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審決分類 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 101
審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない 101
管理番号 1018718 
審判番号 審判1993-12282 
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2001-01-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 1993-06-15 
確定日 2000-03-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第2053847号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1.本件登録第2053847号商標(以下、「本件商標」という。)は、別紙(1)に表示したとおりの構成よりなり、第1類「もぐさ、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和60年12月23日登録出願、同63年6月24日に設定登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
2.請求人が、本件商標の登録無効の理由に引用する商標(以下、「引用商標」という。)は、別紙(2)に表示したとおりの構成よりなるものである。
3.請求人は、「本件商標の指定商品中『薬剤』についてはこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至甲第41号証(枝番を含む。)を提出している。
(1)本件商標は、請求人の業務に係る「生薬製剤」を表示するものとして、取引者、需要者間に広く認識されている商標と同一の商標であるから、商標法第4条第1項第10号に該当し、また、本件商標が当該指定商品中「薬剤」について使用された場合には、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。
よって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定により、指定商品中「薬剤」について無効とされるべきである。
請求人の前身「日野屋」は、中山道藪原宿で旅館業を営むかたわら、生薬の宝庫といわれる信州木曽谷に自生する薬草に着目し、百草の製造販売を家伝の業として手掛けてきたものである。
そして、昭和22年7月「日野製薬合名会社」を設立、同25年6月奇応丸の製造開始、同42年2月「日野製薬株式会社」に商号変更登記(甲第2号証)、商品の名称も「普導丸」から、新処方による「日野百草丸」に変更し、現在に至っているものである。
そして、本件商標と同一の商標を付した請求人の「日野百草丸」は、信州木曽谷に産する生薬を請求人会社の独特な技術研究により配合、調整したものであり、該商品は極めて優秀な効能と副作用のない生薬の良さと相まって、御嶽山登拝の人々は言うに及ばず、多数の人々にも愛飲され宣伝された結果、取引者、需要者間においては、夙に請求人の「生薬製剤」を表す商標として周知著名となっているものである。
また、最近では漢方と西欧医薬品との配合による新しい風邪薬も開発販売し、「御嶽風邪薬」として好評を博している。
加えて、請求人が「生薬製剤」に使用する前記商標は、昭和22年以来各種の新聞、雑誌、書籍、パンフレット等のマスメディアにより、極めて多額の費用を注ぎ込み啓蒙宣伝に相努めているものである。
即ち、請求人は、請求人の所有する「丸に三つ引」の上部に「入山形」を冠した図形商標を本件商標の登録出願日(昭和60年12月23日)前に、既に健胃薬及び下痢止め薬の「生薬製剤」に使用し、著名となっている(甲第3号証乃至甲第36号証)。
さらにまた、請求人は、本件商標の登録出願日以後においても継続して啓蒙宣伝に相努めているものである(甲第37号証及び甲第38号証)。
以上の事実からすれば、請求人の商標は、本件商標の登録出願日以前には、既に請求人の「生薬製剤」に使用する商標として取引者、需要者間に広く認識されていたものであるから、被請求人が本件商標をその指定商品中「薬剤」に使用するときは、商標法第4条第1項第10号に該当する。
