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審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない 030
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない 030
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 030
管理番号 1053814 
審判番号 無効2000-35564 
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2002-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-10-17 
確定日 2002-01-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第4091319号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4091319号商標(以下、「本件商標」という。)は、平成8年2月22日に登録出願され、後掲(1)に示すとおり、「ぬれおどり」の平仮名文字を横書きに表してなり、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、平成9年12月12日に設定の登録がされたものである。

2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する各登録商標は、以下の(A)ないし(C)に示すものである。
(A)登録第765003号商標(以下、「引用a商標」という。)は、昭和38年10月21日に登録出願され、後掲(A)に示すとおり、毛筆書体により縦書きした「ぬれ」及び「甘なつと」の各文字を前者は右側やや上部位置に、後者はその左側位置やや下方にずらして密着させる如く表してなり、第30類「甘納豆」を指定商品として、昭和42年12月19日に設定の登録がされ、その後、該商標権は、昭和53年8月2日、同62年12月14日及び平成9年9月2日の両3度に亘って、存続期間の更新登録がされたものである。
(B)登録第1510594号商標(以下、「引用b商標」という。)は、昭和51年12月8日に登録出願され、後掲(B)に示すとおり、毛筆書体により縦書きした「ぬれ」の平仮名文字よりなり、第30類「甘納豆」を指定商品として、昭和57年4月30日に設定の登録がされ、その後、該商標権は、平成4年5月28日に存続期間の更新登録がされたものである。
(C)登録第3342511号商標(以下、「引用c商標」という。)は、平成7年4月17日に登録出願され、後掲(C)に示すとおり、活字書体により横書きした「ぬれ甘納豆」の文字よりなり、第30類「甘納豆」を指定商品として、平成9年8月29日に設定の登録がされたのである。

3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第11号証(枝番号を含む。)を提出している。
(1)請求の利益について
請求人は、商品「甘納豆」について、上記2に示す引用各商標その他関連する登録商標を多数所有する者である。これら登録商標は登録以来今日に至る迄長年にわたって使用すると共に読売新聞ほか大手日刊紙その他に広告するばかりでなく、旧国鉄時代から現JRに至る迄、更には地下鉄各社の車内広告等々で宣伝にこれ勤め、需要者及び取引者間に極めて周知著名な商標となっている商標である。
然も、引用a商標は、提出した甲第3号証、同第4号証、同第8号証、同第9号証及び同第11号証に示す通り、指定商品について使用開始からすでに50年以上(出願から34年以上、登録から30年以上)使用し且つ鋭意広告宣伝に努力した結果、昭和47年当時すでに指定商品について極めて著名な商標となった(甲第4号証:商標研究会昭和47年9月5日発行「日本有名商標録」)。
従って、請求人以外の者が商品「甘納豆」及びこれに類似する商品菓子及びパンに「ぬれ」の文字及び該文字を含む商標を使用することは、商標権を侵害するものであり、更には請求人の前記登録商標に蓄積された信用にただのりするばかりでなく当該信用を害するおそれがあり、更に需要者をして商品の出所について混同を生じせしめる虞がある。
