• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z30
管理番号 1043643 
審判番号 無効2000-35720 
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2001-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-12-28 
確定日 2001-08-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第4398862号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4398862号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4398862号商標(以下、「本件商標」という。)は、平成11年5月9日登録出願、商標の構成を後掲(A)に示すものとし、指定商品を第30類「うなぎを用いてなるパイ菓子」として、平成12年7月14日に設定の登録がされたものである。

2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効を述べる理由に引用する登録第2719548号商標(以下、「引用商標」という。)は、昭和61年1月17日登録出願、商標の構成を後掲(B)に示すものとし、指定商品を「うなぎの粉末を加味してなるパイ菓子」として、商標法第3条第2項の適用により平成8年3月15日に出願公告の決定がされ(平成8年商標出願公告第65001号)、同9年1月31日に設定の登録がされたものである。

3 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第41号証を提出した。
<無効理由の要点>
本件商標は、甲第1号証の1に示すとおりのものである。本件商標は、甲第2号証として提出した請求人所有の引用商標と類似し、指定商品も同一又は類似するから、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
<本件商標登録を無効とする理由>
(1)本件商標について
(ア)本件商標は、商標全体の地色を赤色とし、中央部に黒色と黄色による縦長四角形の図を配し、「う」の文字を下方を黒色四角図に掛けて大きく書し、「なパイ」の文字を黒色四角図中に書し、該「うなパイ」の文字の右上方に小さな「ハニー」の文字を白抜き縦書に書すと共に、中央部下方に上記「なパイ」の文字と同程度の大きさによる「うなパイ」の文字を白抜き横書きし、縦書き「うなパイ」の文字の左側に隣接して地色が黄色に赤色斑点付きの大きな「三日月形状の図」と、右端に小さな「三日月形状の図」を配したものであって、文字と図形を組み合わせたものである。
(イ)本件商標は、被請求人が商品「パイ菓子」に使用した包装紙の全形である(甲第1号証の2)。
包装紙は、その性質上、商品を包装したときに商品の表面に現われる図柄に特徴を持たせているものである。本件商標でいえば、中央部に表記された文字と図形を組み合わせた構成は商標全体からみて際立っており、当該部分が商標の主要な構成部分であるといえる。
このことは、被請求人が本件商標を使用したときに、上記構成部分が商品の正面に現われるように包装していることとも一致している(甲第1号証の3)。
本件商標は、上述したように商標中央部に表わされた文字と図形を組み合わせた構成を主要な構成部分とするものであるが、該構成部分中の文字部分である「ハニーうなパイ」又は「うなパイ」が要部となるものである。
本件商標の文字部分は、「ハニー」「うなパイ」であるが、このうち「ハニー」は「はちみつ、(みつのように)甘いもの」の意味合いを有しており、これは商品の品質を表わすものであって自他商品の識別機能を有しない文字である。
しかし、「ハニー」の文字は「うなパイ」と共にことさら目立つように表わされているので、「ハニーうなパイ」として看者に対し最も注意を引く部分になっていること、「ハニーうなパイ」が所謂商品名として商標中央部に表記されていること等からすれば、「ハニーうなパイ」の文字部分が要部となるものである。
ただし、「ハニー」は「うなパイ」よりも小さく表記されていること、「ハニー」には自他商品の識別機能がないことからすれば、「うなパイ」の文字も単独で要部となり得る。
