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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z29
管理番号 1059797 
審判番号 無効2000-35118 
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-02-29 
確定日 2002-05-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第4254291号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4254291号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4254291号商標(以下、「本件商標」という。)は、「鉾処和田八物産」の文宇(「標準文字」による)を書してなり、平成9年6月16日に登録出願、第29類「鶏肉,赤貝,あさり,あゆ,あわび,いか,いくら,うに,えび,かき,かずのこ,かに,かれい,キャビア,鯨,こい,さけ,ざりがに,さんま,食用がえる,すじこ,すずき,すっぽん,たい,たこ,たらこ,にしん,はまぐり,ぶり,まぐろ,ムール貝,かす漬け肉,乾燥肉,ソーセージ,肉の缶詰,肉のつくだに,肉の瓶語,ハム,ベーコン,かす漬け魚介類,かまぼこ,くんせい魚介類,塩辛魚介類,塩干し魚介類,水産物の缶詰,水産物のつくだに,水産物の瓶詰,素干し魚介類,はんぺん,フィッシュソーセージ,かつお節,寒天,削り節,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,魚肉練製品,油揚げ,凍り豆
腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」を指定商品として、平成11年3月26日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
請求人が、本件商標の登録無効の理由に引用する登録第2207079号商標(以下、「引用商標A」という。)は、後掲(1)に示すとおりの構成よりなり、昭和62年9月30日に登録出願、第32類「加工食料品、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成2年1月30日に設定登録、その後、商標権存続期間の更新登録がなされたものである。同じく、登録第2434696号商標(以下、「引用商標B」という。)は、後掲(2)に示すとおりの構成よりなり、平成元年7月7日に登録出願、第32類「加工食料品、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成4年7月31日に設定登録なされたものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第30号証(枝番号を含む)及び資料NO.4ないし資料NO.6を提出した。
1 請求の理由
(1)本件審判に至った経緯
(ア)請求人らの概要
請求人株式会社和田八(以下、「第1請求人」という)及び和田八蒲鉾製造株式会社(以下「第2請求人」という)は、「蒲鉾、水産物練り製品、その他の加工水産物(以下、「請求人商品」という。)」の製造販売を主たる業務内容とする株式会社である。
請求人らの前身は、昭和6年に和田八次郎が兵庫県尼崎市において創業した和田八蒲鉾店であり、以降昭和27年の法人化を経て、事業の拡大を続け、昭和51年には販売部門と製造部門とを別法人として、第1請求人が主として直販店による販売部門を引受け、第2請求人が製造とその他の販売部門を引受けて事業を継続し現在に至っている。
現在、請求人らは、大阪市西淀川区中島2丁目10番28号に工場を設け、約60人の従業員、直売店12店舗、百貨店への出店7店舗を有しており、請求人商品は「かまぼこの和田八」ないしは単に「和田八蒲鉾」として、関西を中心として近畿一円に幅広く販売されている(甲第3号証)。
請求人らは、創業者和田八次郎の創業当時より、「和田八」なる標章を、その営業標章として使用し、また請求人商品の商標として一貫して使用している。
(イ)被請求人の概要
被請求人は、請求人らの元代表者であり現代表者の親族である和田功らが民芸品等一般雑貨の取引事業を起こすために、昭和48年に設立した株式会社であるが、設立後1年ほどで頓挫して以来、現代表者塚本亮介が経営を再開するまで、長期間に亘って休眠会社となっていた。
(ウ)両当事者の関係
