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審決分類 審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 025
管理番号 1067713 
審判番号 無効2001-35029 
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-01-25 
確定日 2002-10-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第4172868号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4172868号商標(以下「本件商標」という。)は、平成8年11月18日に登録出願、「Mulberry City」の欧文字と「マルベリーシティ」の片仮名文字とを二段に書してなり、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,サンバイザー,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品として、同10年7月31日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第3063047号商標(以下「引用商標1」という。)は、「マルベリー」の片仮名文字を書してなり、平成4年6月8日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同7年7月31日に設定登録、現に有効に存続しているものである。同じく、登録第1868998号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、昭和52年6月24日に登録出願、第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品として、同61年6月27日に設定登録、その後、平成8年11月28日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第12号証(枝番含む)を提出した。
1 請求の理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
本件商標と引用商標1の称呼を比較すると、本件商標は片仮名文字部分より「マルベリーシティ」、又は「マルベリー」の称呼が生ずる。一方、引用商標1からは「マルベリー」の称呼が生ずる。本件商標は英語で「桑の木」の意である「Mulberry」と「City」の二語を結合したものである。よって、全体として「桑の木の街」といった意味合いが看取される。「City」の語は、識別力の強い「Mulberry」の部分と比較すると識別力の弱い部分であり、本件商標の要部は「Mulberry」の部分である。簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、語頭にあって識別力の強い「マルベリー」の称呼のみをもって商品を特定するものと考えられる。従って、本件商標からは「マルベリーシティ」の称呼のみでなく、「マルベリー」の称呼をも生ずるので、引用商標1とは「マルベリー」の称呼及び「桑の木」の観念を共通にする類似の商標であることが明らかである。
そして、本件商標と引用商標1の指定商品は、同一又は類似のものである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
請求人は、英国法人、マルベリー・カンパニー・(デザイン)・リミテッド(MULBERRY COMPANY(DESIGN)LIMITED)であり、商標「MULBERRY」の所有者であって、わが国においては引用商標ほかの「MULBERRY」商標を登録している。
商標「MULBERRY」は、かばん、ベルト、革小物、靴、傘、被服、サングラス、万年筆等について著名な商標であり、1979年頃から国際的な知名度を得ている(甲第3号証)。
「MULBERRY」の商品の販売には、わが国においても英国で毎年作成されるカタログが使用されている(甲第4号証)。1987年からの各カタログに示されているように、各国に店舗を有し、わが国においては、東京の銀座、南青山、丸の内の店舗、銀座松屋、新宿伊勢丹、渋谷東急本店、大阪阪急、及び札幌、神戸、広島、灘の店舗で販売されている。1988年/89年の銀座松屋及び六本木の店舗の案内カードを添付する(甲第5号証)。
「MULBERRY」の商品は、わが国の女性ファッション雑誌、男性ファッション雑誌、趣味の雑誌等に、幅広く継続的に広告を行っており(甲第6号証の1)、また、甲第6号証の2は、本件商標出願前の1995年に、「マルベリーブランド」のわが国における動向が業界新聞等に頻繁に取り上げられていたことを示すものである。