(ウ)本件商標中から「ハニーうなパイ」又は「うなパイ」が抽出できることは、件外、商願平11-41304号「うなパイ」の出願が、本件商標他4件の出願を引用され、商標法第4条第1項第11号に該当するとして拒絶査定されたことからも明らかである(甲第1号証の4)。
(エ)「うなパイ」が識別標識たり得るかについては、後述する関連事件(「マイルドうなパイ」「ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」が引用商標(請求人商標)と類似するか否かが争点となった事件)において、裁判所(静岡地方裁判所浜松支部)は、「マイルドうなパイ」「ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」が、識別標識であることを認めた上で、これら各商標が「うなぎパイ」と類似すると判示している。
裁判所における判示内容は後述するが、裁判所は、「マイルドうなパイ」を使用した包装紙(甲第39号証)、「ピュアうなパイ」を使用した包装紙(甲第40号証)、「ロングうなパイ」を使用した包装箱(甲第41号証)の標章中から「マイルドうなパイ」「ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」の文字部分を抽出している。
このうち、甲第39号証に示す「マイルドうなパイ」の「2」については、『上部が黄色で下部が赤色の楕円形の外周に赤色と白色の輪郭線を施し、楕円状部内の上部に黒色の「浜名湖」の明朝体の活字、下部に白色の「マイルドうなパイ」の明朝体の活字を表記したもの』を抽出し、さらに抽出した標章中の「マイルドうなパイ」の文字部分が要部であると認定している。
裁判所は、その理由として、「マイルドうなパイ」がパイ菓子の商品名として使用されていること、「浜名湖」の文字は地名を表わしたに過ぎないこと、「マイルドうなパイ」の文字が殊更目立ち易い位置、態様において表示されていること、「マイルドうなパイ」の文字部分とその背景の色彩・図形部分との間には不可分一体の関係があるとまでは認められないこと、背景の色彩・図形部分はとくに具体的な形状や観念を表示するものではないこと、取引者需要者は背景の色彩・図形部分は捨象して「マイルドうなパイ」という部分によって商品を識別することが多いと認められることを挙げている(仮処分決定43頁8行から44頁11行)。
このように認定した上で、裁判所は商標類否の判断に際して引用商標(請求人商標)の要部(「うなぎパイ」の文字部分)と甲第39号証に示す標章の要部(「マイルドうなパイ」の文字部分)を比較したのである。
したがって、「マイルドうなパイ」「ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」が、商標として機能し、自他商品の識別力を備えていることは裁判所において明らかにされたのである。
なお、「ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」についての判示内容は省略するが、要旨は「マイルドうなパイ」と同様である。
(オ)本件商標は、商標中央部に表わされた文字と図形を組み合わせた構成を主要な構成部分とするものであるが、この構成部分中の「ハニーうなパイ」又は「うなパイ」の文字は、当該構成部分にあってことさら目立つこと、これらの文字が所謂商品名として表記されていること、「フレッシュうなパイ」と「うなパイ」が類似するという審査例があることからすれば、本件商標から「ハニーうなパイ」又は「うなパイ」の文字を抽出することができ、したがって「ハニーうなパイ」又は「うなパイ」が要部であると言えるのである。
(2)引用商標(請求人商標)について
(a)請求人は、引用商標のほか登録第4090574号商標(甲第3号証)の商標権者である。請求人は、「うなぎを加味したパイ菓子」を開発し、これを「うなぎパイ」と名付けて昭和36(1961)年から製造販売し、現在も継続して製造販売している。「うなぎパイ」は、その年間売上高が平成7年度(平成7年4月から平成8年3月迄)から平成11年度の5期連続して40数億円に達している(甲第4号証)。
請求人が製造販売する「うなぎパイ」は、以下に示すとおりの態様で販売され、又、宣伝広告されている。ただし、「うなぎパイ」商標の使用実績については、引用商標の審査において登録査定時(平成8年10月3日)までを提出したので、ここでは登録査定時以後の使用実績(包装袋等の商品現品への使用状況、広告用パンフレット類、テレビCM・新聞広告・雑誌広告等の各状況)を提出する(甲第5号証ないし甲第37号証)。
