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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 124
管理番号 1058475 
審判番号 審判1998-35421 
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-09-04 
確定日 2002-04-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第2642520号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第2642520号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第2642520号商標(以下、「本件商標」という。)は、「ETNIES」の欧文字を横書きしてなり、平成4年1月29日登録出願、第24類「おもちや、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く)レコ―ド、これらの部品および附属品」を指定商品として、同6年3月31日に登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第21号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第7号の規定に違反して登録がなされたものであるから、商標法第46条第1項の規定により、その登録は無効とされるべきである。
(2)請求人は、スケートボード用シューズ等について本件商標が出願される以前から需要者の間に広く認識されている商標「ETNIES」の所有者である。
「ETNIES」商標に係る製品は主にスケートボード用シューズであって(甲第3号証)、スケートボード選手により使用されるような品質の高い製品であり、スケートボード関連商品の取引者、需要者、特にスケートボードの愛好者に広く知られているものである。
請求人は全世界的に「ETNIES」商標を出願、登録しているが(甲第4号証)、日本では請求人自らは販売しておらず、被請求人ほかの販売店を通していた(甲第5号証)。
「ETNIES」製品が米国のみならず、わが国においても、本件商標が出願された平成4年1月29日以前に複数の販売店を通じて販売されており、商標「ETNIES」がわが国の当該製品の取引者、需要者の間で既に周知となっていた事実は、以下に示すとおりである。
甲第6号証は、請求人の「ETNIES」商標に係る製品が、本件商標出願前の1992年1月以前から取引きされ、販売されていたことを示す、米国のスケートボード販売業者の証明書8通である。
「ETNIES」ブランドのシューズ及び被服は、わが国でも1990年以来複数の販売店を通じて販売されている。
本件商標が出願された1992年1月29日以前に商標「ETNIES」が請求人により使用されていた事実を示す証拠として、請求人の日本における販売店との間の、1990年及び1991年の取引書類の写しを添付する(甲第8号証)。これらの商品問合わせ、注文書、送り状等により、請求人が商標「ETNIES」の所有者であり、日本の販売店もそのように認識していたことは明らかである。
「ETNIES」製品は「Transworld SKATEBOADING」というスケートボードの専門雑誌に広告が掲載されているが(甲第9号証の1)、1989年から1992年の間、日本でも毎年7300冊以上販売されている。証拠として、当該雑誌の代表者の証明書を添付する(甲第9号証の2…「甲第9号証の1」と記されているが「の2」の誤記と認める。)。7300冊という部数は、当該雑誌がスケートボードという非常に限定されたスポーツの専門誌であることを考えると、決して少ない部数ではない。
同じく日本でも頒布されている国際的スケートボード専門誌「Thrasher」にも「ETNIES」商標に係る製品の広告が掲載されているが、1991年11月号の表紙には、スケートボード選手が「ETNIES」シューズを履いている写真が掲載されている(甲第10号証)。これらの専門雑誌は、被請求人のように運動用具に関する業務を行っている会社は、必ず目を通す雑誌である。
上記により、「ETNIES」商標が米国での使用及びわが国での1990年以来の使用により、本件商標の出願時には既に、わが国のスケートボード関連商品の取引者、需要者、特にスケートボード愛好者の間に広く認識されていた商標であることが明らかである。
よって、本件商標は、指定商品中の「運動具」については、出願前に他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた商標であって、商標法第4条第1項第10号に該当していたにかかわらず登録されたものである。