請求人は、本国の英国の他、フランス、ドイツ、イタリー、スペイン等のヨーロッパ諸国、中国、台湾、香港、シンガーポール、タイ等のアジア諸国、及び米国等、多数の国々に「MULBERRY」商標を出願、登録しており(甲第7号証、1999年2月15日現在)、1989年春夏期から1999年までの各国の販売統計に明らかなように(甲第8号証)、これらの国々において現実に使用している。
甲第9号証ないし甲第11号証は、ヨーロッパ諸国、本国である英国(UK)、上記のアジア諸国、その他の国での、1992年から1997年にかけての「MULBERRY」商標の商品の広告例である。甲第12号証は、本件商標が出願された1996年から登録された1998年に至るまで、及び1999年、2000年の間に、甲第11号証に例を示す「MULBERRY」商標の商品の広告を掲載した雑誌・新聞名、発行年月(日)、広告態様等の記録である。1999年、2000年のリスト(甲第12号証の4及び5)は、広告掲載雑誌等の発行部数が、多くの雑誌が10万部単位で、80万部にも上る雑誌もあることを示すものである。
以上のことから、「MULBERRY」商標に係る商品が、本件商標の出願前から登録に至るまでの間、わが国ほか世界各国の当該業界の雑誌・新聞に繰り返し広告宣伝されていたことがわかる。よって、「MULBERRY」商標は本件商標出願前から登録までの時点で、取引者、需要者に広く知られた商標となっていたことが明らかである。
「MULBERRY」は「桑の木」を意味する英語であるが、甲第2号証の2に示すように、請求人は桑の木を図案化した図形を「MULBERRY」の文字とともに使用している。従って、「Mulberry/マルベリー」の語を含み「桑の木の街」といった意味に看取される本件商標が本件指定商品に使用された場合、その商品の需要者が請求人の製品と誤認混同し、商品の出所について混同を生ずるおそれは高いものである。
(3)商標法第4条第1項第8号について
本件商標は、請求人の著名な略称である「Mulberry/マルベリー」の文字を含むものであり、請求人の承諾を得ているものではない。該略称が著名であることは、甲第3号証ないし甲第12号証に示すとおりである。
(4)商標法第4条第1項第19号について
「MULBERRY」商標の周知性に鑑みれば、本件商標の出願前から登録に至るまで、本件指定商品である被服関係の商品について業務を行う者が、その存在を知らないということは考えられない。よって、本件商標権者には「MULBERRY」商標の顧客吸引力に只乗りしようとの意図が疑われても止むを得ないかと思われる。
(5)商標法第4条第1項第7号について
本件商標の商標権者である八王子織物工業組合は、織物工業に従事する者
の組合と見られ、すぐれて公的な性質を持つ者と考えられる。よって、同じ
く「織物」に関係する外国周知商標である引用商標と類似する本件商標を使
用することは、公の秩序に反するものである。また、正当権利者が外国に存
在する商標と類似する商標を、わが国の者が登録して使用することは、国際
信義にも反することである。
(6)むすび
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第8号、同第19号及び同第7号にそれぞれ該当するので、同法第46条第1項により、その登録を無効とすべきである。 2 答弁に対する弁駁
請求人は、本件審判請求に先立ち、本件商標に対して登録異議甲立てを行っているが、この異議申立てについては、本件登録を維持する旨の決定がなされた。そこで、今回の登録無効審判請求となった経緯があり、異議申立ての理由が当然、無効理由にもそのまま妥当するため、異議甲立ての際の「申立ての理由」の原稿を手直しして提出した。その際に、「請求の理由」に被請求人指摘の誤記が生じてしまったものである。
被請求人は、この誤記は補正できないものと主張しているが、この補正は明白な誤記を訂正するものであって、要旨変更とはならないものである。
すなわち、特許庁の運用(乙第2号証)で「請求の理由」の要旨変更とな
る補正の例に挙げられているのは、特許法で言えば、29条1項3号を29
条2項というように、特許要件の条文の補正であって、無効審判の条文である123条のことを言っているのではない。商標法で言えば、3条4条
の登録要件の条文がこれに当たる。本件審判請求書では、これらの登録要件
の根拠条文を誤っているわけではないので、請求人が主張する無効理由は明
らかである。従って、被請求人指摘の誤記を補正しても、「無効審判請求書
に記載された特定の無効理由の内容が変わることにより、被請求人の防御に
大きな影響を与え、再度反論の機会を与えないと攻撃防御のバランスを失す
る」(乙第2号証)とは全く言えないものである。
ついては、同時提出の手続補正書により、「請求の理由」の欄を補正する。
この補正は、(1)及び(2)の括弧内の条文「商標法第43条の2第1号」を「商標法第46条第1項第1号」に、(2)の表題「申立ての根拠」を「請求の根拠」に、(4)の「取り消されるべきである。」を「無効とされるべきである。」にと、明白な誤記を訂正するに過ぎないものである。そもそも、括弧内の条文は従来の書式では書く必要のないものであり、異議申立ての書式にならって項分けして書いたために特に挿入したものである。