従って、請求人は本件審判請求について重大な利害関係を有するものである。
(2)無効の理由について
本件商標は、請求人の所有する引用各商標と類似するから、商標法第4条第1項第11号及び同法第4条第1項第10号又は同法第4条第1項第15号に該当する。
(ア)引用各商標の構成及び称呼並びに観念について
引用a商標は、甲第3号証に示す通り、「ぬれ」及び「甘なっと」の各文字を縦書き二列に表し、然も「ぬれ」の文字部分を「甘なっと」の文字部分のやや右肩上方に位置させて構成し普通に用いられる方法で表示してあるから、「ぬれ」の文字と「甘なっと」の文字部分が観者をして明確に区別して認識され得るものと云える。そして、商標中「甘なっと」の文字は指定商品「甘納豆」を指称するものと認められるから、引用a商標の要部は「ぬれ」の文字部分にあると云える。
従って、この引用a商標から生ずる称呼及び観念は、その構成上「ぬれ」の文字部分から「ヌレ」の称呼を生じ、又、商標全体からは「ヌレアマナット」の称呼を生ずるものと認められると共に「ぬれ印の甘なっとう」なる観念が生じる。
引用b商標は、平仮名「ぬれ」の二文字を縦書きに普通に用いられる方法で表示した構成からなり、これより「ヌレ」の称呼を生ずるが特定の観念は生じない。
引用c商標は、平仮名「ぬれ」の文字と漢字「甘納豆」の文字とを「ぬれ甘納豆」と同書同大同間隔をもって普通に用いられる方法で横書き一連に表示してなる構成であるが、平仮名「ぬれ」の部分と漢字の「甘納豆」の部分は外観上分離して認識され得る態様であり、又、商標中漢字の「甘納豆」の文字部分は指定商品名であるから当該商標の要部は「ぬれ」の文字部分にあると認められる。従って、引用c商標からは「ヌレ」の称呼を生ずると共に「ヌレアマナットウ」の称呼をも生ずると共に「ぬれ印の甘納豆」なる観念が生じる。
(イ)本件商標と引用各商標との外観及び称呼の類否について
本件商標は、「ぬれおどり」の文字を横書きしてなるが、商標中「おどり」の文字は、漢字の「踊り・躍り」に通じ、その観念は「おどること,とびはねること」「舞踏・舞踊」(広辞苑 岩波書店 第5版,甲第5号証)であり、「踊り」は古今東西をとわず、又、人種をとわず人間生活と深い関わりをもつ文化の一つであって「踊り・おどり」の語は日本人の間において日常的に使用され且深く親しまれている語であるのに対して、「ぬれ」は後述するように特定の観念を有しないとするのが妥当であり、従って「ぬれおどり」からは特定の観念を生じないと認められるので、本件商標は、観念上からして「ぬれ」の文字部分と「おどり」の文字部分とに分離して認識され得る商標である。然も、商標中「ぬれ」の文字は請求人の前記引用著名商標及び登録商標の唯一の要部をなす文字部分であり、本件商標は商標中に請求人の著名商標の要部を要部とする商標と認められる。
従って、両商標は要部において「ヌレ」の称呼を同一にし、その外観をも同一にする商標といわざるを得ず、本件商標と引用各商標とは商標の要部「ぬれ」の文字部分を同一にする類似の商標というべきである。
更に、指定商品は共に菓子及びパンの範疇に属し、商品中、甘納豆において抵触する商品であり、その他の指定商品において類似する商品である。
以上のように、本件商標は、商標の要部は「ぬれ」の文字にあり、請求人に係る引用各商標とその要部を同一にし、然も、請求人引用の周知著名商標とは指定商品が「甘納豆」において互に抵触することは、商標類似対比の如何なる観点から考察してもこれを否定できないものであり、又、引用各商標は、商標権者の永年にわたる努力によって著名商標としての地位を獲得していることは、業界は勿論のこと特許庁においても顕著な事実であり、本件商標は請求人引用の著名性に只乗りする行為であると共に商標権の侵害行為である。
本件商標は、前記の通り引用各商標と商標の要部である「ぬれ」の文字部分を同一にし、指定商品において互に抵触する類似商標と認められるから、本件商標をその指定商品について使用するときは請求人の引用各商標と商品の出所について混同を生じさせるおそれがある。
(ウ)本件商標及び引用各商標の自他商品の識別機能を有する部分「ぬれ」の観念について
本件商標及び請求人に係る引用各商標の要部はすでに述べたように「ぬれ」の文字部分にある。平仮名「ぬれ」そのものには特定された観念はないが、これに相応する漢字には「濡れ」「塗れ」等が在る。
従って、両者はその称呼「ヌレ」を共通にするけれども何れの漢字の意義なのか特定することは困難である。
(a)「塗れ」について