以上のような使用実績をもつ請求人の「うなぎパイ」商標は、本件商標の登録査定時に「うなぎを加味したパイ菓子」について著名商標となっている。
(b)請求人の「うなぎパイ」商標が有名になるにつれて類似商標を付した商品が出現してきたので、請求人は自己の商標に化体された信用を維持するために、「うなぎてり焼きパイ」「プチうなパイ」「うなぎかばやきパイ」「浜名湖マイルドうなパイ」「浜名湖ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」の各商標使用者に対して静岡地方裁判所浜松支部に使用差止め仮処分の申し立てを行い、このうち「浜名湖マイルドうなパイ」「浜名湖ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」(以下、「関連事件標章」という。)については、「うなぎパイ」と類似商標であるから使用してはならないとする仮処分決定を得た(甲第38号証)。
又、「うなぎてり焼きパイ」「プチうなパイ」「うなぎかばやきパイ」については使用を中止することを内容とする裁判上の和解をした。
なお、上記の他、「うなりッチパイ」「フレッシュうなパイ(被請求人の商品)」「ハニーうなパイ(被請求人の商品)」「浜名湖うなパイ」の各商標使用者に対しても使用中止を求めた結果、何れの使用者も使用を中止した経緯がある。
(c)裁判所は仮処分決定において、引用商標(請求人商標)は請求人の販売に係るパイ菓子の名称として全国的に一般消費者の間で広く認識されている商標であること並びにその要部は「うなぎパイ」の文字部分であることを認定した。
そして、前述3(1)(エ)に述べたように、関連事件標章中のそれぞれ「マイルドうなパイ」「ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」を要部と認定し、これらと引用商標(請求人商標)とが観念類似であるとして、両者が類似商標であると判示したのである。
(d)仮処分決定における裁判所の判断は、「マイルドうなパイ」「ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」の各商標から「マイルド」「ピュア」「ロング」の文字を除いた「うなパイ」が「うなぎパイ」と類似していることを判示したものであって、これらの形容詞的部分を除いた残りの部分である「うなパイ」が「うなぎパイ」と類似していることは、当然の帰結と言える。
(3)本件商標と引用商標の比較
前項で述べたように、裁判所は、関連事件標章が「うなぎパイ」と類似すると判示した。そして、本件商標は、前述したとおり、「ハニーうなパイ」「うなパイ」の文字部分を要部とするものであって「ハニーうなパイ」からは、「ハニーウナパイ」の称呼と「うなぎが原材料として使用された甘いパイ菓子」の観念が生じ、「うなパイ」からは「ウナパイ」の称呼と「うなぎが原材料として使用されたパイ菓子」の観念が生ずる。
このため、本件商標においては、文字部分の「ハニーうなパイ」又は「うなパイ」が引用商標の「うなぎパイ」と称呼、観念において類似している。
(4)むすび
本件商標は、引用商標の登録第2719548号商標と類似し、また指定商品も同一又は類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項第1号の規定によりその登録は無効とされるべきである。

4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。
(1)請求人の述べる本件商標登録を無効とする理由「3(1)(ア)ないし(オ)」について、
特に請求人は本件商標について、『商標全体を地色を赤色とし、中央部に黒色と黄色による縦長四角形の図を配し、「う」の文字を下方を黒色四角図に掛けて大きく書し、「なパイ」の文字を黒色四角図中に書し、該「うなパイ」の文字の右上方に小さな「ハニー」の文字を白抜き縦書きに書すと共に、中央部下方に上記「なパイ」の文字と同程度の大きさによる「うなパイ」の文字を白抜き横書きし、縦書き「うなパイ」の文字の左側に隣接して地色が黄色に赤色斑点付きの大きな「三日月形状の図」と、右端に小さな「三日月形状の図」を配したものであって、文字と図形を組み合わせたものである。』と本件商標が「文字と図形の結合商標」であることを認め述べている。