平成5年4月頃、請求人らと被請求人との間で、請求人商品の卸販売契約を締結した。そしてこの契約に基づき、被請求人は、請求人らの「和田八」の文字からなる営業標章・商標を付した請求人商品の販売、包装用資材の使用、並びに右標章を付した幟を掲げた水産物練り製品の実演販売などを行っていた。
ところが、被請求人は、請求人らとの間での右卸販売契約が存続する中で、平成9年6月16日、請求人らに告知することなく密かに、構成要部を「和田八」とする本件商標他3件の商標登録出願を行った。
被請求人は、請求人らとの間の前記契約終了直後の平成9年12月9日に、自ら請求人商品と形態をほとんど同じくした蒲鉾その他の加工水産物を製造し、これに「和田八物産」等の表示を付し、これを東京、大阪、奈良各都道府県下に出荷し(甲第8号証)、あるいは、京阪神を中心とする被請求人取引先の小売店舗に「和田八物産」と表示した広告看板及び商品陳列箱等の販売用資材を設置して、被請求人商品の販売を開始した(甲第9号証)。
このように、被請求人は、第1請求人との卸販売契約が終了するやいなや、請求人らが長年にわたってその営業標章として、請求人製品の商標として使用してきた「和田八」の標章を含み、語頭に「鉾処」、語尾に「物産」なるいずれも自他商品識別力を有しない語を付加した請求人の商標に酷似する標章を使用して、被請求人の製造に係る商品の販売を行い、一般消費者その他の需要者に対し、被請求人の商品を請求人商品と誤認・混同させてきたものであり、かかる被請求人の行為は、既に請求人らが長年の営業努力によって獲得してきた信用、評価、名声等を不正に利用する意図をもってなされたものであること明らかである。
(エ)仮処分及び商標法等違反差止請求訴訟
上記のような被請求人の行為に対し、第2請求人は平成9年12月18日、大阪地方裁判所に商標使用差止等仮処分を申し立てた(甲第10号証)。大阪地方裁判所は、被請求人に対し、平成10年3月13日仮処分決定を発し、被請求人の前記各行為が請求人の商標権を侵害し、不正競争行為となる旨の判断が下された(甲第11号証)。
さらに、請求人らは、被請求人を被告として、平成10年9月11日、商標権侵害及び不正競争防止法違反に基づく侵害・違反行為差止請求訴訟を提起した(甲第12号証の1)。
2 商標法第4条第1項第11号
(1)本件商標は、漢字で「鉾処和田八物産」を横書きしてなるものであるところ、該構成中の頭記「鉾処」の文字部分は、本件商標が指定商品中、特にかまぼこ及び練り製品に係る商品に使用されるとき、該商品との関連において「鉾」の文字は「蒲鉾」の「鉾」を採って「かまぼこ」の意を表したものとして直観され、「処」の文字はその字義のとおり「ところ」「場所」の意を表したものと直観されるにすぎない。その結果、「鉾処」の文字は、単に「かまぼこを産するところ」「かまぼこを取扱うところ」等の意を示すものとして認識されるにすぎず、格別の出所表示機能を担うものではなく、識別力を有しない。したがって、「鉾処」の文字部分は、元来識別力を有しないか、または極めて乏しい文字部分である。
一方、本件商標中の「物産」の文字は、「土地から産出する品物」「産物」等の意味を有する語であり、他の文字○○に結合して、○○の産物、○○から産出する品物等の意味を看取させるにとどまり、元来それ自体商品の出所を表す文字としての格別の限定的意味を有しないものであり、元来自他商品識別標識としての機能を有しないか、または少なくとも同機能に極めて乏しい文字である。
加えて、本件商標の「鉾処和田八物産」は、その「和田八」の部分が、後述するように、請求人らの営業標章及び商号の略称として周知著名であり、また請求人商品の商標としても周知著名なものであるから、この文字部分のみが需要者に強く印象付けられて、その部分のみが看取されて取引きに供される蓋然性が高いものである。
よって、本件商標は、唯一「和田八」の部分を自他商品識別のための支配的要部とするものであり、これより「ワダハチ」の呼称、観念を有するものであること明らかである。
(2)一方、引用商標Aは、「和田八」の文字から、唯一、「ワダハチ」の呼称、観念を有する。また、引用商標Bは、後掲(2)のとおりであって、その構成中の中央の文字は、「田」の特殊変形態様文字であり、異字体であることは平均的一般人において容易に認識しうるところであるから、これもまた「ワダハチ」の唯一の呼称、観念を有するものである。
してみれば、本件商標は、引用商標A及び引用商標Bのいずれに対しても相互に類似するものである。
さらに、本件商標の指定商品は引用商標A及び引用商標Bの指定商品中に包含されるものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。
3 商標法第4条第1項第15号