「塗れ」は物の面に物を「ぬりつける」意を有する「塗る」の「命令形」をなす語であって指定商品との関係では、商標法第3条に規定する不登録事由に該当するものではないと考えられる。
(b)「濡れ」について
「濡れ」は辞書によれば「ぬるること」,「いろごと」(昭和15年1月三省堂発行 廣辞林)(甲第5号証の2)とあり、又、『ぬれること。源氏夕霧「女君のかかる-をあやしと咎め給ひぬべければ」』恋愛。いろごと。情事。好色。(1998年11月(株)岩波書店発行 広辞苑)(甲第5号証の1)と記載されており、これらの記載からすれば「濡れ」の観念又は「ぬれ」から直感する意義は前記の意と解するのが妥当で、水に「ぬれる」とまで理解することは辞書の記載からして妥当性を欠くものと云うべきである。又、「ぬれ」が「濡れ」に通じ、水、水分、露等々液状体に「濡れること」を暗示する語でもあると理解しても「…に濡れる」「濡れ…」のように「濡れ」の語の前後に付加される語によって初めて「ぬるること」、「ぬれること」の意味が明かになるのであって、単に「ぬれ」、「濡れ」では何にぬれる(ぬるる)のか特定された観念は生じない(観念は特定されない)ものと云うべきである。
以上のように、請求人引用の商標の要部「ぬれ」及び本件商標を構成する商標の要部「ぬれ」には指定商品との関係においては観念を特定することは困難と云わざるを得ない。なるが故に請求人引用の商標が登録商標として登録され且つ著名商標としての確固たる地位を獲得するに至っているのである。
以上により、本件商標の「ぬれ」及び引用各商標の「ぬれ」の文字はそれぞれの商標の要部と認められるから、両商標とも特定の観念を有しない「ぬれ」の文字において同一の要部を有する商標といわざるを得ない。
(エ)結び
以上のように、商品「菓子、パン」については、「ぬれ」の文字は自他商品の識別機能を有するものであり、且つ請求人に係る引用各商標は登録商標であって、本件商標とその要部「ぬれ」を同一にし指定商品も互いに抵触し、他人の使用を排除する権利を有すること極めて明かであるから、本件商標は商標法第4条第1項第10号、同法第4条第1項第11号又は同法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすべきである。
(オ)被請求人の答弁に対する弁駁
a)被請求人は、本件商標の自然な称呼は字音通り「ヌ」「レ」「オ」「ド」「リ」つまり「ヌレオドリ」であり、観念については、造語として、「濡れ尾鳥/ぬれおどり(尾の濡れた状態の鳥)」又は「雨や、水に濡れた状態で踊っている様」、「びしょぬれになりながら音楽やりズムに合わせ手や身体を動かしている状態」を観念させる旨主張しているが、かかる観念は、造語としての後に考えたこじつけに過ぎず、この判断は、自然なものとはいいえない。
そもそも造語商標とは、商標使用者によって創造されたもので、特定の観念を本来的には有しない文字商標で自他商品の識別力がつよいマークであって、たとえば調味料に対する「味の素」は、それが美味に不可欠のものであることを示し、ホルモン剤に「エナルモン」はエネルギーのもととなる男性ホルモン剤であることを示し、水虫薬に対する「カミックス」は病菌をかみつくす効力を示し、歯痛薬の「ケロリン」は歯痛がけろりと止まることを示すごとく、商品の特性を暗示するものや欧文字によるものは、語感において商品を宣伝、広告する場合、需要者に快く響くものを採択使用されるのが常である。
このような観点より、商標「ぬれおどり」をみた場合、造語商標とはいえ単に「ぬれ」と「おどり」の一つの文字を繋ぎ合わせたにすぎない。
してみれば、観念の異なる「ぬれ」と「おどり」を結合してなり、全体として何等商品の特性を暗示してなるものではない本件商標「ぬれおどり」は、書された文字に相応して、「ヌレオドリ」と読まれる場合があるとしても、単に「ヌレ」の称呼をも生ずるものといわざるを得ない。
他方、引用b商標の構成は、「ぬれ」の文字よりなるので、これより「ヌレ」の称呼が生ずること明らかであり、「ヌレ」の称呼をも生ずる本件商標とは、称呼上類似の商標である。
したがって、本件商標と引用b商標とはいずれも「ヌレ」の称呼を同一にする類似の商標であり、かつ、指定商品も類似のものであること明らかであるから、結局、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録になったものである。
b)次に、周知・著名商標の保護の観点より本件商標と引用a商標について述べる。