そして、該商品が取引市場に出回った場合、取引者、需要者をしてその商品が他人(請求人)の業務に係る商品であるかの如く誤認混同を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(2)被請求人は、答弁書において、請求人の提出した証拠を悉く論難し、特に甲第3号証及び甲第17号証については、三岳村長及び長野県製薬株式会社(以下、「長野県製薬」という。)社長が「錯誤により記名捺印したもの」との常識では考えられない牽強付会な主張をしているが、社会的地位の高い公職にある村長及び社長職にある人物が証明書の内容を把握、認識することなく記名捺印することがあり得るだろうか、被請求人の主張は極めて理解に苦しむところである。
請求人は、上記証明書の作成については使用の趣旨、目的を十分証明者に説明の上、記名捺印を戴いたものであり、このことから証明者が証明書に記名捺印したことは、即ち、その内容を充分に了知、是認した証左といい得るものであるのにもかかわらず、被請求人は何らの理由も示さず、極めて唐突に「請求人の意図するところを理解せず記名捺印した錯誤によるもの」と主張するが、これは被請求人が証明者といかなる意図に基づく交渉をされたのか、極めて不穏当な行為と思慮するものである。
そして、被請求人は、証明者の三岳村長と長野県製薬社長が証明書の内容を意図することなく捺印した理由として、後日、反論の証拠を提出する旨述べるが、これは速やかに提出できる性質のものであることからすれば、被請求人は正当な反論の理由によるものではなく、単に証明書を論難する何物でもなく、極めて理解に苦しむ荒唐無稽な主張といい得るものである。
次に、請求人は、本件商標が未登録周知商標(商標法第4条第1項第10号)に該当する証左として、既に甲第1号証乃至甲第38号証の2を提出しているが、これに対して被請求人は要旨▲1▼該証拠の証明者が殆ど長野県に住所をもつ一地域である、▲2▼新聞広告についても地方新聞で掲載回数が少ない、▲3▼雑誌広告の回数が少なく発行部数も不明なため、周知性が獲得されたものとはいえない(アサヒグラフ及び壮快は全国紙と認める)、▲4▼パンフレット広告は長野県の一地域で発行部数も不明等縷々述べ、その周知性を悉く否認するが、周知性認否の判断は、証明書、新聞、雑誌広告等いわゆる書証の物理的数量のみによって判断されるものではなく、種別の異なる多岐多様に亘る分野の証拠が重要な判断基準となることは言うまでもないところであり、また、地域的範囲は、全国的周知のみにこだわらず、地方的周知においても充分に足り得ることは、過去の審査、審判のプラクティス、並びに判決においても縷々示すところである。
このような観点から、請求人の提出した証拠は、その種別も多岐に亘るものであり、特に全国紙として著名な「アサヒグラフ及び壮快」に掲載されている宣伝広告は、これにより全国的にその周知性が充分に是認され得るものと確信するが、仮に百歩譲って被請求人が述べる如く、請求人の商標は地方的な周知性であるとしても、次のような理由により十分に商標法第4条第1項第10号の要件を具備しているものである。
即ち、被請求人は答弁書において、全国的に流通する一般大衆薬である「健胃薬、下痢止め薬」は、一地域でたとえ周知性であっても商標法第4条第1項第10号に該当しない旨述べるが、全国的に流通する「家電製品、機械、鉄鋼金属」等の商品については格別、請求人の製造する生薬は、信州木曽谷に産する薬草を配合してなるもので、このように地域的特産物を精成してなる「生薬」は、例えば「菓子、雑貨類」等の地方産業において製造される名産品と同等の商品の如く、一県内または一地方で取引者、需要者間に広く認識されているものについては、充分に周知商標として認定されるべきものである。
このことは、特許庁商標課編、社団法人発明協会、平成4年3月23日改訂4版発行に係る「商標審査基準」の商標法第4条第1項第10号の項においても、「『需用者の間に広く認識されている商標』には、最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含み、また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含む。」
と説示している(甲第39号証)。