また、本件商標が指定商品に使用された場合には、請求人所有の「ETNIES」商標に係る商品であるかのごとく需要者に誤認され、出所の混同を生ずるおそれがある。従って、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にも該当していたにかかわらず登録されたものである。
(3)被請求人は1993年に請求人に接触以来、日本における「ETNIES」製品の販売を行っている。請求人は被請求人が本件商標の出願をしたことを知り、被請求人に書簡を送っている(甲第12号証)。被請求人は、「ETNIES」製品の他の販売店であるレバンテから商標使用料をとるために同社に接触したものである。
このことは、被請求人がレバンテにより販売されていた商品について調査していたことを示し、レバンテの店舗又は同社により開催された展示会(甲第13号証)等で、商標「ETNIES」に係る請求人の商品を目にしていたことを示すものである。被請求人は、オリジナルの「ETNIES」製品がどこで販売されているかを知っていながら、商標使用料をとるために本件商標を出願したものと考えられる。
なお、甲第17号証は、米国において請求人製品の販売会社、SoleTechnologyが、VANS社から受けた侵害通告に関する双方の書簡写しである。この侵害事件は被請求人が「ETNIES」商標を使用して販売した製品のデザイン等に対するものである。
商標「ETNIES」は請求人の創作に係る造語であり、特定の意味を有しない。従って、被請求人により偶然同じ商標が採択されたということは考えられない。被請求人は、本件商標出願当時、「スケートボート」という極めて限定された商品及びその関連商品について使用されていた「ETNIES」商標を、同じく「スケートボート」関連商品の取り扱い業者である被請求人が、本件出願当時知らなかったとは考えられない。事実、本件出願のすぐ後の1993年に、被請求人は請求人と接触して請求人製品の販売を開始している。
よって、本件商標は、請求人が「ETNIES」商標を日本においては未だ出願していないのを奇貨として先取りして出願されたものと考えられる。日本のスポーツ界が常にアメリカでの動向に注目していること、米国で人気のある製品はいち早く日本にも持ち込まれること、また、1980年代からのスケートボートの流行を考えると、被請求人には「ETNIES」商標の名声に只乗りしようとの意図が疑われても止むを得ない。従って、本件商標は他人の外国商標を先取りして登録したものとして、国際信義に反する商標として商標法第4条第1項第7号にも該当していたものである。
商標法第4条第1項第19号が新設され、外国商標の保護が厚くなった趣旨にも鑑み、外国商標「ETNIES」に請求人の企業努力によりわが国においても化体した信用が、その信用を利用する行為により損なわれるべきではない。
(4)答弁に対する弁駁(第1回)
被請求人による平成10年11月25日付の答弁書では請求に対する実質的な反証、反論がなされていないが、請求人は以下のとおり弁駁する。
甲第8号証の取引書類の日付はすべて本件商標の出願前の1990年から出願直後の1992年である。これらの書類により、引用商標が本件商標の出願前から我が国において使用されていたこと、請求人のETNIES製品が米国各地のトレードショーに出品され、そこで日本の販売会社との商談が行なわれていたこと、等が明らかである。そして何よりも、これらの商品問合わせ、注文書、送り状等により、請求人が商標「ETNIES」の正当な所有者であり、日本の販売店もそのように認識していたことが明らかである。
被請求人は、本件商標登録後の1994年から1995年に請求人と取引関係にあったことは、甲第19号証の取引書類写しに示すとおりである。
請求人は被請求人に我が国において本件商標を登録することを承諾していない。
(5)答弁に対する弁駁(第2回)
「ETNIES」商標に係る商品というのは、一般需要者を対象とする大量生産品ではなく、スケートボードを趣味とする、あるいはスケートボード関連商品を愛好する需要者、特に流行に敏感な青少年をターゲットとするものであり、その意味で言えば、取引者、需要者の範囲は限定されていると言える。しかしながら、周知性の認定に当たっては、当該商標が「最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含み、また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含む」(商標審査基準)ものとされている。引用商標に係る商品は、米国カリフォルニア発祥のものとして取引者、及び上記のような需要者の間では周知のものである。