しかも、請求人の述べる「3(1)(イ)」は、本件商標を使用した包装紙のものであることを説明しているにすぎない。又、『本件商標は、…商標中央部に表された文字と図形を組み合わせた構成を主要な構成部分とするものであるが、該構成部分中の文字部分である「ハニーうなパイ」又は「うなパイ」が要部となるものである。本件商標の文字部分は、「ハ二ー」「うなパイ」であるが、・・・、これは商品の品質を表すものであって自他商品識別機能を有しない文字である。ただし、「ハニ一」は「うなパイ」よりも小さく表記されていること、「ハニー」には自他商品の識別機能がないことからすれば、「うなパイ」の文字も単独で要部となり得る。』と述べており、「うなパイ」のみが商標の要部であるかのように説明しているが、本件商標はあくまで表示された図形を含めた構成態様から判断するものであって、請求人のごときは単に図形と一体不可分の関係にある「うなパイ」のみを抽出して請求人が所有する文字と図形の結合商標である「うなぎパイ」に抵触すると判断するのは早計である。
また、請求人は「3(1)(ウ)」において、甲第1号証の4を引用例としているが、商願平11ー41304「うなパイ」として出願し、拒絶理由通知書を受けたものである。その拒絶理由(1)は商標法第3条第1項第3号に該当するものと判断されたからであって、この判断と同様なものとしては拒絶文字商標集(食品部門・第7巻)[社団法人・日本食品特許センター](乙第1号証)の掲載による「うなパイ」は商標法第3条によって拒絶査定となっている。また同書には「うなぎチップス」「うなぎまんじゅう」も同様理由にて拒絶査定の決定がされていることを考慮すれば、本件商標においても同様に考察されるならば、「うなパイ」「うなぎパイ」の文字は何等自他商品識別力を有しないものであるとなれば、その商標登録の構成態様である図形そのものが要部となっていることは明らかである。
そして、請求人は、「3(1)(エ)」において、本件商標中の「うなパイ」が識別標織たり得るかについて疑問を有していると思えなくもない、と述べ、あるいは、「3(1)(オ)」において、本件商標である「文字と図形を組み合わせた構成を主要な構成部分とする」旨述べている。
(2)請求人の述べる本件商標を無効とする理由「3(2)」について
請求人は、「うなぎパイ」に関する売上高(甲第4号証)として提示しているが、この売上高については何等証明能力もなく 信憑性を欠如している。また、「商品又は商品の包装」「宣伝・広告」(甲第5号証以下甲第37号証)は、請求人が新聞・雑誌・店頭販売等に宣伝をしていた事実を証明しているものである。
又、『「うなぎパイ」が有名になるにつれて』と商標使用差止等仮処分申請事件を提起した際の写し(甲第38号証ないし甲第41号証)である。
(請求人は)裁判所は仮処分決定において『引用商標は請求人の販売に係るパイ菓子の名称として全国的に一般消費者の間で広く認識されている商標であること並びに引用商標の要部は「うなぎパイ」の文字部分であることを認定した。』と述べている。
しかし、請求人の登録商標第2719548号の商標は単に輪郭図形としたものでなく、「上下平行線の左辺上部を下部よりやや短めで鋭角直線状に切断し他端を半円で繋ぎ外周輪郭線を極太白線にて一体的に描き、更にその外輪郭線内に沿って黄色の線条をあしらった内側全体を赤色で着色し、当該赤色の表面にありふれた文字である「うなぎ」の文字を黒色で「パイ」の文字は黄色で二色を用い表示し、さらに全体を三色にて配色模様を施した図形に文字を描いたものである。」ことは商標の態様から容易に判断される、ことからしてみれば、請求人の輪郭図形の登録商標はありふれたものでなく自他商品識別機能を十分に有しているものと判断され、また、ありふれた「うなぎパイ」の文字を一体不可分に結合した結果商標法第3条第2項の適用を受け登録されたものであると理解するのが妥当である。
因みに特許庁において、商願昭63ー135707号「プチウナパイ」拒絶査定(乙第2号証)並びに拒絶文字商標集(第7巻)食品部門商願平1-61838「うなパイ」(乙第1号証)が単に商品の原材料、品質を表示するものとして商標法第3条によって拒絶されている。また、商標法第3条第2項による出願で登録を受けられるものについて、『著作権法・商標法判例解説集・3』(乙第3号証)に記載されている「3条2項の適用により登録を受けられる商標及び指定商品更に商標権の効力について考えてみます。まず、商標は、使用の結果識別力を発揮しているその商標に限り類似商標には及ばないのが原則です。特に4号や5号、あるいは3号のものでも相当多量に使用した結果現実的・具体的識別力が発生したものは、需要者間に周知を得たその商標であってこそ識別力があるのであり、類似商標では識別力がなく登録されないのが原則です。」と明記されている。となれば本件商標「図形と文字の結合商標」のうち文字である「ハニー/うなパイ」については何等識別機能を有していないものとなり図形商標に要部が存在していると判断すると「ハニー/うなパイ」にまで商標権の効力が及ばないと判断すべきである。