また、社団法人発明協会の平成3年8月15日初版発行に係る「商標審査基準の解説」の商標法第4条第1項第10号の項においても、「『需要者の間に広く認識されている商標』には、その需要者には取引者、消費者も含まれ、そして、必ずしも最終消費者に周知されている必要はなく、場合によっては取引者の間でのみ周知の商標を含むこと、また、必ずしも全国的に周知でなくともある一地方で周知な商標を含むことを明らかにしている。」としている(甲第40号証)。
さらに、「商品の性質及びそれに伴う取引の実態により、周知の対象(需要者)または範囲(地域)が異なり、一般的にいって、原材料や半加工品、部品等は専門家たる取引者(該商品の消費者)の間で周知であれば足り、衣食住関連完成品は最終消費者が対象でその間での周知が必要とされよう。
また、主として、全国的に生産されて広範囲に流通する商品(機械、電気製品、衣料品等)は数県以上での周知を必要とするが、ある地域のみで生産されているその周辺で流通する商品(食品等の特産品)はそれより狭い地域で足りよう。」としている(甲第40号証)。
さらにまた、株式会社有斐閣の昭和56年6月10日初版第6刷発行に係る「商標(新版)」第276頁においても、「地域的範囲については指定商品との関係を十分考慮して決定されなければならない。鉄鋼金属、紡績、産業機械等、取引者、需要者が全国的に亘っているものが通例であるような産業部門については、その地域的範囲も全国的に亘っていなければ周知商標とはいい得ないかもしれないが、菓子や雑貨類等の地方産業に属する商品の商標については、一府県内でも地方の名産としてその地方の者が広く認識している商標は、周知商標として扱われることが多いであろう。」と説示している(甲第41号証)。
(3)本件無効審判請求理由(商標法第4条第1項第10号)の判断時期は、商標法第4条第3項の規定、即ち、「第1項第8号、同第10号、又は同第15号に該当する商標であっても、商標登録出願の時にそれぞれ同項第8号、同第10号又わ同第15号に該当しないものについては、これらの規定は、適用しない。」に示す如く、登録出願時をもって判断されることはいうまでもないところであり、また、大審院判決(昭和6年11月13日判決、昭和6年<オ>1332号)においても、周知事実認定の標準時期は、「本号で認められた事実の有無は、登録出願の時を標準として定めるべきである。」としている。
このことから、本件商標の登録出願時の出願人たる「株式会社卯野薬房」(以下、「卯野薬房」という。)が、本件商標を使用している証左により、立証答弁することが不可欠であるにもかかわらず、出願時の被請求人と相違する「長野県製薬」の使用する証拠(乙第2号証乃至乙第68号証)をもっては、到底請求人の主張する商標法第4条第1項第10号を覆す証拠資料とはなり得ないものである。
しかしながら、念の為、第2答弁書に対して次のように弁駁する。
被請求人は、第2答弁書において、「請求人は、証明者に証明願いによって証明される内容について詳しく説明せず、記名捺印を依頼した事実がある。」と一方的に述べるが、なにを根拠にかかる申立をするのか、仮に百歩譲って被請求人が述べる如く詳しく内容を説明しなかったとしても、証明願を一読すれば、その文面から極めて具体的に本件商標を付した生薬製剤の使用時期、宣伝の方法、周知性が明確に把握できることからすれば、かかる被請求人の申立は詭弁に等しく、被請求人が作為的に作成したものと認められる陳述書は、到底採用されるべきものではない。
さらに、被請求人は、「三岳村の催すイベントに請求人が寄付金を提供しているため捺印を断りにくかった」と述べるが、公職にある村長が寄付金の有無により、情におぼれ意に反して証明願に公職の印鑑を押捺するであろうか、これも極めて荒唐無稽な主張であり到底是認することはできない。
さらに、請求人が提出した甲第8号証の証明者「木曽百草販売事業協同組合」(以下、「木曽百草販売」という。)の住所と、該証明書を否定するために被請求人が提出した乙第3号証に記載の証明者の住所は相違するため同一人とは認められず、したがって、乙第3号証の証明力はないものである。
加えて、請求人の証明書を否定するものとして、被請求人が提出した乙第2号証乃至乙第4号証を総合的に検討するに、乙第2号証の陳述者「浦沢英一」(三岳村長)は、長野県製薬の取締役の関係にあり、乙第3号証の証明者「胡桃沢光一」(木曽百草販売の代表者)は、長野県製薬の代表取締役の職にあるものである。
さらに、乙第4号証の証明者「長野県製薬」は、請求人と当事者の関係にある被請求人自身である。