また、「ETNIES」商標のような造語商標を請求人と何ら関係なく被請求人が偶然採択するということは通常考えられないものである。「ETNIES」はフランスにおいて1984年に、ジーワイアール・デザイナーズ(GYR Designers)という法人により創作されたもので、その後、1991、1992年には請求人にライセンスされていた。「ETNIES」は、フランス語で「民族」を意味する語から発想された独創的な造語商標であり、以上の経緯で請求人はその所有者となったものである。
被請求人は、「請求人の本件審判の請求こそ、他人の営業努力の成果や多大の費用を費やして行った宣伝広告の成果を、労せずして手にしようとしたものと考えざるをえないものである。」と主張している。
しかしながら、被請求人の現在販売する商品は、米国の請求人の商品とは商品コンセプトも品質も全く別物であるので、被請求人の宣伝広告の成果は請求人にとって全く意味を持たないどころか、請求人の米国製の商品に対する誤解を生じ、かえって多大な不利益となっているものである。
請求人の製品は、大規模に店舗を展開して一般需要者に幅広く販売するのではなく、スケートボード等の専門店で、有名なスケートボード選手と同じシューズを履きたいというような、流行に敏感な青少年を主な夕ーゲットとし、商品の希少性を維持し、ステイタスを保つことを販売方針としているものである。よって、被請求人が販売する一般需要者向け製品とは一線を画すものであり、被請求人製品がETNIES商標に係る製品であると需要者に認識されることは、請求人が上記のような販売方針のもとに築いてきたブランドイメージを著しく損ねるものである。
(6)以上述べたように、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第7号の規定に違反して登録がなされたものであるから、商標法第46条第1項の規定により、その登録は無効とされるべきものである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第3号証を提出した。
(1)請求人が提出した甲号証は英語によるものであり、ほとんど翻訳文が添付されていないため、被請求人は平成10年11月25日付答弁書において、「証拠については主張事実を立証する箇所を表示し、その箇所の翻訳文を添付されたい」旨要求した。しかしながら、請求人は依然として該当個所の表示も翻訳文の提出もしていない。請求人は自己の提出した証拠を明確にしようとしないため、答弁が困難であるが、以下、各請求根拠ごとに、請求人が主張する事実について検討する。
(2)商標法第4条第1項10号について
被請求人が本件商標を出願した当時、請求人がスケートボード用シューズ及びウエアに使用していたと主張する「ETNIES」の商標(以下「請求人商標」という)は、我が国において、本件商標の出願時、「運動具」の取引者、需要者に広く認識されていた商標ではなかった。
この点について、請求人は、本件商標の出願時、日本において請求人商標が「運動具」の取引者、需要者に周知であったと主張し、これを立証する証拠として甲第4号証ないし甲第10号証を提出しているが、請求人が提出している証拠の中には、以下の通り、周知性を立証する証拠として不適切なものが含まれている。
まず、請求人は、ETNIES商標の各国出願・登録リスト及び登録証(甲第4号証)を提出し、請求人は全世界的に請求人商標を出願、登録し、使用している、と主張するが、甲第4号証の1にリストアップされた外国において、本件商標の出願日前に請求人の名前で出願されているETNIES商標はポルトガル、スペイン、スイスの3ヶ国だけである。また、外国における請求人商標の使用を証明する証拠は全く提出されていない。
商標が周知か否の認定は、客観的に事実問題として判断されねばならない事項であり、請求人商標の使用証拠に基づいてその使用期間、使用方法、使用量、使用範囲等を総合勘案してなされるべきであるから(特許庁商標課編「商標審査基準」改訂第6版25頁)、甲第4号証が本件商標の出願時に請求人の商標が周知であったことを立証する証拠とはなり得ない事は明らかである。
次に、請求人は、請求人の代理人弁護士の手紙(甲第5号証)を提出し、「請求人は本件商標の出願前、日本においてETNIES製品を自ら販売しておらず、被請求人ほかの販売店を通じて本件商標の出願日前から販売していた」と主張する。
しかし、被請求人が、本件商標の出願日前に我が国において請求人商品を販売した事実は全くない。このことは、甲第5号証の手紙に、「コマリョーが日本においてETNIES商標を出願したのは、コマリョーがETNIES.USAと商業的関係を持つ以前であったという貴方の理解は正しい」と記載されていることからも明らかである。
また、請求人は、請求人の販売会社からのレター(甲第6号証)により、請求人商標に係る商品が、本件商標出願前から取引され、販売されていたことを示している、と主張する。