請求人所有の引用a商標の著名性についは、審判請求書にも詳述したところであるが、指定商品「甘納豆」について、使用開始からすでに50年以上使用し(商標権存続期間の更新の登録も三度なされている。)、甲第4号証、同第5号証、同第9号証及び同第11号証に示した各号証の外、大手日刊紙その他に広告し、旧国鉄時代から現JRに至るまで、更には地下鉄各社の車内広告等々でも宣伝してきている。
又、有名デパート即ち、伊勢丹、三越、高島屋、西武、小田急、松坂屋、大丸、東急、松屋等のお菓子売り場にコーナーを設置し販売が行われ、東京各駅の売店でも販売され、東京土産としても絶賛され、全国的にその品質の良さの評判と相俟って、昭和47年当時はすでに需要者及び取引者間に極めて周知著名な商標となっていた。これは、ひとえに請求人の長年に亘る広告宣伝と商品の品質にこだわり、その向上に鋭意努力した結果である。
ところで、平成11年7月1日、特許庁では、周知・著名商標の保護の重要性を、a.周知・著名商標が他人に無断で使用されると、その所有者の損害が大きいばかりでなく、商品・役務の出所の混同を生ずることにより需要者の利益も損なうことになる。b.周知・著名商標の財産的価は大きく、近年のプロパテント政策の推進から十全の保護が必要である。として、周知・著名商標の保護等に関する審査基準の改正を行った。
その改正審査基準(抜粋)中の法第4条第1項第10号、法第4条第1項第11号及び法第4条第1項第15号の改正の趣旨及びその例示等よりして、請求人所有の引用a商標の著名性については、先に述べた通りであり、そうとすれば、観念の異なる「ぬれ」と「おどり」の文字を結合してなり、全体として何等商品の特性を暗示するものではない商標「ぬれおどり」とは類似する商標であり、混同を生ずるおそれのある商標といわざるを得ない。
請求人は、商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」により被請求人が「ぬれおどり」なる商標を採択したとは決めつけるものではないが、例えば、同じデパートのお菓子売り場の同一フロアーに名声を博している「ぬれ甘なつと」と並んで「ぬれ○○○」「ぬれ○○○」と付された商標が出現したならば、やはり「ぬれ甘なつと」の出所表示機能の稀釈化をもたらし、折角の請求人による過去の「ぬれ甘なつと」の広告宣伝その他に要した企業努力は水泡に帰すものとなる。
かかる事情が放置されるならば、著名商標「ぬれ甘なつと」の出所表示機能の稀釈化は免れず、この度の著名商標の保護に関する審査基準の改正は有名無実のものに帰してしまう。

4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出している。
(1)本件商標の内容(称呼、観念)について
本件商標は、ゴシック体の平仮名「ぬれおどり」を左から右へ横に書記したもので、同書、同大、同間隔の構成からなるものであるから、その自然な称呼は字音通り「ヌ」「レ」「オ」「ド」「リ」つまり「ヌレオドリ」と言うことが出来る。
次に、本件商標の観念について検討するに、例えば「都鳥/みやこどり」、「浜千鳥/はまちどり」、「尾長鶏/おながどり」、変わったところで「閑古鳥/かんこどり」等々、数え切れないほどの「どり」が付く言葉が有るし本件商標も造語として「濡れ尾 鳥/ぬれおどり(尾の濡れた状態の鳥)」を観念出来るわけである。
また、良く知られた言葉である「おどり」を含むものであるから、前半の「ぬれ」部分と後半の「おどり」部分に分けて理解される場合もあり、しかして一般的に使用される辞書を繙けば、「ぬれ」は「(雨・水・露などで)濡れること、びしょぬれ、ずぶぬれ」、「色事、情事」などの意味を持つ言葉であることが解る。
また、「おどり」は言うまでもなく「音楽やりズムに合わせて、手や身体を動かすこと」の意味を有する言葉と言える。(乙第5号証参照)
上記のような意味を持つ両語の結合語としての「ぬれおどり」が、「色事、情事」の意味と結びつかないわけではないが、素直には「雨や、水に濡れた状態で踊っている様」、「びしょぬれになりながら音楽やりズムに合わせ手や身体を動かしている状態」を観念させるものである、との判断が自然なものと言う事ができる。
請求人は、本件商標の「ぬれ」部分について「特定の観念を有しないとするのが妥当」と述べているが、既述の通り該語の意味は一般的な辞書において明確に記載されている(乙第5号証)ものであり、請求人の添付する甲第5号証の1ないし同2にも同様の記載がある通りである。