このように、証明者が被請求人会社と利害関係のある取締役の職にある者及び被請求人が自己の証明に使用するものは、いわゆる身内の証明に相当するものであるから、このようなものは到底証明力を有するものではない。
次に、被請求人は、卯野薬房と長野県製薬との関係を縷々述べ、卯野薬房が本件商標の形式上の権利者なる旨主張するが、では何故、長野県製薬が本件商標を戦前より使用していたにもかかわらず、卯野薬房に出願させ権利として登録したのか疑義は残る。
そして、被請求人は、卯野薬房の代表者が長野県製薬の代表者を兼ね、両者は販売会社と製造会社の関係で極めて近い関係にある旨縷々主張するが、両者は完全なる別会社であり、別会社であるが故に、本件商標の譲渡については、商法第265条の規定により取締役会の承認を必要とすることは、けだし言うまでもないところである。
加えて、被請求人は、これらの移転登録申請に関する書類を提出しているが、この書類は商標権移転登録申請をするための必要書類であって、本件無効審判請求理由の反論には何ら関係のないものであり、そして、権利移転の事実の確認は、商標登録原簿の閲覧をすれば一目瞭然のことである。
次に、請求人が不可解に思うことは、本件商標については一部無効の予告の登録がなされ、極めて不安定な権利状態にあるにもかかわらず、敢えて長野県製薬が本件商標の譲渡を受けたことは、いかなる理由によるものか推測せざるを得ず、極めて疑問の生ずるところであるが、これは乙各号証の提出から検討すれば、卯野薬房が本件商標を使用している事実は皆無に等しく、僅かに乙第10号証及び乙第11号証の「壮快」において、本件商標を付した百草の「発売元」として判断できる程度のものであることから、本件商標の使用を立証するために急遽長野県製薬に譲渡し、同社の使用による証拠を提出したものと推測される。
しかし、冒頭で述べた如く、本件商標の登録出願時の出願人でない者の使用による証拠は、本件無効審判請求理由を覆す証拠となりえないことは言うまでもないところである。
(4)被請求人は、本件商標の登録出願時の出願人である「卯野薬房」より譲渡を受け移転登録をした「長野県製薬」が、本件商標の周知性を立証する書証を提出しているが、これは周知事実認定の時期は、登録出願時であることからして到底採用されるべきものではない。
つぎに、被請求人は、第3答弁書において、長野県製薬の歴史を縷々述べ、請求人会社より長い歴史がある旨述べるが、歴史が長いか短いかは問題でなく、要は本件商標の登録出願時において、その出願人たる「卯野薬房」が、本件商標の周知性を立証反論すべき性質のものである。
加えて、被請求人は、「本件商標の登録出願から権利化までの出願人及び権利者は『卯野薬房』であるが、これはあくまでも形式的な事務管理であり、実質上の出願人権利者は『長野県製薬』である。」旨述べているが、「卯野薬房」が出願人権利者として第三者が閲覧できる商標登録原簿に登録されている以上、該名義人が名実ともに権利者であり、第三者に対する対抗要件としての権利及び義務を負うことも登録名義人であることは、法律的にも明白なところであるにもかかわらず、被請求人が形式的な内部事情によることから、長野県製薬の商標が周知著名であれば、商標法第4条第1項第10号及び同第15号による無効理由は有しないとする主張は、極めて牽強付会な主張と思慮するものである。
さらに、追加された乙第70号証乃至乙第95号証(証明願)の文言において、「‥…昭和60年12月23日当時及び現在において、上記商標は長野県製薬の生薬製剤を表示するものとして広く認識されている。」旨述べるが、請求人は、昭和60年12月23日以前から各種の書籍、新聞及び雑誌において、例えば昭和53年3月20日から昭和60年7月7日には既に盛大に広告宣伝をした結果、周知著名となっているものである(甲第25号証の1乃至甲第38号証の2)。
4.被請求人は、「結論同旨の審決を求める。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として乙第1号証乃至乙第109号証(枝番を含む。)を提出している。
(1)請求人は、本件商標と同一の引用商標が請求人の業務に係る「生薬製剤」を表示するものとして、本件商標の登録出願日(昭和60年12月23日)前において取引者、需要者間において周知著名となっている旨を主張するが、その主張は一方的なものであり、立証されていない。