しかし、甲第6号証は、いずれの書面もほぼ同時期(平成9年2月25日前後)に作成されていること、いずれの書面も単に、「当社はETNIES製品カタログが1992年1月1日以前に頒布されていたことを証明する。」との文章にサインが添えられているにすぎず、内容が同一であること、各書面の作成者がスケートボードの販売業者であるとすれば、請求人及び請求人の販売会社とは卸売と小売という密接な関係にあること等の事実を考慮すれば、請求人が、各書面の作成者に書面の内容を指定した上でその作成を依頼し、そうした依頼に応じて作成されたものであることは明らかである。従って、これらの書面はその信用性が極めて乏しく、ETNIES製品カタログが1992年1月1日以前に頒布されていたことを立証する証拠とはなりえない。
更にまた、請求人は、米国のスケートボード専門誌に掲載された広告(甲第9及び10号証)を提出し、これにより請求人の商標が、我が国において、本件商標の出願前、「運動具」の取引者、需要者の間に広く認識されていたと主張する。
しかし、請求人商標の広告は2種類の米国スケートボード専門雑誌に8回と14回掲載されたのみであるから、この程度の使用では、米国の「運動具」の需要者、取引者においてさえ広く認識されていた事を立証するに足るものではない。ましてや我が国においては、上記米国の専門雑誌の我が国における販売数も証明されていないし、我が国の英語の水準から見ても、これら英語の専門雑誌を、ススケートボード用具の需要者、取引者でさえ、その多くが読んでいたとは到底考えられない。従って、ゴルフ、テニス、剣道等を含む「運動具」全般の需要者、取引者を対象にすれば、甲第9及び10号証は、我が国において、請求人商標が商標法第4条第1項第10号で要求される周知性を立証し得るものではない事は明かである。
なお、請求人は、甲第8号証について、一切翻訳を付していないが、被請求人は、これらの証拠を検討するため、早急に翻訳を提出されるよう請求する。
特に、請求人は、甲第8号証を「商品問い合わせ、注文書、送り状等により、請求人が商標『ETNIES』の正当な所有者であり、日本の販売店もそのように認識していたこと」を立証する証拠であると主張するが、こうした事実は、甲第8号証の書証にいかなる事実が記載されているのかが判明しない限り明らかにならないため、早急な翻訳添付の必要性は極めて高い。
(3)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号によって本件商標登録が無効となるためには、「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれ」が必要となる。
請求人は、この点について、理由を明らかにすることなく、出所の混同を生ずるおそれがあると主張するが、(2)で述べた通り、本件商標の出願当時、請求人商標自体が、我が国スケートボードの愛好者間においてさえ全くの無名であった以上、出所の混同を生ずるおそれはあり得ない。
(4)商標法第4条第1項第7号について
請求人は、「被請求人はオリジナルの『ETNIES』製品がどこで販売されているかを知っていながら、商標使用料を取るために本件商標を出願したものと考える。」等主張しているが、これらは何ら根拠のない主張である。
被請求人が本件商標を出願したのは1992年1月29日であり、被請求人はそれ以前に請求人商標の付された商品を販売したことがないのは勿論、請求人とは何の関係もなかった。ところが、本件商標の出願日から約2年後の1993年12月に、請求人側からレターによる接触があったのである。
即ち、甲第12号証に明らかな如く、請求人は、被請求人が本件商標を日本で出願済みで近々日本における権利者となることを知り、被請求人にロイヤリテイーを支払い、自己の商品を被請求人により日本で販売してもらうことを希望し、相互の利益のために協力し合うことを提案してきたのである。請求人がロイヤリテイーの支払いを自ら申し出たのは、当時まだ無名に近い請求人の商標が、先願主義を採用する日本の法制下においては、単に先使用であることのみを以て商標権者に対抗できないことを承知していたからに他ならないと推測される。しかしながら、被請求人は元々自己の商品に本件商標を使用するために出願したのであり、事実、本件商標を自己の企画発注した商品に使用していた為、請求人の誘いを拒絶し、その後も請求人との間にいかなる契約も締結していない。ただ、被請求人は、本件商標出願後、請求人の商品をスポットで数回輸入したことはあるが、これらは本件商標商品の販売のために独自で開拓した国内の販売ルートに乗せて被請求人の商品を販売した場合、採算がとれるか否かを試しただけであり、その後は請求人の商品は一切扱わず、自己の商品にのみ本件商標を使用し、本件商標の宣伝広告及び販売拡大に努めてきた。
以上のように、被請求人が本件商標を出願した経緯には、公序良俗に反するような事実も不正競争の意図も一切存在しない。