「パテント1999y VOL52NO.6第115頁 」(乙第4号証)には、「登録商標の構成中、自他商品識別機能を有しない文字の部分は商標の要部ということは出来ず、登録商標が自他商品識別機能を有するとしても、登録商標の構成が一体となって、初めて自他商品識別機能を有するに至っていると判断すべきである」と認定された事例を参照とすれば、本件商標に記載されている図形を含め「うなパイ」の文字が請求人が引用した「うなぎパイ」には抵触しないと判断するのが妥当である。
商標審決取消訴訟判決要旨集・財団法人日本食品特許センター(乙第5号証)によれば、「第80頁,昭8(オ)2899,昭9.10.20,第3巻(1)-46 Z1」において、「商標を構成する図形文字等の中いずれの部分がその要部を成しているかはその商標の構成全体より観察して決すべきもので、ある文字が特殊の事態で図形全体の中央に表示せられているとしても常にその要部を成すとはいえない。」としている。
以上事例を挙げたように引用商標「うなぎパイ」と本件商標「うなパイ」とは互いに類似関係を逸脱しているものと解釈されるべきものである。
(3)結論
本件商標は、請求人が引用した商標登録第2719548号とは非類似のものであり、商標法第4条第1項第11号並びに同法第46条第1項第1号の規定に該当するものでないことは明白である。

5 当審の判断
商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきものであり、具体的にその類否判断を行うに当たっては、当該商品の具体的な取引状況に基づき、両商標の外観、観念、称呼を観察し、それらが取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきものと解するのが相当である。
しかして、本件審判における論点は、a.本件商標における「うなパイ」の文字並びに引用商標における「うなぎパイ」の文字がその指定商品の分野における需要者にとってどのように認識され把握されるものか、b.その結果、本件商標、引用商標の両商標に接する需要者がその出所について誤認混同を起こす程に紛らわしいものか否か、また、その要因は何か、の2点にあるといえる。以下、検討する。
(1)引用商標についての検討
引用商標は、後掲(B)に示すとおり、その外周を細幅の黄色線で囲みそのさらに外側を細幅の白色の間隙をおいて黒色の細線で囲んだ赤色の横長半楕円状図形(横長楕円の左辺上部から同下部に向けて右方に傾斜するようにやや鋭角に切り欠いた形状の図形)内に、黒色の「うなぎ」及び黄色の「パイ」の各文字を同じ大きさでかつ等間隔に横書きに表してなるものである。
しかして、引用商標がその指定商品とする「うなぎを用いてなるパイ菓子」について商標法第3条第2項の適用を受け、いわゆる「使用による特別顕著性」を具有するもの、すなわち、特定の商品に使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができるに至ったものとして商標登録された(平成8年10月3日登録査定)ことは前記2に述べたとおりである。
そして、引用商標の周知の状況及びこれに関連する請求人業務の趨勢ないし関連事情について、本件商標の登録査定時(平成12年5月18日登録査定)を含む現在に至るまでの間の状況をみるに、請求人より提出された甲各号証によれば、以下の各点が認められる。
(ア)請求人会社は、昭和36年に「うなぎを加味したパイ菓子」(以下、「請求人商品」という。)を開発し、これを「うなぎパイ」と名付けて製造販売を開始し、以降現在まで継続して製造販売してきたこと。最近における請求人商品の年間売上高は平成7年度から同11年度にかけて5期連続して40数億円に上っていること(甲第4号証)。
(イ)請求人の使用に係る商標は、引用商標と社会通念上同一といえる商標、すなわち、前記赤色の横長半楕円状図形内に「うなぎ」、「パイ」の各文字を表示した商標であって、請求人はこれを当初から現在に至るまで一貫して使用していること。また、請求人は、その営業標識及び当該商品を表示する「春華堂」、「うなぎパイ」の各文字(全8文字)を九区画に仕切った格子様図形内にそれぞれ配置した商標(甲第3号証)(以下、「格子様商標」という。)も使用しており、このほか、いわゆる隅立角様図形を背景とした横長矩形内に「うなぎパイ」の文字を表した商標等であり、これら商標をそれぞれ当該個品包装または包装紙、包装箱等に表示して継続使用するとともに、これらに共通する「うなぎパイ」の文字のみを横書きしてなる標章(以下、「文字商標」という。)をその制作・頒布に係る広告用チラシ、パンフレット類、シール類、ポスター類及び店頭広告等に一様に表示し使用していること(甲第5号証ないし甲第23号証)。