第一に、請求人は周知性の証拠として甲第3号証乃至甲第24号証として証明願を提出しているが、これらの証明願は、請求人が予め用意した証明書用紙を用いて請求人の求めに応じて、現在の請求人の取引先(販売店、広告店、取り引き銀行及び請求人の原料仕入れ先等)が証明したものとみられる。しかし、証明書にはその周知性の根拠を裏付けるための証拠の提出が必要である(乙第1号証 商標審査基準の解説第105頁および第77頁)にもかかわらず、以下に説明するように、その証拠の提出がなされていないか、又は不十分である。このようにいかなる根拠に基づき証明者が証明したのか不明である証明書は、商標の周知性を証明するための証拠とはならない(昭和63年10月27日審決、昭和56年審判第8843号)。
即ち、甲第3号証乃至甲第24号証の証明願の文中には、「昭和22年より製造販売する商品の生薬製剤である健胃薬及び下痢止め薬に付して使用すると共に、」とあるが、請求人が昭和22年から引用商標の使用を開始したという証拠は全く提出されていない。
そして、証明願の文中には「新聞、雑誌、テレビ等のマスコミ機関を利用して広告、宣伝並びに拡張販売に努めた」とあるが、テレビ広告を行った証拠は何ら提出されていない。新聞、雑誌広告につき、提出された証拠も後に詳説するように、その回数、頒布地域及び頒布数量等から考えて、これらの新聞、雑誌広告によって周知性が獲得されたとは到底言えない。
また、これらの証明願の証明者は、その殆どが長野県に住所をもつ者であり、引用商標を請求人が使用している商品は全国的に流通する一般大衆薬である健胃薬及び下痢止め薬であることから、このような一地域でたとえ周知であっても商標法第4条第1項第10号は適用されない。即ち「主として、全国的に生産されて広範囲に流通する商品(機械、電気製品、衣料品等)は数県以上の地域での周知を必要とする」(乙第1号証 商標審査基準の解説第103頁〜第104頁)からである。
さらに、商品が原料品や半加工品、部品等である場合、商標法第4条第1項第10号が適用されるためには、専門家たる取引者(該商品の消費者)の間で周知であれば足りるが、衣食住関連完成品については、最終消費者間での周知が必要とされる(乙第1号証 商標審査基準の解説第103頁)。したがって、甲第2号証乃至甲第24号証の証明願は専門家である取引者についてのものであることからも、周知性を証明するための証拠とはなり得ない。
そして、甲第3号証及び甲第17号証に関しては、請求人の意図するところを理解せずに各証明人が記名捺印したものであり、その証拠として各証明人である三岳村長及び長野県製薬社長の証明書を追って提出する。
次に、請求人は、周知性の証拠として甲第25号証乃至甲第36号証(枝番を含む。)として、本件商標の登録出願日前において請求人が実施した新聞広告、雑誌広告及びパンフレット広告を提出している。
しかし、新聞広告に関しては、「南信日々新聞」(甲第25号証の1乃至同3)及び「信濃毎日新聞」(甲第26号証の1及び同2)のみであり、これらはいずれも長野県の中の一地方の新聞であり、頒布地域及び発行部数も限られる上、広告回数も南信日々新聞で昭和53年に3回、信濃毎日新聞で昭和53年に2回のみである。したがって、地方新聞に昭和53年に計5回広告を行ったとしても、全国的に販売される薬について周知性が獲得されたとは到底いえない。
また、雑誌広告に関しても、請求人が行った雑誌広告中、「アサヒグラフ」には、昭和51年及び同53年に各1回広告を行い(甲第27号証の1及び2)、「壮快」には、昭和56年及び同57年に各1回広告を行った(甲第28号証の1及び同2)のみであり、1年に付き1回の計4回の雑誌広告により周知性が獲得されたとは到底いえない。
そして、その他の雑誌広告は、「歴史の道中山道」及び「藤村のふるさと」等(甲第29号証乃至甲第35号証)、各々の発行部数が不明であり、これらの雑誌広告により、周知性が獲得されたとは到底いえない。
さらに、判決においても「商標の周知証明の資料が広告掲載の雑誌である場合には、それが数において厖大な量に及ぶとしても、それを通じて具体的に商標それ自体が取引者、需用者の間に『どの程度知られるにいたったか』が証拠によって明確にされないかぎり、前記事実について証明があったとはいえない。したがってこのような場合雑誌頒布の事情とその認識等を考慮すれば、カタログ等が相当多数頒布された場合と異なり、容易に周知を認定することはできない。」と判旨されている(昭和28年11月5日東京高裁判決、昭和27年<行ナ>20号)。