被請求人が本件商標を出願した後、今日までに行ってきた本件商標の宣伝広告の事実を述べれば、被請求人が現在までに費やした本件商標の広告費用は、証明がとれた雑誌とテレビでの広告の総額だけでも8716万円に上っている(乙第1号証及び乙第2号証)。例えば1998年度は「Boon」「Fine」「non-no」他の有名雑誌に広告を掲載しており、その雑誌広告費用は、株式会社アイ・エースの証明にある通り4086万円であった。また同年、テレビ朝日の全国ネットによるテレビコマーシャルも行っており、その費用は1150万円であった。更にまた、1998年7月及び1999年4月の「Boon」への雑誌広告には、日本の人気女優である広末涼子を使用した広告を行っており、需要者、取引者の注目を集めている。こうした被請求人の宣伝広告に比例して、本件商標商品の販売実績が、本件商標出願時の1992年度は1000万程度であったものが、1993年には約6000万円、1994年約2億円、1995年約6億円、1996年約5億円、1997年約8億円、1998年約15億円と上昇し、本件商標商品は、現在、被請求人の主力商品に成長している(乙第3号証)。
次に、請求人は、「被請求人にはETNIES商標の名声にただ乗りしようとしたものであるから、本件商標は他人の外国商標を先取りして登録したものとして国際信義に反する商標として商標法第4条第1項第7号に該当する」旨主張する。
しかし、既に述べたとおり、請求人商標が本件商標の出願当時、全く無名の商標であったのであるから、被請求人に他人の名声にただ乗りする等の意図がない事は明白である。それどころか、請求人は、甲第12号証に明かな通り、1993年に被請求人が本件商標を出願し権利者となったことを知っていたにもかかわらず、本件商標の登録後その動向を窺っていた模様で、出願当時は殆ど無名であった本件商標が、出願人の営業努力と、多大の費用を費やして継続的に行ってきた宣伝広告努力の結果、漸次需要者に知られるようになり、売上げが急増してきたのを見定めて、登録後5年近くも経った今になって、本件無効審判を請求してきたのであるから、請求人の本件審判の請求こそ、他人の営業努力の成果や多大の費用を費やして行った宣伝広告の成果を、労せずして手にしようとしたものと考えざるを得ないものである。
商標法第4条第1項第7号を適用するためには、当然、公序良俗違反がなければならないところ、本件商標に関しては、その出願時、請求人商標は全く無名の商標であり、被請求人は請求人の商品を販売したことがないのは勿論、請求人とは何らの関係も有していないのであるから、被請求人には、他人の商標の名声に便乗しようとするような不正競争の目的もなければ、商標法上不正目的とされる信義則違反も存在しない。しかも、商標法4条1項7号は、本来的には商標法上の秩序の維持を目的とした規定であるから、本件商標に関して商標法第4条第1項第7号が成立する余地は全くない。
(5)以上のとおり、請求人の主張する根拠はいずれもその要件を充たしておらず、本件商標はその登録を無効とされるべきものではない。

4 当審の判断
(A)請求人提出の甲各号証に基づく事実認定
(イ)甲第6号証は米国におけるスケートボードの取扱業者による証明書と認められるところ、
1葉目の書面には「………HAD RECEIVED ETNIES CATALOGUES AND PRODUCT BEFORE JANUARY 1,1992.」(………エトニーズのカタログと製品を1992年1月1日以前に受け取った旨)との記述が認められる。
2葉目の書面には「………WE RECEIVED ETNIES CATALOGS IN OUR COMPANY BEFORE THE DATE OF JANUARY 1992.」(………私たちはエトニーズのカタログを1992年1月以前に会社で受け取った旨)との記述が認められる。
3葉目の書面には「………We received ETNIES catalogues before January 1992.」(………私たちはエトニーズのカタログを1992年1月以前に受け取った旨)との記述が認められる。
4葉目の書面には「………had received Etnies catalogs prior to January 1,1992.」(………エトニーズのカタログを1992年1月1日より前に受け取った旨)との記述が認められる。
5葉目の書面には「………RECEIVED CATALOGS AND ORDER FORMS BEARING THE ETNIES NAME AND LOGO PRIOR TO JANUARY 1,1992.」(………エトニーズの名称とロゴに関係するカタログと注文票を1992年1月1日より前に受け取った旨)との記述が認められる。
