判断されるべき性質のものであるから、被請求人が主張するような事例があるというだけでは、本件商標における上記判断を左右することにはならない。
また、「電通」の語が「電気通信」或いは「電子通信」を指称するかのように使用されている例があるとしても、乙第12号証の1ないし5の事例をもって、「電通」の語が「電気通信」あるいは「電子通信」の略語として定着しているものとはいい難いばかりでなく、請求人の商号の略称である「電通」の著名性に影響を与えるものでもない。
更に、被請求人が一定の範囲の取引者間において、「日本電通」の略称をもって取引されていたとしても、請求人は、甲第15号証(会社四季報末上場会社版)にも記載されているように「世界最大の広告会社」であり、請求人の商号の略称である「電通」の著名度は極めて高いものというべきであるから、上記一部の者を除いた一般の取引者・需要者が本件商標に接すれば、その商品・役務が請求人又はその関連会社の取扱いに係る商品・役務であるかのように誤解し、商品・役務の出所について混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
(5)してみれば、本件商標は、その構成中に、出所識別標識として強く支配的な印象を与える「電通」の文字を含むものであるから、被請求人が本件商標をその指定商品・指定役務について使用するときは、これに接する取引者・需要者は、「電通」の文字に注意を惹かれ、請求人の著名商標「電通」を連想・想起し、該商品・役務が請求人又は請求人と組織的若しくは経済的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかの如く、その商品・役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、請求人のその余の主張について検討するまでもなく、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-07-03 
結審通知日 2002-07-08 
審決日 2002-07-26 
出願番号 商願平11-56388 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Z09373842)
最終処分 成立  
特許庁審判長 宮下 正之
特許庁審判官 高野 義三
山口 烈
登録日 2001-03-09 
登録番号 商標登録第4458166号(T4458166) 
商標の称呼 ニッポンデンツー、ニホンデンツー 
代理人 村越 祐輔 
代理人 萼 経夫 
代理人 館石 光雄 
代理人 宮崎 伊章 

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