その他の請求人が行ったパンフレット広告も「中部日本選抜中学生相撲大会」(甲第36号証の1)及び「長野県中学校総合体育・・・中信地区中学校水泳競技大会」(甲第36号証の2)のパンフレット広告であり、中部地方及び長野県の一地区で行われた、中学校の相撲大会及び水泳競技大会のパンフレット広告であり、さらにはその発行部数も不明であるが、大会の種類から発行部数も少ないと考えられ、これらのパンフレット広告により周知性が獲得されたとは到底いえない。
本件商標の登録出願日(昭和60年12月23日)当時、全国において販売されている「生薬製剤」中、請求人がどの程度の市場占有率をもって、引用商標を「生薬製剤」について使用していたかが全く証明されていないが、判決においては、「DDCの商標は、主として専業的な継続的取引先の相当数の取引業者の間で認識されていたことがうかがわれるが、主な販売県で占有率30%、隣接県の比率は遥かに前者に及ばないものである場合、商標法第4条第1項第10号に規定するような需要者の間に広く認識されていた商標とはいい難い。」(昭和58年6月16日東京高裁判決 昭和57年<行ケ>110号)と判旨されており、主な販売県で占有率30%であっても周知性は認められていない。上記判旨は、第29類「茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷」を指定商品とする登録商標に対して、商標法第4条第1項第10号の規定の適用があるか否かについて争われた登録無効審判事件であるが、引用商標を請求人が使用している商品も全国的に流通する一般大衆薬である健胃薬及び下痢止め薬であり、上記判旨が適用される。そして、上記判決においては、「かかる全国的に流通する日常使用の一般的商品について、商標法第4条第1項第10号が規定する『需用者の間に広く認識されている商標』といえるためには、それが未登録の商標でありながら、その使用事実に鑑み、後に出願された商標を排除し、また需要者における誤認混同のおそれがないものとして、保護を受けるものであること及び今日における商品流通の実態及び広告、宣伝媒体の現状などを考慮するとき、本件では、全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、或いは、狭くとも1県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべきである。」と判旨されている。
即ち、周知であるというためには、「全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されていること」または「狭くとも1県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていること」が証明される必要があるが、請求人の提出した証拠によっては上記事実が証明されていない。
さらには被請求人においても、本件商標を指定商品につき戦前から現在までの長年にわたって継続使用しており、薬品展示会にも参加する等、各種の宣伝を行ってきている。そして被請求人は、本件商標の登録出願前及び出願当時から現在まで継続して本件商標を指定商品に付して、全国各地に多数量を販売している。
したがって、請求人がたとえ長野県近辺の一地域において述べ十数回の宣伝を行ったとしても、これにより本件商標が無効とされれば、被請求人が長年にわたり築き上げてきた業務上の信用が破壊され、その損失は計り知れず、商標法の目的にも反する結果を招く。
以上述べたように、本件商標の登録出願時において、請求人が引用商標を周知にしていたとはいえない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第15号には該当しない。
(2)甲第3号証の証明願は、乙第2号証(三岳村長浦沢英一による陳述書)中、「前記証明願により証明される内容については深く留意していなかったことを陳述いたします。」とあるように、請求人は、証明者に証明願によって証明される内容について詳しく説明せず、記名捺印を依頼していた事実がある。
また、甲第8号証及び甲第17号証については、各々乙第3号証及び乙第4号証(胡桃澤光一による証明書)中、「私の錯誤により、記名捺印したものであり、上記の事実はなかったことを証明いたします。」とあるように、請求人は、証明者に証明願によって証明される内容について詳しく説明しなかったために、証明者である胡桃澤光一の錯誤により記名捺印されたものである。