(1)請求人は、和田八蒲鉾店の創業当時の昭和6年より、以降昭和27年の法人化を経て、現在に至るまでの実に70年間に近い極めて長期間、「ワダハチ」の呼称を有する後掲(3)(4)の標章およびこれらと実質同一の「和田八」の文字からなる標章(以下、これらを合わせて「請求人使用商標」という。)を、その営業活動のあるゆる場面で継続的に使用し、現在も引き続き大々的に使用している。その結果、請求人使用商標は、請求人らの商号の略称を示すものとして、また請求人らのハウスマーク、営業標章として、更には、請求人商品の商標として、少なくとも本件商標出願前にいずれも周知著名なものとなっていた。
(2)本件商標は、請求人使用商標と称呼「ワダハチ」を同じくする「和田八」を要部とするものであるから、請求人使用商標と類似することは、前記に既述したとおりである。
一方、請求人使用商標は、前述のとおり請求人の製造販売に係るかまぼこ、その他水産物練り製品の商標として周知、著名なものであるところ、本件商標の指定商品が上記かまぼこ等の商品と類似することは、前記に述べたとおりである。
また、請求人使用商標にあらわされた「和田八」の標章は、請求人らの創業者の氏名「和田八次郎」の「和田八」の部分から採択された固有性の高い創造標章である。そしてこれが請求人らの略称として、またハウスマークないし営業標章として、更には請求人商品の商標として、高度の周知性を有し、著名なものであることは前記に述べたとおりである。
さらに、請求人使用商標が、本件商標と類似することも前述したとおりである。
(3)請求人らにより、請求人使用商標が使用されている請求人商品は、かまぼこを代表とする水産物練り製品である。
これに対し、本件商標の指定商品は、「加工水産物及び肉製品」に属する前記の商品群において、請求人使用商標の使用商品群と同一または類似であることも前記したとおりであるから、被請求人が本件商標「鉾処和田八物産」をその指定商品群に使用するとき、これに接する需要者が、請求人の業務にかかる商品と誤認、混同を生ずるおそれがあることは明白である。
以上により、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
4 商標法第4条第1項第8号
請求人らは、その創業当時以来、「和田八かまぼこ」あるいは「かまぼこの和田八」の愛称のもとに広く一般需要者、取引者に親しまれてきたところであり、その商号も要部に「和田八」を用いた「株式会社和田八」及び「和田八蒲鉾製造株式会社」とするものである。
してみれば、本件商標は、請求人らの著名な略称である「和田八」に蒲鉾類の生産あるいは取扱い販売業なる業種を示す「鉾処」及び「物産」を付加したにすぎない商標であって、請求人らの名称の著名な略称を含む商標であるといわなければならない。そしてまた、請求人らは被請求人に、本件商標を被請求人の商標として使用することを承諾した事実はない。したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。
5 商標法第4条第1項第19号
第2請求人所有の引用商標Aが、本件商標出願前に、商品、蒲鉾等の水産加工物に関し、周知著名な商標である事実は、前記において詳述したとおりである。
また、被請求人が本件商標を「不正の目的」を以って使用し、出願に及んだ事実も前記にて詳述したとおりである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号にも該当するものといわなければならない。
6 結び
以上の次第で、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第8号及び同第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。
7 答弁に対する弁駁1及び2
(1)商標法違反等差止請求事件の判決(甲第30号証)
本件審判事件の当事者間で関連事案について争われていた大阪地方裁判所平成10年(ワ)第9655号商標法違反差止請求事件について、平成12年10月12日判決が言い渡された。
判決理由によれば、本件商標が、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同8号に該当し、同法第46条第1項の規定により無効とされるべきものであることは明らかである。
更にはまた、本件商標は、「不正の目的」をもって出願に及んだものであることも明らかであり、商標法第4条第1項第19号にも該当するものといわなければならない。
(2)被請求人のいう「のれん分け」は、被請求人の勝手な思い込みにすぎず、そのような事実はない。本件商標の許諾も、請求人らとの取引関係が途絶した時点以降において「解除条件」が成就しているものであること判決の示すとおりである。