請求人は、「ぬれ」は「濡れ」と「塗れ」が有る云々を述べているが、辞書には「ぬれ」は一つしかない。「塗れ」は「塗る」の活用形である。
また、「ぬれ」を「濡れ」の意味に解した場合、『水に「ぬれる」とまで理解することは辞書の記載からして妥当性を欠くものと云うべきである。』(請求書第7頁第1行目)と述べているが、請求人においても大雨で「ずぶぬれ」「びしょぬれ」になった経験が有るはずで、しかるとき「雨・水、等に、ぬれる」わけであるから、請求人の説明は不自然の極みと言える。
「ぬれおどり」の観念は、被請求人主張の通り「雨や、水に濡れた状態で踊っている様」、「びしょぬれになりながら音楽やりズムに合わせ手や身体を動かしている状態」を言うのであって、請求人の「特定の観念は生じない」との主張は当を得たものとは言えない。
(2)引用商標の内容(称呼、観念)について
(ア)引用a商標の称呼、観念
引用a商標は、乙第2号証(後掲(A))に示すように、上から下へ草書風書体二行書きからなり、右上に書された平仮名は「ぬ」でもあり、「め」でもあり、またその下の文字「れ」の様であり、また漢字「礼」の略字であるかのようにも見え、不明確で必ずしも何らかの語と特定出来るものではない。
左側の記載からは、漢字の「甘」と平仮名で「な」「つ」「と」(「つ」の字は「な」や「と」に比べれかなり大きく表記され、また「と」も「そ」なのか「を」なのか明確でない。)からなっている。
かような文字構成からなる引用a商標からは、「ヌレアマナツヲ」、「ヌレアマツソ」とか「ヌレアマナツ」に「不明な文字」、かろうじて「ヌレアマナツト」であって、この場合も後半部は決して「ナッ」「ト」ではなく、「ナ」「ツ」「ト」である。つまり、「つ」の文字は他の文字に比べ目立って大きく、意識的に強調されているのが良く理解できるからである。
通例、促音を使って「なっ」を表現する場合、「な」の字の下に小さく「っ」と表記しなくてはならない。
以上のことから、引用a商標からは、既述のように複数の称呼が出るものと言うことが出来る。
請求人は、引用a商標について「、、甘なっと」と表記しているが、「つ」音を促音で表記するのは事実に反する。さらに、請求書において「甘なっと」と幾つか表記しているが、「っ」部分は促音ではなく清音である。
しかして、引用a商標の観念について考察するに、複数でる称呼の意味が不明であるから、特段の観念は出ない商標と言うのが妥当と言える。
請求人は、引用a商標の称呼について「ヌレアマナット」と述べているが、後部は「ナ」「ツ」「ト」、つまり正しくは「つ/ツ」の文字が清音であることを解しない判断である。
また、引用a商標の観念について、請求人は「ぬれ印のあまなっとう」と述べてるが、標章の何処にも「なっとう」などという表記はない。
後半部分は「甘なつ」とか「甘なつ?」と判断でき、「甘めの夏みかん」を想起させるものであるから、むしろ「表面が水に濡れたようにみえる甘い夏みかん」とでも観念されるものである。
引用a商標が「ぬれ甘納豆」の文字などと一緒に使用され、引用a商標が図形的商標として一体的に使われている事実については、被請求人は別段否定するものではない。
(イ)引用b商標の称呼、観念
引用b商標は乙第3号証(後掲(B))に示す通り、筆書きで上から下へ「ぬれ」と表記したものであるから、その字音通り「ヌ」「レ」つまり「ヌレ」の称呼が出るものと言える。
また、その観念は既述の通り「(雨・水・露などで)濡れること、びしょぬれ、ずぶぬれ」、「色事、情事」であると言うことが出来る。(乙第5号証参照)
(ウ)引用c商標の称呼、観念
引用c商標は乙第4号証(後掲(C))に示す通り、ゴシック体の平仮名「ぬれ」と漢字「甘納豆」からなるものであるから、その称呼は「ヌ」「レ」「ア」「マ」「ナ」「ッ」「ト」「ウ」つまり「ヌレアマナットウ」と言うことが出来る。
また、その観念は、「ぬれ」「甘納豆」の語義から、甘納豆菓子の本来なら「小豆などの豆を甘く煮つめ、汁けを切って砂糖をまぶした菓子」つまり全体に乾いた感じの甘納豆であるところを、「表面などが水に濡れたように見える甘納豆」と観念されるものとの判断が妥当と言える。(乙第5号証参照)
(3)請求人主張の無効理由について
請求人は、本件商標が請求人所有の引用商標と類似するから商標法第4条第1項第11号、同第10号、同第15号に該当すると主張する。