さらに、請求人の提出した甲第10号証の証明願については、昭和63年に設立された社団法人木曽法人会が昭和60年当時の事実を証明しており、信憑性がない(乙第5号証)。また、甲第13号証の証明願も、平成2年に設立された株式会社ビーシーネットワークが、昭和60年当時の事実を証明しており信憑性がない(乙第7号証)。同じく、甲第14号証の証明願についても、平成元年に設立された有限会社アデックスが昭和60年当時の事実を証明しており、信憑性がない(乙第6号証)。
これらの事実から請求人は、証明願によって証明される内容を証明者によく説明せず、記名捺印を依頼し、証明願を作成したことは明らかである。
また、請求人は、証明願によって証明される内容を具体的に証明する事実証拠(昭和22年に引用商標を使用していた事実及び昭和60年に引用商標を周知としていた事実)を十分提出していないので甲第3号証乃至甲第24号証の証明願により証明される周知性は、事実の裏付けのないものである。周知であったか否かは事実問題であり、その証明は具体的な事実証拠により裏付けられる必要がある。
判例においても、「商標の周知著名及び商品の混同を立証するために提出された日本化粧品業界会長名での証明書において、『著名商標となった』、『出所につき混同を生じるおそれがある』等の事項の記載があっても、いかなる調査資料に基づく証明なのか、はたしてそれが事実なのか、証明者がこれを確認したのか疑問であって、信頼を置くに値しない場合、右商標の周知著名を認めることはできない。」(昭和45年6月16日、東京高裁判決 昭和41年<行ケ>47号)と判旨されている。また、昭和34年8月2日審決、昭和30年審判第189号においても同旨の審決がある。
次に、卯野薬房は、昭和60年12月23日に本件商標の登録出願をしたが、乙第8号証及び乙第9号証に示すように本件商標の登録出願時、卯野薬房の代表者家高卯助は、長野県製薬の代表取締役を兼任しており、長野県製薬が戦前から継続して生薬製剤に使用してきた本件商標を守るため、長野県製薬のために本件商標を登録出願した事情がある。
長野県製薬と卯野薬房との関係は、乙第10号証及び乙第11号証の「壮快」(昭和56年発行)に掲載の広告に示すように、長野県製薬が生薬製剤の製造元であり、卯野薬房がその販売元である。そして本件商標の設定登録時(昭和63年)より現在も卯野薬房の代表者家高敏彰は、長野県製薬の取締役を兼任している(乙第12号証乃至乙第14号証)。
即ち、乙第15号証及び乙第16号証の取締役会承認書に示すように本件商標は、卯野薬房が長野県製薬の事務管理として昭和60年12月23日に出願し、長野県製薬の意思または利益に適する方法で管理を継続し、昭和63年6月24日に卯野薬房を形式上の権利者として設定登録された。しかし、管理者である卯野薬房は、この登録出願、設定登録の経緯を長野県製薬に報告しており、長野県製薬に事務管理によって得た利益を全部引き渡すべく、平成6年2月10日において本件商標の商標権を卯野薬房から長野県製薬に無償で譲渡し(乙第17号証)、この商標権譲渡について公示し(乙第18号証)、特許庁に移転登録申請書を平成6年4月21日付で提出した(乙第19号証)。
以上の客観的事実から卯野薬房が本件商標の登録出願をした行為は、長野県製薬の為にした事務管理であり、本件商標の実質上の出願人及び権利者は長野県製薬である。この事実は、長野県製薬及び卯野薬房の両者において認められている(乙第15号証および乙第16号証)。
つぎに、乙第20号証乃至乙第68号証により、長野県製薬は、その前身である長野県下の個々の家内製薬業者、昭和11年にこれらの家内製薬業者の全てが集まって設立された木曽製薬工業組合、その事業及び商標を承継して昭和18年に設立された長野県売薬製造統制株式会社、及びその後昭和19年に商号変更した長野県製薬において、現在まで継続して本件商標を生薬製剤に付して使用し、製造販売及び宣伝に努めた結果、昭和60年12月23日の本件商標の登録出願時及び現在において、本件商標は、長野県製薬の業務に係る生薬製剤を表示するものとして周知となっていた事実が明白である。
さらに、請求人は、このように長野県製薬が戦前から継続して使用してきた本件商標を、長野県製薬が生薬製剤に使用していることを知りつつ、長野県製薬の後から引用商標を生薬製剤に付して販売した事実がある。そして請求人は、長野県製薬が長年築き上げてきた信用にただ乗りすることにより、長野県製薬の利益を大きく害してきたにもかかわらず、本件商標の登録を無効とすることを要求してきたものであり、信義則にも反する行為である。