のみならず、「のれん分け」の事実の有無と、本件審判事件における本件商標についての登録無効事由の有無の問題とは何の関係もない。ましてや「のれん分け」の事実の有無が、両商標間の出所混同の有無、類似性と何ら関係するものでもない。
さらに、被請求人が保有する登録第4342352号商標に対する登録異議決定は、請求人商標の周知性、両指定商品の具体的使用の場面での密接な関連性等の具体的事情を看過して判断されたものであり、妥当性を欠くものである。
以上のとおり、被請求人の主張には根拠がなく、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に該当し、無効事由を有するものである。
(3)被請求人は、請求人使用商標が周知性、著名性を欠くこと、請求人らの経営実態の変更により請求人使用商標の著名性を議論することはできないと主張している。
しかしながら、請求人使用商標が高い周知性、ひいては著名性を獲得するに至っていることは、甲各号証によって十分な立証がなされている。殊に、甲第25号証は、公的機関である「大阪商工会議所」が証明するものであり、甲第26号証は業界団体が証明するものである。
加えて、甲第30号証の判決においては、「大阪市及びその周辺部(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、滋賀県、和歌山県)」を範囲とする地域的限定が付されているとはいえ、「原告らの営業表示に共通する『和田八』との表示が原告らの営業を表示するものとして広く認識され、周知性を獲得するに至ったと認めるのが相当である。」と、請求人使用商標の周知性を明確に認めている。
したがって、周知・著名性を否定する被請求人の主張には理由がない。
(4)商標法第4条第1項第8号の立法趣旨は、人格権の保護にあるが、本号にいう「他人」には法人が含まれる。
したがって、被請求人が主張するように本件に関して「人格権の主体は請求人らではなく…『和田八次郎』個人にほかならない。法的には…請求人らは、本号を援用する適格性を有しない。」というのは誤りである。
また、被請求人に対する本件商標の使用についての「のれん分け」による「承諾」の事実がないことは前述したとおりである。
(5)被請求人は、「不正目的の不存在」の理由について、「のれん分け」による使用の「承諾」、「伝統的かつ正当な取引慣行」云々を理由として述べているが、本件商標が「不正の目的」をもって出願に及び登録されたものであることは、前記に述べたとおりである。
(6)甲第30号証の第1審判決(大阪地方裁判所平成10年(ワ)第9655号)に対する控訴審大阪高等裁判所平成12年(ネ)第3740号商標法違反差止等請求控訴事件について、資料NO.6のとおり、平成13年9月27日判決言渡があった。そして、この控訴審判決は、このほど確定した。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第14号証(枝番号含む)を提出した。
1 本件審判事件の背景事情
(1)第1請求人は、昭和27年5月21日に設立された会社であり、設立当初は株式会社和田八蒲鉾であり、会社の目的は、「蒲鉾、練製品その他食料品等の製造・販売」であったが、その後、事業目的を「蒲鉾、練製品その他食料品等の」に変更した。
第2請求人は、昭和51年11月6日に設立された会社であり、会社の目的は、「蒲鉾、練製品その他食料品等の製造」であったが、その後、「レストラン、食堂の経営」、「練製品の原材料となる農産物、水産物の輸出入」を事業目的に追加した。
被請求人は、昭和48年8月13日、「生鮮および加工水産物の輸入ならびに販売」他を、会社の目的として設立され、その後、平成3年及び平成7年に、目的の追加がなされ、現在のものとなっている。
以上の三社については、既に、昭和48年後半には、和田功が、和田八蒲鉾店の創始者である和田八次郎の跡を継ぎ、経営権を把握していたが、これらの登記簿の記載から明らかな通り、和田功は、株式会社和田八蒲鉾店を、製造会社と販売会社とに分離し、前者の機能を第2請求人に、後者の機能を第1請求人に担わせることを計画したものである。
また、被請求人については、「生鮮及び加工水産物の輸入」等をさせるために設立したようである。しかし、和田八蒲鉾に入社した塚本亮介(現、被請求人会社代表取締役)が、和田功の依頼を受け、平成3年2月に販売事業の展開を開始するまで休業状態であったが、同人を中心とした事業展開により、平成3年度28,783,671円 平成4年度80,292,065円 平成5年度132,843,861円 平成6年度157,162,505円 平成7年度364,509,444円 平成8年度340,197,319円 平成9年度392,392,155円 平成10年度212,499,615円(但し、事業年度の変更により4ヶ月分の売上) 平成11年度404,895,505円のような事業実績を残すに至った。