商標法第4条第1項第15号は、商標は類似しないが、商品の混同を生ずるおそれがあるから拒絶するための規定で、類似の概念になじまないし、また本件商標に対しどの登録商標をもって前記どの規定に該当するのか定かでない。
請求人主張の要旨は、請求人に係る引用a商標が著名でほかの引用商標共々それら商標の要部は「ぬれ」にあるとの主張と判断し、答弁する。
(ア)本件商標は、一連不可分の商標であるから引用商標とは類似しない。
本件商標「ぬれおどり」は、文字構成に「ぬれ」と「おどり」に大小、或いは漢字平仮名、色違い等があるわけではなく、ゴシック体で同書、同大、同間隔に書記されたもので「ヌレオドリ」と一連不可分に称呼されるものであること既述の通りである。「おどり」部分が商品の性状と関係が有るわけでもなく、「ぬれ」と結合しても語呂が悪いわけでもなく、さらに全体の観念も「何々鳥/・・どり」の様に「鳥とか或いは雨・水にぬれながら踊るさま」を想起させるのに何の困難もない。
請求人は、殊更「ぬれ」部分の顕著性を主張せんが為に、「ぬれ」は特定の観念を生じないとか、「ぬれおどり」からは特定の観念を生じないなどと述べているが、「ぬれ」、「おどり」は一般的に使われている辞書に明確にその意味が記載されている。(乙第5号証参照)
請求人も請求書において「ぬれ」と結合する言葉について多数記載している通り、「ぬれ」と結合した言葉は多くの日本人が知っていることである。
その様な日本語の知識をもった一般取引者・需要者は、本件商標「ぬれおどり」を「ヌレオドリ」と一連に称呼し、既述の観念の通り理解するとの判断が当を得たものと言える。
しかりとすれば、本件商標は、請求人の主張に係る引用商標とは、外観はもとより称呼、観念についても類似するものではないから、請求人の本件商標は商標法第4条第1項第10号、同第11号の規定に該当するとの主張は当を得たものとは言えない。
(イ)本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定に該当しない。
請求人は、引用a商標は著名商標であるから本件商標は請求人の商品と混同を生ずるおそれがある、と主張する。
請求人の添付する「日本有名商標録」は甲第5号証の限りでは特許庁が認知したと言う記載はない。また、該記録に記載されている商標は、乙第2号証(後掲(A))に記載の通り、不明確な商標で、そこには「ヌレアマナット」と読まれる記載はない。該商標の称呼は不明なのである。
該商標が付され、使われる商品が「甘納豆」であるところから、商標全体を「ヌレアマナットウ」の如くに誤解しているだけで、請求人が著名と主張する引用a商標は文字を図案化した図形商標と言えるものである。
百歩譲って「ヌレアマナット」の称呼が出るとしても該商標は「ぬれ」が分離され「ぬれ」部分が著名なのではなく、商標全体「ぬれ甘なっと」として著名なものとの判断が妥当と言える。
しかりとすれば、本件商標「ぬれおどり」と「ぬれ甘なっと」は截然の区別できるものであるから、商品が同一又は類似するものであっても一般取引者・需要者はそれぞれの商標に基づいて明確に区別して購入する、との判断が妥当で、商品の混同を生ずるおそれは全くない。
(4)まとめ
本件商標「ぬれおどり」は、その構成を一連不可分とするもので、称呼も、観念も既述の通り一般取引者・需要者に容易に理解され得る語であるから、特別「ぬれ」部分を分離しなければならない理由は全くないわけで、引用商標から「ぬれ」の称呼、観念が出るとしても外観・称呼・観念において類似しないので、商標法第4条第1項第10号、同法第4条第1項11号に該当するものではない。
また、例え引用a商標が著名であっても、本願商標とは商品混同の判断基準から余りにも離れたものであり商品の混同を生ずるものではないので、これまた商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。

5 当審の判断
(1)本件商標について
本件審判において、請求人は、大旨、本件商標を構成する前半の「ぬれ」の文字部分は特定の意味合いを想起させるものでなく、それ自体要部と認められるものであり、また、仮に一定の意味合いを有するものとしても、同後半の「おどり」の文字との意味上の一体性が希薄である故に全体として何ら商品の特性等を暗示するものでなく、したがって、本件商標は、単に「ヌレ」と称呼される結果、引用各商標と類似するものであり、また、請求人に係る引用a商標等は著名なものであって、その商品の出所について混同を生じさせるものと述べ、本件商標の商標法第4条第1項第11号、同法第4条第1項第10号及び同法第4条第1項第15号違反を主張している。