(3)仮に、請求人の商標が周知なものであるとしても、つぎの理由によって、本件商標は無効理由を有さないものである。
即ち、被請求人の所有に係る本件商標は、請求人の使用に係る引用商標よりもはるかに著名である。そして(たとえ周知度が同程度であるとしても)、乙第69号証の株式会社有斐閣発行「商標(新版増補)」の第281頁に述べられているように、2つの周知商標が併存する場合には先願が登録されるべきだからである。このため、本件商標は、商標法第4条第1項第10号による無効理由を有していないものであり、また、この趣旨から当然に、商標法第4条第1項第15号による無効理由も有していないものである。
(4)被請求人の主張をまとめるとつぎのようになる。
民法の規定から、本件商標についての登録出願時からの実質的な出願人及び権利者は、長野県製薬である。
商標法第4条第3項の規定によって、商標法第4条第1項第10号及び同第15号については登録出願時を基準に判断される。
しかしながら、この場合、商標法を越えた一般法である民法の第697条乃至同第702条に規定されている「事務管理」に該当するのである。このため、登録出願当初から長野県製薬が出願人及び権利者であると扱われるべきであり、商標法第4条第1項第10号及び同第15号については、登録出願時から長野県製薬であるとして、登録出願時を基準に判断されるべきなのである。
また、引用商標が周知であるとしても、被請求人の商標の方がはるかに周知著名である。
5.そこで判断するに、請求人は、請求人が別紙(2)に表示したとおりの構成よりなる引用商標を商品「健胃薬及び下痢止め薬(生薬製剤)」について使用した結果、該商標は、本件商標の登録出願時前より需要者間に広く認識されていたものである旨主張し、これを立証するものとして甲第3号証乃至甲第41号証(枝番を含む。)を提出している。
しかしながら、甲第3号証乃至甲第24号証は、いずれも請求人が予め用意した証明書用紙を用いて請求人の求めに応じて証明したものと認められ、これらの証明事項中「健胃薬及び下痢止め薬に付して広く使用」、「新聞、雑誌、テレビ等のマスコミ機関を利用して広告、宣伝並びに拡張販売に努めた」等の事項は、いかなる根拠に基づいて各証明者が証明したのか不明であり、甲第25号証乃至甲第38号証(枝番を含む。)は、請求人の業務に係る商品「百草丸(胃腸薬)」の広告が掲載された新聞、雑誌等の写しであるところ、日本国内で広く販売されているのは甲第27号証の1及び甲第27号証の2(朝日新聞社発行 アサヒグラの写し)、甲第28号証の1及び甲第28号証の2(株式会社マイヘルス社発行 壮快の写し)並びに甲第29号証(読売新聞社発行 歴史の道中山道の写し)のみで、その他の新聞、雑誌等は、長野県内の一地方で販売されているものと認められるが、その発行部数は不明である。
なお、甲第37号証及び甲第38号証(枝番を含む。)は、本件商標の登録出願後に発行された雑誌と認められるものであるから、本件審判事件を審理するにあたり証拠足り得ないものである。
してみれば、請求人の提出に係る前記各号証によっては、引用商標を使用した商品の生産又は販売数量、販売地域、広告宣伝の回数等が明らかにされていないから、請求人が引用商標を商品「健胃薬及び下痢止め薬(生薬製剤)」に使用した結果、該商標が、本件商標の登録出願の日前より需要者間に広く認識されていたものとは認定し得ないところである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効にすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別記


審理終結日 1997-05-12 
結審通知日 1997-06-03 
審決日 1997-06-13 
出願番号 商願昭60-128078 
審決分類 T 1 12・ 25- Y (101)
T 1 12・ 271- Y (101)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊谷 道夫 
特許庁審判長 中村 欽五
特許庁審判官 水茎 弥
野本 登美男
登録日 1988-06-24 
登録番号 商標登録第2053847号(T2053847) 
代理人 岩田 哲幸 
代理人 長谷川 哲哉 
代理人 小玉 秀男 
代理人 岡田 英彦 
代理人 吉田 隆志 
代理人 瀧野 秀雄 
代理人 神田 正紀 

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