(2)塚本亮介は、平成3年9月1日、被請求人の代表取締役に就任し、平成5年2月頃、同社の全株式を和田功から譲り受けた。この時点で、塚本亮介は、和田功より、「のれん分け」をしてもらい、「和田八物産」の名称で、事業展開をしていくことを認められたのである。つまり、被請求人は、第一請求人及び第二請求人と密接な関係をもつ兄弟会社ではあるが、それら会社から独立した事業主体として業務を行なっていくこととなるのである。
塚本亮介が「和田八物産」の商号及び商標を利用して業務を行なうことを認められた後に計画をしたのが、タイ国における「原料すり身」「調理すり身」「最終練り製品」の製造及び輸入であった。従来、和田八グループは、タイ国のカンタン・コールド・ストレージ社と業務提携をし、「原料すり身」の輸入をしていた。しかしながら、平成5年末までには、同社との関係も解消され、和田八グループは、日本の大手水産会社から購入した「原料すり身」を利用して第二請求人が練製品を製造し、それを、第一請求人及び被請求人が販売していた。
しかしながら、そのような状態では練製品の生命線である「原料すり身」の質の維持が保てず、また、需給動向に左右され、安定した価格及び量による仕入れもできないこととなる。そこで、塚本亮介は、タイ国において、「原料すり身」はおろか、「調理すり身」及び「最終練り製品」までをも生産できる工場を設立することを発案し、和田功に相談した。その結果、第二請求人の協力を得て、タイ国のトラン・シーフード社への生産委託による工場が完成した。なお、被請求人のトラン・シーフード社への生産委託工場は、練り製品や練り製品の原料又は材料となる「原料すり身」や「調理すり身」だけでなく、海鮮品の加工能力も有していた。それにより、被請求人は、平成6年3月頃より、トラン・シーフード社の工場で生産された練り製品その他の製品の輸入を開始し、それら製品の国内での販売を「和田八物産」の商標及び商号で行なっていくのである。
被請求人は、トラン・シーフード社の工場が完成したことにより、蒲鉾を含む練り製品全般を製造販売する能力を取得した。しかしながら、恩義を感じていた和田功氏が和田八グループの実権を握っており、同社と被請求人とは兄弟会社として良好な関係が維持されてきたために、被請求人は、蒲鉾の製造販売はせず、むしろ、「調理すり身」を第二請求人に卸し、同社が製造した練り製品の販売活動にも従事していた。
しかしながら、被請求人が製造委託したタイ工場において製造された練り製品は、平成6年以降、広く販売されていたのであり、被請求人の取り扱い商品として、第二請求人が製造する練り製品と当該タイ産の練り製品とは、何ら混同されることなく、市場において両立し販売されていたのである。請求人の社長であった和田功は、このような状態を是としたうえで、被請求人の販路として、積極的にイトーヨーカ堂等を開拓しようとしていたのである。
2 商標法第4条第1項第11号
(1)請求人らは、引用商標A及び引用商標Bのうちの「和田八」部分に、商標の識別性があると主張するが、同商標は、営業主体が和田氏であったことに基づくものであり、日本語における人の一般的呼び名として、末広がりで縁起の良いとされる「八」を二音の氏などの語に付加することは一般的になされていることである。
また、和田という姓自体、日本においては一般的な姓であり、結局のところ、引用商標A及び引用商標Bの一般人に与える印象は、一般的な姓である「和田」さんが、縁起のいい「八」を付加して使用しているといった程度のものであり、いわば、ありふれた印象を与える識別力の弱いものであるといわざるを得ない。
(2)本件商標は、「鉾処和田八物産」という語からなる。「鉾」という語には、元来「蒲鉾」という意味はなく、「諸刃の剣に長い柄を付けた武器」、「弓の幹」、「漁夫が魚を突く銛」、「矛山車、山鉾の略」、「鷹槊の略」(広辞苑による)という意味しかない。したがって、「鉾処」という語から、直ちに、「蒲鉾」の製造販売業が観念されることはない。つまり、「鉾処」という語は、被請求人が考えた造語である。
したがって、「鉾処」という語には「蒲鉾を製造している場所」という意味はなく、「鉾処」を使用している蒲鉾等の「練り製品」の製造販売業は、被請求人以外皆無であり、このような消費者に対し顕著な印象を与える造語を使用していること自体において、本件商標と引用商標との類似性の不存在は明白である。
(3)本件商標は、「鉾処和田八物産」という構成であるが、「和田八物産」の部分のみを比較しても、「和田八」という商標とは類似性を有しない。つまり、「和田八」という商標は、格別の識別力を有するものではなく、むしろ、その後に「物産」の語が付加され、様々な物品を扱っている会社という意味が付加的に形成されることによる異別性こそが重要である。