(ウ)請求人商品は、1995年(平成7年)から2000年(平成12年)にかけて静岡朝日テレビ、静岡放送、静岡第一テレビ、山梨放送、東海テレビ等によりこれら地域一帯において頻繁にスポットCMが流され、喧伝されたこと(甲第24号証及び甲第25号証)。
(エ)請求人商品は、1995年(平成7年)から2000年(平成12年)にかけて、文字商標または引用商標ないしは格子様商標のもとに、毎日新聞・遠州版をはじめ、読売新聞、デイリースポーツ、中日新聞、静岡新聞等において反復広告掲載され、さらに、各種旅行雑誌、趣味の雑誌等においても屡々取り上げられ、紹介されていたこと(甲第26号証甲第37号証)。
(オ)このような状況にあって、請求人は引用商標について商標登録出願を行い(昭和61年1月17日出願,昭和61年商標登録願第3338号)、同出願は商標法第3条第2項(「使用による特別顕著性」)の適用により商標登録を受けたこと(平成8年10月3日登録査定)。また、請求人は、このほか、関連する前記文字商標(3件)について、引用商標と同様に商標法第3条第2項の適用により商標登録を受けていること。
(カ)請求人に係る「うなぎを素材に用いたパイ菓子」に関し、同業他社によるいわゆる類似品の製造、販売が行われてきたこと、また、当該使用に係る商標を巡って屡々請求人との間で問題を生じていたこと等の事情については、平成11年(ヨ)第16号商標権に基づく商標使用差止等仮処分申請事件(以下、「関連事件」という。)による仮処分決定(静岡地方裁判所浜松支部)の存在及びその内容よりして、その状況が十分に窺われること(甲第38号証)。
以上の(ア)ないし(カ)の各認定によれば、いわゆる「うなぎを素材に用いたパイ菓子」を開発・製造・販売(昭和36年)したのは請求人が最初であって、そのやや奇抜ともいえる新趣向と相俟って請求人商品は、各種広告用印刷物の継続的頒布活動、各種新聞・テレビ等のメディアによる広告・宣伝活動、さらには各種雑誌等による紹介記事または広告掲載等により、その登録時(平成8年10月3日登録査定)はもとよりのこと、本件商標の登録時(平成12年5月18日登録査定)を含む現在に至るまでの間も引き続き需要者一般に広く親しまれていることが認められる。
そして、これに使用されている引用商標は当初より現在に至るまでの間一貫して請求人商品を表示する商標の一として使用されてきたものであって、前記広告活動、販売活動を通じて喧伝された結果、本件商標の登録出願時(平成11年5月9日)は勿論のこと現在に至るまでの間、東海地方はもとより全国的に需要者一般に広く認識せられるに至ったいわゆる周知・著名商標と認め得るものである。
また、引用商標にあって、主要な構成部分というべき「うなぎパイ」(ウナギパイ)の文字及びその呼称名は、前記文字商標との併用使用等の事情と相俟って、引用商標同様に需要者一般に広く親しまれ、かつ、請求人商品を表彰する主要な取引指標であろうことを十分推認させるものである。
また、引用商標中の「うなぎパイ」の文字は中央部に大きく横書きに表されており、背景の色彩こそ赤、黄及び白が組み合わされていてそれ自体看者の注意を惹く部分であるとしても、これら色彩は何ら具体的な観念を表現するものでなく、また、外輪郭図形(横長半楕円状図形)もありふれた形状といえるものであって、取引者・需要者の注意を殊更惹くものでないこと等の点を併せ考慮すれば、これに接する取引者・需要者はその構成にあって親しみ易く馴染み易い文字部分というべき「うなぎパイ」の文字部分を自他商品の識別標識と捉え、これより生ずる「うなぎ(鰻)パイ」(ウナギパイ)の称呼、観念をもって取引に資する場合も決して少なくないといわなければならない。
したがって、引用商標ないしその主要部である「うなぎパイ」の文字は請求人商品を表彰するもの、すなわち、自他商品の識別標識として実質的に機能するものというべきであるから、結局、引用商標からは、その全体から受ける外観・印象とともに、「うなぎ(鰻)パイ」(ウナギパイ)の称呼、観念も生ずるものといわなければならない。そして、ほかに、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(2)本件商標についての検討