6葉目の書面には「………DID RECEIVE … ABOUT ETNIES SKATEBOAD SHOES PRIOR TO JANUARY 1,1992.」(………エトニーズのスケートボード用の靴に関する…を1992年1月1日より前に受け取った旨)との記述が認められる。
8葉目の書面には「………RECEIVED CATALOGS BEARING THE NAME OF ETNIES PRIOR TO JANUARY 1,1992.」(………エトニーズの名称に関係するカタログを1992年1月1日より前に受け取った旨)との記述が認められる。
(ロ)甲第8号証(平成11年11月18日付提出の弁駁書添付の再提出のもの。以下同じ。)の1の(1)は、MORIMURA BROS.(U.S.A.)社(本号証の(7)及び(8)により日本にも事務所を構えていると認められる。)によるETNIES USA社(以下、単に「エトニーズ社」と記す。)宛の1991年10月8日付の書面と認められるところ、ここには「OUR MAJOR CUSTOMERS ARE EXPECTING TO SHOW YOUR SHOES TO RETAILERS TO HAVE QUICK MARKETING IN JAPAN」(わが社の顧客たちが、貴社の靴を小売商に提示して日本で速やかに流通させることを期待しています旨)との記述が認められ、また、同号証の(2)ないし(7)の書面によれば、本件商標出願以前に両社間で業務に関する書面のやりとりが行われていたことが認められる。
(ハ)甲第8号証の2の(1)は、東京都世田谷区所在のADVANCE MARKETING社によるエトニーズ社宛の1990年11月8日付の書面と認められるところ、ここには「WE ARE CURRENTLY SELLING VANS HERE BUT MANY OF OUR DEALERS ASKED ABOUT THE ETNIES.WE LIKE TO REPRESENT YOUR SHOES IN JAPAN ………」(わが社は現在はVANS社の商品を販売しているが、わが社の多くの取引先からエトニーズについて聞かれている。貴社の靴を日本で取扱代理したい旨)との記述が認められ、また、同号証の(2)ないし(10)(但し、本件商標出願後のものと認められる(7)を除く。)の書面によれば、本件商標出願以前に両社間で互いの業務に関する書面のやりとりが行われていたことが認められる。
(ニ)甲第8号証の3の(3)は、埼玉県所沢市所在のPROLINE社によるエトニーズ社宛の1991年3月2日付の書面と認められるところ、ここには「Is this shoes avalable NOW?」(この靴がすぐ入手できますか?)との記述及び「ETNIES」のロゴが付された商品「靴」の写真が表示されていることが認められ、また、同号証の(1)、(2)、(4)、(5)によれば、両社間でエトニーズ社の取り扱いに係る商品「靴」に関する書面(商品送り状を含む)のやりとりが行われていたことが認められる。
(ホ)甲第8号証の4(但し、本件商標出願後のものと認められる(3)を除く。)によれば、本件商標出願前に、大阪府大阪市所在のSENRI BOEKI社とエトニーズ社との間で、互いの業務に関する書面のやりとりが行われたことが認められる。
(ヘ)甲第8号証の5の(1)は、エトニーズ社による大阪府大阪市所在のHASCO INTERNATIONAL社宛の1991年9月25日付の書面と認められるところ、ここには「We are able to fill your order of etnies footwear」(わが社は、貴社によるエトニーズの靴の注文に応じることができます旨)との記述が認められ、また、同号証の(2)ないし(5)(但し、本件商標出願後のものと認められる(3)を除く。)によれば、本件商標出願前に両社間で業務に関する書面のやりとりが行われたことが認められる。
(ト)甲第9号証の1は米国のスケートボード専門雑誌「TRANSWORLD SKATEboarding」1991年4月から11月号の写しと認められ、また、甲第10号証は米国のスケートボード専門雑誌「THRASHER」1990年2月から1991年12月号の写しと認められるところ、これらによれば、本件商標出願前に米国において、商品「スケートボード用靴」に商標「ETNIES(etnies)」(以下、請求人及びその関係者が、商品「スケートボード用靴」に使用する商標「ETNIES(etnies)」を「引用商標」という。)が使用されていたことが認められる。
(チ)甲第17号証は米国のVANS社とエトニーズ社及びSoleTechnology社(エトニーズ社の関連会社と推認し得る)との間における商標権侵害通告に関する書面と認められるところ、その1葉目ないし2葉目の書面は、米国VANS社がSoleTechnology(エトニーズ)社に対して同社が日本及び米国で販売している商品「靴」はVANS社の商標権を侵害するので該商品の販売中止を申し入れる旨の1997年9月17日付の通告書(写し)と認められる。