すなわち、「株式会社」や「有限会社」といった会社の法的な意義を表わす場合と異なり、「和田八物産」という語には、その扱う商品を連想させる一定の意義が存するのであり、本来の「和田八」という語から区別された商標を成立させるものである。
また、「和田八物産」という名称は、上述したとおり、第1請求人及び第2請求人らより被請求人の会社及び事業の商号及び商標として使用されることが認められており、平成5年になって、正式に「のれん分け」がされてから、被請求人の事業に使用され、消費者の間で定着したものである。そのような取引実態に照らし合わせると、本件商標の使用により、請求人の商品の出所混同を生じることはありえないのであり,この点からも、商標の類似性は否定されるべきである。
つまり、「ワダハチ」と「ホコドコロワダハチブッサン」または「ワダハチブッサン」とはその称呼において全く異なり、明らかに外観も相違する。また、観念の点についても、「和田八」の語の顕著性の薄さに対し、「鉾処」という造語及び「物産」という識別力ある語が結合されることにより、全く異なるものとなっている。取引実態を捨象し、外観、観念、称呼を総合的に勘案しても、本件商標と引用商標A及び引用商標Bとの類似性を肯定することはできないものである。
さらに、「和田八物産」という名称は、被請求人が先代の和田功の時代に「のれん分け」を受けたものである。そのような場合、「のれん分け」をした者(会社)の商号及び商標の一部が、「のれん分け」を受けた者(会社)の商号及び商標に使用されることは社会的に一般的なことであり、また、消費者は、その製品等の出所をそれぞれの兄弟会社と区別して理解するのが一般的であり、現に、本件においても、区別がなされていたのである。
したがって、本件においては、外観、観念、称呼における類似性の欠如ばかりでなく、本件における取引実態を前提とするとき、本件商標と引用商標A及び引用商標Bとの間に類似性の不存在は、更に明確になる
この点、本件の関連事件である、被請求人が保有する登録第4342352号商標の登録に対する請求人による登録異議の申立に対し、特許庁は、平成12年8月21日付で、上記商標の登録を維持する旨の決定を下している。当該決定の理由に照らすとき、本件商標と引用商標A及び引用商標Bとの間にも、類似性が認められないことも明らかである。
3 商標法第4条第1項第15号
(1)第二請求人の売上は7億円程度であり、練製品の会社における売上は、114位であり、しかも、近年、その売上は急激に落ちていっているのである。したがって、本号が著名商標の「信用」にただ乗りすることを防止する趣旨であるとすれば、引用商標A及び引用商標Bには、ただ乗りするに値する「信用」さえ存在しないといわなければならず、そのことは、とりもなおさず、引用商標A及び引用商標Bにおいて求められる著名性が存在しないことを意味している。
また、商標の周知性は、当該商標に付託された品質及びイメージを保護するものであるが、現経営者の末澤俊樹氏が請求人らの経営権を取得して後、請求人らの製造する練り製品の品質は明らかに劣化しており、また、従来上品さを醸し出していた包装紙等のイメージも明らかに変質している。つまり、請求人らが述べている事情は、全て先代の和田功社長の代の請求人らの事柄でその信用を基礎付けるためにある。本号が商標に化体された事実上の信用を保護する規定であることからすれば、帝国データバンクの資料にも記載されている通り、請求人らの経営実態が変更されたとの認識が一般的になされているのであるから、先代の時代の信用を前提に、商標の著名性を議論することはできないといわざるを得ない。
(2)先述の通り、和田功氏は、被請求人に対し、「和田八物産」の商号及び商標を利用することを認め、いわば、被請求人は、請求人らから「のれん分け」を受けた会社である。そして、既述の通り、「のれん分け」を受けた後、被請求人は、請求人から独立した経営主体として、タイ工場において製造された練り製品の製造販売を行なってきたものである。
「のれん分け」を受けた会社が、「のれん分け」をした会社の商号又は商標の一部の文宇を使用することは我が国の取引慣行であり、消費者は、それらを別異の会社として受け入れるのが我が国の取引実態である。美際に、本件商標と引用A及びB商標とが、その出所につき、混同されたことはないのである。
以上述べた通り、本件商標の周知性の不存在及び取引上の出所の混同が存する余地はないことからして、請求人らの主張は失当である。
4 商標法第4条第1項第8号
(1)本号は、使用された商標に化体された人格権を保護する規定である。