本件商標は、その構成後掲(A)に示すとおり、全体を赤色に塗りつぶした横長矩形内中央部及び下部に縦書きの「ハニー」、「うなパイ」(「う」の1字のみ大きく表されている。)の各文字及び横書きの「ハニー」、「うなパイ」の各文字をそれぞれ白抜きに表し、これら文字の左右に、(a)黄色地に朱点を散らした大小の半月様の図形、(b)一方は橙色に塗りつぶしたやや小さめの州浜(すはま)様に、他方はその茶色の地色内に黒色で腰に笊を着け鰻を掴む頬被りした人物図を表出したやや大きめの州浜(すはま)様の図柄、(c)竹で編んだ濃淡2色の網目様の図柄等をそれぞれ表し、さらに、このほか(d)極小文字の英文による製品案内等を表示してなるものであって、これら文字及び図形の全体からは、容器・包装袋等に貼付し使用されるいわゆる全形商標とみられるものである。
しかして、本件商標の構成中、前記(a)ないし(c)の各図柄及び(d)の文字部分は、いずれも装飾的模様ないし背景的図柄もしくは付記的部分というべきものであって、それら自体が単独で商品識別の機能を発揮し得るものとはいい難く、また、そのように捉えることに特段の不都合も見出せないから、これに接する取引者・需要者は、その構成にあって親しみ易く馴染み易い前記白抜き文字部分、すなわち、縦書きの「ハニー」、「うなパイ」(「う」の大書文字を含む。)の各文字及び横書きの「ハニー」、「うなパイ」の各文字部分を商品識別の標識と捉え、これら文字部分に相応して生ずる称呼、観念をもって取引に当たるとみるのが取引の経験則に照らし相当である。
ところで、「ハニー」(honey)の文字(語)は、「蜂蜜」、「甘味」等の意味合いの平易な外来語であって、この種菓子類の商品分野においては、甘味なこと(又はそのもの)の品質表示語として容易に理解され、かつ、取引上普通一般に使用されるものといえる。したがって、本件商標中の縦書き又は横書きに表された「ハニー」の文字部分は、それ自体が単独で商品識別の機能を果たし得るものとはいい難く、ほかに、この認定を左右するに足りる証拠はない。
そうすると、本件商標は、前記「ハニー」の文字を除いた文字部分、すなわち、「うなパイ」(「う」の大書文字を含む。)の文字部分に相応して単に「うなパイ」(ウナパイ)の称呼、観念も生ずるものといわなければならない。
(3)本件商標と引用商標との類否
そこで、本件商標と引用商標との類否について検討する。
先ず、両者の称呼・観念の点についてみるに、引用商標(「うなぎパイ」)からは、「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念並びに「ウナギパイ」の称呼を生ずるのに対し、本件商標(「うなパイ」)からは、一般に、「うなぎ(鰻)」が「うな(ウナ)」と略称され、相互に互換性を有する語であることは顕著な事実であるから(たとえば、岩波書店発行広辞苑「うな」の項より。)、これより「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念並びに「ウナパイ」の称呼を生ずるものである。
そうすると、両商標は、「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念を同じくする点においてすでに紛らわしく、また、称呼(「ウナギパイ」と「ウナパイ」)の点においても、全5音中の冒頭及び末尾の各2音を共通にする上、前記した同義語的・互換的要因と相俟って相互に近似した印象を与えるものであり、かつ、外観においても、両者はともに前半の「うなぎ」または「うな」の文字を平仮名とし、後半の「パイ」の文字を片仮名文字とする点において着想を同じくするものであるから、両商標のそれぞれに時と処を異にして離隔的に接した場合、需要者は全体の記憶・印象において彼此紛れるおそれが少なからずあるといわなければならない。
加えて、パイ菓子の取引事情についてみるに、一般に、菓子類の需要者は専門業者のみでなく、老若男女を問わず極めて広範な消費者を対象に流通するものであり、単価もさほど高価なものでなく一般に親しまれ易いこと、また、そうとすれば、需要者一般の当該使用に係る商標に対して払われる注意力の度合いは決して高くないという取引状況並びに前記認定の引用商標または請求人商標の著名事情の点を併せ考慮すれば、両商標間の誤認混同の可能性はより大きいとみるのが取引の経験則に照らし相当である。
さらに、両商標に係る指定商品は全く同一といえるものであることは、それぞれの指定商品の記載より明らかであって、特定の商品間ないしは極めて狭い範囲の取引分野に関わるものであるという個別的・特殊事情を有するものと認められる。