以上、請求人主張の無効理由は既に提出の審判請求書に明らかであるので、今回の被請求人の答弁は、単に実質的な答弁の時間猶予のための答弁としか思われない。すなわち、本件商標に無効理由がない旨は何ら証明されていないので、本件商標の登録は無効とされるべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、第一次的には「本件審判の請求は、却下する。審判費用は、請求人の負担とする。」、第二次的には「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由及び弁駁に対する答弁を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第21号証を提出した。
1 答弁書(第一回)
(1)請求人は、「本件商標の登録は、無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」として、本件登録無効審判を請求しているものであるが、その根拠条文としては、「商標法第4条第1項第11号(商標法第43条の2第1号)、商標法第4条第1項第15号(商標法第43条の2第1号)、商標法第4条第1項第8号(商標法第43条の2第1号)、商標法第4条第1項第19号(商標法第43条の2第1号)、商標法第4条第1項第7号(商標法第43条の2第1号)」である旨を明記している(平成13年1月25日付「審判請求書」の「7.請求の理由」中の「(1)請求の理由の要約」及び「(2)申立ての根拠」のそれぞれに、「条文」との小見出しを付して上記のとおりに明確に記している)。
(2)しかしながら、商標法第43条の2は、「登録異議の申立て」の条文であり、この条文を根拠とする限りは、担当審判部は、「登録を取り消す」又は「登録を維持する」との「決定」しか下せないはずである(商標法第43
条の3第2項及び同条第4項)。
(3)平成13年1月25日付「審判請求書」中に「商標法第43条の2第1号」とあるのを、請求人が手続補正書を提出して他の条文に変更することができるか否かであるが、登録無効審判における根拠条文の変更に係る手続補正は「要旨の変更」に該当し、認められないものである(商標法第56条において準用する特許法第131条第2頃、乙第1号証及び乙第2号証)。
(4)よって、本件登録無効審判請求は、根拠条文に照らし法律上不可能な「無効」の「審決」を求めているものであり、かつ、その暇庇を補正することができないものであるから、不適法であって却下されるべきものである。
(5)したがって、被請求人は、第一次的には「本件審判の請求は、却下する。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求める次第である。
なお、万一、請求人が何らかの手段で根拠条文の変更を正当化し本件登録無効審判を維持した場合に備えて、被請求人は、第二次的には「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求める次第であるが、この場合、根拠条文がいかなる条文に変更されるのか不明であるため、現時点では詳細な答弁はできないものである。
2 答弁書(第二回)
(1)弁駁書に対する反論及び手続補正書の却下の請求について
(ア)本件弁駁書で、請求人は、「手直し……の際に……誤記が生じ(た)」と述べるが、被請求人は、「請求人が登録異議を申し立てたこと」及び「その結果、本件商標の登録を維持する旨の担当審判部の決定が下されたこと」は知っており、これを認めるものの、この「手直し……の際に……誤記が生じた」との事情については、被請求人は、全く知らないところである。
(イ)請求人は、「明白な誤記」とし、訂正が許されるかのごとく述べるが、仮に訂正にかかる箇所が「明白な誤記」であるとの反実仮想に立つとしても、「明白な誤記」ならばこれを手続補正書で訂正できるとする条文上の根拠が何処にあるのか、明らかにしていない。
(ウ)請求人は独自の解釈で、「『……被請求人の防御に大きな影響を与える』……とは全く言えないものである。」とするが、被請求人が平成13年3月30日付「審判事件答弁書」を提出する前に、請求人自身で気が付いて自発的に手続補正書を提出した場合ならばいざ知らず、被請求人は、平成13年1月25日付「審判請求書」を熟読し検討して、すでに、防御として「『本件審判の請求は、却下する』との審決を求める」旨の答弁をし証拠を提出しているのであるから、この検討・防御の答弁が、無に帰せしめられるべきではないのは当然である。
(エ)「『明白な誤記』ならばこれを手続補正書で訂正できる」かどうか、法文上の根拠が示されてはいないが、仮に「『明白な誤記』ならば手続補正書で訂正できる」と仮定しても、請求人は、「明白な誤記」の名のもとに、平成13年1月25日付「審判請求書」の「請求の理由」を大幅に書き換えようとしているのであって、手続補正に名を借りたこのような大幅な改変は「明白な誤記」の訂正に該当しないのは明らかであり、これが許される筈はない。