また、3葉目ないし6葉目の書面は、SoleTechnology社代理人が米国VANS社宛に、指摘を受けている商品「靴」は、SoleTechnology(エトニーズ)社が販売しているのではなく日本の「Komaryo」社が販売しているものであり、SoleTechnology(エトニーズ)社は該商品の製造・販売・流通には関わっていない旨を述べた書簡(写し)と認められる。
(B)被請求人の業務に関する情報
名古屋市中小企業情報センター(名古屋市千種区吹上2-6-3所在)掲載に係るインターネット情報「”情報なごや”で最近取り上げた企業一覧」中の「(株)コマリョー」(被請求人のことと認められる)の頁(http://www.info-c.city.nagoya.jp/company/nov/komaryo.html)には以下の記載が認められるものである。
「………例えば同社はヘップサンダルから出発してケミカルシューズ、靴へと取扱品目を拡大していくが、………同社が輸入品を扱い始めたのは今から15〜16年前の1980年代初頭である。そのきっかけとなった一つが、同社が靴分野へ進出を計った際、当時の日本国内の生産流通系列に阻まれて靴の仕入れ先を国内で確保出来なかったことである。社長は当時の業界では珍しかった輸入品への積極的取り組みという形でこの難関に取り組んだのである。………同社の輸入先は欧米、アジアにまたがって世界20ケ国に及ぶが、その海外ネットワークは商社に頼らず同社で構築したものである。………」。
(C)認定事実に基づく判断
前記(A)の(イ)によれば、本件商標出願前に、米国において請求人の関連するエトニーズ社の取り扱いに係る商品「スケートボード用靴」のカタログが頒布されていたということができ、また、前記(A)の(ト)の事実をも合わせて検討すれば、本件商標出願前に、「ETNIES」商標が使用された商品「スケートボード用靴」が米国の市場に提供されていたといえるものである。
請求人は、「甲第6号証は、いずれの書面もほぼ同時期に作成され、単に、『当社はETNIES製品カタログが1992年1月1日以前に頒布されていたことを証明する。』との文章にサインが添えられているにすぎず、内容が同一であり、各書面の作成者がスケートボードの販売業者であって、請求人及び請求人の販売会社とは卸売と小売という密接な関係にあること等の事実を考慮すれば、請求人が、各書面の作成者に書面の内容を指定した上でその作成を依頼し、そうした依頼に応じて作成されたものであることは明らかである。従って、これらの書面はその信用性が極めて乏しく、ETNIES製品カタログが1992年1月1日以前に頒布されていたことを立証する証拠とはなりえない。」旨述べている。
しかしながら、甲第6号証に係る証明書は、あらかじめ用意された画一的な書面にサインをしたものではなく、それぞれの内容が異なり、使用している用紙も異なるものであって、また、手書のものもあることから、請求人が各書面の作成者に書面の内容を指定した上で作成を依頼したとする根拠は認められず、これら書面の信用性を否定する被請求人の主張は採用できない。
ところで、わが国においてスポーツとしてのスケートボードは、主に青少年を中心に親しまれているものであって、国民全体に広く親しまれているスポーツとは認められないことから、該スポーツ用具の取扱業者(販売店)は、一般の運動具店ではなく専門の取扱業者(販売店)が主といえるものである。
しかして、前記(A)の(ロ)ないし(ヘ)を総合すれば、本件商標出願前に、日本のスケートボード用具の取扱業者(5社)とエトニーズ社との間で、エトニーズ社の取り扱いに係る商標「ETNIES」が使用された商品「スケートボード用靴」に関する取引交渉が行われたと認め得るものである。
そうとすれば、引用商標は、わが国のスケートボード用具に関わる当業者間において本件商標出願前に著名性を得ていたとみても差し支えないものと判断される。
これらに加えて、前記(B)における被請求人の事業活動の紹介内容を総合すれば、被請求人は、米国を含む海外における商品「靴」の市場調査の過程などにおいて、引用商標の存在を知ったものと推認するに難くないものである。
さらに、前記(A)の(チ)によれば、1997年秋の時点で、件外米国のVANS社は、日本で販売されている、請求人(あるいは関係者)以外の者の取り扱いに係る、商標「ETNIES」が使用された商品「靴」の出所について、それがあたかもエトニーズ社の取り扱いに係るものであるかの如く出所の混同をしたことが認定できる。
(D)本件商標と出所の混同について
被請求人は、引用商標はその出願時において、米国においても、わが国においても、請求人の取り扱いに係る商品「スケートボード用靴」に使用するものとしての著名性は獲得しておらず、出所の混同を生ずるおそれはなかった旨主張している。