してみれば、本件商標と引用商標とは、その観念、称呼及び外観の各点を検討し、かつ、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察した場合、両者はその商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるというべきであるから、結局、両商標はその出所について紛れるおそれのある互いに類似の商標と判断するのが取引の実情に照らし相当である。
したがって、本件商標は引用商標と類似のものというべく、その登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものといわざるを得ない。
(4)被請求人の主張について
(a)被請求人は、「うなパイ」は識別機能がなく、本件商標はあくまで表示された図形を含めた構成態様のものであり、また、引用商標も図形と文字の結合商標であるから、これら両商標の文字のみを抽出して比較判断するのは誤りである旨主張するが、本件商標にあって中央に大きく顕著に縦書きに表された「うなパイ」の文字部分は、それ自体が自他商品の識別標識(商標)との認識を容易に需要者に抱かしめるべく特徴的に表現されてなるものであり(「う」の大書文字ほか)、一方、引用商標も同様に「うなぎパイ」の文字部分が実質的に商品識別の機能を果たすものというべき主要な取引指標であって、しかも、両者はいずれも「鰻を用いたパイ(菓子)」という特定商品間ないしは極めて狭い範囲の取引分野に関わるものという個別的・特殊事情下にあること前記認定のとおりであるから、これら取引の実情その他の点を総合判断の上、本件商標と引用商標とを類似のものとした前記認定は相当というべきであって、この点を述べる被請求人の主張は妥当でなく、採用の限りでない。
(b)被請求人は、商標法第3条第2項の適用により登録を受けた商標権の効力範囲に関し文献類(乙第3号証ないし乙第5号証)を引用しつつ、本件商標中の「うなパイ」は識別機能がなく図形部分を要部とすれば、引用商標に係る商標権の効力は本件商標に及ばない旨主張するが、本件事案は、当該商品の創案・製造に最初から関わってきた者(請求人)がその商品について当初から一貫して使用しすでに著名性を獲得するに至った商標(引用商標)との誤認混同の有無またはその類否判断を特定商品間ないしは極めて狭い範囲の取引分野に限定して具体的に判定するという個別的・特殊事情を有するものであるから、両商標間の誤認混同の有無またはその類否判断をそれら個別的事情をも併せ考慮の上、取引の実情に照らし総合判断した前記認定は相当というべきであって、これら個別的事情を無視して述べる被請求人の主張は妥当でなく、採用の限りでない。
(c)被請求人は、甲第4号証(請求人商品の年間売上高)に関し、何ら証明力がなく信憑性に欠ける旨述べているが、請求人主張の全趣旨(関連事件における関連内容を含む。)に照らし当該記載を不実とすべきような合理的理由はなく、むしろ、その販売活動、広告・宣伝活動等の実勢からみて推認の範囲とみて差し支えないから、これら客観状勢を無視して述べる被請求人の主張は妥当でなく、採用の限りでない。
(d)以上のほか、被請求人の主張を認めるに足りる証拠は見出せない。
(5)結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであって、その登録は同法条の規定に違反してされたものといわざるを得ないから、同法第46条第1項により、これを無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (A)本件商標(色彩は原本を参照されたい。)


(B)引用商標(色彩は原本を参照されたい。)


審理終結日 2001-05-09 
結審通知日 2001-05-18 
審決日 2001-06-20 
出願番号 商願平11-40449 
審決分類 T 1 11・ 26- Z (Z30)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山本 敦子齋藤 貴博 
特許庁審判長 原 隆
特許庁審判官 野上サトル
小林由美子
登録日 2000-07-14 
登録番号 商標登録第4398862号(T4398862) 
商標の称呼 ハニーウナパイ、ウナパイ、ウナ、ハニー 
代理人 六川 詔勝 
代理人 中山 清 
代理人 水谷 直樹 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