(オ)請求人は、「……そもそも、括弧内の条文は……書く必要のないものであり……」と述べるが、「書く必要のないもの」であっても、一旦書いてしまった以上は記載した条文に拘束されるのであり、それが誤っているのであれば、法律講学上のいわゆる「有害的記載事項」を記載したことに該当して、不利に取り扱われるのは当然である。
(カ)請求人は、「……今回の被請求人の答弁は、単に実質的な答弁の時間猶予のための答弁としか思われない……」と述べるが、これは、事実を調査せず一方的な憶測だけに基づく、極めて不当な非難である。
(キ)請求人は、「……本件商標登録に無効理由がない旨は何ら証明されていないので、本件商標の登録は無効とされるべきである……」と述べ、あたかも被請求人の側が「無効理由がないこと」の立証責任を負っているかのごとく述べるが、これは明らかに誤りである。
(2)手続補正書により補正された「請求の理由」について
(ア)請求人は、平成13年1月25日付審判請求書において、わが国における請求人の商品の販売場所を指摘しているが、平成11年8月の時点では、日本全国において、請求人の商品が取り扱われていたのは「丸の内」の直営店〔住所:東京都千代田区丸の内3丁目4番1号新国際ビル1階〕のみとなっていた(銀座松屋、新宿伊勢丹、渋谷東急本店の平成13年夏時点でのそれぞれのフロア・ガイドは、乙第14号証、乙第15号証及び乙第17号証として提出する。)。
(イ)請求人が提出した甲各号証を検討するに、甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証の1ないし甲第9号証の15、甲第10号証の1ないし甲第10号証の115、甲第11号証の1ないし甲第11号証の24、甲第11号証の29ないし甲第11号証の32、甲第12号証の1ないし甲第12号証の5は、外国語で記載されている証拠であり、請求人は、その和訳を付さずに提出している。これらについては、和訳を付さねばならない(商標法施行規則第22条により準用される特許法施行規則第2条第2項)。
3 総 論
(1)本件商標は、特許庁の登録先例に照らして、引用商標1及び2のいずれとも類似するものではない。
(2)請求人の引用商標1及び2は、いずれも、わが国においては、無名に等しいブランドであり、また、請求人の略称としての「Mulberry/マルベリー」も無名に等しいものである。
4 各論
請求人の個別の主張に対する反論を、以下に述べる。なお、商標法第4条第1項第11号の主張以外については、請求人の提出した外国語記載の甲各号証の吟味が必要なところ、前述のように請求人が和訳を提出していないため、不十分な検討しかできなかった。したがって、請求人が和訳を提出した後には、その和訳次第では下記の被請求人の反論も変更ないし修正されることもありうる、との前提留保条件を付した上での反論である。
(1)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、引用商標1及び2のいずれとも異なるものである。称呼、観念のいずれを検討してみても類似するものではない旨、ここに反論する。
本件商標から生じる称呼「マルベリーシティ」は、冗長ではなく一連によどみなく称呼しうるものであり、引用商標1から生じる称呼「マルベリー」や引用商標2から生じる称呼「マルベリーカンパニー」とは明確に異なる。
また、八王子は、古来からずっと「桑都」と称されており、その英語に相応する「Mulberry City/マルベリーシティ」は、単なる「桑の木」の意味の引用商標1「マルベリー」や明らかに会社名と理解される引用商標2「MULBERRY COMPANY/マルベリーカンパニー」とは、観念が異なることも明らかである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
(ア)甲第3号証は、単に思い付く世界中の総てのブランド名を解説した辞典にすぎず、当然知名度の無い弱小ブランドであっても掲載されているものであって、そのような辞典に掲載されているからといって「広く一般に知られている」とか「著名である」などとは言えない。
(イ)甲第4号証は、請求人はこれらがわが国において頒布されている旨を主張するが、総て英語で記載されており、これらがわが国で頒布されているとは到底思えないから、これをもって「広く一般に知られている」とか「著名である」ことの立証にはならない。
(イ)甲第5号証についても、今から10年以上前に作成されたもので、その上、何部頒布されたのか不明であり、「広く一般に知られている」ことの立証には役に立たない。
(ウ)甲第6号証の1は雑誌広告であるが、96年から98年までの3年間に、わずか10回広告されたことを示すのみで、98年1月以降の広告は無く、この程度ではとても「広く一般に知られている」などとはいえない。
(エ)甲第6号証の2は商品紹介記事であるが、今から6年も前の95年のものであり、しかも新聞の紹介記事については、これらは業界の専門新聞であって、「被服や布製身回品」の需要者である一般の消費者の目にとまる商品紹介記事ではなく、「広く一般に知られている」とか「著名である」ことにはならない。