そこで、本件商標についてみるに、その構成後掲(1)に示すとおり、「ぬれおどり」の平仮名文字よりなるものであって、構成各文字は同書、同大、等間隔に綴られていて視覚上一体的に看取し得るばかりでなく、これより生ずる「ヌレオドリ」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。そして、これを構成する前半の「ぬれ」及び同後半の「おどり」の各文字部分は、それぞれ「ぬれること、恋愛、いろごと、情事」(岩波書店発行広辞苑「濡れ」の項より)及び「おどること、とびはねること、音楽・歌曲にあわせて、足を踏み鳴らし、手振り・身振りをして舞うこと、舞踏、舞踊」(前出広辞苑「踊り、躍り」の項より)の意味合いの邦語であることは、請求人もこれを認めるところであって、これら両語は、たとえば、「濡れ髪」、「濡れ手」、「濡れ鼠」、「濡れ場」、「濡れ羽色」、「盆踊り」、「都踊り」、「阿波踊り」、「踊り子」、「踊り場」等の如く、世上一般に親しまれ馴染まれている平易な熟語(邦語)を形成することでも広く知られるところである。
そうすると、本件商標(「ぬれおどり」)をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者・需要者は、前記「濡れ」の語の修飾語的用例及び前記熟語(邦語)の意味合い等よりして、それらに準じて(倣って)全体として「雨・水に濡れながら踊る様、又は、その踊り」の如き意味合いを感得するというのは見易いところであって、たとえ、これがその意味合いをもって一般に親しまれた成語でないとしても、前記事情よりして、少なくとも「ある種の踊り(また、その名称)」の如き一定の意味合いを感得するとみるのは、極めて容易というべきであるから、これより何らの意味合いをも想起させない全くの造語とみるのは、むしろ不自然といわなければならない。
また、そうとすれば、本件商標は前記意味合いをもって常に一体のものとして認識し把握されるとともに、該構成文字に相応して生ずる「ヌレオドリ」の称呼のみをもって取引に資される固有の商標とみるのが取引の経験則に照らし相当である。
請求人は、本件商標(「ぬれおどり」)をみた場合、造語商標とはいえ単に「ぬれ」と「おどり」の一つの文字を繋ぎ合わせたにすぎず、このように観念の異なる「ぬれ」と「おどり」を結合したものは全体として何ら商品の特性を暗示してなるものではない故に単に「ヌレ」の称呼をも生ずる旨述べているが、もとより、商品の特性等を暗示してなるものだけが商標(自他商品の識別標識)とされる訳でないこと請求人も認めるところであり、かつ、本件商標については、常に一連一体のものとして把握されるとする前記認定を相当とするものであるから、本件商標より「ぬれ」の文字を分離抽出し単に「ヌレ」の称呼を生ずるとする請求人の主張は、主観論に基づく独自の見解であって客観性に欠けるものといわなければならない。その他、本件商標より「ヌレ」の称呼が生ずるとする合理的理由はなく、また、その証拠も見出せない。
してみれば、本件商標からは、常に「ヌレオドリ」の一連の称呼のみを生ずるものといわなければならない。
(2)本件商標と引用各商標との類否について
請求人の引用に係る引用a商標は、後掲(A)に示すとおり、毛筆書体により縦書きした「ぬれ」及び「甘なつと」の各文字を前者は右側やや上部位置に、後者はその左側やや下方にずらして密着させる如く表してなるものである。同じく、引用b商標は、「ぬれ」の平仮名文字を縦書きしてなるものである。同じく、引用c商標は、「ぬれ甘納豆」の邦文字を横書きに表してなるものである。そして、これら引用各商標は、いずれもその指定商品を第30類「甘納豆」とするものである。
そして、請求人は、本件商標はこれら引用各商標と「ヌレ」の称呼において類似するとして、その登録の商標法第4条第1項第11号及び同法第4条第1項第10号違反を述べている。
しかしながら、本件商標は、前記(1)に認定したとおり、全体として「雨・水に濡れながら踊る様、又は、その踊り」又は「ある種の踊り(また、その名称)」の如き意味合いをもって常に不可分一体のものとして把握され、これに相応して生ずる「ヌレオドリ」の一連の称呼のみをもって取引に資される固有の商標であって、殊更、構成中の「ぬれ」の文字部分を分離抽出し、これと当該他人に係る商標等と比較・検討しなければならないような特段の事情は存しないものというべきである。