請求人ら自身が、審判請求書で述べる通り、引用商標A及び引用商標Bの「和田八」の語は、「和田八次郎」の「和田」姓と名を構成する「八」の文字からなる同人の略称であり、引用商標A及び引用商標Bに化体された人格権の主体は、請求人らではなく、和田八グループの前身である和田八蒲鉾店を開業した「和田八次郎」個人にほかならない。法的には、請求人らは、同人の承諾を前提として、「和田八」の語を、その商号及び商標として使用していたに過ぎないのであり、請求人らは、本号を援用する適格性を有しない。なお、引用商標A及び引用商標Bの人格権の主体である和田八次郎は既に他界している。
(2)被請求人は、和田功より、「和田八物産」として「のれん分け」を受けているのであり、「和田八物産」の商標及び商号の使用についても「承諾」を受けているのである。
この点からも請求人らの主張は失当である。
5 商標法第4条第1項第19号
(1)被請求人は、和田功より、その当時、「和田八物産」として「のれん分け」を受け、同人の承諾を得たうえで、「和田八物産」等の商号及び商標の使用を開始したものである。
すなわち、被請求人は、和田功氏の存命中は、請求人らと独立した兄弟会社として事業遂行をすることが期待され、「和田八物産」等の商号及び商標の使用を行なっていたものである。いうなれば、被請求人は、我が国における伝統的、かつ、正当な取引慣行に基づき、本件商標の使用を開始したのであり、そこには、如何なる意味でも「不正目的」は存在しない。
(2)引用商標A及び引用商標Bは、尼崎市及び大阪市の一部においては知られているものの、全国的にはおろか、関西一円においてさえ周知性を有していない。
また、尼崎市及び大阪市において知られているものも、先代の和田功と結びつけられた、同人の代までの請求人らの商品である。
6 弁駁に対する答弁
(1)請求人は、甲第30号証として提出された大阪地方裁判所の判決をもって、自らの主張の根拠として使用しようとしているようである。しかしながら、同判決は、既に控訴がなされている事件の第1審判決であり、何ら確定したものではなく、この点のみからしても、そのような判決を援用して、自らの主張を支えるものとすることはできない。
請求人は、判決を根拠として、「和田八」商標と「和田八物産」商標との類似性を基礎づけようとしている。しかしながら、「和田八」と「和田八物産」とが類似しないとの取扱は、特許庁において、それら商標が相前後して登録されたこと及び登録異議決定における理由中の判断において明確に確認されたところである(乙第4号証の1)。
「和田八」の商標は、請求人の商号であり、八次郎、八乃輔、八太郎等といった「八」の名前のついた「和田」氏の氏名の省略された称呼であることは一般に伺われるところであり、更に、我が国における和田姓が一般的な部類に属することとあいまって、「和田」と「八」の結合により格別の識別力を生じることはなく、全体として「和田八」の語の識別力は弱く、また、特別に商品の出所識別を可能とするものでもないのである。したがって、そのような語に対し、「物産」という業種を表す語が付された場合、その部分が会社名の識別の重要な部分として理解され、その部分を含めた語が全体として一語として認識されることとなるのは、裁判例(東京高裁平成3年10月24日判決)も述べるように一般的な事柄であり、特許庁の認める実務であるといわなければならない(乙第14号証)。
引用商標A及び引用商標Bの「和田八」の部分の商標法上の自他識別力は強いものではなく、「物産」という明確に業種を表す語が付加されることにより、商標の類似性は失われることは既に述べたとおりである。そのうえ、本件においては、請求人も認める通り、被請求人による造語である「鉾処」という語が付加され、「鉾処和田八物産」という特徴のある商標が形成されることとなっているのである。
この点について、請求人は、「鉾」という語が蒲鉾を連想させると主張するが、「蒲鉾」を取り扱うところという意味では、「蒲鉾処」とされるべきであり、「鉾処」という語に蒲鉾を取り扱うとの意義があるとの請求人の見解は独自のものに過ぎない。また、「鉾処」という語が究極的に「蒲鉾」というイメージを需要者に与えたとしても、そのことは、その語のもつ特別顕著性とは何ら関連しない。つまり、特別顕著性としては、従来「蒲鉾を取り扱っている処」という意味において、「鉾処」という語が使用されたことがないということが重要であって、このような見慣れない語に対し、需要者は、強いインパクトを受けることとなるのである。
したがって、「鉾処」という語が、究極的に「蒲鉾を取り扱っている処」という観念を表しうるという点から、直ちに特別顕著性を否定しようとする請求人の主張には論理の飛躍がある。