そこで、以下、引用商標との関係で本件商標が出所混同をきたすおそれがあったか否か検討する。
ところで、出所の混同に関して最高裁判所は、平成12年7月11日言渡の判決において次のように判示している(平成10年(行ヒ)第85号)。
「『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。」
そこで、これを本件について照らしみるに、本件商標「ETNIES」は、特定の語義を有しない独創性のある造語と認められるものである。
しかして、このような造語よりなる商標に、その採択者(最初の使用者)以外の他人に対する登録阻却効を広く与えたとしても、当該他人が受ける法的不利益は小さいというべきである。
なぜならば、このような造語商標が異なる者により重ねて採択される確率は、一般の既成語が重ねて採択される確率と比べて極めて低いといえ、そうであれば、その採択確率の高低により後発の採択者が受ける法的不利益の度合いが勘案されても差し支えないというべきである。
これに対して、被請求人は、本件商標を同人が独自に採択したものであるとか、あるいは、本件商標を被請求人が採択した事情、すなわち、被請求人が受けるべき法的利益の度合いが大きく勘案されるべき事情を説明してはいない。
そうとすれば、被請求人が本件商標に関して守られるべき法的利益を小さくみてもあながち不合理とはいえないものである。
もっとも、被請求人は、「出願当時は殆ど無名であった本件商標が、出願人の営業努力と、多大の費用を費やして継続的に行ってきた宣伝広告努力の結果、漸次需要者に知られるようになり、」と述べ、乙第1号証ないし同第3号証を提出している。
しかしながら、これら乙各号証によっては、本件商標が商品「靴」に使用された事実は窺えるものの、どのようなかたち・内容で、どの程度の範囲に広告宣伝されたのかが明らかではなく、これら号証のみによっては、本件商標が、その出願前に被請求人の取り扱いに係るものとして周知・著名となっていたと認定するには十分とはいえないものである。
しかして、引用商標は、本件商標出願前に、米国及びわが国のスケートボード用具に関わる当業者間で著名性を得ていたといえるものであり、また、被請求人及びその関係者以外の者が使用する「ETNIES」商標は、米国のVANS社に対し、それがあたかもエトニーズ社の取り扱いに係る商品であるかの如く出所の混同を生じさせた事実が存するところである。
そして、「スケートボード用靴」(販売部門、品質、用途、需要者層などを考慮すれば「運動用特殊ぐつ」の範疇の商品と判断される。)は、本件商標の指定商品中の「運動具」に含まれる極めて関連の深い商品である。
してみれば、本件商標はその出願時に、わが国のスケートボード用具に関わる当業者間において、あたかも請求人あるいはその関係者の取り扱いに係る商品であるかのごとく商品の出所についての誤認・混同を生じさせるおそれを有していた商標というべきである。
(D)請求人が提出した証拠方法について
被請求人は、「請求人が提出した甲号証は英語によるものであり、ほとんど翻訳文が添付されていないため、被請求人は『証拠については主張事実を立証する箇所を表示し、その箇所の翻訳文を添付されたい』旨要求した。しかしながら、請求人は依然として該当個所の表示も翻訳文の提出もしていない。請求人は自己の提出した証拠を明確にしようとしない」と述べている。
確かに、請求人の甲各号証に関する対応には被請求人が主張するような適切さに欠ける点が見受けられるものの、そのことをもって甲各号証の成立を否定することはできないというべきである。

5 結論
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたというべきであるから、その登録は同法第46条第1項第1号の規定により無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2000-09-04 
結審通知日 2000-09-19 
審決日 2000-10-03 
出願番号 商願平4-7982 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (124)
最終処分 成立  
前審関与審査官 半戸 俊夫木村 幸一 
特許庁審判長 小松 裕
特許庁審判官 芦葉 松美
宮川 久成
登録日 1994-03-31 
登録番号 商標登録第2642520号(T2642520) 
商標の称呼 エトニース、エトナイズ 
代理人 日比 紀彦 
代理人 渡辺 彰 
代理人 清末 康子 
代理人 小出 俊實 
代理人 石川 義雄 
代理人 岸本 守一 
代理人 鈴江 武彦 
代理人 岸本 瑛之助 
代理人 西村 雅子 

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