(オ)甲第7号証については、各国で商標を出願・登録しているからといって、その国で大量に販売しているとは限らず、「広く一般に知られている」ことにはならない。
(カ)甲第8号証は、請求人自身の作成にかかる「自称」文書であり、その内容は疑わしい。ことに、日本については、丸の内の新国際ビルの直営店でしか販売されていない上、「被服・布製身回品」はわずかしか置いていないので、売上高は微々たるものの筈である。
(キ)甲第9号証については、92年から97年までの5年間に、ヨーロッパで、わずか15回広告されたことを示すのみで、98年以降の広告は無く、この程度ではとても「広く一般に知られている」などとはいえない。
(ク)甲第10号証については、請求人の本国であるイギリス国では多数回広告されているとしても、このことからはイギリス国の地方ブランドらしいとの感触を与えるのみで、世界中に「広く一般に知られている」ことを導くものではなく、まして、わが国において「広く一般に知られている」ことを導くものではない。
(ケ)甲第11号証については、94年から96年までの2年間に、世界各国で、わずか35回広告されたことを示すのみで、97年以降の広告は無く、この程度ではとても「広く一般に知られている」などとはいえない。
(コ)甲第12号証については、請求人自身の作成にかかる「自称」文書であり、その内容は疑わしい。その内容にしても、請求人の本国であるイギリス国での広告はともかく、他国で「広く一般に知られている」程度の宣伝広告活動をしているとは認められない。
以上述べたように、請求人提出の全証拠をもってしても「広く一般に知られている」ことの立証に不足する上に、わが国においては、日本全国中直営店1店舗だけでしか商品が販売されていない以上「広く一般に知られている」わけもなく、更に、すでに述べたように、本件商標は引用商標1及び2とは明らかに異なるから、「混同を生じるおそれ」は存在しない。
(3)商標法第4条第1項第8号について
「Mulberry/マルベリー」が請求人「マルベリー・カンパ一・(デザイン)・リミテッド」の略称であるか否か疑問であるが、「請求人の略称」であると仮定しても、「著名」ではなく、ほとんど知られていないものであるから、商標法第4条第1項第8号には該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号について
本件商標は、「MULBERRY」商標に類似しない上に、日本全国において直営店1店舗だけでしか商品が販売されていないのに、「MULBERRY」商標が「需要者の間に広く認識されている」はずもなく、そのような無名に等しいブランドに「顧客吸引力」などあるわけもないから、商標法第4条第1項第19号には該当しない。
(5)商標法第4条第1項第7号について
請求人の「MULBERRY」商標は、「周知商標」ではなく、また、本件商標とは類似しない、商標法第4条第1項第7号には該当しない。

第5 当審の判断
1 本件審判請求の却下の申立について
請求人は、本件審判請求書の事件の表示の欄に、請求当初より「無効審判請求事件」と記載し、同じく、請求の趣旨の欄に、「商標登録第4172868号の登録は、無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と記載している。
また、請求人は、本件商標に対して既に異議申立てをしており、該異議申立に対しては登録を維持するとの決定が既になされている。
そうとすれば、請求人が本件商標に対して再度異議申立てをすることはあり得ないし、請求書における「事件の表示」及び「請求の趣旨」の欄における上記記載内容から判断して、本件審判の請求が、本件商標を無効とすることについての審判を請求する事件であることは明らかである。
してみれば、本件審判請求書に記載されている「7.(1)請求の理由の要約(第1頁)」の根拠条文、「7.(2)申立ての根拠(第3頁)」の根拠条文と「申立ての根拠」の文言(「請求の根拠」が正しい)及び「7.(4)むすび」の各適用条項の説明文の末尾の「……取り消されるべきである。」との文言は明らかな誤記と認められる。
そして、請求人は、平成13年7月19日付けの手続補正書をもって、既に前記誤記について補正をしているものであるから、本件審判請求書における瑕疵は治癒されたものというべきである。
さらに、被請求人は、乙第2号証(「特許法131条2項改正に伴う運用について」)を提出し、前記手続補正書による補正は要旨変更である旨主張しているが、前記手続補正書による補正は、当該運用例の補正には該当しないから、この点に関する被請求人の主張は採用できない。
したがって、本件審判請求は却下されるべきではない。
2 無効の理由
そこで本案に入って判断する。
(1)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は前記構成よりなるところ、構成各文字は全体としてまとまりよく構成されており、全体として「桑の木の街」といった程度の観念を生ずるものとみられるものであり、かつ、これより生ずると認められる「マルベリーシティ」の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