(2)請求人の指摘の通り、商標法第4条第1項第15号周知性についても、常に全国的周知が求められている訳ではないであろう。しかしながら、全国的周知が認定されない場合には、「少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていること」が更なる要件として課されているのである。請求人の引用する裁判例において、そのような認定がないことはいうまでもなく、また、同判決においても、請求人の店舗又は取引先の所在は,大阪市、京都市、尼崎市、神戸市、川西市、宝塚市に限定されており、都道府県別の売上額や都道府県毎の宣伝内容については何ら事実認定されておらず、そもそも、数県にまたがる周知性の認定自体に不当なものがあるとともに、周知性の浸透の「程度」という点において、商標法第4条第1項第15号を援用しようとするには、はなはだ不足しているものである(乙第14号証)。
(3)商標法第4条第1項第8号に関する被請求人の主張は、法人の人格権の享有主体性に関する争点にか関わるものではなく、具体的な「和田八」という名称そのものが、和田八次郎という個人の人格権に基づく名称であるということである。
以上のとおり、請求人の本審判事件における請求は成立する余地がない。

第5 当審の判断
請求人株式会社和田八及び請求人和田八蒲鉾製造株式会社(以下、これらを合わせて「請求人」という。)の提出に係る甲第16号証の(1)ないし(26)のパンフレット等、甲第17号証の(1)及び(2)の請求書、甲第20号証の(1)ないし(4)の蒲鉾年鑑、甲第21号証の(1)の朝日新聞、甲第22号証の(2)ないし(12)の賞状、甲第23号証の(1)及び(2)の報告書、甲第24号証の(1)ないし(5)の伊勢新聞及び甲第25号証ないし甲第28号証の証明書等を総合勘案すれば、「和田八」の文字よりなる引用商標A及び引用商標B並びに請求人使用商標が、請求人の業務に係る商品「かまぼこ」を表示するものとして、少なくとも近畿一円において、本件商標の登録出願時には、取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
そして、本件商標は、上記のとおり、「鉾処和田八物産」の文宇よりなるところ、請求人の業務を表すものとして商品「かまぼこ」について使用され、広く知られるに至っていた「和田八」の文字をその構成中に含むものである。
しかして、被請求人は、本件商標中の「鉾処」及び「和田八物産」の文字は、それぞれに自他商品識別力があると主張しているが、構成中の「鉾処」の文字はその後に商品「かまぼこ」に使用されて著名な商標「和田八」の文字を伴っていること、指定商品中に「かまぼこ(蒲鉾)」が存在する事実等と相俟って、これより「かまぼこ(蒲鉾)を生産する処(場所)」の意味合いを容易に看取するものと判断するのが相当であり、また、構成中の「物産」の文宇は、商社的な取引を業とする企業において「○○物産」という商号を使用することは世上ありふれたことであって、自他商品識別力に乏しい語というべきであるから、本件商標にあって、自他商品識別標識としての機能を発揮し得るのは、その余の「和田八」の文字にあるものというを相当とする。
また、本件商標の指定商品は、請求人の取扱に係る商品「かまぼこ」とは、原材料、用途、販売場所、流通系統等を同じくする商品であって、商品においても混同を生ずるおそれのあるものである。
してみれば、本件商標は、これをその指定商品について使用するときは、請求人の業務に係る商品、若しくは、同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
なお、被請求人は、「のれん分け」を受けた旨主張するが、これを証する証左はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)引用登録第2207079号商標


(2)引用登録第2434696号商標


(色彩については、原本参照。)
(3)請求人使用標章


(4)請求人使用標章


審理終結日 2002-03-07 
結審通知日 2002-03-12 
審決日 2002-03-25 
出願番号 商願平9-128055 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Z29)
最終処分 成立  
前審関与審査官 内藤 順子 
特許庁審判長 三浦 芳夫
特許庁審判官 小林 和男
柳原 雪身
登録日 1999-03-26 
登録番号 商標登録第4254291号(T4254291) 
商標の称呼 ホコドコロワダハチブッサン、ボーショワダハチブッサン、ワダハチブッサン、ワダハチ 
代理人 木村 圭二郎 
代理人 清水 久義 
代理人 野村 高志 
代理人 清水 久義 
代理人 高田 健市 
代理人 高田 健市 

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