そうすると、本件商標より単に「ヌレ」の称呼を生ずるということはできないから、本件商標より「ヌレ」の称呼を生ずることを前提に本件商標と引用各商標との類似を述べる請求人の主張は妥当でなく、その理由をもって、本件商標を前記法条の規定に該当するものとすることはできない。
また、外観、観念の点についてみるに、本件商標と引用各商標は、それぞれ後掲(1)、同(A)、同(B)及び同(C)に示すとおりのものであって、両者はその外観印象よりして彼此見誤るおそれはなく、また、本件商標が前記意味合いのものであってみれば、両者がその観念において紛れ得るものとはいい難く、したがって、本件商標と引用各商標とは、その称呼、外観及び観念のいずれよりしても判然と区別し得る非類似の商標というべきであって、ほかに両者がその出所について紛れ得るとする事由は見出せない。
請求人は、本件商標又は引用各商標中の「ぬれ」の文字(語)が菓子類に関して自他商品の識別力を有するとして縷々述べているが、本件商標と引用各商標とは別個のものである以上、その理由をもって本件商標と引用各商標とを類似のものとし或いは混同を招来させる根拠とすることはできないから、それら周辺事情を述べる請求人の主張は妥当でなく、その理由をもって前記認定を覆すことはできない。
してみれば、本件商標は、引用各商標とはその指定商品の類否について論ずるまでもなく、商標において類似のものとはいえないから、結局、その登録が商標法第4条第1項第11号又は同法第4条第1項第10号に違反してされたものということはできない。
(3)出所混同のおそれについて
請求人は、請求人に係る引用a商標ほかの商標の周知・著名性を理由に、本件商標の商標法第4条第1項第15号違反を主張している。
しかしながら、本件商標と引用各商標とは別異のものであること前記(2)に示すとおりである。そうすると、たとえ、請求人に係る引用a商標ほかの商標がわが国の特に菓子類の取引者・需要者間において広く認識せられた商標であり、また、本件商標構成中に「ぬれ」の文字を有するものとしても、本件商標と引用各商標とは互いに別個のものであって、このほか、この種商品の需要者一般の注意力等取引の実情に照らし総合判断するに、本件商標に接する取引者・需要者がこれより直ちに引用各商標を連想・想起するとみるのは困難というべきであるから、本件商標をその指定商品について使用したとしても、請求人または請求人と事業上関係を有する者の業務に係る商品の如く、その出所について混同を来すおそれはないといわなければならない。
請求人は、当庁においてした商標審査基準の改訂事項及びその趣旨に言及し、本件商標の商標法第4条第1項第15号該当を主張しているが、本件については、商標自体と需要者一般の注意力の程度ほか諸般の事情を考慮し取引の実情に照らして総合判断するに、前記認定を相当とするものであるから、その主張は妥当でなく、採用の限りでない。
してみれば、本件商標が他人の業務に係る商品と出所混同を惹起せしめるものでない以上、その登録が商標法第4条第1項第15号に違反してされたものということはできない。
(4)結語
以上のとおり、本件商標の登録は、請求人の述べる何れの法条の規定にも違反してされたものということはできないから、その登録は、商標法第46条第1項により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)本件商標


(A)引用a商標


(B)引用b商標


(C)引用c商標


審理終結日 2001-11-20 
結審通知日 2001-11-26 
審決日 2001-12-13 
出願番号 商願平8-17654 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (030)
T 1 11・ 26- Y (030)
T 1 11・ 23- Y (030)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 内山 進 
特許庁審判長 原 隆
特許庁審判官 野上 サトル
高野 義三
登録日 1997-12-12 
登録番号 商標登録第4091319号(T4091319) 
商標の称呼 ヌレオドリ 
代理人 佐々木 弘 
代理人 石原 庸男 
代理人 三瀬 和徳 
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