そうとすれば、本件商標は不可分一体の商標とみられるものであり、これより生ずる称呼は「マルベリーシティ」のみであると判断するのが相当である。
他方、請求人が本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する引用商標1は、「マルベリー」の文字よりなるものであるから、その構成文字に相応して「マルベリー」の称呼を生ずるものと認められる。
そこで、本件商標より生ずる「マルベリーシティ」の称呼と、引用商標1より生ずる「マルベリー」の称呼とを比較するに、両者は後半部における「シティ」の音の有無に顕著な差違を有し、称呼上紛らわしいものでない。
さらに、本件商標からは「桑の木の街」の観念を生ずるものに対して、引用商標1は「桑の木」の観念を生ずるから、両者は観念上紛らわしいものでなく、また、それぞれの構成よりみて外観上も区別し得るものである。
してみれば、本件商標と引用商標1とは、その称呼、観念及び外観のいずれにおいても類似しない。。
(2)商標法第4条第1項第15号について
請求人の提出に係る甲第4号証、甲第7号証ないし同第12号証は、外国(主としてヨーロッパ)における発行印刷物(商品カタログ、広告例)が主体であって、しかも訳文が付されていないものである。
また、わが国のファッション雑誌における広告例の抜粋記事を添付した甲第6号証の1の雑誌の発行年は「GQ/ジーキュー」を除くといずれも本件商標の出願日(平成8年[1996年]11月18日)より後の発行に係るものであり、「GQ/ジーキュー」にしても、本件商標の出願日より1か月早い1996年10月に発行されたものである。
そして、甲第6号証の2の雑誌・新聞の記事は、主として請求人がわが国に進出するについての記事が圧倒的に多く、事実請求人がわが国に最初に進出したのは、平成8年8月に東京丸の内にオープンした直営店であり、本件商標の出願日より3か月前でしかない。
そうとすれば、請求人提出に係る上記甲各号証によっては、商標「MULBERRY」は、イギリスを中心とするヨーロッパ各国においてある程度知られていた事実が認められるにすぎず、わが国において取引者、需要者の間に広く認識されていたとは認め難いところである。
さらに、本件商標と引用商標1が、その外観、称呼及び観念において紛らわしいところがない非類似の商標であること前記したとおりである。
してみれば、商標権者が本件商標をその指定商品について使用した場合、その商品が請求人若しくは請求人と関係のある者の業務に係る商品であるかのようにその出所について混同を生じさせるおそれのなかったものである。
(3)商標法第4条第1項第8号について
請求人は、「Mulberry/マルベリー」が請求人の著名な略称であると主張する。
しかしながら、請求人の提出した証拠によっては、その事実を認めるに足りない。
してみれば、本件商標は、請求人の著名な略称を含む商標に該当するものとはいえない。
(4)商標法第4条第1項第7号及び同第19号について
本件商標は上記に示すとおりの構成よりなるところ、その構成自体が矯激、卑猥、差別的な印象を与えるような文字又は図形からなるものでなく、また、本件商標を指定商品について使用することが社会公共の利益、一般道徳観念に反するものとすべき事実は認められず、他の法律によってその使用が禁止されている事実も認められない。
さらに、商標権者が本件商標を採択使用する行為に不正の目的があったものとは認め得ないところである。
(5)結び
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第8号、同第7号及び同第19号に違反して登録されたものということはできないから、その登録は同法第46条第1項第1号により無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲(1)



審理終結日 2002-05-21 
結審通知日 2002-05-24 
審決日 2002-06-06 
出願番号 商願平8-129457 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (025)
T 1 11・ 222- Y (025)
T 1 11・ 26- Y (025)
T 1 11・ 22- Y (025)
T 1 11・ 23- Y (025)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 正雄 
特許庁審判長 野本 登美男
特許庁審判官 上村 勉
茂木 静代
登録日 1998-07-31 
登録番号 商標登録第4172868号(T4172868) 
商標の称呼 マルベリーシティ 
代理人 吉村 悟 
代理人 鈴江 武彦 
代理人 西村 雅子 
代理人 石川 義雄 
代理人 小出 俊實 
代理人 吉村 仁 

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